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シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>貴族の犬に成り下がろうと

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ――鉄帝軍、来襲の気配。
 その報が幻想南部のこの町に着いたのはほんの数日前。
 対応に追われていた領主は、派兵を決断し、北に向けて進発せんとしていた。
「ヨルク、任せていいか?」
「あぁ。もとより俺達のやり方が蒔いた種でもあるだろう?」
「本来なら、俺が出て、お前は脱出してとかそう言うのを演じた方がいいんだろうな……」
「俺は彼奴らに乗せられてしまった。いまさら俺が出ても、彼らは俺を中心にまとまらないだろう。どっちにしろ、同じだ。それより、お前は貴族。国防を考えてさっさといけ」
 とある貴族領。その領主邸にて、領主と一人の男――ヨルクが向かい合っている。男の静かな面持ちに、傷跡の残る相貌は歴戦を感じさせる。
「すまん……天下の義賊が貴族の犬に成り下がれば、民衆の反感を買うだろうが」
 申し訳なさそうな表情を浮かべて領主が頭を下げる。それに対して、男は静かに笑って返す。
「なに。今のご時世、イレギュラーズがいるさ。戦力に関しては彼らに頼めば何とかなるだろう。まぁ、俺と一緒に戦うのは嫌がられるかもしれんが……民衆の心情の方は、仕方ない。領国を守るのに、寧ろ俺みたいな奴が打って出ていいものかもわからないが」
 皮肉に笑って、ヨルクは静かに目を閉じた。話は終わり、そういう意思表示なのだろう。それを分かっているのか、領主もそれ以上、多くのことを語らずに部屋を後にしようと背中を向ける。
「あぁ――それから、あっちは任せていいんだろうな?」
「あぁ……降伏した領民には恩赦を予定してる」
「そうか、ならいい。砂蠍は討つが、民は出来る限り殺したくない」
 背中を向けた領主と、ヨルクは今度こそその場で別れを告げた。


 草原を整然と歩み続ける者達がいた。
 その先頭で立つ男の瞳は、欲望にぎらついていた。
「義賊――何が義賊だ! 彼奴はもはや貴族の犬! あんな腑抜けを恐れていられるか! 俺達も出遅れたが、キング・スコルピオに町を手土産に良い思いさせてもらおうぜ!」
 そんなことを言って立ち上がったのは、嘗てはヨルクの威名を畏怖し、服従していた小さな盗賊団の大将だ。
 彼を中心とした新生・砂蠍への加入を目論む集団は、日に日に勢力を拡大しつつあった。
「であれば、今は人を集め、ここにある町を落としましょう。ここを落とせばヨルクの居るであろう町は目と鼻の先。いつだって落とせる位置にあります」
 新生・砂蠍の幹部だという優男が言う。
「おうよ。いざ行けいざ行け! はーっはっはっは!」
 テンション高くそういって、男達は動き出した。


 キング・スコルピオを中心として、もはや軍隊と呼ぶべき規模と勢力にまで盛り返した――あるいは、新しく生まれ変わった砂蠍の毒牙は、都合よく北方を騒がせる鉄帝国と共に、その脅威を幻想全土に示した。
 幻想蜂起の一件を然したる被害もなく切り抜けたある貴族領は、悪質な計略に嵌められ、此度は戦火に巻き込まれつつあった。
 デニスなる空き巣を主体とする盗賊団の謀略は、イレギュラーズの活躍によって未然に防がれた。
 しかし、これまでかの領地で安定した政治体制を敷けた所以の一つ、義賊ヨルクの貴族への降伏は、これまでヨルクという看板に蓋をされ、動きを取れなかった盗賊達の蠢動を禁じ得ない。
 彼らは勃興し、日に日に膨れ上がり、『新生・砂蠍』への手土産とばかりに貴族領とかつて自分達を抑え込んでいたヨルクの討伐を目標に、中央都市へと攻め寄せてきた。
 そんな緊急事態であるというのに、『間が悪い事』に北部国境線で鉄帝が軍を動かす兆しを見せている。『サリューの王』クリスチアン・バダンデールの諜報により齎された急報は、貴族にとって、主戦力の北部転進を余儀なくされた。
「そこで、君達に、お願いしたい。俺達と共に、彼らの軍勢を食い止めてほしい」
 貴族に留守居を任され、騎士として仮に任用されたという義賊ヨルクは、君達へとそう頭を下げる。
「敵は今、領地の西部にある町に拠点を置き、そこから道沿いに攻めあがってきている。激突するとすれば、平野部になる。今回、中央都市に残す戦力を除いた貴族軍が20人、敵の戦力はざっと倍はいるだろう」
 少し西には川があり、渡河してきた敵を討ち取れるだろう。逆に相手を領内に引きずり込めばちょっとした森があり、その更に東には町がある。
「この町を落とされれば、中央都市は首元にナイフを突きつけられたようなものだ。だから、なんとしてでもこの一帯で打ち破りたい」
 そこまで終えて、ヨルクは君達の反応をうかがった。
「それから、敵軍は大体3つぐらいに分かれているらしい。1つは俺が今まで賊として立っていることで動きを牽制してた者達。俺の首を取りたくてうずうずしていて士気が高そうだ。1つは君達の仲間がかつて捕まえてくれたデニス、その残党勢力だ。最後の1つは――俺がかつて率いていた義賊の残党だ。前者二つはともかく、最後の1つをこちら側に引き込めればいいんだが……」
 そう言ってヨルクが腕を組む。
「幸い、領民に関しては今回の挙兵はもちろん、場合によっては盗賊に身をやつした理由についても恩赦を検討すると文書を貰ってる」
 そう言って、ヨルクは君達へ視線を向けた。
「どうだ? 一緒に戦ってくれないか?」
 努めて冷静に、男は君達へ真っすぐに視線を向け続けている。

