PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<美徳の不幸/悪徳の栄え>奏でるは希望の音色

完了

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●歴史の一ページ
 それはこれから起きる出来事から考えれば、あまりにも平穏すぎる朝だった。
 世界各地で頻発する『バグ・ホール』や終焉獣の被害。
 いつどこで、それすら分からない無作為にも思える滅びのパレード。
 事態に直面した者は確かな恐怖を抱き、終末を自覚するはずだ。
 だが事ここに至ってなお。
 この緊急事態を対岸の火事と思い込む者はいた。
「はぁ、やってらんないよまったく……」
 大規模キャラバンの先頭。
 馬車を転がしながら大きなため息をつく商人の男性。
 彼はとある幻想貴族の依頼を受け、鉄帝から人と物資を運搬していた。
 荷物の中身はラド・バウにて活動中の見習いアイドル達と、パフォーマンスに使う楽器類など。
「金持ちってのはこれだからいけないんだ」
 跡目相続の祝いだかなんだか。
 たかだか肩書を祝うためだけに、わざわざこんな事をするのが貴族という生き物なのか。
 本来なら心の中へ収めるべき声も、だだっ広い草原に溶けるだけと知るからこそ露骨に零す。
「確かに昔から魔物だなんだはいたわけで。命の危険がなかったとは言わないけどねぇ」
 今のところ終焉獣の被害が大きくなかった幻想において、広く伝わる事実は『混沌』のあちこちで被害が出ているという事。
 言い換えれば、自分達の暮らす『幻想』はその混沌に含まれていないのだ。
 ここでそう考えられるのが貴族の悪い点であり。
 極端な楽観主義か、極度の利己主義がもたらす弊害である。
 とはいえ、貴族達の認識は今日までは真実だった。
 終焉麾下の魔の手は、未だ遠い。
 ――ほほほ。さて、そろそろ頃合いかねぇ。
 だがしかし。
 色欲麾下の魔の手は、もう間近。


