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シナリオ詳細

<終焉のクロニクル>最後のサンサーラ

完了

参加者 : 10 人

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オープニング

●神殺し
 赤い空が広がる荒野。
 空の赤さは夕日よりもなお邪悪な、朝焼けよりもなお絶望を映した色をしていた。
 そこに黒い太陽が浮かぶ様は、まさしくこの世の終わり――『終焉』を彩る景色として相応しいものだろう。
「ねえってば。僕はキミの手先になったつもりはないし、世界を滅ぼすとかも興味無いんだけど」
 赤と黒ばかりの大地で不満を口にするのは、『業を喰らう者』カーミル・アル・アーヒル。先日豊穣にて因縁の相手である『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)を襲ったが、仕留めきれずこの『終焉』の地に回収された少年だ。
 正確には、少年の器に押し込められた七翼の蛇神、そのひと欠片であるが。
「では、イレギュラーズに味方して我(ワタシ)に刃を向けるか?」
 カーミルの不満を背で聞いていた赤い孔雀羽が振り返る。少年を回収した本人であり、先立っては練達の発電施設【エン・ソフ】を襲撃した『千照万愛』スーリヤ・カトリだ。こちらもイレギュラーズや施設にいくらかの損害は与えたものの、計画自体はイレギュラーズに阻止されている。
「僕はアーマデルの『一翼』以外興味ない。キミが邪魔さえしないなら、世界でもなんでも好きに滅ぼしたらいい」
「イレギュラーズを殺すということは、神託の成就を助けるということ。結果として世界の滅びを助けることになる。望むと、望まずとだ」
 Case-D――滅びは間もなく形を持ってこの『終焉』に顕現する。イレギュラーズがこれを阻止しに来るとしても、彼らにとっては滅びのアークに満ちたこの土地そのものが毒のようなもの。自ら命を捨てに来るに等しい。
「……なんか、面白くない」
 そのような圧倒的有利にあって、カーミルは拗ねたように愚痴を溢す。
「『神託』? それって、こっちの意志は関係なく『運命』を決めてる神がいるってことでしょ。『一翼』以外はどうでもいいけど……そんな奴の掌で踊らされるのは、なんか嫌」
 それは、ともすれば終焉への離反とも聞こえる言葉だ。しかし、元々カーミルは同意してこちらへ来たわけではない。イレギュラーズに味方したいわけではないが、この状況自体も不本意なのだ。
 その言葉を、あろうことかスーリヤは。
「では、その神を殺してみるか」
 笑顔で肯定したのだ。
「我は世界の摂理を。摂理を強いる神を。我が日輪で灼(や)き滅ぼす。そのために世界の滅びが必要なのであれば、躊躇う理由はない」
 黒い太陽を見上げて語るスーリヤ。そこへ向けられるカーミルの視線は――冷めたものだった。
「結局世界滅ぼしてるなら、神託の通りじゃない」
「滅びは手段だ。神にとっては、己の神託さえ変わらなければいい。『そこに己も巻き込まれようと』な」
「それで死ぬのって、本当に『神』? 『神って思われてるだけの何か』だったりしないの?」
 訝しむカーミル。常にスーリヤの言葉を疑うのは、本能的に拭い去れないスーリヤへの抵抗感だけではない。今でこそ混沌肯定の影響下にあるが、彼自身も元の世界では『神』と呼ばれるひとつであったからだ。
「……『神と思われているだけの何か』、か。もし、そうであるなら――」
 カーミルを見下ろすスーリヤ。その顔面には、少し前には無かったはずの金色の罅が入っていた。

