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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>ストロベリームーンは沈まない

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「エルリアちゃん、これって?」
 炎堂・焔(p3p004727)は迷宮森林内部に存在する小さな研究所に来ていた。
 ふと気になったのは、研究所の庭に突き立つ一本の弓。
 その傍らに植えられているのは糸杉の苗だという。
「んー? あぁ、それ? それはね、私を襲ったあの吸血鬼……セレーネが使ってた武器だよ」
 所長であるエルリアは樹木医であり、砂漠の緑化に関する研究者だ。
 ちらりとこちらを見たエルリアはそう言ってどこか優しく微笑んだ。
 吸血鬼――それはある旅人、異世界の吸血鬼達と博士と呼ばれた男が引き起こした事件だ。
 最終的には多くの吸血鬼は倒された。
 その内の1人――あるいは2人が、エルリアを攫おうとしたことをふと焔は思い出す。
「そっか、セレーネちゃんの」
 ちゃん付けをして呼ぶような間柄ではなかったが、その元幻想種の吸血鬼には多少の同情の余地があった。
「……失礼します」
 ぺこりと頭を下げながら入ってきたのはトール=アシェンプテル(p3p010816)である。
「良かった、ご無事でしたか」
「うん、セレーネの武器もだよ」
「ありがとうございます……預かっていただいて」
「うぅん、大丈夫。同じ奴隷商に誑かされた者同士、これも何かの縁だから」
 柔らかく言ったエルリアにトールが安堵の息を漏らす。
「もしかして、エルリアちゃんが言ってた持って帰ってきた人って?」
「月の王国にあのまま消えるのは流石に可哀想だと思ったので。
 ただ、持ち帰りはしたものの……よく考えたらどこに弔うべきか分からず」
 双子の片割れに裏切られ、絶望しながら月の王国に消えるのは、流石に憐れだった。
「それでせっかくだからって、私の方で預かったんだよ。
 ……覚えてなかったけど、聞いた話の限りでは知らない中ではないみたいだから」
 そう言ってエルリアは微笑んだ。
「そっか……うん、エルリアちゃんがそれでいいなら」
 エルリアとセレーネはかつて同じ奴隷商に囚われた時期があったという。
「……そういえば、焔ちゃんはどうしてここへ?」
「あ、そうだった! バグ・ホールとか、大丈夫? 触ったりしちゃ駄目だよ!」
「バグ・ホール?」
 きょとんと首を傾げたエルリアに説明すれば彼女は納得したように頷いた。
「焔ちゃん、来てくれて……教えてくれてありがとう」
「ううん、でも、ラサに居なくてよかったよ……あっちはあっちで終焉獣が騒いでるみたいだから」
 焔はそうほっと胸を撫でおろす。
 それは噂に砂漠にて復活したという聞く終焉の獣の中でも最大級のビックネーム。
 滅びのアークの化身とでもいうべき、究極の終焉獣。
 ベヒーモスとも、アバドーンとも伝説に謳われる破滅の怪物。
 ROOにおいて見た覚えのある災厄はコンシレラのオアシス都市を消滅させているという。
「バグ・ホールと終焉獣……それもすごく気になるけど。
 今は別の事で森のことが気がかりでこっちで研究してるんだよ」
「それってもしかして、メーデイアの事?」
 焔の言葉にエルリアは小さく頷く。
 迷宮森林西部メーデイアでは本来は迷うことのない幻想種達の行方不明事件が多発するようになっていた。
 灰の香を感じた者や紅い焔を思わせる幻影を見た者もいるといい、植物たちに語り掛ければ人へ怒りを向けているという。
「うん。あっ……そうだよ、せっかくだから2人に先にお願いしておいてもいい?
 そろそろ実物の木を見に行きたいと思ってるんだ。
 それでローレットの人たちに護衛をお願いしたくて」
「お断りする理由はありませんね!」
「うん、任せて!」
 トールと焔が応じれば、ほっとエルリアが胸を撫でおろすのが分かった。


