PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<崩落のザックーム>災花ジャハンナム

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●こうふくの白い花
 ある日、木が生えた。小さな小さな、木。
 木には妖精さんがいた。
 妖精さんが「しーっ」って言ったから、ボクは内緒にした。
 木はすぐに大きくなったから、内緒にしなくても皆が知ることとなった。
 大きくなった木には白い花が咲いていて、大人たちは珍しい花ではないかと言っていた。これを町に持っていけば売れるだろう、と。ボク等の住む場所には『シゲン』がないって大人たちが言っていて、売れるものというのは『キチョウ』なんだって。
 だからボク等はこれを……あれ、なんだか……おかしいな。喜んでいたはずの父さんも母さんも、体調が悪そう。大丈夫だよって笑うけれど、顔が見たことのない色をしているんだ。大人たちが仕事ができなくなった。病気、なのかな。大変だ、お金がないと薬が買えない。
 大人たちが倒れていく。大変だ。
 おじいちゃんが動かない。薬が必要だ。早く……早く薬を買わなくちゃ。
 町に行って、珍しい花を売って、それから――あれ?
 珍しい花をかき集めて駆け出したボクは気付くと地面に顔をぶつけていた。
 ……どうしよう、動けない。
 どうしよう……どうし…………どう……

 ああ、どうしてこんなことになったのだろう。
 ボクの意識は暗闇に消えた。

『もっともっとそだてましょう!』
『大きく大きくそだてましょう!』
『それがファルカウさまのねがい!』
 愛らしい妖精たちが笑っている。炎獄が如き業火を纏い、赤い火花を散らすドレスでくうるり回って、きゃらきゃらと。
「君達、まだ育てるのかい?」
『あら、きし』
 砂漠の陽光を白銀の甲冑に眩しいくらいに反射させて、騎士が歩んでくる。ふうと吐息とともに緩くカールした金髪を払った彼の美貌は素晴らしく、美の女神が賛辞を送りそうなものであるのに妖精たちには興味がないらしい。一瞥するだけですぐに『育てている木』へと視線を向ける。まだまだ育てるのだ、と。
「此処の栄養は吸い尽くしたのだろう?」
『いいえ、いいえ』
『まだまだ』
『だって、ね』
 事件が起これば、いずれイレギュラーズたちが駆けつける。
 彼等もまたこの木の『栄養』となってくれるはずなのだから。
 木は、育つだろう。
 魔女ファルカウの願い通り、全てを終わらせ、新しく始めるために。

●白い花を籠いっぱい
 今日も今日とてサンドバザールには人が溢れている。
 長い旅路を終えた商隊に、近隣の集落から金銭に返るべく手芸品を持ち寄る人々。それ以外にも酪農品や植物を売る者とている。
「お花、いりませんか?」
「ありがとう、いただ……あれ」
 少女が白い花を差し出すのに合わせて身をかがませた劉・雨泽(p3n000218)が何か異変に気がついた。花を見て、少女を見る。少女が差し出す白い花の形は砂漠のバラと親しまれるアデニウムに似た形をしている――が、それが漂わせる『気配』は花とは異なるものだ。
 籠の中身を全部買うよ。そう言おうとした時――もとより顔色がよくなかった少女が倒れた。
「――雨泽様?」
 陽の下を歩けるようになったが日焼けを厭うてか絹を被ったアラーイス・アル・ニール(p3n000321)が偶然その場を目撃した。蜜色の瞳が素早く少女と花とを捉えて。
「この少女はわたくしが」
「ありがとう」
 最低限の言葉のみを交わし、雨泽はサンドバザールを後にした。
 ――この花は、『滅びのアーク』を撒き散らしている。

