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シナリオ詳細

<悪性ゲノム>バイオハザード・エピデミック
<悪性ゲノム>バイオハザード・エピデミック

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●静寂な夜
「ママ……体が、体が痛いよ……」
 泣き腫らした頬を真っ赤に染めて、シェリーはベッドの中でモゾモゾと呻く。
「お医者様がもうすぐ来るから、気を強く持ってシェリー」
 私はそう慰めてみせるが、さっきからシェリーも嘔吐が止まらない。即席の薬を与えてみたが熱も下がる気配はなく、とても辛そうにしている。
 私には医学の知識が無いからよく分からないけれど、酷い風邪の類か、それとも食中毒の症状か。
「ねぇ、シェリー……貴方、なんでこんななったか病気に分かる?」
 治療法が何か分かるかもしれない。そう思って糸口を確かめる為にシェリー本人へ問いかけてみた。シェリーはきっと罰が当たったんだわ、という顔をしながらこう答える。
「……昼間に、わたしと同じくらい辛そうな猫ちゃんを見つけたの。おてて噛まれて、逃しちゃったけど……」
 その後も必死に探さなかったから、天使様が私にも病を与えたんだわ。猫に噛まれたのであろう少し膿んだ傷跡を見せながら、そんな世間知らずで優しい事を言いのけたので私は思わず苦笑を漏らしてしまう。
「じゃあ、病気が治ったらその猫ちゃんを一緒に探しましょう。それなら、天使様もきっと許して下さいますよ」
 そういうとシェリーは力なく笑い、無言で腹を抱える様にうずくまった。
 そしてお医者様が来たのか扉を叩く音が玄関の方から響いてくる。こんな夜遅くだというのに急いで来てくれたのか、イヤに乱暴なノックだ。
「ほら、シェリー。天使様の使いがいらっしゃったわよ」
 私は振り返って玄関を向かおうとすると、シェリーに後ろから抱きつかれる。注射を嫌がってるのか、それとも不安だったのだろう。
「シェリーったら、そんな事をするとママにも風邪がうつってしまいますよ」
 冗談の様に言いながら、後ろに手を回し彼女の細い髪を撫でる。こうするといつもはくすぐったそうに声をあげるのだが、娘の返答は無い。
 その代わりに彼女はギュっ、と私の背中を抱きしめると、うなじに柔らかくキスを落とした。
「…………シェリー?」

