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シナリオ詳細

<漆黒のAspire>cocone di marcia

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●舞台裏
「ねぇ、あなたは行かないの?」
 ヤマネの耳を生やした少女が小さなタクトを指の上でくるくると回しながら問いかけた。問われた男はうーんっと少し視線を彷徨わせてから黒髪頭をかき、「ああいうのは君が得意だろう、ココネ」と口角を上げる。
「そうね! アタシたちは『操る』ことが得意だけれど、あなたは何方かと言うと――」
「おっと。俺を獣みたいに言わないでくれないか?」
「獣じゃない。アタシたちみんなみーんな! そう、よ!」
 人間と呼ばれるヒトたちだってそうだ。皮の下にあるのは血と肉で、欲と衝動が詰まっている獣だ。
 男が肩を竦めると、少女はまあいいわとタクトを回すのをやめた。
「楽しそうなことに乗り遅れたって知らないんだから!」
 ああ、滅びへの行進曲が聞こえる。
 大勢の獣たちを従え、少女は楽しげに笑った。
 この世界はハッピーエンドを迎えない。
 少女を始めとした『世界の敵』たちがそうするからだ。

●そして幕は上がる
 冠位色欲の危機を乗り越えた幻想王国は、賑わいを見せていた。残る爪痕を払拭せんと、人々は率先して楽しいことへと没頭したからである。
 そんな折に幻想各地で古代遺跡が多数発見となれば――冒険者たちはこぞって遺跡へと向かう。そうして財宝を手に帰ってはみな「簡単だった」「全然危険じゃなかった」と口にするものだから更に多くの冒険者達が遺跡を踏破し、持ち帰った財宝で町は宴会や賭博と毎日毎夜賑わった。
「何か最近、景気がいいよね」
「王国の話?」
 ローレットは酒場も兼ねているため、何か飲む? と問うてきた劉・雨泽(p3n000218)へカクテルの名を告げながら、ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は紫の髪を揺らした。
「そう。不自然なくらい」
 幻想王国に起きている異変は、古代遺跡の発見だけではない。
 王国の外周付近にワームホールが出来て、終焉獣たちがゾロゾロと出現している。けれどこれまたおかしなことに、終焉獣たちが王国や国民を襲う気配を見せていないのだ。
 そのためイレギュラーズではない冒険者たちは古代遺跡踏破の方を優先しているし、冒険者たちではない国民たちも「ああいう危なさそうなのはローレットがなんとかしてくれるし、近寄らないでおけばいいよね」みたいな雰囲気だ。これまでにローレットが築いてきた実績故か、信頼感と安心感の下で危機感は薄い。
 だが、貴族や王国は違う。『今は何もしないだけ』で出遅れてはいけない。戦える騎士を招集し、ローレットへも依頼を出した。もうじき時間がくれば、雨泽とジルーシャも、騎士たちと王国辺境へと終焉獣を減らしに行く。
「でも賑わうのは悪いことではないのよね」
「でもさ、こういうのってまるで――」
 雨泽が何かを口にしかけた時、ローレット内がざわついた。

「――ニルか、雨泽はいないか!?」

 知った声が響いて、雨泽は視線を向け、オレンジジュースを口にしていたニル(p3p009185)はコップを置いた。
「ジュゼッペ様!?」
 カウンターの爪先が届かない高い椅子から飛び降りて、慌てて駆けていく。雨泽もジルーシャと視線を交わしてからニルの後を追った。
「すまない! 力を貸して欲しい!」
 叫ぶように喋る彼の常と違う姿。そして彼とともにある存在がいないことに、ジュゼッペ・フォンタナを知っている者はすぐ気付くだろう。
「ミーリア様とカリタス様は……?」
「君、プーレルジールに帰ったんじゃ……」
 ロックの力を借りて初めて混沌世界へときた異邦人たち。ミーリアとカリタスはジュゼッペの作った『ゼロ・クール』で、ジュゼッペは『魔法使い』だ。彼等は王都での観光を終えて笑顔で別れを告げ、境界図書館へ向かったはずだった。
「襲われたんだ、小さな少女に」
 最初はカリタスがおかしくなった。
 次にジュゼッペがおかしくなった。その時の様子を、急に頭の中も視界も真っ白になったようだったとジュゼッペが告げた。
 ジュゼッペの意識がハッキリとするようになった時にはふたりの姿は無く、ジュゼッペは全身を酷く打っていた。
「……ミーリアが私を全力で突き飛ばしたのだと思う」
 ジュゼッペは人に寄り添うゼロ・クールを作るため、ミーリアは戦闘タイプの人形ではない。そのミーリアが、きっとリミッターを解除して、自身のパーツが壊れるのも覚悟の上で物理的にジュゼッペを離れさせようとし――衝撃でジュゼッペは気を失ったのだろう。と、知った顔に囲まれて幾分か冷静さを取り戻し、ニルから治癒を受けながらジュゼッペが推察した内容を告げた。
「ジュゼッペ様、だいじょうぶです。ニルたちが絶対の絶対にすくいます」
「そうね、ジュゼッペには此処で待っていてもらって」
 ちょうどもうすぐ、騎士たちとローレットをたつところだったのだ。だから任せて欲しい。
 そう告げるが、ジュゼッペはかぶりを振った。
「駄目だ。私も連れて行ってほしい」
「でも……」
「君達だけでどうやってあの子たちを探すんだ?
 何処に連れさらわれたのかも解らない。王国内にいるのかどうかすら解らない。それなのに、どうやって。
 ジュゼッペの瞳は真っ直ぐで、気休めなんて必要としていない。そして彼は――
「私にはミーリアの居場所が解る」
 ウーヌスという個体が行方不明となったことがあった。それ以降、ジュゼッペはミーリアたちに意思を聞いた上で、練達で言うところのGPSのようなジュゼッペが魔力探知が出来るペンダントを所持させていた。
「戦いとなった場合、私は介入しない。身を守ることに徹すると約束する」
 それがミーリアとカリタス、プーレルジールで留守番をしているウーヌスのためでもあると誰よりも理解して。
「一刻も早くあの子達を救うため、私も連れて行ってほしい」
 どうか力を貸して欲しいと、ジュゼッペは深く頭を下げたのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 こちらは幻想でのお話となります。

