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シナリオ詳細

帰ってきた海賊団

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●彼方に『絶望の青』を臨む港で
 どこまでも続く青い海。
 遮るものなく照りつける日差し。
 冒険の香に満ちていた海風が陸の気配を漂わせはじめたのに気がついて、海賊船長スクイッド・クラケーンは目を細めて笑っていた。
「よう! 俺たちの故郷が近づいてきたぜ!」
 顎の青い触手をうねつかせる彼の纏う雰囲気は、威厳よりもひょうきんさのほうが目立って見えた。けれど、彼の胸元の6丁の拳銃には、いずれも均等に使いこまれた形跡がある――それは両手と長い4本の触手を合わせた彼の六丁拳銃術がファッションではなく、実際に数多の獲物を屠ってきたものであることを示す、何よりの証拠だ。実際……彼の戦闘、戦法、技術、直感は天才的であったと、『蛸髭』オクト・クラケーン(p3p000658)は回顧する。まあ大体のことは直感的にこなしてしまうせいか、彼は物事を深く考える能力のほうはとんと苦手だった、ともオクトはつけ加えるだろうが。

 ともあれ彼は戻ってきたのだ。『絶望の青』を目指した旅の末、いずこかで果てたと思われた男が。
 本当は、オクトこそがその船の船長であった。けれども長い船旅の途中で船長を失い、スクイッドが新たに船長の座についている。
「にししし! この船を見たら兄弟、驚くかなぁ!」
 スクイッドが船上から手を振れば、陸から何人かが手を振りかえしてくれた。確かに、海賊ではあったかもしれぬ……けれども義理と人情を重んじる陽気な海賊の生還は、すぐさま港をお祭りへと変える。

 船が泊まった。
 蛸髭海賊団のお出ましに、荷揚げ人足たちが駆けよってゆく。
「よう副船長! 戦利品運びには何人出せばいい?」
「『絶望の青』にはたどり着いたのか? 後でゆっくり話を聞かせてくれよ!」
「悪ぃな! 俺様はまたすぐに兄弟を迎えにいかなくちゃならねぇ!」
 新船長はかぶりを振った。そして新しい物資を積みこんでくれるよう、人足たちに依頼する。そして……。

 ……海賊船に上がるや否や、人足たちは皆殺しにされた。何故……と絶望の表情を浮かべてへたり込んでいた最後の人足を六丁拳銃で撃ちぬくと、スクイッドは誰にともなく独りごちる。
「待っててくれよ兄弟……ちょうど船員も補充できたところだし、すぐに『絶望の青』に連れてってやるからな!」

●ローレットにて
「凄惨な事件が発生したのです……」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の調べによると、事件が起こったのは『海洋』の港であった。
 かつて『絶望の青』へと挑んだ旅の途中、正体不明の海賊船との激戦の末に行方不明になった蛸髭海賊団。船長のオクトだけは空中神殿への召喚により生還はしたが、船も他の船員も安否は定まらないままだった……先日までは。
「オクトさんに代わって船長になったスクイッドさんが、船ごと戻ってきたのです……ただし、『魔種』として」

 魔種と化したスクイッドは港の人足を幾人も殺し、自船を操るためのスケルトン船員へと変えてしまった。そのせいで港の人々は皆怯え、彼の船に近づこうとしなくなってしまったので、スクイッドはどうして出航準備が整わないのかと苛立っているところだ。特異運命座標らは、彼を滅ぼさねばならない……彼が痺れを切らし、港に砲撃を始める前に。
 だが、船内の状況はよく判らない、とユリーカは語った。船上に多数のスケルトン船員が蠢いていることと、今のところ彼らもスクイッドも船外に出てこようとしていないことだけは確かだが、彼らの目的も、内部の様子もさっぱり不明瞭なのだ。

 それでも魔種を滅ぼすために、特異運命座標は行かねばなるまい。
「倒す相手が相手だけに、ちょっぴりやり難いかも、とは思うのですが……」
 そう、ユリーカはつけ加えたけれど。

