PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>白銀殺界

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●バランカ・ボッシュという男
 その男を知る者がいるとすれば、死者か官吏のどちらかだ。
 そして官吏の半数は、報復の果てに死んでいる。
 更に言うなら……カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)が司法取引に近い形で彼を司法の場に引きずり出して以来、あらゆる場所で続発した「不可解な事件」には、絶えず彼の影があった。
 バランカに計算外があったとするなら、カティアらしき痕跡や手口を随所に盛り込み、その手を汚したと思わせることに躍起になっていたものの、現在のカティアを知るにつけ、周囲は犯人の候補から真っ先にカティアを除外していくという事実。
 その手口を調べるということは、翻ってカティアの過去、かつて起こしてきた罪と向き合うことでもある。カティアが望むと望まざるに関わらず、情報の波はその深層にある事実を浮き彫りにするのだ。
「……そろそろ休んだほうがいいんじゃないっスか? 深淵を覗く者はなんとやらっスよ」
「大丈夫。僕を巻き込みたくてやってたみたいだけど、正直あの男のことも、昔の僕のことも覚えてないんだよね。思い出せるとも思わないし……」
 今は少しでも情報がほしいから。そう言って、気遣う日向 葵(p3p000366)の言葉に首をふるカティア。今のところは、バランカの術の特性につながる犯行情報や足取りを追っているが、やはりあの戦闘のあとはなんの情報も残していない。おそらくは、「フレトニクス」と名乗ったアポロトスと影の領域に潜んでいるのだろう。
「精が出ますね。大変喜ばしいことではありますが、どうやら調べている余裕はもう無さそうです。残念ながら、私達のみならず、世界にとって」
 そんな二人に投げかけられた声は、『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)のものだった。調子の軽い冗談めいた口調は、世界の終わりを前にして鳴りを潜めている。
「世界の終わりを意味する『Case-D』の顕現先が、影の領域であることが観測されたそうです。通常であれば手をこまねいて見ているしかできない状況ですが、今回はあちらが先手を打って攻めてきたのが逆に功を奏しました。あちらから、『来てください』とばかりに扉を開けて待っているんですよ」
 パパスが言っているのは、各地に開かれたワームホールだろう。あれを辿って向かうことで、影の領域へと攻め込むことができる。畢竟、それは勝たなければ一方通行の死地であると同義。イレギュラーズ達をかき集めて十分な戦いができるかは、確定ではないが……。
「邪魔するぜ。世界が終わるだ終わらねえだの話してるってんで、居ても立ってもいられねえからこっちから来てやった」
「あー……兎の。ハイキングじゃないっスけど、大丈夫っスか?」
「ヴァイスって呼べ、兎だけじゃ可愛すぎてむず痒いんだよ」
 『白兎の長』ヴァイス=ブランデホト (p3n000300)は葵の反応に、短い両手をで前頭葉あたりを押さえて困ったような仕草を見せた。姿かたちも相まって可愛らしさしかない。
「そうじゃねえ、『白兎』の連中と、匿ってくれてた領地の同胞、その他合わせてざっと30。ヴィーザル周辺のワームホール前で突入に向けて、出てくる雑魚ども蹴散らしながら待ってんぜ」
 カチコミかけるんだろ、と顎をしゃくったヴァイスを見て、一同は顔を見合わせた。いくらなんでも、強引だ。だが、その強引さこそが今必要なのかもしれぬ、と。

