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シナリオ詳細

<崩落のザックーム>冷たい花はさざなむ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 覇竜観測所。
 それはラサ傭兵商会連合が坐する砂漠地帯の南部に位置する砂漠地帯コンシレラと覇竜領域と呼ばれた竜の棲家を隔てるように存在して居た。
 その主たる任とは覇竜領域及び竜種を研究するために建てられた研究所である。
 混沌各国より寄付を受け運営されるこの研究所はパワーバランスを均等化し、竜たる上位存在の危険度の観測に大いに役立っていた。
 ――例えば、練達を襲ったジャバーウォックの同行をセフィロトが逐一理解していたのもこの覇竜観測所のお陰である。
 現在は開かれた覇竜領域との友誼を図り、危険存在の確認やモンスター等の生態調査を行って居た。
 故に、以前までは『確認されていない不可思議な存在』でもあった亜竜種である珱・琉珂がこの地で優雅に茶を飲んでいても問題は無いのである。
「はい。『あがり』……です」
「えっ……あーー、ティーナさんは強いわね。これで10敗。勝てないんだから」
 カードをぽろぽろと取りこぼした亜竜集落フリアノンの里長である琉珂に覇竜研究所所長のティーナがころころと笑う。
 幻想貴族エルヴァスティンの出身である才媛は故郷を取り巻く環境に嫌気を刺して覇竜観測所の所長としてその頭脳を思う存分に活かしているらしい。
 彼女が蓄えた知識は覇竜領域という未知だらけの環境下に対して大いに発揮されることだろう。
 だが、それ以上に。
「所長、隕石だけれど結構動いてるね。亜竜達が寧ろ姿を隠してる位だよ」
 さひょこりと顔を見せたアウラ・グレーシスの幼さを漂わせるかんばせにも疲弊が滲んでいた。
 常ならば綺麗に整えられた金髪も今は乱れている。三日ほど眠っていない事を物語ったのだろう。欠伸を噛み殺しながらもぐったりとした様子で手をひらひらと振った。
「あ、ありがとうございます。アウラさん。休憩して下さい。変わりますね」
「んー……まあ、交代って言われても気になって寝れないんだけどね」
 トラブルメーカーでムードメーカー。そんな明るいアウラから滲んだ疲弊にもティーナは困った笑みを返すしかない。
 琉珂とカードゲームをして居たのだって所員が順番に取る休憩時間で仮眠をしようにも眠れなかったからだ。
 それだけ混沌世界は――特にこの覇竜領域周辺や影の領域は油断ならぬ状況であるのだ。
「……皆同じですね」
「仕方ないね! 星界獣だなんだとか、ベヒーモスとか。覇竜観測所はクォ・ヴァディスと一緒にベヒーモスの観測をして置かなくちゃだし」
「はい。もしも、アレが動き始めれば覇竜領域も、ラサも、それに深緑も……」
 危険であると呟こうとしたティーナはエマージェンシーを告げる声に顔を上げた。
 酷く疲れきった顔をして居たアウラが「琉珂! ワイバーンじゃないものがきてる!」と声を荒げる。
「えっ、帰って貰って!!!!」
 そう返した琉珂はそうも簡単にお帰り頂けない事態になったのだと気付いて居た。

 ――夜闇のヴェールに微睡む子供は、腹を空かせて泣きじゃくっておりますもの。
 十分にディナーを準備して差し上げなくっては。さあ、行ってらっしゃい。わたくしの可愛い『滅石達』よ」

