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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>テルヴィンゲンの遺された魔人

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 最初に自分に衰えを感じたのは、手に馴染んでいるはずの獲物に『重さ』を感じた時だった。次に感じたのは魔力を束ね盾に変えるまでの時間が長くなった時だ。
 目で見て体が動くまで、いつも以上に時間を感じて、アタシは自身の限界を理解させられた。

 武術に投じた人生だった。腕っぷしのある敵と、何度でも戦いたかった。
 ただの一度で終わるのはつまらないから、数度に分けて確実に完封してみせるのが好きだった。
 どんなに恐ろしい敵でも、それでも何度も戦えば隙が見えてくる。その刹那が快感だった。
 それが、『そうしないと勝てなくなってきた』のは、いつからだっただろう。

 全盛は脆くも褪せ衰え、そんな力では今まで勝てる相手にも次第に勝てなくなっていく。
 それでも、身体保持と自己強化にリソースを割いて騙し騙しで生きていく。
 そんなことを噂に聞いたどこぞの命知らずが殺しに来た時もあった。
 ――流石に、そんな恥知らず風情に負けるほど落ちぶれたことはないけれど。

 そんな生活も10年もすれば限界が来た――そうして、アタシは弟子を取ることにした。
 衰える身体である町を訪れた時、その町の自警団長とやらが娘を鍛えてくれないかと言い出したからだ。
 柄でもない――とは思ったが、誰かが『弟子の成長はいいものだ』なんて事を言っていたから。

 それが、失敗だった。取った弟子は2人ともアタシの教えた事をあっという間に消化していく。
 それは師匠冥利に尽きるというものなのだろう――きっと。
 けれど、アタシには耐えられるものじゃなかった。
 2人はどんどん強くなっていく。
 日に日に成長する2人と、日に日に衰えていくアタシ。
 全力で叩き潰してやれる日は――きっと来ない。

 とっくの昔、20年も前に最盛期を失った枯れ木のアタシには本気で戦える日など来ない。
 それが耐え難いあまり、アタシは弟子を捨てて旅に出た。

 長い旅だった。
 普通の魔術で騙し続けるのは無理だった。
 そんな時、ふと竜語魔術という代物の話を思い出して、覇竜領域の入り口に立った。
 おいぼれの身体は、亜竜にさえも及ばないありさまだった。
 別の道――それを探して、アタシはその地へと足を踏み入れた。

 そこでアタシは――あいつと。
 この世全ての剣を修めたと伝わる男と出会った。

「――全剣王。アンタがホントにそうなら、教えてもらえないかしら。
 今にも朽ちそうなこの身体を、全盛期で留める術を。王様、これは不遜かしら? 全剣の王よ。
 この身体が全盛期を取り戻したのなら――アタシはきっと、アンタを楽しませてあげるわ」
 ただ全盛期の肉体を取り戻せるだけで十分だった。
 それ以外なんていらなかった。
 衰えた身体は、武技は、アタシ自身の力で取り戻せばいいのだから。

 故に『アタシの破鎧』には『この身体を全盛期で保持し続ける』以外の力は存在しない。
 それだけが、唯一の与えられた物だ。
 そして――本来なら寿命の尽き果てたアタシの生命線だ。


 寒々しい空の下、その集落は山麓の合間に存在していた。
 鉄帝の西部、先史文明の遺産と思しき装備を纏う戦士達。
 相対するのは、飛行種を思わす装いをした異形の戦士たち――それは『不毀の軍勢』と呼ばれる存在だ。
「少し、聞きたいのだけれど」
 その先頭に立つ紅髪の女――ヘルヴォルは槍を携えるままに戦士たちと向き合った。
「アンタ達は戦士でいいのかしら? 命知らずの馬鹿どもで――いいのね?」
 妖しく笑い――濡羽鴉の翼をした戦乙女に、戦士達は怯むことなく武器を構えていた。
「話は聞いています。貴女が『不毀の軍勢』という連中ですね!」
 隊長らしき少女はまだ幼い。精々が20代になるかならないかといったところだろう。
「まぁ、分類上はね。死にたく無ければ逃げると良いわ。アタシは追わないから。
 アンタ達の後ろにある集落にも、別に興味なんてないし」
 集落――その言葉を出した刹那、戦士たちの表情に険しいものが走る。
「そう、死兵ってこと……くだらないわねぇ。それとも勝てるとでも思ってるのかしら」
 凄絶に、妖艶に笑うと共に、ヘルヴォルは僅かな闘争心を昂らせた。