●死地
「待ちくたびれたぜェ、雑魚共がよ。この吹雪がお前等の墓標になるんだ。最高だろ?」
「最低の気分だ」
 ワームホールを抜けた先に広がる暴風雪のなか、首を鳴らして深く息を吐いたのはフレトニクス。それに対し、短く嫌悪を返したのはイズマ・トーティス(p3p009471)だった。
 彼は屈辱的な、大凡イレギュラーズという「英雄的な戦いを求められる者」として最低の敗北をつい先ごろ、喫した。フレトニクスですら論うことを控える程度には、だ。
「凝りねえんだな。なら、死ぬまでは付き合ってやる」
 フレトニクスが忌々しげに返すのと、その影から静かにバランカが術式を放つのは同時だった。足元に突き刺さったそれは、狙おうとすれば致命打もかくやの威力を秘めている。
 そして、厳かな治癒術士、多数の軍勢があとに続く。バランカは話さない。『呼び声』を放つ分の権能を己の強化につぎ込んだが故に、発露せねば破裂しそうな程の魔力が渦巻いているからだ。
「殺してやるぞ、カティア。イレギュラーズ」
 彼はそれだけ言い残すと、溢れ出る魔力を発散させる、ただそれだけのために軍勢めがけて付与魔術を叩きつけた。呪いのような密度で。

GMコメント

 最後の戦いに余力とか余裕とか気の抜けた事を言うとみんな死にます。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●成功条件
 すべての敵勢力の殲滅

●敗北条件
 味方側の全滅(戦闘不能)
※友軍NPCの生死は不問とする

●アポロトス『フレトニクス』
 吹雪の名を冠するアポロトス。ヴィーザル地方に滞留した負の感情を糧に発生した。
 外見は兎をベースに、汎ゆる獣種の特徴をまぜこぜにしたキメラ然とした姿をしている。得物は大型のハルバード。
 滅びのアークを周囲にばら撒く特徴が有り、バランカと併せて『呼び声』を亢進させます。
 非常に動きが素早く、低空飛行を常時行う。また、複数の【不吉系列】BSや【麻痺系列】をガンガンばら撒き、行動阻害主体に立ち回っていく。
 実は前回戦闘時の影響で耳(兎耳)を欠損しており、索敵能力の低下と不意打ち耐性を失っている。その分、【復讐(大)】を常時有し、CTは前回同様に高い上、EXAもやや上がっている為、平均2回行動を覚悟する必要がある。

●『黒犬の兆し』バランカ・ボッシュ
 もと獣種の魔種。裏稼業を行う舞踏団『シルク・ド・リュス』を率いていた魔術師。『コンダクター』を名乗っていたが、最終的に囚われ断頭台送りにされかけている。カティアさんの因縁の相手であり、『原罪の呼び声』を発したが失敗。本人に耐性を持たれてしまった。
 『呼び声』を発するための魔種としての力を魔力に転換する技術を体得、大幅に火力と全体への支援性能が上昇した。
 前回戦闘では超射程への貫通魔術、近接爆発系、『契約術』による能力向上などを見せた。杖が破壊されたため命中精度をやや落としているが、その分【必中】【Mアタック(大)】を有する魔術を使用する、カティアさんとそれを庇う(バランカをブロックする)対象に特化した強力な術等、全体的にカティアさんへの殺意がより高まっている模様。

●不毀の軍勢・最治×5
 各々が最強であることを自負する不毀の軍勢にあって珍しく、「全体の強度とその維持」が自身の最強たる所以であると認識している治癒術師達。
 攻撃能力はなく、機動や治癒の精度、治癒力に特化した「最強」であり、また、命を捧げることで通常術式を超える回復を行うことが可能です。
 「命を捧げる術式」は死亡時にカウンターで放つことすら可能なため、防ぐためには【必殺】でとどめを刺す必要があります。

●不毀の軍勢×20
 今まで登場した軍勢と同様、それぞれが「最強」を名乗り、向かってくる。構成は「最硬」「最速」など。
 全体的にバランカのバフを受けており、イレギュラーズ中堅~程度の実力は十分にあるので、注意が必要です。

 友軍

●『ポテサラハーモニア』パパス・デ・エンサルーダ (p3n000172)
 最終決戦ということで出張ってきた真面目な方のパパス。前に出るときもあるNPCですが、今回は治癒を主体として立ち回ります。PCの中央値よりは確実に強いですが、NPCなので皆さんよりあっさり死にます。最終決戦なので精一杯惨たらしく死にます。敗北とはそういうことです。