GMコメント

こんばんは、春野紅葉です。


さて、それでは依頼の詳細説明に入ります。
今回の依頼はhardとなります。
判定は厳しめになりますので、
皆様一致団結して、達成を心がけていただければと思います。

【達成条件】
敵対勢力を打ち破り、彼らの戦略目標である町を防衛する。
敵性戦力退却時の残存戦力は問いません。

【失敗条件】
迎撃を抜かれるもしくはイレギュラーズ全員の戦闘不能もしくはヨルクの死亡

失敗してしまった場合、防衛先の拠点は陥落する他、この貴族領では中央都市の目と鼻の先が敵に領有されるため、今後、苦戦を強いられることになります。

【敵性戦力】
・《盗賊頭》エーリック
下記の盗賊団の大将首に当たります。
ある程度の《カリスマ》スキルを持ちますが、ただそれだけで他の能力は盗賊集団とさしたる差はありません。
・盗賊集団
この軍勢の主体、人数は20人。
全員が重装備の甲冑を纏っています。
剣×5
槍×10
弓×5
皆、士気が高くヨルクへの報復も兼ねています。
戦場で戦う際はヨルクがいるであろう方向へと一塊に進撃します。
全員が傭兵、アタックスタンス相当の能力を有します。

・《空き巣の残党頭》インゴ及び《悪辣な空き巣残党》
《悪辣な空き巣》デニスの残党勢力です。
イレギュラーズへの復讐心、『新生・砂蠍』への忠誠心が強いです。
戦場では皆さんに向かって攻めてくるでしょう。
インゴはウォータクト、軍師相当の能力、その他はウォードッグ、猟犬相当の能力を持ちます。
全員が士気が高く、またイレギュラーズと同等の実力を有します。
人数は10人。
武器は銃などの遠距離系が4人、剣などの近接系が6人です。

・義賊残党衆
敵性戦力へ吸収されたヨルクの旧部下達です。人数は10人。
ヨルクへの忠誠心と信頼は厚いですが、今は自分達の将来を悲観しています。
通達こそされていますが、本当に自分達が恩赦を貰えるか分からず、自棄になっています。
説得をすれば、こちら側に引き込めるかもしれません。

【友軍戦力】
・《仁将》ヨルク
友軍の大将です。義賊残党にとっては旧主、盗賊集団にとっては仇であり賞金首。
貴族軍にとっては仮の大将。
ナイト、兵隊指揮相当の能力を持ちます。
その他、この戦場でのみ固有スキルとして、
<戦上手(パッシブ:味方全員)>
ヨルクが健在で兵隊の指揮を執っている間、プレイヤー含む味方戦力が充填10を得ます。(シナリオ開始時のAPは超えません)

・貴族軍
友軍です。人数は20人。
全員がファランクス、槍衾相当の能力を有します。
降将とは言え、嘗ては領主と渡り合い続けてきた武将の指揮を受けているということが自信につながっているのか、非常に士気が高く、友軍として期待できます。


【戦場】
西に河川、そこから三百メートルほど先に森があり、その森を抜けて二百メートルほどで都市があります。

足元はたしかで、昼間のため光源の心配はありません。草は足元から脛の中ほどまであります。

引いて火計に持ち込むもよし、進んで渡河してきたところを撃滅するもよし、或いは平野部で真っ向からカチコミするもよし。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <刻印のシャウラ>貴族の犬に成り下がろうと完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2018年11月15日 21時10分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

アクア・サンシャイン(p3p000041)
トキシック・スパイクス
銀城 黒羽(p3p000505)
エト・ケトラ(p3p000814)
アルラ・テッラの魔女
巡理 リイン(p3p000831)
円環の導手
清水 洸汰(p3p000845)
理想のにーちゃん
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
御堂・D・豪斗(p3p001181)
例のゴッド
エゼル(p3p005168)
Semibarbaro
エリーナ(p3p005250)
フェアリィフレンド
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)
信仰者