「いいわ――その覚悟と度胸と自負、全て根こそぎへし折ってあげる。
 全員で来ると良いわ、相手になってあげる――一人でね」
 にやり口角を釣り上げた刹那――集落を守る戦士たちは吹き飛ばされた。
「もう一度言うわ。死にたくなければ逃げなさいな――アタシは追わないから」
 炎が積雪を溶かしクレーターを刻み、斬痕が辺りに散らばっていった。
 瞬く間に勝負を決めたヘルヴォルは集落の奥へ突き進んでいく。
「さて――と。どんなものかしら、超古の魔人とやらのお力は」
 ハミングすらしながら辿り着いた集落の奥地。
「……へぇ、速いわね。さっきの連中は足止めだったってこと」
 ヘルヴォルと――集落の要請を受けたイレギュラーズが神域へと到達したのはほぼ同時のことだった。
「こんな山奥の山村にまでわざわざ何をしにきた?」
 ユリアーナ(p3n000082)の言葉にヘルヴォルは小さく笑みを刻むままに彼女の背後を指し示す。
「ふふ、ここにはね先史時代の魔人が眠ってるらしいの。
 あそこにある剣が突き刺さった大樹が見えるかしら? あの木の下に眠っているそうよ」
「じゃあ、あれかな。その魔人とやらの封印を解きに来たってこと?」
 イルザ(p3n000287)の言葉にヘルヴォルは笑みを刻むばかり。
「――ちょっと、面白そうな敵でしょう?」
 そう笑う女の表情はまさに鉄帝人らしい。バトルマニアのそれだった。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 さっそく始めましょう。

●オーダー
【1】『朱色の槍』ヘルヴォルの撃退

●フィールドデータ
 先史文明時代の遺跡と思しきドーム状の空間です。
 地底深くのはずですが、何故か森のような光景が広がっています。
 中央には注連縄の巡らされた大樹が一本、ぽつんと存在しています。

 また、この大樹には剣が1本突き刺さっています。
 魔人と呼ばれる何らかの存在を貫いたまま、そこに大樹が生え封じ込めたという形の様子。

●エネミーデータ
・『朱色の槍』ヘルヴォル
『不毀の軍勢』を属する紅髪金瞳の女性。この単騎でHARD相応に強力です。
 朱色の槍と楯のように展開する黄金の魔力、飛行種を思わす翼が特徴。

 豪放磊落で自信家で『俺よりも強い奴に会いに行く』を地で行く手合いです。
 後述する弟子を取っていたことなどを踏まえると、意外とお喋りで気のいいお姉さんです。
 聞いたことを教えてくれたりする一面あります。

 でも外見が変わってないことを揶揄されると怒ります。
 女性に年齢と外見が釣り合ってないって言うもんじゃないわよ! とのこと。

 また、強者相手には何度も戦いたいという難儀な悪癖を持ちます。
 死力を尽くすよりも敢えて余力を残して撤退します。

 以前の戦闘から非常に優れた反応と命中を持つと推察されます。
 また、それ以外のステータスも極端に穴があるというわけではなさそうです。

 ユリアーナとイルザの『武術』の師に当たります。
 10年以上前に2人の前から姿を消した時から外見に変化が見られません。

 『反応特化アタッカー』のユリアーナと『オールレンジアタッカー』のイルザに戦い方を教えた人物です。
 ほんのりと構成が分かる……かもしれませんね。

 PL情報ではありますが、『破鎧』と呼ばれる装備を持っているようです。
 それがどういう形状、どういう代物なのかは不明です。
 なんなら、聞いてみたら教えてくれるかもしれませんね。

・『不毀の軍勢』戦乙女×8
 光で出来た槍を持つ不毀の軍勢です。
 戦乙女の名の通り、全員が甲冑を纏う女性体を思わせます
 何故連れてきたかと問われれば、示威行動だと語ります。
 要するに『不毀の軍勢がいるから』程度の理由で引き下がる相手なら戦うだけ無駄、ということでしょう。