「なんだい、久しぶりの顔がいくつかあるようだねえ」
 エルリアの護衛としてメーデイアに訪れたイレギュラーズの前に、その幻想種は姿を見せた。
 ストロベリームーンを思わす赤色の瞳を細め、同じ色の髪が木々の合間を翔ける風に踊る。
「……やっぱり、着いてきて正解だったみたい」
 そう藤野 蛍(p3p003861)は呟き、桜咲 珠緒(p3p004426)は愛刀に手を添えた。
「そうですね、蛍さん……バグホール出現以来、深緑で貴女のような風貌の幻想種を見たという噂がありました。
 本当に、こう簡単に遭遇するとは……探す手間が省けたと思いましょう。
「おいおい、こちとら持ってかれた片割れの弓を返してもらいに来ただけだってのに」
 そう肩を竦めてみせながら、その一方でその全身から溢れる魔力の質は敵意の証明に他ならない。
「ディアーナ! やっと見つけた。今度こそ、貴女を倒す!」
「えぇ、蛍さん。確実に倒しましょう」
「やれやれ、随分と嫌われちまってるねえ! まぁ、好かれるようなことした覚えはないが!
 まぁ、しかし……あれだね。ちょうど我らが魔女様もお怒りだ。
 ここいらで――ひとつ、暴れてやるとしようか!」
 凄絶に笑むその幻想種はただの幻想種などではない。
 滅びの因子を身に宿す世界の敵、魔種と呼ばれる存在のその一。
 蛍や珠緒、それに焔にトールも、その魔種とは何度か遭遇したことがある。
 魔種ディアーナは吸血鬼となり、イレギュラーズの手で討たれたセレーネの片割れである。
 セレーネがディアーナの『反転からの回帰』による同一性を取り戻さんとを望んだように。
 ディアーナはセレーネに『反転』による同一性を取り戻さんと望み、そして成りえずに姿を消していた。
「来なアポロトス、アタシらの怒りをみせてやりな!」
 凄絶に笑った刹那、どこからともなく姿を見せたのは幻想種のような何か。
 滅びのアークをばらまくそれは、ディアーナの言葉に言わせればアポロトスであろうか。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 吸血鬼編から随分とお待たせいたしました。
 さっそく始めましょう。

●オーダー
【1】『砂穴の苺狗』ディアーナ撃破または撃退

●エネミーデータ
・『砂穴の苺狗』ディアーナ
 元が幻想種の魔種です。属性は不明。
 ストロベリームーンのような赤色の瞳と髪が特徴的です。
 かつて奴隷商に誑かされ、魔道に堕ちた幻想種。性格は傲慢でありながら策謀的。

 溢れる魔術的な素養の全てを肉体強化に用いた肉弾戦による近接戦闘を主体とします。
 その他、空気を蹴りつけるなどの中~遠距離戦闘や振動による範囲攻撃などを行ないます。

・『アポロトス』火焔種×1
 終焉獣の一種と思しき存在、アポロトスです。
 終わりは遁れざる者であると告げ、滅びのアークを周囲にばら撒く特徴が有ります。
 対話を可能とする精霊の一緒のようにも思われますが、伝わってくるのは激しい怒りと憎悪のみです。

 周囲に炎と呪いを振りまいております。
 その姿から【火炎】系列、【呪い】、【狂気】などのBSが予測されます。

・『アポロトス』雷霆種×1
 終焉獣の一種と思しき存在、アポロトスです。
 終わりは遁れざる者であると告げ、滅びのアークを周囲にばら撒く特徴が有ります。
 対話を可能とする精霊の一緒のようにも思われますが、伝わってくるのは激しい怒りと憎悪のみです。