●七翼蛇と太陽器
 練達のワームホールが閉じられた今、イレギュラーズは幻想に残ったワームホールから『神託』の顕現する『終焉』の地を目指そうとしていた。
 豊穣でアーマデルのパンドラ収集器を狙ったカーミルと、そのカーミルを連れ去り、練達の【エン・ソフ】を襲ったスーリヤの行き先は知れない。しかし、スーリヤが明確にBad End 8のナイトハルトと繋がっているとなれば、この局面において彼らは『終焉』にいると見るのが自然だろう。
「カーミルは『免疫』の権能を持つ。抵抗力が非常に高いのだろう。実際、豊穣ではほとんど不調攻撃が効かなかった……その前提で作戦を組むべきだろうな」
「スーリヤの攻撃をくらった道雪殿からも話を聞いた。こっちはまさに『太陽』だな……体の外からも、内からも灼き尽くす『熱』を使うらしい」
 アーマデルと『終音』冬越 弾正(p3p007105)が、カーミルとスーリヤについて情報を提供する。カーミルについては豊穣では使われなかった『業喰らい』の能力が、スーリヤについては【エン・ソフ】で戦いを長引かせた味方への回復能力や、高い威力を誇る黒い太陽も無視できない力だろう。
 更に、スーリヤが残したのはそれだけではない。
「雨紅。行くのか」
 スーリヤと邂逅して後、不調が治らないままのイレギュラーズがいる。
 一人は『紅の想い』雨紅(p3p008287)。表向きは問題ないように振る舞えているが、弱いものながらスーリヤから『ウシャスの呪い』を受けている。目蓋を開けば世界の眩しさに目を焼かれ、満足に動けなくなるものだ。
「行かなくては、解けないようですから。私は大丈夫ですよ、ヤマ様。しかし……」
 雨紅が『夜摩王』ヤマ・ヴィヴァーン(p3n000350)と共に目を遣ったのは『万愛器』チャンドラ・カトリ(p3n000142)。豊穣の地でスーリヤから呪いを受けて以来、彼は体の内から太陽に灼かれるような苦しみに苛まれ続けているのだという。
 思考すら脳を灼く苦しみを捩じ伏せて、チャンドラは訴えた。
「我(わたし)には、わかるのです……これほどの、呪い(アイ)……共に、貴方様のカトリであれば、こそ……、ッ、この呪いは、世界……、……――ッ!!」
「それ以上はいい。もう話すな」
 全てを言えないまま悶絶し唸るチャンドラを制するヤマ。そうまでされても、彼はまだ何か言おうとヤマの服を握りしめていた。
「ヤマ様、以前に呪いを解(ほど)いた時に見た……あれは使えないのですか」
 雨紅が尋ねたのは、チャンドラがかつてヤマを呪った『ソーマの呪い』の解呪に用いた「感情の根源」を探る手段だ。第三者であっても呪いの元となった感情や記憶を探り、解呪の手がかりにできるものであったが――ヤマは首を横に振る。
「『ソーマの呪い』と共に、『再現性京都』の土台となっていた『再現性さんさあら』も解かれた。あの方法は……、…………」
 途中で黙り、ヤマは何かを考えるように視線を落とした。
「『再現性さんさあら』のことはわからないけど、スーリヤの呪いの原因が感情だというなら、手掛かりはあるんじゃないか?」
 そう切り出したのは、【エン・ソフ】でスーリヤと対峙した『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だ。あの時、スーリヤは度々ヤマへ向けて悲しそうな視線を送っていたのを覚えている。最後に「虚しくはないのか」と言い残したことも。
 そして、チャンドラが言いかけた『世界』という言葉。
「スーリヤにあるのは、悪意だけではないと思う。ヤマさんがしていることが、少なくともスーリヤには虚しく見えた。だから悲しい。そこまではわかる気もする。……だから世界を滅ぼすとなると、流石に話が飛躍してる気もするけどな」
「ヤマはんがしてること……感情(つみ)を見定める、言うてたやつ? それが世界と関係あるとか?」
 『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)が問うと、ヤマは落としていた視線を流してしばし迷った後、決断したように視線を上げた。
「少し長くなるが、初めから話そう。
 これは吾(わたし)の罪。吾が齎したものが、この世界をも滅ぼそうとしているのなら。
 ……それは最早、疑いようもなく『悪』だ」

●『神』なりし機構
 異世界『さんさあら』。
 あらゆる感情と執着が罪となる世界で、ヤマは最初の死者であった。
 ヤマは生前に全ての罪を清算したものの、その後の死者は皆未練を残していた。
 その感情を見定め、執着を裁き、次の生へ送り出す――死後のヤマが担ったのは、そのような役割だった。

 ヤマには、これを補佐する器(カトリ)が与えられた。最初に与えられたカトリが『日のカトリ』スーリヤだ。
 全ての感情と執着を清算していたために、裁くために必要な感情の理解もできなかったヤマを、『共感』できる程度に教えたのがスーリヤだった。
 しかし、スーリヤは『教えすぎた』。感情を理解し始めたために公平な裁きができなくなったため、スーリヤは世界から放逐された。その後に与えられたのが『月のカトリ』チャンドラだったのだ。
 チャンドラはヤマへ教えることはせず、従順であった。しかし、この『月のカトリ』は『知りすぎた』。
 この『ヤマ』という機構は、永遠には続けられない。幾億もの感情を見るということは、幾億もの呪いを受けるようなものだからだ。
 チャンドラはヤマを殺す呪いを注ぎ、自身と共に世界から放逐させようとした。しかし、一度目は世界から逃れられなかった。気の遠くなるほど主を殺し続け、ようやく辿り着いたのがこの混沌世界だったのだ。
 ヤマとカトリを失っても、あの世界には新たな『ヤマ』がいることであろう。その機構がなければ、あの世界(サンサーラ)は廻らないのだから。

「ナイトハルトは、神を強く憎んでいた。混沌肯定などという摂理を定めた神を。我も『摂理を定めるもの』には憎しみがある。怒りもある。それは遠からず、この世界に於いても友を滅ぼすものであろうから」
 終焉の地。
 地上に生じた黒き太陽へ向けて、スーリヤは語っていた。
「この世界で、混沌肯定を定めた『神』を見たものはいない。お前の言うように、『神』と思われているだけの機構、ということも有り得るだろう。
 ……それでも、だ」
 待って。待って。待ち続けた。
 途方もない時間を、混沌肯定によって失った力を取り戻しながら待ち続けて。
 この身が己が太陽に灼かれ始めた時は無為に朽ちる覚悟もしたが、運命は最後に辻褄を合わせてみせた。
「神託が待ち人を連れてきてくれた、って?」
 少年の声が太陽から返る。やがて黒き太陽が爆ぜると、蛇のように首をもたげた七本の鎖と共にカーミルが降り立った。
「君も似たようなものだろう、『七翼』よ。『新たに照らされた』心持ちはどうだ」
「勝手に教えられて、勝手に連れてこられて、勝手に付け足されて、最悪だよ。キミに感謝することなんて何もない」
「我は与えるのみの器(カトリ)だからな。感謝をされても受け取れない。良かったではないか。
 ……それに、そろそろ『来る』。我にはわかる」
 空の太陽が熱を増すと、陽炎のように景色が揺れて終焉獣が増える。荒野だった場所は、見る間に獣で満たされていった。
 あの太陽は、感情(のろい)そのものだ。人が抱くあらゆる感情に満ちた黒き太陽。それが照らす場所、その熱が届く場所であれば、どこからでも終焉獣は生まれる。
 獣は人と接すれば新たな感情を生み、新たな感情はまた獣を生む。人に命がある限り、この地から獣が消えることはない。