 倒れた少女はその後吐血。されど命に別状はない。
 そうアラーイスからの手紙を受け取った雨泽は「それでなんだけれど」とあなたたちへと向き合った。
「少女は南部砂漠の集落の子らしくて、その集落に件の花が咲いているそうなんだ」
 少女が持ち込んだ花自体は既に雨泽が夢の都の外で処分した。けれども咲いている場所をどうにかしなくては――いずれラサは滅ぶのだろう。
「お母様がね、滅びの気配がするって言っていたの」
 近頃ペイト周辺によく姿を見せるようになった水の竜『メファイル・ハマイイム』。彼女が南部砂漠が危ないと示したのなら、それを疑う気持ちすら抱かないオデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は彼女の憂いを晴らすために動く。ラサの南部砂漠地帯『コンシレラ』は覇竜領域が南方に、影の領域が西方にある。そこが滅べば害は覇竜にも夢の都にも及ぶことだろうから。
「滅び、ですか。よくありませんね」
 終焉に関わる者たちに動きがあるのだろうとルーキス・ファウン(p3p008870)が顎を撫でた。
「雨泽様、ニルたちは何をお手伝いすれば良いのでしょう?」
 集落に向かえば良いのですか? ニル(p3p009185)が首を傾げるのに、雨泽が頷いた。
「集落はきっと……ううん、最悪を予想していいかもしれない。……君たちの体に害が及ばない、とも言えない状況かもしれない。けれど、『花』を――花を咲かせている根本を、そのままにしておくことは出来ない」
 砂漠に花畑が自然と広がることはない。けれど終焉の者たちが手引をしていればその限りではないだろう。花畑ではなく樹木ならば? 根を伸ばし、より強固に根付くだろう。花を咲かせたり成長するための栄養は? ――考えたくもないことだ。
「……人を運ぶ準備はしていこう」
 それが生者であれ死者であれ、その場に放置することは出来ない。
 視線を向けた雨泽へ、あなたたちは力強く頷き返したのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 元気に砂漠を滅ぼしに来ました!
 滅ぼされないように頑張っていきましょう!

●成功条件
 魔法樹の消滅
※人命は成否判定に左右されません

●シナリオについて
 砂漠のとある集落にやべーことが起こっているのでは!? と思ったあなたたちは急いで駆けつけます。
 集落にたどり着くと人がバッタバッタと倒れています。殆どの人が意識がないか、まともな受け答えが出来ない状態です。血を吐いている人も少なくないです。死の気配を濃厚に感じ取れることでしょう。
 少女が手にしていた花は、そこら中に落ちています。集落の人々が摘んだものでしょう。花を咲かせる樹へは滅びのアークの気配を辿ればたどり着けることでしょう。
 あなたたちの本能が告げます。この樹はあってはならないものだ、と。

 PCが直接見ていないことは全てPL情報です。

●フィールド:砂漠の小集落
 元は地下遺跡の発掘のためにオアシスに集った人々が住み着き、集落となった場所。夢の都にある家よりも簡素な家がポツリポツリとあります。規模からして20名も住んでいない感じです。
 中央には泉が――あったのですが、既に枯れました。
 他に緑も少しあったのでしょう。ですが枯れています。

●『魔法樹』
 集落に突如生え、白い花を咲かせている樹。
 この土地の栄養をすべて吸い上げ、滅ぼします。この樹はまだまだ育ちます。集落はもう駄目ですが、他所への被害を食い止めることは可能です。砂漠に魔法樹が満ちれば――夢の都とていずれは。

 この樹は『燃えません』。
 魔法樹を急速に成長させるために特殊な魔力のコアのような物を使用されています。妖精たちの守護がかけられているため、妖精たちを倒してからでないとコアの破壊がかないません。

●用語
・『滅びへの種』
 滅びのアークを土地に植付けて、パンドラや大地そのもの支える魔素的なものを吸い上げ、魔法樹を急速に育てます。魔法樹が育つと土地が枯れます。