 女の声音は何処までも穏やかなものであった。
 覇竜観測所を覆うように無数の蔦が伸び上がる。火急の事態にティーナは直ぐさまにエマージェンシーコールを上げた。
 不幸なことに研究所内の人では出払っている。いや、寧ろ少数だからこそ被害が最低限に棲むだろうか。
「所長」
「だ、大丈夫です……アウラさん、琉珂さん。
 直ぐにどなたかが救援に来るはずです。何が起こったのかを確認しましょう……!」
 不安げな顔をして居たアウラと守るように鋏を構えた琉珂を一瞥しティーナは見る。
 大地には無数の種が植えられている。その周辺の草は枯れ落ちたか。咲き誇る魔法の花からは何かが舞う。花粉か――それが触れた場所から草木は元気を喪って行く。
「あの樹は嫌な気配がします。どこから来たのか……」
「あれ、見たことないわ。でも、なんだか気味が悪いわね」
 ティーナは小さく頷いた。蔓を伸ばしたのは樹だ。それも種類は特定できやしない。
 琉珂が鋏で切ろうとした刹那――ぼう、と火の手が上がった。
「あっ、あっつ!?」
 慌てて仰け反る琉珂の眼前に紅色に輝く宝玉を自らの胴に埋め込まれた精霊がふわりと浮かんでいる。

「全てを終らせるためにやってきました。
 わたしはファルカウ様の使い魔のフィーファルと申します。花は、お好きですか」

 精霊の手にしていた真白き花は滅びのアークの気配をさせた。一歩後退するアウラはティーナを守るように立ち、琉珂がじらりと精霊と睨み合う。
「フィーファル」
「……はい。フィーファルの役割は、覇竜観測所を『枯らす』事です」
 炎の気配が静まり返り蔓が研究所を多い拡散と成長し続ける。
 その後方に立っていた『滅石花の騎士』たる青年は恭しく精霊の手を取ってから笑った。
「麗しき魔女に、滅びを捧げさせて貰おうか。『覇竜観測所』の無法者よ」
 引き抜かれた剣の先が真っ直ぐにティーナを指し示していた。

GMコメント

●成功条件
 ・覇竜観測所の開放(魔法樹三本の無効化)
 ・人質ティーナ・エルヴァスティンの開放

●失敗条件
 ・20ターンの経過

●覇竜観測所
 ラサと覇竜の国境に存在する研究所です。混沌各地の支援などを受けて成り立っています。
 竜種が動けば様々な問題が起こるため中立として各国のために尽力してきています。
 この覇竜観測所の周辺に五本の『魔法樹』が芽吹いています。それを守るように精霊と騎士が警備をして居るようです。
 滅びへの種より育った魔法樹はぐんぐんと成長し、周辺の土壌を荒し、生気を奪い取り全てを枯らそうとしていることでしょう。
 また、魔法樹に咲いた花が滅びのアークを巻いています。
 このシナリオでは時間経過が重要です。
 魔法樹はぐんぐんと成長し続け20ターン後には覇竜研究所全てを覆い尽くします。その時点でティーナの救出は絶望的になります。

●魔法樹 五本
 滅びへの種で成長した木々です。滅石花を咲かせます。
 その成長の大元はパンドラや大地そのもの支える魔素的なものです。大地のマナを吸いあげて、滅びの魔法樹を育てております。
 この魔法樹は今回に限っては精霊が急速に成長させるための改良を行なっておりコアが存在して居ます。
 そのコアを見つけ出し破壊して下さい。何か反響する音がするそうですが……?

●滅石花
 魔法樹に咲いている花です。その花粉が滅びのアークを撒き散らします。
 花が咲き誇り周辺へと撒き散らされることで『危険』があるかのうせいがあります。
 そう、ここは覇竜領域です。つまり、周辺にはお気をつけを。

●精霊フィーファル
 魔女の使い魔。地獄の業火! 火に纏わる能力を使います。魔女ファルカウの信奉者です。
 ファルカウ様と何度も口にしています。滅石花をその体にも咲かせているようです。
 魔法を駆使した攻撃を使用します。その呪文は小駒方と呼ばれる物のようです。

●『滅石花の騎士』リー
 フィーファルの騎士。前衛タイプです。積極的にやってきます。全剣王の手の物のようですが、フィーファルに協力的です。
 堂々としており騎士らしく話します。フィーファルは面倒くさい奴だな、とか思って居るようです。

