シナリオ詳細
    <漆黒のAspire>練達の夢
  
オープニング
●
 世界に滅びが満ちていく。
 広がりうるバグ・ホール。全てを瓦解させんとする終焉獣の群れ。
 今はまだ各地で『大混乱』といった程度で済んでいるが。
 それでも人々は感じているだろう。
 生命の本能として。今までとは桁違いの終焉が襲来していると……
 ――この世界は理不尽だ。
 『始原の旅人』を名乗るナイトハルト・セフィロト。
 彼は世界を滅びに導かんとする……通称『Bad End 8』が一角でもある。
 しかし彼は魔種ではない。
 その名の通り『旅人』だ。
 つまりはイレギュラーズ。滅びの因子を宿していないBad End 8。
 ――だが。彼は終焉の側に属している。
 魔女ファルカウ然り。全剣王ドゥマ然り。
 ステラ然り、ヴェラムデリクト然り、オーグローブ然り、ホムラミヤ然り――
 なんらかの悪逆をその身に宿しているというのに。
 彼はいつから其の中にいるのか。
「まぁ遂にここまで来たというべきなんだろうなぁ……♪
 プーレルジールでは失敗したけれど、まぁ、いい♪
 まださ。まだまだなんとかなるさ♪」
 瞼の裏に『始まり』を想起するナイトハルト。
 が。最早事ここにいれば些事であると――頭を振って雑念を消そうか。
 彼が滅びの側に加担する理由は、彼自身の目的と合致するからだ。
 ナイトハルトが目指しているのは。
 この世界の、神の定めた法則を破壊する事。
 それを成し得るためならば異世界を滅びの種とする事も厭わぬし……それらの行為の結果として混沌世界に大きな亀裂を刻むことも――その果てに数多の者が死ぬ事も構わぬ。だからこそナイトハルトはイノリやマリアベルの行いと共に在るのだ。
 あぁ、だって。
「この世界は理不尽だからね」
 勝手に世界の外から呼ばれて。勝手に力を奪われて。
 混沌肯定などという害悪を押し付けてきた『神』――
 あぁお前の終わりが近付いているぞ。やっと、やっとだ。
 ベヒーモスも動き。バグ・ホールの蔓延は広がりつつあり。
 伴って、影の領域も世界各国に広がりつつある。
 近付いている――世界の終わりが。
 そしてソレに例外など存在しえないのであれば。
 あぁでは例え『己』にも関係のある地であれども、仲間外れにしてやる訳にはいくまい。
 イノリ達に対する義理の為にも――
「さぁ遊ぼう、僕の愛しい愛しい――後輩達♪」
 言の葉紡ぐナイトハルト。彼の視線の先には――
 練達が首都、セフィロトが存在していた。
 髪をかき上げ彼は往く。実に、実に――楽しそうに。
●
「――まさか、これは」
 練達中枢。この国全土を支えるAI――クラリス=セフィロトマザーは己に舞い込む数々の情報に眉を顰めざるを得なかった。モニターに表示され続ける情報、それら全てが敵性生物の練達接近を示すものであったのだから。
 警報音も鳴り響く。あぁ六竜が襲来した事件以来だろうか、これほど大々的に練達を襲おうという戦力がやって来たのは。ドローンや防衛用兵器を直ちに動かしているが、しかしどこからやってきたのか……!
『マザー、ドローンの索敵が完了した。これは――ワームホールとも言うべきものか……?』
『空間の捻じれ。終わりに繋がる穴倉かな? ふむ、これはなんとも奇々怪々だね』
 直後。モニターの片隅に映し出されたのは、佐伯 操にマッドハッターの姿であった。
 三塔の長達。彼らも異変を即座に察し、周囲を調べたようだが――
 その結果として練達の一角に妙なる『穴』を見つけたのだ。
 ワームホール。異常なる空間の捻じれから終焉の獣達が溢れてきている。たしか他国では『影の領域』とも呼ばれているのだったか――? 魔種達の本拠と繋がり、各国侵攻の為の橋頭保ともされかねない。
 あれはすぐにでも破壊すべきだ、が。
『まずい事がある。『エン・ソフ』が襲撃されている』
「……R.O.Oの事変と六竜襲来以降に建造された一大エネルギー供給施設。
 そこを狙われているのは偶然でしょうか。それとも――」
 操が紡いだのは、近年練達に建造されたエネルギー施設だ。
 かつて練達で生じたR.O.O事変と六竜の爪痕による被害は激しく――だからこそ復興の為に新たに作られた施設は多くあるのだが、その中でも一大拠点たるが『エン・ソフ』なる地。練達の電力を支えており、万が一にもあそこが破壊し尽くされるようなことがあれば。
「ネットワーク不全が起こる可能性もありえなくはないNE!
 HAHA! ま、どっちにしろ放っておけないって訳だ。そこも、ワームホールもNE!」
『――手を別けましょう。幸か不幸か、私はワームホールに近い。私は其方へと』
 と、その時通信に割り込んできたのはクリスト=Hades-EXか。危急なる事態でも相も変わらず軽快なる声色で語り掛けてくるものだ……まぁ、万が一彼が軽口紡ぐ余裕もない状況であったのなら、そっちの方が『恐ろしい』と思うべきか。
 ともあれ、次いで現れたカスパール・グシュナサフの言の通り、だ。
 どこも放置してはおけないが、優先度がどちらも高いのであれば手を別けるより他はない。練達各地を襲撃している終焉獣の撃退統括。ワームホールを閉じる者。エン・ソフに襲来した敵勢力を撃退する者――その中で前者二つは練達側で対応する、のなら。
『では……エン・ソフの方は愛しのアリス達に助けを求めるとしようか?』
「ええ。既にローレットには依頼の通達を行いました」
 後者たる役目はイレギュラーズ達に託すより他は無し。
 マッドハッターが言の葉を紡いだ時には、既にマザーは要請を行っていたようだ。
 彼らにはエン・ソフ防衛に向かってもらう。それになにより……
「どうにも。エン・ソフには終焉獣を率いている首魁もいるようです。
 半端な戦力は差し向けるだけ無駄でしょう――
 時間稼ぎの為にドローンを向かわせてはいますが」
『ふむ――? これが『そう』なのかな』
『……世界を滅ぼす手先。Bad end 8の一角』
 同時。モニターにエン・ソフの画像が映し出されようか。
 マッドハッターと操が見据えた先には――通路を闊歩する金髪の男が映っている。傍には彼に付き従っていると思わしき終焉獣の姿もあろうか……と、おや。カメラに向かって呑気にピースなんぞしている。妨害なぞ意にも介さず散歩のつもりか? たしか……伝え聞いた所によるとナイトハルト・セフィロトなる人物が敵にいるらしい、が。
 彼がそうなのだろうか。『セフィロト』の名を冠する旅人――?