●支援要請
「……狂犬病の類か?」
「いいや、発症後は治療次第で回復の見込みはある。……だけれど、感染力が尋常じゃないね」
『狗刃』エディ・ワイルダー(p3n000008)、『黒猫の』ショウ (p3n000005)。ブルーブラッドの二人は神妙な面持ちで話し合っている。彼らはイレギュラーズがやってきた事に気がつくと、獣の耳をピコリと小さく動かしてゆっくり振り返った。
「やぁ、待っていたよ。普段より厄介な依頼だ。早急に、と言いたいところだけど今回は入念に準備をしてから向かって欲しい」
 いつもは何処か飄々とした雰囲気のあるショウが、深刻な表情を浮かべているのが分かった。エディも頷きながら、同様に険しい顔をしている。
 話を聞くに幻想内に存在する、各区域ごとに城壁を敷いた街で疫病が流行ったらしい。その対処にローレットに応援が求められたそうだ。
 そういう事に対処するのは医者や兵士の仕事ではないのか? イレギュラーズの一人がショウに対して疑問を投げかけた。
「ただの疫病じゃない。……ゾンビ、って知ってる? 死体が甦って、人を襲うモンスター。小説なんかでもホラーの題材として取り上げられるんだけど、今回の症状はまさしくそれだ。末期感染者は生きてる人を捕食しようとして、噛まれてしまった人は感染する」
 そう答え終えると、テーブルに置いてあった街の地図に赤いペンで斜線を引いた。その斜線は街の一角を取り囲む城壁内の区域全域に渡る。
「エピデミック。事実上、この区域は壊滅さ。街を支配していた領主は緊急事態と判断し、区画を外側から完全に封鎖。そこの住民達は城壁の外へ出られずに、感染した住民に全員食い殺されてしまった……はずだったんだけどね」
 スカイウェザーの者が上空から偵察を行なってみると、多くの住民らが病院をシェルターとして使い、未だ多数生存している事が発覚したのだという。生存者の中には感染の初期症状を患っている者も確認出来た。
 中には逃げ遅れた女子供、あるいは少しばかり地位の高い人間が多く残っており、それを見殺しには出来ないと配下の兵士や別の区域に暮らしていた住民達、あまつさえ近隣の権力者すらも領主に猛反発。医療団を護衛付きで派遣する事になったという次第だ。
「その護衛に君達が選ばれた。実力を買われたというワケだね」
 苦笑を浮かべるショウ。そう言えば聞こえは良いが、やはり自分の兵を消費したくないという実情もあるだろう。ショウは苦い顔をより一層強め、次の話に移る。
「残酷な話だとは思うけどね。感染者が相当数居る事から考えるに、城壁内の全員救うなんてのは到底無理な話だ。勿論、多く救うに越した事は無いけど」
 つまり、医療団の護衛と並行して君達がなすべき事は。そこまで口にするとショウは言い淀んだ。言葉を選んでいる様に見えるが――
「“感染者らを殺害し、その区画を焼き払う”」
 険しい顔のエディが、やり場の無い腹立たしさ故かハッキリと言いのけてしまった。慌ててショウはその言葉に付け加える。
「感染者だからって、即座に殺してしまえってワケじゃない。派遣される医療団と協力すれば救える命はあるだろう。……救えないのもあるだろうけどね」
 ショウは胸に溜まったものを吐き出すように大きく咳払いをし、真剣な眼差しでイレギュラーズの目を見つめる。
「念の為言っておくけど、今回は悪人に手を貸すってワケじゃないから君達の名声に傷は付かない。この件に成功すれば、最近巻き起こってる異常事態の調査に奔走する学者達の関心も大きく惹けるはずだ。自分達の学術調査もイレギュラーズに依頼した方が効率的だ、ってね。そうすれば根本的な原因解明に繋がるだろう。……すまないね、こんな事を君達にやらせて」
 そしてそのまま、作戦の概要をイレギュラーズに伝え始めるのであった。

GMコメント

 稗田GMです。今回はショウさんの言う様に、悪名処理は入りません。ただし、一般市民を手に掛けるハメになるので御理解下さい。

●情報精度
 A。依頼人、情報屋の言葉に嘘の情報ありません。
 以下の情報を参考にして下さい。

●成功条件
『一定人数の市民を治療、及び救出する』
『【ゾンビ病】の感染者を区画から出さない』
 成功目安としては確認された生存者の六割を救出。生存者の中には初期~中期症状の感染者が一定以上含めれている事が予想される。治療には回復系スキル活用必須。
 おおまかな段取りは医療団を護衛しながら病院まで進軍⇒生存者の救出と治療⇒生存者、医療団と共に脱出。帰還確認後、兵士がイレギュラーズと共同で区画を焼却開始。
 イレギュラーズの判断でこの段取りは必要性があればある程度変更可能。

BS【ゾンビ病】
 ゾンビ病は便宜上の名前であり、変則的な【呪い】【苦鳴】【混乱】の複合BS。症状は進行順に目眩(【呪い】)⇒発熱⇒激痛と嘔吐(【苦鳴】)、そして最終的に重篤な錯乱(【混乱】)。
 初期症状から悪化までに多少の時間差あり、一般人は末期に至る前ならばBS回復のスキル、あるいはHPを大幅に回復するスキルを使えば治癒可能。(効率はBS回復>HP回復)
 治療に際しては【医療技術】【医療知識】など、治療に有効なスキルやギフトを併用出来れば補正が掛かる場合もあります。

 イレギュラーズが発症したとなれば、延々と仲間を攻撃し出す為に非常に厄介となるだろう。イレギュラーズやエディの場合は進行度に関わらず回復スキルで治療可能。
 なお、『精神耐性』を持っていれば【混乱】は無効化に出来ます。
 主な感染ルートは唾液や血液などの接触。つまり感染者に噛まれたり、引っかかれたりする事。

