PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>破滅に供える願封じ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●願封じ(がんふうじ)
 人は生きれば何かを願う。
 願ったなにかのどれかは叶う。
 けれどどれかの祈りは尽きず。
 潰えたなにかも再び願う。
 結局願いは渦を巻く。

 願いと願いが反する時、どれかは叶いどれかは消える。
 同じ願いの、違いはなあに。
 違う願いの、同じはなあに。
 やっと見つけた願いの礎。
 人は他人(ひと)ゆえ交わらず。
 交わらぬゆえ心を乱す。
 
 願い続ける困難と。
 邪魔され続ける災難を。
 全て受け入れ眠れれば。
 全て拒んで喰らえれば。
 そんな極みは神にだけ。

 なれば願いを捧げましょう。
 譲れぬ思いを示しましょう。
 だからどうか、その大いなる恩寵を。
 我らが命にお与えください。
 どうか、我らに。
 どうか、我に。


●願いとは何か
 地図上は幻想に属するものの、その距離故に独自の文化を築くとある農村。
 イレギュラーズ一行は、農村からローレットに出された依頼を受け、この地を訪れていた。
 今は丁度、村の入口に鎮座する大きな石碑へ刻まれた言葉について問いかけたところである。
「ああ、それは今回皆様にご参加いただく『願封じ』に用いる祈りの言葉です」
 一行を出迎えた祭司の男が答える。
 比較的若く見えるが、その恰好や引き連れた従者の列から見るに相応の立場を持つのだろう。
「ずっと昔からの習わしなので、その謂れや意義に当たる部分もどこまで正しく伝わっているのか、怪しいものですけどね」
 まるで他人事のように。男はあははと明るく笑う。
「簡単に言えば、新年の願掛けの一種ですよ。
 年が開けて一定期間内に、村の代表何名かが山頂の神社に泊まり込みます。
 その際、今年に叶えたいと強く願う思いを手紙に綴るんです。
 一文字一文字時間をかけて、一日がかりでしっかりと念を込めて、ね。
 そして翌朝。手紙を神様が祀られている倉へ奉納し、儀式を行って封じるだけです」
 神社の境内へと向かう道のり。
 村の中心部にある小高い山を登る中、男は続ける。
「封じると言っても、仰々しいものではないですよ。鍵をかけて我々が保管するだけ。
 保管も、願いが叶ったと奉納者が申し出ればそのまま手紙を取り出してお返しするまでの間だけですし。
 仮に申し出がなくても、1年経ったら取り出して処分してしまいますから」
 随分形式的なものだ、と感じた者もいたかもしれない。
 もしかしたら一番それを感じているのはこの祭司の男なのかもしれない。
 だが、その形式を重んじて生きている人々が存在するのもまた事実である。
「まぁ、伝承上は願いが叶わないと色々問題がありましてね。
 ですが今年は新年早々『あれ』がありましたでしょう?
 この村は僻地ですから、情報が来る頃には尾ひれ背びれがまぁすごいわけで」
 彼が言うのは、話の内容からして『バグ・ホール』を指すようだ。
 イレギュラーズの自分達から見ても訳が分からない代物。
 民間人からしてみれば、これほど滅びを実感できる要素もないであろう。
「で、今年は願いが叶わなさそうだから代表に立候補する者がなく。
 けれど願いを奉納しなければ色々とマズい。そこで、皆様の出番となった訳です」