『どうかな。誰か彼の事を知っている者は?』
「セフィロトの始祖かって?
 ん~~さぁどうなんだろうね、名乗り騙るだけなら誰にも出来るYO!」
『……例え相手が始祖であろうと。其れが真であろうとも。
 今や三塔を、練達そのものを破壊せんとしているのならば』
 結論は変わるまい――と。操の問いにカスパールは応えようか。
 練達は未来を見る。練達は神からの脱却を目指し、歩み続ける国家なのだから。
 如何なる者であろうがソレを害する者は、打ち倒す。
 ――この国の邪魔はさせない。
 世界を終わらせてなるものか。それでは我々も――夢を叶える事が出来ないのだから!
●
『――さん。綺麗な所ですね』
 あぁそうだね。お前は綺麗な所が好きだからなぁ。
 ソレは記憶。ソレは想い出。
 ナイトハルトは練達の道を歩みながら想起していた。
 ――まだこの地に街が。練達という国が立つ前は、何もない小島だった。
 自然があった。大いなる海が広がっていた。
 美しい地だった。
 今でもなお思い返せる。例え最先端技術の結晶で全てが塗りつぶされようとも……
 どれほどの時を重ねても。どれほど悠久なる道を歩もうと。
 決して忘れぬ彼方の想い出が、ナイトハルトにはこびりついている。
 拭っても消えない。忘れようと思っても忘れられない。
 そんなものがあるんだ。
 だから。
 神よ。
 死ね。
 セフィロトの始祖は往く。
 神の法則を超えんとする、ある意味誰よりも練達の夢を抱いている男は――往くのだ。

- <漆黒のAspire>練達の夢Lv:60以上、名声:練達50以上完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度VERYHARD
- 冒険終了日時2024年03月05日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談5日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●
 終焉が近付く。
 その意はどれ程の人間が感じ取っているだろうか。
 その威にどれ程の人間が抗えるだろうか。
 ――終末の意思に立ち向かわねば、まぁ。
「全て滅びるだけ、なのだろうな――しかし。
 まさか此度はそちらから乗り込んでくるとはな! ナイトハルト!」
「――おやおやぁ? なんだい『前』に見た事がある顔が多いねぇ。
 僕を追って来てくれたのかな? 嬉しいねぇ……♪」
「パーティーかー? パーティーだな? いえーい。
 たまにゃ頭空っぽカラカラポで遊んでみようぜ、パイセン」
 練達を闊歩するナイトハルト。その眼前に立ち塞がるは――『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)に『音呂木の蛇巫女』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)の姿であったか。ナイトハルトを迎撃する立場であるイレギュラーズは、既に己が体制を万全に整えている――上で。
「――んじゃ、こっからマジメな話ね。
 このままみんなで駄弁ってウェイウェイやってんのもいいんだけど。
 もっとストレートに言うとさ――お引き取り願えないかな?
 タダとは言わないよ。退いてくれたらめっちゃサービスしちゃうからさ」
「ハハハ。秋奈ちゃん、君だってもう分かっているだろう……?
 『そうだね、仲良くしよう』なんて言えるような状況じゃないさ♪
 僕は神を滅ぼす――君達の敵だ♪」
「ん、やっぱそだよね。まぁ言ってみただけ」
「全く、滅ぼそうとしたり壊そうとしたり……
 長生きなんてするもんじゃないってことかしらね?
 どこで何がどう歪んだのか知らないけれど……」
「始めましょう あなたが終わらせたいのなら」
 ――わたし達は終わらせない為に。
 直後、動く。誰も彼もが。
 其の中でも言の葉紡ぎつつ、ナイトハルトから目を逸らさぬは『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)に『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)だ。ナイトハルトが滅ぼす意思を携えてくるのなら、こちらは救う意思と共に在ろう。
 ――やらせる訳にはいかない。
 ヴァイスの暗器が煌めく。彼女の歩みと共に揺蕩うドレスの端から神速の刃一閃。
 同時に錬と秋奈がナイトハルトの周囲に存在せし終焉獣諸共弾き飛ばさんと、撃を降り注がせるものだ。掃射と無数の炎片が襲来せしめ――更に間髪入れずメリーノがナイトハルトへと踏み込もう。
 斬撃と共に。死合いの刃が至らんとする――!
「大歓迎だ♪ 嬉しいねぇ……♪ 遊園地に来たみたいだよ♪」
 が。ナイトハルトが指を翳すと同時に『全てが遅延する』
 銃撃が。炎が。刃が。歩みが。正に文字通り失速しているのだ。
「つれないわね、レディーからの抱擁を断るつもりぃ?」
「ダンス・パーティかい? お誘いは嬉しいが、今日は遊びじゃなくてねぇ……♪」
「――ッ。やはり指輪から強烈な神秘性を感じる……!
 いきなりにも札を切って来るとは、本気なのはやはり相違無しか……!」
 ナイトハルトが撃を捌く。彼に一撃叩き込むのは容易ではなさそうだ――
 しかし『無敵』ではない筈。
 そもそも容易く出せるならプーレルジールの時にも使っている筈なのだ。
 錬は目を凝らす。どこか一寸でも、針の穴でも奴の術式の芯を知れればと……
「神の作った法則を破壊する……か、正直、本音で言えば応援したい所だけどね。
 個人的にはその夢は実に価値があって然るべきだ――
 この世界の『神』とやらは、実に碌でもないものだと感じているからね」
 次いで『血風旋華』ラムダ・アイリス(p3p008609)もナイトハルトへと言を紡ごうか。
 彼に対する共感。己の個々の奥底より沸き立つ本音。
 もしかすればこの世界の神は人だの魔種だの――そういった者達の織りなす争いを『喜劇』がてらにさぞ楽しんでいるのではないだろうか。どこぞの見えぬ天の座で。ならば、一発ぐらい殴り飛ばしたいと思う者がいてもおかしくはない。
 ただ。
「それでも譲れないモノがある」
「へぇ。面白い、ソレは?」
「――無辜の民を巻き込むことだ」
「成程、だろうね……いいよ。そういう感情を僕は否定しない♪
 無辜なる民を護りたいと思うその気持ちは尊く、正しいものだ♪」
「知ったとする上で、止まらないのか」
「僕は僕の正しさなんて『どうでも』いいからね」
 ラムダはナイトハルトを巻き込む形で刃を繰り出す――
 無数にして数多。煌めく軌跡が宙を穿ちて。
「プーレルジールの次は練達ですか。その目的はどこにあります?