●環境情報
 幻想のとある街。区画ごとに城壁で区切られており、感染が起きたのはその一つ。
 目的地はその区画中心にある大病院。生存者五十人ほどが籠城中。
 末期感染者が取り囲んでおり、我々が救出しなければ彼らの全滅は時間の問題である。
 街路については整備された道で、軍馬や馬車系統は有効に使える。感染者と遭遇戦の可能性極大。

●NPC情報
『狗刃』のエディ・ワイルダー:
 今回は彼も同行。水準より高めの攻撃能力と特殊抵抗を持っています。
 純粋な戦闘要員が少ない場合、おおいに活用出来る事でしょう。
 ただし、複数への攻撃手段と自他への回復能力が乏しいです。

医療団:
 ローレットと違う方面から集められた医者達。人員は五名。一定のAP量、HP・BS回復能力を保持しています。しかし彼らだけで生存者の全員を治療し切れるかは生存者数の膨大さから不安要素です。
 彼らは格段に戦闘能力が低く、末期感染者に戦闘で対抗する手段を持たないので注意。
 市民を救うという同じ使命を背負ったのもあって、イレギュラーズに対しては非常に協力的です。最終工程含め、作戦には従事するでしょう。

●エネミー情報
末期感染者:
 区画の市民の大半がこれに成り果てている。能力値は全体的に低めだが、付与してくるBSが致命的。
 無尽蔵どころか時間経過で増加。ここまで来ると一般市民の生命力では治癒不能。食料を求めて区画を徘徊中。
 猫や犬などのペットが感染している事も確認されたが、そちらは攻撃方法が引っかく・噛みつきのみ。あとは能力値が多少違う。

引っかく・噛み付く:近単・中威力・BS【ゾンビ病】
投擲:中単・低威力

  • <悪性ゲノム>バイオハザード・エピデミック完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2018年11月16日 21時40分
  • 参加人数 8/8人
  • 相談10日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

蜜姫(p3p000353)
甘露
日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)
大いなる者
レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)
蒼の楔
松庭 黄瀬(p3p004236)
気まぐれドクター
アクセル・オーストレーム(p3p004765)
闇医者
天之空・ミーナ(p3p005003)
ビス・カプ(p3p006194)
感嘆の

リプレイ

●部隊編成
「お待ちしておりました」
 白衣を来た老齢の医者がイレギュラーズに一礼を向ける。彼が医療団の長らしい。
 各々が医薬品や紐の準備、または馬車を牽引する馬へ防護服を取り付けるなどして準備を整えつつ医療団と挨拶を交わす。『闇医者』アクセル・オーストレーム(p3p004765)も自己紹介を述べた。
「……アクセル。君達と同じ、医者だ」
 それを聞き及んだ若年の医者が、準備の手を止めた。
「アクセル? レイノルズの人形遣いを討った? すげぇ、俺はレノって名で」
 老齢の医者が諌める様に大きな咳払いをする。レノという若年の医者は申し訳なさそうに口を曲げた。
「失敬。でもですよ。それと同じくらいの護衛が八人」
 彼はそう言いつつ、不思議そうに周囲を見回した。イレギュラーズは七人。一人足りない。
「そっちはもう一人来るって聞いてたんだが……」
 『気まぐれドクター』松庭 黄瀬(p3p004236)が見当たらない。アクセルはそれに対して、目的地の上空を見上げた。

 目的地の大病院。周囲は何人もの感染者に取り囲まれ、それを阻む為に一階二階の窓や扉には粗末なバリケードが築かれている。
「……入ってくるのは時間の問題じゃないか」
「しってるおじさんやおばさんだ」
 避難した少年少女らは三階に隠れ潜み、窓の外を見下ろしていた。感染者は手の肉が裂けようとも、それに構わずバリケードを打ち壊そうとしている。
 それぞれが不安げにしていると、一人の少女が窓から空に向かって祈りを捧げる仕草を取っていた。
「なにしてるの?」
「シェリーちゃんがいってた。おいのりしてれば天使サマが苦しい時に助けてくれるんだって」
 下らない。年長者が呆れた様に吐き捨てようとしたが、言い切る前に言葉に詰まった。
 同情といった類ではない。開け放っていた窓のふちに、小柄な猫がいつの間にか飛び乗っていたからだ。
「あ、ねこちゃ――」
 猫を撫でようと手を伸ばした少年の腕から、鮮血が飛んだ。獣と化した猫の爪先によって、一閃に切り裂かれたのだ。部屋中に甲高い悲鳴が響き、一同は皆が恐慌状態に陥ってしまう。
 腕を抱えて蹲っている少年の首筋へと、その獣が忍び寄って牙を突き立てようとした。――寸前、窓の方向から何かしらが入った瓶が投擲される。
 獣の頭部へ命中した瓶は割れ、中の液体が飛散した。その液体を浴びた獣は突如として苦しみ悶え、呆気なく死んだ。
「こんこん。お邪魔しまーす」
 少年少女らは未だ怯えながらも、胡散臭い声が聞こえた窓際の方を一斉に見た。
 そこには、黒い羽を持った白い衣装に身を包んだ男。此処に入るまで石ころでも当てられたのか、軽くケガもしている。少女は心配そうな声色で、男に問いかけた。
「天使、さま?」
 男は、苦笑を浮かべながら答えた。
「ごめんね。ぼくは天使サマじゃなくて、ヤブ医者なんだ」