●絶望の予感、希望の一感
 幻想から少し離れた郊外。
 眼下に草原を広げる空に、大きな穴にも思える魔法陣が開いた。
 まるで空から雨が降るように。
 まるでグツグツ煮込んだ鍋から噴きこぼれが垂れるように。
 そこから一体、また一体と終焉獣が降り注ぐ。
「くっ。ホントに……当たってほしくない時に限って当たるんだから!」
 不吉な予感を感じ幻想周辺を警戒していた『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は、空が割れる瞬間をいち早く目撃。
 愛馬『ムーンリットナイト』を駆り現場周辺へ急行する。
「た、助けてくれ~!」
 そんなレイリーの視界に、終焉獣達に追われる商隊の姿が映り始め。
 彼女は騎乗のまま自身の四肢に格納した装備を展開。
「そのままこちらへ走り抜けて!」
 馬から飛び上がると商隊と終焉獣の間に降り立つ。
「私の名はレイリー=シュタイン! この先へは行かせないわ!」
 ドラゴンの角を模した白きランスで敵を払い。
 ドラゴンの翼を思わせる白き大盾で魔を弾き飛ばす。
 しかし、迫る滅びの勢いはその程度にとどまらなかった。
 ――さぁ、おいきなさいな。わっちの愛する主(ぬし)様のために。幻想から邪魔者を誘い込むんだよ。
 空の穴から、巨大な何かが露出する。
 ――抵抗なんて無駄さね。いかに最強を謳えど所詮は不毀の軍勢。滅びの仔。
 もがくように震えるも、その降下は止まらない。
 ――終焉の仔なら、わっちの糸には縛られる。
 かの存在が地へ足をつける。その身体を形成するパーツに、レイリーは見覚えがあった。
「あれは五感の終焉獣! でも、こんな姿じゃなかったのに」
 五感の終焉獣。それはかつて鉄帝にて遭遇した、人間の五感に作用するような能力を持つ敵であった。
 彼女がかつて相対した際には、3m程度の人型個体が5体だったが、今は全長およそ30mの個体が1体。
 有り体に言えば、合体しているという様子であった。
 左手が欠けているところを見るに、そこには前回の戦いで敗れた1体が収まるはずだったのであろう。
「オオオ……」
 かの化け物が鳴き声とも呻き声とも取れる音を漏らしつつ一歩踏み出せば、大地が揺れた。
(さて、どうしたものかしら……)
 レイリーの槍を握る手に力がこもる。
 これまで数多の戦いで一番槍を務めてきた彼女とて、単身で挑むには文字通り相手が大きすぎる。
 かといって、不倒を信条に背にいる者を護らんとする彼女には、未だ自分の前にキャラバンの面々が残るこの状況下で退くという選択肢などあるわけがない。
 やるしかない。
 そう思った瞬間だった。
「……オオオォォォ!!!」
 巨体の腹に当たる部分が口のように開くと、雄叫びと共に滅びの粒子が排出される。
 それは濃霧のように拡散し、巨大終焉獣を中心としてドーム状に展開。
 瞬く間に逃げ遅れたキャラバン商隊を飲み込んでいく。
「危険だ、レイリーさん!」
 自身を呼ぶ声へ咄嗟に振り向けば。
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がワイバーン『リオン』の背から手を伸ばし、彼女を掴み上げた。
「リオン、全速離脱だ!」
 飼い主の指示に亜竜は勇敢に鳴いて答えると、勢いよくその場を飛び去る。
 後方で棹立ちとなり終焉獣を退けていたムーンリットナイトもまた、飛び去る主に追従した。
 イズマは粒子の拡散が止まったのを確認すると、ドーム状の壁となった部分の前にリオンを着陸させる。
「助かったわ。イズマ殿」
「何とか間に合ったようでよかった。だが……」
 二人の視線の先。
 ドームの中には、粒子に飲まれた人々が多く残されている。
「さ、助けに行きましょう」
「待ってくれ。ゼロ・ホールとは異なるようだが、これも終焉獣が生成したものだ。下手に触れたらどうなるか分からないぞ」
 常に冷静であろうと心がけるイズマだからこその静止。
 彼もまた五感の終焉獣達と相対した一人であり、敵が相応に面倒な能力を持つ集まりであったことは記憶していたのだ。
(だが敵がなんであろうと、人々は守り抜きたい)
 起死回生の手は必ずあるはずと、思考を巡らせる。
「っ……。誰か、誰か聞こえる? 聞こえたら返事をして!」
 レイリーは打つ手が見えない中での出来る事。
 必死に繰り返し呼びかける。
(んっ?)
 イズマには、彼女のその声が終焉の壁を僅か揺らしたように思えた。
「げほっげっほ」
 暫くすると、近くの壁から一人の男が這い出てくる。
 急ぎ駆け寄るレイリー。
「良かったわ! 大丈夫!?」
「げほっ。あ、その声は……」
 男によれば、霧に飲まれてすぐ体中の感覚が失われ苦しくなったらしい。
 それでも何とか脱出しようともがく中、レイリーの声を頼りに逃げてきたのだという。
「なるほど、そういうことか」
「何か分かったの?」
 レイリーの問いかけに、イズマは今から見せると言わんばかりの視線を送ると、鋼の細剣『メロディア・コンダクター』の切っ先に自身の声を集めていく。
「ラ、ラー……ソステヌート!」
 響奏撃。
 切っ先から放たれる魔力は弩のように真っすぐ進む勢いを保持し、壁に突き刺さる。
 ――かと思えば、魔力は白き光となって壁の粒子を打ち消したのだ。
「これは!」
「ああ。俺達にはまだ大切な五感が一つ残されているんだ!」
 イズマの言葉に、レイリーは笑みを浮かべずにいられない。
 絶望の檻。
 それを目の前にしてなお希望はあった。
 そしてこの状況。
 圧倒的苦難の前にこそ、可能性(なかま)はきっと集ってくれる。
「なら、わたしが名乗るべきはきっとこっちね」

 ヴァイス☆ドラッヘ! 只今参上!

GMコメント

※各種《》項目に関してはGMページにて解説

《システム情報:情報確度A》
●目標(成否判定&ハイルール適用)
 巨大終焉獣を幻想までたどり着かせない
●副目標(一例。個人的な目標があれば下記以外にも設定可)
 終焉の檻に囚われた商隊の救出
 巨大終焉獣の弱体化

●優先
※本作は、以下の皆様(敬称略)のアフターアクションを採用したものであり、
 該当の皆様がオープニングに登場している他、優先参加権を付与しております。
・『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)
・『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)

●冒険エリア
【幻想郊外】
 見通しの良い草原地域。
 巨大終焉獣から最終防衛ラインまで2km程度(以降草原表記)

●冒険開始時のPC状況
 基本的に、空の異変や終焉獣の生成した檻に気づき、幻想から駆け付けたところからスタートとなります。
 レイリーさん、イズマさんが参加された場合、お二人は既に現地へ到着した段階からスタートするため、何かしら準備したい事があれば簡単なものは可能です。

《依頼遂行に当たり物語内で提供されたPC情報(提供者:レイリーさん、イズマさん、キャラバン隊の頭 情報確度B)》
●概要
 謎の巨大終焉獣が現れ、滅びの粒子をまき散らしながら幻想方面へ移動中。
 終焉獣の進行を止めつつ、粒子に飲まれた人々を救出したい