GMコメント

 どうも皆様、るうでございます。
 今回の依頼の目的は、魔種『スクイッド・クラケーン』の討伐です。船には元荷揚げ人足を含め、30名ほどのスケルトン船員がおりますが、彼らはスクイッドさえ倒せばただの骨に戻るでしょう。

●海賊船
 全長50mほど。港の桟橋から船体中央に向けて、板が渡されています。
 甲板にはスケルトン船員がひしめいており、皆様が乗船したり船外から攻撃したりした場合には(場合によっては船の大砲も使って)反撃してきます。基本的に雑魚ですが。
 スクイッドのいる船長室を含め、船の構造は、オクト様のご指定があればその通りになります。オクト様がシナリオにご参加でなかったり、プレイング中での指定がなかったりした場合は、船長室は船尾楼内にあるということになります。
 もし皆様がマストに登ることがあれば、飛行と同様に扱います。

●スクイッド・クラケーン
 以前と同じ海種の姿こそしていますが、魔種化した今は「義兄弟であるオクトを『絶望の青』へと連れてゆく」ことに異常に執着しています。邪魔する者へは、得意の六丁拳銃で攻撃します……相手が、当の兄弟自身であっても。
 彼が六丁拳銃(射程:中)による最大6回攻撃を行なえるのは、彼が非常に高いEXAを持つためです。無論、追加行動は必ずしも攻撃のみに使われるとは限らず、全力移動を織り交ぜることで射程を稼いだりもするでしょう。

 彼とのかつての思い出を呼びかけることにより、一瞬だけ動きを止めたり正気に戻したりできるかもしれません。もはや彼を救うことはできませんが、戦闘を有利にはできるはずです。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定がありえます。
 あらかじめご了承の上、ご参加になるようにお願いいたします。

  • 帰ってきた海賊団Lv:5以上完了
  • GM名るう
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年11月26日 01時20分
  • 参加人数10/10人
  • 相談9日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

オクト・クラケーン(p3p000658)
三賊【蛸髭】
トリーネ=セイントバード(p3p000957)
飛んだにわとり
武器商人(p3p001107)
闇之雲
佐山・勇司(p3p001514)
赤の憧憬
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
鬼桜 雪之丞(p3p002312)
白秘夜叉
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)
海淵の呼び声
シラス(p3p004421)
超える者
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
ヴィマラ(p3p005079)
ラスト・スカベンジャー

リプレイ

●驚くべき再会
 潮騒に混ざって届くその声を、彼は確かに聞いたような気がした。
 懐かしき声。
 いちどは再び聞くこと叶わぬと覚悟した呼び声が、スクイッド・クラーケンに過日を思い起こさせる。
「兄弟……!?」
 微睡みの中から跳ね起きて、彼は甲板へととび出していった。すると、そこにはあったのだ……。

 9人の仲間たちをひき連れてこちらに手を振る兄弟――『蛸髭』オクト・クラケーン(p3p000658)の姿が。

●海賊船への招待
「聞こえるか兄弟! 絶望の青に向かうための仲間を連れてきたぜ」
「なんだって!?」
 オクトの周囲に集まる一行を値踏みするかのように、スクイッドの赤い瞳が睥睨する。
 まず彼が目に留めたのは、水夫の姿をした『特異運命座標』シラス(p3p004421)の姿。不機嫌そうだが不敵な笑みを浮かべて彼は、なるほど随分と手馴れた海賊に見える。
 次に歌姫――『海淵の呼び声』カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)。純粋な眼差しをこちらへと向けて、あの海から帰ってきた男に慶びの歌を奏でる彼女は、さながら海の女神の眷属か司祭であろう――もっとも彼女が讃える神は、実のところ神は神でも邪神かもしれないが。
 それから、それから……。
「こいつは夢か? いいや夢じゃねえ!」
 小躍りして一行を招く烏賊船長の姿は、『スカベンジャー』ヴィマラ(p3p005079)には無邪気に見えた。
(……スクイッドちゃんはさ、魔種になっても……いや、魔種になってでもきっとさ、オクトちゃんが待ってることを信じて、帰ってきたんだろうね……)
 今から自分たちがやることは、いわばその気持ちに対する裏切りかもしれない。
 だとしても、彼女はやるしかない。やらなければいけないのだ。