●成功条件
『クルエラ』ココネ・ソーニャの撃破
『ゼロ・クール』たちの生存

●シナリオについて
 幻想王国の外周部を徐々に囲むように出現しつつある終焉獣は、しかし街や村落を襲う様子を見せていません。ですが貴族たちは危機感を覚えていますし、これまで終焉獣と対峙してきたイレギュラーズたちも見過ごして良いものではないと思うことでしょう。
 国や貴族たちはローレットに依頼し、彼らもまた騎士を送ります。100人の騎士部隊とともに終焉獣の囲いの一角(国全体を囲むほどに居ます)を崩さんと出立せん――としていたところへ、ジュゼッペが駆け込んできました。
 ジュゼッペの案内で国境近くへと向かうと、蠢く終焉獣たちの群れの中、敵指揮官らしき少女の傍にミーリアとカリタスが居ることが超視力があれば見えることでしょう。
 騎士たちと終焉獣たちがぶつかり合う中、あなたたちは指揮官の元まで向かうこととなるでしょう。

 PCたちが直接見ていない情報は全てPL情報です。


 このシナリオの時間軸は『<グラオ・クローネ2024>いとし花を君へ』の後日となります。
 ミーリアとカリタスはそちらのシナリオに出ているため、まだ知り合って居ない人も知り合っておくことが可能です。(カリタスは前述シナリオで初出)知り合っておくと……このシナリオでPCさんを動かすに当たってPLさんは少し楽し――感情を籠めやすいかもしれません。

●フィールド『幻想王国辺境の草原』
 森と森の間にある見晴らしの良い草原です。こんな状況でなければピクニックしたらとても楽しかったことでしょう。
 互いに違う森を背にしており、隠れて移動して背後を取る等は出来ません。森には動物たちの気配が多くあります。
 多くの兵士や終焉獣がぶつかりあえるくらいに広い戦場となります。

●エネミー
◯『クルエラ』ココネ・ソーニャ
 ヤマネ獣種の小さな少女に見えますが、指揮官級個体の終焉獣です。
 性格は明るく元気。よく喋るほう。
 クルエラ級は滅びを蔓延らせる事に長けているようで、一般人、動物、精霊等々の意志を惑わせ『操る』能力を持ちます。
 様々なBS付与や反射能力に長けており、使役するものを増やして手数を増やすこと可能です。

○終焉獣 … 30体
 真っ黒い影で作られた玩具の兵隊のような格好をしています。それぞれ手に様々な武器を持ち、死への恐怖は持たず、人間たちを滅ぼさんと勇敢に向かってきます。
 回復や遠距離攻撃等の後衛担当もいますが、騎士たちが惹きつけてくれていればココネへと向かったイレギュラーズたちを攻撃することはありません。しかし、イレギュラーズたちが横を通り抜けた際や後で攻撃をするのであればその限りではないでしょう。
 指揮官のココネが撃破されると残っている個体は撤退します。

●友軍:幻想王国騎士 … 100名
 うおーー祖国に栄光あれーーっと駆けて行って終焉獣たちとぶつかります。
 イレギュラーズでも何でもないため、正直ギリギリかな、くらいの戦力差です。多くの死者が出ることが予想されていますが、彼らは国と愛する家族たちのために死を覚悟で戦いにきています。
 彼らを少しでも多く生かすために、ココネへの戦力を減らすも、イレギュラーズたち次第です。

●同行NPC
○劉・雨泽(p3n000218)
 ローレットの情報屋。
 何か特別に指示がなければジュゼッペを守るために彼と同じ場所に留まります。騎士たちの後方ですが、抜けてくる終焉獣がいないとは限りません。

○『魔法使い』ジュゼッペ・フォンタナ
 青銀髪の青年。秘宝種の元となるゼロ・クールを作る職人です。人形に疑似生命を吹き込むことが出来ます。
 自身が手掛けるゼロ・クールたちの幸せが何より大切で、彼等がいつか良き主と出会えることを願っています。
 ミーリアの位置が解るため同行しています。
 混沌世界では彼の能力が制限されているため、戦闘開始後はその場に留まります。(終焉獣たちとぶつかりあう騎士たちよりも後方)

