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シナリオ詳細

<漆黒のAspire>星の雨が降る空

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●星の雨が降る空
 『滅びを見守る少女』ステラ――彼女は気乗りがしなかった。
 自分の中に違う自分がいるような、存在しない記憶に惑わされるような、そんな気持ちにさせられるからだ。
 それでも――。
「私は、滅びを見守る。それが役目だから」

 ステラは宙空に腰掛けるようにふわりと足を組むと、眼下の星界獣たちに語りかける。
「今度ばかりは、準備はできているのよね?」
「ああ、準備万端。むしろ、過剰戦力とすら言えるな」
 常人の倍以上の体躯を持つ人型星界獣がそんな風に答えると、後ろを振り返った。
 そこにはずらりと星界獣たちが並び、出撃の時をじっと待っている。
 幼体は数え切れない程おり、戦闘力に特化した生体の数もまた数え切れない。
「これを覇竜全域に、ね。確かにそこまですれば、イレギュラーズたちもそうそう手が出せなくなるだろう。我々の計画に」
 頑丈そうな盾を装備した人型星界獣がそう言いながら、はるか後方を眺める。
 人間からすれば、あまりに絶望的な戦力だろう。
 これが今から攻め込むというのだから、同情する心すら生まれてくる。
 人型星界獣は首を振り、そしてステラに向き直った。
「今回は本気のようだな」
「いつも本気よ。これまでは、思うように数が揃わなかっただけ」
 ステラはつんと顎をあげ、どこか不機嫌そうに言う。
「けれど今回は違うわ。これで、『大いなるもの』を呼び出せる」
 絶望の代名詞。滅びの実行者。すべてを喰らうもの。最強の星界獣。通称、『大いなるもの』。
 その力はあまりにも絶大で、誰にも止めることができない。
 Bad End 8として知られるステラですら、その端末に過ぎないというのだから。
「それが済んじまったら、さすがのイレギュラーズ連中も手が出せないってわけか。痺れるねえ」
 両手を大砲にした人型星界獣が肩をすくめて言えば、隣でゆっくりと魔術を組んでいた人型星界獣が『確かに』と呟いた。
「『大いなるもの』は人の手でどうにかできるような存在じゃない。いわば歩く災害だ」
「そう、ね……」
 ステラは足を組み直して遠くを見つめた。
「この世界も滅びるんだわ。やっと――」
 目を、細める。
「苦しくて、つらくて、嫌なことばかりのこの世界。もう生まれてこないようにしてあげる。みんなみんな、救ってあげる」
 この世界はつらいことばかりだ。
 生きていれば、それだけで苦難ばかりがふりかかる。
 ならばいっそ、すべてを滅ぼして消し去ってしまえば良い。
 もう誰も生まれてこなければ、誰も悲しむことはない。
 それがステラの、せめてもの優しさであった。

●ドラゴニックと影の領域
 滅びを見守る少女にとって、星界獣とは同胞であり仲間であった。
 そんな中でもとびきりに強く作られたのが特殊星界獣『ドラゴニック』である。
 覇竜領域に、厳密にはヘスペリデスに流れる竜種たちの残留エネルギーを喰らって進化を重ねたこの個体は、ある意味で竜種に匹敵するほどの強さをもつ。
「ここまで強くする必要があったか?」
 うずくまって眠るドラゴニックを見て、人型星界獣の一人がぼやくように言った。
 確かに過剰戦力だ。この個体を作り出すだけでもかなりの労力が必要になったし、それならば大量の星界獣を投入して数で押した方が効率的であったかもしれない。
 しかし……。
「イレギュラーズの力を舐めてはだめ」
 厳しい口調でステラは言い切る。
「戦ったあなたたちなら分かるでしょう? 単純な戦力差だけなら、あの人達は覆しかねない」
「そりゃあ、まあ……」
 実際に戦ってみれば、彼らが力を合わせたときの輝きに目を見張ることになる。そのことについては納得せざるを得ないようで、人型星界獣たちは顔を見合わせて頷いた。
「それなら、俺たちをより多く投入すれば済む話じゃないか? なにも竜種並の戦力を投入しなくても」
「甘いわね。だから舐めているって言われるのよ」
 すこし突き放した口調で、ステラは足を組み替えた。
「これだけの決定打を与えないと、イレギュラーズは勝とうとするわ。ちゃんとこれが絶望だって、勝てない戦いだって、わからせてあげなくちゃだめ」
「なぜそこまでする? 相手の心情まで考える必要があるのかい?」
「…………」
 相手の心情を考える。そう言われてステラは黙った。確かに必要の無いことだ。
 ステラの役割はこの世界を滅ぼすこと。そしてそれを見守ること。
 今回に関して言えば、『大いなるもの』をこの影の領域を通して『こちら側』に呼び出すことだ。
「どうして、かしらね」
 心のどこかで、イレギュラーズたちには逃げてほしいと思っているのだろうか。助かってほしいと? ……冗談ではない!
 たかだか記憶が流れ込んだくらいで、相手にほだされたというのだろうか。
 そんなことはありえない。ありえてはいけない。
「すう……」
 息を大きく吸って、そして吐き出す。
 吐いた息にはどこか苛立たしさが含まれていた。
「プーレルジールの『わたし』がどんな選択をしたとしても、このわたしには関係ないわ。
 だってわたしはステラ。滅びを見守る少女。この世界を滅ぼすのが役目だもの」
 実際、滅んだ方が良い世界だ。
 腐敗は蔓延し、人々は苛立ち、いくつもの絶望に苛まれている。
 生まれてこなければ、生きていなければよかったような人生がいくつもある。
 この世界を観測した限りにおいて、ステラは世界に絶望したのだ。
 だから、終わらせる。
 もう、生まれてこないようにする。
「……行きましょう」
 ふわりと浮かび上がり、空を飛ぶステラ。
 彼女に連なるようにして無数の星界獣が立ち上がり、後に続く。
 それは正しく、滅びを引き連れた行進であった。