・『滅石花』
 ほうせき、と読みます。
『滅びへの種』で育った魔法樹に咲く花で、滅びのアークを蔓延させるための花粉を出します。存在しているだけで有害です。

●エネミー
・『魔女の使い魔』3体
 魔女ファルカウの配下の妖精で、地獄の業火を纏っています。
 赤いお花のドレスのようなものを着た30cmくらいの可愛い子たちです。ぷかぷか浮かんでおり、魔法樹を育てています。もっともっと大きくなぁれ! ファルカウさまのねがいのために!
 言葉使いは幼く感じられますが、魔女ファルカウの直接的な配下であるため強いです。

「ファルカウさまはおこっているの!」「ファルカウさまをもやした!」
「森をふみあららした!」「あなたたちのせい!」
「世界をもやすの!」「それがファルカウさまのねがい!」

・『滅石花の騎士』ジェレミア
 全剣王配下の不毀の軍勢に『滅石花』が埋め込まれ、更に強化された騎士です。存在するだけで滅びのアークを撒き散らし、付近の人間がバッタバッタと死にます。ですがイレギュラーズはパンドラの力があるため対抗出来ます。
 フッと笑ったり髪をかきあげたり意味もなく払ったりします。芝居がかった調子ですが、隙はありません。彼が攻撃する度に花弁がぶわわーっと舞い散って派手です。勿論花弁は有害ですし滅びのアークを撒き散らします。
 何かめちゃくちゃ目を引くので、イレギュラーズたちは「コイツから倒したい」となるかもしれません。(【怒り】の付与)

 ファルカウ配下ではないため、途中で帰ります。アリヴェデルチ!
 使い魔の妖精が1体倒されるまでは騎士らしく守ります。

●集落の人々
 そこら辺や家の中で倒れており、老人や赤子は既に事切れています。
 血を吐いて倒れている人が殆で、事切れている人も多いようです。元は20名いかないくらいの住民でしたが……生存者の数は半数あるかないか、というところでしょう。
 成人した人間よりも子供のほうが元気があるようです。が、早急に魔法樹や騎士の影響下から避難させねば助かりません。自力での移動は困難なため、救う場合は遠くまで運ぶ必要があります。

●同行NPC
 劉・雨泽(p3n000218)が同行しています。
 何か指示があれば誰かがプレイングに記してください。
 特に何もなければ住民たちの避難活動を手伝います。2・3名なら救えます。
 また、荷馬車等の操作も可能ですが、NPCはアイテムを持ち込めないので誰かが用意する必要があります。

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい等ありましたら、可能な範囲でお応えします。
(イレギュラーズ以外の関係者は不採用か死亡となる場合があります。)

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <崩落のザックーム>災花ジャハンナム完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年02月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
シラス(p3p004421)
超える者
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
一条 夢心地(p3p008344)
殿
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇

サポートNPC一覧(1人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草

リプレイ


 集落は予想通り、酷い有様であった。
 死の気配は色濃く、滅びの気配が辺りに蔓延っている。
 元は小さなオアシスで、砂漠にあった泉を中心として形成されたであろう集落に水の気配はなく、命の――精霊たちの気配も無いことに『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は「ひどい……」と眉を寄せた。
「うむ。これは一刻を争う状況のようじゃの」
 頭に鬱金香を生やしたことがあるからこそ、花に養分を吸われる心地がわかるのかもしれない『殿』一条 夢心地(p3p008344)が訳知り顔で顎を引いた。彼の視線の先には地面に横たわる人の影が見えており、仲間たちが駆けていく。
「大丈夫!?」
 屈み込んだ『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)がすぐに回復させようと杖を掲げる。
 しかし、同じように屈み込んで脈をとった『竜剣』シラス(p3p004421)が首を振る。もう息絶えていることを知ったアレクシアの唇がきゅうと歪んだ。けれど、足を止めてしまうようなアレクシアではない。他にも倒れている人が気がつくとすぐに駆けていき、シラスも諦めない彼女の背を追った。
「これは酷い有様だな……」
 活気さもない、命のない肉体が横たわっている現状に、『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)も顔をしかめた。視界を俯瞰から広く保っても、動いている人影は見つからない。人も木々も、全てが死の気配に呑まれており、これが破滅に向かうことなのだと肌で感ぜられる有様だ。
「原因を早急に取り除きましょう」
 元凶を辿るのは簡単だ。色濃く『滅び』が香る方向へと爪先を向ければ良い。ルーキスの視野にも花はいくつも入り込んでおり、樹を探すのも容易い。――まるで『こっちに来い』と告げているのではないかと思えるほどに。
「雨泽殿、救助をお願いしても宜しいか」
 まだ息のある少年を抱えてきた『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は、少年を雨泽へと預ける。
「勿論。支佐手は元凶を絶ってきて」
 支佐手の格好いいところを見られないのは残念だけどと軽口を叩くのは、イレギュラーズたちの気持ちを暗くさせないためだろう。
「雨泽様、この子を」
「うん、ニルも気をつけて」
 何かあればハイテレパスで伝えますと、『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)がファミリアーの小鳥を雨泽の肩へと乗せる。雨泽側でも何かあればニルに伝わることだろう。
「この場は麿と劉に任せよ。皆、しっかり仕留めるのじゃぞ」
 イレギュラーズたちは駆けていく。横たわる人々へ視線がつい向いてしまうけれど、息がある者は夢心地たちが救ってくれると信じて。
(これ以上の犠牲は出させないよ! 絶対に!)
 強い意志を胸に、イレギュラーズたちは駆けていく。

「さて劉よ。無事な者を助けるだけ助けて、この場をとんずらするぞえ」
「りょーかい、お殿様」
「麿はえびくんを操る故、そなたは星くんを操ると良い」
「………………あ、うん」
 キラキラと光り輝く派手な流星を模した馬車と――海老だ。海老が荷台を引いている。急ぎの事態であるから此処まで目をそらしてきた雨泽も「これ何処で買ったの?」と突っ込んだが、すぐに「あ、やっぱり知りたくない」と手で制す。大事なのは馬車としての運搬能力であり、見た目ではない。雨泽は支佐手から預かった少年を星くんこと『Twinkle☆Carrier』へと乗せた。
「む。この女の童、息があるようじゃの」
 もう大丈夫じゃと夢心地が声をかけると、花を握ったまま目を閉じていた少女の瞼が持ち上がる。
「……天使様?」
「麿はあの世からのお迎えでは断じてな~~い!」
 少女の手から花を抜き取りポイと捨て、シャイニング・夢心地が主張する。
「……お父さんやお母さんは?」
「弟がいるの……」
 少女の血の気を失った指がさすのは、彼女の家だろう。少女を雨泽が預かると、キラキラと光を纏った夢心地はすぐさま家へと向かった。
 少女の祖父と幼い弟は既に事切れていた。けれども両親にはまだ息がある。どっせいと二人を担ぐと星くんへと運び、夢心地は極力声を張りながら息のある者たちを探して回った。
「もうひとふんばりじゃ、安心せい」
 その声が生きようとする気力へ繋がる。そう、信じて。