○『ゼロ・クール』ミーリア
 秘宝種の元となったとされるプーレルジールの人形。ジュゼッペ製。
 ココネの傍に居ます。ココネから待機命令が出ているのでしょう。ぼんやりとした表情で、イレギュラーズたちの声に反応しません。まだ寄生型終焉獣等に寄生はされていませんが、ココネが居る限りココネの命令に従ってしまいます。
 ココネとの戦闘を始めるとミーリアがハッとし、あなたたちを認識します。ココネのことを『マスター』と思いこんでおり、彼女を必死に庇おうとすることでしょう。ミーリアに戦闘能力はありません。ただ破壊されるまでかばい抜くことしかできません。既に右肩が外れています。
「どうしてミーリアのマスターを傷つけようとするのですか!?」
「やめてください! ミーリアはとても悲しいです」

○『ゼロ・クール』カリタス
 秘宝種の元となったとされるプーレルジールの人形。ジュゼッペ製の最新作で、ニルさんの容姿とよく似ています。
 終焉獣(上記30体に含まれない)によってココネよりも後方に下げられています。生まれて間もないカリタスはミーリアのように『マスターを必死に庇う』ところまで成長できていないからです。
 カリタスがココネより前に出ることはありません。始終ぼんやりとしており、声等に反応しません。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。
 此度、関係者の採用はいたしません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はC-です。
 信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
 不測の事態を警戒して下さい。

 それでは皆様、よろしくお願いします。

  • <漆黒のAspire>cocone di marcia完了
  • GM名壱花
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年03月04日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談5日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために

サポートNPC一覧(1人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草

リプレイ


 ――こっちだ。近い。
 ジュゼッペ・フォンタナの案内で、イレギュラーズたちは森の中を駆けていく。
 幻想王国の地理に詳しい者であれば、ジュゼッペの向かう先が国境付近であることは解っている。最初に気がついた『竜剣』シラス(p3p004421)が目配せで察したイレギュラーズも居るだろうし、元より国境付近を見に行く予定であった幻想王国の騎士たちも気付いている。
 このまま進めば、国境が近い。つまり、そこには――大量の終焉獣たちが居る。
(嫌な予感がするわね……)
 先刻、ローレットで劉・雨泽が言いかけた言葉の続きが『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)には解る気がした。
(嵐の前の静けさ――よりは、むしろ賑わっていたけれど……このまま『いつもと変わらない』『平和な』日々が続くんじゃないかって、思っちゃっていたのは、アタシも同じ)
 そんなはず、ないのに。そうあってほしいと人は都合の良い方へと目を向けたがる。
「向かいの森だ」
 足を止めたジュゼッペが顎に垂れた汗を手の甲で拭う。
 眉を寄せるのは、いくつもの蠢く姿が目視できるからだろう。
「あれが――」
『それ』を直接見たことがないジュゼッペにも解る。あれは、よくないものだ。ローレットが終焉獣と呼ぶ、滅びのアークから生まれた獣を呼称するものたち。獣であるが、形状は様々。今眼前に居るのは――
「おもちゃの兵隊?」
 目の上に手の庇を作って目を細めた『無尽虎爪』ソア(p3p007025)の声に、「そうみたいだね」と『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が顎を引く。四足の動物でもなく、人型でもなく、影のような玩具の兵隊。それがずらりと並んでいた。
「ミーリア君、無事だといいのだけど……」
 ミーリアとの面識があるアレクシアが案じる。プーレルジールではミーリアのきょうだいに当たる『ウーヌス』が寄生型終焉獣に襲われそうになっていたこともある。あれだけの終焉獣がいれば、寄生型終焉獣が居ても――何があったっておかしくはない。
「居たわ」
「ああ、居るな」
 超視力で前方を確認していたジルーシャと『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が声を上げた。ジルーシャはミーリアの姿を知っているし、エーレンは特徴をジュゼッペから聞いている。その姿が指揮官らしき者の傍にあると告げれば、ジュゼッペの喉が苦しげに鳴る。
「ジュゼッペ様……」
 案じる『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)が彼の手をそっと握る。ミーリアもカリタスもジュゼッペの大切な『家族』であることを、ニルは知っている。大切な人に何かあった時は『コアが割れてしまうような不安』を人は感じることも。
 ジュゼッペがゼロ・クールたちを大事に思っていることを知っているのはニルだけではない。彼等に出会ったことのある者たち――特に『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は創作をする者として、その思いに理解がある。血の繋がりが無くとも、その手で生み出した存在は我が子のようなもの。長い日数を掛けて作り、命を吹き込み、そしてともに生活しているジュゼッペの心中を察してしまう。
「任せておけジュゼッペ、こういう時のためのイレギュラーズだ。今回だってそれは変わらないさ」
 以前も何度か、ジュゼッペたちはイレギュラーズ――『アトリエ・コンフィのお手伝いさん』たちの世話になっている。今回だって大丈夫だと肩を叩いてやれば、「ああ」と力なくも声が返ってきた。
「それじゃあローレットで話した通り、僕はここにジュゼッペと残るから」
 皆には『後はよろしくね』、ジュゼッペには『いいね』の念押しを一言で済ませた雨泽が武運をと微笑んだ。
(創造者と被造物の間にも、分かちがたく尊い絆というのは確かに存在しうることを俺は知っている)
 ジュゼッペとは初対面だが、その程度の道理は分かっているつもりだとエーレンも胸中で思う。
「雨泽、魔法使い殿を頼んだぞ」
「うん。皆がミーリアたちを連れ帰ってもジュゼッペが無事じゃないと意味がないからね」
「必ず取り戻すわ。アタシたちを信じて」
 ジルーシャはジュゼッペの瞳をまっすぐと見て。それから「ちゃんとジュゼッペを守るのよ」と雨泽の背中を叩いて活を入れた。
「ジュゼッペ殿、待っとって下さい。おんしの家族は、必ずや取り戻してご覧に入れますけえ」
 ただ待つのは辛い。その気持ちを汲んで、それでもと『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)が告げ、ジュゼッペは顎を引く。先に雨泽が告げた通り、ジュゼッペは安全な場所にいなくてはならない。そうでなければミーリアたちが無事だとしても――彼等の折角芽生えた『心』は死んでしまうことだろう。
「雨泽殿、ジュゼッペ殿を任せます」
「雨泽様、ジュゼッペ様をまもっていてください」
「……僕ってば、結構信用ない?」
 そんなに念を押さないでと雨泽が肩を竦めるのは、空気を軽くするためだ。……前科は棚上げだ。
「雨泽さんも、無事でいなきゃ」
 心配そうにジュゼッペへとファミリアーの小鳥を手渡す友人――ニルの姿を視界に収めてから、『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)もそう口にした。勿論、雨泽だけでなく、騎士たちも、他の仲間たちも、皆の無事を願う。
「一応、『願う星のアレーティア』と『死せる星のエイドス』は持ってきているから」
 ジュゼッペを安堵させるためにも、友人の憂いを軽くするためにも飛呂がそう告げれば、「それじゃあ」と『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)が言葉を引き継いだ。
「彼ら彼女らの奮戦に応える為にも、最善を尽くそうじゃないか!」
「よし、行くか」
 シラスがアレクシアを見る。終焉獣と接敵時には騎士たちとともに行動すると予め告げていた彼女には、まだやることがある。
「騎士の皆さん!」
 騎士たちの前に立ち、澄んだ声で高らかに告げる。聞いていた通り、これからあの終焉獣たちとぶつかることになる、と。けれど絶望する必要はない。そのためにアレクシアは彼等の傍に居る!
「大切な故郷のために、護るべき人のために、全力を尽くしましょう! ただし、自分や隣の仲間の生命を護ることにも全力を尽くすこと! 誰かが死ねば、それだけ笑顔が失われる。1人足りない勝利の宴なんて、楽しくもないでしょう! 危ない時は無理しないでね!」
 おおおぉぉおおおおおお!
 アレクシアの声に、騎士たちが応じた。勇気の花を胸に咲かせる彼女の姿がどのように騎士たちに映ったのか。それがシラスには解って、少し誇らしいような――だがそれが彼女だと当然のもののようにも感じられた。
 行こう、と戦乙女(アレクシア)が言う。
 彼女を先頭に、一行は森から出て――駆けていく。

