PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<漆黒のAspire>秒針のない時計

完了

参加者 : 8 人

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オープニング


 時を追い越すような早さで、それはやってくる。
 地に叩き付けられたミートパイの哀れな様を指差し笑う道化の姿。
 適当に千切った花弁はオーダーメイドのドレスには余りに似合わず、爪先のネイルは気付いた頃には禿げ上がった。
 下らぬ言葉をつらつらと並べ立てる程度には刻の流れはゆっくりで、それでいて、追い立てるようにど、ど、どと音を立ててやってきた。
 詰まりは、現実味のない現実の到来だ。
 カロル・ルゥーロルゥーにとっては当たり前の様に理解出来ていた物事の事象であった。
 何せ、彼女は元々は遂行者なのだ。本人とてイレギュラーズと手を取り合う未来を夢想していたわけではない。
「あんたらバカね」なんていいながら、生き残ったのはある種の運と、好きになった男がイレギュラーズの目から見て最悪だったからなのだろう。
 顔面の善し悪しを判断基準にして生きている元聖女は「恩返しってワケよ、諸君」などと口にしながらやってきた。
「本当はリンツァトルテとかイルも誘ったけど、あいつらはあいつらで忙しいわよね。
 あ、前にシュークリーム買ったときに領収書を渡したらシェアキムが渋い顔をしてたわ。
 領収書を使わずにお小遣いの範囲でなんとかなさいだって。まあ、小遣い欲しいなら働けって、あいつは私のパパかよ」
 ぼやくカロルは教皇だろうがなんだろうが、適当に扱っていた。心臓に毛が生えているのか、それとも余り気にしていないのかは分からない。
 ただ、彼女は彼女なりに思うことがあった。何せ、イレギュラーズに救われた立場なのだ。
 それはそれは「恩返し」も重たいお支払い義務が生じている。それを踏み倒すのは彼女の性格上『キモちわるい』とのことである。
 だからこそ彼女はここ、滅堕神殿マダグレスは地脈の上に立っているのだ。
「初めて来た」とカロルは言った。マグダレスで感じられたのは重苦しい空気だった。
「幻想王国に居たルクレツィア――あいつ、ルスト様に文句言ってたな、腹立つ女だわ――は撤退したわ。
 でも、お前等のローレットはちょっと困っているわね。ギルドオーナーがどっか行ったし、ユリーカが代わりに牛耳ってたけど。
 それで、今回よ。世界の色んな所に影の領域がコンニチワしたのね。蛇口と言うべきなのかしら。
 様々なところにワームホールがぱっかーんよ。ぱっかーん。……って、ワケで、現状」
 カロルの立っているこのマグダレスにはワームホールが発生している。
 これは影の領域から戦力を投入するための橋頭保であるらしい。非常に難解な出来映えだとカロルは言う。
「此れをぶっ壊すのは皆に任せてね、取りあえず……なんか良く分かんないけど、私さあ、聖女って名乗ってるマリアベルって女が気に食わないワケよ。
 私も聖女だし、まあ、おそろじゃない? お揃いって言うか、まあ、違うかもしれないけれど。
 ……むしゃくしゃしない? 聖女らしくないのはお互い様かもしれないけれど! さあ!」
 私怨だった。カロル自身は聖女マリアベルと名乗った女のやり口が気に入らないのだろう。
 相手は世界各国に産み出したワームホールで世界の崩壊を狙っているらしい。
 それを天義で、そう、『色々あって苦労して、なんなら顔の良い男を倒してまで守った天義』が狙われているのだ。
「如何に顔の良い女でも許さないわよ。良いのかはしらない」
 カロルはむすりと拗ねたような顔をして言った。
「私、まだまだやりたいことがある訳よ。美味しい物食べたいし可愛い服も着たいでしょ。その邪魔になるの。
 だから、一先ず今日はマグダレスで後方支援よ! モンスターばったばった薙ぎ倒して世界に平和をもたらすのよ」
 聖女らしからぬ娘は拳をえいえいおーと振り上げて見せたのだった。

