シナリオ詳細
カボチャはおいしい
オープニング
●カボチャ頭の名は。
男は自分がどこで生まれたのか知らない。
ただ、ひとりで誕生したわけではなかった。
見た目はみんな同じだ。目と口のあたりをくりぬいたカボチャ頭。夜になるとぼんやりオレンジ色に光るそれ。そして、妙にひょりろりとした人間種のような体。
ただ、男は唯一、言葉を操れた。
「我ガ名ハ、パンプキン卿」
自分たちとは一味違うカボチャ頭を、他のカボチャ頭たちはちょっとだけ敬った。本能的に「ちょっとだけ上のやつ」だと認識した。
そして、ともに誕生した十五名の仲間たちを引き連れて幻想を放浪していたパンプキン卿はあることを決意した。
「カボチャヲ食ベナイ奴ラヲ……許スナ……!」
そう。この世には一定数、カボチャ嫌いがいる。
カボチャに激しい親近感を抱いており、カボチャが好物でもあるパンプキン卿はそれが許せなかった。カボチャは美味しいだろう、と主観を全力で押しつけにかかった。
「許サヌ……」
そうして、事件が起こる。
●カボチャつめこみ事件
「皆さん、カボチャは好きですか?」
首を傾けた『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉に、特異運命座標たちは思い思いの反応をする。
「好きだぞ」
「どっちでもないかな」
「苦手」
そうですか、とユリーカは頷いた。
「実はある町で、カボチャきらいの方の口に生のカボチャが突っこまれるという事件が発生しているのです」
カボチャが好きだと答えた特異運命座標も、生は嫌だなぁという顔になる。硬いし、たぶんおいしくない。
「通り魔的犯行なのです……。生のカボチャはいやなのです……」
まずいものを口に入れられたように、ユリーカが顔をゆがめた。
「犯人はパンプキン卿を名乗る魔物の一団なのです。カボチャきらい絶対許さない団なのです!」
ただ、そこは魔物の犯行というか。
口にカボチャを突っこまれたのは、カボチャ嫌いだけではない。老若男女問わず、ほぼ無差別に犯行は行われている。
「たぶん、カボチャきらいそうだなぁという偏見で犯行に及んでいるのです。カボチャきらい絶対許さない団だとわかったのは、あるカボチャ頭……、パンプキン卿がそう言っていたからなのです。そういう証言があったのです」
情報を集めたのです、えっへん、とユリーカは薄い胸を張った。
「このまま町の人たちにいやな思いをさせるわけにはいかないのです。大至急、改心させてきてほしいのです!」
討伐しても捕縛しても、見逃してもいい。
ただ、犯行だけはとめる必要があった。
- カボチャはおいしい完了
- GM名あいきとうか
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月30日 21時45分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●カボチャ頭に制裁を
市街地の外れに、特異運命座標たちは集まっていた。
「今、私たちがいるのがここねぇ。敵を集めるならここがいいかしらぁ?」
地図を広げた『永劫の探求<セラエノ>』アーリア・スピリッツ(p3p004400)の白く細い指先が、市街地の中心部にある広場をトントンと叩く。
「遠距離型のカボチャ頭もいるんだっけ?」
「ちくちくと後ろから刺されると厄介ですね」
サイバーゴーグルをつけた七鳥・天十里(p3p001668)に、『チラ見せプリンスメイド』ヨハン=レーム(p3p001117)が頷く。
「二手に分かれようか。遠距離型を退治する組と、近距離型を広場に集める組」
「だなー。不意打ちは嫌だもんなー」
腕を組んで地図を見下ろす『ハム男』主人=公(p3p000578)に『雲水不住』清水 洸汰(p3p000845)が大きく頷いた。
「殺さないで、捕まえて、再犯防止のために教育してあげたいな」
「そこまでの害はないようだしな……」