 なんらオクトを疑うことなく、船長室へと案内するスクイッド。スケルトンたちも船長の客人の邪魔などはしない。執着していた事柄のひとつから解放された彼の足取りは軽く、触腕の先でくるくると銃を回してご機嫌な様子。
 その銃口が……ふと特異運命座標らを指して止まった。
「にししっ、嬉しいぜ兄弟! 優秀そうな船員じゃないか! 俺が今、もっと優秀な船員にしてやるよ!」
 けれども彼の銃口が火を噴く前に、『赤の憧憬』佐山・勇司(p3p001514)が言葉を挟んだ。
「ちょっと待ってくれよスクイッドさんよ。オクトの旦那曰く、俺たちは生きてるからこそ価値があるんだとよ。
 確かに、生きてりゃ不便なこともある。だがよ……生きてるからこそできることってのもあるのは確かだろ?」
「そうそう! ニワトリの骨とかいても、しょうがなくない? 私って羽毛とかが強みだから、このままのほうが役に立つわよ?」
 と、『コケコッ砲』トリーネ=セイントバード(p3p000957)も。
 スクイッドの窪んだ目の奥で、ぎょろりと眼球が動いたのが見てとれた。彼はじっとオクトと、その仲間たちを見つめた後で……静かに六丁拳銃を胸元に収めて笑う。
「にしししし! 兄弟がそう言うならきっとそうなんだろ! 俺様は、ほんとうにいい兄弟を持ったぜ……」
 スクイッドは船尾楼の扉を開けた。幅は狭いがある程度の奥行きのある部屋に、所狭しと財宝の類が並ぶ中、特異運命座標らをふり返ることもなく奥の船長椅子へと向かう彼の様子は、すっかりとオクトを信頼してしまっているように『闇之雲』武器商人(p3p001107)には見える。
(ふむ。元々思慮深くはなかったと聞いてはいるが、反転してもそこは変わらぬといったところか。ヒヒ……)
 無論、それが罠でないとは限るまい。しかし物事を見通す武器商人の目は、とうに船に仕掛けがないことだけは確認済みだ。
「この鍵に名前をつけた日を覚えているか?」
「ああ兄弟! 俺たちが絶望の青を目指すと誓った日だ――」
 ひとつの鍵をとり出して、思い出話に花を咲かせる海賊2人。それを永遠にひき裂かねばならぬ悲痛を思えば、『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)とてお気楽ではいられない。助けを求めるように隣の『望の剣士』天之空・ミーナ(p3p005003)を見れば、自堕落そうな顔をしながらも、彼女の指先だけは隙なく腰の剣へと触れている。
(他ならぬタコ船長の頼みだ。頼まれた以上、きっちり仕事はするぜ)
(オクト様も、戻れぬ道は覚悟の上。であれば拙が為さねばならぬのは、オクト様が悔いを残さぬように、くびきをとり払うことでございましょう)
 同じくいつでも太刀を抜き放てるように、密かに腰を落とした『守護天鬼』鬼桜 雪之丞(p3p002312)。かつてを語る海賊2人の興奮は、次第に熱を帯びてゆき。
「そうだ! 始まりの赤。絶望の青。だからこいつは希望の緑だ。お前が語った憧れと夢――空っぽだった俺に目標ができた日だ! それを、お前――」

