シナリオ詳細
<終焉のクロニクル>朱槍のヘルヴォル
オープニング
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混沌の滅びを革新的に決定づけてきた『神託』――Case-Dと称されたそれがついに顕現する時が迫っている。
加えた最悪は顕現する先が『影の領域』と確定していることか。
即ち、敵陣ど真ん中に『それ』は姿を見せるということに他ならない。
だが、絶望の中に光はある。敵陣へのショートカットが、世界各地にぽっかりと開いているからだ。
――そう、『ワームホール』と呼ばれるそれは、魔種陣営が影の領域より軍勢を齎すためのもの。
だが、通路である以上『向こうから此方に来れる』のなら『こちらからあちらへ行ける』ということでもあった。
開かれたままのワームホールの1つ、鉄帝に開いたそれは『全剣王』自らの手で守られている。
そんな全剣の塔の一角――紅髪の武人が1人立っていた。
「――不快だわ、実に、不愉快だと思わないかしら、アナタたち」
紅髪の武人――ヘルヴォルがイレギュラーズの眼前に立ち不快を露わにしていた。
「アタシは、強い者を相手にするのは好き。弱い奴をそれだけで侮蔑するようなのは柄じゃないわ。
――でもねぇ、これは正直ただただ純粋に、不愉快極まるわ」
その周囲を可視化した闘志が燃え上がる。
「全く、冠位の権能さえ再現できるぐらいに器用な癖に……ねぇ。
仮にも全剣の王を名乗るのなら、こんな中途半端に力を使うべきではないでしょうに」
はぁ、と深々と溜息を吐き、紅髪の武人はイレギュラーズを見据える。
「アナタ達、毒への耐性はある? 無いのなら付けておきなさい」
「敵に塩を送って良いのですか?」
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)の問いかけに、ヘルヴォルは短く笑って言う。
「この『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』は冠位嫉妬の権能を再現したものよ。
あれは廃滅の毒なんて言ったけれど……まぁ、このぐらいなら耐性があれば無視できるでしょう」
どこか冷たく、呆れたように語るヘルヴォルは明らかに苛立ちを隠さない。
「……要するに、全剣王のやり口が気に喰わねぇってことだな」
「ふふ、分かってくれたようで何より」
ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の問いにヘルヴォルはそう肩を竦めてみせる。
「でも、どうかしらね。アナタ達にとってみれば幸運かもしれないわ」
こてりとヘルヴォルは首を傾げる。
「どういう意味かしら」
オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)の問いかけに、ヘルヴォルは薄く笑った。
「こんな風に器用に他人の――いいえ、冠位の真似事が出来る奴よ?
もっと真面目に、もっと真っすぐに己の道を貫けばよかったのにね、って話よ。
そうしていれば、いつか本当に全剣の王にまで至れたかもしれないのに――ってね」
くすりと笑ってみせたヘルヴォルの表情はまるで弟子をみる師匠のようだった。
もちろん、ドゥマの師であったなどありえない。要するに『教導者』としての気質が疼いたのだろう。
●
「――さて、少し話過ぎたかしら?」
「いいえ。もっと話したいと思いますよ?」
くすりと笑みマリエッタが告げれば、ヘルヴォルが肩を竦める。
「そう? それならもう少しお話を続けましょうか」
「……ヘルヴォル!」
声をあげたのはオデットだった。
「きっと、これで最後になるから、言っておくわ! あなたは弟子だって取ったんでしょう?