平和を乱す悪ならば抹殺するのだが、と『聖剣使い』ハロルド(p3p004465)は複雑な顔になる。『見習いパティシエ』ミルキィ・クレム・シフォン(p3p006098)は、どう説得しようかと首を傾げた。
「はぁい、注目よぉ。近距離型のカボチャ頭たちがどこにいるかぁ、分かったわぁ」
夜行性の鳥を召喚して使役しているアーリアが、獲得した情報を伝えていく。
遠距離型の位置はまだすべて掴めていないが、数体ずつ固まって堂々と行動している近距離型は把握できた。
「ここと、ここと、ここ。こっちはパンプキン卿っぽいのもいるわぁ」
「パンプキン卿と取り巻きたちは引き受けよう」
かぼちゃの刺繍があちらこちらに施されたローブを身に着け、『死力の聖剣』リゲル=アークライト(p3p000442)が浅く顎を引く。
「じゃ、こっちはオレやるわー」
目立つよう、腰にランプを括りつけた洸汰が一か所を示した。
「ならこっちはボクで」
「僕はこちらを」
公とヨハンがそれぞれ名乗り出る。
「よし。遠距離型たちは僕たちに任せて」
「頑張るよー!」
天十里が胸を張り、ミルキィが頷いた。
「広場で会おう」
「作戦開始よぉ」
ハロルドが聖剣リーゼロットを抜き、アーリアが軽く手を打ち鳴らした。
ほんのかすかな音とともに、ヨハンの体の端々から青白い電光が放たれる。暗い石畳の道が徐々に照らされていくが、前方のカボチャ頭二体はそれに気づいていないようだった。
「隠れているカボチャ頭は……、沈黙しましたか」
左手の建物の上にいたが、控えめの戦闘音のあとに静かになる。
「では、問題は皆さんですね。――ついてきていただきますよ」
カボチャ頭たちがヨハンを視認。どうやらいつもの町人ではないと感じとったらしく、臨戦態勢に入る。
ここから広場まではそう遠くない。それでも、油断は禁物だ。
「シールド展開。戦闘開始」
莫大な雷エネルギーを放電。メイド服を翻して、重傷の痛みを押し殺し少年は滑るように駆ける。
「おー、いるいる」
出しっぱなしの看板の前に一体。きょろきょろと顔を動かしているのは、夜間の通行人を探してのことだろう。
洸汰がさらに三歩進むと、カボチャ頭が反応した。ふらふらと近づいてくる。
「さてとー。めーってしてやんねーとなー」
武器を携帯していることにも、生のかぼちゃを口に突っこんで回ったことにも。
大きく息を吸った洸汰が、声を張り上げる。
「やーいやーい、カボチャ頭ー! そんなにかぼちゃを持ってちゃ、重たくってこのコータ様に追いつけねーだろー!」
「タカタカ!」
「うお、増えたっ!」
建物と建物の隙間から、さらに二体登場する。
名乗り口上がうまくいったようで、三体とも洸汰に接近していた。
「よし、次は広場!」
覚えた地図を頭の中で展開し、洸汰は夜道を走る。
「ん、発見」
見える範囲で二体。手には槍。恐らく、懐には生のかぼちゃが入っている。
「物騒だなぁ」
ふぅ、と小さく息をついたところで、カボチャ頭たちが公に気づいた。タカタカと頭を鳴らしながら寄ってくる。
「威嚇にしか見えないって」
かぼちゃ食べようおいしいよ、と誘っているようにはとても見えない。
「ま、とりあえず」
肩の力を抜く。必要な部分にだけ力を入れる。
「やーい、このドテカボチャ! 中身もスカスカで、どうせおいしくないんだろう!」
「タカタカ!」
「あ、増えた」
一体、物陰から出てきた。
合計三体になったが、問題ない。公に危害を加えると決めたらしい連中が、槍を手に突撃してくる。
「広場にご案内、ってね」
踵を返し、公は走り出した。
パンプキン卿は顔を上げる。ならうように、左右にいるカボチャ頭たちも夜空を仰ぎ見た。
「フム」
今夜はなんだかおかしい。今までになく、町が静かだ。
「タカタカ」
「ム。人カ。イイダロウ、カボチャノヨサヲ教エテ……、エ?」
前方に人影、とカボチャ頭の一体が報告。パンプキン卿はそちらを見て。
「ナンダ?」
