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シナリオ詳細

<刻印のシャウラ>蒼き丘を越えて

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「そうなのですか。国境線で鉄帝国が……」
 珍しく神妙な顔をして、【蒼の貴族令嬢】テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)が頷いた。
 覇気のような類さえ感じ取れるのは、今のブラウベルク領が苛烈な戦場の最前線の一つと言える位置にあるからか。
 ラサ傭兵商会連合で起きた大討伐から逃げ延びた『砂蠍』のキング・スコルピオは幻想の盗賊達を束ね、一大勢力と化していた。
 幻想南部に位置するブラウベルク領は砂蠍の一派との最前線ともいえる場所にある。実際、中央都市に民衆と物資を集めて、その周囲で防衛陣を敷くことで今のブラウベルク領は成り立っていた。
「あぁ、でも、申し訳ございません。私たちの軍勢はそちらには手を回せません。今、我が領土は蛮族共に多くを支配されかけております。そちらを奪還せねばなりません」
 謎の資金力と人脈を発揮し続けている彼等は、勢力を拡大しながら幻想の辺境を中心に荒らし周り、更に力をつけている。
 最早、陳腐な盗賊団などではなく、軍隊と呼べるほどの規模と勢力へ膨れ上がった新生・砂蠍。
 彼らに自分の領地の過半数を征圧されつつあるブラウベルク領から、遥か北方の国境線に戦力を提供するというのは、現実的ではない。
 寧ろ、彼らに自領を与えるような愚を許せば、それこそ他の貴族たちにとっても沽券にかかわるだろう。
「勇壮、叡智に富んだ皆様なら、我ら末端なぞおらずとも、きっと鉄帝国を退けれましょう。皆様のご武運を願い、細やかながら、兵糧を供出いたします」
 本当に申し訳なさそうに、静かに語ってから、彼女は使者に返礼の品を持たせて下がらせた。
 虚実半々の気持ちをギフトで覆い、あくまで礼節を尽くした後、静かに息を吐く。
「これでとりあえずは、政治的に後で文句を言われなくてすみますか……あとは……」
 深く椅子に腰かけて、ずるずると身体を倒しながら、目を閉じる。
「奪われた領地を奪い返して領民の皆さんの戻る場所を作らないと……」
 静かに一息を吐くと、その場へ二人の男が現れた。
「こんにちは、準備はいかがですか?」
「万全かと」
「それなら良かった。一月もあんな輩に好き勝手させていたなんてはらわたが煮えくり返りそうですけど。では――報復を始めましょうか。反撃の時です」
 鋭く目を細めて、貴族らしい酷薄な気配をちらつかせ、少女が笑った。


「――というわけで、またローレットの皆さんにご協力をお願いしたいのです」
 ブラウベルクの町で、君たちの前に立つ少女――テレーゼは静かに語る。
「現在、私の領地のうち、三ヶ所が新生・砂蠍の一派によって制圧されています。その町のどれかを奪還してきていただきたいのです。皆様が行かないところには、うちの傭兵を向かわせますが、如何せん戦力が足りません。一ヶ所は腹立たしいですが無視します。ここからは傭兵さんにお願いします」
 そういうとテレーゼは視線を隣に立つ眼帯の男に向けて、頷いた眼帯の男が地図を広げる。
「まずは『焼葬』ベリエスが抑え、敵の主力が占拠するブラウベルク領の南部にある交通の要衝。次に『双剣』クルト率いる部隊が籠る穀倉地帯、最後が連中の退路になるであろう町。我々はこれまで徹底的な防衛に努めてきました。まさか攻めてくるとは思っていないでしょう」
 三点を示して、それらを説明する。位置で言えば、ブラウベルクから見てベリエスの拠点が領土の南部、クルトの拠点が領土の南東部、最後の一つが南西部になる。位置的にどこか一ヶ所を急襲してから次の拠点に奇襲するというのはかなり難しい。
 やろうとすればかなりの無理を強いることになる上に、それまでに敵も準備を整えてしまうだろう。
 逆に言えば、急襲中に他所の拠点から援軍が来るというのもあまり考えられないという事でもある。
「どこを取るのか、それから我ら傭兵団にどこを行かせるかも貴方たちに任せよう。敵はテレーゼ卿の計略のおかげで収奪による収入が皆無。勝機はある」
 戦力は少なく、人々を守り切れない。一旦、全てを中央都市へ集結させたことによる副産物である。
「蛮族どもに国盗りなんて薄ら寒い夢を提供したのがどこの誰だか知りませんし、さておくとして、私の家族を苦しめた奴らには報復をしないといけません。なにとぞご協力をお願いします」
 そう言って締めくくり、テレーゼは頭を下げる。作戦を考えようとその場を後にしようとする君たちに、不意にテレーゼがもう一つ、と声をかけた。
「新生・砂蠍は強敵です。なにとぞ無理な戦いだけは避けてくださいね。その……家族ほどではないですが、私としてもローレットの皆さんが亡くなるのを聞くのは嫌ですので」
 不意に、少女らしい微笑みを見せて言ったテレーゼの視線を背に、君達はその場を後にした。