 我が友。我が夜(アイ)。
 ようやく、虚しい君の伽藍堂を満たせる時が来た。

●月の選択
「皆様に、お願いがあります……」
 ワームホールへ入る前、未だ苦痛に呻くチャンドラはイレギュラーズへ乞うた。
「このような、我では……、足手纏いになるでしょう。パンドラの加護が、あるとは言え……終焉の地は、我らを冒す毒には、ッ、違い、ありません……」
 それは承知の上で。荷物が増えると重々理解した上で、チャンドラは深く頭を下げた。
「どうか、我をお連れ頂けませんか。この目を、開けずとも……我は、一度アイしたものを、見失いません。あの『日のカトリ』を、決して……!」
 何より、どうしても行かねばならない理由がある、とチャンドラは拳を握った。
「許せない(いとおしい)、のですよ。世界へ向ける、そのアイが。それを、伝えねば……ッ」
 そこまで言って、姿勢を崩す。
 荒い息の底で、彼はこうも言った。
 何としてでも終焉へ向かいたいのは確かだが――それによって皆が敗北することも望まない、と。今回の敗北は、即ち世界の滅びを意味する。失敗が許されない戦いだ。
 そうなるくらいなら、ここへ捨て置いて欲しい、と。
「失敗は、許されないか。ならば、吾も全ての力を。……存在が消えない程度、とはなるが。皆の役には立てよう」
 お前が来るにせよ、来ないにせよ、後悔のないようにする。
 ヤマが冷たい手をチャンドラの頭に置くと、彼は跪いて俯いた。

GMコメント

旭吉です。
最終決戦、スーリヤ&カーミル戦になります。

●目標
 スーリヤとカーミルの撃破

●状況
 幻想のワームホールから向かった終焉の地、影の領域。
 雲ひとつない赤い空に黒い太陽があり、荒野を照らしています。この太陽はスーリヤのものです。
 視界は全体的に赤いです(景色に赤いフィルターがかかっているような状態)
 滅びのアークと黒い太陽から、終焉獣がほぼ無限に沸いてきます。
 スーリヤを除けばこの太陽は失われますが、カーミルも以前とは変化しているようです。
 二人を撃破し、元の世界へ帰還しましょう。

●『パンドラ』の加護
 このフィールドでは『イクリプス全身』の姿にキャラクターが変化することが可能です。
 影の領域内部に存在するだけでPC当人の『パンドラ』は消費されていきますが、敵に対抗するための非常に強力な力を得ることが可能です。

●敵情報
・カーミル・アル・アーヒル
 七翼の蛇神に完全に魂を喰われた暗殺者の少年。旅人。
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)と同郷であり、彼に宿る『一翼』へ強烈な執着を持つ。
(アーマデルさんが特定の称号スキルを装備した場合、他の【怒り】や挑発を全て無視してアーマデルさんだけを狙うようになります)
 複数の鎖分銅を自律行動させる他、対象が得た(装備によるものも含む)強化効果の数だけ攻撃力を増す『業喰らい』を使う。
 元から高かった特殊抵抗力も更に強化された模様。
 スーリヤのことは心底腹立つが一翼に比べたらどうでもいい。全く意見が合わないわけでもない。

・スーリヤ・ウシャス(スーリヤ・カトリ)
 『夜摩王』ヤマ・ヴィヴァーン(p3n000350)と『万愛器』チャンドラ・カトリ(p3n000142)と同郷の旅人。
 カーミル共々狂ってはおらず至って正気。自らの意思でナインハルトに与する。
 終焉獣を生み出す黒い太陽は常時発動。
 他にも太陽で照らすことで領域のBS・HPを回復したり、新たに生み出した太陽をぶつける高火力攻撃を行う。
 (この攻撃は【紅焔】【雷陣】【崩落】【必中】【ブレイク】を持ちます)
 また、この『最後』に備えて強力な力『ウシャス』を得ており、自身や終焉獣達が強化されているようです。
 肉体には徐々に金継ぎのような罅が入り始めているようで……?
 ・ウシャスの呪いの解呪
 命を蝕みはしませんが、自然に解けることはありません。
 呪いの根源となる感情はひとつではありませんが、一つ一つは単純な感情です。
 スーリヤがこの戦いに身を投じた感情。
 それが解けた時、呪いは元の感情となって解(ほど)けるでしょう。

●終焉獣×∞
 黒い太陽から生まれた、青白く半透明な『変容する獣』達。
 この太陽には感情が湛えられており、そこから様々な形状の獣が無限に沸いてきます。
 イレギュラーズが彼らを倒そう、と思うことすら新たな獣を生みます。一匹も増やさないことはほぼ不可能です。
 能力も全体的に強化されており、ブレス攻撃には【呪い】【呪殺】【炎獄】【Mアタック】が伴います。
 黒い太陽が失われると、終焉獣達の新規増援はなくなります。