●強行進軍
 部隊は奇しくも多数の馬車を用意出来た。それらを活用しつつ感染者の少ない街路を選び進軍している。
「全く、頭数も報酬も割りに合わないよ、こんなのやだやだ……」
 状況に嘆く『感嘆の』ビス・カプ(p3p006194)。彼はそんな事を言いながらも、先導する様に馬車を走らせている。
「割に合わないのは今に始まった事じゃないだろ。……ナァニ、俺達も誘導してやるさ」
「黄瀬さんに教えてもらった道なら、安全なはずなの」
 『死を呼ぶドクター』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)、そして『甘露』蜜姫(p3p000353) 。その二人は上空を飛ぶファミリアと視界を共有しつつ、街の様子を調べていた。
 その内心、奥歯を噛みしめる思いだった。レイチェルの双眼は病が視認出来る形で映るのだが、ファミリアから見下ろした光景は悲惨だった。此度の病は、レイチェルの目を通せば患部の一部、または全身が腐った化物に見える。
 それらが、街中の至る所に見当たった。そうでないのは、せいぜい食い荒らされたであろう損傷の激しい死体くらいだ。
「……酷い」
(まさか病院以外で全滅って事はないよな)
 蜜姫とレイチェルの脳裏に不安が過った。それが表情に出たのかもしれない。様子を見ていた仲間達ですらそれを感じ取る程、街中には絶望と病が溢れていた。若い医者達が自分の肩を抱いて震え始める。
「……いいや、生存者は建物に籠城しているはずだ」
 それらの不安を受けて、同伴していたエディが呟いた。それは何処かしら自らにも言い聞かせる様な節があった。
 エディは、隣に居た『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)と視線を合わせた。それから彼女は周囲の警戒を仲間達に任せ、拡声のスキルを使う。
「城壁の外より妾達が助けに参ったぞ! 誰かおらぬか!? 場所は――」
 街中の生存者へ救出の手が来た事を報せようと、彼女は叫んだ。
 ――街全体ともなると、民家のいずれかに逃げ遅れた生存者は居るのだろう。
 しかし生存者達の声が返ってくる事は無い。その原因の一つとして、中期症状以降は激痛と嘔吐に苛まれてマトモに声を出せぬ事があると予測される。もう一つは……。
「えぇい、来やがった!」
「な、なんじゃ!?」
 突如、レイチェルが叫んだ。デイジーの言葉に返答する暇もなく、すぐにその理由が判然とした。多数の呻き声が、此方に寄ってきているのだ。声につられて集まっていた。彼らの投擲物も一つ二つ、既に飛来してきている。
「ビス、全速力で走らせろ!」
「う、うん!」
 ビスは震える腕で強く鞭を振るい、馬車の足取りを早めさせる。
 イレギュラーズ、医療団、その両方が立ち並ぶ民家に視線をやった。だが現状ではどうする事も出来なかった。