GMコメント

さて、激しいことになってまいりました。

皆様に今回お願いしたいのは幻想南部にある領土の奪還となります。
それでは、下記に詳細をば。

【達成条件】
攻略目標を奪還する。
なお、奪還だけであり、敵の大将を討ち取れなくとも構いません

【失敗条件】
攻略目標の奪還に失敗する。
この場合、その拠点は完全に砂蠍側の勢力圏に組み込まれてしまいます。

【攻略目標】
・『焼葬』ベリエス
対人戦闘能力に秀でた銃使いの盗賊。
襲ったところでは全てを焼き葬り去る残忍さで名を鳴らしました。
基本スペックが総じて高く、反応とCTがその中でも群を抜いています。
そんな彼を大将とする拠点。敵の軍勢は大将含め8人。
ベリエスを筆頭に配下の賊兵も強敵です。
賊兵は
銃×2
剣×3
魔×2

本陣に当たり、何か情報を得られるかもしれません

戦場は煉瓦造りのお洒落な町です。
どちらかというと攻城戦になります。

・『双剣』クルト
両手に剣を持った男。
高い命中率と物理攻撃力を持っています。
彼を大将として穀倉地帯(現在はほぼ空ですが)を占拠しています。
敵の軍勢はクルトを含め7人。
賊兵は
槍×2
魔×2
弓×2
また、クルトと槍は騎兵になります。

戦場は牧歌的な風景の広がる平野部に川辺に作られた町です。
どちらかというと野戦よりの戦いになります。

・退路
他の貴族領と接し、退路となりうる拠点です。
ベリエス、クルトに並ぶような強力な敵はいませんが、その代わり、そもそもの敵兵の数が多いです。
敵の軍勢は20人。
傭兵と思しき者が多いです。
物理と魔法が半々ぐらい。

野戦陣地です。退路になりうる場所のため、やりようによれば痛撃を与えるまでもなく解放させられるかもしれません。

《その他事項》
今回、収奪の成果がほぼ皆無のため、砂蠍の一派の士気はベリエス、クルトを除くとやや低めです。
基本的に他の拠点から援軍が来ることはありませんが、あまりに長期戦となるとその可能性も出てまいります。ご注意ください。

【味方戦力】
傭兵団
保有戦力は10人。
団長は皆様と同格からやや格上、それ以外は皆様と同格かやや格下になります。
ブラウベルク近郊防衛に割くためにこれ以上の戦力は期待できません

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <刻印のシャウラ>蒼き丘を越えて完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月16日 21時35分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

巡離 リンネ(p3p000412)
魂の牧童
石動 グヴァラ 凱(p3p001051)
ボルカノ=マルゴット(p3p001688)
ぽやぽや竜人
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
セシリア・アーデット(p3p002242)
治癒士
アベル(p3p003719)
失楽園
ノースポール(p3p004381)
差し伸べる翼
宮峰 死聖(p3p005112)
同人勇者
ケドウィン(p3p006698)
不死身のやられ役