●NPC
 ・珱・琉珂
 ティーナとアウラを護りながら内部で蔓を切って脱出を心掛けています。
 フリアノンの里長。前衛で戦います。猪突猛進系ガールです。

 ・アウラ・グレーシス
 覇竜観測所のムードメーカー。観測を得意としており、竜の知識に長けた旅人の娘です。
 子供扱いをするととっも怒りますが研究者としては一流。そして、ティーナを守らねばならないという意識もしっかりと有しています。

 ・ティーナ・エルヴァスティン
 覇竜観測所所長。幻想貴族エルヴァスティン家の令嬢。才媛です。
 その知識はある意味覇竜観測所にはなくてはならぬものです。つまり、彼女の死は損害です。
 琉珂もよく分かって居ますので自分の命よりもティーナを優先します。

  • <崩落のザックーム>冷たい花はさざなむ完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年02月16日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)
黒撃
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
劉・紫琳(p3p010462)
未来を背負う者
ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)
指切りげんまん
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

サポートNPC一覧(1人)

珱・琉珂(p3n000246)
里長

リプレイ


 蔓はまるで腕のように研究所一体を抱きかかえた。宝物を抱き締める幼子のように、引き寄せては離さない。
「ッ、そ、そんな、覇竜観測所が!」
 目を疑う光景に『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)が思わず声を上げた。愕然とする焔の視線の向こうには『未来を背負う者』劉・紫琳(p3p010462)と『未来を託す』ヴィルメイズ・サズ・ブロート(p3p010531)の姿がある。
「ま、まさか、琉珂ちゃんもこの中に居るの!? アウラちゃんやティーナちゃんも残ってるみたいだし、早く助け出さないと!」
 覇竜観測所の所長であるティーナ・エルヴァスティンに研究助手を務めるアウラ・グレーシス。そしてフリアノンの里長であり、彼女達と友好的関係にある『里長』珱・琉珂(p3n000246)が内部には取り残されているらしい。
「この樹は……ただの樹じゃないことはハッキリわかる。誰がこんなことを……でもまずはティーナ君たちを助けないと! すぐ行くから待ってて!」
 内部では琉珂とアウラがティーナを護りながら凌いでくれているだろう。
 今は彼女達に信頼を寄せ、研究所内部からこの『異様な樹』の処理を行なわねばならない。『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は勢い良く掛けだした。
 その背を追いかける紫琳の唇は噛み締められて白くなる。「琉珂様……!」とその名を呼ぶ度に恐ろしさが胸に過った。
 本当ならば全てをかなぐり捨てて彼女の元に走りたい。紫琳にとって琉珂とは特別な存在だ。それでも彼女は「役目を果たさなくっちゃね」と笑うだろう。だから――「いえ、今はあの樹の無力化が最優先」
「あれだけの成長速度、魔力の源になる弱点はあるはず。落ち着いて、速攻で破壊して、琉珂様を助ける……!」
「人質とは卑怯な……! 一刻も早くこの樹をどうにかしなければなりませんね。里長様……どうかご無事で!」
 祈るようにヴィルメイズはそう言った。覇竜のために喪ってはならぬ人材が人質となって内部に捕われているのだ。
「緊急事態と聞いて来てみれば……この樹は何だろう、周辺の状況を見るにあまり良いものではなさそうだ。
 深緑辺りに持ち込めば何か分かるかな……と、今は人質の救出が先だね邪魔をするなら……容赦はしないよ」
 じらりと睨め付ける『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が刀を手に、周囲を見回した。どの様に動くのかは決定している。
 敵となる精霊と『滅石花の騎士』を撃退する者と、魔法樹を直接的に破壊する者だ。
「まさか直接、ここに現れるなんて、……バグ・ホール同様に世界のどこにでも急に出て来れるって訳?」
『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)は「もしくは種がまかれているのかしら」と呟いた。
 ヴェルグリーズに「任せたわ」と告げてか、セレナは焔とアレクシアと共に琉珂を目指す。
「この人達の相手はボク達が引き受けるから、皆は早く魔法樹の方へ!」
 視線の先に琉珂達が居る。そして、敵影が見えた。焔に促されてから紫琳が唇を噛み頷いた。
「大丈夫。誰も死なせないわ……この力は、命を守るためにあるんだから」
 ファミリアーがひらりと羽ばたいた。互いの意思疎通を行なうべきことは納得している。ヴィルメイズの肩で一休みする小鳥は魔法樹へと向かう仲間達の現状を知る為の目だ。
「此方はどうぞ、お任せを。この場に咲くのならば、美しい私だけで良いはずです!」
 琉珂が居たならば笑ってくれたであろうか。そんなことを思いながらヴィルメイズは琉珂の元へと向かう三人に『里長』の無事を託した。
「すごい勢いで育ってる!」
 思わず驚き声を上げる『無尽虎爪』ソア(p3p007025)に『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は頷いた。
「育つとマズイ樹だって話だったけれどコレ程とはね!世界の滅びを進める花粉もあってニホンスギってヤツ以上のキケンな植物だよ!」
「こんなにぐんぐん育つんだね。このままではあっという間に観測所が蔦に覆われてしまう。時間との闘いになりそうだね」
 通常の植物でないことは一目瞭然だ。ソアはぱちくりと瞬き、イグナートは蠢く樹を払い除けるように拳を叩き付ける。
 何処かにコアが光り輝いているのだろうか。見極めねばならないか。ならば――イグナートは一先ずは最大の力を叩き付けるように悪戯に魔法樹に一撃を放って見せた。