 周囲に雷と呪いを振りまいております。
 その姿から【痺れ】系列、【呪い】、【狂気】などのBSが予測されます。

・『アポロトス』光輝種×1
 終焉獣の一種と思しき存在、アポロトスです。
 終わりは遁れざる者であると告げ、滅びのアークを周囲にばら撒く特徴が有ります。

 周囲に光と呪いを振りまいております。
 その姿からヒーラータイプと予想されます。

●NPCデータ
・エルリア=ウィルバーソン
 依頼人である樹木医兼砂漠の緑化研究家の女性。青色の瞳のお姉さん。
 一応はヒーラーも可能ですが、戦闘圏外に撤退させておいても構いません。

●参考データ
・セレーネ
 月の王国の吸血鬼であった少女、ディアーナの双子の姉。
 吸血鬼編でイレギュラーズの手で撃破されました。

 双子揃って奴隷商に売られたところ、関係者に魔種がいました。
 妹のディアーナはその魔種の呼び声により反転。
 反転に伴い急成長を遂げた妹とは対照的に、心因性ストレスから成長が止まりました。
 なお、エルリアと一緒の奴隷商に誑かされていたのもこの時です。

 博士の研究であった『反転からの回帰』でディアーナを幻想種に戻そうと願っていました。
 しかし、ディアーナ自身が反転からの回帰を求めず、セレーネの反転を願っていたために失敗。
 イレギュラーズの手で討伐されました。

 彼女の武器であった銀月の弓はトールさんが墓標代わりにと拾って帰還しました。

・エルリア=ウィルバーソン&ウェンディ・ウィルバーソン
 焔さんの関係者。
 主人格のエルリアは樹木医兼砂漠の緑化研究家の女性。青色の瞳のお姉さん。
 それとは別に、かつて奴隷商に売られた時のトラウマから生まれたウェンディという別人格を持ちます。

 反転からの回帰という命題と、恐らくはかつての縁からセレーネたちに狙われました。
 トールさんの持ち替えった銀月の弓を同じ奴隷商の被害にあった者の縁として預かりました。
 現在、弓は研究室の庭にて墓標として突き立ち、傍らには西洋檜が植えられています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <グレート・カタストロフ>ストロベリームーンは沈まない完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月30日 00時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ

リプレイ


 ストロベリームーンの髪が揺れている。
 赤い瞳が獰猛に輝き、此方を見ているのをひしひしと感じていた。
「好かれるようなことをしていないのはお互い様ですが……」
 闘志に応じるように、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)は静かな熱と共に敵を見る。
「好きとか嫌いとかじゃないのよ、もう!」
 合わせるように、『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が言った。
「何度も戦ってきて、殺し合ってきて、大切なものを奪ったり失ったりしてきて……
 もう、決着をつけるしかお互いに納得できないとこまで来ちゃってるのよ……!」
 蛍はその手に聖剣を構築する。
「そうでしょ、ディアーナ!!」
 刹那、その言葉と同時に蛍は剣を打ち下ろした。
 胸に抱く闇を払う光輝の剣、故郷の花を身に纏い美しき散華の舞を示せば、獰猛なる笑みは確かな合意を得ている気がした。
「えぇ、珠緒の言いたいことは全て蛍さんが言ってくださいました。
 ……決定打を逃し続け怒りを抱いているのも、また同様なのです」
「は、そりゃあ良かった。それもまた、お互い様だね!」
 圧倒的な速度で以てディアーナの懐へと飛び込めば、挑戦的に笑った女の顔が映る。
 撃ち込んだ術式刀はディアーナに触れると同時に飴細工のように砕け散る。
「力押しで張り合えないことは先刻承知。のんびりやり合う気は、当然ございません。
 小細工に苛つかれませ!」
「は――そりゃあ安心だ。前みてぇに放置されたら暴れまわってやったところだよ!」
 笑みの理由はセレーネを倒すときに手出ししてこなかったこの女を無視していたことだろうか。
 循環するAURORAエネルギーを自らの守りに転換し、『プリンス・プリンセス』トール=アシェンプテル(p3p010816)は深く息を吸って気持ちを入れなおす。
(彼女には思う所がありますが……まずは)
 視線を上げれば、そこにはアポロトスと呼ばれる精霊のような何か。
 滅びを纏う者達と交えた視線に、戦いの幕は上がる。
「お姉さんの遺品を取り戻しにきた……ってことなら、姉思いの子に思えるけれど。
 前の報告を読んだ感じだと、そんな風には思えなかったし……何か別の理由があるのかしら……?」
 小さく呟くのは『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)である。
「信じてもらえないなんてな! そりゃあ、アイツとアタシは同じ道を選ばなかった。
 でも、姉として好きだったのはホントの話だ。 それなのに信じてもらえないのは悲しいってもんだ!」
 ジルーシャの言葉に応じながらも、まるで視線をこちらに向けちゃいない。
「それはごめんなさいね。でも、何かあるような気がしたから」
「は、そうかい!」
 他のイレギュラーズとの攻防を繰り返しながら言う辺り、ディアーナはまだまだ余裕があるのだろう。
「貴女も気になるけど……まずはこっちからね」
 金色の光を帯びる水晶の義眼がアポロトスを見る。
 命の灯火を映し、虚偽をも見破るとされる精霊王の瞳は滅びのアークより生まれた存在を見定める。
「……ね、教えて頂戴な。アンタたちの、怒りの理由を」
「終わりは遁れざる者だ。森を燃やす者には同じく炎の鉄槌を。
 木を手折る者には同じくその身を砕く鉄槌を。
 森を沈める者には同じくその身を侵す鉄槌を」
 隣人の想いを受け止めるべくの問いかけに対する答えはどこか要領を得ない。
 精霊王の瞳はひたとそれを見つめ、精霊ともそうでないとも分からぬ滅びのアークの僕を籠の中に落としていった。
(魔女……この滅びはまさか)
 既に始まった闘争はここから激しさを増していくだろう。
 その様を跳びだした2人を見送った『傲慢なる黒』クロバ・フユツキ(p3p000145)はディアーナの言っていたことを思い起こす。
 幻想種の面影明らかなる魔種、周囲に立ち込める怒り。
 そして彼女が言った『我らが魔女様』――気になる事は山積みだった。
「……いや、詮索は後だ。因縁を持つ者たちもいるだろう。
 俺も俺でこの地を守る意思を見せつけないとな。