「あら?」
 イレギュラーズたちのいる反対側の森で、『クルエラ』ココネ・ソーニャは声を上げた。
 大勢の騎士たちが来ているのには気付いていたが、来ないだろうと思っていたのだ。
「今日は『見てるだけ』じゃないのね。……あ、この子たちを取り返しに来たのかしら!」
 んふふ、とココネは笑った。
 だってもう、ココネは飽きていたのだ。『包囲をするだけ』なことに。
「『襲撃してきたのなら仕方ない』わよね! ヴェラムデリクト様も怒らないわよね!」
 ヴェラムデリクトの狙いからは反することになるが、『仕方がない』。だってイレギュラーズが襲いかかってくるのだから。――そうなるように仕向けたことが形となったことにニッコリと笑みを浮かべたココネは、手の中のタクトをくるりと回す。
 気をつけることは『喋りすぎない』ようにすることだ。ココネはお喋りである自覚があるから――でも、聞かれなければ答えない。ヴェラムデリクトの思惑も、今幻想王国に起きていることも、全部全部、知っているけれど。
(お人形に気を取られるはずだし、大丈夫よね!)
 ふふんと胸を張ったココネは、手にしたタクトをびしりと掲げた。
「さあ兵隊たち、前へ! 出撃よ! 派手に楽しみましょう!」
 獣らしく、狩りをしましょう?