 回避が特に高く、物攻と命中がそれに続きます。
【スプラッシュ】や【邪道】、【乱れ】系列を用います。

●友軍データ
・『銀閃の乙女』ユリアーナ
 クールな姉貴分といった雰囲気の女性鉄騎種。鉄帝の軍人。
 イレギュラーズとは数度に渡り共闘しており、皆さんの事はとても深く信頼しています。
 鉄帝に出現した『コロッセウム=ドムス・アウレア』から漏れ出る終焉獣や不毀の軍勢との戦闘を始めていました。

 銀色の槍を振るう反応EXA型物理アタッカーです。
 イレギュラーズと同程度の実力を持ちます。上手く使いましょう。

・『壊穿の黒鎗』イルザ
 鉄帝生まれ鉄帝育ちのラサの傭兵です。青みがかった黒髪をした人間種の女性。
 イレギュラーズとは数度に渡り共闘しており、皆さんの事はとても深く信頼しています。
 ラサで姿を見せていたのにいつの間にか鉄帝に生えていた『コロッセウム=ドムス・アウレア』に挑戦するために鉄帝に戻ってきました。

 穂先を魔力で延長させる特殊な槍を振るうオールレンジ神秘アタッカーです。
 イレギュラーズと同程度の実力を持ちます。上手く使いましょう。

●参考データ
・『テルヴィンゲンの遺された魔人』
 ヘルヴォルがここに来た目的の『何か』です。どんな存在なのかは不明。
 何らかの方法で封印を無理やり剥がすことが出来るのかもしれません。
『面白そうな敵』と評価されているところを見るに、最低でも目覚めさせてはならない物ではありそうです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <グレート・カタストロフ>テルヴィンゲンの遺された魔人完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年02月01日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ユーフォニー(p3p010323)
竜域の娘
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

サポートNPC一覧(2人)

