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シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>狂ふ藍海松

完了

参加者 : 10 人

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オープニング

●盗賊の有様
「男は殺せ、女子供は奪え。金品を頂け、食料を貪れ。家々を焼け、井戸に毒を放れ。僕らは盗賊だ。身を落としたのだ。盗賊らしい振る舞いをしろ」
 小さな町を襲う盗賊達。小規模な部隊だが、それを率いる男は凡そ盗賊と言うには似つかわしくない風貌をしていた。
 髪を全て後ろに流して、細い眼鏡をかけている。まだ秋の半ばだと言うのに、厚いモッズコートを着て、革手袋を嵌めている。口からは、真冬のように白い息が漏れていた。
 どこそこの軍の参謀だとでも言われたほうがしっくり来るだろう。部下の盗賊達が歓声をあげて略奪を繰り広げている中で、男だけは無感情なまま殺せ、奪えと無慈悲な命令を出している。
 煙草を咥え、マッチに火を点ける。間の悪いことに、部下が報告のために走り寄ってきたのはそのタイミングだった。
「ビンロージ隊長、異常事態だ!」
 男は不快感を顔に出さず、マッチと煙草を律儀に携帯灰皿に捨てると、その報告に耳を傾けようとした。
 だが、その必要はなかった。
「あはははは、私の子を返してえ!!」
 物陰から、女が飛び出してきた。
 包丁を腰だめに構え、旧時代的な特高を仕掛けてきたその女に、ビンロージと呼ばれた男は腕を伸ばし、頭を掴み持ち上げることで対処する。
「……チッ」
 女の体にくくりつけられていたものを見て舌打ちすると、ビンロージは女を放り投げた。
 瞬間、女の体が炎上し、瞬く間に燃え尽きる。
「魔種が紛れたか。僕も、つくづく運のない。おい、こちらにイカレは出たのか?」
「い、いや、俺らは大丈夫だ! キレてんのは町の女だけだ。あいつら、町の奴らも俺らも関係ねえ!」
「だろうな。稼ぎを減らされちゃ叶わない。本体の魔種を対処して……いや、一旦退かせろ」
 ビンロージは、何かを思いついたというように命令を出す。
「か、帰んのか!?」
「撤退じゃない、様子見だ。どうせそろそろ介入してくる筈だ。なら気狂い共の対処はあっちに押し付けてやろう。僕らは適度にその横面を叩けばいい」
 行け、と部下に命じると、ビンロージは今度こそ煙草に火を点けた。

●狂乱の風貌
「許さないわ、許せないわ、許しがたいわ、許しようがないわ」
 その女は怨嗟を唱えながら、それがさも幸福だというように、喜色満面の表情をしていた。
「私の子供を返してよおおおおおおお!!」
 女の隣で年端もいかぬ少女が、父親であろう男性に向けてナイフを突き刺している。父親にもう息はないが、それでも何度も何度も何度も何度も突き刺していた。
 明らかに、子供の居る年齢ではない。だが、我が父を正しく子の仇と怨みつらみを吐いている。吐き散らしている。
 女が、少女に寄り添い、耳元で囁いた。
「許さないわ、許せないわ、許しがたいわ、許しようがないわ」
 囁かれた少女はぐるりと首を回すと、父親などもうどうでもよいという風に駆け出した。そしてまた、身近な人に襲いかかる。
「私の子供を返してよおおおおおおお!!」
 少女だけではない。見渡すだけでも何名か、同じように我が子を返せと喚きながら、目につく人々に襲いかかっている。
 異様な光景だった。怨嗟を撒きながら、刃物を振り回しながら、それでも笑っている。幸せの絶頂のように笑っている。
「許さないわ、許せないわ、許しがたいわ、許しようがないわ」

