シナリオ詳細
愛着のラプレ・ミディ
オープニング
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白と藍、それから天蓋を飾る星々を思わせるレェス。鮮やかな世界を構築するテーブルクロスの如く――乙女の心を揺さぶる豪奢な飾り。
冬が来るからと、今日からは濃緋の厚いカーテンに蜂蜜を思わせる金の模様を飾って。少しばかりもの悲しささえ感じる窓辺は心を慰めるデセールと呼ぶには余りにも不似合いで。
冬になると何時も思ってしまうのだ。この窓辺だけが世界の私にも時の流れを教えてくれる葉達はきっと、哀しみ憂う私の事なんてちっぽけも考えていないのだ、と。
部屋の隅で厭に音立てた氷の棺に目をやって「王子様」と声をかけれど、指先には冷ややかさしか伝えない。
「おかあさま」
部屋の外より聞こえた幼子の――甘える声音に応えた義母は永くはないこの命が早く尽きればと願っているのだろう。
魔女が命の灯揺れる蝋の火を消さんとする様に、じわりじわりと私の心は蝕まれていく。
嗚呼、自由に『外界』へと出ていきたい。
そう願うのは間違っているのだろうか。
「アンジェルさん……ね」
扉越しに聞こえた義母の声は冷ややかだ。
「早く『お迎え』が来て下さった方が幸せなんじゃあございませんこと」
気づいてしまった。この体蝕む病から解放する愛しの天使が来たとしても、私を待つものはあちらには何もいない。
ならば、改めて準備をしてもらおう。きっと、今のは照れ隠し――お義母さまや義弟は私と共に在りたいのに、私がこの部屋より出てこない事を憂いているのだと。
拝啓、名も知らぬ冒険者の諸君。
我が命尽きる前に、あちらの世界でのセッティングを任せたいものがいるのです。
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「イージアン・ブルーを溢したように鮮烈な思いは、どうしたものかしら。
砂糖菓子の様に甘いオペラモーヴの世界さえバールリン・ブルーに染め上げてしまうのね」
依頼よ、と。『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)は特異運命座標へと向き直った。
「幻想の小さな領地の貴族のお嬢様からのご依頼ね。
以前は建設途中の孤児院をグラナートに燃やし、愛しい人を氷漬けにして保管している彼女から」
口にすれば軋む倫理観を感じさせる。
彼女――アンジェル・リューティア・デュフォン嬢は生まれ持ってその生涯を短く終えると医師より診断を受け屋敷の自室より出た事が『ほぼ』ない乙女だ。
「幼いころから甘やかされて育った彼女には一般的な倫理観はないわ。
それこそ、常人から見れば彼女は『異質』よ。勿論、性質は ペール・ミスト・ホワイト……『普通ではないかもしれないけど、彼女には悪意がない』のだから、それこそ霧掛った乙女の思考とでも言えるのかしら?」
淑女は冬のもの悲しさと、部屋の外より聞こえた『義母の聲』で思い立ってしまったのだという。
幼き頃に年若くしてデュフォン卿と婚姻しアンジェルを産み落とした母を亡くした令嬢。新たな母と半分だけ血の繋がる義弟に対して寂しさを感じていない訳ではないのだろう――アンジェルが寂しがれど『義母と義弟』が彼女を避けている内はその寂しさは紛れることはない。
「彼女ね、殺してほしいそうよ。義母と義弟」
「へ……?」
特異運命座標の声にプルーは肩を竦める。
「その反応、当たり前よね。『私だって可笑しいと思った』わ」
私が死んだ方がしあわせだという――
けれど、寂しい儘では死後の世界でだって寂しいでしょう――?