「じゃあシラス君、また後で!」
「ああ」
 向かってくる終焉獣へと駆けながら、コツンと手の甲を当てる。
 シラスはそれを合図に少し彼女から離れ、アレクシアが騎士たちを振り返る。
「さあ、行こう。皆!」
 勇ましく、そして笑顔を向けるのも忘れずに。
 いつも前方を見つめる向日葵のようなアレクシアが速度を上げ、シラスの前方を騎士たちを引き連れ駆けていく。
 彼女の傍には、飛呂が居る。飛呂とアレクシア。ふたりは騎士たちの被害を減らすために騎士たちとともにその場に残る手はずとなっている。
 ――騎士たちに頑張ってもらい、その間にココネの相手をする。
 その選択も出来た。
 けれどしなかった。
 彼等、彼女等には守るべきものがあり、帰る場所もある。
「直ぐに終焉獣の元を断つ、それまで耐えろ。アンタらにはまだ役目がある、死ぬなよ」
 アレクシアの動きを目で追い、終焉獣の動きを見定め、シラスが駆けていく。
「ニル、頑張って」
「飛呂、気をつけて」
 友人同士、視線を一度交らせ、離れていく。ニルとジルーシャはすぐにシラスの後へと続いた。
「ちょっとダメージを与えていくね!」
「アレクシアさんと飛呂君も……騎士の皆さんも、どうか無事で!」
「必ず大団円を掴み取ろうな!」
 身体強化をしたソアが《ボルトブリッツ》を放つと、カインと錬もそれに続いて範囲攻撃をひとつ放ってから駆けていく。
 一行の殿は支佐手。仲間たちの後を追いながら後ろを振り向き《三和の大蛇の天変地災》を放てば、その直後にアレクシアが再度赤き花の如き魔力塊を咲かせ――炸裂させた。

「……ハァイ、また会ったわね、ココネちゃん――アタシたちの大切なお友達を、返して頂戴な」
「あら。アタシに会ったことある? もしかしてアタシのファン? やだ、嬉しい! でもね、駄目よ。駄目」
 クルクルとココネはタクトを回し、ピシッとポーズを取る。……と、彼女の傍に居た動物や土塊みたいな物がやんややんやと紙吹雪を散らす。
 微妙な表情となったイレギュラーズは数名。
 それを無視して突っ込んでいくのはシラスだ。
「まあ、活きが良い! お人形向きではないわ!」
 ココネを無視しきり、彼女の傍らに居たミーリアを吹き飛ばしたものだから、ココネは意外そうに目を丸くした。まさか、いきなりミーリアを狙うとは思わないだろう。
 何せ、ミーリアはただぼんやりとしているだけで、イレギュラーズにはどんな状態なのか解らない。引き離すにしてももっと穏便に行く……と思っていたのだ。
「ちょっと! アタシのお人形が壊れちゃうじゃない!」
 シラスの《衝術》は直接的なダメージを与えない。
 だがそれは、相手が受け身が取れてしっかりと立っていられれば、の話だろう。
「ミーリア様!」
 意思のない人形状態のミーリアは吹き飛ばされて地面をゴロゴロと転がり、直接的なダメージ以外の傷がミーリアの体に刻まれる。ニルはすぐさま《天上のエンテレケイア》でミーリアの傷を癒やし、保護結界とオルド・クロニクルも発動させた。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。終焉獣ココネとやら、悪いが何一つお前の好きにはさせない」
 すぐにエーレンが腰を落とし、居合いからの衝撃派を放ち、同時に近接する。
 それをココネの周囲にいる動物や土塊が受け、跳ね返す。
「動物たちを使役するのか」
 彼女の行動を見なければ、情報は知り得ない。獣除けの香の作り方を知っているなと錬は瞳を眇めて思うが、それで彼女の支配から獣たちが抜け出せるとも思えない。
「ゼロ・クールたちを狙ったのはセンスが良いが趣味は最悪だな! ここで終わるのはお前たちの方だ!」
 自身の強化をしながら錬が式符を起こせば――シラスの向こうで、ココネへの攻撃で僅かにミーリアが反応し、呼びかけるニルとジルーシャの声が響いた。
「ジュゼッペ殿の家族を盾にするとは下衆な真似を……。当然、その首を刈られる覚悟は出来とるんでしょうの?」
 支佐手の手番で識別のない《三和の大蛇の天変地災》を放っては仲間たちも巻き込んでしまう。ゆえに《名乗り口上》で声を上げ意識を此方へと向け――「ちょっとちょっと! アタシのお人形だってば!」……られなかったので、ココネの視界に無理やり体をねじ込む。
「……皆様、どうしてミーリアのマスターを傷つけようとするのですか?」
「ミーリア様?」
「ミーリア、彼女はアンタのマスターじゃないわ」
「どうしてそんなことを言うのですか?」
「ミーリア、アタシのお人形。戻っていらっしゃい!」
「はい、マスター」
 シラスの前でヨロヨロと立ち上がったミーリアがココネへ近寄ろうとする。
「おっと」
 けれどシラスがその行く手を阻む。
 ミーリアはシラスを見上げ、彼の向こうのココネを見ようと体を傾け、それから他のイレギュラーズたちを見た。
「マスター……」
 困惑した声が発せられる。
「行かせないよ、あなたの相手はこのボクだ」
 支佐手だけじゃなくソアまでががおと鳴いて。ココネとミーリアを接触させないようにし、その間にもイレギュラーズたちはココネへと攻撃を仕掛け、彼女もやり返す。
「悪いけど、その手の力は好みじゃないからね。容赦は出来ないよ!」
 カインも高らかに告げる。
 イレギュラーズたちが、『マスター』に攻撃をしている。
 視界に入る情報に、ミーリアはただただ困惑した。守りに行きたい。きっと皆、何か誤解をしているのだ。身を挺してマスターを守ってあげなくては。
「ミーリア、来て。アタシ、いじめられているの」
「やめてください! マスターにひどいことをしないで!」
「アンタの主人じゃない」
「いいえ、いいえ!」
 シラスの服をぎゅうと握ったミーリアがかぶりをふる。
「ミーリアちゃん、ジュゼッペがアンタを待っているわ」
「そうです。おんしの家族はジュゼッペ殿でしょう?」
「でも、マスターは……」
 ミーリアにとって支佐手もジルーシャも『優しい人』だ。
 イレギュラーズの人たちも、『優しい』……はず。
 なのに、どうして。
 ミーリアには解らない。
 マスターが呼んでいる。悲鳴を上げている。――それが楽しげな笑い声であっても、ミーリアには悲鳴に聞こえている。
 力のないミーリアには、やめてくださいと願うことしかできない。
 その姿に、これまでのミーリアを知っている錬は苦い顔をした。