そこにいたのは、カボチャを強烈に主張してくるローブ姿の人物だった。
リゲルである。
立ちどまったリゲルは凛とした声で夜の空気を震わせる。
「俺はリゲル=パンプキン! かぼちゃを愛しすべてのかぼちゃを正しい道へと導く使命を抱く、騎士だ!」
「……同志カ?」
「否。君たちのやり方は間違っている。ゆえに今だけは、俺たちは君たちの敵だ!」
「間違ッテイル、ダト!?」
顔色こそ変わらなかったが、パンプキン卿の声に怒りが混じる。
「我ラヲ愚弄スル者、許サン!」
「タカタカ!」
「こい、どちらが正しいか証明してやろう!」
得物を振りかぶるカボチャ頭たちを、リゲルは広場に誘導する。
商店の屋上で、弓を持ったカボチャ頭がうろついている。
距離を測ったアーリアが遠距離術式を発動。一撃を食らったカボチャ頭は慌てて弓を構える。その懐に、ハロルドが滑りこんだ。
「くたばれや!」
「タカタカ!」
聖剣リーゼロットを用いた斬撃が、銀色に輝く軌跡を描く。ふらつきながらもカボチャ頭はハロルドに蹴戦を仕掛けた。
「殺しちゃだめよぉ」
「分かっている」
一度、得物をおさめて素早く敵を両腕で拘束、背負い投げる。神殿騎士団式の柔術を食らったカボチャ頭が、ガフ、と空気の塊を吐き出した。
「しぶといわねぇ」
なおも動こうとした個体を、アーリアが放った氷の鎖が絡めとる。
「寝てろ」
ハロルドがカボチャ頭を締め落とした。少し心配ににあったアーリアはカボチャ頭の呼吸を確かめ、安堵して腕を上げる。
夜行性の鳥が上空から降りてきて、とまった。
「地上組は順調に誘導できてるみたいねぇ」
「そうか。次はどこに行けばいい?」
自身も周辺の気配を探りながら、ハロルドは問う。
「そうねぇ……。あら。じゃあちょっと、行ってきてねぇ」
ゆるりと瞬いたアーリアが、鳥を宙に離した。聖剣使いは何事かと眉を寄せる。
ファミリアーとハイテレパスを用いた念話をアーリアから受け、天十里とミルキィは屋根から屋根に飛び移る。狭い間隔で建物が並ぶ地区だからこそ可能な技だった。
地上組が誘導を始めて、まだ間もない。一番広場に近いところにいる数体を任されたヨハンは、ようやく接敵するかというところだろう。
二人が向かうのは、まさにその現場だった。
「いたいた」
「じゃ、いっくよー!」
ミルキィのマギシュートが、二人に背を向けていた遠距離型のカボチャ頭に炸裂する。
「タカタカ!?」
「遅いよ!」
振り返るころには、急停止した天十里の準備が整っていた。
時代遅れのリボルバーの銃口に光が宿る。引き金を引くと同時に光柱が伸びた。
「タカタカ!」
「い……っ!」
カボチャ頭はそれでも矢を射る。曲芸射撃が天十里にあたるが、軽傷だ。
「おっしまい!」
さらに接近していたミルキィの聖光。いい具合に入ったらしく、カボチャ頭が沈黙する。
地上の方が薄明るくなったのは、直後のことだった。
「よし、次に行こうか」
「うん!」
建物に囲まれた広場に、近距離型のカボチャ頭が十体と、パンプキン卿が集められる。さすがのカボチャ頭でも誘導されたのだと察することができた。
「オノレェ……!」
歯噛みするパンプキン卿をリゲルが見据え、さらに公、ヨハン、洸汰が各々の死角を補いあうように立っている。
「大収穫祭って感じ」
「こちらも収穫されそうですが」
「生のかぼちゃはなー、嫌だな!」
「カカレェ!」
「行くぞ!」
後退したパンプキン卿が杖を振る。命令に従ったのか単に敵を殲滅するためか、カボチャ頭たちが一斉に動き出した。
リゲルは真っ直ぐ、パンプキン卿を目指す。
「フハハ! 甘イワ!」
マジックロープがリゲルを絡めとった――ように見えた。
「ア?」
「かぼちゃを無理やり食べさせるのはよくない。かぼちゃ嫌いが増えてしまうぞ?」
「ナァ!?」
動揺するちょっと偉いカボチャ頭は知らなかった。
なにせ今まで、こうすれば人々は絶対に足をとめたのだ。その隙に生のかぼちゃを突っこめたのだ。