●『白兎の長』ヴァイス=ブランデホト (p3n000300)+『白兎』部隊(+α)×30
 フレトニクスのせいで最近敵対などした獣種たち。今回は決死隊として編隊を組んで後方射撃を主体に動きます。
 いざって時はやっぱり肉盾になり真っ先に死にます。

●影の領域『白銀殺界』
 フレトニクスの性質を反映させた空間であり、勝利するか全滅するかでしか出られません。
 影の領域にありながら吹雪いており、命中精度にやや下方修正が入ります(ヴァイス達はヴィーザルの住民なので、影響を被りません。被ったら戦力にならないので)。
 また、寒さ自体は皆さんの体力を奪いませんが、耐えるために精神力(AP)を徐々に削っていきます。

●『パンドラ』の加護
 このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
 影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。

  • <終焉のクロニクル>白銀殺界Lv:39以上完了
  • 君の死を以て忘れよう。
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月09日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)
グレイガーデン
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方
柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす

サポートNPC一覧(2人)

パパス・デ・エンサルーダ(p3n000172)
ポテサラハーモニア
ヴァイス=ブランデホト(p3n000300)
白兎の長

リプレイ

●白く烟る殺意
「……バランカ。やっぱり僕はキミを思い出せなかったよ。でも、ここで終わりにすべきなのはわかった」
「思い出さなくてもそうでなくても、お前はもう邪魔だ、カティ。大人しく死ね」
「嫌だね」

 『グレイガーデン』カティア・ルーデ・サスティン(p3p005196)にとって、バランカ・ボッシュという男は知らぬ間に因縁を結んできた忌まわしき男だ。当人が覚えていない記憶を頼りに恨んでくる面倒な相手だ。カティアは思い出さないことを決意した。思い出せないことを糧に、かの魔種との悪縁を断つと誓った。バランカはといえば、どう足掻いても己の手元に来ない相手はどうでもいいと判断したらしい。今は死んでくれることだけを望んでいる。カティアの毅然とした返答に眩暈すら覚える。

「オレもそろそろ、フレトの野郎とはここで縁を切りたいところっス。勝った奴だけが出られる場所なら、お誂え向きっスね」
「余裕カマしやがって。なおのこと殺し甲斐が出てきたじゃねえか」
「フレトニクス。お前は少し熱くなりすぎだ。それで本当にヴィーザルの化身か?」
「当たり前だろうが、あそこに煮詰まった怨念の塊だぜ、俺は」

 他方、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はフレトニクスと名乗るアポロトスに一方的に因縁をつけられ、付け回されている状況だ。彼にとってアレは排除すべき相手でしかなく、因縁の相手だ、超えるべき壁だという認識はない。戦術が?み合い、決意を強く持ち、そして相手の裏さえかけば、仲間達と倒すことが必然ですらある敵だ。前回遅れをとった理由? 単純に敵意の密度が足りなかっただけの話。バランカですら閉口する殺意を前に、生半可な享楽で倒せる相手ではないのだ、アレは。

「最悪の気分だ。悪態のひとつも今すぐ喚き散らしたくなるくらいには。だが、勝たなきゃ出られないなら勝つしかない。こんなところで死ぬのは御免だ」
「『正義の味方』として、誰のお墓も立てさせないよ。世界を滅ぼそうとする相手だって、絶対に負けない!」
「――だそうですよ。ヴァイス、『白兎』各位、命を捨てようなんて思わないでくださいね」
「幻想種の嬢ちゃんがそれ言うかよ。精々俺達を死なせないようにフォロー頼むぜ」
「全員、無理をし過ぎないようにして頂戴ね。誰かが欠けたままに乾杯なんて、私は嫌ですわよ」