 死神クロバ・フユツキ――参る!!!」
 重なるバダンデール・ドクトリン、完全なる逸脱を果たした死神は明朗たる思考のままに駆ける。
 辿り着いたるは憐れなる獲物、命脈を断つ滅の剣戟がアポロトスを刹那に両断する。
 その身体が石へと変じたかと思えば美しい華を一輪咲かせ、崩れ落ちる。
「あなたも医者なのですね。わたしは医術士。あなたよりかは戦闘に向いているので、ここはお任せください」
 速攻の戦いは既に始まっている。
 術式を展開しながら『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は依頼人でもある女性へと声をかけた。
 沢山の細い、短刀のような神秘の刃が戦場に降り注ぐ。
 周囲に満ちた暗き運命がアポロトス達を貫いた。
「そうだね……森も滅茶苦茶になっちゃうし、これ以上滅びのアークをばらまかれるわけにはいかないもん。
 戦いはボク達に任せて、エルリアちゃんは下がってて!」
 そんなココロに重ねるように『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はエルリアを後ろに隠すようにして言えば。
「う、うん。ごめんなさい……その、ありがとう。どうか、無事で!」
 頷いたエルリアが走り去る音が遠のいていく。
「あなた達は何に怒ってるの? わたしたち人間が何をしたの?」
 ココロはアポロトスの中でも特に燃え盛る個体へと近づいて問いかける。
 ココロの胸に宿る熱は敵から受ける熱程度では覆られやしない。
 真っすぐに向けた視線。
 瞳と呼ばれる器官が存在するのかは分からないが、それでも見つめるのなら交えたい。
「終わりは遁れざる者だ。森を燃やす者には同じく炎の鉄槌を。
 木を手折る者には同じくその身を砕く鉄槌を。
 森を沈める者には同じくその身を侵す鉄槌を」
 揺らめく炎のような怒りの残滓は変わらず、要領を得ぬままに怒りを振りまいている。
「また、ううん、まだエルリアちゃんを狙ってくるの?
 セレーネちゃんの弓を取りに来たなら、持ってきたら素直に帰って……はくれないんだよね」
 焔は改めてディアーナに問いかける。
「そりゃあ、難しいね。
 弓を取り返しに来たってのもあるが、アタシは魔女様の命でここにいたんだ。
 あの方の指示があんのに帰るわけにゃいかねえだろ」
「……なら、これ以上エルリアちゃんを危険に巻き込まないためにも、ここで倒すよ!」
 焔は槍を地面に突き立て神域を展開する。
「――でもまずは、あの子たちから!」
 視線の先には炎の精霊のような姿のアポロトス達。
 カグツチを掲げ円を描くようにして振るう。
 熱を帯びた槍がアポロトス達を包み込み、意識を引き付ける。
「反転からの回帰……あの自分だけが研究、知ればいいという魔種の風上にも置けないクソ博士がやってた研究だよな……」
「は、魔種の風上にも置けない、か。こりゃあいい! たしかにね。
 あそこまでのやり口は魔種だって早々やりゃしない。
 結局、魔種かどうかなんて関係ないってこった」
 ぽつりぽつりとつぶやく『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)にディアーナが笑う。
(俺が魔種だったら際どい研究レポート作って、研究気質でマッドな研究者に送りつけて反転を誘って研究を進めるのにな。
 それで研究を進めるんだが……まあ、別のベクトルで魔種増やしてたからそこは厄介だったか)
 すらりと鎌を構えなおしてアポロトスの方に視線を向ける。
「全くラサや覇竜、幻想ばかり狙われてるけど、深緑も敵数がめちゃくちゃ少ないけど、油断ならないね!」
 その身に宿る呪いが溢れ出して、サイズの身体を強制的に強化していく。
 それが妖精郷の事を思い起こさせる。
「……しかし妖精郷がまったく襲われてないのは何でだろうな、攻める価値ないのか、
 俺が作ってしまった死にたくなるほど大嫌いな歪んだ駄作の奇跡の副産物か……
 どちらにせよ……反吐がでる……苛つくから戦うか!」
 構えなおした鎌を鮮血色に重ねて振り払う。
 飛翔した斬撃は獣の顎となって真っすぐにアポロトスを呑みこんだ。
「はは、こりゃあいい。理不尽が過ぎて最高だ!」