●チェイス、アンド
 病院へ急ぐ道中、一行は迫ってきた末期感染者の群れと接敵する。馬車から撃ち落とそうと乗員目掛けて石を投げてきた。
 イレギュラーズにとってその攻撃は軽微なダメージに等しい。しかし医療団にとっては事情が違った。
「ぐ、ぐわっ」
「医長!?」
 馬車の中へと突き抜けた礫が医長の頭部に突き刺さり、顔面を蒼く腫れ上がらせた。
 感染者を警戒していた何人かは、すぐに迎撃の構えを取った。一番早く動いたのは『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)だ。
「心苦しいけど、医療団の人が殺されちゃかなわないし、うわっとと」
 彼は予め馬車の屋根に陣取っていた次第だが、全速力で走っている手前些か足場が不安定である。
「それでも、エースストライカーの意地ってヤツを見せてやる!」
 葵は持ち前の軽業で、何とか医療団が乗るビスの馬車へと飛び乗った後。石を投げつけようと動作を取っている感染者目掛けて複数のエネルギー弾を投げ付けた。
 不安定な体勢から放ったそれは傍目から見れば的から逸れたかに思われたが、感染者の近くに至ると二人を巻き込む形で一斉に爆発し、感染者達が文字通り爆ぜた。
「上手く決まったのに気分爽快、にはならないッス」
 やむを得ないとはいえ、葵は顔を顰めざるを得なかった。
 葵が対処した者とは別に、ごくごく少数ながら追いついた獣か、または進行ルート上に居た者らが馬車に飛び乗って来ようとしていた。
 ――これも一連の事件と同じく人為的だろうなァ。
 レイチェルは立ち塞がる彼らの姿を見つめてそんな事を思い浮かべた。
「汚れ仕事はお医者サマの仕事、ってな。悪いが、排除させてもらうぜ」
 そして彼女が何事か唱えると、その肢体からするりと赤いモノが抜け出て、地面へと影のように染み込んだ。
 そしてすぐに、前方に立ち塞がっていた複数体の感染者の足元から深紅の槍が突き出て串刺しとせしめた。呪殺の能力が込められたそれは、末期感染者とって完膚無きまでの特攻であった。
 お前らをこんな風にしでかしたヤツは。いずれ俺らが裁いてやるからよ。
 彼らが僅かばかりでも痛みを感じる暇も与えられなかったのは、彼女なりの慈悲なのかもしれぬ。

「くそったれェッ!!」
 追撃の殆どを振り切ったといえど、安堵する暇は無かった。迎撃の中、感染していると思しき犬の一体がすり抜けたのだ。
 最悪な事に医療団の居るビスの馬車へと乗り込まれた。レノという若い医者の苦痛に満ちた金切り声が響く。
 デイジーが咄嗟に迎撃しようとするが、馬車を運転しながらの戦闘が不慣れなせいか一瞬反応が出遅れてしまう、それでも馬車の内部に乗り込んだ犬を遠術で上手く射抜き切った。
「よし、しとめたのじゃ!」
「レノ! 大丈夫か!?」
 医療団らは犬の死体を外へ蹴り出し、すぐさま同僚の治療に当たろうとした。
「……レノ?」
 様子がおかしい。
 馬車の振動でレノの体がゆらりと揺れたかと思うと、そのまま馬車のドアから何の抵抗もなく転がり落ちた。落ちた衝撃で、食い破られた腹から何か赤黒いものがあふれた。
 医療団は、その一部始終をぽかんとした様子で眺めた。
 後方からついてきた感染者達は、それに群がっている。
「こんな呆気なく、死ぬ……?」
 医療団は、その光景に言葉を失う。
 イレギュラーズも死人が出た事に思わず息を呑んだが、手綱を決して緩める事は出来なかった