●月の選択
・チャンドラを同行させるかどうか
 呪いの影響にある間、チャンドラははっきり言って足手纏いになります。
 彼がいなくとも、空の黒い太陽や終焉獣の方からイレギュラーズを探し当てるため、スーリヤ達を探すのに手間取るということはないでしょう。
 しかし、彼を同行させるのであればワームホームを抜けてすぐにスーリヤのいる方向がわかります。
 解呪後は回復手としてのお手伝いも可能でしょう。
 彼を同行させるかどうかは、皆様の判断に委ねます。

●NPC情報
 何かあればプレイングにて。
・チャンドラ
 強力な『ウシャスの呪い』を受けており、積極的な行動が難しい状態。
 呪いが解ければパンドラの加護による力の解放(イクリプス全身化)も可能です。

・ヤマ
 実は『『カトリ』を攻撃できない』という弱点があります。ヤマという機構へ与えられたものだからです。
 しかし、感情から生まれる終焉獣を退ける領域を張り続けることでサポートはしてくれます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <終焉のクロニクル>最後のサンサーラ完了
  • これがわたしのアイのかたち
  • GM名旭吉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年04月09日 22時30分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC1人)参加者一覧(10人)

冬越 弾正(p3p007105)
終音
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
雨紅(p3p008287)
愛星
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)
涙を知る泥人形
三國・誠司(p3p008563)
一般人
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)
青薔薇救護隊

サポートNPC一覧(2人)

チャンドラ・カトリ(p3n000142)
万愛器
ヤマ・ヴィヴァーン(p3n000350)
夜摩王

リプレイ


 ワームホール前にて、全ての因縁は語られた。
「……それがさんさあらの機構か。成程、スーリヤさんがナイトハルト側につくのも頷ける」
「おおきにね。ヤマはん。全部喋ってくれて」
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は頷き、『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)はここまで明かした『夜摩王』ヤマ・ヴィヴァーン(p3n000350)を労った。
「けど、いっこ訂正や。『吾(わたし)の罪』言うてたやつ。自分らが行くんは、自分らの意志で、選択や。誰かが、何かが悪いわけではないと思っとるよ」
「カーミルにしろスーリヤにしろ、俺は部外者だし好き勝手にしろとは思うけどな。エゴに巻き込まれたくないと思う程度のエゴは持ち合わせてるんでね」
 彩陽と共に主張したのは『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)。ここまで関わりがなかったという点では『一般人』三國・誠司(p3p008563)や『青薔薇救護隊』レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)も同じだが、二人もまた自らの意志でここにいるのだ。
 ――そして、彼らの前には選択が一つ。
 終焉の地へ向かおうとするイレギュラーズの視線の先には、跪き俯いたままの『万愛器』チャンドラ・カトリ(p3n000142)の姿があった。
「花を探そうと、言ってくださいましたよね」
 『月へと贈る草の音』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)がしゃがみ、痛むのかきつく閉じられた彼の目を見る。
「毒を扱うものと明かしても大丈夫だと言ってくださった事、今は感謝しているんですよチャンドラ様。あれから知る人は増えましたが、石を投げてくる人はいませんでした」
 ――その目では花を見れないじゃないですか。
 ジョシュアが伝えるのを待って、『涙を知る泥人形』マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)も胸を張る。
「願望と夢の境界線は曖昧で、覚めてしまえば泡沫の如く。……泥ならこの泥人形がいくらでも被ってやる。スーリヤと話させてやろうじゃないか」
「チャンドラさま。貴方のアイを成しに、参りましょう。わたしも、力になります……!」
「私も、あなたに悔いてほしくはありませんから」
 『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)と『ウシャスの呪い』雨紅(p3p008287)も、チャンドラに同行を求める。『終音』冬越 弾正(p3p007105)や『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)にも否やはなく、かくして彼はイレギュラーズの勇気と決意により同道することとなった。
「皆様の、アイに……感謝、を」
 目を閉じたまま頭を下げたチャンドラをイズマが深紅のドレイク『チャド』が牽く馬車へ導くと、自身も『チャド』へ跨がった。
「よし。それじゃあ――行こうか!」
 先の見えぬ『孔』へと飛び込むイレギュラーズ。雨紅も飛ぼうとした時、ふと声がかかった。
「何か、善いことがあったか」
 その目を呪われているはずの雨紅が微笑を浮かべ続けていることを、ヤマは訝しんだのだろう。
「善いことは、これから起こすのです。この呪いも、解けると信じていますから」
 雨紅には、苦しむ顔を見せて心配をかけたくない気持ちも無かったわけではない。しかし、何より。
「誰かを笑顔にするには、私が笑顔でなければ」
「……少し、理解できた」
 乏しい表情でもヤマが『理解』を示すと、雨紅も笑みを深めて『孔』へと向かった。