 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、他のイレギュラーズに勝るとも劣らぬ程度には優秀な存在だ。噛み合わせの悪さ、状況の意外性に足を掬われはすれど、それが彼の実力を全否定する要素にはなり得ない。雪辱を果たしてきた。今回だって変わりなく。『正義の味方』皿倉 咲良(p3p009816)は仲間達――憎まれ口を叩きあうパパスやヴァイス、彼等を叱咤する『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)らの姦しい様子をちらりと見て、改めて誰も失いたくないと強く心に刻んだ。最後なのだから、目一杯。自分のすべてを出し切って勝つ。

「吹雪……か。鉄帝での戦いを思い出すね。鉄帝の怨念相手なんだから当然なんだろうけど……」
「怨念が相手、ですか。そしてカティアさんの過去を知る方も敵……只管に過去に追いかけられてばかりですね。未来を切り拓くのにこれ以上ない相手です」
「もう誰も死なせない、殺させない。そのための癒しの力! ですから――全力で、暴れてきてください! 必要な支援は、最後まで届けてみせますから!」
「ここまで言われちゃ、怖気づいてられないっスね。怖いなんて思ったことないけど、フレトとか」
「昔話に花を咲かせるほど、僕達は仲が良くなかったに違いない。だからバランカ、ここでお別れだ」

 フレトニクスの生み出した白銀の地平は、『少女融解』結月 沙耶(p3p009126)にあの戦乱を想起させた。あのときの残り香が立ちはだかり、他人の過去が手招きをする。『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が言うとおり、くだらない過去が此方を見ているだけなのだ。そんな相手を長々としていられるほど、彼女らは暇人ではない。敵方にも癒し手、こちらにも同程度以上のそれ。『灯したい、火を』柊木 涼花(p3p010038)が最後のひと押しをすべく、声を張って拳を突き上げる姿は、葵とカティアが憎まれ口を一言増やす程度には効果があったといえるだろう。いつ死が迫ってもおかしくない状況で、しかし彼等は負ける気がしなかった。
 瑠璃、カティア、イズマ、咲良の四人は躊躇せずその姿をパンドラの加護によって変化させ、前進する。此処から先は、適者生存の未来。強者でも弱者でもなく、戦況に適応した者が生き残る戦場なのだ。


「敵は堅牢な上に速い連中もいる! 遅れをとるのを恐れず、密集陣形からの集中攻撃、各個撃破だ!」
「地味だが悪くねえ、小僧、その『眼』ェ頼っていいんだな?」
「……当然だ!」

 イズマの淀みない指揮は、先手を打って『白兎』に襲いかかった『最速』を彼等自身の手で葬らせた。その速度と初手の殺意は恐ろしかったが、急ぎすぎたがゆえの浅さ、甘さがあった。それに付け入る形をとったのだ。その一手で死者がでないと察知していたがゆえの冷静さ。ヴァイスはイズマに流し目を送り、不敵に笑ってみせた。それを見て笑みを深めたのはヴァレーリヤだ。

「調子に乗ってますわね、ヴァイス」
「悪いかよ」
「その調子で、次は癒し手を潰しますわよ! ついてこれまして?」
「数は少ねえが、互いに癒やされたら厄介だ。中途半端じゃ死なねえぞアイツ等!」
「わからいでか!」

 ヴァレーリヤの挑発を聞き流し、ヴァイスはライフルを『最治』へと照準する。駆けていくヴァレーリヤの背後から飛来したボールが最治の手元を狂わせると、すかさずメイスによる打撃がクリーンヒットした。葵の的確なフォローである。それでも倒れまいと足を踏ん張ったのは見事だったが、イズマが攻めに転じた時点でその命運は尽きかけていたのだ。

「あの程度で崩されるとは、自我も奪っておけばよかったか……?」
「おや、今更ですか? 聴衆の反応を見て指揮棒の振り方も変えられないのは、振り子と変わらないですね」
「挑発のつもりなら、相手を考えたほうがいい。死に急ぐなら話くらいは聞いてやる」

 軍勢の不甲斐なさに表情を曇らせたバランカは、しかし差し込まれるように挑発してきた瑠璃の、無謀とも取れる挑戦に苛立ち混じりに体を向けた。術式を交えた挑発であることは自明だが、さりとて無視して放って置くには強敵であることは彼にもわかる。どころか、その背後に立って存在感を見せつけるカティアの姿には腹が立つ。新しい仲間、新しい縁を見せつけてくれる。寧ろそちらのほうがバランカを苛立たせたのは冗談ともいえないだろうか?