リプレイ

●願わくば、この身のままで
 いつからだろうか。それが聞こえてきたのは。
 思えば、最近なことの気がする。
 鬱陶しく、ざわめき散らすような、それでいて甘い声。
 いつかきっと、私はこれに屈するのだろう。
 だがーーできればその前に、私であるうちに。そう思ってやまない。
 それを成し得る者達が、ここに来てくれるのなら、それが英雄なのであれば、それ程に心踊ることはないだろうに。

●進撃
「大規模な争いになってきたねー」
 戦場に続くらしい田舎道を行く中、『魂の牧童』巡離 リンネ(p3p000412)ややのんびりとした声で言う。
「テレーゼさんは本当に、領民思いの素敵な領主様ですね。依頼主の彼女の為に、そして町の人々の為にも……この作戦、絶対に成功させなければ!」
 『白金のひとつ星』ノースポール(p3p004381)は依頼主である『蒼の貴族令嬢』テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)のことを思って、ぎゅっと拳を握る。
「新生・砂蠍か……本当にすごい勢力だね、町を占拠するなんて状況も味方しているとはいえ、油断は禁物だね。でも、皆の帰る場所を取り返すために、何とか撃退しないと!」
「出来れば全部奪還したいのであるが……まずはでいるとこから、であるな」
 ぐっとやる気を見せる『治癒士』セシリア・アーデット(p3p002242)の言葉に『ぽやぽや竜人』ボルカノ=マルゴット(p3p001688)が続けると、『ブラッディ・バール』宮峰 死聖(p3p005112)はややアンニュイに見えなくもない表情を遥かな後方、ブラウベルクを望むようにして見て。
「まるで戦争の駒の様だね。女の子に使われるのは嫌いじゃないよ」
 なんて言ってのける。今回のメンバーには男性が多く、少しだけ沈んでいた死聖は町を離れる前に見せられた依頼主の微笑みにほんの少しばかりやる気を出していた。
「国獲り、成る程な。全ては勝ち取らね、ばならない……この行いも、悪、とは言えぬ……だが、安寧を崩そうとするならば、必ず壁が立ち塞がるものだ」
 目深にかぶったフードの下、石動 グヴァラ 凱(p3p001051)は独特な声音でそう告げる。その一方で、自らには新生・砂蠍の者達ほどの信念は無いと断定していた。

●開戦
 整備された街道を走り抜けたイレギュラーズの前に、やがてその場所は姿を現わした。
 それはおおよそ町というに単語で表すには難のある風景だった。
 不思議と区画整備の行き届いた田畑であろう場所の多くはただ露出した土地に成り果て、そこ以外は生い茂った草原と、ぽつぽつとある家屋のみが広がっている。
「あの家屋の方にいるみたいだよー!」
 始めに気付いたのは、持ち前の戦略眼に加えたエネミースキャンを発動させていたリンネだった。
「この様子だと、塹壕とかは作れなさそうだ」
 周囲を見渡してみた『特異運命座標』秋宮・史之(p3p002233)は事前に考えていたことを諦めるしかなかった。
 果てしなく見晴らしのいい平野部。こんなところでは塹壕を作っている姿など丸見えだ。そんな丸見えの罠にかかりに行くやつはいない。そもそも、堀進めている間にこちらが攻撃されるのが関の山であろう。
「まぁ、その分、奇襲されなくていいだろ?」
 『殺括者』ケドウィン(p3p006698)が答えると、一同は肯定する。
 進み続けたイレギュラーズの前に、敵が姿を現わした。間合いは前衛にとってはやや遠く、一部の後衛にとってはやや近い。
 その中央、他の二頭と比べてなお、大きな身体をした馬を操る男。
「よぉ、双剣の! オメェさんの突撃力が俺らを抜くか、俺らの防御力がテメェらを止めるか、ちょいと腕比べといかねぇか?」
 進み出たのは、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)だ。大柄な彼の言葉に、双剣使い――クルトが涼し気な風貌に笑みを刻む。
「それは、なんとも……楽しそうなご提案ですね。是非に、お受けいたしましょう」
 彼がやや前に出る。こちらを見据え、少しだけ周囲を観察したそぶりを見せた。
「展開して突撃しろ」
 クルトが号令をかけると、二人の槍兵がそれぞれ分かれ、こちらに向けて突っ込んでくる。何かから学んだのか、一直線にならないよう心掛けているようだ。
 駆動魔鎧『牡丹』を装着し、白煙を吐いたゴリョウへと攻めかかったクルトは、そのまま上段から剣を振り下ろす。
 防御に専念したゴリョウは、それを強かに受け止めると、そのまま流すように捌いてクルトの方をまっすぐに見据える。
 そのままの勢いで振り下ろされた二本目の剣も何なく受け流し、クルトを見る。その相貌には、楽しそうな笑みが刻まれていた。
「なるほど、楽しい殺し合いになりそうですね」
 そんな言葉と共に、軽く構えなおしたクルトの前に立ちふさがり、ゴリョウも咸焼白と傾蓋を構える。
 内心でその衝撃の強さに敵の実力を測りながら、ゴリョウは静かに立ち塞がった。
「やれやれ、オメェさん、そこがしれんな」
 防がれたというのに、余裕を見せる敵将へ、ゴリョウは棍棒を向ける。返答は特になく、ただ静かに構えを向け合うのみ。
「この距離なら、俺の方が速そうだな」
 ケドウィンが踏み込み、クルトの首を取らんと肉薄する。それを見たクルトは、涼しげに愛馬の馬体をそらし、その勢いのままに剣で跳ね上げた。
「そう焦らないでください、まだ我々の戦いは始まったばかりではありませんか」
 構えを取り、間合いを空けた敵に、ケドウィンは視線を交える。