「本当に帰りたい」
「同意するけどぉ」
 げんなりした様子の琉珂とアウラを前にしてティーナは苦い笑いを浮かべていた。ティーナも帰って風呂に入ってのんびり眠りたい気分だ。
 この場が襲われたのは南部砂漠コンシレラに存在するベヒーモス(識別名ででっかくんと呼ばれている個体だ)を観察していたからだ。この状況ではクォ・ヴァディスも無事というわけはないだろう。
「これが無事に終ったら遊びに行きましょうよ、ティーナ」
「え、あ、はい。何しますか?」
「ケーキ食べたい」
 余りに軽やかに告げる琉珂にティーナは小さく笑ってから、目を瞠った。目の前の精霊が鮮やかな炎を放とうとしたからだ。
「ああ、もう――!」
 琉珂が凌がんとカトラリーセットを手に眼前を睨め付け――「そこまでだよ!」
 鋭い声音と共に魔力の花が咲き誇った。杖に灯された紅色の魔力と共にアレクシアが飛び出してくる。転がるようにやってきたアレクシアは魔法樹と共に精霊フィーファルを『魔力』に包み込む。
「どなたですか」
「イレギュラーズと名乗れば良いかな? 何者かは知らないけど、これ以上はやらせない! 私が相手してあげる!」
 アレクシアの鮮やかな蒼穹の色の瞳が精霊を見た。その傍へと走り寄ってきた焔は「皆、大丈夫!?」と声を掛ける。
「アレクシア! 焔! そいつら、割りと強いわよ!」
「だからアレクシアさんと焔さんが来たのよ。安心して。わたしが必ず皆を守るから」
 ふわりと宵色のローブが揺らぐ。魔女はティーナとアウラを、そして、共に戦線を維持する琉珂を守るように立っていた。
「セレナさん……! 救援が来たからめちゃくちゃお腹空いちゃった」
「ふふ、それは後よ。ここを乗り切らなくっちゃ。協力してね」
 琉珂は頷いた。フィーファルとリー。それぞれをアレクシアと焔が抑えてくれている。セレナはティーナとアウラを守り抜いてくれることだろう。
 赫々たる炎を纏うのは何も敵だけではない。焔とて炎の遣い手だ。神槍を手に、眼前を見据える。
「邪魔者め」
「勝手にやってきたくせに」
 焔が地を蹴った。リーと名乗った騎士を自らに惹き付ける。魔法樹へ攻撃する仲間達の邪魔も、ティーナ達を脅かす危険も、どちらも隙など与えやしない。
 ぐりんと槍の先を地へと向け、身軽に跳ね上がる。リーの剣を避けた焔はその一閃だけでも相手が油断鳴らない存在であることに気付いた。
(アレクシアちゃんの方は大丈夫かな? あの精霊は炎の気配が入ってた。
 ボクなら燃えても平気だし、炎の攻撃が激しそうならボクが何とか。
 ……今のアレクシアちゃんには無理をさせたくないけど、止めたりなんて出来ないから。せめて少しでもアレクシアちゃんの負担が少なくなるように)
 焔の友人は何時だって無理をするのだ。無理をしないで、なんて言っても止まらないし、当人の心を無視することになる。
 だから、焔は態度で示すことにした。リーの対応をして居る以上、それ程手は避けないが、自分が傷付いてでも友人を守りたかった。
「大丈夫だよ、これでも頑丈だからね」
 アレクシアは穏やかに微笑んだ。精霊を惹き付け、精霊の在り方を確かめながら全ての事象を紐解かねばならない。
「ファルカウ様……ということは、この件には彼女が関わってるということなんだね」
「ファルカウ様、しってますか」
 淡々と告げるフィーファルに「まあね」とアレクシアは言った。長耳の乙女と精霊の問答をセレナはまじまじと見詰めている。
(ええ、そうだ。騎士は全剣王の手勢。それから精霊はファルカウの使い魔。
 魔女ファルカウも、終焉の手勢なら……ええ、討ってみせる。わたし達がきっと、必ず。けれど――)
 本当に魔女が『あちら側』なのか。それだけが気がかりだったのだ。それはセレナもアレクシアも何方も同じだ。
 大地から伸び上がり巨大に広がっていく木々の魔法。その魔法はアレクシアの知っている古語魔術とどこか馴染みがあるような気配がする。
 プーレルジールで出会った魔女ファルカウと同質の気配。魔力の残滓は確かに彼女の気配を宿している気がしたのだ。
「……森を燃やし、傷つけてしまったことは償わなければならないことだよ。
 でも、それはこの地に生きる人々には関係のないことでしょう!
 例えファルカウであっても……いいえ、だからこそ、滅びを撒くなんて勝手は許さない! あの人は、絶対に滅びなんて望みはしない!」
 あの穏やかな森の魔女を思い出すようにアレクシアは言った。セレナが構える。フィーファルの炎が囂々と音を立てたからだ。
「ひっ」
 ティーナの声を聞き、セレナは大丈夫と地を踏み締める。魔力を集中させる。結界の呪いには優れている。
 祈りも、願いも、何もかもを紡いでセレナは守る為に力を得た。安寧の夜を与えるために――己の願いを枯らすこと無きように立ちはだかる。