 くすくす――

 笑い声が聞こえる。マグダレスに踏込んだカロルは周囲をぎろりと見回した。

 くすくす――ドリトル。みてみて、『聖女ルル』だ。
 くすくす――本当だね、プロッフィー。寝返った『聖女ルル』だ。

「は? 陰口かよ」

 くすくす――あんな男に懸想した元聖女が次はイレギュラーズとランデブーだってえ。
 くすくす――恋多き女は大変だね、プロッフィー。

「顔出せ!」

 カロルが憤慨したように叫んだ。姿を見せた二人の少年はプロッフィーとドリトルと守る。
「此処から先は行かせないよ」
「そうだよ、行かせないよ」
「ご主人様はね、オーグロブが更に力を付けてくれるのを望んでるんだって」
「そうだよ、ご主人様は戦いの火種が嫌いなんだよ、だからね、聖女ルル」
「「君って火種だったから死んで貰わなきゃ」」
 二人の少年を見てからカロルはくるりと振り返って「あいつやだ!」とイレギュラーズへと告げた。
 時を刻まない時計は過去が簡単に追いかけてくる。捨てることは出来ないのだ。
 己はイレギュラーズを相手に戦を起こした。己が好きだったあの人のためだと人を殺そうとした。
 命を奪ってまでも成し遂げたい願いがあった。そんな過去なんて、捨てられない。
 どれだけ、普通の女の子の振りをしたって――お前は敵だっただろう、カロル・ルゥーロルゥー。

GMコメント

●成功条件
 ・終焉獣の撃破
 ・『魔種』の撃破もしくは撤退

●フィールド情報。
 天義北部。滅堕神殿マダグレスです。地脈の上にあるからでしょうか、やや重苦しい空気がして居ます。
 白く美しい柱と彫刻、カロル曰く「良い場所じゃない」とのことです。ただし、ワームホールからわらわらと敵が這い出してきています。
 ワームホールをどうこうすることはできませんので、周辺にモンスターが出てこないように一先ずの対処を行いましょう。

●エネミー
 ・『魔種』嫌われ者のプロッフィー
  魔種です。傲慢です。それなりの情報通でカロルのことも知っているようです。
  「懸想してた元聖女じゃん」なんて言ってきます・前衛タイプ。只管にカロルを煽り続けています。
  なんなら戦を起こした切っ掛けでもあるカロルだけでも倒して首を持っていこうと思って居るようです。
  ドリトルとは双子です。少年です。幻想種です。誰の配下であるかは取りあえず置いておきましょう。

 ・『魔種』あけすけのドリトル
  魔種です。怠惰です。プロッフィーと同じような知識量ですがやる気はあまりなさそうです。
  取りあえず、起こした「神様」の為にもなんとかしてやろうとかその程度の考えを持っているようですが。
  後衛です。プロッフィーをサポートします。双子ですが、何方か一方が倒されればさっさと逃げます。
  お互いのことを信頼しているからこそ、棄てるときも直ぐなのです。

 ・『終焉獣』 10体
  魔種を守るように立ち回っている終焉獣達です。その姿は異形にも見えます。
  二足歩行をする犬と言うべきでしょうか。全てが鎌を持ち走り回ります。非常に動きはすばしっこく一撃一撃が重たいタイプです。
  「うん」「わかった」「いやだ」を話す事が出来ます。それだけあれば意思疎通が出来るので便利なことには便利なようですね。

●同行NPC『カロル・ルゥーロルゥー』
 普通の女の子よ、わるい? なんて行ってますが聖竜アレフの力と持ち前の『聖女』技能で支援型ヒーラーの風情です。
 まあまあ戦います。まあまあ自衛もします。と、いってもそこそこです。
 割りと性格的にはっきりきっぱりしていますので危なくなったら普通に撤退します。
「は? 恐いじゃないの、何なのあれー!」と叫べるタイプです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <漆黒のAspire>秒針のない時計完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年03月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼

サポートNPC一覧(1人)

カロル・ルゥーロルゥー(p3n000336)
普通の少女

リプレイ


「全く好き勝手言ってくれますね! 拙者はげこおこぷんぷん丸ですよ!
 キャロちゃんに好き勝手言ってくれたお礼をたっぷりしてあげますよ!」
 びしりと前方を指差す『夢見大名』夢見 ルル家(p3p000016)に「そーよそーよ!」と『普通の少女』カロル・ルゥーロルゥー(p3n000336)が声を上げる。
「安心しろ、ルル。顔の良さならルルも、あの黒い聖女には、負けていない。マリア並、だ」
「そうよ、……ってお前結構アレね!? 自信ある方ね、バトルかしら」
「ん」
 ぐりんと振り返ったカロルの相変わらずな対応に『愛娘』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は何処か満足げに頷いた。
 ここは滅堕神殿マダグレス。つまりはカロルにとっって守るべき天義を脅かさんとする場所だ。
「まあ確かに、カロルが真っ先に遂行者の中で顔を見せたものね……火種という表現自体は否定はできないかな」
「おい! 雲雀!」
「でも"何故彼女が今ここにいるのか"――それを理解せず好き勝手に言っているのなら、それは正しく傲慢と呼ぶべきだろうね」
 衝動的に食ってかかるのがカロルの個性だ。『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)は「だろう?」と伺うように彼女を見れば、カロルはどこか満足したような顔をして居る。
「カロル様は……確かに敵でしたし、カロル様たちは、かなしいこと、たくさんしました。それはなくならないし、なくせない、です」
「ニルに言われるとごめん、ちょっと、申し訳なくなる」
 雲雀が「ん?」と言う顔をしたがカロルは気にせずに「ごめんね、ニル。おお、可愛い……可愛い……」と無垢な『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)の頭を撫で回している。
「……カ、カロルさま。
 そう。カロルサマは敵でした。でも、今はニルたちのなかま、です。一緒においしいシュークリームをたべました。
 カロル様は『かわいい』です。ニルはカロル様のこと、すきです。だから、カロル様のこと、悪く言わないでください!」
「おまえ、ほんとに可愛いわね」
 頭を撫で続けるカロルにニルは「わ、わ」と慌てた様子で声を漏しながら周辺に結界を張り巡らせた。
 眼前の魔種は「何あれ?」「知らない」と囁き合っている。カロル・ルゥーロルゥーは人々に恨まれて然るべき存在であったのだ。
 だが、『虚飾』楊枝 茄子子(p3p008356)という娘は「だからどうした」と言って除けることが出来る。それは強さであり、彼女自身の持ち得る性格とも言えよう。