リプレイ

●町の中で
 秋の香りが静まり、いよいよ冬が近づいてきたその日、イレギュラーズ達は『仁将』ヨルクの許へ訪れていた。
「なるほど、兵から手を借りたいと……五人であればまぁ、何とかなるな。それ以上は割けられん。河川で迎撃もしつつ、後ろで火計の準備となれば、迎撃までに準備は整わんだろう。割きすぎてはけどられようし、そもそも兵差で本当に潰走しかねん」
 イレギュラーズに説明された作戦について、基本的に合意したヨルクは、そこだけ少し考えて、そちらの頷いて見せる。
「それから、もう一つ、お願いがあります。ヨルクさんが攻撃を命じる時のお声を一つ、保存させてくれませんか?」
「どういう……あぁ、なるほど。以前に聞かせてもらった奴か」
 『信仰者』コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)の言葉に、以前の依頼でのことを思い出したのかヨルクが頷き、彼女が準備を整えるのを少しだけ待って、指示の言葉を発する。
「ありがとうございます。しっかり保存しました」
「不安点があるとすれば――そうだな、お嬢ちゃんと俺で入れ替わるのに、体格が大丈夫か、というとこだが。出来る限り遠く、視界が悪ければいけるか……」
 そう不安点を一つ指摘しつつ、ヨルクは出兵の準備を整える。
「では、よろしく頼む、諸君。敵の戦力は多いが、負けるわけにはいかん」
「初めて蠍の残党と出会った時はここまで事がでかくなるとは思いもしなかったが……。まぁ、奴等の好きにはさせねぇよ、何としてもここで止めねぇと」
「えぇ、ここを死守しないと、幻想の攻略難易度がガクッと下がる。とてもお世話になっている土地だもの、絶対に守り切らなくちゃ」
 『ただの人間』銀城 黒羽(p3p000505)の答えに続けるように、トキシック・スパイクス』アクア・サンシャイン(p3p000041)が言う。
「うむ、ローグ対ジェントルシーフといったところか……この際その善し悪しは問うまい! 人の子のライフとプライド、ゴッドは一人の得意運命座標として戦い、見届けようぞ!」
 そう意気揚々と告げる『不知火』御堂・D・豪斗(p3p001181)は背景に謎の文様を浮かび上がらせ、神々しい光を放っている。そこはかとなく存在感の強いソレではあるが、今回はその姿を徐々に薄れさせて、やがて一人の青年といった印象におちつける。
「町が陥落する、って大変なんだよね。召喚される前……スエッソネの時は、国が負けて略奪されるのを逃げることしかできなかったけれど。今は違う。あの人たちにあんな思いはさせたくないから……絶対に、ここで止めて見せる」
 嘗ての世界、その祖国にて敗戦と略奪を前に逃げることしかできなかった。『Semibarbaro』エゼル(p3p005168)は脳裏にそれを思い浮かべながら、自然と声に覇気を宿す。
「……早速ですが、地図を見せていただけますか?」
 『フェアリィフレンド』エリーナ(p3p005250)の問いにヨルクが地図を広げる。
「たしかに、俺達は勝手知ったるというところがある。君達にこれは貸しておいた方がいいか。火を起こすのであれば、そこだけは事前に言ってくれると助かるが」
「そこはこちらも考えています。とりあえず、貴族軍の皆さんにも可燃物を用意していただけるように指示を出しておいてくれますか?」
 コーデリアの答えに、ヨルクも頷いた。作戦は決まった。であれば――あとはそれを達するために、全力を尽くすのみだ。

● 準備は入念に
「見つけたわ。行軍中だからか、どれがどれか良く分からないけど」
 町を出て、戦場に向けて歩みを進めていたイレギュラーズ達の中央辺り、やや明るめの茶髪をした『灰譚の魔女』エト・ケトラ(p3p000814)は閉じていた目を開き告げる。
 遥か先、敵軍を見つけたのだ。士気が低い義賊残党がいるからか、その速度はやや遅い。この調子であれば、こちらの方が河川に先につくだろう。
 それを味方へと通達して、同じように使い魔を飛ばすエリーナと共に、つぶさに状況の変化を確認していく。
 イレギュラーズがイレギュラーズとして、かたまって集団を形成する一方で、ヨルクら貴族軍に紛れ込んでいる者もいた。
 その一人、『サイネリア』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はエトが伝えてきた情報をヨルク達にも伝達する受け手となり、敵軍の情勢を彼らに伝えた。
「そうか、俺達の方が速いか」
 義賊軍を説得するにあたり、ヨルクを一緒に連れていくのなら近くにいた方が効率がいい、そう判断してスティアと豪斗は彼のすぐそばに侍るように行軍している。
「敵のスピードが遅ければそれだけ味方のミッションにタイムの余裕ができるということだな!」
「たしかにそうだね。でも、そんなに嫌々着いてきてるってことなのかな?」
 ぽつりと返したスティアの視線が、ヨルクを向く。フード付きのローブに身を包んだ男は、静かにこの軍勢のやや前寄りを歩いている。
「ゴッドでなくとも彼らのソートをオールに分かることはできないが、彼らには彼らのアンサーが合ってのことだろう」
 豪斗の言葉にスティアは小さく首をかしげて、そのあと頷いて見せる。
「戦場は遠いようで近いもの、どちらにしろ相対すればわかるわね」
 ちらり、隣を進むヨルクを見る。フードの下に隠れた顔が何を思っているのか、今は分からない。ただ、言葉少なに進む壮年大将の威厳は確かに兵士達に伝わっているように思えた。


「それにしても、まさか再びここに来ることになるとは」
 森の中、フード付きのローブに身を包んだコーデリアはぽつりと述べる。思えば、半月ほど前には敵として彼の前に訪れた。そんな自分が、彼と肩を並べて戦場に立って――それどころか、成り代わる役になるとは。人生とは分からない。
 枯れ木、枯れ草といった類は、秋から冬にかけてのこの時期、森の中に入ればそこら中にあるもの。豊かな枯れ葉を踏みしめながら、拾い集めていく。
「ヨルクさんの真っすぐなお願い、聞かないわけにはいかないよねっ!」
 華奢な少女のように見える『円環の導手』巡理 リイン(p3p000831)は命一杯の可燃物を集めてはぱっと見雑多に、けれどその実、正確な線を形作っていく。
「そのためにも、準備は完璧に仕上げておかないとね」
敵に気取られぬよう、やや少量気味の油を枯れ葉にまきながらアクアは少しだけ意識を周囲に向ける。風向きは良好だ。
「この調子なら、迎撃にも迎えそうだね!」
 リインの言う通り、準備の進行はスムーズだ。人手を割き、準備を整えていく。
「それでは、皆さん……いったんここで」
 準備が進んだ頃合いでコーデリアは言う。
「これぐらいなら、あとは貴族軍から貸していただいた人達とで進められます。迎撃の方はお願いします」
 目深にフードをかぶり顔を隠すコーデリアと別れ、イレギュラーズ達は迎撃戦の舞台である川へと走り出した。