その弟子を放置して、自分勝手をしすぎなのよ!」
「――ふふ、これは痛いところを衝かれたわね」
短く笑ったヘルヴォルはちらりとイレギュラーズの方を見渡した。
「そういうのは妖精の領分なんだから! 人間はもっと縛られて生きていなさいよ!」
「ははは! 面白いわね、妖精さん。まぁ、でも――」
ひとしきり笑ったヘルヴォルの周囲が再び熱を持つ。
「アナタの言う通りね、妖精さん。だから師匠から愛弟子に向けて、最後の特訓をさせてあげるわ。
師匠を越えてみなさいな、ユリアーナ、イルザ。それに……アナタ達もね、英雄さん」
そう、ヘルヴォルが獰猛に笑った。
黄金の魔力は盾を象り、周囲に燃える闘志はそれまで以上に燃え盛る。
「全力ってわけだな――いいぜ、ヘルヴォルオネーサマ、こっちもアンタを超えてやる!」
返すままに獰猛に笑ったヨハンナもまた戦意を増していく。
イレギュラーズは急激に増していく戦意に応じるように各々の武器を取った。
●
万感の思いが胸を満たしていた。決戦に向き合う英雄たちは、どこまでも勇ましい。
それが心の底から楽しくてたまらない。
ヘルヴォルという女は、鉄帝の古い部族、戦乙女の一派に生まれた。
そんな家系の只中に、ある時代に旅人が訪れた。
故郷では世界屈指の槍使いであったと嘯いた男は、朱塗りの槍を獲物にしていた。
彼は常々『朱槍こそは武士の誉れ』と評していた。
ヘルヴォルは当代で朱槍を認められた女だった。
故郷には敵がいなくなり、流浪の旅に出た。
武人として、長き流浪を楽しみながらも、心のどこかで次の『朱槍』を望んでいた。
衰えていく自分の身体、そんな体に勝ったからと言って、朱槍を与えてやれる理由なんてあろうはずがなかった。
――だから、最盛期を望んだのだ。強い者と戦って、いつか自分に変わってこの槍を告げる誰かを望み続けて。
出来れば、自分が育てた誰かであればいいと、そう思う自分にもう目を背ける理由もありやしない。
- <終焉のクロニクル>朱槍のヘルヴォル完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2024年04月06日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
サポートNPC一覧(2人)
リプレイ
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「おう、いいぜ。ヘルヴォルのオネーサマ。
ユリアーナやイルザと共に、俺らはお前を超えてやる」
涼しい顔の『祝呪反魂』ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)の言葉を受けたヘルヴォルの顔に、にやりと獰猛なものが刻まれている。
(──朱槍に届く為に。俺は限界を超えてやる…!)
熾天を示す一対三枚、異瞳は遥かなるを見据えて怪しく輝く。
「わお!」
ヘルヴォルが声を上げる。驚き半分、喜び半分の面に浮かぶ、その仕草。
同様、ヨハンナの口元に獰猛なる笑みが浮かぶ。
油断は出来ない。天運によればまだ押し負けるかもしれない。それでも。
「――追いつける」
戦端を開くまま、ヨハンナの竜腕が空間を越えてヘルヴォルを捕らえた。
「ふふ」
「いつまで笑っていられるかな」
「アナタ達が失望させない限りは、かしらね」
彼岸の毒に蝕まれなお彼女は笑い、その身体が闘志を帯びる。
「――あまたの星、宝冠のごとく!」
爆ぜるように飛び出した『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)が間断なく突撃を仕掛けた。
燃え上がる総身、己が全てを以て打ち込む拳打、蹴撃、片翼による薙ぎ払い。
綺羅星の如き連撃は黄金の盾により防がれる。
「全く、はた迷惑な婆さんだ。けどまあ受け継いで欲しいっつうのは分からんでもねえ。
出逢いと別れを繰り返す中で沢山のヒトから技術を受け継いだかーさんの後継者、それがオレだからな」
突きつける連撃のついでに牡丹はそう呟いた。
「ババアとかオバサンだったら殺してるところだけれど、『婆さん』はまぁ、許しましょうか」
応じるヘルヴォルは柔らかく笑みを刻む。
その余裕を剥ぐように、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は既に構えを取っている。
鋼覇の構えを取り、クロスボウの射角を安定させ、引き金を弾いた。
死角であるはずの位置からの射撃は必中の弾丸。
「――良いわねえ、それぐらいしてくれないと」