「ます、た」
 ココネに駆け寄りたいのだろうに、それができない。
 人々の日常のお手伝いをするために作られているミーリアには、攻撃もできない。
 人に寄り添うために、同じ歩幅でゆっくりと歩けるように作られているミーリアには、シラスの反応を超えることもできない。
「ますた、ますた、ますた、ますた、ますた……ますたぁっ」
 ミーリアが人であれば、涙を零していたことだろう。悲しげな声を発しココネを求め、シラスにくっついて動かせる方の腕だけを彼の体の向こうへとただ伸ばす。シラスが居る限りその手は決して届くこともなく、ミーリアはココネの元へはいけない。
「目を覚ませよ、クソッ」
 決して気分の良いものではない。けれど、完璧に切り離した、と言える。
 ――だが。
 戦闘時間が伸びるにつれ、ミーリアの様子が明らかにおかしくなっていった。
「ミーリアがお守りしないと。ミーリアがマスターを守らないと。ミーリアがマスターを、ますた、ますた、ミーリアがミーリアがミーリアがミーリアがミーリアがミーリアがミーリアが」
 マスターを守らねばと思い込んでいるミーリアにとって、それはコアへの過度なストレスだ。
「……いけない」
 その異変に最初に気がついたのは、ゼロ・クールと『魔法使い』の心を案じていたエーレンだった。
 心なしの意味をもつゼロ・クール。けれども彼等にも心があることを、プーレルジールで彼等に接したことのある者は知っていることだろう。そして、死はふたつある。肉体の死と、心の死。心なしのゼロ・クールに芽生えた心。それが壊れてしまったら――体を修理したとしても、それはもう元のゼロ・クールではない。
「あっ」
 ニルは森でジュゼッペに問うた言葉を思い出す。
『ジュゼッペ様はミーリア様たちをなおせますか?』
『コアに傷がなく、体だけならば。ただコアに傷がなくとも、人格が壊れてしまった場合は――』
 もしミーリアたちのパーツが壊れていたとしても、『魔法使い』であるジュゼッペは己の工房に持ち込めば直せる。だからコアだけは守って欲しいと、コアは胸にあるとニルは教えてもらっていた。
 体は直せる。けれど人格が壊れてしまえば、もう、白紙化(リセット)するしか手がない。ミーリアの心の死はミーリアが培ってきたもの全てが喪われる――死亡と同義である。現状、すぐにでもジュゼッペに見せれば助かるだろう。けれど――ジュゼッペは近くに居ない。
 ゆえに取れる行動は限られる。だがこの場にいるイレギュラーズたちはゼロ・クールを救える可能性を秘めたアイテムを持ち込んではいないし、意識を容易に刈り取れば殺してしまう可能性とてある。……一名を除いて。
「シラスさん、俺が!」
 唯一【不殺】を持つカインが叫ぶ。しかし、彼の不殺の一撃ではきっと意識を刈り取るまでには至らない。
「待って」
 だから、ジルーシャが動いた。
「その前にアタシが」
 ジルーシャの動きに合わせ、ふわりと柔らかな香りがミーリアの元へと届けられる。香術《追憶のミオソティス》の優しい香りに包まれれば、ミーリアが僅かに動きを止めた。優しい香りが、ミーリアの記憶域にある大切なものを見せているのだろう。
「ます、た……みーリア……皆様と、クッキーを……」
 イレギュラーズたちとクッキーを焼いた。ジュゼッペの好きなチョコクッキー。あの日の記憶は、きっとミーリアの宝物。また焼いて、また皆でお茶をしたい。楽しいお話をして笑いあって、ジュゼッペの笑顔とウーヌスの笑顔もそこにあって、新しくカリタスの笑顔もそこに加わって――。
「だいじょうぶです、ミーリア様! また、いっしょにやきましょう!」
 ニルが声を掛ける。その傍らでカインが《神気閃光》を放ち、神聖な光でミーリアの意識を刈り取った。
 しがみついた状態から力が抜けていくミーリアの体をシラスが支える。少し離れた木々の根本に寝かせてココネへ向き合ってもいい――が、何らかの手段で奪い返されても癪だ。手の届く範囲に居た方が良いと判じて傍から離れず、体のみをココネへと向き直る。
「さて、と。後はアンタだけだ」