 美しき花が転ぶ前に、耳を欹て、周囲を確認しヴィルメイズは立ち回る。
 樹を適当に『殴る』事でコアを発見せんとするイグナートの傍では標的を絞ったソアが『前方以外』に移動しなければ『とっても強い』のだと笑った。
「ふふー、ショータイムだよ」
 爪先に乗せる力も、雷も。『バリバリのゴリゴリ』なのだ。魔法樹のような動かない相手を前にしたときにソアの重い一撃は確かな効果を齎すだろう。
 攻撃は幹を抉る。コアを削らなければ樹木の成長は止まらないのだろう。だが、傷付いた部分から修復しようとするのは利口な証拠だ。
 木々に知性を感じるというのはこのような現状なのだろうか。『物理攻撃』が通じることが分かっただけでもそれは大きな収穫だ。
「ボクが壊せないはずなんてない、殺せないはずなんてない」
 しなやかなに地を踏み締めて走り抜けるように。雷の色を宿した瞳が細められる。
 ソアが抉ったその場所に穿つように弾丸が叩き付けられた。攻撃を反響するように音が響く。コアは共鳴したように深々と音色を響かせただろうか。
「花をさっさと摘み取りましょう。近付いて着ています」
 亜竜の襲撃を予期した紫琳に「了解した」とヴェルグリーズは頷いた。勢いに任せてはいけない。丁寧に花の様子を確認し、接近する亜竜への対処を迅速に行い続ける。
 耳を、そして目を、自らの五感を駆使する紫琳の指示を聞きながらヴィルメイズは逸る気持ちを抑えきれずに居た。
 コアを発見したと第一報を上げたイグナートに頷き、魔法樹の対処を行なうソア。二人をサポートするように襲来する亜竜を撃ち落とす紫林とヴェルグリーズ。
 今はアレクシアと焔が騎士や精霊を引き寄せているだろう。魔法樹が全て枯れ落ちれば精霊や騎士はさっさと撤退する筈だ。
 迅速に、助けるための力が必要だ。後少しでも己が強くあれたならば。
(ああ――「私の中に在す声の主」よ。どうかお力添えください。立ち憚るものを総て滅ぼす為なら……私はどうなってもいい!)
 ヴィルメイズは囁いた。己が中で、何者かが笑っている。
『良かろう、己を捨てる覚悟があるのならば』
「ヴィルメイズ!」
 鋭い声音が重なった。はたと顔を上げたヴィルメイズへ琉珂が声を上げる。
「しっかりなさい! この戦いが終ったらティーナとケーキ行くんだから、アナタも来るのよ!」
 里長の声音に首を振った。ああ、何かが己を飲み込まんとしていたではないか。
「里長様……」
 呟くヴィルメイズは眼前を見据えた。護りは万全だ。だからこそ、魔法樹に対してのアクションを行ないやすい。
 音がヒントとなるというならば五感の全てを行かせば良い。ソアの獣の勘はそう告げている。紫琳の聴力の協力を得て、指し示す。
「ここだ」
 ソアが地を蹴った。異様な勢いで成長している。大地から吸い上げた力の流れを見て居るだけで良く分かったのはイグナートの我武者羅な攻撃が『削る』場所を削れば、回復が遅れることがあったから。
 動物で言えば心臓だ。それを探し求めてきた。世界にはソアと魔法樹が向き合っているだけ。他の者なんてみやしない。