黄金の盾を貫いた矢がヘルヴォルの身体に傷を入れる。
「対処はしますよね」
けれど、そんなものはオリーブとて分かっていた。
「ヘルヴォルさんは魔に落ちたというよりは、私達を試し、成長を促す為に立ちはだかった、と……」
改めて問うた『輝いてくださいませ、私のお嬢様』フローラ・フローライト(p3p009875)にヘルヴォルは「まぁ、そんなところね」と短く笑い応えた。
「……そんな回りくどいことを、とは思いません。きっとそれが貴女の在り方。それならば、私達はそれに応えなくては……!」
「嬉しいことを言ってくれるわね」
くすりと微笑むヘルヴォルとフローラの距離はそう遠くない。狙う場所によってはまともに喰らう位置である。
けれど、ここだ。ここが彼女への攻勢を支えるには最適な位置だった。
「ユリアーナさん、イルザさん。今が師を超える時、です」
乙女へと降る啓示がそれを教えてくれる。
「――さぁ、始めましょう」
そう告げたヘルヴォルの攻勢が苛烈に戦場へと轟いた。
「まったく、どこまで行ってもバトルマニア……よく言えば誇り高いといいますか。
私と貴方。立場が逆であればどれほどこの場が凄惨だったか……なんて、私も同じことしそうな気はしそうですね?」
繰り広げられる攻勢、『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)は笑みを刻む。
幸いというべきか否か、此度は別の方向へと伸びた斬撃の乱舞はマリエッタには届いていない。
「アナタも嫌いではないでしょう、こういうの」
「貴方には負けますが……えぇ、本当に貴方と話すのは楽しいですよ。
この場には、余計な邪魔はあれど貴方の力は純然たる貴方の力全てに他ならない」
踏みしめた毒をものともせず、マリエッタはその手に鮮血の槍を握る。
「――だからこそ純然たるぶつけ合いが楽しいのだと。
お互い最高の時間を過ごしましょう、ヘルヴォル」
笑みを刻んだままに、その身に術式を纏う。
「なーにが特訓よ、自分勝手な人間だこと」
こちらの攻勢に真っ向から応じるヘルヴォルを見やり、『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はひとつ息を吐いた。
(……本当に、嫌いになれない私も甘くなったものね)
そう自分への呆れも多分に抱きながら首を振って、オデットは視線を上げる。
「ユリアーナもイルザもなんとなくヘルヴォルの考えてること分かるんじゃない?
全力でやるわよ、あなた達のお師匠のお望みどおりに」
「そうだね。元より、それぐらいでいかないと抜けないだろうし!」
快活に笑うイルザの槍が一撃を撃つ。
「あぁ、全くだ。オデット君」
薄く笑って応じるユリアーナの槍は既に師と交わり受け流されているか。
「武人生まれが武人として生きて武人として運命を全うする……羨ましい生き方だ」
その様子を見やる『妖精■■として』サイズ(p3p000319)の胸の内には暗い物が過っている。
「妖精武器として生まれて、守るべき存在を守れず、復讐の相手も斬れず。鍛冶師としても上手くいかず」
握りしめた自分自身、燻るモノは八つ当たりめいている。
「武人としては非戦闘員が居るのは不満だろうが……我慢してもらうぞ」
「アナタが何者かなんて、知らないし左程の意味もないわ。
それが非戦闘員かどうかなんて猶更。些末な問題でしょう」
そうヘルヴォルが肩を竦めた。
「ここで、超えましょう。
わたしにできる精一杯の支援を、歌を、皆さんへ。
ですから――全力で暴れてきてください!」
指揮杖を手に『灯したい、火を』柊木 涼花(p3p010038)は叫ぶ。
奏でる緋色の旋律は竜の唄。
壮麗にして壮烈なる咆哮は檄であり慟哭であり呪詛であり――何よりも祝福である。
「ふふ、良いわねえ、元気が良くていいわ」
笑みを刻むヘルヴォルの槍が、今度は先に動いた。
●
「わたしの音が響いている限り、誰も倒れさせないし、ガス欠になんてさせません!」
涼花は仲間たちの背中を押すように演奏を続けている。
「ふふ、良いわね、一丸となって……そうこなくては面白くもないわ」
そう笑うヘルヴォルの槍は時折フローラや涼花を巻き込んで穿たれる。
なるべく近づくことはしないが、それでも届く範囲攻撃の到達は元より覚悟の上だ。
絶唱の歌は戦場に轟く。その歌が支えるものがある。
先手を常に取られる心配が無いのはヨハンナの高い反応速度を更に高めている涼花の存在のおかげでもあった。
「てめーの槍もそいつを誉れとした奴らの歴史で、てめえの歴史だ。
そいつを潰えさせたくねえっつうのなら! 安心しな!