アンジェルはそういうのだという。
「義母と義弟は『本当は自分の事が好きで、自分と関わりたい』けれど、
『もうすぐ死んでしまう自分とどう接すればいいかわからない』……。
だから、死後の世界で仲良くするために、先にあちらに送って『あちらでの幸福な生活をセッティングして欲しい』そうよ」
荒唐無稽な――それこそ、理解できない話だ。
父、デュフォン卿には狂った娘は止められない。彼とて、娘の凶行を知りながら見て見ぬふりをして良き父親を演じているのだろう。
幾ら、その凶行を糾弾しようとも。
もうすぐ死んでしまうのだ――最愛の女が生んだ、最愛の娘は。
「……オーダーは義母と義弟の暗殺よ。
約束して。依頼主には――どんな風に思っても――手を出してはダメよ」
![](https://img.rev1.reversion.jp/illust/scenario/scenario_icon/5094/358f9e7be09177c17d0d17ff73584307.png)
![](https://rev1.reversion.jp/assets/images//scenario/evil.png?1737016811)
- 愛着のラプレ・ミディ完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常(悪)
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年12月21日 22時00分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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乙女は只、笑っていた。我儘な令嬢の儘では居られぬのだと脆い砂の城の上に立ち乍ら過ごす様に彼女は目を伏せる。
「私は――」
それは生娘がそうするかのような仕草であった。わざとらしく首を『こてり』と傾げ、瞳は渦を巻くように深い闇を内包している。
「あなた達は私を狂っていると言いますか?」
塵箱に一度は投げ入れた紙は皴を伸ばされサイドテーブルに置かれていた。
扉の向こう側からは聞こえることのなくなった幼いこどもの泣き声と煩わしい継母の『心配する』ことば。
「きっと、向こうに行けば笑って待っていてくれるはず」
だから、そうしたのだ。
だから、とこの部屋に居ない誰かに声かける様に乙女は形の良い唇を釣り上げて、静かに笑う。
「ね、お父様」
――貴方が悪いのよ。
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それは夢見るかのような話だったのではないだろうか。
まるで少女が好む小説の世界が其処にはある。残虐性に秀で乍らも可哀想な乙女を描いた悲劇と喜劇。
「嗚呼まるで夢の世界に生きていた僕のよう」
その姿は翅を杭で打たれた憐れな蝶。『『幻狼』夢幻の奇術師』夜乃 幻(p3p000824)のほっそりとした指先はゲーティア・レプリカの背を撫でる。
「夢を通じてしか世界を見れなかった僕。
窓を通じてしか世界を見れないアンジェル様」
それは――『世界』の在り様をまざまざと思い知らされた幻の刹那の一声。
「それでも世界を動かしたかった僕達。
興味深い。大変興味深い――生はこんなにも人を狂わせる」
狂いに狂っていても彼女はその生に絶望を覚えているのだろう。
誰よりも生に絶望し、渇望しているが故に、世界の有様が彼女にとっては異質でしかなかった。
着物の裾を口許宛てて『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)は「余りに小さな世界ですね」と屋敷の外より見えた窓を見やった。その窓が一人の令嬢にとってのあまりにちっぽけな世界。
そのちっぽけな世界から令嬢は在る一つのお願いをローレットと父親にしたのだ。
――意地悪な継母と義弟を自身が彼岸に行った際のホストとして欲しい。
「つまる所は、継母と義弟の暗殺、か。
……ギルドに所属している以上、ハイ・ルールをそう容易く破ろうとする者は居ないと思うが」
「お嬢様は性質(あれ)な人だから、不快感を抱く冒険者もいるって事だろうね」
『堕ちた光』アレフ(p3p000794)の呟く言葉に、さも興味なさげに『特異運命座標』シラス(p3p004421)は云った。彼女の依頼でローレットから出向くのも一度目ではないというシラスは「しかし、嫡男まで殺されんの黙って見てるとは親父の方も娘に負けてないよなあ」と頬を掻く。
「この家はもうダメかもね」
「依頼人の事情は、今日の所はナンノブマイビジネスです」
ビジネスを主軸と置いた『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)にとっても令嬢のお願いとそれを是とする父親の『奇妙な関係性』には何も口出しすることはないのだろう。
「俺としちゃ別段、依頼主であるお嬢さんに思う所はないな。むしろそういう子の方が好きな手合いでね」
「うん……アンジェル様とは…仲良くしたい、かな」
その性質は確かに悪とする事が出来るのだろうと『殺括者』ケドウィン(p3p006698)は云った。嘗て愛した姉(ひと)が病で天に迎えられた事を思えば病に身を侵され死をも覚悟する令嬢には何所か感傷さえ感じる程で。
ヒイラギの銀魂籠を揺らし、そろりと歩む『黒鴉の花姫』アイリス・アベリア・ソードゥサロモン(p3p006749)は切れ長の銀の瞳を細める。
「確かに! もう直ぐ死ぬ人は未来のお友達なのです。
お友達の願いは叶えてあげないと。ね? ――『皆』」
キラキラと瞳を輝かせて、無邪気に『トリッパー』美音部 絵里(p3p004291)はそう笑った。
もうすぐ死ぬ人。もう、死んでしまう人。
死者の霊魂に纏わるアイリスと絵里。その何れもが『死の近くにいる彼女』を肯定している。
「さて、そろそろ――仕事に移りましょうか」
寛治が静かに告げた、その一言に絵里は「はぁーい」と楽し気に返事を一つ。耳澄ませたアレフは聞こえた声に静かな溜息をついた。
――おかあさま、『あくま』のねえさまはよろしいのですか?