「こい、賊共。……願うなら、捥ぎ取って、みせろ」
 敵の動きに応えるように凱が両拳を打ち鳴らし、黒色の焔が絡む半壊した機械鎧を召喚、着装する。
 どこからともなく現れたアンデットとも言い切れぬよくわからない何かを引き連れ、突っ込んでくる騎兵と合わせるように前へ出る。
 突き出された槍をアンデットもどきに貫かせて動きを止め、返すようにドリルを突き出し、その強烈な回転で騎兵を抉らんと奔らせる。
 馬の脚を貫いたドリルが、鮮血を飛び散らせていく。
「罪は無いであるが、乗り手が悪かったであるな」
 悲痛に嘶く馬へそう哀れみさえ滲ませながら告げたボルカノもまた、大きく馬へと踏み込んで、こちらもドリルで馬の体に風穴を開けんと突き刺した。
「俺は秋宮史之。お前たちを倒しに来た」
 名乗り口上をあげ、注意を引こうとした史之に釣られた騎兵一人、動きを変えて史之をめがけて突貫する。
 騎馬突撃の勢いそのままに突き出された槍が、右腕を薄く裂いていく。反撃に打ち込んだ曲刀が、馬の皮膚に微かな切り傷を負わせると、そいつが驚いたように棹立ちし、そのまま踏みつけられそうになるのを、何とか後退して避ける。
 ノースポールは敵の騎兵が全員、こちらの方へ突撃してきているのを認めると、そっとその美しき白雪の翼をはためかせ、騎兵と乗り手と同じぐらいの位置にまで浮遊し、まっすぐにそちらへと突っ込んだ。
 史之が押さえ込んでいたその騎兵は、横からの突如の攻撃に対応しきれず、体勢を崩していく。
「小癪な!!」
「こっちも必死なんでね!」
 ノースポールを視線で追う騎兵の隙を見逃さず、史之は思いっきり曲刀をたたきつけるように騎兵へ振り下ろした。