 おおよそを説明し終えてところで、男は前を向く。
 説明は充分という判断だろう。
 要は神社に泊まり込んで願いを手紙に綴り。
 その手紙を奉納する儀式に参加すればよい依頼というわけだ。
 事は至極簡単に思えるが、幾つかの疑問は残る。
「手紙の内容? ああ、しっかりと叶えたい願いを書いてくれれば良いですよ。
 世界がどのくらい危ないのか正直知りませんけど、皆様でしたら混沌世界で為したい事とか、希望とか……そういうのあるでしょう?
 よく分からなければ、新年の書初めくらいに思ってもらえれば。
 但し嘘や疑念がある事を書かないでくださいね。
 強い願いでないものを捧げたならば、神様が怒ってしまうそうですから。
 そういえば以前には手紙と一緒に物を納めた人もいましたね。
 『この1年魔物退治にこの剣を使わないぞ!』みたいな内容でしたかね?
 まぁ願いが強いほど、封じる思いが強いほど叶いやすい、というのが暗黙の了解です。
 何か手紙以外に供えたいものがあれば、お預かりしますので自由にどうぞ」
 神社の入口が見えてきた。
 あくまで行事をこなす意識の祭司にはご利益は感じないが、真っ赤な鳥居は如何にもそれっぽさがある。
「着きました。本日は宿所を用意していますので、そちらでおくつろぎ下さい。
 何もない村ではありますが、食事やお風呂等、お世話周りはお任せを。
 あ、でもちゃんと願いを込めた手紙は用意しておいて下さいよ?
 明日は朝から儀式を行います。
 皆さんは一応今年の村代表ですので儀式中寝たりしないように。
 どうせなら何が起きても儀式が円滑に進むよう守っていてください、とでも頼んだ方が目が覚めますかね?」
 再び、あははと笑う。
 あくまで冗談だと言わんばかりに。
「もし願いが叶わなかったらどうなるか?
 そうですね~……叶ったり叶わなかったりは時の運な気もしますけど。
 あくまで伝承上は――死んでしまうらしいです。
 まぁ、実際そんなことないと思いますよ。
 怖いんでしたら死んでも叶える! って気概で頑張ればいいだけですし?」
 またしても、あくまで冗談として。
 けらけらと笑う男と一行を、見守る二人の子供がいた。
「願いを封じるんだって」
「そうだね」
「なんで願うんだろうね。強い願いはいつか身を滅ぼすのに」
「だって願いは生きる目標だから。願いがないと、そもそも生きられないんだよ」
「そっかー。でも封じるのは変だよね、生きることなら余計にさ」
「あの人達には皆で生きる事が大切だからだよ」
「どゆこと?」
「だって願いを叶え続けるのは大変だから。
 生きていれば、どこかで他人とぶつかる。
 ぶつかったのにどちらも叶えようとし続けたら、邪魔を叩き潰さないといけなくなる。
 そしたら結局、誰かの願いが消えちゃうんだ。
 だから皆で生きられるように。他人が邪魔になってしまわないように、心に蓋をするんだよ」
「あー、ソンタクってやつだっけ?」
「結構違うけど、そんな感じ」
「じゃあ。そんな隠された願いを叶えてあげるのが、ボク達の仕事だ」
「そうだね。でも、今はまだ見てるだけだよ。ボク達の仕事は願いを知ってから決まるんだから」
「はーい」
 興味深そうな視線は注ぎ続けられるが、その特殊な気配には誰もが気づけない。
 子供達すらも。
 感じるのは、ただ握り合った互いの手のぬくもりだけである。