 ――魔種なんぞになっちまいやがって。

 拳が肉にめり込んだ音が、船長室の中に大きく響いた。

●祈り
「兄弟……?」
 スクイッドの目は困惑に歪んで兄弟を見遣る。両腕と触腕はぶらりとたれ下がったまま、半ば開いたままの口をぱくぱくと動かしている……たとえ卑劣と誹られようとも、それは特異運命座標らにとって、逃しがたき、そして逃すべからざる好機!
「御免!」
 雪之丞の漣の太刀が一閃し、敵の懐へと駆けた。スクイッドは咄嗟に触腕を伸ばして止めんとするも、『ミズチ』の銘と蒼い鱗持つ太刀は、まさに蛟のように触腕を這い登る。
「兄弟――」
 オクトに助けを求めようとしたスクイッド。が、その伸ばした手の先に、輝く魔法の縄の輪が降りてくる。今の彼に避けることは叶わない……彼にできる唯一の事柄は、目を皿のようにして術者を探し、それがヴィマラであることを確認するのみだ。
「俺様を騙したのか兄弟!」
 悲痛な叫びが船を揺らした。するとその声に呼応したかのように、船長室の外から死の気配が膨れあがってゆく……それが何を意味するかを理解しシラスがとび出せば、そこにはカトラスやデッキブラシを手にし、続々と集まってくるスケルトンらの姿!
「任せろ! 一匹も通さねえ!」
 シラスの指先から放たれた無数の光球が、スケルトンらへととび込んでゆく。続いて、爆発。不幸な幾体かはその場で物言わぬ骨の山となり……けれどもそんなことなどお構いなしと、残ったものがその山を越えてくる。
「キリがねえな……」
 シラスが思わず舌打ちしたとき、ひとつの歌声が辺りを支配した。その声に耳を傾けてはならぬと、シラスは本能的に耳を塞ぐ……その歌――カタラァナの呼び声は、深淵に眠る名状しがたき神を言祝ぐ背徳なのだから。少なくとも、その神を理解せぬ者にとっては。

 しせる かみは まどろみのなか♪
 ゆめみる ままに まちいたる♪
 おえることなき こうかいは♪
 ふかく そこなき ものなれば♪

 祝詞は死者すらをも狂気へと誘い、彼らを互いに傷つけあわしむ。足元に散らばる骨と相まって、それはさながら地獄絵図。けれども――そこに地獄が生まれていなければ、地獄に巻きこまれていたのは誰だったのか?
 船長室扉の内側では、激しい戦いがくり広げられていた。