 赤い空に浮かぶ黒い太陽。チャンドラが指し示すスーリヤの居場所は、その太陽の下のようだった。
 歩くだけで場に満ちる滅びのアークが『可能性』を蝕んでいくのが感覚でわかる中、迷わずに一つの方向を目指せるのは幸いではあったものの。
「……いやー、すんごいね。無限沸きっぽいモンスターに、この後ボス級二名って?」
 終焉獣の群れへ御國式大筒をぶちこむ誠司。轟音と共に放たれた弾丸は軌道の通りに獣達を一時退けたが、別の獣達のブレスが襲いかかる。複数個体から放たれるため、範囲に隙がない。
「しかも倒すと思えば増えるらしいやん? 上等じゃい!」
 彩陽が気合いと共に星の弓を引きケイオスタイドを撃つ。未だ数は減らないが、僅かばかりブレスに穴が生まれた。
「ジョシュアはん、ヤマはんも先行って! こいつらここで食い止めたる!」
「わかりました。お気を付けて!」
 道を譲られたジョシュアも少し進むと聖なる弓を放ち、プラチナムインベルタで太陽への路を作る。ヤマも月光と共に王笏をひと振りすれば、終焉獣の動きが一時鈍った。
 一方で。
「道雪殿、チャンドラ殿の護衛を頼む!」
「あの爆走馬車を? 下手に近付いて牽き殺されるのはこっちだ」
 弾正が護衛を頼んだ辻峰 道雪が一瞥したのは、深紅のドレイクが牽く馬車。イズマのドレイク『チャド』が進路上にいる終焉獣を正面から蹴り飛ばすだけでなく、イズマ自身が放つパラダイスロストが更に広く速く群れを切り開いていた。
「だが、方向がわかっているなら『先回り』もできる。露払いは引き受けよう」
「……いい目をするようになったな、道雪殿は。生傷は絶えなくなってしまったが」
 背を向けて飛行種の翼を広げた彼に弾正がしみじみと呟くと、道雪は笑って振り返る。
「お陰様で、近頃の傷は痛くて仕方がない! 知っているか弾正。痛みとは、体に危険を知らせ休ませるための信号らしいぞ」
 そう言い残して飛び立っていった道雪の真意はよくわからない。なぜ、彼は『痛み』が『嬉しかった』のか?
「痛みを感じるということは、体が無理をさせないようにしているということ……死にたくなくなった、ということなのだろうか」
 終焉獣をジャミル・タクティールで退けたアーマデルが、憶測だが、と添えて弾正の傍らに戻る。
「そうだ、『冬夜の裔』。あんたはカーミルと相性が悪い、終焉獣の警戒に専念してくれないか」
『…………』
「『冬夜の裔』?」
 ワームホールを潜ってからここまでも終焉獣に対応してくれていた使役霊が、不自然に沈黙する。しかし、すぐに乾いた笑いを浮かべた。
『……それが妥当だろう。どうせ俺は、真正相手に足止めすら儘ならないからな』
 言葉だけは指示を聞いてくれたような返答だが、語気に不本意が滲み出ているのは何なのか。アーマデルが問う時間を与えず、『冬夜の裔』はすぐに終焉獣の対応へ去ってしまった。
「アンタ達はやることがあるんだろう? 立ち止まってる時間はないはずだ」
 体勢を立て直そうとしていた群れへ、カイトが『黒顎逆雨』の黒い雨を地面から浴びせる。動けなくなった個体やブレスを不発させる個体が増え、先へ進むにはまたとない機会だろう。
「私もご一緒いたします。回復ならお任せを……!」
「レイア殿、助かる。では行こう、弾正」
「ああ! 何も迷う事はない!」
 合流したレイアが加わり、アーマデルと弾正は仲間達が拓いた路が塞がる前に駆け出していった。

「すまない、かなり揺れる!」
 爆走を続ける『チャド』が牽くイズマの馬車の中では、呪いに苦しむチャンドラを雪花の女神の姿となったメイメイが支えていた。
「もう少し、ですから、ね」
 囁くように励まして、ふと馬車の後方を見る。足の速い四足の終焉獣達が追い縋ってきていた。
「させま、せん……!」
 神翼の加護でミニペリオンの群れを飛ばすも、一度の攻撃では敵も引かない。
「ここは任せろ!」
 二人と同乗していた馬車から飛び出すと、着地と共に炎を振り撒くマッダラー。覚悟のブレイズハート・ヒートソウルだ。
 引き寄せられる獣達が直接牙を剥くのを、マッダラーを取り巻く炎が焼いていく。
(これが全て、感情を糧に……あの太陽から生まれたもの、か)
 来た時よりは近い位置に見える黒い太陽が視界に入る。少し前の自分であれば、泥人形に感情などないと宣ったことだろう。
 ――涙を。嘆きと愛を。葛藤と慈しみを。衝き動かされる激情と、どうしようもない理不尽を知った。違えたくない約束と、縁ができた。
(そのために、俺はここにいる。俺は、感情を知っているからこそ……!)
 ――炎よ。辺獄の浄焔となれ。

 そして、太陽に至る。
 黒き太陽は、あくまでこの土地の高い場所に浮かんでいるに過ぎない。ゆえに、その太陽の『真下』へ到着できた。
「来ましたよ。スーリヤ」
 メイメイに支えられたチャンドラと共に馬車を降りた雨紅が、舞槍を手に見据える。
 焼けつくように目映い視界。その中で確かに見える、暗殺者の少年と赤孔雀のカトリ。
 『業を喰らう者』カーミル・アル・アーヒルと、『千照万愛』スーリヤ・カトリ――力を得てスーリヤ・ウシャスとなった二人を。