GMコメント

※各種《》項目に関してはGMページにて解説
※相談日数4日です。状態異常などに注意してご参加下さい。

《システム情報:情報確度A》
●目標(成否判定&ハイルール適用)
 『願封じ』の完遂
●副目標(一例。個人的な目標があれば下記以外にも設定可)
 叶えたい願いへの想いをしっかり手紙に込める

●冒険エリア
【幻想郊外】
願封じの儀式が行われる神社の広場500mとその周辺(以後「広場」表記)

《依頼遂行に当たり物語内で提供された情報(提供者:神社の祭司 情報確度B)》
●概要
 神社で行われる『願封じ』の儀式に参加してほしい
 儀式の最中何かがあれば、儀式の遂行と神社関係者の安全を守ってほしい

●人物(NPC)詳細
 特筆すべきネームドNPCは無し。

●味方、第三勢力詳細
 シナリオ参加人数が定員に満たない場合、不足分だけ村が雇った傭兵が作戦に協力してくれます。
 傭兵は参加者の平均程度の能力に加え、参加者が付与したい役割(回復、タンクなど)「一つ」を担うのに必要な分のステータスが補正加算されます。
 (回復ならAP多め、タンクなら防御技術高め、等です)

●敵詳細
【終焉獣】
 黒い人型のような個体が現れます。
 数は1d30でランダムですが、十体以上は確実に出現します。
 現れる個体は何故か【識別】/【不殺】が無効です。
 (正確に表現すれば、攻撃時のみ味方判定になりイレギュラーズや神社関係者との区別が出来ず。
  体力が1割を切ると黒い血だまりの様に足元へ溶けた後、一定時間で消滅します)
 一部は焚き火を破壊しようと、残りは本堂の願封じを解き放とうとします。
 HPは異常に多いものの、機動力を始めその他ステータスは低めです。
 接近すると抱きつくような行動を取りますが、大きなダメージやBSはありません。
 (仮に抱きつかれた場合、燃えている人の火の粉が徐々に自身へ移ってくるような、チリチリとした不快感のある痛みを感じます)


●ステージギミック詳細
【???】
 終焉獣が出現する少し前、ジャミングと妖精殺しエリア内全域に発生します。
 それと同時に、PCは妙な胸騒ぎを感じます。
 本来、敵の索敵が必要となりそうな場面ですが、何故か感覚系スキル等を用いなくとも、敵は神社入口から広場に向かってくる事が直感的に分かります。


●エリアギミック詳細
<1:建物>
 広場を中心とした場合、北側に本堂、東側に1日目に利用する宿所や、神社関係者の詰め所等があります。
 どれも相応の広さがあり、質素なもので良ければ皆様が必要とする道具類などは用意してくれます。
 ここに終焉獣の手が及ぶようなら、目標は失敗と言えるでしょう。

<2:屋外>
 広場を中心とした場合、南側に入口、西側に森が広がっています。
 儀式を行うのは朝で、森にも光が差し込みある程度見えるため特段の対処は不要です。
 広場には儀式に使う大きめの焚き火装置と飾り付け等がありますが、基本開けています。

<全般>
光源:1・2問題なし
足場:1・2問題なし
飛行:1不可、2問題なし
騎乗:1不可、2問題なし
遮蔽:1有、2なし
特記:特になし


《PL情報(提供者:GM プレイングに際しての参考にどうぞ)》
【主目標のために何すればよい?】
 1日目は願封じに用いる手紙(と入れるなら物品)の用意、2日目は終焉獣の対処が必要です。
 PL目線では気になるところがあるかも知れませんが、PC目線ではただ言われた事をやれば大丈夫です。
 願掛けと戦闘以外にも、希望があれば1日目は多少ゆっくりとした時間を過ごせます。
 基本一人一部屋あたっていますが、もし参加者同士で同室希望の場合はプレイングで双方指定下さい。
 (但し、奉納する願いはPCレベルにおいては同部屋の方にも秘密でお願い致します)

【願封じ】
 儀式が上手くいくならば、他のイレギュラーズや神社関係者『には』見られる事がありません。
 儀式の条件としても、封じるものに嘘や疑念があると後々災いがあるとされているので、しっかり願掛けを行いましょう。
 手紙の内容は『願い』の要素が含まれていれば自由で構いません。
 (プレイングの原文をリプレイに載せたくない場合、その旨記載頂ければぼかして描写します)
 物品を合わせて奉納する場合でも、システム上特に何かを無くす等の処理はありません。
 儀式も手紙が奉納されれば問題ないので、物品奉納はご自身のRPに役立てるのに何かをしまってもOK、くらいのニュアンスです。

【終焉獣】
 良く分からない存在です。
 ただ滅びのアークの気配を纏っていますし、儀式の障害なのは明らかですので確実に倒しましょう。
 とはいえ機動面でも反応面でも動きは遅く、面倒な攻撃もない相手です。
 全力で攻撃し、確実に倒すまで続けることができれば何とかなると思います。

【謎の子供達】
 もっと良く分からない存在です。
 PC的には存在を知らない状態となっておりますし、今回は無視して良いでしょう。

【その他】
目標達成の最低難易度はN相当ですが、行動や状況次第では難易度の上昇、パンドラ復活や重傷も充分あり得ます。

  • <グレート・カタストロフ>破滅に供える願封じ完了
  • GM名pnkjynp
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年01月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
シラス(p3p004421)
超える者
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ

●女子会と炎
「ここまで結構遠かったっすけど、観光だと思えば以外とありかもっすね。エマ先輩!」
「えひっ!? あ、はい。そ、そうかも知れませんね……」
『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)の快活な呼びかけに、『こそどろ』エマ(p3p000257)は初手で奇声を発した。
 いや、正確には奇声は二度目であった。
(『お部屋に案内します』ってなった瞬間、突然腕を抱きしめられて『あたし達同室希望っす!』とか言われたら誰でも『えひゃあ!?』くらい言っちゃいません? ね?
 そして驚いてる間に部屋へ着いてたとかありません? ねぇ?)
 ぎこちない笑顔の裏では、超高速の呪文詠唱でもするかのように自問自答を繰り返す。
「あ、エマ先輩! 神社の人が飲み物持ってきてくれるらしいっす。何が良いっすか?」
 再び腕を抱かれ。
「ひやっ!?」
「ひや? ……あー、お冷やっすね! じゃあ先輩はお水で、あたしはお茶をお願いするっす!」
 侍女はちょっと違うのでは? という表情を浮かべつつもウルズの笑顔に押し切られる形で飲み物を取りに下がった。
 その後掘りごたつのテーブルで配膳された飲み物を一口。
 ようやくエマも落ち着きを取り戻せるというもの。
「ふぅ……」
「それじゃあエマ先輩! すっかり遅くなったっすけど、改めて。
 ウルズっす! 宜しくお願いするっすよ!」
「あ、えっと。エマです。宜しくお願いしますね」
 この二人、実は『二度目まして』。
 正確にはローレット所属同士ぼんやりとした認知はあったものの。
 面と向かって話したのは先日天義であった動乱が初めてなのである。
「あの時はありがとうございました」
「お礼なんかいいっすよ! というかあたしもエマ先輩の顔面思いっきり殴っちゃってすみませんっした!」
「ええ!? いや、あれは私であって私じゃないから……!」
 ふふっ。
 どちらともなく。ふと目があって、笑い出す。
「あの時はまだ絆は無かったっすけど、本当にエマ先輩の後輩で親友になりたいっすよ!
 だから今日は一杯女子トークするっす!」
 ――へへん、先輩とあたしの絆、見せつけてやるっすよ!
 エマの脳裏に蘇る。
 あの言葉、感じた温もり。
 それは治癒とは別の何か。
 だから、この押しの強さと熱さに。
 自然と笑みが浮かぶのだ。 
「えっひっひ、私は構いませんが、あまり気の利いた話なんかは期待しないで下さいね」
 こうして一気に関係を深めた二人は何気ない女子トークに華を咲かすのであった。
「あたしは足技には自信があるっすけど、先輩はどうっすか?」
「強いていうなら手癖? なら多少は」
 女子とは?

~~~

 エマが寝付いた頃。
 月明かりに照らされる白紙の手紙を前に、ウルズは悩んでいた。
(願いごと、か……)
 『ウルズとは何か』。
 気まぐれ、ホラ吹き、金に酒。
 そう周囲へ言ってきたし、実際彼女の一面ではある。
 だが、それだけでは完璧な解答になり得ない。
 自ずから消した記憶もあれば、消さずに封じた想いもまた、混沌におけるウルズが生きた証。
(……よく、わかんないっす)
 元の世界で、この世界で。
 非情も為し。人を救い。焦がれる恋をし。
 忘れられない『先輩達』が出来て、消えて。
 そして――。
(ベビオラ……)
 抱いた、確かな温もり。
 苦しみ、救い出した命。
 過ぎる、純真な笑み。
 鏡写しのような幼子の瞳。
 それがただ、愛しくて。
 この気持ちを名付けるなら、母性だろうか。
 だがそれは親友や後輩より、ずっと重く感じて。
(母親になってあげたいっすけど、そんな資格……)
 ふと手元のマフラーを掴み、顔を埋めた。
 そこに残り香は、ない。
 でも、感じる。
 未だ燻る熱と、嘆きと、後悔を。
(……そうだ。ここで引いちゃダメだ)
 だから願う、彼女の、己の幸せを。
 重ねた嘘よりも確かな、強火の本音を。
 後悔を手紙と封じて、今度こそこの手に掴む。
「先輩……。今度は気持ち、届くまで真っ直ぐ向けてみるね」

●かつて少年だった男