●ザルツァ川迎撃戦
 深秋特有の、やや冷たくなりつつある風に包まれながら、イレギュラーズ達は戦場に立っていた。
 根本的な行軍速度の違いからこちらの方が先手を打って岸には到着できたらしい。
 穏やかな川辺は、空気が澄んでいて、今からここで戦争が始まるのだということを忘れかねない緩やかな音が心地いい。
 エトやエリーナからの最新情報を聞き取りながら、戦場の前へ洸汰と黒羽は進む。貴族軍の布陣は理路整然としている。
 やがて見えてきた影は、ゾッとするほど悠々と、その多勢っぷりを見せつけるかのような緩慢にさえ思える動きでこちらに向かってくる。
 対岸、二十人ほどの集団。スティアはそれをヨルクの傍から見る。
「味方の方に行かなくていいのか?」
「ミー達の仲間ならノープロブレム! それより彼らだ!」
 ヨルクの返答を、代わりに豪斗がしてくれた。だが、実際、スティアも言おうとしていたことは同じだ。
 こちらの前にいる敵はまだ辿り着いていない。対して、イレギュラーズのいる場所に辿り着いた敵は、続々と川へと飛び込んでわたりつつある。
「けど、流石に川の中で地上と同じ速度では走れないみたいだね」
 入ってから急速に衰えた敵の速度に、スティアは呟いて、目を閉じ、貴族軍の方へ意識を向けた。

 敵の中央やや手前にいる優男。そいつと黒羽は目が合った気がした。
 優男はやがて手を振りあげ、降ろす。その直後、こちらの反応よりも早く動き出した四人の敵が、川の中に入っていく。
 あの優男が、『悪辣なる空き巣残党頭』インゴなる男なのであろう。
「動きが速いな」
  バシャバシャと水辺を突き進む音と、水しぶきが上がる。しかし、初手の動きの速さに反して、存外、近づいてこられない。川の流れに足を取られて、自慢の機動力が出せてないようだ。
 ただ、入水した銃を手に持つ空き巣兵が、こちらに銃口を向けている。
 ズンと腕に何かがめり込んでいく。痛みを気合いでこらえながら、黒羽は笑っていた。
「新生・砂蠍も大したことねぇな。いや、それともお前たちが特別弱っちぃのかね?」
 まるで効かない、こんなものかと。堂々と宣言しつつ、周囲に意識を向ける。
 殺意は――多すぎる。そもそも戦場だ。誰であろうが多かれ少なかれ殺意ぐらい持っている。それは、言い換えるなら戦意とでも言えるものなのだから。
 敵はもちろん、味方の貴族軍にいたるまで、持たない者はあまりに少ない。
 だからこそ――あまりにもその周辺は不自然だった。敵の中央、あたりか。なるほど、この戦場にあって殺意を持たない者、それがいるとしたら、それは義賊の残党ぐらいのものだろう。
 愉悦は、この戦場でたった一人。貴族軍に対峙する敵の方から感じ取れた。
 たいして、目の前にいるこの者達は愉悦からは程遠い。
 続くようにして狙い澄まされたもう一撃を受けながら、黒羽は再び敵をにらむように見据えてみせる。
 ひるむことなく、一人、二人と打ち込んでくる射撃を全て受け止めながら、ギフトの恩恵もあって、黒羽は真っすぐに立ち上がる。
 敵の意識を引き付けるように、ぎろりと見据えて。
「この俺すら倒せねぇんじゃ話にならねぇな」
 全てを受け切ってなお、黒羽はそう言って笑う。その姿は、敵に印象付けるには申し分なかった。

「もう、あんな目には誰も――あってほしくない」
 エゼルはその相貌に闘志を燃やしていた。会敵直後に集中砲火を浴びた黒羽に治癒魔術を施していく。
 痛みを痛みと見せぬ男の、しかして真新しく複数の銃撃痕を刻まれた肉体が、塞がれていく。
 ふと、喚声があがる。ヨルクの指示を受けた友軍が、迎撃のために盗賊軍との戦闘に乗り出したようだ。
「清水さん!」
「わかってるって!」
 腰を落とし、敵を見据えてぐっと構える。こちらに向かって走ってくる敵に対して、洸汰は絶対に抜かせないと足を踏みしめた。
 脛辺りまで伸びた草を踏みしめたギュッと言う音が聞こえてきそうなくらいに意識を集中させていく。
「けど、拙いわね」
 アクアは敵の動きを観察しながらそうぽつり。如何せん、味方の盾役に対して、敵が多すぎる。
「退くわよ!」
 自分自身は敵の最前衛より遥か後ろだ。退却に支障はない。ただ、黒羽へと浴びせかけられた砲撃の距離を考えれば、銃を持つ敵に対して、楽観的にいられる距離ではない。
 彼らの誰かが前衛を抜ければ、前衛のすぐ後ろで支援をしている仲間が狙われかねない。フォローする者もいるが、それだけではまだ足りない。
 元々、退却するのが作戦でもある。アクアの決断は、イレギュラーズの誰にとっても最良の一瞬だった。
「行かせないよ!」
 リインは自らの再生力を活性化させると、洸汰の近くで待機していたエゼルを庇うような位置に出る。
 こちらを視界に入れたそいつは動きを止め、警戒するようにゆらりゆらりと立ち回る。