「良い集中力だね!」
 にんまりと笑ったイグナートがわざとらしく大地を蹴り付けた。音の気配に紫琳が「そこです」と告げる・
「オーケー!」
 ドラミングで派手に音を鳴らして魔法樹から返される音を探す。コアを探すことには随分と慣れた。ソアとイグナートは手分けをして魔法樹の『駆逐』を目指す。
「イグナート様! こちらですよ!」
 魔法樹を速やかに無力化し続ける。三本で良い。三本でも打ち払えば研究所を包み込むことはない。
 全てが終れば穏やかに後の二本の退所をすれば良い。脳内で囁く誰かの声から首を振ってからヴィルメイズは柔らかな踊りを踊った。
 サポートを行なうヴィルメイズを一瞥してから紫琳は英に誘われやってくる亜竜を撃ち落とす。
「紫琳殿」
「はい。こちらはお任せ下さい」
 頷くヴェルグリーズが魔法樹の元へと走った。幹を削りコアを削る。飛び散った命を一瞥し、耐え凌ぎ続ける焔やアレクシアを見遣る。
 まだ、耐えきれる。作戦に綻びはない。ヴェルグリーズは美しく咲いた花がコアを傷付ければ萎れていくことに気付いた。
「急成長する樹だからこそ、コアさえ傷付ければ花は『花粉』を飛ばすことはないようだ。三本の処理が終ったら『情報』だけ集めて対処しよう」
「そうだね! オレたちはこの花について何も知らないし、ティーナ達の知識も借りれるはずだよ!」
 にかりと笑ったイグナートは天より飛翔する亜竜を眺めてから「彼等にも帰って貰わないと出しね」とそう言った。
 依然として続く棋士と精霊との攻防。だが、魔法樹は枯れ落ちた後だ。リーが気付いたのだろうか僅かに剣の振り下ろす先がズレた。
 頬に擦り傷を作ってから焔はじらりと前を見詰める。アレクシアもセレナも、皆無事であることに安堵した。
 ならば、此処からが『交渉』だ。持ち得る手札は十分。相手が狙った覇竜観測所の全てを破壊することは最早叶わぬ事だろう。
「どうするの? 魔法樹はもう随分と、枯れて仕舞ったみたいだけれど」
 ティーナとアウラを護りながらセレナは問うた。傍の琉珂は「そーだそーだ! 帰れ帰れー!」とセレナに続くように文句を告げて居る。
「貴女方の目論見は潰させていただきましたが、まだ続けますか?」
 ゆっくりと近寄ってきた紫琳はリーを睨め付けた。余裕を見せなくてはならない。ティーナやアウラ、琉珂の安全が最優先だ。
 撤退を促すように構えた銃口は僅かに震えていたか。
「……フィーファル」
「わかりました。ファルカウ様の元に戻ります。失敗です。もう、何も得るものはありません。」
 姿を掻き消す精霊に、精霊が居た場所に残された炎の残滓を掻き抱くように腕に抱いたリーがじらりと焔を睨め付ける。
「騎士としてこの子を連れて帰らせて頂こう。また会おう、特異運命座標達よ」
「二度とは会いたくないよ!」
 べえと舌を覗かせる焔にリーは何も言わずその場から掻き消えるようにして立ち去った。枯れ、朽ち行く魔法樹の気配を眺めながらアレクシアはかの魔女の名をぽつりと呟いた。それだけだった。