「ったく長閑なもんだな、休暇気分だぜ」
 案内された畳張りの部屋へ横たわる『竜剣』シラス(p3p004421)。
「……もう叶えちまったよな、大体は」
 双竜の猟犬。竜剣。幻想の勇者。
 かつて暗闇で誰の目にも止まらなかった少年は。
 混沌とした世界で決意を持って息抜き、今や誰しもに知られる存在へと至った。
 そんな己の願いは何かと思考を巡らせれば。
 自然と自身が辿ってきた軌跡が脳裏を過る。
(掃き溜めにいた俺が神殿に召喚されて……)
 最初期にローレットで登録されていた情報を見た時を思い出す。
――幻想出身の少年。どこの街でも掃き溜めをさらえば数人は引っかかるような拗ねた目をした子供だった。
 心ない人たちに雑に作られて雑に生かされていたが、やがて逃げるように家を出た。
 ふらふらとケチな仕事で食いつないでみたけれど足らず、やがてスリを覚えた。
 同じような境遇の子供や、彼らの上前を撥ねるような大人とイレギュラーズになった今でも交流がある。
 被召喚後に神秘の技を急速に身につけた。
 いつもスカした態度でいるけれど内面は臆病でウェット。
 先日の依頼(唇に『秘』の薬)で初めて直接その手を汚した。戦いの興奮が去った後から時折胸にジクジクとした不快感を覚えているが、そんな時は理由が分からずにイラついてしまう。
(ふっ。変わったもんだ)
 あの頃の決心も、不安も、野望も、手に跳ね返る朱への想いも。
 その全ては本物だったはずなのに、今や自分のものとは思えない。
 だがこれこそが。
 絶望の中で足掻き苦しみ掴んだ人生の重み。成長の証であり。
 だからこそ。
 今の彼が見るべき夢がある。
「……そうだ!」
 体を起こし、筆をとる。
「待ってろよ、ビッツ・ビネガー……!」
 もう路地裏で仕掛けるなんて真似はしない。
 もう俺は『可愛い子犬』じゃない。
 考えるほどに、想いに熱が灯る。
「ラド・バウの公式戦、コロシアム一杯の観客の前で……ぶっ倒す!」
 手紙には、力強く大きな文字で『Sランク昇格』と書かれていた。

●ボクは人間である!
「ふふん、ボクにお任せ!」
 一日かけて、一年がかりの願い事をする。
 こういった状況において、多くの人間は何を願うか迷うものである。
「なんて簡単なお仕事なのかしら!」
 だが『無尽虎爪』ソア(p3p007025)は迷いなく筆を運ぶ。
「美味しいものと言えば、ステーキは外せないよね。あーでもシーフードもいいよなぁー」
 長年精霊として人間を見守り続けた彼女は人間の姿を得て。
 ここに至っては全身を人間体へ変える術も会得した。
 となれば彼女の願いは、より人間らしくあることに向いていく。
「シレンツィオのグルメは制覇したいしー。あ、鉄帝のお酒美味しかったなー!」
 美味しいものを沢山食べ。
「あ、新しいドレスも欲しいなー。水着も新調したいし~……あ、せっかく人間の脚になったんだから履物も拘りたいよね!」
 己を着飾り。楽しいことを全力でやる。
 当たり前すぎて意識しないような事でも、これらは平和だからこそ出来ることであって。
 人間が安心して生を全うできるからこそ生じる欲望。
 それがどれだけ素敵なものか、ソアは心で分かっていた。
「あー、あれも欲しいなー。ここもう少し書き込めるよね?」
 だから手紙に空きがある限り、思い浮かぶ願いを所狭しと書き込んでいく!
「全部今年中にやるからね! ふふ、楽しみ!」
 願いを叶える神様? 精霊様?
 どっちにしても、ボクは人間としての人生を楽しむから! よろしくね!

●とうに目覚めた自我
「ふむ……幻想は欧州風の文化だと思っていたが、神道のような宗教施設も存在するのだな」 
 神社へのお参りを済ませた『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は、宿所に設けられた自身の部屋へは向かわず、周辺の散策に当たっていた。
(まさか御朱印まであるとは。益々ここがどこだか分からなくなりそうだ)
 どうにも元いた世界を思い起こさせる光景を堪能すると、宿所へと戻る。
「さて、願いを書かねばならないわけだが……」