●世界に穴が空いた日
「ステラが覇竜領域、アスタ上空に現れた」
 情報屋の言葉に、ステラを探していた面々は思わず声をあげた。
 が、それらの声を制するように手をかざして落ち着ける。
「ただ現れただけじゃない。影の領域――そのワームホールを出現させ、無尽蔵に星界獣をばらまき始めている」
「だったら……!」
 身を乗り出すアルム・カンフローレル(p3p007874)。今にも駆け出しそうなその姿に、しかし情報屋は再び手をかざして止めた。
「待て待て待て! 今はそれどころじゃねえ! この状態を放置したら覇竜が星界獣だらけになっちまう!
 アスタだけじゃない。各地の小集落にもぶち込まれてるって話だ。まずはこっちを止めねえと話にならないぞ。ステラとゆっくり話をするのはその後だ!」
「けれど……」
 アルムはぎゅっと自らの拳を握りしめた。プーレルジールのステラと交わしたいくつもの思い出が蘇り、そして約束の言葉が思い出される。
 混沌の私を助けてあげてと、彼女はそう言ったのだ。
「アルムさん。今は……影の領域を、なんとかしなくては、大変、です」
 メイメイ・ルー(p3p004460)が声をあげる。その言葉はアルムだけではない。自分自身にもそして周りで聞いているほかの仲間たちにも向けた言葉であった。
 なにせ緊急事態だ。覇竜には多くの人々が暮らしていて、そこに星界獣が雪崩のように押し寄せれば最悪覇竜領域が滅びかねない。
「それで……ワームホールが開いたというのは、アスタ上空で間違いないのですね?」
「あ、ああ」
 鵜来巣 冥夜(p3p008218)が冷静な様子で問いかける。
 その冷静な態度によって、情報屋は自分が声を荒げていたことに気がついた。
 こほんと咳払いをしてから、続ける。
「その通り、アスタ上空だ。既にアスタの市民は避難を始めてる。あんたらとは別チームがその避難誘導と護衛にあたってるから、そっちは心配ないぜ」
「避難……てことは、この里は放棄するしかないということなのですか?」
 水月・鏡禍(p3p008354)にとってもこの里は馴染みのある場所だ。そうそう手放す選択をしてほしくはない。
 が、それ以上にアスタの民が星界獣の群れに虐殺される事態などあってほしくはなかった。
 それに、ヘスペリデスの地を抜けて別の里に匿って貰うという話なのであれば、イレギュラーズたちが同行できる今がチャンスになるだろう。
「ステラさんと話すことで、どうにかできないでしょうか」
「いや、それは後だ。今は星界獣にリソースを注力しねえとどうにもならねえ。
 第一、話して解決するならとっくにやってるところだしな……」
 情報屋はがくりと肩を落として見せた。
 彼もまた、イレギュラーズたちのそういった部分に最初は期待していたのだろう。
「折角のチャンスですのに……」
 ニル(p3p009185)は歯噛みして杖をぎゅっと握りしめた。
 確かに、このまま行けば多くの『かなしい』が生まれることになる。ステラと話している暇は、おそらくないだろう。
 それだけ逼迫した状況だということだ。
「押し寄せてるのは大量の星界獣だ。以前とは比べものにならないほどのな」
「そいつらを俺たちですべて蹴散らすっていうのは?」
 ファニー(p3p010255)が冗談めかして手をかざしてみせるが、対する情報屋の表情は暗い。
「第一陣の連中を蹴散らすくらいなら、確かにあんたらの強さならできるだろう。
 けれど第二陣以降に控えてる連中はそうもいかないだろうぜ。
 むしろ、こっち側に死者が出ないように力を割いてくれ」
「死者……か」
 紅花 牡丹(p3p010983)は小さくかぶりを振ってから、言葉を続けた。
 誰かが死ぬということは、その人間が受け継いできたものが一度途絶えるということだ。誰かがそれをすくい上げて後世に残すことはできるが、決定的に失われるものがある。それを、彼女はよく知っている。
「それほど厳しい戦いになるのか?」
「ああ……なにせあの人型星界獣が複数体。加えて、竜種のエネルギーを喰らって進化したという特殊な個体が投入されてるようだ」
「そいつは……」
 思わずファニーが顔をしかめる。以前に戦った際にかなり苦戦を強いられた人型星界獣。それが複数体も。加えて竜種のエネルギーを喰らった星界獣ときた。
 勝てる見込みがまるでない、絶望的な戦いだと言っていいだろう。
 けれどその中から少しでもマシな結果をつかみ取ることができれば、実質的にこちらの勝ちのようなものだ。
 今回の戦いは、そういう次元のシロモノなのだ。
「ああ、わかった。誰も死なせねえ。アスタの連中も、オレたち自身もな」

GMコメント

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●成功条件
・成功条件:星界獣の全滅(VARY HARD相当)
・オプション:アスタの住民避難が完了するまで粘る(HARD相当)

 星界獣の戦力は絶望的に高く、全滅は無理に等しい状況です(VARY HARDはそれだけの難易度です)。失敗必至の状況の中でどれだけマシな結果をつかみ取れるかが勝負となります。
 また、撤退条件を定めておくとよいでしょう。
 ※また、このシナリオの結果は『<漆黒のAspire>アスタ包囲網を突破せよ』に影響します。