麻痺耐性、というものを、パンプキン卿は知らない。
「不気味ナ奴メ!」
「カボチャ頭に不気味扱いされるのか……」
呆然と言ったリゲルが、パンプキン卿に接近する。
「コノォ!」
蹴戦を食らいながらもパンプキン卿が衝術を放つ。吹き飛ばされたリゲルは群がってきたカボチャ頭たちに戦鬼暴風陣を見舞った。
「さっすがに多いだろ!」
肩で息をしながら洸汰は槍による刺突をかわす。先ほど組技を仕掛けた敵がよろめいているのが見えたので、膝の裏あたりを蹴っておいた。
「うぐ……っ」
背後から衝撃。
腹部が一瞬だけ重くなって、冷たくなって、熱を持つ。体が揺らいだ。膝をつく。
耳鳴りの合間を縫うように、誰かが自分を呼ぶ声を聴いた。
そう――この混戦の状況で。誰かが、呼んでいる。
ああ、ならば――応えなければ。
「まぁだまだぁぁっ!」
散乱し消滅しそうになっていた意識をかき集めて、吼えた。
窮地にあってこそ倒れない。足は力強く地を踏みつけ、決して諦めず前を向く。
それでこその、ヒーローなのだ。
「よいしょ!」
「はぁっ!」
魔力撃を放ち、後退した公と、フラッシュエッジを食らわせて同じく一歩引いたヨハンの背がぶつかった。
互いに横目で安否を確認しあう。荒い呼吸を正しながら、公は苦笑した。
「普通にまずいね、これ」
「多勢に無勢ですね」
今にも毛を逆立てそうな雰囲気のヨハンは、硬い口調で答える。
幸いなのは、連携という発想が相手にないことだろう。てんでばらばらに攻撃してくれるおかげで、まだどうにかなっている。
倒れかけているカボチャ頭もいた。リゲルの活躍により、パンプキン卿からの妨害もない。
だが、勝利を確信する材料もなかった。
「……いえ、勝てますね」
「その心は?」
ヨハンの呟きに公が返すのと、ほぼ同時。
「全員、端に寄れ!」
ハロルドの叫びが響き渡った。
地上で戦闘していた特異運命座標たちは、すぐさま退避する。
「そーれ!」
天十里のルージュ型の爆弾が。
「からいよー!」
ミルキィのハバネロミストが。
「待たせちゃったかしらぁ?」
笑みを含んだアーリアの、菫色の甘い囁きが。
広場に固まっていたカボチャ頭たちに、降り注ぐ。
屋根から飛び降りたハロルドは、手近なところで悶絶していたカボチャ頭を投げ飛ばして気絶させた。
「形勢逆転だ」
「遅いよ、って言いたいところだけど、いいタイミングなんじゃないかな」
「そーだな!」
公が魔力撃を叩きこんだ相手に、洸汰が蹴りを放って失神させる。
「改心の用意はいいか、カボチャ頭!」
「覚悟してくださいね」
リゲルが大戦斧を旋回させ、ヨハンはカボチャ頭をモップの柄で思い切り殴った。
●おいしいかぼちゃ
広場に集めたカボチャ頭の集団を、特異運命座標たちがとり囲むように立つ。
カボチャ頭のうち、意識を保っているのは四名だけだった。他は気絶して伸びている。
「我ラハ悪事ナド働イテイナイ。我ラハカボチャノヨサヲ伝エヨウト」
「分かってないね!」
腰に片手をあてたミルキィが、反省の兆しがないパンプキン卿をびしりと指さす。
タカタカと口のあたりを鳴らしながら三体のカボチャ頭が震え上がったが、パンプキン卿はふてぶてしく彼女に目を向けた。
「かぼちゃを生で食べさせるのは、かぼちゃの真のよさを分からせず、かぼちゃを貶める愚弄行為だよ!」
「ム……」
「そうだよ。あのね、乱暴なことをして死んじゃう人とか出たら、かぼちゃ嫌いどころかかぼちゃを呪う人も出てきちゃうよ?」
腕を組んだ天十里が、きゅっと眉を寄せる。パンプキン卿は困惑しているようだった。
「ちゃんと、かぼちゃのいいところを、いっぱい教えてあげないとだめだと思うんだ」
「ムゥ」
優しく言い聞かせ、満面の笑みを浮かべた天十里に、パンプキン卿が唸る。
「ひとつ、提案があります」
エプロンドレスの埃を払ったヨハンが、愛らしい八重歯を少し覗かせた。
夜明け前。