 集落に突如生えた樹は、枝を蔦のように伸ばしていた。気配とその有り様でイレギュラーズたちには『普通の樹』ではないことは明らかなのだが、一般人にはそうではない。美しくも珍しい花に興味を引かれ、人々は近付き手折り――そして大人の中でも息絶えている者は花を抱えている。滅びのアークの影響を強く浴びたのだろう。
(なんなの……?)
 駆けながらニルは瞳を丸くした。ファミリアーの視界に既に見えている樹は美しい花を咲かせる木だが――これ以上ファミリアーを近づけるのは『よくない』と感じた。
(この花も、樹も……これが、みなさまを傷つけたもの、なの……?)
 花の褥に眠るように横たわる。文字にすれば美しいが、現実は残酷だ。
 地面がすっかりと血を吸い込んでしまっている場所に倒れている者は助からないことだろう。
(木々は命が安らげるものであるべき)
 悼ましさに眉を寄せたオデットは前を見つめる。このような滅びの気配もあれば『お母様』も憂うわけである。
 そしてそれは今、きっといたるところで同時に起きている。一刻の猶予もないのはこの集落だけでなく、他の場所もだ。それを思えば、イレギュラーズたちの心も逸る。
「見つけたよ! 君たちだね、元凶は!」
『あら、きたわ』
『まちくたびれちゃった』
『でも、デザートにはぴったり!』
 アレクシアの勇ましい声に、赤い妖精たちが楽しげに笑う。
「……妖精?」
 光の妖精であるオデットは少し複雑だ。
「お前もその妖精たちの仲間か!」
「やあ。君たちはイレギュラーズ……であっているね?」
 妖精たちの傍に居た金髪の男が麗しい所作で礼をする。その姿を見て、ルーキスはくっと奥歯を噛み締めた。
(何だか妙にキラキラしてるな。しかも金髪で花属性とか、若干自分と要素が被ってるような……)
 声に出していたら、『そうかな?』の視線が来ていたかもしれない。複雑な視線で金髪の男――ジェレミアを見据えると、見られていることに気がついたジェレミアと目があった。
「……」
 フッと笑ったジェレミアがウインクをする。多分きっと意味は無い。
 だが、ルーキスには挑発されたように思えた。
「お前の相手はこの俺だ! 散華閃刀。文字通り、その花弁(命)を散らしてやろう!」
 ルーキスが抜刀し、他のイレギュラーズたちも得物を構える。眼前の妖精たちと騎士らしき男は滅びの気配を纏っており――特に騎士は『存在しているだけでもいけない』と感ぜられた。
 騎士から倒すか、妖精たちから倒すか。
 シラスの視線が抜け目なく動く。
 しかし――その視線は騎士へとすぐに向いてしまう。視線が合うと騎士が微笑み、ああこれは敵の能力なのだと解った。遭遇した――彼の声が届く程の距離へ近づいた時点で、きっとその効果が及んでいる。
「ふざけた野郎だが面倒くせえな」
 だが、反応の速さと手数の多さはシラスの得意とするところ。
 《聖骸闘衣》にて【BS無効】を自身と仲間に付与したいところだが、既に術中に居るシラスは、その意思に反して騎士へと近接攻撃をしかけに動いてしまう。術中に陥っていないのは支佐手とアレクシアだろうか。しかし、彼等の反応は仲間たちよりも遅い。
「皆、待って。その人が気になるのは解るけれど、樹を育てているのはきっとこっちの妖精たちだよ!」
 杖を掲げ、機械仕掛けの神による『解決的救済』――仲間たちから【怒り】を取り除く。
『そうよそうよ、アタシたち!』
『ファルカウさまの木なのよ!』
『もう、きしったら! モテすぎ!』
『ごはんがなくなっちゃう!』
「かしましいですの」
 仲間たちのBS解除を優先したアレクシアに代わり、三輪の大蛇を踊らせた支佐手が妖精たちの気を引いた。
『かしましいって何よ!』
『きしよりしつれい!』
 プンプンと怒った妖精たちは堪え性がないのかもしれない。ジェレミアが「私は失礼ではない」と呟いたのをルーキスは聞いたが、妖精たちの耳には届いていない様子だ。
「フォルカウ様がこの樹を育てるように言っているのですか?」
 妖精たちが元気に騒ぐから、シラスが《聖骸闘衣》を付与して回ってる間にニルが尋ねてみる。
『そうよ!』
『ファルカウさまはおこっているの!』
『あなたたちがもやしたから!』
『もう「もやされない」木をそだてるの!』
 どうしてファルカウ様がとニルは思うけれど、使い魔たちは正真正銘ファルカウに生み出された存在であり、その身はファルカウの意思を表すかのように炎を纏い、世界を滅ぼす魔法樹を育てている。
 ほうと支佐手が相槌を打った。
「つまりその樹は燃えぬ、と」
『そうよ。すごいでしょ!』
『ファルカウさまの力なの!』
 妖精たちにとっては教えても問題ないことであるが、イレギュラーズたちにとってはその情報は無駄な労力を割かずに済むことになる。燃えないならばどうするか――。と、数名のイレギュラーズたちが思考を巡らせていることだろ。
(私が幻想種を殺したせいだ、私が深緑の森に火を点けたせいだ)
 マリカは暗澹たる瞳に使い魔たちを映した。
(私が罪から逃れようとしたせいだ、私が永遠のハロウィンを望んだせいだ。私のせいだ、私のせいだ、私のせいだ)
 自身の奥底から湧き上がる己の声が、マリカ自身を責め立てる。過去に深緑と幻想種を忌み嫌っていた。幻想種でありながら平気で森に火を放った。故郷にも災厄を呼び込んだ。
 森が――ファルカウが怒っても当然だとマリカは自責の念に囚われた。
(私のせいだ)
 マリカの視界は黒に歪む。大鎌をぎゅうと握りしめることしか、マリカには出来なかった。
「樹の『おいしい』にはニルたちもはいっているのですか?」
 少しでも多くの情報を引き出そうと、ニルが黒泥を操りながら妖精たちに問いかける。マリカの様子に気がついているのは、彼女に寄り添う『お友だち』だけだろう。マリカの代わりに戦ってくれるから、マリカが戦意喪失してしまっていることに誰も気付け無いのだ。
『はいっているわ』
 そうよね、と使い魔たちが確認しあう。
『パンドラの力? っていうのもえいようだもの』
『ケモノもそうよね』
 滅びの獣たちも、食べる。
『ええ、そう』
『とてもえいようそがたかいのよ』
「では、ここに居た人たちは……?」
『しらない』
『かってにたおれたの』
『にんげんってそういうものだもの』
 栄養にされたわけでもなく、ただ滅びのアークに蝕まれた。人は、世界を破滅に導く過程で勝手に死んでいく儚い存在だ。『食べられた』訳でもなく、ただ無意味に。ニルの胸には悲しみが溢れ、ぎゅうと杖を握る手に力が籠もった。
(ああ……)
 オデットはこれまで人の強さを『お母様』に示してきた。けれども少し、彼女が口にする『人の子はか弱く、儚い』の意味が解った気がした。イレギュラーズたちのように滅びのアークに対抗する力を持たぬ者たちは、本当に呆気なく死んでいく。
(生き残りは……)
 何人居るのだろうか。そう考えながらも、アレクシアは諦めない。
 命ある者は夢心地が回収してくれていると信じている。
「ルーキス君!」
「助かります!」
 ジェレミアの一撃一撃が重いためつきっきりになりながらも、近寄らせないようにと牽制するルーキスを支援した。