 ――今だ。
 エーレンは、そう判断した。
「ニル!」
「はい、エーレン様!」
 広げられたエーレンの腕に飛び込んで、抱えてもらう。エーレンの強化された運搬性能で、カリタスの元まで運んでもらうのだ。
「あっ、ちょっと、駄目よ!」
 ココネがあからさまに慌てた。早く移動できるからといって突出せず、手の内を伏せていたエーレンの奥の手をココネは知らない。彼女の隙をついて迂回し、カリタスの元へと向かうには十分だ。
 ただ、カリタスは終焉獣の背に乗せられている。
 その終焉獣は玩具の兵隊とは異なり、黒豹のようなしなやかな獣の姿だ。ふたりの接近を察知すれば逃げる素振りを見せる。
「ニル、カリタスを頼んだぞ。落ち着いたら俺もゼロ・クールの2人と話したいからな」
 しかし、僅かにエーレンの機動の方が高い。
 黒豹終焉獣の前でニルを手放したエーレンはすぐさま腰を落とし、一閃。
 だが、黒豹は怯まない。
「カリタス様!」
 ニルも攻撃を仕掛ける。カリタスに当てないように注意をして――
「そこまでだ」
「え……?」
「この子は俺のなんだ」
 音も気配もなく、殺意さえ見せず、黒髪の男がニルたちの前に立ちはだかった。片手で黒豹終焉獣を撫でる男の武器の切っ先は、エーレンの首に。僅かにでも動けば貫かれるだろう。
「アンタ……リベルタ? どうしてここに……」
「やあ、ジルーシャだったか? また会ったな」
 黒髪の、人間種に見える男だ。砂漠でちっさ君の対処をした日に、ニルもサンド・バザールでチラと見た記憶がある。
「だから駄目って言ったのに!」
「ココネ、賭けは俺の勝ちだ。おかげで楽しい気持ちになれた」
「も~~~~~~!」
 ココネが地団駄を踏む。地面からポコポコとモグラたちが顔を覗かせた。
「ココネとの約束通り、この人形は俺が貰っていく。……君たちが俺に『また会いたい』と思ってくれるように」
 人という存在は何に嘆き悲しむのか。
 人という存在は何を喜び尊ぶのか。
 そして、気持ちを向けさせるにはどうすればいいか。
 それらを『学習』してきたリベルタは、人好きのする笑みを浮かべた。
 その笑みのまま、何の予備動作も見せずにエーレンに赤を散らさせ、ニルにも地に膝をつけさせる。ココネへの対処を誤れば、盤上をひっくり返されることを理解し、ココネへの対処をしているイレギュラーズたちは容易に動けない。
「また会おう。取り返しにおいで。まあ、無事かどうかは俺の気分次第だが」
「カリタス、様……」
 地に伏し、伸ばしたニルの手は届かない。
 リベルタは終焉獣とカリタスとともにその姿を消していた。

(あっちは上手くやれてる、か……?)
 ジュゼッペと雨泽が居る森へ終焉獣たちを流さないように位置取る飛呂には、終焉獣たちの向こう――ココネと仲間たちの動きは見えない。けれど確実に、ジュゼッペが安全な事は解っており、心置きなく戦える。
 飛呂の横を抜けていく終焉獣があろうものなら《ラフィング・ピリオド》で撃ち抜くか、それでも止まらねば危険を承知で《アンガーコール》を発動させようとしていた。だが、終焉獣たちはココネの命令が単純だったせいか、眼前の『敵』のみの相手をしている。かと言って、飛呂は気を抜かない。警戒も続ける。戦場という場所は容易く盤面がひっくり返るものだから。
「あと少しだ、頑張れ!」
「はい!」
 騎士たちの士気は悪くない。
 アレクシアは場所を変えて引き寄せんとするが、確実に引き寄せられるのは数体だ。【怒り】は万能ではない。『可能な限り付与者に近接攻撃をしようとする』が、付与者であるアレクシアが多くの終焉獣に囲まれすぎていて『直接的に近接攻撃が出来ない状態』であれば、攻撃対象は他へと流れてしまうものだ。
 故に飛呂は、彼女の周囲が空くように。空いて新たな終焉獣たちが彼女に引き寄せられるように、彼女の周囲の終焉獣たちをできるだけ多く巻き込めるように技を振るい続けるし、アレクシア自身もEXF100のおかげで幾度か膝を付きながらも立ち上がれたが【必殺】の乗った攻撃を受けた時に倒れないだけの体力の維持をし、自身への回復が必要ない時は範囲攻撃でダメージを与えていかねばならない。
 わあわあと騎士たちが悲鳴とも気合とも解らぬ声をあげ、必死に戦う。隣に居た兵が頭を撃たれて殺されようと、怯まずに。