●戦士の装丁
 その日、ギルドは非常に慌ただしかった。
『新生・砂蠍』。彼らが本格的な侵攻を開始した為である。
 規模を増やし、最早軍隊にも等しい戦力を持つに至った彼らの次の目的は、どうやら国であるようだ。
 部隊を分け、次々にそこかしこを襲い、勢力を広げようとしている。
 本来なら、それを治めるのは国家戦力の仕事だ。だが、非常に間の悪いことに、鉄帝が武力行動を示す兆しが在る。盗賊か、国軍かと言われれば国軍を優先して対処せざるを得ない。
 よって、盗賊の対処はギルドにお鉢が回ってきたというわけだ。
 鉄帝が北、砂蠍が南とくればなにか恣意的なものを感じざるを得ないが、違和感もあった。
「鉄帝と砂蠍の繋がりを証明するものはないッスねえ。それに、鉄帝のやり口じゃないッス」
 上がった疑問に、『可愛い狂信者』青雀(p3n000014)はそう答えた。
「それよりも、ちょっと厄介なとこに行ってもらうッスよ。盗賊と魔種と先輩方の三つ巴。面倒な状況ッスけど、町はどっちに渡すわけにもいかないッス。お願いするッスよ」

GMコメント

皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

砂蠍と魔種が同時に現れました。
これらを排し、町を取り戻してください。

【エネミーデータ①】
□盗賊ビンロージ
・仲間の能力向上に長けた、バッファー兼遠距離アタッカー。
・自身を含めた仲間の命中と反応を常時向上させる。

□ビンロージの部下
・全部で12名。
・前衛7名。後衛5名。回復スキル特化2名。
・前衛は回復スキル特化とビンロージを優先的に守ります。

・イレギュラーズがラクリモゥサとの戦闘から開始した場合、彼らは一定ターンの経過、もしくは戦況がある程度傾いた時点で乱入します。


【エネミーデータ②】
□魔種ラクリモゥサ
・年令問わず、女に狂気を伝播させる魔種。
・狂気の内容は一律して『私の子供を返して』。
・狂人かそうでないかの区別しかついていない。
・男を優先して攻撃する傾向にある。
・非常に攻撃的で、命中・EXA・神秘攻撃力に長けている。

□狂気に侵された女
・元町人。
・シナリオ開始時点で8名。以後、時間経過により増加する。
・自身の怪我を顧みない行動を取るが、身体能力は町娘の域を出ない。
・ラクリモゥサが倒されると、活動を停止する。

・イレギュラーズがビンロージとの戦闘から開始した場合、『狂気に侵された女』はランダムに戦闘へ乱入。ラクリモゥサは狂気の伝播を続けます。


【シチュエーションデータ①】
□町の教会
・ビンロージ達はここに潜伏しています。
・外部からは中の様子を探るのが難しい構造。
・教会の住民は全員避難したか、殺されています。

【シチュエーションデータ②】
□町の噴水広場
・ラクリモゥサはシナリオ開始時点でここに居ます。
・見晴らしがよく、隠れられる場所はありません。
・町民は現在進行系で襲われています。

・昼間であり、明かりの心配はありません。

  • <刻印のシャウラ>狂ふ藍海松完了
  • GM名yakigote
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (10人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
木漏れ日妖精
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
シグ・ローデッド(p3p000483)
艦斬り
ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)
屍の死霊魔術師
ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ニーニア・リーカー(p3p002058)
辻ポストガール
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
不動・醒鳴(p3p005513)
特異運命座標
木津田・由奈(p3p006406)
闇妹
リペア・グラディウス(p3p006650)
暴食の剣

リプレイ

●油と水と石のように
 奪え。奪え。何者も例外はなく、何事も思慮外にせず、老いていようが幼かろうが女だろうがアンドロギュノスだろうが富んでいようが死に瀕していようが容赦なく奪え。そういう行為において、何者にも僕らは平等であれ。これが盗賊。これが盗賊だ。