ユリアーナ(p3n000082)
銀閃の乙女
イルザ(p3n000287)
壊穿の黒鎗

リプレイ


 静謐なる森のような領域には朗らかな光が満ちている。
 清浄な空気は地底であることを忘れてしまうほどに心地よい。
 中心に聳える大樹には注連縄が施され、ご神体のようにも思えるだろうか。
「また会ったわね、ヘルヴォル?」
 神域へと踏み入ったばかりの紅髪の女へと『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は声をかけた。
「そうね」
 涼しい顔をしてその場に立つヘルヴォルから視線を外してオデットは大樹を見やる。
「……オディール、この樹の傍にいてくれる?」
 優しく撫でた凍狼の子犬に指示をやれば、オディールは返事を一つ、走り出す。
 大樹の中心、洞の内に呑まれるように突き立つ一本の剣。
 ヘルヴォルの話を考えればこの下には魔人とやらがいるらしい。
 張り巡らせた結界術の内側に多くの精霊たちの気配が感じ取れた。
「ほう……こんな所に遺跡があるとはね。
 考古学者の端くれとしては、迂闊に封印を解くより先に調査を行いたいところだね。
 「世界がこんな時に呑気な事を言っている自覚はあるが、どうせ我らが救う世界だ。
 その後のことに思いを馳せてもいいだろう?」
 周囲の光景を見て目を輝かせるのは『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)である。
「――そう。アナタ達が相手をしてくれるってんなら、強いのか弱いのかもわからない魔人なんてどうでもいいわね」
 念のためにゼフィラが保護結界を張り巡らせる横で、口元に笑みを刻むヘルヴォルから闘志が溢れ出す。
「じゃあ、強いヤツと戦いたいからとりあえずやばそうな封印を掘り返して回ってるってこと?
 どうしてこう戦闘狂が多いかなぁ、お国柄と言えばそれまでだけど」
 魔力を高めながら『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)はあきれ半分にそう呟いた。
「まぁ、そうなるわね。どうしてって言われてもねぇ……この国って喧嘩っ早い奴が多いのと娯楽が少ないからかもね」
「まあ攻め込まれれば迎撃するのが私達の仕事だ。精々暴かれないように頑張りますか。
 力が強い人間が勝つ、っていう方程式は嫌いじゃないしね。どんなに綺麗に取り繕っても弱肉強食は世の常だ」
「そうこなくちゃねぇ……」
 悠々と立つままに答えたヘルヴォルは獰猛に笑む。
「おやおや、強さに固執するとは。もしかしなくとも鉄帝人でありんすかね?
 くっふふー、どちらにせよわかりやすい御仁でごぜーますね。そういうの、嫌いではごぜーませんよ?
 でもね、魔人なんてよくわからないものを復活されても困ってしまいんすよ。
 貴女1人で処理できるのなら構わない。でも、それが出来るともわからないでありんしょ?」
「そうね、でも出来るか出来ないかはやってみないと分からないわ。
 それでアタシが魔人とやらに勝てれば、封印に意味がなくなって外の連中だって平和になる。
 誰も不利益は被ってないわけ。なら壊しても良いでしょうに」
 まるで負けるという懸念を持たず、ヘルヴォルは『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)の問いに答えてくる。
「貴女はそれでもいいかもしぃせんが、その尻拭いはきっとローレットへ依頼がくるでごぜーましょう。
 大・迷・惑! 触らぬ神に祟りなし、でありんすよ?」
「そう。でもあそこにいるのは神じゃないもの。寧ろ神であろうと殺せるのなら殺してみたいわ」
「ユリアーナさん、イルザさん。少しだけお師匠さんの相手をお願い。ボク達は先に戦乙女を倒すから!」
 各々の武器を構える2人へと声をかけ、『無尽虎爪』ソア(p3p007025)はその身に雷霆を纏う。
「……あぁ、分かった」
「おっけー、皆が来るまでは持たせてみせるよ」
 応じた2人に、ちらりとヘルヴォルが視線を向けたような気がする。
「……仕方ないわね、ウォーミングアップに付き合ってあげるわ」
 そう溜息を吐いたかと思えば、ヘルヴォルがユリアーナめがけて突っ込んでいく。
「ヘルヴォルさん、その装備すごいです! どういうものなのか教えてください!」