●エネミー第一ウェーブ
・星界獣(幼体)×多数
 大量の星界獣がアスタに入り込んでしまわないように、できるだけ多くを倒してください。
 倒す数が多ければ多いほどアスタの安全が高まります。

●エネミー第二ウェーブ
・星界獣(幼体)×多数
 引き続き星界獣の幼体が多数出現します。今回は人型星界獣のフォローとして動きます。

・人型星界獣×複数
 強力な人型星界獣たちが攻め込んできます。
 一人に対して五人で渡り合っていたような相手が複数攻め込んでくるので、戦力差は絶望的です。
 なんとかこちらが全滅しないように渡り合わなければなりません。

●エネミー第三ウェーブ
・特殊星界獣『ドラゴニック』
 覇竜の竜種喰らって進化した異常に強力な星界獣です。
 圧倒的に強すぎる個体との戦闘を想定し戦術を組みましょう。
 現状で勝つことは無理に等しいので、どれだけ耐えられるかを基準に考えるとよいでしょう。


●支援戦力
・ステラ
 戦場に出て星界獣へのバフなどを行います。
 今回はステラへ注力している余裕はありませんので、星界獣の撃破にリソースを割くようにしてください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <漆黒のAspire>星の雨が降る空Lv:60以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度VERYHARD
  • 冒険終了日時2024年03月05日 22時07分
  • 参加人数10/10人
  • 相談5日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ボディ・ダクレ(p3p008384)
アイのカタチ
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
ファニー(p3p010255)
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●アスタ崩壊の危機
 次々と降り注ぐのは雨でも流星でもなく、身を丸くした星界獣の群れであった。
 そんな光景を前に、自らに『ブレイクリミットオーダー』をかける『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)。
 まるで誓いを確かめるかのように組紐のブレスレットに目を落とすと、小さな杖『カペラの道行き』を握りしめた。
「ステラさまに、見せてあげましょう。
 アスタを、守り抜り抜くわたし達の、可能性を……!」
 そう、これは与えられた絶望。であると同時に、ステラの見た世界への絶望だ。
 もしその絶望を覆せたなら、彼女の世界に僅かばかりの光を差し込ませることだってできるかもしれない。
「お願いします、ミニペリオンさま……!」
 杖を掲げ、『神翼の加護』を発動。
 するとドラゴニアコスプレなのか角をつけたミニペリオンたちが大量に召喚され、一斉に身構える。
 掲げた杖を右に降れば右を見て、左に降れば左を向く。
 そして突きつけた杖と共に、メイメイは走り出した。
「行きます……!」
「「ペリー!!」」
 星界獣の群れへと突っ込んでいくミニペリオンの群れ。
 数の差は圧倒的なれど、巨大なハンマーや剣で次々にミニペリオンを屠っていく。
 『無尽虎爪』ソア(p3p007025)はちらりと後方を見やった。
 里から逃げ出していくアスタの民。そしてそれを護衛し戦線突破を図る別グループの姿が見える。
 もし彼らのもとまで星界獣たちが押し寄せれば挟撃となってしまうだろう。さしものローレット・イレギュラーズの精鋭たちたちとて、アスタの民を守り切ることが難しくなる。
 ソアはそんな未来を思い描き、そして首を横にぶんぶんと振った。
 民が、子供たちが、傷つけられる未来など認められない。
「ボクたちがいる間は――ここは通さないよ!」
 じゃきっと爪を露出させると星界獣の群れへと自ら突っ込む。
 ソアの爪は強烈だ。星界獣の硬い外皮を貫いて刺さり、そして引き裂いてしまう。
 対する星界獣たちはソアへと群がり、次々に針や爪で攻撃をしかけてきた。
 体中にそれらが刺さり血が流れるも、ソアは星界獣たちを斬り割くのをやめない。
 これが子供たちに襲いかかるくらいなら、自分に刺さった方が何百倍もマシなのだ。
「損耗に気をつけて! いま回復するから……!」
 そんなソアに『昴星』アルム・カンフローレル(p3p007874)が声をかけてくる。
 『黄金色の恩寵』の範囲にソアを入れた状態で治癒魔法を唱えるアルム。
 ソアの体力がみるみるうちに回復し、あちこちにできた傷が塞がっていく。
「ありがとう!」
「どういたしまして。でもまだまだ来るよ」
 こくりと頷き、ソアは両手にバチバチと紫電を纏う。虎の姿はあくまでこの世界に得た形にすぎない。ソアの本性はこの紫電にこそあった。
「――『ボルトブリッツ』!」
 大上段から振り下ろした腕に呼び出されたように、激しい電撃が星界獣の一体へと直撃。と同時に四方八方へ散って周囲の星界獣たちを焼き焦がしていく。
「よし……!」
 アルムは手応えを感じて拳を強く握りしめた。
 手にしていた杖を引き寄せ、更に治癒魔法を放つ。仲間にかかったBSの解除や傷の治癒のためだ。
(数も多ければ、人型から、竜に匹敵する個体まで……それほど本気で世界を滅ぼしたいんだね……。
 「混沌のステラ君」は世界の悪い部分ばかり見て、そう思ってしまったのかもしれない。
 ここで全員生き延びて、アスタの里の人達も救って、その考えを覆す!)
 そう、これはある意味で試練なのだ。
 『混沌のステラ』はこの世界に絶望し、滅びを受け入れている。それを覆せる者など存在しないと、諦めてしまっている。
 あるいは、こんな世界で誰もが苦しみ悲しんでいると思い込もうとしている。そんな風に、アルムには思えた。
 そしてそれを覆すには、実際に『やってみせる』しかないのだ。
「約束したんだ。僕は。彼女に……! そして、『護る』んだ!」