 血の匂いを感じるわけでもなく、悲鳴がここまで届いているわけでもない。
 それでも不穏な空気が漂ってきているのか、町へと向かう道は、嫌に静かで言いようのない不安が立ち込めている。
「たーだ盗賊をぶちのめせばいいっていうわけじゃないのが面倒ね」
『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリアが眉間に皺を寄せて考え込んでいる。悪党が出た、だから倒せというだけなら極めてシンプルだ。だが、今回の件はそう易い状況ではない。
「ま、それでも一番いい結果が得られるように頑張りましょうか」
「この魔種、子供を奪われた母親だったのかもなァ」
 魔種ラクロモゥサの言動から、狂った理由にあたりをつけるとするならばそんなところだろうと、『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は情報を組み立てた。
「だが過去の話だ。砂蠍も魔種も――『悪』は全て葬るのみ」
「訳ありの魔種……ではありそうではあるな」
『KnowlEdge』シグ・ローデッド(p3p000483)もまた、件の魔種が同情すべき事情を持ち合わせているのだろうとは推測している。過去を紐解くことができるのならば、その頁には悲惨と評せるだけの出来事が綴られているだろう。
「……だが、残念ながらその事情を慮るには、対処するべき事態が多すぎるようだな」
「魔種と砂蠍が連携している……訳ではなさそうだね。偶然か?」
 本当に、たまたま起こり得たことなのだろうかと、『屍の死霊魔術師』ジーク・N・ナヴラス(p3p000582)は訝しむ。無理もない。盗賊部隊の襲った町に、たまたま魔種が紛れ込む可能性などどれほど極小のものだろう。それならば、両者とはまた別の介入を疑いたくもなる。
「どいつもこいつも面倒なこと好きだなぁ。時に、母とはああいう存在なのか?」
『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は、魔種ラクリモゥサの持つしがらみに興味をいだいているようだ。子を奪われた母である、のだろう。その想いとはどれほどのものなのか。
「違っていても今後の参考になるからさ」
「理不尽に襲われてる町民の人達を少しでも多く助けるためにも、魔種と砂蠍を止めないとね!」
 どれほど複雑な状況下にあろうと、最大の被害を受けているのは間違いなく町の住民だ。『絆の手紙』ニーニア・リーカー(p3p002058)も、その無事こそを優先すべきだと張り切っている。
「ここで僕達が頑張って皆の希望にならないと」
「ふーん最近うろちょろしてたのはこの為か。魔種まで一緒とは面倒極まりないね」
 ふたつの敵対勢力に切り込もうというのだから、『蒼ノ翼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)の感慨通り、一筋縄でいくものではない。
「貴族に縁も義理もないけど、住処を荒らして回られるのは大迷惑……と。いいよ? 遊ぼうじゃない」
「あー、気が狂った姉ちゃんたちか。気持ちいいもんじゃねえけどやっとくか」
『特異運命座標』不動・醒鳴(p3p005513)が自身の後頭部をかきながら、眉をひそめた。知れば、後味の悪い話が待っていそうだとは容易に推測できる。それが見逃す理由にも、話し合える理由にもならないことを含めて、だ。
「鬼子母神かよ……」
「……きっとあの魔種は子供を奪われた母親だったんでしょうね。私ももし『お兄ちゃん』との子供が奪われたらと考えると――いえ、余計な事を考えるのはよそう」
『闇妹』木津田・由奈(p3p006406)は脳裏を過った嫌な想像を掻き消すようにかぶりを振った。
「今はただ依頼を完遂して『お兄ちゃん』に褒めてもらう事を考えなきゃ」
「ん、まさか砂蠍とかいう盗賊を食べるだけのお仕事だったのが魔種なんてご馳走付きで出てくるなんて……私はなんて運がいいのだろう」
『暴食の剣』リペア・グラディウス(p3p006650)が両手を組み合わせて何かに感謝の意を示している。
「さあ、グラトニー、ご飯の時間だよ。食べて食べて食べつくそうね」
 初めに変わったのは、臭いだった。
 鉄錆のそれではない。火薬のそれでもない。ただ、白い生地に珈琲が滲み混むように、じんわりとその違和感が鼻についたのだ。
 自然と、足が早まる。嫌な気配の裏付けを取るかのように、立ち上る煙が見えてきた。