「遅かったな。滅びを受け入れたのかと思ったぞ」
「これでも全速で来たんだけどな。世界もそうだけど、貴方の呪いを解(ほど)きたかったから」
 『チャド』の背からは降りないまま、しかしすぐに戦う様子の無さそうなスーリヤへイズマは尋ねた。
「神を憎んで世界を滅ぼす、か。俺の考え方は逆だな。神の意志とは、混沌が滅ぶという神託の方ではないか?」
「神託は変えられない。滅びは変わらぬ。だが、神託にない『些事』は変えられる……世界の滅びに巻き込まれる『神自身の滅び』など、『些事』だろう?」
「その滅びによって、あなたは何をしたいのですか」
 マッダラーと共に遅れて駆けつけたジョシュアが問う。
「チャンドラ様は感情からヤマ様を守ろうとしましたが、あなたは? 友だと想うなら、ヤマ様を逃れられない宿命から助けたいと?」
 それを聞いたスーリヤは、悲しげに視線を伏せながら溜息をついた。
「……我が夜は未だ、悲しみを知らない。絶望も、怒りも知らない。故に、己が身を嘆くことを知らない。ただ最初に死んだというだけで、これを是とされる……その虚しさがわかるか」
「虚ろな人形のようですね」
 口を開いたのは雨紅だ。
 心なき兵器でしかなかった雨紅には、心を得るに至った出会いの数々があった。泣きたいものも、それでも泣けない辛さもあったが、それらを知ることすらできないのはもっと悲しいだろう。スーリヤの嘆きも理解できないではないのだ。
「……ですが。『今』のヤマ様の心も伽藍堂だと思うなら、私はやはりあなたを止めねばなりません。私は日蝕起こす星となりましょう」
 『少し理解できた』と、動かない表情で確かに言ってくれた。かの人が虚であるとはもう言わせない。
「ここは『さんさあら』じゃない。感情の発露は罪ではないし、ヤマさんに役割を強いる世界でもない。呪わずに話し合うことだってできるだろう?」
 イズマが会話を提案すると、促されるようにスーリヤの視線はチャンドラへ向けられた。
「……月のカトリよ。ここが『さんさあら』でなくとも、『再現性京都』は夜をどう扱った?」
 問われたチャンドラはきつく目を閉じたままであったが、絞り出すように答える。
「……守り神のように、扱われ……そのように、在ることを……努められ……我(わたし)の忠告も、聞かれず……本当に、どうしようもない、御方……、ですが……」
 ふいにチャンドラの口許が笑んで、その目が僅かに開くとスーリヤを見る。金と銀の視線が交わったほんの一瞬、言葉はなかったが彼は何かを伝えたのだ。
 そして、それが決定打となった。
「……やはり、君とは相容れない。君のアイでは夜は救えない」
 話は決裂したとばかりに、スーリヤの元へ熱が収束を始める。呼応するように終焉獣が集まり始めるのを、すぐさま消し飛ばした攻撃があった。
「神様ってのが本当にいるのかは、わからねえけど。いるなら、願いの一つくらい聞いてもらいたいもんだな」
 煙が立ち上る大筒を抱えた誠司。トリモチ弾を浴びた獣の内、形がまともに残っているものは満足に動けなくなっていた。
 そうでないものは。
「誠司はん、願い事とかあるん?」
「どっちだっていい。俺は『受け取ってもらう』までだ」
 彩陽のアンジュ・デシュの連擊と、カイトの『黒顎逆雨』。二つの制圧攻撃が、獣達に深刻なダメージを与えていた。回復不能なほどに消し飛んでしまったものもいる。
「この場で叶えてほしい願いはあるよ。人間同士の決戦に手出すなってな!」
「いつもどこでも勝手だよ、人間って」
 誠司の『願い』を『勝手』と吐き捨てたのは、かつて『神』であった少年カーミル――その形をした七翼の蛇だ。
「勝手に神のせいにして、願って。挙句の果てに殺したりさ。……どうでもいいけど、アーマデルはどこ。僕の一翼を隠さないで」
「ここにいるぞ七翼!」
 高らかに告げる弾正へカーミルが振り向くと、弾正は彼の目の前でアーマデルを抱き寄せ口付けて見せた。
「……弾正」
「アーマデルは俺のものだ。見ての通りな!」
 弾正の可能性(パンドラ)が燃え上がり、彼の赤い光が温度を上げて青く変わる。それを見て、アーマデルも静かに目を閉じた。
「そうだな。共に往こう、弾正」
 黒く短いアーマデルの髪は、弾正と揃いの白銀の長髪へと変化する。
「カーミル。スーリヤ。あなた方の願いを叶えさせるわけにはいきません。それが私達の願いです!」
 彼らだけでなく、レイアを含めたイレギュラーズの多くがその姿を変えていく。ヤマの足元にも、大きな月の紋章が刻まれていた。
「誰も悪くないと、彩陽は言った。これは己の意志だと。誰かが笑うには、自分が笑わねばならないと雨紅は言った」
 王笏が振るわれると紋章は範囲を広げ、冷たい月光で満たしていく。
「吾も、吾の意志で。彼らと、この世界を守りたい」
「君がそのようにアイを得てくれたこと。喜ばしいと共に……やはり虚しいぞ、友よ」
 スーリヤの黒き太陽が熱を増し、カーミルの鎖が鎌首をもたげる。
 終焉獣が、怨嗟の咆哮をあげた。


 終焉獣を退かせる月光の領域が保たれるのは一瞬だ。
 獣は再び侵攻を始め、更にはカーミルによる猛攻もアーマデルを襲うようになる。
「鎖も勝手に動くのか……そっちのトリモチ弾とやらはどうだ」
「獣のほうがまだ効く。鎖は本体と同じでほとんどだめだ」
 カイトの黒い逆雨が沸き、誠司の弾丸が群れごとカーミルを巻き込んで貫く。しかし、カーミルが標的を変えることはない。
「逃げないでよ!」
 七本の鎖が、あらゆる方向から絶えずアーマデルを苦しめた。アーマデル自身もパンドラを消費して強化しているとは言え、一人では到底勝てる相手ではなかっただろう。
(だが、一人じゃない)
 獣を押さえてくれているカイトや誠司、『冬夜の裔』がいる。
「私にはこれしかできませんが……私がいる限りは、誰も死なせません!」
 気力も傷も、懸命に癒し続けるレイアがいる。
「俺を差し置いて、アーマデルを狙えると思うなよ……!」
 アーマデルを狙おうとした鎖を複数巻き取り、ダーティピンポイントで弾き返した弾正がいる。
(大丈夫だ。……いける)
 アーマデルが彼へ通せるのは純粋な火力のみ。全力で踏み込むと、カーミルの直線上へ躍り出た。
「お前をもう避けない。この場で、終わりにする」
「ああ……! 今度こそキミを食べてあげる!!」