 四方八方が敵だらけ。逃げ場もない状況で、しかし『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)は絶望などしなかった。
「どんな状況でも負けやしない。
 意地ってものをステラさんにも見せてあげますよ」
 俯瞰した視界で敵の密集ポイントを見つけると、『ブレイズハート・ヒートソウル』を発動。妖力で作り出した紫色の炎が放たれ、星界獣たちを巻き込んでいく。
 炎は星界獣の精神を強制的に塗り替え、自分へと意識を集中させた。
 大量の殺意が向く中、鏡禍は構える。妖力結界が展開し、一斉に突っ込んできた星界獣たちがその結界にぶつかって阻まれた。
 いや、阻みきってはいない。突き立てられた爪や針が徐々に結界を蝕み、破壊し、ヒビを広げていくのがわかる。
「冥夜さん、僕ごとやってください!」
「しかし――」
「僕は大丈夫です。アルムさんたちもいますから!」
 声をかけられた『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)はこくりと頷き、スマホのアプリを起動。
 高速のスワイプ操作で印を結ぶと『黄金・炎雨乱雨』を発動させた。
 黒き雨が降り注ぎ、それはやがて金色へと変わっていく。
 それらは強烈な【炎獄】と【狂気】の力を宿し、浴びた星界獣たちは訳も分からず自分自身を攻撃し始める。
 鏡禍が引きつけて味方の範囲攻撃で一掃してもらう。それが現状で最も効率的で効果的な作戦だ。
 なぜなら星界獣たちのねらいは自分達であると同時にアスタの民も含まれている。
 ここを『突破される』ことが最もキツイ状況なのだ。多少無理をしても引きつけておく価値がある。
「星の様に無数の敵。滾りますね。
 艱難辛苦が襲おうと俺の輝きは絶えない。
 ステラ様の心を照らし出す為に!」
 スマホを握りしめて、冥夜は強く敵をにらみ付けた。
 冥夜は知っている。ステラは笑うことが出来るのだということを。楽しむことが、希望を抱くことができるのだということを。
 『プーレルジールのステラ』を接待したあの夜に、楽しく笑った彼女を見たあの日から、素敵なホストさんと呼ばれたあの時から知っているのだ。
「ステラ様。あなたはまだ知らない。この世界の素晴らしさを。希望を、生きる喜びを。そしてなにより、絶望を覆す存在たちを……!
 私達がなって見せましょう。その存在そのものに!」
 それはきっと、『世界を救う』のと同じことなのだろうから。

「ばぁか。気乗りしねえことやってんじゃねえよ、ステラ」
 片翼と炎を翻し、『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)は星界獣の群れへと飛び込んでいく。
 『輝くもの天より堕ち』を発動させて【怒り】を付与すると、大量の星界獣の攻撃を軽々と回避し続けた。
 こちらを見つめるステラの瞳の暗さがよくわかる。
「未練たらたらじゃねえか、ったく……」
 牡丹には分かる気がした。本当に滅びを求めているのなら、もっとやり方があるのだということに。わざわざ『絶望的な状況』を作ってみせるこのやり方が、未練や優しさから来ているのだということに。
「オレたちが絶望して逃げ出すと思ったか? アスタの連中を放っておいて? 冗談だろ、笑えねえぜ。なあステラ、オレたちは約束したんだ。プーレルジールのステラとな。あんたを助けるって、救うって。それがどういう意味か、ようやく分かってきたぜ。
 この世界が辛いんだろう? 絶望しちまったんだよな。けどそうはさせねえ。オレたちが覆してやる。その絶望ってやつからな」
 大きく飛び退く牡丹。
 そこへ、強力な『ケイオスタイド』の魔術が炸裂した。
 それまで群がっていた星界獣たちに混沌の泥が浴びせられ、その運命を無理矢理にねじ曲げていく。
 魔術を放ったのは、『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)だ。
 『絆の揺石』――ティアドロップ型のネックレスを揺らし、短杖『ミラベル・ワンド』を翳した姿はどこか逞しく、強かだ。
「かなしいのはいやです。
 ステラ様が、かなしいことをするのはいやです。
 ニルは、アスタのみなさまをまもります。
 最優先はアスタのみなさまの無事です。
 ……その先で、きっとステラ様に手を伸ばせると、信じてるから」
 また話したいと、心から願った。救って見せたいと、強く祈った。だからこそここにいて、戦っている。
 絶望的な状況だろうと、それを覆す強さが自分達にあるのだと見せ付けるために。そしてそれこそが、ステラと言葉を交わす絶対条件だと知るが故に。
「ここで食い止めなきゃ……!」
 『パラダイスロスト』、『アンジュ・デシュ』の魔法をそれぞれ連続で発動するニル。
 光り輝く砲撃が星界獣へと激突したかと思うと、激しい光の爆発となって広がっていく。
 そう、ここで食い止めなきゃ話にならない。アスタの民が攻撃され死んでいく様など見せれば、きっとステラは更にこの世界に絶望してしまうだろう。
 だから見せるのだ。この戦いで。自分達は『やれる』のだと。