●到着
 病院へ辿り着き、馬車を止める一同。病院の入り口前は、五人の感染者らに取り囲まれていた。様子からして、人の気配を感じ取ってバリケードを打ち破ろうとしているのだろう。
 『黒の死神』天之空・ミーナ(p3p005003)。道中全力で走らせていたパカラクダから降り立ち、剣を構えた。
「さて、誰かの仕込みなのか、自然現象なのか。どっちにせよあんたらに罪は無いってわかってんだけど……悪い、さっき色々あって相当苛立ってんだ」
 そう言ってから、自分の存在を誇示する様に名乗りを上げた。当然、入り口前に居た感染者の殆どが彼女へ食らいつこうと近寄ってきた。
「おい、あれでは彼女は……!」
 レノの二の舞になるのではないかと、医療団の一人が慌てた様子でイレギュラーズへ問いかけた。しかしエディは落ち着いた様子で言いのける。
「たぶん、彼女なら大丈夫だ」
 一種、確信めいた物言いで口にした。次の瞬間、堪えきれなくなった感染者達は一斉に彼女の肢体へと食らいつこうとする。
 ミーナはアンデットを召喚したかと思うと、その首根っこを掴んで乱暴にぶん回す形で感染者らを殴りつけた。
 感染者らが体勢を立て直す間もなく、もう片方の手で持っていた剣を構え直し、近寄った感染者ら全て切り伏せるが如く力の限り振り抜いた。
 近接していた感染者は、その一刀の元にすべからく切断される。この程度の人数差などものともしないという風にやりきってみせた。
 残るは距離を取っていた感染者が隙を見てミーナに食らいつこうとするも、それを見越していたデイジーが感染者の四肢を氷の鎖で絡め取る。
「あぁ、ミーナさんったら無茶するね」
 彼女のかすり傷を見て、治癒の魔術を施すビス。葵は、先程の事から不安そうな医療団に言葉を向けた。
「俺達なら、今度こそ貴方達を守れるッス。だから、任せちゃくれませんか」
 プレッシングもストライカーの役割ッスと付け加える葵。門外漢な医療団にサッカー用語はよく分からないが、それでも彼らはイレギュラーズに向けて頷いた。
「……宜しくお願い致します」

●病院内
「猫の手も借りたいくらいだったから来てくれて助かったよ」
「トリアージと治療の進行度は?」
 三階の窓から登攀用に結んだ寝具を投げ降ろして、一同を出迎える黄瀬。アクセルは彼の飄々とした態度を意に介さない素振りで、状況を確認した。
 黄瀬は、自分らの話を心配そうな面持ちで盗み聞きしている子供達の方を一瞬見てから、胡散臭い笑みを浮かべた。
「んー、もう順調順調。なんたってこの子達が手伝ってくれたんだから」
 それを聞いた子供らが自慢げな顔で口を挟んだ。
「めまいする人きーろ!」「吐いちゃった人には赤!」「それ以外はアオ!」
 その様子から、トリアージについては万全にやれたのだと分かる。
「おー、よく頑張ったな坊主達」
「偉いわね」
 声を掛けるついでに、子供達の紐色を確認していくレイチェルと蜜姫。殆どが青で、ごく僅かが黄色だった。一先ず危険度が高い子供は黄瀬が治療しきったのだろう。
「でもボクのママは紐つけなくていい、って」
「わたしのおねえちゃんにもー。あばれそうになったりもして、 とってもくるしそうにしてたけど」
 それを聞いた瞬間、医療団や蜜姫の顔が引きつった。打ち合わせでは、紐が付けられてない患者は「治療が無理」と見殺しにする手筈だ。
 到着時は既に手遅れが混じっている事は予測済みとはいえ……。
 しかし、その子供らは満面の笑みを浮かべていた。
「でもね、このやぶ医者さんが楽になれるお薬くれたんだ!」
「お薬。それって?」
「甘い匂いがするお薬!」
「そう……お母さん、よくなるといいわね」
 蜜姫は、せめてこの子達の血縁が助かる様に内心で祈っていた。

 声を潜める形でアクセルは黄瀬に耳打ちする。
「黄瀬」
「なんだい、アクセルせんせー」
「薬についてだが」
 黄瀬はニヘラと笑って答えた。
「ボクも医者って事だね。苦しんでる人は放っておけなくて」
 おどけた様子で語るが、患者が居る手前、時間が惜しいという様子だった。
 アクセルもそれは同様だ。だからこそ、単刀直入に言った。
「その薬、”自害用”だろう」
 沈黙。
 暫くののち黄瀬は困った風に頭を掻いて、こう呟く。
「まぁ、ボクはヤブ医者だからさ」
 アクセルは何処か険しい顔のまま、踵を返す。黄瀬を含めた医者全員に対して、告げた。
「これ以上、誰一人として手遅れは出さない。矜持をかけろ」
「りょーかい、アクセル先生」