 *

 スーリヤとの戦いにおいては、彩陽が率先して獣を退けていた。彼の攻撃は獣の手足をよく止めたが、戦いに熱が入れば入るほど数も増えてくる。
「ほん、ま……冗談やないで……!!」
 纏うは悪霊のごとき瘴気。その瘴気がケイオスタイドとなって獣を押し返すも、すぐに新手が湧いてくる。
「チャンドラは任せた。俺は俺の役目を全うする!」
「必ず、お守りします、から……!」
 チャンドラの身をヤマに預けると、壁となるマッダラーの背からメイメイもミニペリオンを飛ばし続ける。その更に後ろから、鋭く放たれた矢が終焉獣を越えてスーリヤへ飛んだ。
「その罅。あなたの太陽は、あなた自身をも焼いているのですよね」
 ジョシュア自身の毒を含ませた矢がスーリヤを蝕む。彼の言う通り、スーリヤの肌には至るところに金の罅が増えていた。
「その熱があなたの力なら、僕の毒は熱冷ましにはいいでしょう」
「熱冷ましも、立ち処に消える氷の礫ではな」
 太陽の熱が上がると、矢が燃えると共に獣が回復し、更に増える。同時に、スーリヤに刻まれた罅も広がった。
「その罅が開ききった時、何があるのですか。あなたは命を終えるのではないですか」
 雨紅が舞槍を振るう。呪いによって動けなくなる危険を孕んでいるとは思えない鋭さで繰り出されたそれを、スーリヤが掴んだ。
「ウシャスとは曙の力。夜と朝の境にあって、夜明けの度に滅ぶもの……千照の輝きと共に、闇夜は終わる」
 掴まれた場所から燃えるような熱が伝わるのはわかるのに、灼けつく呪いが雨紅の足を縫い止めてしまう。動けない足の代わりに見たスーリヤの目は、どこか優しさのようなものを感じた。
「動かないで雨紅さん!」
 その時、イズマの響奏撃が鋭くスーリヤを穿った。雨紅の槍を掴んでいたことで回避も間に合わず、音の矢は深く刺さりスーリヤを後退させた。
「貴方はヤマさんに、人間的な幸せを教えたいんじゃないのか? 貴方もチャンドラさんも感情の価値を知ってるし、ヤマさんがストイックすぎて困る程度には、二人ともヤマさんを大切に想ってるように見えるよ」
「……それを、世界が許さない。世界に命がある限り、夜は夜摩(ヤマ)で在り続ける」
 ――だから、世界ごと滅ぼさなければ。
 呟くスーリヤの周囲で熱が急激に上がっていく。それは、これまでにない上がりようだった。


 空気までが燃えるような熱を帯びる中で、獣は更に数を増す。群れを抑えていたカイト達はいよいよ手を離せなくなっており、レイアが辛うじて保護結界で維持していた後方の安全地帯にすら戻れなくなっていた。
(私から出向けたらいいのですが……)
 歯噛みするレイア。自分が倒れれば回復役の一角が崩れてしまう。今は、彼らが持ち堪えてくれることを祈るしか。
 そしてせめて、できる範囲には――。

「チッ……スーリヤの能力か」
「息するだけで肺が焼けそうなんだが……いよいよ太陽でも落とすんじゃねえか?」
 誠司が状況を確認すると、カーミルとアーマデルの撃ち合いはまだ続いていた。戦いが長引いて更に温度が上がれば、物量と高温で押し負けるのはこちらだ。
「作戦変更だ。こっからは一気に攻める!」
「ならこっちは引き受ける!」
 誠司が切り替えると、カイトも応じる。増え続ける獣へカイトが不運の逆雨と呪殺の星雨で畳み掛け、戦いへの介入を許さない。
 その一方で。
「ずるいよねキミは。皆キミばっかり助ける」
「何のことだ」
「医神も夜告鳥も、英霊達も、他の蛇も皆嫌い。でも、食べちゃえば関係ないよね?」
 弾正やアーマデルだけでなく、誠司やカイトの攻撃にも巻き込まれ続け、カーミルの白い肌には傷が増えている。
 アーマデルにはカーミルの話がいよいよわからないが、魂に刻まれた加護が強い拒絶を覚えていた。
「アーマデルを助けるのは当たり前だ。俺はアーマデルの旦那様だからな!!」
 弾正がアーリーデイズで強化したフォースオブウィルを打ち付ける。睨み返したカーミルが、一度だけ弾正へ視線を向けた。
 その、一度。僅かに注意がぶれた一瞬に、誠司の破式魔砲が蹂躙する。
「……そうだな。ずるいかもしれない」
 呟いたアーマデルは、間を置かずL.F.V.B――空蝉の技の後に距離を取って。
「一人で生きなくていい、と知ったから」
 全力を込めたソニック・インベイジョンで、カーミルを弾き飛ばした。地を転がるカーミルが起き上がる様子はない。
「こっちは何とかなったか。スーリヤはどうなって――――」
 カイトが視線を向けた、その先では。