「滅びの怒涛と言うべきですかね。ならば堰き止めるのは私たちの役目です」
 星界獣の群れに立ちはだかる『アイのカタチ』ボディ・ダクレ(p3p008384)。
 指輪をした手をかざし、力を解放する。力の名は『アルマ・ガルバニズムⅡ』。
 星界獣たちへと必中したその攻撃は彼らの意識を強制的に染め上げ、ボディへと集中させていく。
 ならば好都合とばかりに敵陣へと飛び込んでいくボディ。
 四方八方から浴びせられる攻撃は、流石と言うほかない。群れを成した雑魚と侮るなかれ。重なり連なり苛烈を増す攻撃は、ボディの強固なHP鎧を時として破ってくるだけの威力を持っていた。
 だが、それでも。だがそれでもボディは倒れない。
「この結界を、破れますか……!」
 遅れて『ルーンシールド』と『マギ・ペンタグラム』を二重展開。大量の攻撃が結界に阻まれて止まる。
「良い調子だ。これならほぼ無傷でこのウェーブを突破できるだろうな」
 『Star[K]night』ファニー(p3p010255)はニッと笑って両手をポケットから出した。
 出がけに語り合ったステラとの手紙の内容を思い出す。
 この絶望的な状況に立ち向かうことは、それそのものがステラという『滅びを見守る少女』を救うことに繋がるのだと、気付いていた。
 これが滅びの体現だというのなら、それを覆す自分達は何だ。それをひとは、希望と呼ぶのではないか。
「救うと決めた。約束したんだ。だから――」
 ファニーは『Dies irae』を自らに付与すると、『指先の一番星』を解き放った。
 腕で空間を薙ぐように振り払うと、まるで超能力でも使われたかのように星界獣が吹き飛んでいく。
 更に大上段から振り下ろすように腕を振れば、星界獣が地面に叩きつけられる。そこへ骨でできた獣の頭が口を開き、真っ白い光線を放った。
 まるで回避できない攻撃に外皮を削られ吹き飛んでいく星界獣。
 続けて、『降りしきる二番星』を発動させた。無数に出現した獣の頭蓋骨がガパッと口を開き光線を一斉発射する。
 ボディに密集していた星界獣たちが吹き飛ばされ、次々に倒れていく。
「確かに、良い調子だね……」
 『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は仲間達の様子を観察しながら強く頷いた。
 三人の引きつけ役に、優秀なアタッカーたち。
 それに加えてアルムと自分というヒーラー。少なくともこの第一ウェーブを見る限りではこちらが傷付く要素は殆ど無いと言えるだろう。
 ヴェルーリア自身、回復の手が必要なくなりつつあるくらいだ。
 だがそれは今現在の話。こちらに徐々に近づいてきている人型星界獣たちや、その更に向こうに控える竜型の星界獣を相手にして通用する戦術ではない。それにはそれなりの、それ相応の戦術をぶつけなくてはならないだろう。
「ボディさん、離れて! 攻撃を打ち込むよ!」
 『SoB』を発動。三頭身のヴェルーリアめいた存在が大量に召喚され、一斉に星界獣へと襲いかかる。
 それぞれ手にはハンマーや巨大な棒付きキャンディ、はたまたフライパンやテニスラケットなどを持って殴りかかる様はファンシー極まるが、その威力は絶大だ。何度も波を作って星界獣たちに襲いかかり、その堅い外皮を食い破って破壊していく。
 そしてすべてが過ぎ去った後――。
「さあて、俺たちの出番かな」
 やっとと言うべきか、ついにと言うべきか。
 人型星界獣の集団が、肩をぐるりと回しながら歩いてこちらへとやってきたのだった。