 魔女の使い魔を称する妖精たちは実にお喋りだ。
「悪いが俺はガキ相手でも手は抜かねえ」
 その顔面に渾身の魔力を込めた拳をシラスが打ち込んで、やっと一体が静かになった。
 それを視線の端で見たのだろう。ふう、とジェレミアが吐息を吐いた。
「私はこの辺りでお暇させて頂こう。美しい方々、またお会いしよう」
 彼は突然武器を収めて騎士の礼を取り、本当に唐突な行動であったため、彼の傍に居たルーキスは「え」と思わず言葉を漏らす。
『あ! こら、きし!』
 当然、妖精たちは怒る。勝手に帰るってどういうつもり!?
「義理は果たしたが」
 ファサァと髪を払ったジェレミアは帰る気満々だ。
「仲間割れか?」
「元から主が違うのだ」
 シラスの問いへシレッと答えたジェレミアが前髪を払い、何故だかフッと笑う。
「我が主の話を聞きたいのかい?」
「長くなりそうだし、遠慮しておくよ」
 早く魔法樹の脅威を取り除きたいアレクシアが応える。ジェレミアは少し残念そうだが、彼がもうこれ以上手出ししないのは本当なのだろう。支佐手が歌舞伎役者か何かかと思っていたヒラヒラ舞い続ける面妖な花弁が消えていた。
「俺の名はルーキス・ファウン。キラキラの騎士よ、次に会った時は必ず決着を付ける!」
「我が名はジェレミア。全剣王様の僕(しもべ)たる不毀の軍勢。勇ましき兄等(けいら)と再び見えし時は、その首貰い受けよう」
 マントがバサァと翻ると花弁が舞う。花弁の中にジェレミアの姿がかき消え、残された使い魔たちが『本当にかえったわ!?』と驚いていた。