「殺すつもりできてるなら、殺されても文句はいえないよね?」
「死ぬまで相手をするっていうことは、まあそういうことだろうな。『どちらが』とはいってないんだ」
「アマ二匹でイキがってんなら、その思い上がりごとヘシ折ってもいいんだよな?」

 部下達と、戦場についてきた魔種の体たらくを視界に収めたフレトニクスが苛立っていないわけがない。己の実力を満天下に示し、愚かにも挑んできた咲良と沙耶を押し潰そうと振り上げたハルバードは、確かな威力で両者を襲う。不調を伴う破壊、失敗を誘う呪い。無骨な攻勢の割には嫌らしい手数の多さは、確かに彼女ら二人が立ちはだかっても厄介な敵ではあった。だが、二人だとは誰も言っていない。涼花は声を発さずに必死に音楽を奏で、治療の術式に乗せて二人を癒やす。パパスは戦場を駆け回りながら、バランカやフレトニクスと対峙する者達に補助術式をかけていく。あれは殺そうと思えば殺せようが、咲良達を放ってまで殺す価値はない。厄介な連中だ、とフレトニクスは歯噛みした。吼えた。
 だが悲しいかな、この吹雪の戦場ではその声の響きはあまりに薄い――イレギュラーズの、声を張らずして通じ合う絆に反してあまりにも!


「何故……ッ! 何故だ、立て、貴様等の覚悟はそんなものか!」
「我等の力が及ばぬなど信じぬぞ!」
「哀れっスね。アンタ達がいくら優秀でも、一瞬で治せても、限度ってもんがあるっスよ。死ぬべき奴は死ぬべき理由がちゃんとあるってことっス」
「お得意の回復も、回復させる相手が先に倒されてしまったら意味ないよね?」

 『最治』を名乗る軍勢も、状況が明らかに不利になりつつある現状に思わず息を呑む。中盤まではなるほど、彼等の立ち回りに褒める点があったのだろう。だが、決死の覚悟を決めてきたのはイレギュラーズとて同じこと。相違があるとすれば、軽々に命を捨てる気はさらさら無いという『生きる覚悟』が混在しているということだ。
 罵り声に対し、葵や沙耶の挑発混じりの一撃が飛んできたことでいよいよもって己の不利を理解するが、嗚呼悲しいかな、彼等の心はバランカとフレトニクス、ふたつの命が燃えている限りは折れることを許されない。たとえ風前の灯火であっても。

「恥ずかしげもなく”指揮者(コンダクター)”などと。道化の仕事ではありませんよ?」
「高尚な悲劇(おと)を楽しめぬ愚図など滅するに値する。自ら逃げて、今もなお逃げ続ける裏切り者など、最早傍に置く価値すらない。俺の思い違いは、カティがそんな当たり前も分からないほどに衰えていたことだったが――それが挑発になると思ってるなら、同類相憐れむというやつか」
「勘違いしないでよ。キミがいつまでも時代遅れなだけじゃないか」
「能くも吐かす」

 瑠璃の挑発は繰り返しバランカの耳朶を打ち、相応の足止めに成功していた。それは間違いない。が、繰り返し吐き出される嘲弄は次第に耳に慣れるものだ。感情を揺さぶる技術と並行していたとしても、一端の魔術師であるバランカ相手ならなおのこと。そんな彼女を支えるためにカティアが現れたのは業腹であったが都合が良かった。殺せるなら誰と一緒でも構うものか。だが、カティアに意識を集中していたからこそ、背後から襲いかかったイズマの技が直撃する。涼しい顔をぴくりとも歪めなかったバランカは、続けざまに準備された術式を理解し、真逆の術式の詠唱を始めた。
 善なる者が悪徳を貫く槍を携えた(パラダイスロスト)なら。
 終焉なる闇と冬を司る刃(ベルノボーグ・クネーツ)があっても何ら可笑しくはない。両者の間に、漆黒と白光が入り交じる。