●人ならざる、人型の。
 一人あたり五人がかりで対抗していた人型星界獣が、複数体。
 事前情報から分析していなければかなり困惑したことだろうが、こちらは既に分析済みだ。
「皆、行くよ!」
 ヴェルーリアは即座に『地廻竜の吐息』を発動させた。
 メイメイたちが敵の最優先目標であるリクスヘムにとりついたのを確認したためだ。
 こちらの作戦はシンプルな集中攻撃。それは敵からの集中攻撃も受けてしまうというリスクを伴うが、高い火力で押し切ることで勝利を収めることが出来る。
 そうした事情もあって、『地廻竜の吐息』はもってこいのアイテムなのだ。
 メイメイは『全覚ノ奏者』を自分に付与し更に反応速度を高めると、突出したリクスヘムめがけ自らも突進した。
 リクスヘムは腕をハンマー形状に変化させ、メイメイに殴りかかってくる。
 が、対するメイメイも『カペラの道行き』を突き出した。
 接触、と同時に爆発的な魔力がほとばしりリクスヘムを吹き飛ばす。
「何――!?」
 前回戦ったイレギュラーズとの力の違いに驚いたのだろう。当然だ。『地廻竜の吐息』の効果が最も出やすいスキルでの不意打ちの如き一撃なのだから。
 一方でダメージをうけたメイメイに対し、ナーミーやスリヴァンスたちの攻撃が集中する。
「ん……!」
 魔術結界を展開し防御するメイメイだが、激しいダメージにやはり押され気味だ。
 それを治癒するのはヴェルーリアとアルムの仕事だった。
「頑張って耐えて! 急いで治癒するから!」
 腕を砲台化したラヴェジの凄まじい砲撃を受けて吹き飛ぶメイメイに、治癒の魔法をかけてなんとか延命をはかるアルム。
 そうしている間に、リクスヘムは雷の魔法を発動させた。
 アルムの『黄金色の恩寵』の効果範囲内に入っている仲間達を狙うためだろう、広範囲にわたる雷の攻撃をしかけてきたのだ。
「させない……!」
 咄嗟にアルムは『フイユモールの刻』を発動。一度に二人を対象とした治癒魔法を連続で発動させリクスヘムの範囲攻撃を阻んだのだった。
「おい! こんな能力奴には無かったぞ! どういうことだ!?」
「奥の手を隠し持っていたってところだろうよ。下がっていろ。集中攻撃を受けるぞ」
 ゼティアレスが両手に魔術を両手に構え解き放とう――とした瞬間。
「させねえ!」
 牡丹が強襲をしかけた。
 『バロール』を付与し効果を高めた『あまたの星、宝冠のごとく』でゼティアレスを攻撃したのだ。
「なっ――!?」
 攻撃をいなすこともBSをレジストすることも難しくない戦闘力の差。だが、牡丹のもつ攻撃には【追撃】と【疫病】が含まれていた。たとえ格上相手といえど、そう簡単にレジストできる攻撃ではないのだ。
 つい意識を塗り替えられ、牡丹へと魔術を乱射してしまうゼティアレス。
 範囲攻撃に特化しているためか命中能力はそこまで高くはないらしい。牡丹にかする程度だ。そう、かすってはしまう。だが
「行かせねえよ!
 離れすぎるつもりはねえ。
 無茶して回復しに来てくれるフォルトゥナリアの心意気に応える!
 格上相手?
 オレはあいつらに託された。オレはあいつらに託した!
 オレは硬い。オレは、無敵だああああ!」
 多少のダメージはヴェルーリアが治癒してくれる。それを信用して牡丹はゼティアレスの抑えを続けた。
 その一方。
「ヘランケラン。あなたは私が抑えます!」
 ボディが『AGⅡ』を連射しながらヘランケランへと迫った。
 避けるのに容易な攻撃の筈なのに、【必中】効果ゆえに避けきれない。抵抗力がそこまで優れているわけではないのか、ヘランケランはボディの術中へと嵌まってしまう。
「ぬかったか……そっちは任せる!」
 そう言い切るとヘランケランは両手に握った棍棒でもってボディへと殴りかかった。
 棍棒の打撃を結界で防ぐボディ。が、少し気がかりだ。上手くいきすぎているような気がする。
 何かがこうして順調なとき、他の何かを取りこぼしているということもある。
 ボディは結界を維持しながらヘランケランをにらみ付けた。
「その気配。不安だな?」
「……」
「そちらの戦力、なかなかのものだ。しかし、こちらとて精鋭揃い。見ろ」
 言われてみれば、ソアとリクスヘムが殴り合っている所だった。
 そこにラヴェジやスリヴァンスといった人型星界獣の攻撃が集中し、体力がごりごりと削られていっている。アルムとヴェルーリアという優秀なヒーラーがいても抑えきれないだけのダメージ量だ。
「お姉さま、力を借して」
 かと、思えば。