「ルルが寝返った〜? そんな昔のこと覚えてないし。過去なんてどうでもいいんだよ。後ろを振り返るのは嫌いなんだ。
 てかそんなこと言ったら私も寝返った茄子子ですけど。
 ……ルルは普通の女の子だよ。それを選んだんだから。皆で言ってればそうなるの。私が言ったんだからそうなるの」
 傲慢な娘だ。だからこそカロルは嫌いではない。もしも、親友を選ぶならこの子にしようと考えて居る。 
 同様に『相棒』を選ぶならば「だ、そうよ、スティア」。そう、『天義の聖女』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)にするだろう。
「うん。ルルちゃんは普通の女の子だよ」
 清純な顔をして強か。打たれ強いのは彼女の持ち得るスキルではない、此れまでの波乱の日常を乗り越えた精神性だ。
 元聖女と呼ばれるカロルにとって『精神が強くなくてはそんな象徴的存在にはなり得ない』というのが絶対的な考えだ。
「マリアベルが聖女を名乗っているのは私も気に入らないかなー!
 正確には黒聖女だっけ……? それでも魔種になって暴れまわるような存在に名乗って欲しくないね」
 踏ん反り返って見せたスティアに「そうよ、天義の聖女はスティアがなるんですからね!」とカロルは踏ん反り返った。
 正しく虎の威を借りる狐、いいや、天義貴族の威を借りた元聖女である。
 元気いっぱい、自信過剰。そして口は悪いが明るく天真爛漫。『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)は「元気ですよねえ、カロルさん」と頷いた。
 自身の主は「けーちゃん」と呼ぶ可愛らしく元気いっぱいな人だ。元気いっぱいな人というジャンルに対して慧は人一倍弱い自覚がある。
「彼らの陰口に怒るのは『今まで』を忘れてないからこそでしょう。『今』はこうなんだってのを、ここで見せてやりましょ」
「良い事言うじゃない、慧!」
 ――もう友達の気分でカロルは言った。そんな彼女だからこそ、『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は笑ってみせるのだ。
「大した縁もねぇが、一度は手貸した女だ。
 あぁいえばこういう、さんざ漫才みてぇな絡みだったが、強気で面白れぇ女だしな、こいつ。俺にゃ、唯一がいるがな」
「お前に唯一が居たって友人ってのは何人居ても良いモンでしょう? ルナと私はフレンズ。
 というわけで、おい、クソ魔種共! 私はね素晴らしい友人がたんまーーりと居るのよね! 友達の居ないお前等とは違って! よって、ボコるわよ、スティア!」
「ががーん……」
 良い事を言っているようで悪口がたんまりと入っているカロルに「ルルちゃん、おしとやかに!」と注意をした次代を担う聖女は自然と笑みを浮かべていた。