●願わざる死闘
 魔法の縄に縛められつつも、天井付近にまで跳躍するスクイッド。すでに縄の下で動く手と触腕には、6丁の銃が握られている……抜き撃ちされた弾丸が特異運命座標らを襲う。
 正確な弾丸だった。だが、そこまで重いものじゃない……外套で体のシルエットを隠し、急所を狙わせずにおけば、魔種の銃弾とて勇司にとってはそこまで重大な脅威にはなりそうにない。
 ちらと勇司は外を見た。それから、仲間たちに向かって呼びかける。
「スケルトンのほうも何とかなってるってさ。一発一発も大したことはねーし、後ろのことは気にせずぶん殴ってやれ!」
「もちろんなのである!」
 答えたボルカノの真っ赤な巨体が、落ちてきた青いスクイッドの体へと突っこんでいった! 彼の腕には赤黒い穴……だが、拳銃の小さな弾丸などでは、彼の強靭な肉体はあんまり傷つかないのであるよ!
「くーっ! こりゃ効くぜ!」
 そのまま突撃者の体ごと壁に叩きつけられたスクイッド。反動でボルカノの体が浮いた瞬間が、彼の唯一の逃亡の機だ……だが、抜け出ようとした彼の行く手を妨げるかのように、そこには笑みを浮かべた武器商人。
「ヒヒヒ……」
 年齢も性別も不詳なこの旅人の思考の裏を掻くなどは、スクイッドにはできやしない。だが、このまま機を逃すわけにもゆかぬ……とあれば!
「にしし! さっきので、誰が硬そうかはなーんとなく判っちまったぜ! なにせ、俺様は天才だからな!」
 スクイッドは哄笑するのと同時、可能な限りの弾丸を武器商人へと見舞う!
「コケーーー!!」
 だが武器商人は倒れなかった。トリーネの雌鳥らしからぬ鳴き声は高らかに響き、朝日にも似た聖なる光が武器商人を包みこむ……流されたはずの血はすっかり固まって、武器商人の口許には再び薄ら笑いが浮かぶ。
「仕方ねぇなぁ! じゃああっちからか!」
 代理船長の六丁拳銃は、トリーネへと向いた。だが……それを放たせるわけにはゆかぬ。ミーナの希望の剣が軽やかに舞い、次第に激しくなるテンポで次々と彼を斬りつける!
「よう、バカ船長。あんたは兄弟であるこのタコ船長の気持ち、考えたことあるか?」
「解んねえよ! なんで俺を裏切ったんだよ兄弟!」
 ミーナの剣技と言葉に翻弄されて、スクイッドは半ばべそをかくように悲鳴を上げる。トリーネを狙うはずだった弾丸は、誰に撃つべきかを忘れて闇雲に放たれる。
「こんな死人だらけの船で、無理矢理絶望の青に連れていこうだなんて! それが本当にやりたかったことなの!?」
 トリーネもまたけたたましく呼びかける……違う、とスクイッドは抗弁をする。
「無理矢理だなんて、そいつは誤解だ! 俺様は兄弟との約束を果たそうってだけだ……何も知らない奴が口を挟まないでくれ!」
 いっそ、何もかもが変わっていればよかったのだろうか? 彼にいまだ彼らしい部分があるからこそ、皆辛いのだろうとヴィマラは思う。
 無数の死者と対面してきた彼女にとって、本来、生きているのはそれだけで喜ばしいことだ。
 そのはずなのに……何かが違う。同じ望みを前にして生きて、それでも相容れぬという悲劇。
 ボルカノに右半身を幾度も潰され、左半身はオクトに手当たり次第に殴りかかられながら、スクイッドは一瞬の混乱から立ち直っていた。かけるべき言葉は思いつかない――それでも為すべきことだけはヴィマラは知っている。
 もう一度、魔法の縄。スクイッドは苦しみもがいたが、彼の指と触腕の先が再びトリーネへと向いて、引鉄を引くことまでは止められない!
 だが……放たれた6発の銃弾は、それを見越していた雪之丞の太刀により多くを斬り捨てられていた。

●切なる願い
 自らの攻撃の間合いを捨てての、決断的な隊列移動。無表情な瞳がスクイッドを見据え、通さじの構えをとってみせる。
 全てを弾ききることは叶わなかった……が、たかが数発ごときで膝をつくほど、鬼の躯体はやわじゃない。背にトリーネを守る姿はかく語る――殺せるものなら殺してみよ、と。
 そんな面倒な輩など後回しで十分だ。次は……そうだ、厄介な魔法の縄を飛ばしてくる奴にしよう。

 3発めの弾丸がヴィマラの意識を飛ばす。それを気力で耐えたところで、その後にダメ押しが飛んでくる。
 けれども、入れ替わりに部屋にとび込んでくるカタラァナとシラス。シラスが真っ直ぐにその手を伸ばせば……突然スクイッドの触腕がくびれ、彼の額に冷や汗が浮かぶ!
「俺のこと忘れてんじゃねえよ。六丁拳銃っつってもよォ、こっちは1人倒れてもあと9人いるんだぜ!」
 それでも彼は撃ちつづけていた。筋肉質の触腕は、たかが数本の糸に縊り切られたりはせぬ。最初、糸に縛められて6発の銃弾を無駄にはしたが、次の6発は確実にシラスを集中攻撃して屠る!
「お前、今のめっちゃヤバそうな技だったぞ!? なんか変な呪いの糸みたいなので俺の動き止めてたろ……ま、これでもうその心配もなくなったけどな!」
 いまだ引ききらぬ冷や汗を拭うと、スクイッドは改めて周囲を見回してみた。