●二秒前
 奪われた奪われた奪われた。私の大切な大切な子供を奪われた。誰に奪われたのかどこで奪われたのかどうやって奪われたのか何で奪われたのか誰が奪われたのかどうして奪われたのかいつ奪われたのかどこへ奪われたのか思い出せないけど許せないわ。

 町の中は喧騒と混乱の最中にあった。
 やれあちらに盗賊だ、やれあちらに魔種を見た。
 まっとうな情報などどこにもない。誰もが思い思いに叫び、逃げ惑い、摩耗している。
 避難の誘導など、この人数の前では叶うまい。ならば、混乱の大本である二勢力を早急に潰す以外の道はない。
 情報は得ている。イレギュラーズらが、足を向けたその先は――――

●宝飾グロテスク
 奪ってどうするのかなんてのは些細な問題だ。奪いたくないのなら、良心が疼くというのなら、躊躇をするというのなら、初めから盗賊になど身を落とさねばいいのだ。そうしたならば、それらしく振る舞え。悪党になった、せめてもの礼儀だろう。

 悲鳴。悲鳴。
 それの大きい方へと走っていく。
「あはあああははははは、私の、うふ、私の子供を返してえええええ!!」
 笑っているのか嘆いているのかもわからない叫びをもって飛び出してきた女を、レイチェルは容赦なく切り裂いた。
 狂っていても、元はただの町娘。救うことを考えなければ、如何に命を考えぬ凶兵であろうと、物の数にもならない。
「……大の為に小を切り捨てた、業を背負う覚悟はしてるさ」
 走れ。走れ。助けないと誓ったのならば、選んだそれを後悔しないためにも。
 そうして、がらりと広がる噴水広場が見えてきて―――見つけた。
 術式を編む。血管のように体内を循環する何かが、意志に応えて顕現するのを感じる。
 発現するのは緋い色。それは牙のように殺意をもたげ、魔種ラクリモゥサへと襲いかかる。

 混乱し、あちらこちらへと統率性なく逃げ惑う町民らに向けて、オデットは噴水広場の方へと走りながらも声をかけていた。
 ラクリモゥサはそこにいる。そして自分達はそこで接敵すると決めたのだから、少しでもその被害は抑えなければならない。
 自分達の向かう方とは逆へ。狂気に侵され、好き勝手に暴れまわる彼女らひとりひとりからのフォローまではしていられないが、それでも、三つ巴が予想される主戦場からは離れてくれるだろう。
 精霊に呼びかける。彼らも混乱しているのだろう。周囲の状況を尋ねてみたが、やはり町全体が危険で、混沌としているようだ。
 手を伸ばすのは、狙いを定めるためだ。これを重心とし、その延長上に放つためだ。
 魔弾を放つ。それは今もなお少女を捕まえては狂気を囁やこうとする女の、横面に突き刺さった。

 見境がないと、ラクリモゥサと対峙した瞬間から、シグは気づいていた。
 ヒト型から、剣のそれにフォルムチェンジしていたシグであったが、接近することで魔種の視線は明らかに自分へと向いた。
 見た目では判断していない、のだろう。ならば何を基準にといわれてもわかりようがないが。
「許さないわ、許せないわ、許しがたいわ、許しようがないわ」
 ともすれば、艶やかとも表現できる笑みを浮かべた女。怨嗟の声を吐きながら、それでも人生を謳歌しているかのように笑っている。
 何度目かの打ち合い。何度目かの切り結び。手数が多く、無駄の少ない動きに滑り込ませるように刃をぶつけ合う。
 鈍い鈍い金属音。痛みが走る。剣の身でありながら、喉の奥から叫びだしたくなる。
 ぴしりと。ぴきりと。確かに罅が入ったのを感じながらも、それでも折れるまで斬りつけるのが、剣たる故か。