 終焉獣達は穴の底から溢れ出す。カロルからすれば「天義(ひとんち)に勝手に入ってくるな」ではあるが、魔種達の言い分全てを否定する事は出来まい。
 魔種よりも先に終焉獣の排除を行ないカロルを守り切ることがイレギュラーズの共通作戦だ。茄子子はこれで無敵だと唇を吊り上げた。
 前線へと駆けて行くのは雲雀の放った冷気。ずるりと引き摺り込む血溜まりの気配を受けて終焉獣達が唸りを漏す。
「敵なのにい? いつ寝返るかもわからないのにい?」
「どうして信じられるのかな――くすくすくす」
 耳障りな声だと眉を吊り上げたのはルナであった。『クソガキ』と呼んだ相手にはスティア達が向かうだろう。その相手をするよりも駆けずり回る方がルナの気性にはよく合っていたのだ。
「敵だ味方だ、ごちゃごちゃうるせぇな。見方場面が変わりゃんなもん変わるもんだろ。
 んなことも分からねぇ馬鹿ってことだろ、このガキ共。生き物は生きてりゃ『争う』もんだ」
「争うのが罪なんじゃないの?」
「……あぁ、魔種は別だぜ。難しいこたぁ知らねぇがよ、『争い』じゃねぇ、『滅び』を生むっつーなら、そいつぁ無条件で相容れねぇ奴だわ」
 人の歴史が争いに塗れていることをルナは否定しない。むしろ、肯定的意見を述べて前線へと飛び出した。
「よぅ犬コロ共。すばしっこいだ? 並みの速さで語るなよ」
 ギリギリと奥歯を噛み締め牙を剥き出す終焉獣達へと嘲るようにルナは笑った。傍より飛び出す慧は、その身に流れる血潮は刀へと変貌し意地悪く強かに、その悍ましき呪いの気配を広げていった。
「そんなに火種ってのが嫌いなら、こいつをどうぞ?」
 カロルを狙う暇も与える事は無く。慧は自らこそを囮とした。後方のカロルが「気をつけなさいよ! おまえ、ぼこぼこにされるわよ!」と告げる声を聞きながら慧は終焉獣達に向けて勢い良く飛び込むルル家の姿を見る。
「キャロちゃんの悪口は底までですよクソガキ!」
 じろりと睨め付けるルル家にプロッフィーは「どう思う?」と囁いた。傍らのドリトルは「何で怒るんだろうね」と笑う。
「笑っている、な」
「あいつ殴りたいわね」
 カロルがぼやけばエクスマリアはこくりと頷いたプロッフィーの動きを追いかける。カロルを狙うことがないように、行く手を阻むのだ。
 エクスマリアとて怒っている。カロルとは即ち『友』だ。友達を侮辱されて黙って等居られない。エクスマリアの藍の眸が怪しげな魔力を灯した。
「友を侮辱した以上は、叩きのめす。それはもうぼこぼこに、だ」
 正直、ここまで『大事にされる』とは思って居なかったカロルも些か気恥ずかしさが浮かんでいた。初手よりプロッフィーに向かって行くスティアは「ルルちゃん、任せておいてね」と笑うのだ。
 目の前の敵がカロルを狙うというならば、カロルを守る。自身が立っている限りはカロルに手出しは無用だとスティアは自らの魔力を込めた一撃を『態度が気に入らない』プロッフィーに放った。
「うんうん。まあ、こうなるのが当たり前なんだけどさ。
 私今ご主人様ってやつを殺したいんだけど、もしかしてご主人様も戦いの火種なんじゃね? 一緒に首取りにいかない?」
『前しか向いていない』茄子子はドリトルを睨め付けた。その愛らしいかんばせに浮かんだのは笑みである。怒りを込めた微笑みは染み入る毒のようでもある。
 茄子子と言う娘は天義に愛おしい人が居る。その人のためならば寝返った茄子子という呼び名も享受できよう。そしてカロルも友人である。其れ等全てをひっくるめて馬鹿にされることなど許せるわけもない。
 終焉獣達を引き寄せていたルナはは『ガキ共』はやばくなる可能性があると告げた。此処で二人とも倒しておくべきだろう。故に、終焉獣の相手は任せろとその指先をひらひらと揺らす。
 ならば――
「よくも好き勝手言ってくれましたねクソガキ!」
 ルル家がプロッフィーへと飛び付いた。その鋭い一撃にプロッフィーの表情が僅かに歪む。
「過去は消えないとか、お前らに言われなくてもわかってるんですよ!
 わかった上でキャロちゃんに生きて欲しいと思った! 友達として一緒に生きていきたいと思った!