「左に注意して」
 剣を持った空き巣兵が一人、他とは違って前に突出し、洸汰へと近づいていく。それを見たエトは後衛からそう告げた。
「この距離、この間合いなら……」
 エリーナは氷の妖精を呼び寄せると、川の中、敵陣へと降り注ぐように指示を出す。
 空気がいてつき、天空から無数に降り注ぐ氷柱が、エトの言っていた剣を持つ空き巣兵を中心とした領域を凍り付かせていく。
 しかし、猛るように吠える空き巣兵たちは、それこそ両県のごとく。氷柱を浴びた凍傷と刺傷をものともせず、敵意をそのままにまた一歩、動き出そうとしている。
 対岸、インゴが何かを叫ぶ。その前、エリーナは彼の視線がエゼルの方へそそがれた気がした。
 そこから、敵の動きが変わる。
 これまでと同様に、前衛はまっすぐこちらの前衛に向けて走ってくる。
 その一方で、後衛に当たる四人の銃使いが散開していく。
「側面を狙ってるんじゃないかしら?」
 エトが状況を分析する中で、イレギュラーズの後退は開始されていく。
「そんな気がします。大きく距離を取らないと」
 同様に使い魔を飛ばすエリーナも上空からの散開理由を推察する。次の一手まで待っていたら、相手はこちらに完全に追いついてしまうだろう。
 決断は速かった。友軍を誰かが見る。
 見れば彼らも渡河してきた敵兵から逃れるように後退を開始していた。

●ザルツフェルト撤退戦
「すまないな、イレギュラーズ。だが、正直助かる」
 後退する貴族軍の中で、スティアはヨルクからそんな言葉を貰っていた。
 けんけんごうごう、良き猛々しく、自分達が攻めていると思っている敵に対して、ヨルク率いる兵士たちは高い士気を保持したまま、後退を続けている。
 それでも傷を負う兵士に向けて、スティアはハイヒールをかけていた。ヨルクからの言葉に気にしないように答える。
 ゆっくりと静かに進むこちらと違って、イレギュラーズの戦友達が戦っている方の撤退速度は、遥かに速い。
「とはいえスピードが違いすぎれば孤立しようぞ」
「そうね、速度を上げた方がいいんじゃない?」
 豪斗とスティアの言葉にヨルクが頷いて指示を出し、撤退速度を上げていく。

「もう追いついてきた!」
 川から退いて、平原を退く中、洸汰は後ろから殺気を感じて振り返る。
 銃を持つ空き巣兵が一人、こちらを狙っていた。立ち止まったそいつ以外にも、続々と近づいてくる。
 その足は、ややこちらよりも速い。
 一人の剣を持った空き巣兵が、近づいてくる。独特な動きで、猟犬の如く駆ける空き巣兵が、近づきざまに剣を振り下ろす。
 踊るようにしかし、確実に急所を打ち込まれる一撃を、洸汰はバントするような動きでさばききる。
「オレ達をぶっ潰したい、なんて言うには全然じゃん?」
 挑発するように笑えば、男の剣に力が入る。
 ぐっと身体を押すようにして跳ねのけ、洸汰は一気に後ろに飛び去って行く。そこへ飛んできた敵の弾丸が頬を浅く裂き、わずかにしびれるような痛みが走る。
 エゼルは自分の前で敵の攻撃を押し留めているリインに対してメガヒールをかけながら、敵を見る。
 一見すると愚直のように見えて、その動きには明らかな連携が見て取れた。それを可能にしているのは、明らかに一人。
「あいつ、ずっとこっちを見てるんだよね」
 敵の群れのやや奥、インゴは常に他の残党兵に指示を出せる位置にいる。
 こちらが注意を引こうとした動きに対して、インゴはすぐに指示を出して残党兵を我に返らせている。その動きは間違いなく、指揮官と兵士のそれだった。
「戻りなさいな!」
 アクアは起動させつつあった術式を改め、青い衝撃波を洸汰の背後へ回り込んだ槍を持った敵へと打ち込んだ。風を切り裂きながら波動は、槍使いを後方へ吹き飛ばす。
 変わるように、右腕に痛みが走った。
 見れば、こちらの前衛の挑発を無視して陣形に食い込むように走りこんできた銃兵がいる。
「くっ……」
 そよ風に舞う、光明の白鴉が真っすぐにそいつへと飛んでいく。
 敵の動きが止まったのを見たところで、アクアは自分の傷が癒されていくのを感じた。
「ありがとう、助かったわ」
「いえ、それよりも早く下がり続けなくては」
「そうね。まだ少し森まで距離があるわ」
 アクアの言葉に、エリーナとエトは頷きあう。

●ザルツフェルト森林攻防戦Ⅰ
 目を閉じていた。
 戦場の声が少しずつこちらに近づいてくる。準備は整っていた。
 目を開け、声がする方を見る。三つの集団が、こちらに近づいてきている。
「貴族軍は……あちらですか」
 場所を確認し、コーデリアは深呼吸をした。
 本当の開戦を告げることとなるであろう一撃を、天に向けて打ち込む。その準備は、もう少しだ。
 イレギュラーズの集団が、迎撃のために用意していた導線を越えていく。
 それを見て止めたコーデリアは、高らかに、天へと等間隔に銃弾を撃ち込んだ。
 火が、導線に導かれるように真っすぐに垂直に走る。
 ちりちりと音が鳴り、幾つかの火種が近隣に乗り移りながら、風下へと伸びていく。
「お待ちしていました。大丈夫ですか?」
「うむ、あとはユーに任す!」
 豪斗が言う。
 やや遅れて森へと入ってきた貴族軍の中で、コーデリアは近づいてきた三人に問うた。
「少しの間、任せるよ」
 スティアの言葉に頷いて返し、ヨルクの方を向く。彼の表情はどういうモノなのか分からない。
「お願いします」
「あぁ」
 フードの下から、低い声が聞こえた。