 世界にさざめく色を纏い、『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)は視線をヘルヴォルに向けるままに尋ねれば。
「どれのことかしら」
 海色の瞳が見据える先には彼女の全身を包むオーラのようなものが見えるだろうか。
 未知への解析を試みた視線にヘルヴォルは悠然と受け止めるだけだった。
 コアか何か、あるいは弱点があればそんなものがあればと――そう思ってのことだった。
「見た目に釣り合わぬ年齢。ふふ、なるほど……似たもの同士、というやつですね?
 私もその実、既に80を超えているこの身。貴方より年上かもしれませんね」
 穏やかに告げる『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)にヘルヴォルが興味深そうに視線を向けてくる。
「80ね……なら、大体同い年かしら。それで、魔女さん。お名前は?」
「私はマリエッタ……またの名を死血の魔女。貴女の言う通り、古い魔女ですよ。
 けれど、今なお夢を見続けて進み続けるもの……自分の足でね」
「そう……聞いたことがある気もするわね、その名前。
 ――ふふ、アナタはどれだけ何を犠牲にして、その長寿を叶えたのかしら?」
 聞いたことがある気もすると言いつつの発言は、暗に皮肉も混じっているか。
 マリエッタはその言葉を横耳に聞きながら戦乙女の一体へ術式を行使する。
「後の楽しみのためにも、なんとしてもこの場を切り抜けなくてはね」
「まぁ、好きに楽しみにしてればいいけど――気を抜いてると死ぬかもしれないわよ」
 ゼフィラの言葉にヘルヴォルが緩やかに言えば。
「生憎、私が居る前でそう簡単に仲間をやらせはしないよ」
 愛銃に籠めた魔弾をユリアーナへ向けて引き金を弾いた。
 放たれた弾丸は彼女の身体に炸裂すれば熾天の宝冠を作り出す。
 優しい光がユリアーナの身体を包み込み、受けたばかりの傷を癒していく。
「いくよ――」
 その様子を横目にソアは一気に飛び出した。
 雷霆をを纏い、雷光の如くソアは跳躍する。
 スパークが爆ぜ、飛び込んだ先の獲物が反応を示すより前に止まらぬ虎の猛攻は戦乙女の身体を致命的に斬り刻む。
「数的には若干有利だけど1体1体が手強い敵、油断禁物だわね!」
 大太刀を構える『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の視線の先には悠然と笑っているヘルヴォルの姿が良く見える。
 その後ろに控える不毀の軍勢たちは甲冑に身を包んだ女性体のように見えるか。
「そうかしら。この程度、アナタ達の敵ではないでしょう」
 弟子2人を相手に平然と戦いながら、ヘルヴォルが笑いかけてくる。
「期待されてるのなら、それに応えてあげるのだわ!
 本当はスプラッシュ持ちの敵は苦手なんだけど、この状況なら仕方が無いわね。
 削り切られる前に削り切って上げるわ!」
 イナリは一気に跳びだした。
 大太刀を構えるままに軽やかに跳び出したその身が戦乙女の目前に潜り込む。
 勢いを殺さぬままに振り抜いた斬撃は確殺自負の殺人剣。
 ゆったりと走る太刀の揺らぎは瞬きの内に行く早乙女へ多数の傷を作り上げ、その形を両断する。
「やれやれ、もう少し気楽に構えられる相手ならよかったんだけど」
 そう嘯き、ルーキスはやや後ろへ飛翔する。
 射程圏内におさめた多数の戦乙女の姿を見下ろしながら、星灯の書を媒介に魔力を高めていく。
「足の速い戦士だけが強い思ったら大間違い。対複数、しかも絡め手? 安心するといい得意分野だ」
 語るままにルーキスは溢れる夜の輝きを愛銃へと注ぎ込む。
 引き金を弾き放たれた術式が戦乙女の1体へと炸裂すれば、そのまま陣を押し広げ混沌たる泥を戦場に齎す。
「ユリアーナ達の為にも、あまり時間は駆けられないわね――」
 オデットは自身の知覚機能を限界まで高め、陽の光を束ねていく。
 上空に輝くは極天の陽、熱無き太陽の光は戦乙女を貫き、その身体へ不可逆の運命を刻み付ける。
「そろそろウォーミングアップは終わったかしら? じゃあ、始めましょうか。
 簡単に終わらないことを期待してるわ」
 楽しそうに笑ったかと思えばヘルヴォルの姿が消え、斬撃がイレギュラーズへと襲い掛かった。