 罪なら一緒に背負うし一緒に償う! 被害者なら兎も角なんも関係ないお前らに言われる筋合いないんですよ! 理不尽な言葉を吐く奴はぶん殴る!
 馬鹿バーカ! アホ! ハゲ!」
 幼子のような語彙力でルル家が言った。面食らったカロルに「おい、カロルは下がってろ」と声を掛ける。強気な女もそれには些か驚いた様子であったか。
「それに拙者なんて2回もイレギュラーズ裏切ってますからね! そんな事言ったら拙者の方が罪深いわ! バーカ!
 1回目の裏切りは好きな男の子の為で、2回目裏切った時はその男の子振ったわバーカ!!」
「は!? それ詳しく聞かせなさいよ!」
「カロル、前に出るなよ」
 呆れた様子のルナにカロルが「気になる」とじたばたと脚を動かしている。正しく彼女らしいものだと感じ取りながらエクスマリアは無数の攻撃を重ね続けた。
 魔種だ。脅威であるのは確かだ。『口撃』を重ねている合間にも、動きを止めることはない。
「カロルの生を願った人は沢山いて、その為に生命を懸けた。散った人だっていた。
 願われた生命は誰にも否定できるものじゃない。確かに俺は彼女を敵として徹底していたよ――けど」
「なら――」
 プロッフィーは首を傾げた。雲雀の眸が怪しく光る。
「だからこそ、その傲慢を許すワケにはいかないのさ!」
 敵であった頃は、そうであるとして闘うべきだ。さもありなん。敵対者への対応などそうと決まっている。
 だが、彼女は生き残った。そして、味方になったのだ。
「終わった事をねちねち言うなんて性格が良くないね。ルストくらいひん曲がってるよ!」
 スティアは憤慨した様子でプロッフィーに告げた。心優しく穏やかな娘がこうも怒ることがあるとは、意外である。
 それが無意識下に彼女が抱いた感情の発露なのだろう。当人さえ自覚のない『無自覚な感情』は鋭き刃にもなろう。
「敵だったとしてもこの優しい子を助けたいと思ったんだ。
 今一緒にいる理由はそれだけで十分だよ。嫌な事を言う人はぶん殴る!」
 カロルを大切に思うスティアにとって、許しがたい言葉の数々であったのは確かであったのだ。
 言葉とは時に刃となる。その言葉以上に研ぎ澄ませた魔力が魔種達を追い込んで行くのだ。
 楽しげに笑うカロルと共に『たのしい』ことを重ねて『おいしい』を知っていきたいとニルは考えて居る。自分のことを『かわいい』と言って憚らぬ彼女とはもっともっと、仲良く出来る筈なのだ。
 元気いっぱいな女性に弱い慧は魔種達の様子を見遣る。どちらも、スティアと茄子子によって動きを食い止められているのだ。
 此処で、プロッフィーに口撃を集中させる。ニルのありったけに重ねたエクスマリアの紡いだ伝承。
「あんたのその回る口も、大概火種になりそうなもんですがねえ」
 肩を竦めて、そう言ってのけた慧にプロッフィーは「火種はカロルでしょ。聖女ルル。聖女ルル。冠位魔種の使いっ走り」と謳った。
 それは強気に出たのか。それとも、余裕であるように振る舞ったのかは定かではない。カロルは冠位魔種という言葉に一瞬の動きを止めた。
 ――好きな人だった。
 そんなこと知っている。この場の誰もが彼女が語らった愛を聞いていたのだから。
「過去の男なんて捨てるからね」
 茄子子はさっさと言ってのけた。振り返らない。あんな男は過去だろう。
「カロル、らしくねェな」
「感傷ってやつよ」
 はんと鼻を鳴らしてからカロルは「ほーんと、いやになっちゃう」と呟いて、スティアと茄子子に対して癒やしの術を掛けた。
「倒しちゃってよ」
「分かりました! 待っててね、キャロちゃん!」
『二回裏切った話』は出来れば忘れておいて欲しいルル家は取りあえずは茄子子に倣ったように今は前だけを見据えていることにした。
 地へと伏したプロッフィーを一瞥してからドリトルはじりじりと後方に下がる。
 全ての終わりは呆気はない。逃がしたとて構わない。だが、ルナの言う通り片割れを喪った魔種が何を行なうか迄は定かではない。
 そして――『逃げること何て』そもそも、茄子子は許してなんかいなかった。