 アポロトスと呼ばれた精霊のごとき者たちは一輪の花を咲かせ、石に代わって崩れ落ちた。
 けれど、戦いは続く。ストロベリームーンはそれその物が熱を帯びているかのように、燃えている。
「……支援は任せたぞココロ、その分前線で思う存分暴れさせてもらう!」
 クロバはその言葉と共に既に敵へと飛び込んでいる。
(ありがとう……そして、がんばりなさい!)
 クロバへ、ココロは手を伸ばす。
 展開した魔法陣より放たれたるは一条の炎。
 それはやがて不死鳥のように羽ばたいてクロバの身体を包み込む。
 自然治癒力を高める治癒術式には希望へ繋ぐための光を見出す副作用を持っている。
「縁もゆかりも、今初めましての相手ではあるが――相手にとって不足はなし。
 互いが互いに挑む間柄というのであれば、こちらもそれに応えないのは無作法というものだろう?」
「はは、いいねぇ。死神さんとやら。それで、アタシに何をしてくれるって!」
 その身には極限の闘気と魔力が漲り、かち合った視線は獰猛に笑っていた。
「俺が為すべき事はこの絶劔にてその因縁を断ち切ることだ!
 陸を裂き輪廻を断つこの一斬、とくと見よ!!」
 あらん限りの魔力と闘気を弾丸に籠める。
 それらすべてを使い潰すぐらいの気持ちで愛刀を振るう。
 壮絶極まる鬼神の斬撃は正面からディアーナの防御術式を叩き割り、その身を大きく切り降ろす。
「おぉ、う! なんて技だ――今のは効いたねえ!」
 伸びて来たのは脚、鎌のようにしなる脚がクロバへと反撃を叩きこんでくる。
「アナタの方は、積極的にエルリアちゃんを狙ってなかったんじゃないの?
 仇だっていうにしてもボク達の方だし、もうエルリアちゃんを狙う理由もないんじゃ……
 弓を取りに来ただけなら、本当に渡してもいいんだよ。ちゃんと弔ってくれるならその方がいいだろうし」
 音速の如く炎の塊となってディアーナへと肉薄した焔はそのまま彼女とぶつかりあう。
「そうだな。実際、あの樹木医に関してはもうどうでもいいさ!
 狙う意味も――あの弓がアイツの研究室にあるってだけだから返してもらえるってなら何もないね!」
「じゃあ、約束して!」
「あん?」
「もう、エルリアちゃんを狙わないって! 戦うだけならボク達が相手になるよ!」
 烈火の炎を抱き打ち出す刺突がディアーナの防御術式とぶつかり合って火花を散らす。
「まぁ、それは別にしてやってもいいが。
 その代わり、アンタらもアタシとやりあうって約束はしてもらわないとねえ!」
 飛び込んできた反撃の拳の勢いを殺して間合いを開く。
「相変わらず、寒くて嫌な力だ!」
 代わって飛び込んだのはサイズだ。
 再びその身を包み込む冬白夜の呪いに舌を打ちながら、サイズは飛翔する。
 刃に全霊の魔力を束ねて振り抜く斬撃は幾重もの鮮血の顎を作り上げた。
 追撃となった鮮血の獣たちがディアーナを斬り刻む。
「片割れと同じように、貴女も潔く散りなさい!」
 蛍は打ち出されるディアーナの拳と脚を巧みにさばき続けてきた。
「は――それは流石にできない相談だ!」
 撃ちだされた脚の一閃を籠手で何とか食い止める。
 尋常じゃなく重い脚は以前より強くなっていてもなおの脅威と感じていた。
 蛍はそのまま真っすぐにディアーナを見据えた。
 聖剣の光が強く温かく、蛍によくなじむ。
「心から信じられるヒトがいる! それがボクと貴女の違いよ、ディアーナ!!」
 叫ぶように、蛍は聖剣を振り抜いた。
 雪月花の三閃、麗しき三連撃がディアーナの防御術式を削り罅を入れる。
 だがそれはあくまで彼女の為の繋ぎに過ぎない。
 じり、と音がなる。半歩、珠緒は身をかがめた。
「……猛咆ドラッヘンハーゲル!!」
 術式刀が極限にまで高めた魔力密度のままに打ち出す斬撃は宛ら竜の放つ咆哮の如く。
 あるいは竜の放つ破滅たる息吹の如くディアーナめがけて打ち出さる。
「――!」
 ディアーナの表情が驚愕に揺れたのは実に2度目か。
 凄絶たる竜の咆哮、斬撃が彼女の防御術式を両断する。
 それでは終わらない、終わっては届かない。
 聖なる水を呑み干して、既に二の太刀は紡がれる。
 血潮が湧く感覚に身をゆだねるままに珠緒は剣を打ち出した。
 流星如き斬撃が刹那に一閃払い、大地に血が零れ落ちた。
「は、なんだって? おい。まさか……こりゃあ、とんでもないね……
 あぁ、ちくしょう、このまま燃え上がってやんのいいんだが……ここで暴れんのはあの方に怒られちまうね」
 連撃は激しく、血みどろになりながらなお、その女の笑みは自信に満ちている。。