「……もう。本当にムカつくわ」
 ぜえ、とココネが荒い呼気を吐き出した。
「だいぶ疲弊しているようですの」
「アンタもね」
 口端の血を拭いながら支佐手が言えば、「邪魔ばっかり、いやなヤツ」とニイと笑みが返ってくる。
 既に使役物を呼び出したり、操る力がない――のもあるが、解除しても解除しても諦めずにBSを重ねては攻撃してくるイレギュラーズに疲弊している。
 ココネが反射してくる分、回復が足りなくなりがちで、カインと錬は回復へと回っている。ソアによって持ち込まれている『赫焉瞳』はひとつのみで、使用しても40秒のみ。ボロボロなのはイレギュラーズたちも一緒だ。
 けれど双方、瞳に宿る光は変わらない。
 ――諦めない。
「まだ。まだだよ……!」
 カリタスは連れ去られたが、まだ。まだミーリアは居る。
 カインは機械仕掛けの神へ、あらゆる悲劇を強制回避せしめるよう願った。仲間たちが最後の一手を成し遂げられるよう、神風が背中を押すための奇跡を願う。
「終わりにしちゃうね」
 ココネは可愛い女の子だけど、仕方がないよね。ソアがぺろりと唇を舐めた。出し惜しんでいた、『赫焉瞳』。使うのならば今だろう。たったの40秒。されど40秒。その場に居る仲間たちは自身の攻撃に寄る反射を受けずに済む。
「これで思い切りやれる」
「おんしは、絶対に逃がしません」
 ソアも支佐手も、怪我を負っていたほうが強いのだ。
 ココネの攻撃は苛烈で、反射も厄介だった。
 けれど、だからこそ、傷を負ったふたりがココネを逃すことはない。
 自分を支援するモノを呼び出せなくなったココネは動けず、動けなければ攻勢BS回復も使えず、ただ攻撃を受けるしかなかった。
「……ねえ」
「もしいつか――終焉獣じゃないアンタに出会えたら、その時は甘いスイーツ店巡りに連れて行かせてね」
 最後にココネは目を丸くして、アハッと笑った。
「それこそ『ありえない』わ」
 それが彼女の最期の言葉であった。
「……いきましょう」
「ですの」
 気持ちを瞬時に切り替えれば、支佐手が顎を引く。視線を巡らせればニルはショックを受けている様子だが、エーレンに支えられている。
 シラスとソアは既に駆けていて、カインはその背に急いで治癒魔法を発動させている。
 戦いはまだ終わっていない。
 アレクシアと飛呂、そして騎士たちが戦っている終焉獣たちを蹴散らさねばならないのだから。

 ――――
 ――

「♪、~……♪」
 調子外れの鼻歌が、甘い香りの下で響いている。
「なあ」
 呼びかけられ、振り返ったミトンに覆われたウーヌスの手には、黒い鉄板。その上には茶色と黒のクッキーが等間隔に並んでいる。
「もう帰ってきてるはずだよな?」
 そう告げたユグムと時計とを見たウーヌスは、少し考える。
 予定ではもう、とっくにジュゼッペたちは帰ってきているはずだ。
『お土産を買ってきます。楽しみに待っていて下さい!』
『出来ないことはユグムに頼むといい』
『ウーヌス、帰ってきたら大好きを言わせてください』
 三名はそう言って出かけた。その記憶は『記憶が少し溢れにくくなった』ウーヌスの中にある。
「お土産を選ぶのが難航しているのかもしれません」
「あ~、ミーリアがアレコレ悩みそうだもんな」
「カリタスも『好き』が多い子なので」
 ひとつに選べられなくてずっと動けないふたりと、そんなふたりに困ったジュゼッペが全部買おうとし、いけませんとミーリアに止められる――そんな姿が容易く想像できて、ウーヌスとユグムは笑みを浮かべた。
 もうすぐ帰ってくると思って焼いたスコーン。
 それでも帰ってこなかったからと焼いたチョコクッキー。
 聞かされるであろう旅の話と、ふたりの知らない異世界の話。そのお供に、美味しいお菓子と紅茶は欠かせない。
 次は何を焼こうかと、ふたりはプーレルジールで三名の帰還を待っている。
「♪、~……♪」
 楽しみなひととき。それを思い浮かべ、ウーヌスはまた調子外れの鼻歌を奏で始めた。

成否

成功

MVP

エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

状態異常

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
蒼穹の魔女
ソア(p3p007025)[重傷]
無尽虎爪
ニル(p3p009185)[重傷]
願い紡ぎ
物部 支佐手(p3p009422)[重傷]
黒蛇
エーレン・キリエ(p3p009844)[重傷]
特異運命座標

あとがき

不測の事態に備えて下さい、でした。
ココネ生存状態でカリタスを連れた終焉獣への攻撃があったため、OPに出てきている男の介入が発生しました。(ココネとリベルタは楽しみを増やすために賭けをしており、『人はお行儀がいいわよ』と思っているココネが倒されるまでカリタスを連れた終焉獣が攻撃されなければ、『アイツ等もっとずる賢いぜ?』と思っているリベルタの介入はありませんでした。)
精神状況でミーリアのコアに重大なエラーが出て壊れてしまう情報は、今回の参加者四名が参加している『廃棄を願う人形』に出ております。
生存の判定を悩みましたが、心を気にかけてくださっていたあなたへMVPを。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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