 彼女の中で願いは既に決まっていた。
(この混沌に生きる者すべてが飢えに苦しまず。
 孤独を嫌う者が孤独に悩むこと無く、日々を過ごせる事。
 栄養がある美味い食事で家族の団欒を楽しみ、新しい朝を迎える事。
 誰にでもそんな日常が続くように……)
 手紙を書き終えると、自身が経営している『Stella Bianca』へ思いを馳せる。
(今日は店を閉めざるを得なかったが……あの常連さん。夕食はきちんと他で食べているだろうか)
 元々は生活のために始めた飲食店。
 だが今やローレットでの活動と甲乙をつけがたいほど、彼女の人生の大部分を占めているそれは。
(私の店が皆の助けになれれば良いが)
 ――君に、世界はどう見える?
 もし今そう問われたならば。
「人もアンドロイドもそれ以外も。あまねく命が生きる美しい場所、といったところかな」
 そういって小さく、微笑んだ。

●毒も薬も根は同じ
『温もりと約束』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は、立ち上るお茶の湯気に目線を沿わせ、同じように思考をゆらゆらと巡らせる。
(願いが叶わなければ死んでしまう手紙なんて呪いか何かでは……?)
 死。呪い。
 どちらも願いという言葉が感じさせる希望と見比べれば、実に対極的だ。
(死がいずれ命へ訪れる呪いだとするならば、それは避けられないのかもしれないですけど……)
 死や絶望には、深さがある。
 事実、己が生まれ落ちた集落が滅ぶ時も、世界が滅ぶと初めて聞いた時も。
 ジョシュアは死を感じた。
 生まれ落ち、友達になれると信じた相手が己に見えない毒を巡らせていく時も。
 ジョシュアは絶望を感じた。
 そんな悲しい日々の記憶は生きていること、生き延びた事の意味を否定しようと襲い掛かって来る。
 そんな痛みに包まれた時、死ぬのも仕方ないと思った時もあった。
(でも……命ある限り。こうありたいと願い、祈るのも、許される行いですよね)
 願い、想いにもまた、見えない深さがある。
 仲間と出会い、魔女と出会い。
 世界は冷たく悲しいばかりではないと知ったから。
 願いを込めて、丁寧に手紙へ綴る。
(今ならはっきりと、言葉にできます)
 彼の心へ降り積もった雪は、時間をかけて、少しずつ。
 春の陽気にも似た大切な人々の温もりに触れて、溶けつつある。
 そんな温もりを、失いたくなどなかった。
(僕は、滅びを止めたい……守りたいんです)
 胸元で揺れる懐中時計を握りしめ。
(だから僕も、死んだりしません。……願いを叶えて。もっと。いつまでも)
 貴女の側に。
 手紙に宿す願いを、深めていく。

●手を伸ばさずにはいられない
「……ところで何か手伝うこととかないか?」
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が尋ねれば。
「そんな滅相もない! 皆様は神事の代表となるわけですから、今日はゆったりとして頂かないと」
 お世話役の侍女がぶんぶんと首を振る。
「俺自身何かしている方が性に合うんだ。
 良い願いを封じるためにも、迷惑でなければ色々協力させてほしい」
 しかしエーレンも引き下がらない。
 侍女は少し悩んだが、折角の厚意を無下にする方が無礼であると判断しエーレンを連れお勤めを続ける。
「今日は神事の前なので、基本的に私達はお世話係に注力します」
「なるほどな。そういえば明日は早い内から儀式を始めるのだろう?
 焚火をすると聞いたが、用意には男手が要るのではないのか?」
「あ、そうですね。そちらもありますが……」
「俺はどんな仕事でも構わないぞ、遠慮なく言ってくれ」
「あはは……すみません。では、お言葉に甘えさせて頂きますね」
 侍女は申し訳なさそうにしつつも、エーレンの優しさに心を許し次々とお願いをする。
 エーレンもまたそれに全力で取り組み、しっかりと役目をこなしてみせた。
「今日はありがとうございました。後はもう私達だけで大丈夫です」
「いやいや。こちらこそ急にすまなかったな」