●治療現場
 それから治療に大人数で当たる事になる。
 患者らは末期感染者から受けたであろう裂傷や噛み傷も見受けられる。
「こんな吐瀉物塗れの病室に患者を置いて、大丈夫ですか?」
 アクセルはその疑問に答える様に、ギフトと治癒能力の両方を展開してみせた。彼のギフトは、彼を中心とした5m内が医療行為に適した物に変化、維持されるのである。
 複数人が治療の術式、魔術を全力で行なっている事もあって、効果はすぐに現れた。
「医長。脈拍、呼吸、共に正常化しています」
「此方も問題無く」
 医療団は、一種感動を覚えた。知識、技術共に申し分無い。人数が十二分な事もあり、治療は万全といっていい成果だ。
「大丈夫、大丈夫よ。必ず助けるから……」
 蜜姫は、魔力と共に力強い自信を持って患者の手を握り締める。
 もはや患者達の生命は、手の内にある。施しようがある患者ならば、助けられるという確信があった。

●撤退開始
「も、もう無理ッス。真っ白に燃え尽きそう……」
「魔力、切れそうなのじゃ……」
「が、がんばれー。負けるなー」
 進入から時間が経ち、無尽蔵の感染者に防衛隊の気力も尽きかけていた。
 充填手段を持ったビスと、呪殺が特攻だと道中で把握出来たデイジーらが居らねば、もう少し面倒になっていたかもしれぬ。
 獲物に付いた血を拭って心底腹立たしそうにするエディとミーナ。それは他も同様だった。一般市民であった者達を殺戮して楽しいものじゃない。

 突如、内部から入り口のバリケードが打ち破られた。
 病院からの新手か? 咄嗟に振り返ると、それらは見知った顔。レイチェルだ。後続で他の仲間や患者達が出てくる。
「全員馬車に乗り込むぞ! まだ治療が必要な奴は医療団のに乗れ!」
 治療が無事に完了したらしい。各々、感染者に気をつけながら自分の担当する馬車に乗り込んだ。

 レイチェルは仲間や患者達が馬車へ乗り込んだのを確認すると、病院の入り口で様子を伺っている少女も連れて行こうとした
「おい、お前も早く馬車へ」
「びょうしつにまだおねえちゃんがのこってる」
 少女の言葉に、レイチェルは顔を歪める。そしてすぐ、冷淡に告げた。
「お前の姉ちゃんは置いていく」
 そういうと、少女は顔をくしゃくしゃにして、泣き喚いた。レイチェルは、柱にしがみつく彼女を無理矢理抱きかかえて馬車へ乗り込む。
「……恨むンなら、俺を恨みな」

●撤収完了
「イレギュラーズと医療団が患者を連れて戻ってきたぞ!」
 馬車が城壁の外まで辿り着くと、待機していた兵士達から慌ただしく歓迎を受ける事になる。
 末期患者を連れ帰ってないか。要望の人数を満たしているか。それらを含めて。
 結果としては、末期患者は混じっておらず病院からの生還者は40人。規模に対してこの結果はまずまずと言えたところだろう。
 兵士達は、今度はイレギュラーズと医療団の様子も調べ始める。
「医療団とイレギュラーズの方が一人ずつ足りない様ですが」
「若いのが一人亡くなりました」
 それを聞いて兵士は残念そうにする。
「ではイレギュラーズも?」
「アイツはそういうわけでは」
 受け答えに応じていたエディが何か言い切る前に、先走って火付けを行いかけていた兵士の怒号が響いた。
「女を乗せたパカラクダが突っ込んでくるぞ! 感染動物か!?」
 たいまつを投げつけようとした兵士を、イレギュラーズが咄嗟に制止した。
 それは砂駆とミーナで、彼ら共にボロボロの様相である。彼女らは、撤退を促す為に殿を申し出たのだ。
 どうにかやりきったミーナは掠れた声で力なく言葉にする。
「私の仕事は、きっちり果たしたぜ……」

成否

成功

MVP

松庭 黄瀬(p3p004236)
気まぐれドクター

状態異常

なし

あとがき

 稗田GMです。エピデミック対応、お疲れ様でした。一般人や医療団から死亡者は出たのは、悲しい事ですが。
 
 そして事件解決に伴い、医術や生物学に関わる知識を持った方々がイレギュラーズに強い関心を抱き始めた様です。
 それについては追々……。

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