道具を集めた特異運命座標たちと、かぼちゃをかき集めたカボチャ頭たちが、広場に再集合していた。
秋の朝のひやりとした風が、鍋から立ち上った湯気を悪戯にさらい、市街地の隅々までおいしそうなにおいを運んでいる。
「かぼちゃの煮つけだ」
パンプキン卿はリゲルから受けとった皿をまじまじと見る。黒っぽくなったかぼちゃはホカホカしていた。
意識をとり戻して手伝いをしていた他のカボチャ頭たちも、不思議そうに煮つけを見る。
「ウム」
意を決し、ぱくりとパンプキン卿はそれを食べた。
「ハフ!? ホフ、ホフホフ……、ンマイ!?」
一応リーダー格のパンプキン卿にならい、かぼちゃの煮つけを食べたカボチャ頭たちも、初めて口にする熱さに慌てながらも咀嚼し、飲みこんで感動している。
うまい。生のかぼちゃよりはるかにうまい。
「味の薄いカボチャも、多めの砂糖と醤油で煮こめばうまくなるんだ」
「ソノヨウダナ……」
しゅん、と落ちてしまったパンプキン卿の肩を、ミルキィがポンポンと叩く。
「こっちはかぼちゃのパウンドケーキだよ! 食べてみて!」
「ウム。……甘イ! ウマイ!」
「タカタカ!」
素直に感動するカボチャ頭たちを、特異運命座標は少し温かい目で見守っていた。
「んー! 本当においしいわぁ。お酒にもよくあうわねぇ」
どこから持ってきたのか、酒瓶の中身を注いだグラスを持ちながら、アーリアがかぼちゃの煮つけを食べている。
その姿をしばらく見ていたパンプキン卿は、嬉しそうに呟いた。
「カボチャヲ……、ウマイ、ト……」
「本当にかぼちゃ好きを増やしたいなら、こうやっておいしいかぼちゃ料理をたくさんの人に振舞ったらいいんじゃないかな?」
パウンドケーキをフォークに刺した公が肩をすくめた。
「その方が、嫌いな人に無理強いするよりずっといいよ」
カボチャ頭たちは思い出す。彼らの記憶力は実に心もとないが、生のかぼちゃを口に入れられた人々が嫌悪感満載の顔をしていたことだけは印象として残っていた。
「料理を覚えて、もっとカボチャを好きになってもらおう」
「嫌な顔をされるより、少し手を加えたかぼちゃを楽しく食べてもらった方が、よほどいいだろう?」
リゲルとハロルドの説得に、パンプキン卿は逡巡してから首を縦に振った。
「ウム……」
「レシピ、教えてあげるよ! あと、どれほどおいしく作っても、食べたくない人に無理に食べさせるのはだめだよ」
ミルキィの忠告に、カボチャ頭たちは頷きあう。
「覚えていてくれるかしらねぇ?」
「うーん。記憶はだめでも、心に残れば?」
囁いたアーリアに、天十里は希望をこめて返した。
「改心してくれたようだが、君たちはお尋ね者になっているからな。このあと、ローレットにきてもらうことになる」
「まー、反省してますっつってー、しばらく悪さしなかったら許してもらえると思うぜー?」
目蓋を半分伏せたリゲルと、煮つけを吹き冷ます洸汰の言葉を、パンプキン卿は反射的に拒絶しかけた。
「コトワ……」
「断った場合」
淡々と遮ったのは、ハロルドだ。
「もしくはローレットで面倒を見きれないと言われた場合、俺の事務所で預かる。ただし、二度と悪さできないよう、俺の二十四時間組手につきあってもらうが」
彼に昏倒させられたカボチャ頭たちが震え上がる。パンプキン卿に必死で首を左右に振り、タカタカと訴えた。
それだけは嫌だ、と言っているに違いない。パンプキン卿も固まっていた。リゲルは心持ち和らげた口調で、
「ローレットにはできるだけ口利きをしよう。労働奉仕の約束をし、悪さはもうしないときちんと訴えれば、きっと受け入れてもらえる」
「かぼちゃの栽培と、幻想内の孤児院への寄付も約束してはいかがでしょう」
大鍋をかき混ぜていたヨハンが片手を挙げる。
「貧しい孤児院は多くありますし、おいしいかぼちゃを届け、料理を振舞って差し上げれば、きっと喜んでいただけますよ」
カボチャ頭たちに対する、ローレットからの評価もいい方向に傾くだろう。