 ソアは突如として『黒き祝福』を発動。
 純粋な黒いマナの結晶を取り込むと、自らの能力を瞬間的にパワーアップさせた。
「えい!」
 爪の一撃がリクスヘムの強固な外骨格を貫き、突き刺さる。そして外骨格を引っぺがすほどの勢いで爪が振るわれた。
「ぐ、おおお!?」
 まさかこれほどの戦闘力をソアが発揮すると思わなかったのだろう。ただでさえ最精鋭のソアがここまでパワーアップを果たし繰り出す一撃は、たとえ格上のリクスヘムといえど防ぎきることは難しいのだ。
 鎧となっていた外骨格が破壊され、せめてもと魔術を行使して雷を落とすリクスヘム。
 が、ソアはそれを浴びても平気な顔で凄まじい回し蹴りを叩き込んだ。
 強烈な蹴りによって吹き飛ばされ、力尽きるリクスヘム。
「テメェ! 許さねえ、ぶち殺してやる!」
 ラヴェジが怒りに顔を歪め砲撃を開始。
 が、そこは精鋭部隊と言うべきなのだろうか。冷静に攻撃を集中させる知能を残していた。
 更には範囲攻撃を避けるべく散開することも忘れていない。
「なら……!」
 ニルは『パラダイスロスト』を発動。BSを弾かれることに気付いたらすぐに『アンジュ・デシュ』『界呪・四象』へとシフト。それでも刺さりにくいと察したなら『極彩アポトーシス』へとシフトする柔軟さを見せ攻撃を重ねていく。
 対するラヴェジは感電する生体弾をニルめがけて放ってきた。
 身体が痺れ、そこへナーミーの矢やスリヴァンスの盾が激突する。BSが激しく重なったことを察したニルは、迷わず『カラビ・ナ・ヤナル』を発動させた。
 すべてのBSを回復したところでラヴェジに接近。
「全力を、おみまいします……!」
 フルルーンブラスターがラヴェジへと叩き込まれた。
 それだけではない。冥夜の攻撃がそこに重なり叩き込まれる。
 AP切れを躊躇しない『ダーティピンポイント』の連続射撃。
 仲間の攻撃の重なりによってBSへのレジストが遅れたラヴェジに【感電】の効果が刺さる。
「しまった!」
 顔を歪め膝をつくラヴェジに、更に追い打ちをかけるように冥夜は『殲光砲魔神』を放った。
 物理・神秘攻撃力が増大している今、凄まじい威力となるだろう。
「フォルトゥナリア様の『地廻竜の吐息』が効いている今がチャンスです。攻撃を畳みかけて下さい!」
 最高率をたたき出す、という程ではないが結構な効率でラヴェジへダメージが蓄積していく。
「おいおい、やり過ぎじゃないか? ちょっとは手加減してやれよ」
 にやりと笑ったナーミーが矢を複数本まとめて矢に番え、一気に放ってくる。
 対抗したのは鏡禍だ。
 巨大化させた妖力結界でもって複数の矢を止めると、『鏡面召喚術』を発動。
「おいおいマジか」
 強力な妖術によって召喚された鏡に映し出され、ナーミーの意識は無理矢理に鏡禍へと寄せられた。
 矢の代わりにナイフを握り鏡禍へ襲いかかるナーミー。
 鏡禍はその攻撃をギリギリのところでかわし、続けて放たれた蹴りによって転がされる。
 が、すぐに起き上がって妖力結界を発動。ナーミーのナイフをすんでのところで停止させる。
 その間に、ファニーはラヴェジへのトドメを刺しにいっていた。
「もうじき強化効果が切れる。早いところ決めちまわないとな」
 バッと翳した腕の動きに合わせて無理矢理に地面へ叩きつけられるラヴェジ。
 そこへ大量の獣の頭蓋骨が出現し、一斉に白き光線を発射した。
「むう、おおお……!」
 なんとか起き上がろうとするラヴェジだが、ファニーの猛烈な攻撃によって上半身が吹き飛んでなくなってしまった。
 そこからはまさに意地の張り合いといった具合であった。
 ヴェルーリアのかけた強化効果がきれたことで攻撃の勢いは弱まり、治癒での粘りと牡丹、ボディ、鏡禍による抑えがなんとか機能してギリギリ保たれるという状況が続いた。
 といっても戦力差で言えば敵側が上。ヒーラーであるアルムやヴェルーリアを狙う動きが顕著になってきた頃、防御に堅いヴェルーリアがなんとか耐えながら他のメンバーが無理矢理に押し込むという展開へと発展していった。
 そして。
「なんてこと……」
 思わず、ステラは呟いた。
 あれだけいた人型星界獣たちは半数以下に減り、ファニーたちの猛攻に耐えているという状態だ。
「もう、投入するしかなさそうね」
「!?」
 ステラの呟きに反応してか否か。ファニーが大きな声を発した。
「全員、備えろ! 『奴』が来る!」
 人型星界獣たちを倒しきらぬうちに、特殊星界獣ドラゴニックは投入されたのだった。