「さぁ、寝ぼけた心の目を覚ませよcock-a-doodle-doo!!」
 醒鳴の鶏鳴にも、女たちの表情は変わらない。自分でも効果の程に半信半疑ではあったが、強制的な筈の狂気が、こうまで根深いものか。
「私の子供を、ねえ、返してよ。ねえ、くすくすくす」
 近づいてきた女を打ち払う。どうということはないが、それでも逆手に握られた包丁を見ればゾッとする。
「おう、お前らが子供傷つけてどうすんだよ。奪いに来る奴らは今隠れてる盗賊達だぜ!」
 呼びかける。だが、聞く耳を持ってはくれない。骨を折ろうと、肉が裂けようと、笑いながら刃物を手に突き進んでくる。
 狂気の前に、言葉が霞む。数が多いな。そう思ったときには、どこかの誰かのナイフが、太腿に突き刺さっていた。
 一瞬、気を取られて。顔を上げれば、目の前に慈愛にも似た笑みを浮かべる魔種がいた。

 ジークがなぞった宙空を、コンマの遅れで闇が追い、ラクリモゥサの体を切り裂いた。
 その狂気の發現さえなければただの女性にしか見えない彼女の肌が、暗い色を塗り固めたかのような何かに身を削られるさまは、痛々しいものだ。
 だが、その顔は禍々しい笑みに塗りたくられており、平然と反撃してくる様にはジークでさえ、薄気味悪いものを感じる。
 距離を開けるため、符の一枚を焼く。そこから飛び出した蛇に相手をさせている内に、後ろへと跳んだ。
 と。
 空気が変わる。質ではなく、量が変わる。
 気配を感じ取り、そちらへと目をやれば、明らかにカタギではない者らが十数名。
 来たか、と思う。砂蠍。盗賊ビンロージ。
「では、盗賊らしく、横取りをしよう」
 それを合図に、事態はより複雑な困難さを極めていく。

 使い魔から周囲の情報を得ていたルーキスは、乱入した砂蠍たちに向けて手早く術式を編み始めていた。
 注意深く観察し、見極める。どれだ、と。どれがヒーラーであるのだと。
 敵のリソース源を削ぐ行為は正しい。首魁であるビンロージ自身も補助性能が高く、面倒だが、その生存性を高めるヒーラーこそが最優先の目標だ。
 衣服や武器、背格好から種族においてまで多種多様な混沌において、見た目での判断は難しい。だが、推測はできる。タンクである盾持ち。かれらが庇う対象は、イチにビンロージだろうが、その次は―――そこ。
 待機させていた術式を解き放ち、一条の光が鎧を着た前衛ごとその後ろのヒーラーを貫いている。
 これで倒せるわけではない。だが、盾持ちの表情から自分の推測が正しいのだと確信できていた。

 ランドウェラは襲い来るラクリモゥサの攻撃を得物で受け止め、お返しとばかりに衝撃波を放つ。
 ふわりと浮き上がった魔種の体が後方へ飛ばされるが、着地先よりもじっとじっとこちらを見ていたのは、不気味という他にない。
 技を放った右腕が悲鳴をあげるのはいつのことか。先を考えればまず頭が痛いが、四の五の言える状況でもなかった。
「我慢をしなければいけない時もあるのさ」
 乱戦。乱戦である。三つの勢力が混じり合い、自分達でないもの、だけを殺傷せんと刀を振り上げている。
 胸の内に浮かぶのは焦燥だ。誰も彼も底なしではない。疲弊する。互いに、互いにだ。それが起きれば、一気に瓦解するだろう。
 飛びかかってきた女を打倒し、その背後に隠れていた盗賊を蹴りつける手前で、思い切り身を反らせば、首のあった位置を刃が通り過ぎていった。