「あとはお手紙だけですね」
「叶わなければ死んでしまう、それでも叶えたい本気の願いだろう?
 そんな願いはまだ決めかねているが……努力するとしよう」
「お優しいエーレン様の願いですから。祈りが届くよう私も祈っていますね」
 侍女と別れ、部屋に戻ったエーレンは何度か書き直すほど決めあぐねるも。
「よし、これにしよう」
 『縁があって世話になった皆、これから世話になる皆。
 それぞれ相応しい伴侶を見つけ、幸せになれるように』
 やはり他者を思いやる言葉を刻み、封じるのであった。

●がらんどう
 願いが根付いた土地柄か、自身に課せられた自責の念の重さ故か。
 『黄昏の影』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)は、ありもしない声に耳を傾けていた。
 ――願いが叶うと思うか?
「願いなど、最早持ち得る身では……」
 ――望みが叶うと思うか?
「……早く、私を終わらせてくれる不幸が訪れる事……それだけが、今の望み」
 ――のぞみがかなうと、おもうか?
「ああ……私、は……」
 気づけば辿り着いていた森の中。
 木々の合間から零れる月の光は、白き蝶となって彼女へ群がる。
「あ、あ、あぁ……!!」
 目から何かが出た。
 それがどの目か、垂れたものが何か、ワカラナイ。
 ただ、両の手は赤く朱く紅く。
「やっぱり、誰かを不幸にするしかできな……あぁ……!」
 ――『アナタを手折らんとする凶手からアナタの事を覆い隠し、応報の刃を、アナタの代わりに振り翳しましょう』
 ――『ワタクシとアナタは似ています。己が性に懊悩し、それでも渇望する事をやめられぬ、怪物としての性がある。
 それでも、×××は違う。誰かを悲しませる存在ではなく、誰かに寄り添える……。
 ワタクシの友達が好きだった、紛れもない『菫』の花のような存在なのです』
 捧げた想いが甦り。
「お、おねが……! もう、や……め……!」
『名を愛せたのはヴァイオレット様のお陰、月夜の邂逅は勿論……初手紙の相手が、実はあなたで。
 謙虚、誠実、小さな幸せ。菫の名に相応しき心の持主とお揃いで誇りでした。
 仲は戻せずとも……偶には同根を思い出してやってくれませんか』
 いつのまにか。
 足元へ横たわった女が言う。
 罪という名で封じられた遺言が、爆ぜる。
「ああああぁぁぁぁ!!!!????」
 森が震える程の声。
 けれどそれは何故か外へは零れない。
 ぐしゃぐしゃと髪を掻き毟り。
 横たわるそれに影の爪を突き立て。
 大切だったオトモダチ。
 どんなにぐちゃぐちゃにしてもきえやしない。
(悪《わたし》は、生きてちゃ……いけないのに!?)

 蹲り、すすり泣き、やがて、倒れた。

「……ふぅ。終わったみたいだね」
「死にたいんだよね? 殺してあげれば?」
「どうかなぁ」
「だって言ってたよ?」
「この人は普通じゃないからね」
「あー、中にいるペットの話? 珍しいよね」
「とにかく、この人の願いはまだ分からないから、聞けるようにしなくちゃ」
 子供達は、手を強く握った。


●願封じ
「あれ、ヴァイオレット先輩も来てたような気がしたっすけど……」
「とはいえ手紙の数とここにいる皆様の数は一致しています。
 時間もありませんし、始めてしまいましょう」
 祭司の男に促される形でウルズが座ると、儀式が始まり。
 祝詞が唱えられ、一行は設けられた席でじっと儀式の進行を見守る。
「……ふぁあ」
「シラスさん、儀式中ですよ」
「昨日いつのまにか寝ててよ、気が抜けちまったかな」
 エマから小突かれ、気怠げに答える。
「そんな悠長な。願いが叶わないと死んじゃうんですよ!」
「大丈夫だって。こんな願いよりいつかの鼠退治の方がよっぽど危険だぜ」
「もういいです」
 再び欠伸を湛えるシラスを横目に、エマは儀式に集中する。
(神様だか何だか知りませんけど、手紙読んでますよね?
 『これ以上友人を喪うことがありませんように』ですからね! 
 この人が何を願ったか知りませんけど、私の命がけの願いなんですから、しっかり叶えて下さいよ)