オレ達がてめえから勝ち取ってやるよ! 未来も、朱槍もな!」
牡丹はヘルヴォルへと視線を向けるままに言い放つ。
「――それは楽しみね、どこまで持つかしらね」
未だ余裕を隠さずヘルヴォルは笑う。
自身へとヘイトを向けることは出来ている。
苛烈なヘルヴォルの槍を抑え込むことが出来ているのは、持ち前の硬さ由来のもの。
「オレは硬い、オレは、無敵だ!」
「そう、なら試してみましょうか」
グンと速度を増したヘルヴォルの槍が気付けば牡丹の眼前にあった。
咄嗟の回避行動、多重にブレた槍先が牡丹に追いつく。
チッ――と痛みが走り、頬に傷が浮かぶ。
「どうだ、オレは硬い!」
「――ふふ、言うだけはあるわね」
自らへと強化術式を展開しながら改めてそう言えば、そう笑う声が返ってきた。
「俺に火力はねぇが、“厄介さ”がウリでなァ」
「ええ、知ってるわ」
速さ勝負で競り合う中、ヨハンナが言えば、ヘルヴォルは涼しい顔で答えてくる。
爆発的な速度が紡ぐ攻撃の連鎖が落ち着く頃、ヨハンナは弓を構えた。
右半身の術式の限定解除と共に引き絞った炎の矢は尾を引いてヘルヴォルの身体を貫き、二の矢たる結界術式がその身を取り囲む。
「さぁ、可愛い妖精が来てあげたわよ」
更に距離を詰めるままにオデットが言えば、ヘルヴォルの笑みは深くなる。
「ふふ、待ってたわ、妖精さん」
「さぁ、始めましょうか!」
その手には太陽を。
地廻竜の吐息が戦場を包むとともに、オデットは慣れ親しんだ陽だまりの熱を纏う。
撃ちだした陽光の輝きは、今はまだその手にある盾によって防がれる。
「――では、自分がこうすることも?」
地廻竜の吐息に背中を押され、オリーブはロングソードを握りしめる。
「えぇ、もちろん」
涼しい顔で笑ったヘルヴォルに向けて狙う連閃が美しい軌跡を描く。
自らの身体の勢いに任せるままに振るう斬撃の連鎖がヘルヴォルの身体を斬り刻む。
鋼覇連閃の太刀筋は黄金の盾を完全に掻い潜ることは出来ずとも、確かにその魔力を削りとっている。
対応は未だされている――それでも『その足を止めている』のは最大の功績だった。
極光を纏い、フローラは拳を握りしめる。
展開する術式が仲間たちの傷を癒していく。
戦場を完璧なまでに把握できている。
(……まだ押されてる。でも、私が、支えなくては!)
ヘルヴォルと眼があった。フローラを見て、彼女は笑みを刻むのだ。
「あら、今日は槍なのね」
肉薄するマリエッタへとヘルヴォルが驚いたように笑う。
「えぇ。貴方の槍の腕前、せっかくなら覚えていきたく思いましてね」
「そう、それは光栄だわ」
くすりと笑ってみせたヘルヴォルへと撃ちだした穂先はうねる様にしてその身体に傷を入れる。
サイズは一つ息を吐いた。
その身に刻まれた傷はオデットを守って受けたものだった。
そんなサイズを見るヘルヴォルの視線はどこか詰まらない物を見ているように思えてならない。
「オデットさんを守ってるから妖精武器としての役割を果たしてるとか言うなよ……
たしかにオデットさんは脆いけど、俺に守られるほど弱くない」
「でしょうね」
肩を竦める女に馬鹿にされているような気がして、サイズは本体たる鎌に魔力を束ねた。
振り払う血色の斬撃が獣のようにヘルヴォルへと駆け抜ける。
●
戦いは既に佳境、ヘルヴォルの破鎧が損耗していることは目に見えて明らかだった。
先手を取れるかどうかは運だったが、相手に反撃の隙を与えず流れを途切れない連撃が大きい。
そして、長きに渡るお互いの攻勢は結果として涼花とフローラの存在感を強めている。
ゆるゆると身体を立てるヘルヴォルは明らかに万全とは言い難い。
けれど、そんな状態でさえ、彼女のサイズを見る目はどこか冷たいのだ。
「あぁ、分かったよ」
ぽつり、サイズは一つ呟いた。
「こんな事しても大失態を打ち消せるわけないけど……やらないとな。
いやネガティブは終わりだやろう」
舌を打つ。妖精の前で、いつまでもうじうじとしてなどいられない。