 エネルギーの拡散……練達のシステムの阻害と破壊が齎す先は?」
「いずれにせよナイトハルトを止めねば全てが壊される、か――」
 続け様には『紅矢の守護者』グリーフ・ロス(p3p008615)と『レ・ミゼラブル』ミザリィ・メルヒェン(p3p010073)が結界を紡ぎあげようか。それは無用なる破壊を少しでも妨げんとする為――
 彼の目的がこの施設の破壊にあるというのならそれは必須だ。
 明確な意思による攻撃は防げぬも、それでも余波だけでも消せれば意味はある。
「そう大仰に考えないでくれ♪
 僕はね、君達をこれでも愛しているんだ……♪
 だからわざわざ『人』じゃなくて『物』を狙っているんじゃあないか♪」
「貴方は、プーレルジールの頃から虚ろな言を用いる人でしたから――
 言葉の奥底を惑わす口調である限りは、信じがたいですね。
 ……いえ。仮にソレが真実であったとしても関係はありません」
 瞬間。そんなグリーフらを狙いてナイトハルトが魔力を収束させようか。
 穿つ一閃は強大無比。魔砲の一種が如き閃光が放たれれば、全てを薙ぎ払わんばかりだ。
 ――それでもグリーフの瞳から戦いの意思が潰える事などあり得ない。
 可能性ではなく目の前を、未来を見る為に此処にいるのだから。
 もう一人の……紅矢の守護者である彼女がくれた機会を捨てぬ為にも!
「――『ご先達』の好きにさせる訳にはいかねぇな。
 どうであれ進んだ先にあるのは多くの不幸なんだろうよ」
「数百年……或いはもっと。千年以上ですか?
 先達として貴方が歩んだ道のり。どれ程の過去を見てきたのか……」
 そしてナイトハルトの一撃を凌ぐ『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が、お返しをくれてやろうか。ナイトハルトを守護せんとする終焉獣らも狙いすまし、その動きを縛る一撃を――此処に。直後には『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)も、まずは取り巻き共を片付けんと。
 堕天の輝きが場を包む。されど、その瞳と言の葉自体はナイトハルトへと向けて。
「それほど憎いのですか――神が」
「憎い? あぁ。そうだね、もう愛してると言っても過言じゃあない。
 僕が神の事を考えなかった事なんてないんだから」
「だから練達をも破壊しようってのは、行動の繋がりが今一つでよく分からねぇぜ。ご先達」
「ハハハ。仕方ないじゃあないか。世界を滅ぼす、なんてことになったら、流石にこの国も邪魔しにくるだろう――? そういう動きが出来ないようにちょっと『ボコボコ』にしておく必要があるからねぇ……♪」
「……そうかい。だがな、一人のソレで大多数を潰されるのを許容できる程俺も馬鹿じゃないからさ」
 付き合ってもらうぜ、舞台に。
 カイトもまた、確かなる意思と共にナイトハルトへ抗する動きを見せようか。
 彼にとってもこの国は縁なき場所ではないのだ。
 例えナイトハルトに如何なる事情があろうとも。如何なる目的があろうとも。
 悪意をもって至るのならば――どこまでも抗ってみせよう、と。
「練達……此処は『誰か』の夢の始まりの場所であって、尚も追い続けている、そんな場所。
 ……終わりの場所ではないの、です。
 貴方なら、それは、よくご存じなのでは……ないですか?」
 そして――『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は告げるものだ。
 祈りを捧げ。皆の傷を治癒すべし力を渡らせながら。
 思考を巡らせるのはこの練達という国の魂そのもの……
 この世界を超えようと、皆様が力を尽くしていらっしゃいます。
「その道を阻むのなら、例え始祖の人物であろうと……させません……!」
「あぁそうだねぇ。それでいい。君達は君達の想いがあるだろう。
 僕はソレを尊重しよう……君達の行いを否定なんかしたりしない。
 だが僕も僕でやらなければならない事がある」
 で、あれば。
 ナイトハルトもまた、イレギュラーズ達を見据えようか。
 あぁ誰も彼もが良い目をしていると。退いたりはしないんだろうね――なら。
「どうしても阻むのなら――『ちょっと』痛い目にあってもらおうかな……♪」
 ナイトハルトは、人差し指を親指で抑え、音を鳴らそうか。
 『君達がどこまで出来るか見てあげよう』――だなんて。
 舌を出して。皆を見定めるように、視線を巡らせながら。
●
 爆発音。響き渡るは激戦の証か。
 エン・ソフ中枢に侵入させない為の戦いは苛烈さを増していた。
 ドローンらの援護射撃が戦場に瞬く。
 一部は味方の守護に付けるが、錬らの指示によって攻撃を集中させるのは、無論。
「ナイトハルトだ。奴を自由にさせる訳にはいかん……!」
 この場の首魁たる存在へと、だ。
 同時に錬はナイトハルトの動きを常に捕捉し続けていた――それは、とにもかくにも奴の力の根源たる『指輪』の解析を行わんとするが為。魔術、錬金術……あらゆる知識を総動員し、その動きの流れを掴まんと。
 無論攻撃も忘れぬ。火行の呪符を展開し、常に彼へと圧を加え続けよう。
 ナイトハルトの防を突き破る為に! そして。
「しかし……流石に崩れそうにはないな。流石に甘くはねぇか……!」
「――どこからか『敵意』も感じる……潜んでいる敵もいるかもしれない」
 そんな錬を援護する形でカイトも動くものだ。彼もまた魔術の知識を要するのであれば、錬の解析のフォローは出来得ると――広き視点と共に周囲を警戒しながら『黒き雨』を展開せしめようか。やはりナイトハルトを狙うと撃が『遅く』なるが、攻撃自体を無効化されている訳でなければ……負担を掛けているのは間違いない筈だ。
 次いでミザリィは、治癒術を紡ぎながらカイトとは異なる形で周囲の警戒に当たっていた。
 それは敵意なる感情を感知する術。
 終焉の勢力が攻めてきているのだ。あちらこちらに敵視する意志があるのは当然だ、が。
 ナイトハルトのように分かりやすい者ばかりではないだろうとミザリィは思考する。
 そう、例えば――
「はぁ、はぁ! た、助けてください! あっちから化け物が――ぐッ!」
「……やはり偽装体がいる、か。しかしこいつは……」
「体が変じて……狼、いや、これは……人狼……!?」
「ん~こんなのまでいるなんて、とんでもないねー。パイセン、ガチじゃん」
 練達の研究員に扮するような者など、だ。
 彼方より駆けてくる存在がいたと思えば、しかし油断はしなかった。ミザリィは即座にその人物が正常なる者であるか解析の術を走らせる。然らば分かるは『只人』に非ずと言う事。警告の意思を味方へと伝えれば、秋奈が即座に撃を叩き込もうか。
 さればその者の正体が明かされる――
 まるで狼のような身へと変じるのだ。
 ……それをメイメイは見た事があった。
(ネロ、さま――これは、貴方の、同胞……?)