――ええ、アレクシア。あの子はね、もうすぐ死ぬのです。だから、そっとしておきましょうね。
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聞こえる声音は只の親子の会話だったのだろう。貴族の、それも、普段幻想で目にする『当たり前』の光景だ。庭木の植えられたその場所は侵入経路としては十分だった。
何処か不安さえ感じる程にデュフォン伯の屋敷は静かであった。アレフが視線をちら、と送れば寛治はゆるゆると頷く。
「今日は『偶然』にも業者の出入りは少なく、警備の目も疎らなようです」
「ま、昔からのツレだろって警備の方にも声をかけておいたからな」
作戦を遂行するならば今がチャンスだとケドウィンは小さく笑った。
「我々は速やかに今回の依頼の目標を達成するために動けば良い」
静かに告げたアレフの声音にゆるゆると幻は頷く。高い壁は人の倫理観を思わせる様に聳え立つ。無論、心理的な壁と言えば、今から『罪なき人』を殺しに行くというハードルを思わせるわけだが――「仕事だからね」
反吐がでるとは、シラスはそうは言わなかった。
ロープは悪意なき令嬢の『己を保つためのお願い』を受け入れてくれる彼らへの願いの様にも思える。細く、頼りなく、寛治が言う通りの『ビジネス』の付き合いでしかない。
「こんな事もあろうかと用意しておいたのです。
この台詞一度言ってみたかったんだー。ふふー」
楽し気に笑うは絵里。にんまり笑い、でそう言って、只、耳を澄ませたその向こうの様子を伺う様に。
鳥の囀りと共に聞こえるはがさりと草木の揺れる音。
「おかあさま、動物でしょうか?」
まだ幼いながらも聡明さを湛えた瞳を愛しい母に向けた嫡男は突然顔を表した鴉に驚いた様に尻もちをつく。
少年は動物だ、と嬉しそうに走り出す。「待ちなさい」と追い掛ける母はどうにも彼を溺愛している様だ。
自然会話で草木に問いかけた『場所』。デュフォン伯の目にも届かぬ、アンジェル嬢の部屋の近く。
「そちらに行くのは」
開かれた大窓の近くに行くことを禁じる母。止めなさいと自身が連れた護衛に声かける淑女の近くへと素早く飛び込んでボウイナイフの切っ先を護衛たる冒険者の喉元へと届けるケドウィンは肩を竦める。
「同業の冒険者を手に掛けるのは気が引けるが、まぁこれもお互いの仕事って事で割り切ろうぜ」
響く叫声。きゃあ、と彼らの雇い主たる淑女が尻もち付けば、きょとんとした顔で少年は振り仰ぐ。
「おかあさま?」
「『やはり』ね」
ゲーティア・レプリカを撫でつける指先はすぐ様に少年、アレクシアを巻き込む形で魔力の砲弾を打ち出した。
青年の柔らかな髪色を思わせた砲弾の気配に咄嗟に身を挺して少年を庇った冒険者が苛立ったようにアレフを見遣る。
「護衛である以上、守らざるを得ないだろう。そうしないのなら、好都合だったが」
「罪なき坊ちゃまに何を……!」
吼える護衛にアレフは目を伏せる。仕事なのだ、と。無為なる争いは好まぬ彼だがこれは『仕事』のために必要な行いだ。
罪なき、悪なき、その言葉を聴けば幻はくす、と小さく笑う。刹那る疑似生命を作り上げる幻がスティッキで「いてらっしゃい」と声かける。踊る様に護衛に飛び込むそれらは幻が思い浮かべるいのちの形と程遠く、彼女にとっては只の土塊であろうか。
土塊を見やれば綺麗だと、素敵だと笑った絵里の横をすり抜ける様に漣の太刀【ミズチ】を構え、雪之丞は飛び込んだ。
(――狂っているのは拙達だと『認識』するお嬢様。
その生命と共に小さな小さな世界が終わる時に、彼女は何を願うのでしょうか? こんな、ちっぽけな暗殺など、)
きっと願うことはないのだろう。生への絶望を感じ、いのちへの倫理を欠かせた彼女にとっては義母と義弟の死など只の感傷として小さな感情をひとつだけ残して終わるはずだ。
冒険者が踏み込んだ一撃に雪之丞はそれを受け止め、公報へ抜けんとした冒険者そのものを受け止める。華奢なる小さな鬼の体から感じるはまるで聳え立つ壁の如き気配か。
ちりん――鳴るはあり得ない音色。氷の鈴の音を聞きながら、雪之丞はその音色と相対する焔の気配をその刃に宿す。
「向かって来るということはお友達になってくれるんですよね?