「どーこ見てるんだよ! オレ達はまだここにいるぞー!」
 洸汰は導線に沿い燃え上がった戦場で高らかに名乗り口上を上げた。
 誘いに乗ったように、二人の剣兵が火を越えて突っ込んでくる。
「今までの蠍はもう少し手応えがあったがお前たちのはそうでもねぇんだよな」
 静かに黒羽が言う。敵を敢えて逆撫でするような言葉に反応したのか、槍を持つ空き巣兵が二人、こちらへ突っ込んできた。
「おいおい、こんなもんか? いっそのこと砂蠍を辞めたらどうだ?その方が誰にも迷惑かけなくてすむじゃん。そうしろよ」
 攻撃を受け止めながら、黒羽は静かに笑うように言うと、男達の目が明確な殺意を帯びた。
「――全く、阿呆ですか? その程度の挑発をまともに気にして、火傷を浴びる程度のことで止まる気ですか? 間抜けども。越えれるでしょう? あなたたちはその程度ですか?」
 冷たく、どこまでも静かな『目の前の全てを駒としてしか見ていない』人間特有の沈んだ声。
 その瞬間、片方が委縮したように我に返る。
「ほら、挑発一つ気にして越えられるのですから――最早我らに退路はないのですよ」
 どこまでも冷淡な声に告げられた瞬間、空き巣兵たちの悲鳴にさえ似た雄叫びが森の木々さえ振るわせんばかりに響き渡る。
 抑え込んだ空き巣兵以外の剣を持つ空き巣兵と槍を持つ空き巣兵が、洸汰と黒羽の間を駆け抜けリインの方へと走りこんでいく。
「ごめんね!」
 勇敢どころか、哀れにさえ見える空き巣兵へ、そんな可愛らしい声と共にリインが轟と喝を飛ばす。乗り越えてきた二人が、再び炎の中へと飛び去って行く。
 二人よりもさらに外側から突っ込んできた四人の空き巣兵は、奥深くまで突き進むと、その銃口を一斉にエトへ向けた。
 一人目、二人目の砲撃を避けたエトだったが、三人、四人と連続で打ち込まれた砲撃が吸い込まれていく。
「こんなもので殺せるとでも思ってるのかしら」
 エトの言葉を聞きながら、エリーナは集中砲撃を受けたエトに向けて妖精アモルを向かわせ、癒しを与える。一方で痛撃を受けたエトもメガヒールの対象を自らを選んでいた。
 元々の高い耐久値もあり、多重の回復によりひとまずの力は戻ってきた。だが、気取られぬように見せようと、何度もやっていてはじり貧になる。
 娘の形をとる老獪な魔性は、己の傷をいやしながら、視線を感じ前を向く。そちらではインゴが炎の向こうからこちらを見下すように見ている気がした。
「陰湿ね」
 アクアは目を細めながら、毒を込められた一撃をエトへ攻撃した銃持ちの空き巣兵へ打ち込み、その視線を自分へ向ける。

「大丈夫かー!」
「来なくていいわ。清水はそいつらを抑えて」
 エトの方へ下がろうとした洸汰はそんな言葉を告げられて自分が抑えている二人の空き巣兵に意識を向けなおす。
 片方が、血走った目で音速の一撃を打ち込んでくる。それがこちらへの殺意なのか、後ろにいるやつへの恐怖なのか、洸汰には分からない。
 キャッチャーミットでそれを防ごうとして、凄まじい速度で方向を変えた剣に、深く腹部を貫かれた。
「オレはまだ、ちっともへこんでもいねーぞ!」
 猛烈な痛みに身体を抑えたい気持ちをぐっとこらえ、洸汰はそいつへ啖呵を切ると、そのまま気合と共に敵をピンチヒッターで殴りつける。
 そいつは痺れた様子を見せ、僅かに後退していく。
 洸汰の横で、黒羽は不屈とさえいえるその身体で、防衛に努めていた。
 狂奔に駆られ、後ろの指揮官におびえながら戦う男は、余りにも哀れであった。
「弱すぎて、可愛そうになってくるな」
 声を漏らす。ぎらついた敵の目を見て、黒羽は笑った。そのタフネスさに、一瞬、その空き巣兵がたじろいだ。
 そんな中、黒羽のブロックを逃れた槍使いの空き巣兵が、後衛へと飛び込んでいく。
「こっちが狙い?」
 真っすぐにこちらへと走りこんできた槍使いの速度は速い。アクアは跳躍し、一気に横へ逃げ、お返しとばかりに遠距離術式を打ち込む。
「狙いをそちらの妖精種に改めなさい」
 インゴの声がして、指を向けられたエリーナは、逆に前へ進んでいく。敵がこちらの動きに合わせて立ち位置を改めたところで、立ち止まり――氷の妖精を呼び寄せる。
「お願いします、スティーリア」
 少女の言葉に答えるように、氷像の如き妖精は天を仰ぎ暗雲を呼び寄せ、無数の氷柱を叩き落としていく。
 思ったよりも重傷を負わせられないのは、インゴにみられていることによる恐怖からの自己保身か。反撃とばかりに打ち込まれた猛攻が、少女に致命傷を注ぎ込んでいく。
「無理しないで!」
 エトが代わるようにメガヒールをかける。大規模な医療術式をもってしても、倒れぬとまでいかずとも、その傷は重い。
「行かせないよ~!」
 リインはエゼルを後ろに、槍を持つ空き巣兵と向き合うと、突きを受ける。浅く掌を裂いた痛みに顔を一瞬、しかめるも、直ぐにその傷は収まっていく。
「良い子に生まれ変わってきてね!」
 そういうと、今度は白い大鎌を振るい、横に薙ぎ払い、斬り上げる。
 鮮血が舞い、空き巣兵の身体が、大地へと沈んでいく。
「ありがとう」
 後ろからそんなお礼と共に、治癒魔術を施された。
「大丈夫、まだ頑張れるよ」
 エゼルからの言葉にそう返し、リインは次の敵を見逃さぬように周囲を見据えた。