 まさか生き残っていたというのか? たしか天義では滅ぼされたとの事だが……
 終焉の地ではまだいた、のか。
 しかし彼らから感じるはネロのような善意ではない。
 ――悪意と敵意。こちらを完全に敵として見定める牙。
「……まだ、存在しているとは思いませんでし、た……それもこんなに……
 しかし……違います、皆様は、ネロ様とは……止めてみせます……!」
 頭を振る。雑念を消し去るように。
 彼らはネロではないのだと言い聞かせ――その動きを鈍らせる力を放とう。
 狼の身の強靭さは近くで見た事があるのだから知っている。油断はしない――!
「おやおや……まさかこんな簡単にバレるとはねぇ?
 どこかでソイツらを見た事があったのかな?」
「下準備は万全だったってところかな?
 だが、こちらもあらゆる事態は想定しているものでね……
 施設研究員に化けている者、なんてのは予測の範疇だ」
「目論見は外れたかしら――? けど、これで終わりじゃあないわよね」
「あぁ勿論。後ろから襲い掛かれなかっただけで、左程問題はない♪」
 かの妨害を見据えラムダは人狼種達をも敵と見定め、攻勢の対象に含むものだ。施設を、そしてイレギュラーズ達を襲う敵を放置する理由はない――依然としてナイトハルトの表情には余裕の笑みが張り付いている、が。それはヴァイスが対処しようか。
 彼女の身には数多の加護が宿っている。あらゆる可能性が起動し、昇華されているのだ。
 その加護が立ち消える前に――もしくは消される前に――ナイトハルトを攻め立てる。
 白一色の短剣が超速と共に軌跡を描こう。
 抑え続ける。なによりも彼を自由にさせる訳にはいかぬのだからと。
 しかし――ナイトハルトから零れ出でる魔力は人域に非ず。
「強いねぇ♪ 頑張るねぇ♪ だけど僕には勝てないよ――」
「させないわ――その人差し指は、一度見てるのよ!」
「おやおや。じっくり見ててくれたのかい? 照れるなァ……♪」
 動き続けるヴァイスの行動を見定めナイトハルトは『指』を示そう。
 それは人差し指。超越の魔力が纏い穿たれる一閃。
 只人がマトモに受ければ文字通りに粉々となってもおかしくない威力が秘められている。イレギュラーズであってもタダではすむまい――だからこそメリーノは即座に動いた。その一撃を妨げる為に。
 畳みかける二閃。踏み込む意思に揺らぎはなく、彼女の瞳に迷いもない。
 ズレる射線。それでも凄まじい威力がヴァイスらを掠め薙いでいく。
 やはり本気だ。イレギュラーズもエン・ソフも叩き潰す気でいる。
 ――エン・ソフが落とされたら、電力供給が間に合わなくなる。
 マザーにも影響があるだろう。落ちるかもしれない。
 練達の根幹。この土地の礎……練達の崩壊を招こうというのか?
「ねぇナイトハルト。あなたがそれを作ったはず」
 ここはあなたの名を冠する街。
「それを自らで――潰そうというの?」
「そうさ♪ 特に未練はないね。この国は結局『間に合わなかった』
 世界の終焉が――イノリが動き出す前に神を超える事が出来なかったんだから♪」
「……貴方はこの国に、方舟の価値を求めていたのですか?」
 同時。近くへ至るメリーノへと、ナイトハルトは暴風の魔力を叩きつけようか。
 あらゆる事象を操るが如く、だ。然らばグリーフは紡ぐ――
 ナイトハルトがセフィロトなる国を作らんとした目的は。
 やはりこの国が掲げる混沌法則の脱却にあったのかと。
 神の手の平から抜け出す……それこそが創始者の目的であり。
「果たせなければ用済み、と?」
「ハハ♪ 近しいニュアンスではあるね♪」
「……そうですか。なら、あえて言いましょう」
 グリーフは己が身に纏わす。数多の干渉を無効化しうる障壁を。
 終焉獣。人狼種。誰一人として奥には通さぬ意志と共に――そして。
「私が『方舟』となりましょう。ただし滅びを運ぶ舟ではなく、未来へと繋ぐ舟に」
「君には無理だね♪ 僕にすら勝てない者が、何を成せるというんだい♪」
「貴方の想像しえない未来を作れます」
 告げる。己が意志を。
 ……グリーフは秘宝種だ。元々”ゼロ”であると思っている。
 であれば”ゼロ”でなかったナイトハルトが理不尽に奪われたものは計り知れないだろう。
 その気持ちは己には分からないかもしれない。
 だけど。
 けれども。
 それでも。
「私にとってはここが」
 愛を教えてくれた人と過ごし、彼女が護った世界。
 そして、故郷と繋がる世界――
 ならば命を。全てを賭けて護らぬ道理はない!
「いい啖呵だね。しかし成せる力があるかな……? 僕は『ちょっと』強いぞぉ♪」
「そうか――だが生憎、俺は混沌に呼ばれて良かったと思ってる方でな。
 ここには大事なものもあるから壊される訳には行かないぜ!