嬉しいなあ。お友達がたくさんできるのです」
「お友達――はどうだろね?」
んふふ、と笑った絵里。可愛らしく笑いながらもその手は止まることはしない。
捻れ七竈より放たれた暗闇は冒険者を包み込む。シラスはその表情に『何時もの通りか』と呆れを浮かべて。
人を殺すことへの罪悪感はその胸を蝕み続ける。只の、感傷と呼ばれればそうなのかもしれないが。
無為なる殺人。無辜なる世界。この国はいつだってそうだったではないかと自身に言い聞かせ乍ら。
「護衛は来るとわかっていても対応せざるを得ない。ままなりませんね」
「人殺しだと詰られてもヤらなきゃならない。これも儘ならないよ」
寛治の言葉に静かに合わせて呟いたシラスは小さく息を付く。アタッシュケースを提げた寛治が冒険者を弾く仕草を見せたそこに飛び込んだケドウィンの一撃が赤い血潮で草木を濡らす。
「生きた人と、死んだ人を、どうしてみんな……区別、するのかな。そこにいるのは、変わらないのに」
死者と関わり、死者を扱うネクロオディール、アイリスにとってはそれは概念として難しい事だったのだろう。冒険者の首に突き立てられたナイフ、その赤の色を見詰めて首傾ぐ。
「……大切な人を、その状態のまま留めるなら、殺した方がいいのかも。
死んじゃったら基本、その時から変わらない、から」
「じゃあ、これが『誰かがこのお二人を愛したからの殺人』だと……?」
冒険者の吼える様な声を聴きながら息子を抱きしめた義母はひ、ひ、と怯えたように息を漏らす。
「……違うの?」
幻はアイリスの云うその『死』の在りを理解できるという様に小さく笑う。
死とはそういうものだ。ケドウィンが後悔の中にその思いを抱くと同じように――
姉の面影を探す様に凶刃を突き立てる冒険者の喉元に。
赤いその血潮を眺めながら絵里はくすくす笑い続けている。
「先に行って、準備して待っていて欲しいそうですよ? 信頼されているのですね」
「準備……? だ、だれが――こんな」
義母は愛してしまったおとこを考えただろう。
世界からの愛しい贈物(こども)を抱きしめ乍ら、シラスに、アイリスにそう求めただろう。
突き立てたは穢れを知らぬ太刀。目を伏せた雪之丞と擦れ違う様にシラスは僅かに毒吐いた。
「教えようか? ……もう、聞こえないけどさ。アンジェル・リューティア・デュフォン」
――可愛い娘『だった』ひとだよ。
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死した淑女と幼き子の姿は凄惨なる暗殺現場の様子としてその庭に置かれていた。
死を確認し、顔を上げたケドウィンはさっさと逃げようと仲間達へと声をかけた。
「依頼人の事情はナンノブマイビジネス。ただし、利益を生むならマイビジネスだ」
押し込み強盗による不幸な事故。偶然にも庭に居た嫡男と夫人が殺害されたという噂が流れる領内にデュフォン伯はどれ程安心したことであろうか。
屋敷に訪れ令嬢と友人になりたいという特異運命座標達を見送ってシラスは「不思議なもんだね」と令嬢の性質を思い小さく息を付く。
「彼女に聞いてみたくは在りますよ」
「死について?」
「……それに、生きることについて」
雪之丞の静かな言葉にシラスは目を伏せる。さあ、きっとあの令嬢はその胸の内に獣を飼っている。
屋敷の一室で寛治とアレフは共に主と相対していた。
「失礼、……何か我々に隠して居ることでも」
例えば、娘アンジェルがあの様に振る舞っても一向に『何の不祥事としてで来ない』理由――
沈痛の面立ちをしたデュフォン伯は寛治とアレフを見詰めゆるゆると笑った。
「此処は幻想。何らかの庇護さえあればその様な事は簡単でしょう」
例えば三大貴族。王制とは名ばかりの国なのだから、とデュフォン伯は肩を竦める。穏やかな国家の有様ではあるがこの国の王は所詮はお飾りだ。貴族に関わればそれは嫌という程に分るではないか。
「ビジネスの話はできませんが、只、一つ――私は娘が怖いのです」
いつか死んでしまうと甘やかして来たあの娘。アンジェル・リューティア・デュフォンが。
「良い父親を演じている、か……自分にその矛先が向いた時、彼はどうするのだろうね。父親として」
アレフの言葉に、だれも、何も答えやしなかった。