「ま、俺が出来ることは銃をぶっ放していくだけですかね?」
 戦場の後方、前線の仲間達が騎兵を上手く釘付けにするのを眺めながらそんなことを言うのは『破片作り』アベル(p3p003719)である。
 やや軽めに聞こえる言葉は、戦友達の実力に信を乗せたから。
 狙い放たれた斬撃は飛翔し、クルトとせめぎあうゴリョウの体が、ほんの一瞬、後ろに下がった隙を縫うようにして、クルトの馬へと吸い込まれた。
 突如の痛みに竿立ちする馬に驚いた様子を見せたクルトが体勢を崩したところ、そこへゴリョウの反撃が叩き込まれていった。
 同じように後方にて車椅子を止めていた死聖も、そのときを待っていた。
 明らかに稼働実験のされていないレーザーガンを構え、狙うのはほんの一瞬。
 敵同士ーー後衛と前衛の重なり合うその瞬間だった。
 爆ぜるように放たれた魔力の塊が、草と土を狩りながら、敵陣を貫いた。
 対象になった騎兵と、その後ろにいた弓兵は、誰の目にも明らかに痛撃を喰らっている。
「いやー派手な一撃だねー」
 全体を見回せる位置で、リンネはその砲撃を眺めていた。前線を貫き、後衛をも蹂躙したその一撃にのんびりと、しかしはっきり感嘆の意を示す。
 祝福の囁きを自らに施したセシリアはクルトと激しい戦いを続けているゴリョウへとハイ・ヒールでの癒しを施していく。
「この調子でしっかりとやっていけたらいいけど……無理だけはしないでね」
 祈るようにさえ聞こえる少女の独り言を、戦場の風がどこかへと運んでいった。

●推移
 ボルカノは自らが抑え込む騎兵の傷がどこからともなく癒されたのを目に止める。凱に一旦、受けてを頼り、見つけたのは敵の後方、杖を持った男。
「回復役がいるのは厄介であるな。我輩はあっちを片付けるのである!」
「あ、あぁ。頼む」
 凱からの返答を聞くと、ボルカノはまっすぐに魔法使い達のいるほうへと走り、オーラキャノンによる砲撃を撃ち込んだ。
「町を、皆さんに返して!!」
 ノースポールもまた、攻撃を騎兵から魔法使いに改めていた。打ち出された弾丸は自然と一人の魔法使いに吸い込まれていく。
 一方、凱は遮二無二、憎悪の爪を騎兵へとぶちまけていた。災厄とも呼ぶべきその威容は、騎兵の心を折るのは十分だった。動きの鈍った騎兵を徹底的に切り刻み、蹂躙する。そしてついに、その一撃が男の心臓を貫いた。
 史之は騎兵を馬上から突き落とし、立ち上がった騎兵の懐へもぐりこむ。
「これで終わりにさせてもらう!」
 握られた曲刀で槍の柄を跳ね上げ、そのままの勢いで振り下ろす。首こそ落とせないものの、深く入った刃は、騎兵の命を刈り取っていった。
「ははは!! 面白いですね!!」
 ひたすらに重く、鋭い一撃を振り下ろされる。ゴリョウはそれを傾蓋で受け止める。
 流体であるはずなのに、腕甲がきしむ。その一瞬、もうひとつの剣が閃き、目元を裂く。
「ッ!! まだまだぁ!!」
 クルトを押し込むように腕甲を押し出したところで、遥か後方から、凶弾がクルトに沈んでいく。
 右腕を抉りこまれ、クルトが一瞬だけ動きを止めた。そこへ、ケドウィンとともに反撃の一撃を叩き込んだ。
「ぐぅ……」
 うなり、それでも爛々と輝かせ、狂喜に揺らぐ敵の目を見据えながら、相対する。
 セシリアとリンネの支援は、ほぼほぼゴリョウとケドウィンに集中していた。二人がかりでもなお、気を抜けば押し返されそうなクルトとの戦いに比べれば、他の者達の戦いはあまりにも順調だった。
「やっぱり、あのひとが一番厄介だよね」
 セシリアはゴリョウへハイ・ヒールを伝えながら、隣でケドウィンへヒールオーダーを与えるリンネに問いかける。
「そうだねー」
 そんな会話をしながら、ふと視線を違うところに向ければ、ちょうど、死聖による魔砲の三発目が、敵の弓兵と魔法使いをまるまる抉り取っていった。
「撃ち止めだね」
 振り返れば、死聖がレーザーガンの出力を落とす調整をしているところだった。
「ここまでくれば、負けることはないですかね」
 そんなことを言うアベルは、つい先ほど、クルトへ放った凶弾をもう一発撃ち込む準備を整えつつある。
 流れは確実にこちら側になりつつあった。