「世界に命がある限り……? チャンドラ様も、以前に似たようなことを言われていましたよね。ヤマ様が毒で死ぬ前に殺すしかないと」
 繰り返される問答と熱の中で、ジョシュアは以前にあったチャンドラの呪いを思い出す。方法こそ違うが、あれもヤマの解放を願ったものだったなら――スーリヤの『ウシャスの呪い』とは即ち。
「チャンドラ様は、アイせるモノが欲しかった。ヤマ様に心を抱いて欲しかったあなたは、アイを抱くモノを欲したのでしょうか。滅びの中、その命を懸けて……あなたの怒りと、愛で」
 雨紅が、その呪いを感情へと解(ほど)いてみる。すると、雨紅の視界に色彩が戻り、強く呪われていたチャンドラも体勢を立て直すなり全力を出すための黒い蔓を纏っていた。
 解呪は成ったのだ。
「『ソーマの呪い』を知るのであれば、容易い呪いだったか。だが、『ウシャスの呪い』が解けたとて滅びは来る。いま一歩、間に合わなかったな」
 膨張を続けた太陽は、あとは成長するままに命を呑み込むだけ――

「そうはさせん!」
 太陽へ向かい、肉体で直接押し留めるマッダラー。膨張した太陽は熱だけでなく質量でもマッダラーを苦しめるが、その膝を折らせはしない。
「蝋の翼なら溶けるだろうが、生憎俺は泥人形だ! アイに応えない怯えた感情で、燃やし尽くせると思うな……!!」
「約束、してんねん」
 彩陽の纏う瘴気が濃度を増す。もはや本人の姿が見えないほどの瘴気は、彩陽の可能性の形だ。
「絶対生きて帰るって、約束やねん。誰もやらせへんよ……俺自身も含めて!!」
 命の可能性と引き換えとされるPandora Party Project。それを、自身を含めた生還のために使う矛盾。しかし、だからこそ奇跡を願うのだ。自身の命も含めて助けることは、含めないことよりも難しいのだから。
 彩陽が星の矢で狙うのは、灼熱地獄を齎す黒き太陽の正中――!

 ――日輪は一射の元に砕け散り、灼熱地獄の責めは消える。

 後に残ったのは、勢いを失った終焉獣と。
「……口惜しい、な」
 体のほとんどが罅割れ、顔も半分朽ちたスーリヤだった。
 戦闘力は残っていないように見えるが、最期に自爆へ巻き込まないとも限らない。その限界を見留めた上で、イズマはスーリヤへ歩み寄る。
「スーリヤさん。俺は『器としての貴方』を残したい。この世界でなら両方あってもいいと、俺は思う」
「……ハ。千照の日輪を内包する器など、人の手には余ろうよ」
 罅割れは加速度的に進む。罅から漏れた黄金が木漏れ日のように霧散していく中で、イズマの元に紅玉が転がり落ちた。
「……スーリヤ殿」
 アーマデルが尋ねる声に、閉じかけたスーリヤの目が開く。
「俺がカーミルに長く気付かなかったのは、『無関心』だったからだろう。スーリヤ殿がカーミルに気付いたのは、強い執着……アイを抱くモノだったからか?」
「……否定はしないとも」
「ヒトが皆互いに無関心なら、世界も変わらない。平和なのだろうが、進歩もない……そうだろう、スーリヤ殿」
「それはもはや、『無』に近しい世界だ。およそ生きるものの住む世界ではなかろうよ」
 だから、世界に命がある限りは感情が満ちる。感情がある限りは、どうあっても夜摩は手を差し伸べる。
 世界の強制でなくとも、アイを得た当人の意志によって。
「スーリヤ」
「未練、だな。友として、君を夜摩から解き放てそうにない」
「そういう御方だと存じているではないですか。我らカトリは」
 夜摩と、日の器と、月の器。
 燃え尽きる寸前に、三つはアイを交わした。

 滅びの闇夜が明けて、朝が来る。
 新しい、未来の一日が。

成否

成功

MVP

火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

状態異常

冬越 弾正(p3p007105)[重傷]
終音
カイト(p3p007128)[重傷]
雨夜の映し身
雨紅(p3p008287)[重傷]
愛星
マッダラー=マッド=マッダラー(p3p008376)[重傷]
涙を知る泥人形
三國・誠司(p3p008563)[重傷]
一般人
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)[重傷]
灰想繰切
火野・彩陽(p3p010663)[重傷]
晶竜封殺
レイア・マルガレーテ・シビック(p3p010786)[重傷]
青薔薇救護隊

あとがき

お届けが遅れまして申し訳ございません。
カーミル、スーリヤ、共に撃破となりました。
皆様の勝利です。
名声付与先は練達のヤマ達への協力ということで、練達となっております。

落ちた紅玉はスーリヤが消えても残っていますが、それ自体に力はないただの紅玉です。
金の罅が入った美しい宝石でしょう。
使うも捨て置くも、預けるも、あなたの随意に。

感情とは。善悪とは。生きるとは。
彼らと皆様の物語を通じて、たくさん考えさせられました。
夜明けの後に日は巡り、日没の後には月夜が巡る。
皆様のこれからに、絶えずアイがありますように。
称号は皆様に。
ご参加ありがとうございました。

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