●竜ならざる竜
 巨大な、それは確かに竜の如き存在であった。
 竜種のエネルギーを喰らって進化したという特殊星界獣、ドラゴニック。
 その力は圧倒的なものだった。なにせ初撃から、味方全体を吹き飛ばすほどのブレスを放ってきたのである。
 カカカッと喉を鳴らしたかと思うと凄まじい熱波が押し寄せ、暴風と高熱によって防御もままならず吹き飛ばされる。
 ドラゴニックは翼を広げて宙へと舞い上がると、再び喉をカカカッと鳴らした。
「やべえ……!」
 味方はたったの一撃で半壊だ。ヴェルーリアとアルムが治癒にかかるが、全員を助けるだけの時間はない。
 牡丹は危機を察し、そして決意を固めた。
「オレは諦めねえ。世界も、てめえもだ、ステラ!」
 吠えるように叫ぶと『アトラスの守護』を発動。
 再び放たれたドラゴニックによるブレスを自分一人だけで受け止める。
 かわしきれない。いなすことも難しい。絶望的なまでの一撃だ。
「牡丹さん!」
 ヴェルーリアが叫ぶが、牡丹はサッと手をかざして首を横に振った。
「仲間の回復を急げ! もう一撃なんとかする!」
 そう叫び走り出し、牡丹はドラゴニックへと飛びかかった。
 ドラゴニックの、その巨体からは想像もつかないほど素早い爪の一撃が牡丹を斬り割く。
 その瞬間、ボディは察した。【怒り】の付与やブロックでなんとかなる相手ではもはやないということに。
 次のブレスがくればまた味方が崩壊する。そうなる前になんとかダメージを叩き込まなくてはならない。
(“滅べ”とか“生まれるべきじゃなかった“とか知るか。
 大切な人がいるこの世界を、私は守りたいだけだ……!)
 ボディは心の中で叫び、そして走り出す。
 やるべきは『時間稼ぎ』だ。ドラゴニックの爪がボディの結界を容易に破壊し、続く一撃で胸を貫く。
 が、気合いで耐えた。
 『絶気昂』と『アクアヴィタエ』で強烈に回復すると、更にドラゴニックへ立ち塞がる。
 少しでも長く気を引き、少しでも長く攻撃を与え続ける必要がある。
 そんなボディの狙いを察したのだろう。
 メイメイは『ハーフ・アムリタ』をなめてAPを急速に回復。
「最後の、一押し……!」
 『全覚ノ奏者』を自らに付与し直すと、ドラゴニックへと飛びかかり『フルルーンブラスター』を発動させた。
 ドラゴニックの体表にぶつかった杖が、その瞬間に白い魔力の光を爆発させる。
 爆発は常人を軽く吹き飛ばせるだけの衝撃を伴って広がり、当然ながらドラゴニックとて無傷ではない。
 傷を負ったドラゴニックは即座にその傷口を治癒し始めた。
 治癒と言うより自己再生能力だろうか。じわじわと身体が再生していくのを見て、メイメイは仲間に呼びかける。
「畳みかけて、ください! 途切れさせないで!」
「さすがは竜の力を喰らっただけはある、ね!」
 ソアは人型星界獣の妨害を受けながらもドラゴニックへと接近。
 受けたダメージをたたき返す勢いで『死の雷』を解禁させた。
 荒ぶる雷撃がドラゴニックへ襲いかかり、荒れ狂う。
「そこまでにしろ!」
 ヘランケランとナーミーがソアへと襲いかかる。
 ソアはキッと彼らをにらみ付けると荒ぶる雷撃を彼らにも浴びせにかかる。
 突き出した爪から直接叩き込まれた雷はナーミーの身体を派手に痙攣させ、その場にどさりと倒れさせる。
 アルムはそんな状況の中で、迷った。
 人型星界獣が残った状態でドラゴニックをどう対処するか。作戦では『人型星界獣を倒しきったあとで』ドラゴニックと対峙する予定だったのだ。そこが狂った以上、なんとか取り替えさねばならない。
 であると同時に、もうひとつの懸念事項が頭をよぎる。
(仲間達は、アスタの人々を無事に避難させられたのかな)
 ちらりとそちらの方向を見る。と、巨大な星界獣が地面へと叩きつけられる音が聞こえてきた。
 と同時にアスタの民による歓声も。
「皆! アスタの人達は避難を終えたよ! あとはこっちをなんとかするだけだ!」
 アルムが叫ぶと、その言葉にステラが目を細めた。
「そう、逃げ切ったの……あの子たち」
「そうだよ。絶望的な状況でも、光はあるんだ」
 アルムが言い返せば、ステラは苦しげに目を背けた。
「でも、あなたたちはここで死ぬのね」
 その言葉に応えるかのようにドラゴニックが吠え、そしてボディが地面へと倒れ伏す。
 そんな中で、冥夜は眼鏡の奥で瞳の炎を燃やした。
「ステラ様。何も生まれて来なければ、誰と心を通わす事も出来ない。
 俺は、ステラ様と出会えて良かった」
 『ハーフ・アムリタ』を使いAPを急速に回復させると、冥夜はドラゴニックへと攻撃を畳みかける。
 『ダーティピンポイント』、『獄門・禍凶爪』、そして『顕現・八大地獄』。
 高速スワイプで印を結び発動させたいくつもの魔術を行使してドラゴニックに苛烈な攻撃を連続して叩き込んでいく。
「ドラゴニック! 貴様を倒し、ステラ様に俺達の奇跡を信じさせてみせる!」
 直後、カカカッと再びドラゴニックの喉が鳴った。ブレスが来る。
 そう察した鏡禍は素早く前に出た。
「皆さん、僕の結界の後ろに!」
 『アトラスの守護』を発動させ、妖力結界を限界まで拡大させる鏡禍。
 吹き付けられる強烈な熱波が、鏡禍の防御をぶち抜いて浴びせかけられる。
 だがここで倒れるのは鏡禍一人だ。他に残った仲間たちは無事。つまり、攻撃を畳みかけることができる。
「今です!」
「ありったけを、こめて……!」
 そこで飛び込んでいったのはニルだった。
 発動沙汰魔術は『極彩アポトーシス』。【疫病】効果によって無理矢理押し通した【廃滅】効果によってドラゴニックはがふりと血を吐いた。
 が、直後にニルめがけ強烈な爪が振るわれる。
「……!」
 直撃――を受けたニルは、至近距離から『フルルーンブラスター』の魔法を爆発させた。
 強力な魔術の爆発がドラゴニックを襲う。
 ニルの小さな身体が斬り割かれ、吹き飛ばされたのはほぼ同時であった。
「これ以上は……」
 ヴェルーリアが杖を握り前へ出る。
 自分を残して味方が全滅するなどという状況は看過できない。ドラゴニックがこちらを狙わないなら。味方を庇ってでも前に出るほかない。
 そんなヴェルーリアにヘランケランが殴りかかる。
「うっ……!」
 体勢を崩したところへドラゴニックの一撃が浴びせられ、ヴェルーリアは吹き飛ばされた。
「フォルトゥナリア!」
「いいから行って!」
 叫ぶヴェルーリアに、ファニーは頷く。そして――。
『なぁステラ、世界は怖いことばかりじゃないんだぜ。命を賭して守る価値があるってオレは思ってるよ』
 ステラにハイテレパスで語りかけると、切り札を発動させる。
「この世界を、この物語を、そしてステラを、オレは――最後まで諦めない!!」
 ファニーの一撃はドラゴニックへと放たれ――それを、ヘランケランが咄嗟に庇った。
「ぐ、あああああ!?」
 強烈な攻撃に耐えかねたヘランケランが爆発四散するなか、ドラゴニックがファニーをにらみ付ける。
 その向こうでは、ステラがどこか動揺した様子を見せていた。
「これで分かったろ。オレたちは諦めない。この次……そう、『次』だ。次にこそ、『助けに来る』ぜ――ステラ」
「そうだよ。俺たちは世界を救う。そして、君のことも救ってみせる」
 アルムが宣言するように言うと、倒れた仲間を抱え上げた。
「それまで待っていてね。必ず、迎えにいくから」
「うそよ、そんな……」
 ステラの声は震えていた。それが、痛いほどにわかった。
 だが続けることはできない。ドラゴニックの攻撃から仲間を救うため、走らねばならない。
 アルムたちは仲間を連れ、戦線を離脱したのだった。

成否

失敗

MVP

フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔

状態異常

鏡禍・A・水月(p3p008354)[重傷]
鏡花の盾
ボディ・ダクレ(p3p008384)[重傷]
アイのカタチ
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)[重傷]
挫けぬ笑顔
紅花 牡丹(p3p010983)[重傷]
ガイアネモネ

あとがき

 ――ドラゴニックには敗北しました……。
 ――しかしアスタの民が避難する時間を見事に稼ぎきることに成功しました!
 ――また、精鋭である人型星界獣たちを倒しきることに成功しました!

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