 トールは視線を交えるままにディアーナへと肉薄する。
 オーロラの剣は反応したディアーナの魔術障壁と激しくぶつかり合って燐光を散らした。
「セレーネさんは安らかに眠っているんです!
 その墓標である弓を奪い、まだ魔種の道に誘おうと言うのですか!」
「あん? 持ってったのはそっちだろう?
 墓標だか何だか知らないが、人の姉貴の取っ手かれたんだ。
 取り返すのは何か間違ってるか?」
「その先には終焉しか待っていないと言うのに!?」
「は――笑っちまうな。
 アタシにゃ片割れで無くなっちまった時点で終わってるようなもんだ。
 ……というか、会ったことあったか、色男さんよ」
 鼻で笑ったディアーナは不思議そうに眉を潜め、改めて獰猛に笑う。
 反撃のように撃ちだされた脚を何とか捌いて、距離を取れば。
「お久りぶりです、ディアーナさん。そして、こちらの姿でははじめましてですね!」
「――へぇ、お前さん。男だったのかい? 可愛い嬢ちゃんかと思ってたんだがね」
 そのまま飛び込み、トールは剣を振るった。
 寂静の剣はトール・アシェンプテルという男のこれまで道程がそのまま力となる剣。
 優れた太刀筋にディアーナが合わせてくる。
「お褒めに預かり光栄です。僕の思う可愛い女の子からのプレゼントがあるみたいですよ」
「――これが、わたし達のプレゼントです! 黒黥!」
 繋いだココロが再び呼び出すは黒い闇のような身体をした悪しき竜。
 全てを呑みこむ暴食の悪竜がディアーナを食らい潰す。
「は。これは――ちょっとばかしキツイもんがあるね!」
「美しい花と可愛い女の子には毒――いえ、棘があるということで」
「は、違いない!」
「ちょっと恥ずかしいので止めてください!」
 しれっと自分を可愛い女の子判定されて思わず声をあげるココロだった。
「もう一度聞いていいかしら」
 ジルーシャは改めて義眼をディアーナへと向けた。
「あん?」
 辺りに立ち込めるのは昏く重い香り。
 それは蛇の王を呼び寄せる特別な香り。
 決して見てはならず、認識してはならぬ彼の王は己が傍らに立つ不遜者を睥睨する。
 唸り、吐息を零した蛇の王は確かにディアーナを見た。
「おいおい、それは卑怯じゃねえか。
 そっちに意識を向けさせといて、こいつにアタシを気付かせるってのは」
「きっと……そんなものでは止まらないのでしょう」
「――まぁ、そうなわけだが。で? 何だい香術師。
 聞きたい事ってのは。それともホントにアタシに意識を向けさせるためだけか?」
「弓をどうしたいの?」
「――あぁ、なんだ。それかい」
 真っすぐに見据えた先、ディアーナが肩を竦めた。
「アタシはどうにも遠距離戦が苦手でね。
 アイツの弓は特別製だからね。せっかくなら返してもらおうって魂胆だ。
 アイツだってアタシと一緒に居れて本望だろ?」
「――そう。そういう理由なら……譲れないわ」
「は――そうかい。しかし、アンタらも前に会った時よりも随分と強くなっちまったねえ。
 けどまぁ――やっぱりここは退かせてもらおうか。なにせここは深緑の地だ。
 あんまり暴れちまうとあの方に怒られちまう」
「待て、先程からいうその魔女とは誰の事だ!」
 クロバは逃亡を阻むために――何よりもその存在への疑問に声をあげる。
「あん? そりゃあお前――あぁいや、止めとこう。
 魔女様が自分で名乗りを上げる前にアタシみたいなのが出しゃばるのは違うわな。
 何にせよ、次は森の外で会うことにしよう、イレギュラーども。
 ここじゃあ本気で暴れんのも難しいんでね!」
 そう笑った刹那、ディアーナは足を大きく振り上げたかと思えば、思いっきり地面に振り下ろす。
 大地が吹き飛び、その衝撃に合わせて女が空に跳び出した。

成否

成功

MVP

桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻

状態異常

クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
深緑の守護者
藤野 蛍(p3p003861)[重傷]
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)[重傷]
比翼連理・攻

あとがき

大変お待たせしました。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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