~~~

 そうして儀式も終わりが近づく頃。
 周囲を索敵していたエーレンとキリエのファミリアー達が突如消えた。
 主の二人が先陣を切って飛び出せば。
 次の瞬間、全員の胸に違和感が走る。
「えぇい、やはり出おったか!
 鳴神抜刀流、霧江詠蓮。民の営みを守るべく、いざ参る!」
「良いこと言うじゃないか。こういう儀式は継続が大切なんだ。私も露払いをさせてもらう!」
 入口には二十を超える人影があるも。
「俺が一閃にて敵陣を穿つ!」
「ああ、合わせてみせるさ!」
 人々の日常を尊ぶ二人が臆することはない。
「神社の皆さんは一度宿所の方へ避難を! 大丈夫です、僕達が守りますから……!」
 ジョシュアも民間人を誘導しながら、魔力を放って迫る人影の動きを封じていく。
 一撃を放つたび、吊り下げた懐中時計が揺れた。
 まるで彼の決意を後押しするかのように。
「あー、皆早いよー」
 出遅れたソアもただ座っていた訳では無い。
 その身に雷の因子を、英霊の闘志を纏い準備万端。
「よく分からないけどボクにも分かるよ。全部この爪にかけてやる!」
 誓願の想いをがぁー! と咆哮へ宿して。
 稲光が迸る爪が獲物を引き裂いていく!
「急に来たわりに、気配を隠そうともしないんですね」
「ああ。こっちは休暇を満喫してるって言うのによ」
 自然とエマの右側へ並び立つシラス。
 指の骨をポキポキと鳴らし、軽く魔力を流し込んだだけで、その拳は竜剣の名へ相応しいものへと変わっていく。
「ほんと間が悪いっす。でも良い機会っすから、エマ先輩とあたしの絆、今回も見せつけてやるっす!」
 左側にはウルズ。
 腕を抱かれてはいないが、エマには確かな温もりが感じられた。
「えひひ、じゃあウルズさん、いきましょうか。シラスさん、援護は任せて下さいね」
「ああ。頼りにしてるぜ、エマ」
 例えくぐり抜けた死線の数は違えど。
 紡いだ絆は薄れない。
「さぁ、この拳にぶっ飛ばされてぇ奴はどいつだ!」
 結果だけ見れば、それは圧倒的だった。
 実力も想いも願いも。
 全てにおいて凌駕する一行は、終焉獣という滅びを討ち果たし。
 無事に願いを封じたのであった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)[重傷]
咲き誇る菫、友に抱かれ

あとがき

冒険お疲れ様でした!

基本的に、PCの皆様にはゆったりとした一日を過ごして頂けたようです。
また皆様が行った『願封じ』は、形式上確かに成功致しました。
皆様が強い想いを込めて封じた願い――叶うといいですね。

終焉獣との戦闘に関してはかなり描写が薄いですが、各種判定をしたところあまりにボコボコだったので割愛しました。
とはいえ、その部分プレイングが薄ければ戦闘そのものがGMによる自動判定となり、もしかしたら失敗したかも知れません。

特殊な描写となったヴァイオレットさんですが、皆様が幻想王都へ辿り着く直前の道に倒れていたのを拾われた、等という形で帰還しているので不明などではありません。
他者から見て外傷はありませんが、何があったか話せるような状況ではなさそう(重傷)な様子です。

それでは、またどこかでお会いできることを願いまして。
ご参加ありがとうございました!

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