 威力と防御力を両立する厄介な巨体を持つボルカノは、その巨体が災いしてか、次第に息切れが近づいている。
 必死な顔で殴りかかってくる兄弟は、3発か4発撃ちこんでやるだけで、今の自分になら呆気なく倒せるだろう……何故か、その引鉄を引けないけれど。
 武器商人の圧はいまだスクイッドの足を竦ませてくれるが、それだけと言えばそれだけだ。いつでも倒せる相手で――というのが実は武器商人の仕組んだ錯覚なのだが――後回しでいい。

「ぴよぴよぴー!」
 不意にひよこの声がスクイッドの耳に入った。彼がトリーネのほうに目を遣れば、輝くお星様に乗ったひよこが凛々しい顔をして、こちらへとジグザグにとび込んでくる!
「悩みのなさそうな顔しやがって!? こちとら兄弟のことで頭がいっぱいだってのによ!」
 星の先端とひよこの嘴に突かれながら、彼は頭を抱えつつ銃を構えた。そこへと再び踏みこんだ雪之丞。少しの間戦線を離脱させられていたぶんをとり戻さんがごとき一撃が、確固たる意思とともに代理船長の体に叩きつけられる……!
「うお……俺様の構えを破ってきやがった!?」
 そこへと、もう扉を守る役割が必要なくなった勇司!
「アンタの『船員』たちはもう残っていない。兄弟との思い出をこれ以上汚したくなければ、そろそろ降参したらどうだ」
「降参だと!? お前らが……お前らが兄弟を誑かしたんだろ?」
 現代日本人らしい泥臭い勇気に全身を打たれながらスクイッドは泣く。けれどもその双眸から血の涙を流すのは、はたしてそれだけが原因だろうか?

 歌だ。
 もはや歌とも呼べぬ強烈な圧縮をかけられた音波は、空気を裂いて薄黄色に染める。
 無論、歌い手のカタラァナにとっても並々ならぬ負担ではあるまい……けれどもそれは彼女以上に敵を苦しめ、反射的に六丁拳銃にて彼女を穿たせる。
「……ねえ。
 君は、あの海で何を見たの?
 オクトおじさんは、何を見損ねたの?
 ……おしえて?」
 倒れる間際まで常軌を逸した笑顔を浮かべる彼女を倒したことで、ようやく切り裂く音波は止まる。けれどもその呪詛までは終わらず、彼を次なるミーナの剣から盲目にする。
「赤の他人である私たちに頭まで下げて、てめぇの尻拭いにきてるんだよ、タコ船長はよぉ!」
 ただでさえ変幻自在に振るわれていた災厄の剣技が、魔種の呪われた肉体に無数の傷を生む。スクイッドを泣かせ、叫ばせ、苦しませ……けれどもいまだ滅びの兆しを見せぬのが、彼の選んだ道の代償であろうか?
 今の彼には何も判らない。自分の銃口が誰を向いているのかも。
 それは加速してゆくミーナの剣筋が生み出した眩惑のせいだったかもしれないし、それ以外の何かであったかもしれない。
 ただ1つだけ言えることがあるとすれば、6発集まれば多くの敵は滅ぼせる弾丸も、わけもわからず撃たれて分散すれば、単なるトリーネの餌だということだ……傷を癒す間もなく倒れるのでなければ、彼女が呼び招く朝の光は、差す者に再びの生命の息吹を与える。
「オクトさんも皆も、誰もホネホネにさせたりはしないわ!」
「そうなのである! 我輩が骸骨船員になるのも、皆が骸骨船員になるのも嫌なのであるよ!」
 傷が塞がったばかりの腕をふり回し、幾度もスクイッドを捉えてゆくボルカノ。ああ、奇跡が起こりスクイッドが正気をとり戻せばいいのにと願うのに、彼が解放されるのは混乱からのみだ。
 今度はミーナが撃たれる番だ……それは彼女の剣技が脅威であった証拠だが、この期に及んでそんな誇りは、何の役にも立ちやしない。そしてついに、トリーネも……。
「弱ったね……これは我(アタシ)らのほうがよっぽど潮時ってところかい」
 武器商人が、可笑しそうに嗤い……パン、とその額に銃弾を食らってもんどり打った。