 戦いは続く。戦乙女たちは倒れ、最後に残った武人は未だに戦い続けている。
「残りはキミだけだね。満足したら帰ってもらおうか。遺跡の調査をしたいのでね」
 ゼフィラは魔力を高め、術式を展開する。
 どこからか射している戦場の光源が温かさを増して戦場を包み込む。
 それはまさしく陽光の如く優しく、落ち着く光。
 どこからともなく吹いてきた慈愛の息吹がイレギュラーズを包み込み、刻まれた異常を解きほぐす。
「お待たせ! また会ったね……もう悪さ止めたら?」
 咆哮を上げたソアは肉薄と共に問いかける。
 交わった視線、ヘルヴォルは短く「そうね」と呟いた。
「悪さって言われるとどれの事か気になるけれど――」
「その鎧でしょう? 昔の姿で現れたわけは。全剣王の手下に変な鎧の人が他にもいたよ?」
「そう、他の奴にも会ったのね。えぇ、そうよ、破鎧っていうらしいわ。アタシのこれが鎧かと言われると微妙だけど」
 そう言った彼女の視線は左手にある。黄金の魔力の下、指輪のようなものが見えた。
「アタシのは『アタシの身体を全盛期で維持すること』……言い換えれば、生命力(HP)になるかしら」
「やっぱり……なら、全部削り落とす!」
 飛び込むまま、ソアは爪を鋭く斬り払う。
「――ふふ、そうでなくてはね!」
 圧倒的な手数で振るう猛攻の幾つかがヘルヴォルの守りを越えてその身体を斬り裂いていく。
(――見えた! このタイミングなら!)
 イナリはソアとヘルヴォルの応酬の間を見つけ出していた。
 周囲に浮かぶは狐火、煌々と燃え盛る炎が見出されたその一瞬を突くべくヘルヴォルへと飛翔する。
 そのうちの1つをイナリは握りしめた。
 戦場を行かんとする炎を握り締めればそれは炎の槍を模る。
「その心臓、貰い受ける! ゲイ・ボルク!!」
 くるりと構えなおした流れで投擲された槍が戦場を奔る。
 絶対の殺意、命の終わり。放たれた炎槍は必中なる一撃。
(……うん、強敵相手には一度は言ってみたい台詞だわね♪)
 内心で思わず零した笑顔。
 戦場を行く炎の槍はそんなイナリの想いを形にするように、ヘルヴォルの身体に炸裂する。
 炎は燃え上がり、ヘルヴォルの内側から邪道なる牙を剥いた。
「戦って散るのが本望っていうなら力比べは如何かな」
 そこへルーキスが飛び込んでいく。
「折角温存しておいたんだ。思う存分食らうといい」
 その手に握るは禍剣。
 高純度の魔力を凝縮し宝石へと注ぎ込んだ仮初の剣を肉薄のままに振り払う。
「良いわね、そういうの」
 獰猛な笑みを刻むヘルヴォルが槍とは別の方の手に宿す黄金の魔力を盾へと作り変える。
 炸裂した魔剣は盾に触れるのと同時に暴走、核となった宝石と同じ色の閃光を放ちヘルヴォルを呑みこんだ。
「にしてもヘルヴォル、あなたは反転したわけではなくて力をもらってる感じなのかしら?」
 死んでない――オデットはその手に陽光の恵みを束ね、確信をもって飛び出した。
「えぇ、その認識で間違ってないわ」
 閃光の中からそんな声がして炎が燃え上がる。
「戦って戦って、私は野蛮で好きではないのだけど、楽しい?」
「それは残念。でもまぁ、アタシも意味のない戦いはあまり好きではないわ。
 アタシは強い奴と戦いたいから……ふふ、ジャイアントキリングが出来るタイプなら別だけど」
「そう、それなら前回よりもさらにパワーアップした太陽の光を見せてやるわ!」
「それは楽しみね」
 叩きつけた極小なる太陽とヘルヴォルの間に浮かび上がる黄金の魔力。
 盾へと変じたそれと小さな太陽は激しくぶつかり合う。
 全てを焼き尽くし、刈りつくす極限の太陽の光がまたもヘルヴォルの身体を呑み込んだ。
「ヘルヴァル様、そんなに戦いたいというならローレットへ来なんし。
 なに、仲間になれとは言わない。
 依頼を出してもらえれば血の気が多いのも沢山いるものできっとお眼鏡に叶うと思いんすよ?」
 ヘルヴォルへ向けて堕天の術式を展開したエマはさらりと告げる。
「無いわね」
 その返答はいっそ明朗に、シンプルな否定として返ってきた。
「それなら今やってることと変わらないのだから、行く理由にすらならないわね」
 悠然と答えたヘルヴォルが炎のルーンを紡ぎ、受けた攻撃による数多の戒めを焼きつくす。
 かと思えば、槍に炎を纏って振り抜いた。
 弾かれる炎の斬撃が戦場の直線上を焼き払い、触れた者の加護を解呪する。
「衰えに抗うの、すごいと思います。
 だけど『ヘルヴォルさん自身』は成長しているんでしょうか。
 形あるものはいつか壊れます。特別な装備も世界に無限にあるわけじゃない。