 森林部まで退却してからヨルクと入れ代わったコーデリアは、兵士達へ防御に努めるように指示を出してから、ホーリーオーダーの照準を合わせる。呼吸を一つ、深く、落ち着いて打ち込む。
 コーデリアの意思を弾丸に込められた聖銃が、真っすぐに一人の男の右目を撃ち抜いた。戦場の狂奔があるのか、男はおののき悲鳴を上げながらも、そのままこちらへと向かってくる。
「拙いですね……」
 貴族軍の後ろ、スナイパーワンによる長距離狙撃で一人の敵を撃ちぬいたコーデリアの表情はやや浮かない。
「そういうつもりで、声を貰っていたのではないのですが……」
 本格的な森林部での戦闘開始から、いくらか時が経過した。 
 目の前にいる貴族軍の向こう、愚かともいえるほどまっすぐにこちらへ突き進んでくる盗賊軍に、味方の軍勢は押され続けている。
 ヨルクがいないと思っていない盗賊軍の攻撃の激しさは、指揮官なき貴族兵では捌き切れていない。
 彼らは、軍隊だ。指揮官の指示を仰ぎ、指揮官を信じて進むも退くも十全の動きができるが、その一方で、指揮官が無ければその効果を発揮できない。
 集団戦のプロであると同時に、精神的支柱は絶対的に欠かせない。その支えであるヨルクがいないのに、士気旺盛に攻めかかる敵の軍勢を防ぎ続けるのは、貴族軍に対してはあまりにも酷だった。
『進め。諸君らの後には誰がいる。友だ、妻だ、子供だ。であれば、今はここで為すべきことを為せ』
 リピートサウンドの発動と共に漏れたヨルクの再生音声――ソレを聞いた兵士たちが震え立ち、雄たけびを上げる。
 あと少し、あと少しだけ、彼らは持ってくれる。その間に――出来る限り、エーリックを狙い撃てたのなら――。
 白百合の如き女性は、静かにもう一度、引き金を引いた。

●人の道を
 燃え盛る森林を背後に、豪斗とスティアはヨルクを連れて森を抜け、森の外に屯している義賊軍残党の下へ訪れていた。
「諸君! ゴッドである!」
「何用ですか……たった三人で我々を殺しに来ましたか」
 そう問いかけてきたのは残党の一人だ。独特の口調のゴッド語だが、崩れないバベルもあり、スムーズに聞き入れられたようだ。
 警戒した様子を見せる残党たちに、スティアは一歩前に出た。
「単刀直入に言うけど仲間にならない?」
「仲間……それはどういうことです?」
 どことなく疑り深そうにスティアを見る残党は、スティアはギフトの効果もあってかやや剣呑さが薄まっている。
「しかし、今皆さんはあの敵軍に追い詰められ、森にまで引いています。降伏しても恩赦が貰えるかもわからない、それどころか負けてしまえば我々も殺されてしまいます」
「……ただ単に降伏しても恩赦貰えるかわからないって事なら活躍すれば良いと思うんだ。降伏するだけだと敵軍が減るだけだけど、仲間になったら自軍が増えるんだけど! わー、すごいなぁ。戦況を一気に覆す大活躍じゃん!」
 天真爛漫に力説するスティアに、彼らは少しばかり動揺を見せているが、折れる様子はない。
「ゴッドがゴッドの名に於いてノーブルのノーティスに偽りなきことを保障しよう! 人の子たちに追われ生きるより、人の子の為に戦い、共に生きよ! ユー達のパゥワーはそれが可能である! ゴッド達と共に戦ってくれたまえ!」
「そうはおっしゃられても、それが真実かもわかりかねます。そうやって油断させて我々を殺そうとしているのでは?」
「むっ……では、彼はどうか」
 言って豪斗が振り返る。それまで黙って立っていたヨルクが、フードを取った。
「ヨルクさんも処刑されてないし、降伏でも恩赦は貰えると思うけどね」
「ヨルク……様? 本当にヨルク様なのですか?」
「あぁ……」
「いえ、そんなはずがありません。だって、貴方は――貴方は、大将ではないのですか? なぜ……? ありえない。勢いに乗る敵兵を相手に大将である自分が動く愚をわざわざ犯したのですか!?」
「…………彼らのことを信じてこそだ」
 これまでで一番の動揺が、残党たちに走ったのが分かった。信頼しているヨルクだから、かつては上司として見ていたからこそ、彼の行動が信じられないのか、その表情には明らかな動揺がある。
「本当はどうしたいのかが大事じゃない? 弱い人を傷つける側になりたい? それとも守る側? 貴方達の言う通り、味方の軍勢は大将不在。人々のためにも、お願いできたらいいんだけど」
 畳みかけるように、スティアは問いかける。
「それは……」
「うむ、時間はステイしてくれないぞ! 諸君の一秒に人の子の命が掛かっていると思いたまえ!」
「……分かりました。我々も従います」
「うむ! では参ろう!」
 ほっとした様子を見せるスティアとその言葉に喜ぶ豪斗に連れられて、残党軍が立ち上がる。
 鬨の声を上げ、十人の軍勢と三人は森へと出来る限り速くの進撃を開始した。