全身全霊で穿つ黒顎魔王の連鎖、血色の顎が再びヘルヴォルの身体を食らい潰す。
(……わたしが支えるんだ)
涼花は握りしめた指揮杖に力を籠める。
歌う曲は幻想楽曲オデュッセイア。
その歌声は神秘を纏い、緋色の旋律が抱く憎悪と憤怒さえも優しい彩に変える。
フローラが攻勢と共に仲間たちの傷を癒すのなら、涼花の役目は零れないようにその後に続くこと。
美しき旋律が織りなす神秘の音色は仲間たちの魔力を増幅させ、精神力を滾らせる。
「――ヘルヴォルさん」
福音の魔力を戦場に響かせながらフローラは声をかけた。
「なにかしら?」
「ありがとうございます。良い話を聞かせてもらいました」
笑みすら零してそう続ければ、ヘルヴォルは目を瞠る。
「へぇ、それはどういうことかしら、蛍石のお嬢さん」
「私と似ている気がしたのです。彼が。
自分が嫌で、憧れる誰かになりたくて……。
それなら私にも、交わせる言葉と戦い方はあるはず」
「そう」
薄っすらと笑ったヘルヴォルはくるりと槍を構えなおす。
「……ところで」
「ふふ、まだあるかしら?」
「――随分と、槍が重くなったのでは」
その問いかけには、答えが返ってこなかった。
ただ獰猛な笑みが残っているだけだ――その笑みが『よく見えてるわね』とほめている気がした。
「――だったら、これがたったひとつの冴えたやりかただ!」
牡丹はその身に纏う炎を滾らせ、一気に肉薄する。
真正面から仕掛けた突撃がヘルヴォルの守りを掻い潜り、その身体に痺れを残す。
「──お前の弟子達は、こんなにも立派になったぞ。ヘルヴォル」
ヨハンナは弓を引き絞り、そう言葉にした。溢れ出した紅蓮の焔が矢を作る。
「本当にね」
薄っすらと笑うヘルヴォルの表情は、少しだけ大人になっているようにも見えた。
己が血液を媒介に溢れ出した紅蓮の焔が竜の如く戦場を翔ける。
竜はヘルヴォルを呑み干し、黄金の輝きが炎の向こう側に爆ぜた。
それはどうしようもない隙だった。
重なる傷に破鎧(生命線)はひび割れ、だらりと下がった彼女の腕はぴくりと動くばかり。
「さぁ、デカいのお見舞いしてやれ!!!」
竜の如き紅蓮は友人へと繋ぐ炎の道。
「さぁ、今までで一番痛い太陽よ。燃え尽きるといいわ!」
応じるままに、オデットはその手に小さな太陽を抱く。
優しくも苛烈なる陽光の熱を受け、ヘルヴォルの血が急激に乾いていく。
「ふふ、それは無理ね、こんなにも嬉しいのに、燃え尽きるなんて、ありえないでしょう!」
そう言って笑うヘルヴォルの手に明らかに皺が増えている。
「ふふ、ふふふ」
笑う彼女の身体の動きも、明らかに鈍い。
「……これじゃあ、老婆呼ばわりされても仕方ないわね」
己が手を見やり、そうヘルヴォルが自嘲の笑みをこぼす。
「それでも、まだ死ぬつもりはないけれど」
「――いいえ、こちらが勝たせてもらいます」
オリーブはロングソードへと終焉の炎を纏う。
万物を焼き尽くす終焉のレーヴァテイン。
「まさか、避けるなんてことはしないでしょう」
「――ふふ、そもそもできそうにないわね」
真っすぐに見据えた相手、笑みを刻む女の顔は少しだけ年を重ねた様に見えた。
描くは神さえも斬り伏せる鋼覇の頂。
踏み込むままに突き出した手に対応しようと槍が動く。
「――押し通させてもらいます!」
それが追いついてくるよりも前に、もう一歩踏み込んだ。
伸びた切っ先がヘルヴォルの胸部のやや上を貫いた。
たらりと垂れていく赤い血がその証明だ。
そこへマリエッタが飛び込むのだ。
ブレるように撃ちだされた槍の軌跡はまさしくヘルヴォルのそれにも近しい。
「――可能な限り、貴方の槍で終わらせてあげますよ!」
全霊の槍が真っすぐに伸びていく。
追いついてきた槍がマリエッタの槍に弾かれ、その刺突は真っすぐに肺の辺りを貫いた。
「はぁ……疲れたわ」
ボロボロの身体で、ヘルヴォルがその場に座り込む。
「……さぁ、どこへなりとも行きなさいな、英雄さん。