 『ちょっと』強いぐらいで――全てを壊れると思うのは、安易がすぎるぞ!」
「ごめんなさいね、ここは通行止めよ。壊そうとするのなら、壊されまいと抗う意思も分かるわよね?」
 直後。ナイトハルトの指輪が怪しげに煌めいた。
 親指の指輪が光り輝けば、終焉獣と人狼種達に異変が生じ命厭わぬ尖兵へと。
 人差し指が光り輝けば、空間に亀裂を刻むような神秘の圧が生じようか。
 迎え撃つは錬にヴァイス。
 そのナイトハルトの動きを妨害せんと青龍の名を冠す槍に、白薔薇の刃が襲い来るか――
「――他者を操り。神秘により数多の現象を操り……それは『神』を超えんとした意思ですか?」
 その時。言の葉紡ぎながら踏み込んできたのは、リースリットだ。
 ナイトハルトを守護せし終焉獣達を切り刻みながら遂に彼へと剣を届かせる。
 ――貴方の、この世界と『神』に対する想いは理解できる。
「貴方は、怒っていますね」
 それは当然の権利、なのでしょう。しかし。
「……貴方を見ていて思う事があります。
 過去を忘れる事を出来ずに長い時を生き過ぎるのは、不幸な事なのだろうなと……」
「ふぅん――随分と長生きしてきたかのような言葉を吐くねぇ」
「貴方は、本当は……」
 神への怒りよりも。
 神への復讐よりも。
 最初の願いは『帰りたい』だけだった筈です。
「――違いますか?」
「――――成程。そうかもしれない」
 ナイトハルトはリースリットの一撃を防ぐ動きを見せながら。
 同時に、顎に手を当てて考え込む姿を見せようか。
 一拍。二拍。ほんの微かな時を、経て。
「そうかもしれない。いや確かにそうだ。
 しかし僕の願いは徐々に変わったのではない。明確に変わったんだ」
「それは、いつ」
「あぁ」
 一息。
「僕の『妹』が死んだ時さ。僕が救えなかった時と言っても――過言ではない」
●
「妹、さん? それが、ナイトハルトさまの、『始まり』……?」
 その言を耳に捉えたメイメイは思考するものだ。
 彼にとっての始まりはソレなのだろうかと。
 救えなかった。それが神とどのような関係が――
「ゴ、グ、ガ、ァアアア……!!」
「ッ!? 人狼種の皆さんが、攻勢を……! くっ、これは、強制的な支配を……!」
「ドローンをぶつけるわ! 今この場を通す訳にはいかないわよねぇ……!」
 瞬間。ナイトハルトの指輪が輝いたと同時に――人狼種の様子が変じた。
 元々人に対して明確な敵意を感じていたが……それでも個別の意思らしき者はあった。
 それが今塗りつぶされている。誰かに制御されているような特攻を仕掛けてきたのだ。
 ナイトハルトによる干渉とはすぐに分かった。特に念話を用いて彼らと話さんとしていたメイメイは……
 だからこそメイメイは警告の声を挙げつつミニペリオンの群れで狼を迎撃。伴ってメリーノも判断を神速に行い、援護射撃に徹させていたドローン達を強引に割り込ませるものだ。連中の動きを数秒だろうが留める事が出来れば良し。
 その数瞬があらば――
「私が抑えます。あとは彼を」
「あぁ任せ給え。全力をもって阻止させてもらうよ。
 始原の旅人であろうが、数多の命を犠牲にする権利はないものだと――知りたまえ」
 グリーフの介入が辛うじて間に合うものだ。
 幸いと言うべきか彼女が同時に張っていた人払いの結界もまた功を奏していた。
 只の人間を遠ざけんとする力だ。絶対とまでは言えないが、その結界を突破してくるのは人ならざる者である確率が高まる――近場に至る人らしき者は初めから人狼であると思えば奇襲されえぬ対策と成りえていた。更には事前に施設側へと連絡を取る事が出来て、中枢には近付くなとアナウンスを巡らせていたのもある――
 人狼であると判明すればラムダも迅速に対応へと。
 無数の剣撃が戦場を踊る。そのままの勢いをもってしてナイトハルトにも襲い掛かろうか。
 ――虚空をも断つ一閃が彼方より飛来せん。
 咎を食い破れ。先達の栄光などなにするものぞ――ッ!
「旅人の先輩、セフィロトの始祖――嗚呼そんなの知ったことか」
 同時。ミザリィもまた、吐き捨てるように呟きながらナイトハルトを見据えよう。
 神も世界も無情であることなどとうに知っている。
 人は誰しも必ず救われる訳ではない。
 人は誰しも必ず良い結末を得られる訳ではない。
 ――だからこそ藻掻き生きるのだ。
 ――だからこそ自分の手で。
「奇跡を掴むのだ」
「ご立派だ。その通りだ。しかしそれは掴める者の理屈だ」
「そうだとしても――ハッピーエンドは掴みにいかなければ、永劫に見えない!」
 力を振り絞る。正面にはナイトハルト、あちらこちらからは終焉獣や人狼がやってきているが故に、ミザリィは治癒の力をかつてない程に紡ぎあげよう――ここが正念場であると見定め支えるのだ!
 当然ナイトハルトも場を維持せんとするミザリィなどを放ってはおかない。
 人狼らの圧。彼らの正体を看破せんと解析の術を巡らせる一瞬の隙を衝いて。
 閃光が如き魔力をミザリィへと放とう。
 炎を纏い。全てを焼かんとする光の軌跡が彼女を貫く――しかし。
「さっせねーぜパイセン! やっほー! うぇーい!!」
 軽快なる声を紡ぎながら至るは、秋奈だ。
 大跳躍。速度を武器に、ナイトハルトへと一気に襲い掛かろう。
 これ以上追撃はさせない。ナイトハルトに圧を加え続ける……!
「パイセン、自撮りしたい! 自撮りしようよ! SNSに挙げていい?
 うぇいうぇーい! ピースしてピース!!」
「相変わらず面白い子だなぁ♪ 練達が残ってたら、肖像権で訴えちゃうぞ♪」
「記念だからいいじゃん~パイセンのケチ~!」
 軽口叩きながらも全力だ。秋奈が刃を振るい、ナイトハルトが抗する。
 指輪が輝けば秋奈の動きが『失速』しようか――くそ、またコレか!
 しかし錬は見た。指輪の輝き具合に違いがある事を。
(間違いない。遅くする対象が多ければ多い程、効果範囲が狭まっている)
 彼は魔鏡を用い、黒き閃光を周囲に走らせながら事象を観測。
 常に指輪を調査せんとしていた行動が身を結んだか――
 少しずつ。ナイトハルトの力が分かってきている。後は。
「他のも全て教えてもらおうか。秘匿は先達の特権ではないぞ――ッ」
「困るなぁ♪ 先輩は敬ってくれないと♪」
「先輩? あぁだからって容赦も加減もしねぇ!
 一人の願望で潰れる大多数の夢ってそんなに塵芥か?