ふかふかとしたベッドの上でアンジェル・リューティア・デュフォン嬢は特異運命座標を出迎えた。
何処から聞こえる電子音は令嬢が『愛しい人を保管する』為に用意した箱であろう。
「簡単な方法が御座います。物語を紡ぐので御座います。貴女の完璧で理想的な世界を永遠に人々に刻み付けるのです」
幻が恭しく頭を下げる。その言葉に小さく瞬いて、アンジェルは夢の様に笑って見せた。
「もうご存知になったでしょう? 私、強欲なの――きっと、そんなことをしてはもっと、欲してしまうわ」
「うんうん、未来なんて見ずに今を全力で楽しみましょう。そうしましょう」
ソファに腰かけた絵里は楽し気に笑った。幻はアンジェルという乙女の言葉に彼女は『いのちに執着している』のだとしかと認識する。
「夢と希望だけが傷ついた心を癒してくれるのです。多分きっと。
まあ、私は『お友達』が居れば大丈夫ですけどねー。ふふーん」
「おともだち」
ぱちり、ぱちりと小さく瞬いて。その言葉に窓を見詰めていたアイリスは「お友達」と頷く。
「死んだ後に……どこかへ連れてくことも、できる」
揺らすはヒイラギの銀魂籠。誰にも見捨てられずに安らかに在る為に――「素敵ね」とアンジェルは恍惚に笑みを浮かべる。
その窓は変哲のない窓だった。義母と義弟は『自由に歓迎パーティーをさせてあげて』とアイリスの提案を断った令嬢は小さく笑う。
「この窓は私の世界。私の――何もない、ちっぽけな場所」
令嬢は笑った。
だって、お母様が死んだのは私が生まれた所為。
そのいのちを背負って生きていくしかできない私を置いて、父は新たに義母を招いた。
たった一人、この窓と母のいのちに囚われた憐れな私。
「この窓(せかい)は誰にだって、侵害(おか)させません。例え――貴方達であろうとも、愛しいお友達」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加ありがとうございました。
アンジェルは以前、ローレットの冒険者に「哀れ」と言葉を貰いました。
それも、きっと彼女には何らかの変化を及ぼして居ることでしょう。
今回の件も彼女自身に、何か変化が一つ。
また、ご縁がありましたら。
GMコメント
菖蒲(あやめ)と申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。
●成功条件
デュフォン卿の第二夫人『ルセリア』と嫡男『アレクシア』の暗殺
●ルセリア&アレクシア
普通の貴族の夫人と嫡男(5)です。
短命なる彼女曰く『私の新しいお母様なのに、私を避けている』のと『私の弟は私を悪魔と称するのは照れ隠し』だそうです。
流石に貴族のご夫人ですので煌びやかな場所にいたり、護衛を付けてらっしゃいます。
●ルセリア様の本日のご予定
午前中:嫡男と共に朝は屋敷の庭でお散歩を致します。
午後 :御贔屓の宝石商や仕立て屋と後日のパーティーの準備です(屋敷内)
夕刻 :友人のご夫人とのんびりとティータイム(屋敷外)
夜 :旦那様と食事をし、嫡男と就寝なさいます。
●ルセリア様の護衛×5
何時かはこうなると想像していたデュフォン卿がルセリア様に強請られて付けた護衛です。
名のある冒険者であったそうです。割と全員納筋でタンカータイプ。
彼らの生死に関してはデュフォン卿は看過しません。死んだら雇いなおせばいいだけですし。
●薄幸の美少女「アンジェル・リューティア・デュフォン」
3度目の依頼になります。以前は『焔のデセール』『氷棺のディセール』の依頼主。
困ったお貴族様です。倫理観が一般的ではないお嬢様ですので、何かを申し上げてもきっと通じません。今の所、周辺にしか害のない困ったお嬢様です。
ある病気にかかっており、短命です。基本的に性格がかなり歪んでます。
彼女と会話したい場合はお父様に許可があればできますが、基本的にはオススメしません。きっと、狂った反応が返ってくるだけです。
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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