「私には亡くなった人たちを冥府(ドゥアト)へ送る役目があるの」
『お友だち』たちのお陰で役割を全うせねばと奮い立ったマリカの《Dooms sundae》。最後の一体の使い魔の腹を『お友だち』が食い破り、甲高い断末魔を上げて使い魔が消滅した。
「何か出たようですの」
 使い魔が消滅しても樹は消えず。けれども魔法樹の根本に何か硬質な――コアのような物が現れた。
「滅びの気配が……」
 樹がなくなるまでは結界を維持しようとしているニルが警戒心を露わにそれを見つめる中、支佐手が剣先でそれに触れた。
「なんとまあ」
 脆い。使い魔たちが作ったと思われるコアは、使い魔たち無くしては存在できないのだろう。支佐手の剣が少し触れただけでホロリと崩れ、その瞬間、魔法樹も枝の先から霧散していった。
「良かった、花も消えていくわ」
 樹本体が無くなると花も消えていくようだ。これはまたその樹によって違うかもしれないが、花の消滅も確認できてオデットはホッと息を吐いた。
 ――ファルカウさまはおこってる!
 眼前の危機は去った。けれどもアレクシアの耳に、ファルカウの使い魔たちの声が残っている。
 幻想種たちが崇め大切にしてきた聖なる木、ファルカウ。それを燃やしたことは幻想種の心の中に今なお残る戦の傷だ。深緑を救うために必要だった。……けれど、本当にそうだったのだろうか。もっと良い手はあったのではないだろうか。どうしたって幾度も同じことを考えてしまう。
 現にファルカウは怒っている。世界を滅ぼさんとする程に、その怒りは燃え盛っている。
「アレクシア」
「……シラス君」
 胸元で手を握り瞳を伏したアレクシアに、シラスが寄り添った。
 集落から少し離れた場所では流れ星と海老――息のある者等を回収した夢心地たちが待っている。故に今集落内に居るのはイレギュラーズたちと遺体のみだ。
「……出来るだけ、連れて帰りましょう」
 このまま放置をしては生存している家族も気がかりだろうし、砂漠の獣や魔物に食い散らかされても困る。ルーキスの提案に仲間たちは顎を引き、ニルはその旨をファミリアーで夢心地たちへと伝えた。
「一度、夢の都へ届けてから戻ってきてくれるそうです」
 夢の都へと辿り着けば医者に預けることもできよう。
 その間に遺体を一箇所に集めておきましょうと、オデットが光の妖精らしく明るい表情を心がけて笑った。
 敬意をもって弔えるよう、イレギュラーズたちは戦いの後も尽力したのだった。

成否

成功

MVP

一条 夢心地(p3p008344)
殿

状態異常

ルーキス・ファウン(p3p008870)[重傷]
蒼光双閃
物部 支佐手(p3p009422)[重傷]
黒蛇

あとがき

遺体を回収した後は、同行している雨泽が『三途渡守』で霊魂の成仏をさせたと思います。
皆さんの迅速な行動、そして機転により、被害は最小限に抑えられました。

お疲れ様でした、イレギュラーズ。

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