「琉珂様。今回は仕方ないかもしれませんが、あまり無茶はなさらないで下さいね。
 無くてはならない人なのは貴女も同じなんですから。里にとっても、私にとっても……」
 そっと琉珂の手を握った紫琳に琉珂は「そう言われると照れちゃうなあ」とふにゃりと笑った。
「ありがとう、ずーりん」
「いいえ……」
 何時も明るく笑っている琉珂を見ているだけでほっと胸が落ち着いたのだ。ああ、本当に良かったと安堵から脚の力が抜けていく。
「琉珂殿、ティーナ殿、この魔法樹のコアの欠片なのだけれど貰っていっても?」
「何かに使われますか?」
 ティーナはヴェルグリーズが手にしていたそのコアをまじまじと見た。エメラルド思わせる宝玉のような色彩をしているのだ。
 魔法樹、そしてファルカウという言葉からヴェルグリーズはヒントは深緑にあるのではないかと考えた。
「深緑に持ち込めば何か解るんじゃないかと思ってね」
「……この樹は魔女ファルカウの魔術である事は確かだと思う。ファルカウの――プーレルジールに居た魔女の、魔力の残滓に良く似ていたの」
 アレクシアはどこか悔しげに表情を歪めた。セレナもそれがプーレルジールでは協力体制にあった魔女が混沌世界で大きな変化を帯びているからだと気付く。
「今の深緑でこのコアについて分かるのかは分からない。けれど、ファルカウさんが――」
 そう、ファルカウが此方に何か仕掛けてきているのだ。彼女がBad End8と名乗る者達の一員で、世界を滅びに導くだけの理由が何かある。
(もしも、願いが歪んでしまった結果だとしたら――)
 セレナは真っ直ぐに成就しない願いを『正しく』してやることが出来ればとそう願った。
「皆さん」
 危機の去った覇竜観測所でティーナは小さく息を吐く。
「我々に出来る事があれば何なりと申しつけ下さい。覇竜観測所は総力を挙げ、皆さんのサポートを行ないます」
 竜種達からも覚えめでたくなったこの地。迫り来る脅威に向け、危険など顧みず立ち向かう覚悟をティーナはしていた。

成否

成功

MVP

劉・紫琳(p3p010462)
未来を背負う者

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。

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