●原罪の呼び声
 そして、スクイッドは手を伸ばす。
「そういう訳だ。さあ、もう一度一緒に絶望の青を目指そうぜ兄弟!」
 だが、オクトがその手を取ることはしなかった。
「そんなことより、今までのお前に戻ってくれ!」
 海の男の目に涙が浮かぶ。
「俺は! お前がいないとダメなんだ! 借りもんの夢だ、借りもんの流儀だ! 見ろ……今だってらしさを捨てて、大人げなくガン泣きだ! なのに……どうして魔種なんかになって歪んじまったんだ!」
「違うぜ兄弟!」
 けれどもスクイッドは返す。
「魔種になったからって歪むほど、俺様の夢はチャチじゃねえ……俺様はこの力を、兄弟、一緒に絶望の青の先を見るために使うんだ!
 今の俺様なら、絶望の青の向こう側に行ける! 兄弟、お前を連れてな!
 むしろ俺様には、兄弟こそ変わっちまったように見えるぜ……どうして俺様と一緒に来てくれないんだ? 兄弟もこの力に目覚めれば、俺様にとっちゃ百人力なのによ」
「夢は変わらない?」
 巫山戯るな。
 オクトは憤慨してみせた。
「テメェの義理と人情を大切にする生き様を捨てたなら、変わったも同じだ!!」
 そう、変わっていないのはオクトのほうで、スクイッドのほうが変貌したのだ。
「そんな俺に仲間を裏切れって言うのか!? 命よりも大切で大好きな兄弟、絆を育んで来た大事な仲間たち……そのどちらかを切り捨てろと!?」
 こんな地獄があるものか。
 オクトの視界が大きく歪む。どちらも同じくらいに大切なのだ。自身の命を賭すくらいに大事なものだ! そこには勝って兄弟を自由にするか、負けて彼に永劫に服従する魔種となるかの選択肢しかないとばかり思っていたのは……本当に選ばねばならない選択肢から逃げていただけなんだ!

 ここは任せてお前らは帰れと、オクトは仲間たちをふり返った。
「ヒヒヒ……次に会う時には味方か敵か」
 いつの間にか平然と立ちあがっていた武器商人の肩には、ぐったりとしたヴィマラが乗っている。今、スクイッドがオクトばかりを見つめ、倒れた仲間たちを回収する特異運命座標らを見ていないのが幸いだなと、シラスを抱えあげながら勇司は独りごちる。
「拙に、口を挟むことなどございますまい」
 自らもトリーネとカタラァナを抱え、雪之丞もやはり踵を返した……その視界の片隅で、オクトがだらりと両手を垂らしたのが見える。

●魔種の新生
 ああ。俺には殺せない。
 このまま逃げ帰ることは容易いだろう……だが、それでは選択を後に延ばしただけだ。『今すぐ』彼を殺せないというだけで、『いつかは』選ばねばならぬ。
 はたして、オクトにそれができるのか?
 NO、決してできやしない。今彼は、どうして兄弟が反転したのかを、まさに心から理解したためだ。
 大切なものを抱えたまま死ぬか。大切なものを護るために生きるか。
 彼とてその時、同じ苦しみを味わったに違いない……その末の選択を肯定してやれるのは、まさにオクトだけなのだ。
「皆によろしくな――それとごめん、約束は破っちまうって伝えてくれ」
 オクトの全身から何かが噴き出して、仲間――であった者――たちを船の外へとはじき飛ばした。圧倒的で膨大な悪意に全身をすり潰されながら、彼は、最後に残る正気で彼ら『も』選んだのだろう。
 オクトから噴き出したものに触れた途端、崩れたはずの骨たちがカタカタと蠢いて、次第に人の形に立ちあがってゆく。彼らは新船長の意思の下、一丸となって船の帆を広げはじめる。