「ごめんなさい!」
 ニーニアは謝りながら、子供を返せと叫ぶ女をひとり打ちのめした。
 生殺を気にかけている余裕はない。二勢力と混戦するだけでも手一杯で、たとえ元が罪のない町娘であろうと、命を気遣って手加減してやる余裕など持ち合わせていないのだ。
 それでも、割り切れない抵抗感が浮かぶのは仕方のないことだろう。
 内心で臍を噛む。これだけの乱戦。混戦。広範囲に攻撃したいのは山々だが、敵味方が入り混じりすぎていて思うように攻撃できないのだ。
 下手をすれば味方を巻き込むだろう。運が悪ければ、こちらの被害のほうが大きいかもしれない。小さな戦場とかしたこの場所では、誰も彼もが思い通りに立ち回れては居なかった。
 今打ちのめした女は何人目だったろう。倒れた盗賊は何人いただろう。自分達は今、何人残っているのだろう。

 由奈自身も、目の前で果物ナイフを振り回す女も、互いに肩で呼吸している。
 未だ動けているのはアドレナリンによるものだ。痛みに鈍感であるからだ。
 それでも、体全体で疲労困憊を見せていながらも、女は笑み浮かべてナイフを振りかざしている。
 助けたい気持ちがないわけではないが、それでも治す手段が―――待てよ?
「良く考えたらこいつら放っておいたら『お兄ちゃん』が危険では? あっ、そう思ったら躊躇なくヤれる! ラクリモゥサに関してもそうよね! 『お兄ちゃん』にこんな危険人物会わせる訳にもいかないもの! 子供? それよりお兄ちゃんだよ! お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん!」
 最早、どちらが狂人だか。

 リペアの中の理性的な部分が、戦況の傾きを感じ取っていた。
 どの陣営にしても、一方と戦うには十分なリソースを持っていたのだろう。だが、全てを相手取るには不十分だ。一方的な力など、誰も持ってはいないのだから。
 腹が鳴る。ここには、何をしに来たのだったか。
「子供よりも私は飢えを満たしたい……この魔種の魂を喰らえば満たされるかな? だったら食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ食わせろ! ラクリモゥサ、お前を―――」
 瞬間。バランスを崩して倒れ込んだ。見れば、自分の太腿に矢が深々と突き刺さっている。
 走り続けていた体にかかった急速なブレーキは、一気に自身を冷やしていく。痛みがじくじくと、襲いかかってくる。
 誰かいないか。起き上がれないか。剣が見える。包丁が見える。弓が見える。嗚呼畜生、もっと。
 食べたかったのに。

●セルロース
 奪われたことを許さない。許せない。許しがたい。許しようがない。だってもう顔も名前も思い出せないんだもの。奪われたという事実だけが残っている。それだけがどうしようもない引っ掻いている。許さないわ。許せないわ。許しがたいわ。許しようがないわ。

 魔種ラクロモゥサがようやっと膝をつき、その生命を維持できず、指先ひとつ動かす余力もなしに息絶えた。
 その時、イレギュラーズが判断したのは逃げの一手だった。
 倒れた仲間を抱えあげ、呼吸と脈の有無だけを確認する。
 これ以上の戦闘継続は見込めない。残った盗賊を相手するだけの余力は残されていない。
 走り抜ける。追い込む必要は無いと判断したのか、盗賊らが追いかけてこようとする気配はない。
 ふと振り向いて、ビンロージと目が合った。
 何の感慨もない瞳の色が、妙に腹立たしかった。

 了。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

シグ・ローデッド(p3p000483) [重傷]
艦斬り
不動・醒鳴(p3p005513) [重傷]
特異運命座標
リペア・グラディウス(p3p006650) [重傷]
暴食の剣

あとがき

三つ巴。

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