●笑う者
 戦場には、もう敵は一人しかいない。
 騎兵が倒れ、弓兵も崩れ、回復手でもあった魔法使い達も死んだ。
「はは、ははは。あぁ、なんと楽しいことか!!」
 それでもなお、そう笑うクルトの身体にも無数の傷跡が刻み込まれている。
「オメェさんの負けだ。降参したらどうだ?」
「ははっ。私を終ぞ抑え込んでみせた人がいうと重いですね……ですが、そうするとでも?」
 ここまで痛めつけても、クルトの闘争心は潰えていない。それどころか、ますます盛んにさえなっていた。
「あぁ、だというのに、まったく――」
 舌打ちひとつ。
「何する気であるか?」
 ボルカノの問いに、クルトは答えない。
「鬱陶しい、羽虫の音だ」
 心の底からの侮蔑と苛立ちの言葉とともに、クルトが剣を閃かせた。
「なっ!?」
 大量の血液とともに大地に落ちた腕は、彼自身のもの。
「はぁ、はぁ……はぁ、やっと、収まりましたね。おや、どうしたのです? そんなにあっけにとられたような顔をして。戦場ですよ?」
 片手になった男が、今度は逆に不思議そうに言って、直後、こちらに向けて高速で駆ける。
「くっ!」
 史之はその高速に反応が若干遅れた。袈裟斬りに降ろされ、血が戦場をぬらしていく。
「止まってください!」
 ノースポールの撃ち込みに鳩尾を打ちつけられ、やや後退、そこへ先だっての仕返しとばかりにケドウィンのボウイナイフが走る。
「今度はいただくぜ!」
「っつぅ――はは、確かに。ですが、まだ……まだ、物足りません。もっと――もっと、最後まで」
 声を震わせ、脚をかくつかせながら、それでもと、男がこちらに向かってくる。
「走り回れぬ汝など怖くないのである!」
 ドリルを回転させたまま、横なぎに殴りつければ、彼の身体はぐにゃりと折れる。
 それでも身体を奮い起こして、もう一歩、クルトが前に出る。
 次の一歩――は、なかった。
「……死んでるよ」
 終わりだと告げたのは、リンネ。もう、己のエネミースキャンには、彼を敵だと認識されなかった。
 近づいて、セシリアがそっと脈を取る。
 出血か、自分たちの攻撃か、それは分からない。猛威を振るいつつあった砂蠍の手の者は一人、ここに潰えたのだ。
「勝った、のか?」
「そうみたいだね」
 途端に気の抜けた声で死聖がいって、椅子の上でぐぐっと身体を伸ばすのだった。

●ブラウベルクにて
「テレーゼの譲ちゃんにお願いがある」
「はぁ……なんでしょう?」
 戦いを終えたイレギュラーズはブラウベルクにて依頼主であるテレーゼの歓待を受けていた。
 ゴリョウはその中で、テレーゼにひとつの提案を申し込もうとしていた。
「この依頼後、交通の要衝からベリエスが出てくる気配があれば即座にローレットに迎撃依頼が出来るよう見張りを立ててほしい。幸い、前回の依頼で周辺の近隣の村の多くはもぬけの殻だから、依頼して急行するまでに人的被害は出ないと見るぜ」
「なるほど。そういう意味でも立てておくのはいいかもしれませんね。分かりました。攻めてきたら、お願いします。あぁ。でも……取り返せた場所が落ち着けたら、こちらから行くようにお願いするかもしれません」
 あちらが動くか、こちらから動くか。その違いになるだろう、そう少女は語る。
「そのときは、よろしくお願いしますね? ひとまずは、ゆっくりと休まれてくださいませ」
 ほんわりと笑って、テレーゼはイレギュラーズヘ告げ、ぽんと手を合わせる。
「それでは、取りあえず、お夕飯だけでも、ご一緒にいかがですか?」
 どこからか、ぎゅるると音がする。もうそんな時間なのだ。
 こうして、やや長く感じられた一日が過ぎ去っていった。

成否

成功

MVP

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
皆様すばらしかったです。
MVPはクルトを最後まで抑え込んだゴリョウさんへ。

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