「魔種になったら戻らないなんて、そんなこと、我輩は信じないのである!」
 航跡を生みながら沖へと滑ってゆく船の後ろ姿へと、ボルカノの必死の叫びが投げかけられた。有史以来、いちども戻った例が確認されてない? だからって、次もそうだとは限らないじゃあないか。
 けれども奇跡は起こることなく。遺された9人の見ている前で、船は、水平線の彼方へと消えてゆく。

 今、特異運命座標らにできるのは、祈りを捧げることだけだ。
 せめてこの先2人の海賊が、心安らかにあらんことを。そして、願わくば――。

 ――いつしか、2度の奇跡が生まれんことを。

成否

失敗

MVP

シラス(p3p004421)
超える者

状態異常

オクト・クラケーン(p3p000658)[反転]
三賊【蛸髭】
カタラァナ=コン=モスカ(p3p004390)[重傷]
海淵の呼び声
シラス(p3p004421)[重傷]
超える者

あとがき

 ……そんなわけで、初の反転者が出てしまいました。
 これは大変重い結果であると、私は重々認識しているつもりです……私にできることはたった1つ、『オクト様とスクイッド様の今後を責任持って描写する』ことしかございません。
 つまり……彼らの物語はこれで終わったわけではありません。両者は今後、どこかで敵として特異運命座標の皆様の前に現れることもあるかもしれません。
 その際には私の力の及ぶ限り、彼らの『その後』をお伝えしてゆく所存です。是非とも、彼らの今後の物語にもう少しだけお付きあいください。

※以下運営より補足します。

 本シナリオでは『原罪の呼び声』判定が発生しています。
 公平性を期す為、オクト・クラケーン(p3p000658)さんに送付された特殊判定を下記に記載します。


 お客様の参加中のシナリオ『帰ってきた海賊団』において特殊判定が発生しました。
 お客様のキャラクターは『原罪の呼び声』を受けています。

////////////////////////////////////////////

 ――違うぜ兄弟! 魔種になったからって歪むほど、俺様の夢はチャチじゃねえ……俺様はこの力を、兄弟、一緒に絶望の青の先を見るために使うんだ!
 今の俺様なら、絶望の青の向こう側に行ける! 兄弟、お前を連れてな!
 むしろ俺様には、兄弟こそ変わっちまったように見えるぜ……どうして俺様と一緒に来てくれないんだ? 兄弟もこの力に目覚めれば、俺様にとっちゃ百人力なのによ――

////////////////////////////////////////////

 この呼び声の属性は『強欲』です。
 原罪の呼び声は魂を揺さぶり、その者の在り方自体を改変する危険な誘惑です。
 お客様はこの声に『応える』か『拒否する』かを任意に選ぶ事が可能です。
 11/25一杯までにこのアドレスに答えをご返信下さい。(一緒に台詞等を書いてくださってもOKです)
 返信がない場合『拒否した』とみなして進行されますのでご注意下さい。

 尚、原罪の呼び声に応えた場合、キャラクターは魔種となりキャラクターの管理権がお客様から離れます。不明及び死亡判定に準ずる『反転状態』にステータスが変化しますので予めご了承の上、ご返答下さいますようお願いいたします。

※まず間違いなく簡単に戻れるような状態にはなりません。


 又、反転状態について改めて補足いたします。
 反転状態につきましては以下のような措置が取られます。

・基本的に死亡に準じます。死亡判定に準じる為、経験値の継承対象となります。
・関係するストーリーが早々に、或いは解決への連続性をもって進展するようなことはありません。時期は未定です
・今後、状況に応じて運営側の判断で魔種として登場する場合があります
・そういった場合、何らかの判定が行われる場合があります。またプレイングなどの提出が求められる場合があります
・全く戻れる保証はありません。というより、世界観設定的に『戻れた事例は存在しません』

 反転は死亡判定に準じますので、ほぼ死んだものと考えて適切です。
 従いまして、今後の弊社側対応や状況変化につきましては上記を念頭に置いておくようお願いいたします。

 以上、宜しくお願いいたします。

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