 違うか? 違うよなぁ!!」
 より彼を丸裸にせんとカイトと共に攻め立てようか。
 ナイトハルト一人へと集中砲火。どこまでその笑みを続けられるか、試してやろう。
 ――特にカイトは吼えるように声を張り上げている。
 それは闘志。それは意思。それは――意地があるから。
 此処はな。俺の大事な『本物』がいる場所だ。
 そんな場所をアンタなんかに。
「くれてやれるかよ……!」
「随分と硬い意思を感じるねぇ。だが無駄だよ」
 だが、それでも。
「僕が今までどれだけ『生きて』きたと思ってる?
 ――この世界の住民も。旅人も皆、混沌法則に縛られる。
 知っているだろう? 『レベル1』の法則だ」
 秋奈、錬、カイト……それらの全霊、を。
「誰のスタートも同じ場所なら。どれだけ時間をかける事が出来たかが全てさ」
 一人で押しとめる。
 永き時を生きてきた。長き時を旅して来た。
 ――そのほとんどを、神を超える為に費やしてきたのだ。
「断言しよう。僕が最強のイレギュラーズさ♪」
 直後。『薬指』に収束した魔力が、まるで爆発するかのように炸裂した。
 それはカイトや錬の撃を打ち消し、至近にいた秋奈は強く吹き飛ばされる――『うひょ~! やるねパイセン!』と言いながら空中で姿勢を整え、地に衝突せぬように体の軸を調整。致命傷は負わぬようにしたが、しかし傷が浅い訳でもなかった。
「全くもう、乱暴なんだから……! いきなりで来るものね……!」
「くっ――とっておきの一つ、ですかこれは……!?」
 同時に戦っていたヴァイスやリースリットも浅からぬダメージを負う――
 なんだあれは? 戦いながら同時に何かを溜めていたというのか?
 あまりに多彩な技が過ぎる。イレギュラーズとしての実力云々の前に。
「そのアーティファクトはなんだ……!」
「あぁこれかい? んーまぁこれ自体は僕が元の世界から持っていたものだけどね。
 色々頑張って研究して誤魔化してるだけさ。神の目を。神の法則をね♪」
 錬が指輪を睨みつけるように見据える。
 然らばナイトハルトはわざとらしく見せつけるように指を動かそうか。
 誤魔化している? それはつまり……
 彼は『練達の夢』の一端を叶えているのか?
 それはもしかすればナイトハルトの上――イノリによる干渉もあるのかもしれないが。
「……それは憎悪の感情が成しえた極地と言う事ですか?」
「否定はしない。僕が呑気に生きていたら、話は別だったろうしね♪」
「偉業とは思いますが、やはり。貴方は怨念に取りつかれてしまっているようですね」
 繰り出された衝撃波に吹き飛ばされつつも。
 リースリットに戦える力はまだ残っていた。
 言の葉紡ぎつつ息を整える。まだ成せる。まだ動ける。
 風の精霊の祝福を、その剣に宿しながら。
 機を見据える。
 あと一撃。彼に絶対に届かせる。一瞬の隙でもあらば。
「だがまだやるかい? 僕は君達自体が嫌いな訳じゃあない……
 退くなら見逃してあげるよ♪ それとも――」
「『最強に挑むかい?』なんてくだらない自称を繰り返すつもり?
 誇るのは時間だけ? 仮に百万年生きてようが――
 それだけで最強なんて楽な話、どこにも存在しないわよ」
 更にはヴァイスも未だ彼の前に立ち塞がろうか。彼女も傷を負っているが、それでも倒れ伏して動けぬ程ではなかったのは自らの身に宿した数多の加護が故か。更には出血を促す力が、彼女の体力を少しでも回復していた事も要素の一つだろう。
 ともあれ。そもそも勝ち目がない訳ではない。
 終焉獣や人狼に対する対処――特に人狼側は万全だったからだ。
 ミザリィによる解析術だけのみならず、メリーノも体温を感知する術をもってして警戒にあたるなど複数の手を講じていた。人狼の中には解析を潜り抜ける、より隠密に特化した者もいたようだが……しかし複数の手を用意しておけばいずれかで見分ける事も不可能では無かった。
 そして見分ける事叶えば後は戦場を俯瞰するように注意していたカイトなどが即座に対応に動けたのも功を奏した。人狼による攻勢が加えられこそしたものの、強襲される事はなければ被害も予想よりは少ないものである。
 少なくとも、見逃された人狼がいなければ彼らが中枢を破壊するという結末はない。
 つまり――後はナイトハルト自身を抑え込めるかが、最後の分水嶺。
 成せるか? 成すには、どうするか?
「……止めます」
 紡いだのは、メイメイだった。
「貴方の齎す『終わり』は、必ず止めます」
「命を懸けてもかい?」
「護りたいものがあって、戦って、来ました」
 彼女は言う。今までの戦いを振り返りながら。
 豊穣を。天義を。いやその他の国だって、きっとそうだ。
 ……貴方に『始まり』があるように。
「私達にも、戦う『始まり』があるんです……だから『終わり』は止めます……!」
「無情を越えたその先に……至高の果てがあるのなら……!」
「先達がなんだってんだ――超え時だよなぁ!」
 メイメイが、ミザリィが、カイトが奮い立つ。
 誰もに願いがある。この場で戦う理由がある。
 ならば例え相手がイレギュラーズとしての先輩だろうが――ここで勝つ。
 ……そうだ。カイトは初めから腹は決めていたのだ。
 俺を認めてくれた連中の為に――全てを賭すと。
「神の、可能性の奇跡を望むのか。奴は肝心な時に助けてなどくれないよ」
「そうかな。だが、奇跡は降りて来るものではない。起こすものだ」
「そうだ。なにより――俺はシュペルに並ぶ職人になるんだ!」
 ナイトハルトが眉を顰めようか。
 ラムダも、錬もソレを願わんとしている。
 特に錬は――困るのだ。『レベル1』で年月が等しく重なり続けるならば先達には永久に勝てない? それでは一生俺はシュペルに追いつけないという事か? そんなものが認められるか。
 先達が歩いた道を見てより速く遠くに歩く事が出来る。
 それが今の練達の姿だろう!