おいしいかぼちゃを食べてもらえるのだから、カボチャ頭たちにとっても悪い話ではない。
「かぼちゃもさ。美味しく料理されてれば好きになるだろうし、まずかったら食べたくないよ。好きか嫌いの両極端じゃなくて」
「そうよぉ。生のままじゃ、お酒にもあわないわぁ」
「もとはおいしいかぼちゃを食べさせたいという善意だったのでしょう? それを必要としている方は、絶対にいます!」
沈黙していたパンプキン卿は、公とアーリア、ヨハンの声に顔を上げた。
特異運命座標たちの顔を順に見まわし、最後にカボチャ頭たちを一瞥する。
「……ヨロシク頼ム」
そして、カボチャ頭たちの指導者は、ゆっくりと頭を下げた。
「雨降って地固まる! ってやつかー? やっぱうまいもんは、うまいっつって食べてくれる人に振舞うのが、一番だからなー!」
明るく笑った洸汰は、おいしいかぼちゃの煮つけにますます相好を崩す。パンプキン卿が照れくさそうに頷いた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした。
後日、カボチャ頭たちは労働奉仕としてハロウィンの日に幻想のとある町でかぼちゃ料理を振舞ったそうです。
特にかぼちゃの煮つけとパウンドケーキはおいしかったのだとか。
人々がかぼちゃ料理をおいしそうに頬張る姿に、パンプキン卿をはじめとするカボチャ頭たちは大喜びし、カボチャの栽培も始めました。
おいしく食べてもらう一工夫が、彼らには足りなかったのです。
なにせカボチャ頭ですので、たまに問題も起こしますが、都度都度、特異運命座標の皆様に再教育されているようです。
ご参加ありがとうございました。おいしいかぼちゃ料理をたくさん召し上がってください。
GMコメント
お久しぶりです、もしくははじめまして。あいきとうかと申します。
好きを押しつけるのはよくありません。
●目標
カボチャ頭たちの討伐、あるいは捕縛か説得。
ただしカボチャ頭たちとは必ず戦闘になります。
また、食べてもおいしくありません。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
現場に到着するのは夜です。
カボチャ頭たちの出現地域はユリーカが絞ってくれました。
夜の市街での戦闘になります。建物を利用して戦闘することができます。
建物は高いものでも四階建てです。
人々は避難ずみですので、よほどのことがない限り巻きこむ心配はありません。
ただ、できるだけ家や道は破壊しない方がいいでしょう。
●敵
パンプキン卿を指揮官とするカボチャ頭の一団です。目と口らしきくりぬきがあり、頭がぼんやりとオレンジ色に光っています。
全員、知能は高くありません。カボチャ頭たちはめったにパンプキン卿の指示に従いませんし、特にパンプキン卿を守ることもしません。
パンプキン卿も罠などには普通に引っかかります。喋れるだけのカボチャ頭です。
『遠距離型カボチャ頭』×五体
弓を扱います。建物の上や物陰に隠れていることが多いです。
・射撃:物遠単
・曲芸射撃:物遠単
・蹴戦:物至単
『近距離型カボチャ頭』×十体
槍を扱います。タカタカ鳴きます。
・格闘:物至単
・突く:物近単
・深呼吸:物自単
『パンプキン卿』×一体
名前は自称。ちょっと喋れるだけのカボチャ頭。
どこかで拾った杖を持っている。カボチャ頭たちの中で実は一番弱い。
カボチャ嫌いの方をを集中的に狙います。
・マジックロープ:神遠単【麻痺】
・魔弾:神中単
・ライトヒール:神遠単【治癒】【万能】
・衝術:神至単
●その他
カボチャ頭たちは倒してしまっても説得してもいいですが、なにせカボチャ頭ですので、その場では納得してもそのうち同じように生のカボチャを口に突っこむ通り魔事件を引き起こす可能性があります。
よろしくお願いします!
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