●ザルツフェルト森林攻防戦Ⅱ
 一人の兵士が、倒れていく。それが最初のほころびだった。
 一人が崩れ、二人目が倒れ、そうやっていくうちに崩れたところから兵士たちが押しつぶされていく。
 気付けば気合を入れるための雄叫びは断末魔の叫びに代わっていた。
 圧倒され、腰砕けになりながらも、命の限りを尽くすとばかりに兵士たちは戦い続けていた。
 それは立派な事だったが、じりじりと退却していく兵士たちの動きは、立て直しようがないもので。
 潰走していく味方を気にかけながらもコーデリアは敵陣を見つめ続けている。
「なんだ……お前、ヨルクにしちゃちっちぇえな」
「今更、気づいたのですか」
 ゆるぎない信仰心と正義感に満ちた、ノブレス・オブリージュの体現者は、木に身体をもたれさせ、流れ撃たれた矢傷を抑えながら静かに告げる。
 可能性の箱をこじ開けなければ、恐らく今、自分は地に伏している。
 兵士達にはないソレをこじ開けて、振り絞った弾丸のありったけをぶちまけて、近づいてきた敵を蹴り倒し。それでも、数の差は拭いきれなかった。
 濃い血の臭いでくらくらしながら、キッとエーリックを見上げる。
「あなたを、撃ち抜けなかったのが心残りですね」
「ヨルクじゃねえならどうでもいい。行くぜてめぇら! ここにいねえなら、あいつは町で情けなくじっとしてんだろうよ!」
 がははと笑いながら、エーリックがたち去っていく。
「ま、待ちなさい」
 そう口に出した声は、ひどくかすれている。
 振り絞った力の限りで、ホーリーオーダーを握りしめ、引き金を引いた。
 その一撃の結末を見るより前に、コーデリアの視界は黒に染まっていった。

「今のが限界……ね」
 持ち合わせの毒が無くなったことに気づいて、アクアは呟いた。距離を取って攻撃した槍使いの空き巣兵がおってくる。
「私の事を好きすぎじゃない?」
 無言を貫く空き巣兵に、アクアも言葉を紡ぐのをやめた。
 味方の名乗り口上から立ち直らされた時点で、こいつは真っすぐにアクアをマークし、ブロックし続けてきた。その表情はたしかに畏怖と恐怖に彩られていて、必死なものだ。
 発狂するように突き出された槍を掴む。しかし、勢いを殺しきれなかった槍に腹部を貫かれた。
 前衛は敵の前衛を抑え込むのに手いっぱいで、こちらの回復要員は執拗なまでの集中砲火で損害が酷い。前衛の抑え込みが想定程当たらなかったのが痛かった。
「負けるもんか!」
 洸汰はそう言いながら、ピンチヒッターを空き巣兵に叩き込んだ。
 それが倒れ伏したのを確認しながら、周囲を見る。倒れている空き巣兵は四人、こちらの負傷者は、アクア、リイン、エゼル、黒羽に自分を加えた五人。ただし、そのアクアは満身創痍、回復ができるのは残りエゼルのみ。
「オレ達は、まだこんなもんじゃねーぞー!」
 自分に言い聞かせているのか、敵に言い聞かせているのか分からない言葉と共に、敵を見る。
 もう、技能を用いる気力はほとんどない。ただ、手にある武器で相手を防ぎ、戦うしかない。
 そんな時だった。
 遥か視線の先、川の方から声が聞こえたのは。
「これは――ふむ。拙いですね。退きますよ。退けぬ者はここで死になさい」
 そんな指示とも言えぬ命令が、敵の方から聞こえた。
 そそくさと森の中に溶けて消えていく。
 追う体力は、もう誰にも残っていない。
「まにあ……わなかった……みたいね」
「今すぐヒールを!」
 戦友達の声と、複数の人間の足音を聞いた。


「仕方ない。勝敗は戦の常、ゆっくり休んでくれ。俺も、作戦自体は間違ってなかったと思う。」
 陥落した町を横目に、義賊軍に回収されて
撤退してきたイレギュラーズは領主邸のヨルクの部屋に招かれていた。
 軍の指揮官が不在となった状況で何をすべきだったか。例えば具体的な作戦を詰めるか、あるいは解決する為の技術、それらの用意が、少しばかり足りていなかった。
「それに、貴殿らの戦のおかげで、民衆の避難はほぼほぼ済んでいた。もし迎撃をただ抜かれただけだったら、民衆への被害はこんなものではなかっただろう」
 淡々とヨルクが伝えてくる。
 その言葉の端には失望は微塵もなく、どちらかというと気遣いのような物さえ感じ取れた。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

エト・ケトラ(p3p000814)[重傷]
アルラ・テッラの魔女
エリーナ(p3p005250)[重傷]
フェアリィフレンド
コーデリア・ハーグリーブス(p3p006255)[重傷]
信仰者

あとがき

お世話になっております。春野紅葉です。
大変心苦しいのですが、今回は失敗という判定になります。
ひとまずは傷をいやし、もしよければ、再戦をいただければと思います。

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