「クソボケが! 最初ッから使えよそういうモンは!」
「……ってことは、もうそっちには奥の手らしい奥の手はない感じかな?」
「あァ? 奇を衒ったモンでドヤ顔する連中と一緒にするんじゃねえよ!」

 その輝きを横目に、咲良とフレトニクスが正面から打ち合う。様々な不調を押し付けて押し切ろうとする彼の攻撃は成る程、咲良にとっては厄介だった。見る間に削られていく体力は首筋に常に刃を当てられているのと同じこと。しかし、治癒術師の充実がその不安を遠ざけた。涼花は無駄口ひとつ吐かず一心不乱に音楽を奏で、治癒と支援を勤め上げた。全体を見て『白兎』を統率するヴァイスは決定的な一瞬だけはさせぬとばかりに妨害に入る。相手の首筋は遠いが、されど倒される窮地ではない。いよいよ苛立ちを強めるフレトニクスの殺気が膨れ上がり、吹雪の勢いが弥増した。

「それは――」
「――いいことを聞いたっスね」

 フレトニクスは自身に大いなる自信があった。イレギュラーズの一人ふたりを排除できない自分に苛立っていた。あと一歩がなかなかに遠いと、認めるべきかと錯覚した。
 その慢心が感覚を鈍らせた。背後から突き刺さった都合三度の強撃は、さしものフレトニクスですら治癒を強制すべく吠えるほどの威力だったのだ。

「その耳、随分と聞こえ難いみたいですわねえ?」
「手ン前ェ」
「頭に血が上ったっスね。大丈夫っスよ。そのまま降りてこねえだろうから」
「あ、?」

 葵とヴァレーリヤの攻撃を受けてフレトニクスは怒髪天を衝いた。必ず殺すと感情を高めた。だが、頭部へと昇りきった血は降りることを許されなかった。沙耶の一撃が、寒気を覚えるほどに――命を盗み取るかのようにきれいにその首を落としたから。

「この吹雪が君達の墓標になるんだ。最高でしょ?」

 嘲るでもない、当然のことをしたかのようにふるった刃は、凍った血を撒き散らして一滴も残さず。
 やがて、白と黒の爆光も次第にその光を収めていく。
 残されたのは、哀れにもその末路を悟った数体の軍勢、その魂の抜け殻であった。

「皆さん、無事ですか!?」
「誰も死んでないよね?」
「――だってよ、返事ィ!」
「「「イエス・マム!!」」」

 戦場から吹雪が消え、互いの顔がはっきりと見え始めた。思わず声を張り上げた涼花と咲良に対し、一揃いの声が返ってくる。奇跡とも言える、『白兎』の全員生存を引っ提げて「だってよ」と無邪気な笑みを見せるヴァイスがいた。そんな後頭部を酒瓶で小突くヴァレーリヤがいた。おもわずそれを止めに入る沙耶とイズマがいた。
 皆、無事とは言い難い。
 だが、誰一人欠けること無くこの死地を、因縁を乗り切ったのだ。

「さよならバランカ、僕の知らない『僕』を知るキミ……僕は生きるみたいだから」

 だからこそ世界は終わらせまい。記憶を失って始まった道のりは、まだ遠くに。

成否

成功

MVP

柊木 涼花(p3p010038)
絆音、戦場揺らす

状態異常

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)[重傷]
願いの星
結月 沙耶(p3p009126)[重傷]
少女融解

あとがき

 大変お待たせいたしました。
 ここまできれいに勝利に持っていかれるとは思いませんでした。どこかでほころびが……でないんだなあこれが……。

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