 その時残ったヘルヴォルさんは、どんなヘルヴォルさんでしょう」
 直向きにユーフォニーはヘルヴォルへと視線を向ける。
 世界にあふれる音と見えない千の彩、それはどんな光にも、闇にも移り変わる万の彩。
 果て無き万華鏡の光がヘルヴォルの身体を呑み込んでいく。
「――へぇ、綺麗ね」
 終わりを見出せぬ光の中で、ヘルヴォルがそう呟く声がした。
「そうそう、何だったかしら。何が残るだったかしら――何も残らないわよ。
 この破鎧か全剣の塔が砕ければ、アタシは尽きた寿命を引き延ばしたツケを払うことになるわ。
 全剣の塔のパックアップが消えるんだもの、当然の話ね。
 要するにアナタたちが世界を救えば、アタシはその場で死ぬってわけね。別の延命術式でもあれば違うけど」
 何のためらいもなく彼女はそう笑って、ユーフォニーに言うのだ。
 だからこそ、もう一度最盛期に戻って戦いたいのだと。
 それは全盛期に満足できなかった人種が抱えがちな渇きのような物なのだろう。
「なるほど……私も貴女の鎧と魔人について聞いておきたかったのです。
 魔女ですから、悪いことは常に考えていますよ? 利用するのも悪くない、なんてね」
 そこへマリエッタが踏み込んだ。
「破鎧について聞くのなら、アタシより全剣王に直接聞いた方が分かるんじゃないかしら?
 魔人について? ふふ、そんなもの聞いたところで、つまらないわ。
 精々、大昔に封じられた魔物か何かよ。気になるなら、あの剣を壊してみれば?」
 それはすなわち、封印を解けと言っているようなもの。
「――それも面白そうですが、どうやら封印を解く予定はなさそうですので!」
 その身に数多の強化術式を纏い、マリエッタは血鎌を振るう。
「それは残念ね」
 叩き込む猛攻の多くを体捌きと武器で受け止め、あるいは流すヘルヴォルはどこまでも楽しそうだ。
「年をとる辛さには何も言えない、ボクは長生きだから。
 でもヘルヴォルさんは若返ったその場で全剣王に挑むべきだったんだ。
 あなたは自分より弱い相手に槍を振るった……鍛えた技が泣いてるよ」
 平然と立つヘルヴォルへソアは声をあげる。
「戦ったわよ。そして負けたわ。だからこうして外で鍛えなおしてるわけだもの。
 それにねぇ――『アタシの肉体が全盛期を取り戻しただけ』で勝てるような雑魚が、無敗の全剣王だなんて笑わせるでしょう?」
 ソアの猛攻を受け止めるヘルヴォルの答えは淡々としたものだった。
「アタシより弱い相手に槍を振るったってのは――まぁ、事実だから否定できないけど。
 アタシは逃げるのならそれで構わないと言っているの、常にね。
 それでも向かってくるのなら、死なない程度に痛めつけないとソイツに失礼でしょう?」
 圧倒的な手数と運命力を持って的確にヘルヴォルへと攻撃を叩きこむ最中にも、涼し気にヘルヴォルは答えてくる。
「……負けたの?」
「そりゃあね、零れた残滓風情に負けやしないけど、本体はまだ厳しかったみたいね」
 肩を竦めてみせながら、ヘルヴォルは言った。
 悔しがっているように見えないのは、悔やんでいる暇があったら己を鍛えなおすという精神性だろうか。
「……ボク達と一緒なら全剣王と再戦できるかもよ?」
 攻勢が終息に進む中、ソアはもう一度問うた。
「まぁ、それはちょっと惹かれる提案だけど……今はその時ではないわ。
 まだ全盛期には程遠いもの」
 言いつつも、ヘルヴォルの闘志は落ち着き始めていた。
「今日はこれぐらいで充分、帰らせてもらうわね」
 そういうや、ヘルヴォルは大きく羽ばたいて遺跡の入り口側へ飛び去った。

「……終わったっぽい? ふう流石に厄介だった。先手を取られるのはやっぱりしんどいね。
 もうちょっと足腰鍛えるべきかな、うーんしんどいのは嫌いなんだよなぁ」
 ルーキスはそうぼやきながら遺跡の方を見た。
 張り巡らされた保護結界のおかげもあって、大樹の周囲に攻撃の余波は見受けられない。
 ただ、不思議な神秘を感じさせるまま、そこにあり続けていた。
「では、早速、調査をしようかな」
「あの剣、一応壊しておきます?」
 腕をまくってやる気を出すゼフィラへユーフォニーが問う。
「どうだろうね……それは拙い気もする。もしもあの剣が蓋の役割をしている可能性もあるだろうからね」
 ひとまず剣に触れないように気を付けながら、イレギュラーズはひと通りの調査をして遺跡を後にする。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ

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