「お前を超える事でそれを証明してみせる……!」
「なははは! どーするよパイセン、止めれっかな? 止めれなきゃウチらの勝ちだぜ!」
「神に縋る姿勢が勝ちだとは僕は決して認めないがね」
「神に縋るぅ? ちげーよパイセン。コレってそんなんじゃない。これはウチらの魂と――意地さ!」
「何が起きても此処を護るのが私達の本懐。さぁ止められるかしら――?」
 更には秋奈も口端に付いた血を拭いながら動きを見せようか。
 自らに宿る怪異の力を増幅させんと……
 誰も彼もが望まんとする。世界への奇跡は望めば必ず実現するものでもないが……
 一つでも仮に通れば逆転の一手にはなるかもしれない。
 特にヴァイスは理解している。施設を護り切る事さえ出来れば良いのだと。
 そう言う奇跡を起こすだけで――彼は詰むのだと。
「つまらない手段だ――ッ!」
 然らばナイトハルトは怒るように声を荒げながら、人差し指の魔力を振るおう。
 皆を薙ぐように。奇跡など成す前に叩き潰す。
 彼は奇跡が嫌いだ。神に縋るようだから。
 それはナイトハルトが神嫌いが故の極端な思考――
 だからこそ死に物狂いで奇跡の否定を開発した。
 インバーテッドクロス。
 彼らはきっとその誘発を狙っているのだろう。
 プーレルジールで見せたしね――だが。
「見せたからこそ、そう考えるのは想定してたよ。僕が僕と戦うなら、僕だってそうしたろう。だからこそ乗るか――僕はこのまま全てを叩き潰させてもらおうじゃないか♪」
「出来ますか? 生憎と、全てがソレとは限りませんよ」
 瞬間。動いたのはリースリットだった。
 剣に力を乗せる。常よりも全霊を込めて。
 ……今に生きる者として、貴方の思考の理解は出来ます。
 もしも私の祖先の旅人が生き続けていたら……何かを失った上で生き続けたら……
 貴方と同じように絶望故にきっと世界を滅ぼそうとしたのでしょう。
 それでも。
「それでも私は、改めて貴方を否定します。ナイトハルト、貴方の絶望を――」
「おっとッォ!」
 その怨念を、斬る。
 横薙ぎの一閃。皆の奇跡を願う姿勢を見て気が逸れた一瞬を狙ったか。
 失速させる力が追いつかない。ナイトハルトの身を、削った。
 命に届く程深くはないが、しかし。
「隙を見せたわねナイトハルト!」
 態勢を立て直させない勢いでメリーノも続いた。
 ねぇナイトハルト。わたしが間違ってた。
 こうすることであなたが自分を貫こうとするのなら。神様に歯向かおうというのなら。
「わたしはわたしのやり方で止めてあげる。
 ダンス・パーティよ、踊ってもらうわ、原初の旅人。
 レディーからのお誘い――断らせはしない!」
「悪いが僕が手を取るのは、心に決めた者だけだ」
 踏み込む一閃。だがナイトハルトは挑発には乗らぬ。
 尤も。遊ぶような声色ではない――相当に余裕がない故もあるのか。
 或いは彼自身が魔力を行使するタイプであるのも影響してるのかもしれないが。
 メリーノに触れずに神秘を穿つ事によって彼女を払わんと力を振るう。
 彼女の一撃が辛うじて届かない――が。
 メリーノは同時に奇跡の一端を願わんとしていた。
 その所作がナイトハルトの気を逸らす。
 先の可能性を願った者達を含め、多くの者達がソレを成さんとしていたが故にこそ、ナイトハルトの注意を分散させる結果を招いていた。繰り返すが、願ったからと必ずしも成就する訳ではない。しかしナイトハルトにとっては万が一にも成就されては困るのだ。
 どの願いもきっと己にとっての甚大な障害になりうる可能性があるのだから。
 故にこそ警戒と注意を張り巡らせねばならなかった。
 胡乱になる訳にはいかない。
 インバーテッドクロスも、タイミングがズレれば意味がなくなるのだから。
 だから。
「今、この時ですね」
 グリーフはその瞬間に願い放った。
 それはグリーフと『彼女』の奇跡。
 バルナバス。ジャバウォック――かつての強敵たちに放った。
 その一撃の再現を、此処に。
「私は」
 紅矢の守護者。
「――チィッ!!」
 グリーフの傍で『紅冠の矢』の再現が顕現せんとしている。
 だからこそナイトハルトはほぼ反射的に作動させた。
 インバーテッドクロスを。奇跡の否定を――
 同時に、後方へと飛び跳ねた。
 それもまた反射的行動。それが――ナイトハルトにとって、まずかった。
「しまった」
 エン・ソフ中枢と距離が離れてしまった。
 しまった。あぁしまった。あと数歩近付ければ、隔壁をぶち抜いて砲撃を叩きこめたのに。
 イレギュラーズ達は手練れだ。この一瞬の隙を衝いて戦闘の陣を立て直すだろう。
 実際。力を使ったその瞬間を見極め、錬が畳みかける一撃を紡いで来ている。
 もう一度彼らを押しのけて接近できるか――いや時間を掛ければ出来るかもしれないが――そうなる、と。
「――まずいな。時間を掛けすぎた」
 ナイトハルトが舌打つ。
 本気で死に物狂いで戦っていたか、と言うとそうではない。
 が、それでも目的が果たせぬ心算は無かった。
 このエネルギー施設を限界まで破壊し、練達の動きを封じ。
 そして自らが通って来たワームホールを伝って再び帰還するつもりだった――
 しかし。外の方でワームホール自体が対処されようとしている気配を感じ取ったのだ。
 ……流石にまずい。退路を失い練達総力で包囲されるのは……
「――あ~~~~あぁ。仕方ないねぇ♪ ――次は本気で決着を付けよう」
 大きなため息。の、直後にはまた怪しげな笑みを浮かべるナイトハルトの顔があった。
「あら退くの? 随分と、最後はあっさりね」
「言ってるだろう? 僕は君達の事は嫌いじゃないんだ。
 君達の事が憎くて憎くて仕方ないわけじゃあない。
 だから見逃してあげるよ♪」
「見逃してあげる? それは負け惜しみという奴ではないのか?」
「ハハハ! ちょっとミスったけれど、負けたとは思ってないしねぇ僕は♪」
 ヴァイスに錬が、ナイトハルトに警戒しながら声を紡ごうか。
 万が一いきなり気が変わって襲い掛かってこられてはたまらぬが故に……
 ここで今からナイトハルトを追撃するか――?
 いやその余力はない。というよりも施設を襲っている終焉獣などがまだいるのだ。そいつらの対処もしておかねばならぬ。奴らが今から中枢に入って壊される可能性もゼロではない故に。
「ナイトハルト、貴方は最後まで終焉側に属するつもりですか」
「何を使い捨てても、生命を弄んでも……尚に、ですか?」
 その時。リースリットとメイメイが告げる。
 世界の滅びはいよいよ加速するだろう。ならば決着を付ける時も近い。
 今度こそ本当の命の取り合いになる筈だ。
 彼の目的を止める事に否の感情はないが。
 本当に世界を滅ぼすイレギュラーズとして在り続けるつもりか。
 ……メイメイは、先程使い潰された人狼種達を見据えながら呟くものだ。
 ネロの事を片隅に想起すればこそ彼は許せぬ。
 だからこそ――ナイトハルトの意思をしかと確かめておきたいと――
「勿論だ。さっき言ったろう?