「くすくす――ねぇドリトル。私から逃げられると思ってるの?」
 蠱惑的な笑みと共に脚を狙った。茄子子の不意打ちに地へとドリトルが転げる。ごろんと転げた魔種の鼻は真っ赤に染まり、愛らしさは見る影もない。
「ぐ」と声を漏すドリトルを茄子子は逃がすつもりもない。
「やる気が無いなら最初から来なかったら良かったのにね。まぬけなプロッフィーを恨むといいよ。おバカなドリトルくん」
 執念深く追っていく。それだけのことをしたのだ。慧は「さっきも言いましたけれど、あんたらのそのよく回る口も火種にはなるんすよ」と呆れたように肩を竦めた。
「『聖女』だけでも貰って行ってやるぅ」
「……許すと思ったのかな」
 カロルを守るように立ったスティアに「そうですよ」とルル家が同調し、地を蹴った。ぎらりと真珠が光を帯びる。
 同時に「あだっ」と声を漏して引き摺られるように後方へと下げられたカロルの腕を掴んだのはルナであった。今更お姫様扱いを求めてくることもないと踏んだが、引っ張った女は「おまえ、優しくしろよ」と尊大なお姫様らしい言葉を発しているのだ。
「……さて、一人になったのは油断だったかな?」
 あれだけの陰口を発していたのだプロッフィーもドリトルも油断していたに違いは無い。茄子子が追い縋り、その命を奪うべく雲雀は念入りに、念入りに動きを阻害し続けた。
 ありったけを込めたニルに一瞥したエクスマリアは小さく頷いてからこつり、と靴を慣らす。
「火種が、嫌い、だったろう? そんなに嫌いならば、まず真っ先に自分たちの首を切るべき、だ。できないのなら、やってやろう」
 そっと手が伸ばされた。エクスマリアを眺めてからドリトルが止めろ、止めろと叫ぶが、既に遅い。
 人としても扱わぬように、ごろりと転がった魔種の死骸に向けてカロルは勢い良く飛び出した。
「待て、死ぬな。おまえらの主、誰だ! 私の悪口言ってた奴!」
 声を荒げるカロルにスティアがびくりと肩を動かした。ここにいる以上、この魔種達はオーグロブの手の物か。
 天義を護り抜くのはカロルにとっては重要な事だ。元々、聖女という座は長命であるスティアと共に『一応』繋いで行くつもりであった。
 イレギュラーズである以上はその座に納まっているわけには行くまい。一先ずは『鳥籠女』――カロルはそう呼んでいる――に任せておけば、何処へだって行ける。
「キャロちゃん!」
 呼ぶルル家にカロルは「あ、死なれた。くそ」と思わずぼやいてから振り返った。相変わらず過ぎる様子ではあるが、これがカロルなのだとエクスマリアも納得している素振りがある。
「残念、だった、が……ルル、怒り疲れただろう?
 さて、先日はシュークリームだったが、今度はスコーンでも食べに行く、か?」
 問うたエクスマリアにカロルは「……私、敵だった女らしいけど?」と拗ねた様子で言った。
「ニルは、カロル様ともっといろんなものを食べたいです。カロル様の『おいしい』をもっと知りたいです」
「それじゃ、行きましょう。スティア、お財布忘れた」
「ががーん……領収書はダメだよ」
 ぎくりと肩を動かすルル家を見てからスティアは嘆息する。斯うしていれば普通の少女達なのだ。雲雀は眺めて笑みを零す。
「カロル、これからどうする?」
「スコーン食べながら考えるけど……。私は広範囲を救うことを目指したいわね。
 天義を守るのは、勿論なのよ。でも、そうね……。
 例えば、砂漠に座ってるデカブツを倒せば真の英雄じゃない? それに、スティアは森の魔女に縁がある種族。
 ……ってことで、おまえらも行きましょうよ」
 そんなことを言ってのけたカロルはぽつりと呟いた。
 ――もしも、あれがこの地に到達したならば、もう取り返しも付かなくなる。それだけ『嫌な気配』なのだ、と。
 彼女は『終焉の徒』であった。だからこそ、最も悍ましい存在を倒したいのだ。
(まあ、嘗ての私もきっとそうしたでしょうね。大きな災いを前にして命だって賭せちゃう女だった筈だし――)
 今は、スコーンを食べながら仲間達と過ごす未来の為に戦う事を決めたのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

楊枝 茄子子(p3p008356)[重傷]
虚飾
刻見 雲雀(p3p010272)[重傷]
最果てに至る邪眼

あとがき

お疲れ様でした。カロルの向かう先が決まったようです。
これから先の大きな戦いも、よろしければ手を貸してくださいね。

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