アナタ達ならきっと世界を救えるでしょう。アタシの事は気にしなくていいわ。
死ぬ前にここから出るぐらいはできるもの」
深く皺の刻まれた顔で微笑んだヘルヴォルにはトドメを刺すまでもない。
「手助けは不要よ。ひとりで行けるわ」
「……行きましょう、皆さん」
そう呟いたマリエッタはそっと目を伏せる。
「ふふ、ありがとうね、魔女さん」
ヘルヴォルの真意を少なくともマリエッタは理解していた。
(寿命を先延ばしにしていたリソースの急速な消失。
今の貴方は、どれほどの『痛み』に耐えていることやら)
そのツケに、今のヘルヴォルは急速に『老いている』。
そんな急激な変化、人体が耐えられるはずがない。
万が一に塔を降りることができたとしても、彼女の歩みはそこで終わるだろう。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
さっそく始めましょう。
●オーダー
【1】『朱色の槍』ヘルヴォルの撃破または撃退
●フィールドデータ
全剣の塔内部の一角です。
遮蔽物などはなく、広々とした空間ですが、『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』がはびこっています。
●ステージギミック
・『不毀なる廃滅(エミュレート・アルバニア)』
非常に強力な『毒系列』のBSを戦場中にばらまくギミックです。
フィールドの全てのキャラクターに毎ターンの初めに『毒系列』のBSを付与します。
廃滅の毒を騙りますが、かの冠位の権能に比するものではありません。
苦戦はすれども、決して対策や突破ができないものではありません。
●エネミーデータ
・『朱色の槍』ヘルヴォル
『不毀の軍勢』を属する紅髪金瞳の女性。飛行種。
朱色の槍と楯のように展開する黄金の魔力を武器とします。
外見は20代から30代程度ですが、実年齢は80歳越えのお婆ちゃん。
外見が変わってないことを揶揄されると怒ります。それって女性に失礼でしょう? とのこと。
『破鎧』を通じて得られる『全剣の塔』が持つエネルギーをリソースに寿命を先延ばしにしています。
そのため、ヘルヴォルにとっての『破鎧』とは文字通りの生命力(HP)です。
破壊するためには純粋に殴り勝てばよいということになります。
豪放磊落な自信家で『俺よりも強い奴に会いに行く』を地で行く手合いです。
お喋りで気のいいお姉さんです。
ステータス傾向に隙があまりありません。
特に注意すべきは極めて高い反応速度と高めの命中、EXA、防技あたりでしょう。攻撃値は物理よりの両面です。
なお、躱すよりも正面から受けて殴り合う方が好きなので回避はあまりされません。
主な範囲攻撃は近扇、至範、超貫を用います。
主なBSとして【痺れ】系列、【乱れ】系列、【足止め】系列、【致命】を用います。
その他、【多重影】、【弱点】などを用います。
また、回復スキルも持っているようです。
●友軍データ
・『銀閃の乙女』ユリアーナ
クールな姉貴分といった雰囲気の女性鉄騎種。鉄帝の軍人。
イレギュラーズとは数度に渡り共闘しており、皆さんの事はとても深く信頼しています。
銀色の槍を振るう反応EXA型物理アタッカーです。
イレギュラーズと同程度の実力を持ちます。上手く使いましょう。
・『壊穿の黒鎗』イルザ
鉄帝生まれ鉄帝育ちのラサの傭兵です。青みがかった黒髪をした人間種の女性。
イレギュラーズとは数度に渡り共闘しており、皆さんの事はとても深く信頼しています。
穂先を魔力で延長させる特殊な槍を振るうオールレンジ神秘アタッカーです。
イレギュラーズと同程度の実力を持ちます。上手く使いましょう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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