 ――僕には妹がいた。彼女も、この世界にやってきた。
 実を言うとね。彼女の方が一歩の差で召喚は早かった。
 つまり――本当の『始原の旅人』は僕の妹だ。
 まぁ彼女はもう死んだけどね」
 さすれば。ナイトハルトは去らんとしていた背を見せながら。
 返答しようか。己が意志を。
「僕は彼女を救えなかった。死の理由は、まぁつまらないものさ。
 だけどね――あぁこの指輪の力は見ただろう? 僕はね、本来の力はもっと強いんだ。
 僕はなんだって出来た。命失う様な傷だって治すのは簡単だった――
 だがその力は失われた。混沌法則によってだ!」
 猛る様に。
「神が僕らを召喚しなければ僕らは穏やかであれたんだ!
 僕の力が混沌法則に縛られていなければ、救えたというのに!
 ――こんな世界など知った事か!
 神は殺す。神は必ず殺す! 奴の全てを破壊して、その時僕は初めて満足するんだ!」
 吼える様に。
「僕はイノリと共に往く。僕の夢は――混沌法則を打ち破る夢は、彼の彼方にあるんだから!」
 誰にも妨げさせない。神を殺す事は。
 それが混沌世界の民全てを殺す事に成ろうとも。
 世界を救うはずのイレギュラーズとしての本懐に反する事であろうとも。
 それが練達の始祖者の――『夢』の真意なのだから。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
 お疲れ様でした、イレギュラーズ。
 ナイトハルトの能力には秘められた部分があり、非常に難しい状況でした。
 その中で状況を打開するには幾つかの条件がありました。
 人狼への対処が可能な限り有効である事はその一つです。
 厳しい状況だったとは思いますが、皆さんの尽力が結んだ結果かと思います。
 ありがとうございました。










GMコメント
●依頼達成条件
1:ナイトハルト・セフィロトの撃破or撃退。
2:『エネルギー供給施設【エン・ソフ】』の破壊阻止
両方を達成してください。
●フィールド『エネルギー供給施設【エン・ソフ】』
セフィロトの一角に存在する発電施設です。R.O.O.並びに六竜襲撃事件以降、セフィロトの復興の為に新たに建造された一大施設……なのですが、だからこそ目を付けられました。
ここが破壊されるとセフィロトを支えている各種機能――特にネットワーク機能に多大な支障が出るとされています。周囲は守らなければならないものばかりですが、既に内部に侵入されている為、もうある程度の損壊が出る事自体は許容した方がいいでしょう。
ナイトハルトは『今後』を見据えて練達の動きを妨害する為に襲来したようです。
施設中枢コントロール室に向かって歩みを進めています。
中枢前の通路で迎撃してください!
///////////////////////
●敵戦力
●『始原の旅人』ナイトハルト・セフィロト
練達の首都セフィロトと同じ名前を冠する『始まりの旅人』を名乗る人物です。
其れが本当かは分かりません。しかし永い時を生きている者であるのは間違いないようです――プーレルジールでも『魔法使い』『管理人』を名乗り暗躍していました。その目的は『神の作った法則を破壊する事』にあるのだとか……?
神と、神の法則には嫌悪しつつもイレギュラーズ達の事は『愛しい後輩』と呼び、比較的態度は好意的であるように窺えます。それでも戦いにおいて手を抜く様子は見られません。彼は決してイノリ達を裏切る事はないでしょう。
おどけた口調の奥底には、何か強い理由が秘められているように感じます。
彼は彼にとっての至上の目的が最優先ですので、愛しむべき対象だろうが殺す時は殺すのでご注意を。
彼の力の源は『指輪』です。
五つの指輪それぞれに何らかの力が籠っているように感じられます……
以前の戦いで感じ取れた情報もありますが、まだ不明な点も多いようです。
・『第一の指輪』(親指)
終焉獣など滅びの因子を宿した存在を使役出来るようです。つまり非常に強力なコントロール下におけるようで、意思に反した行動すら行わせる事が出来ます(例えば命をなげうっての特攻すらさせる事が出来る様です)
・『第二の指輪』(人差し指)
主に攻撃に使用されます。強大な神秘を振るった範囲・域攻撃が確認されています。
・『第五の指輪』(小指)
ナイトハルトに常に『加護』を齎している指輪のようです。
HP・APを常に回復し、更にその効果はHPとAPが削れている程高くなるようです。
他にもなんらか効果がありそうですが不明です。
常に全盛の姿を保たせる指輪。
彼が長くこの世界に在れる理由の一つかもしれません。
・『インバーテッドクロス』
奇跡の否定。神の否定。
五つの指輪全てが光り輝き、イレギュラーズの発動するPPPを妨害する事があります。
ただしなんの代償も無しに使える訳ではなく多大な力を注ぎ込む必要があるようです。
●人狼種『ヴェアヴォルフ』×?体
終焉の地に生息する終焉獣の一種です。
人に化け、人を喰らう存在――天義では滅ぼされたとの事です。今回、ナイトハルトに使役され此処にやってきています。施設研究員に化けて、皆さんを背後から狙う事があるかもしれません。その擬態能力を目視だけで見破るのは困難かもしれませんが、非戦スキルなどがあれば見破れる確率が高まるでしょう。戦闘能力的には強力な物理攻撃を行ってくる事があります。
●終焉獣×??体
施設を襲っている終焉獣です。大型の蜥蜴の様な姿をしています。
人狼種よりも能力的には弱いですが、数がそこそこ多いです。シナリオ開始時はナイトハルト周辺に10体存在しており、時折戦場に援軍として訪れる事があります。
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●味方戦力
・警備用ドローン×15体
施設を警護に当たっていたドローンです。皆さんの指示に忠実に従います。HPはそこまで高くありませんが反応が高く、射撃(遠距離攻撃)を行う事が可能です。使い捨てる勢いで囮や、自身への攻撃に対する盾として使うのが良いでしょう。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
●情報精度
このシナリオの情報精度はDです。
多くの情報は断片的であるか、あてにならないものです。
様々な情報を疑い、不測の事態に備えて下さい。
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