●人物(NPC)詳細
 特筆すべきネームドNPCは無し。

●特殊判定詳細
 レイリーさんとイズマさんが参加された場合、お二人は以下の行動を副行動、主行動にて行う事ができます。
※歌唱を用いた行動、楽器演奏を用いた行動を希望されるPCが参加された場合、その方もこの行動を選ぶことができます。

<歌唱/演奏>
 自身の用いる技術を使い、音を通じて可能性を導く。
 自身の周囲50mへ以下の効果を付与(1回で2ターン、8ターンまで累積保持可)。
・終焉獣に対して【怒り】付与
・キャラバン商隊、味方PCに対して特殊能力【希望】付与
 ※絶望によるBS全てを2段階まで軽減/無効化、キャラバンの人々は助けを求めて寄ってきます。

●味方、第三勢力詳細
 シナリオ参加人数が定員に満たない場合、不足分だけ幻想の冒険者又は逃げ延びたキャラバンのアイドル見習いが作戦に協力してくれます。
 冒険者は参加者の平均程度の能力に加え、参加者が付与したい役割(回復、タンクなど)「一つ」を担うのに必要な分のステータスが補正加算されます。
 (回復ならAP多め、タンクなら防御技術高め、等です)
 アイドル見習いは、レイリーさんやイズマさんと同様の歌によるサポートが行えます。
 (但しサポート範囲は30mまで減少します)

【キャラバン商隊】
 絶望の檻内部に取り込まれた人々。放置すると死亡します。
 人:10名
 馬車:5台
 声等、音によるやり取りは出来ます。

●敵詳細
【巨大終焉獣】
※関連シナリオ
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/10345

 かつて鉄帝にて確認された人型の終焉獣の集合体。
 味覚、触覚、視覚、嗅覚の最強を謳っており、全剣王に付き従う『不毀の軍勢』の一員です。
 とはいえ、今回は全剣王の指示ではなく動かされているようですが……
 メタ的に言えば、合体ロボです。
 ちなみに頭が視覚。体が味覚。右手が触覚。両足が嗅覚です。
 (左手に当たる部分からはオイル漏れのように終焉獣がポタポタ垂れています)

<戦闘関連特記事項>
・反応値による行動順確定後、自身の初回行動後、次の手番が来るまでに2人PCが行動するたび特殊EXA行動。
(1ターンに最大で4回主行動します。基本攻撃、BS多め)
・機動力:10で毎ターン最後の主行動後必ず副行動で移動。
 ターン毎、その時までのダメージ量に応じ段階的に機動力低下。
・主行動で特レ攻撃。物神範囲対象様々。BS攻勢回復35。

【終焉獣】
 空に浮かぶ魔法陣から狼型がどんどん落ちてきます。
 一匹ずつは大したことないですが、集団で行動するため、囲まれないよう注意が必要です。
 また、動けない民間人や馬はご馳走です。

●特殊ギミック詳細
【絶望の檻】
 巨大終焉獣から放たれた滅びの粒子で作られたドームの仮称。
 終焉獣の周囲200mを常に覆っています。
 ドーム内のPC勢力へ以下の効果を発生させます。
・特殊デバフ【絶望】付与。【希望】でのみ無効化可。付与者に以下。
 →ランダムデバフ4つ。
 (段階があるものは必ず一段目。但し同種BSが選ばれた場合は2段目まで上昇)
 →聴覚以外の五感に異常。
 (命中に関係なく目が見えなくなって攻撃が外れたりします)
・妖精殺し、ジャミング
 一度付与された絶望のターン数は、希望を付与されれば希望ターン数と相殺。

●エリアギミック詳細
<1:エリア全体>
 基本的にはただの草原です。
 空中には魔法陣がありますが、非常に高所へ位置取っているので何かをするのは難しいでしょう。
 ※終焉の檻内部は特殊ギミックによる影響が優先

<全般>
光源、足場、飛行、騎乗:1問題なし
遮蔽:1なし
特記:なし


《PL情報(提供者:GM プレイングに際しての参考にどうぞ)》
【主目標のために何すればよい?】
 大きいも小さいも、とにかく終焉獣を幻想にまで到達させなければ成功です。
 そう考えると、何よりも『負けないこと』が重要でしょう。
 各終焉獣へとめどなく攻撃し、敵の攻撃に倒れなければ勝機が訪れると思います。

【救出】
 囚われたキャラバン商隊は、人だけではなく馬車もあるので、全てを助けるとなると運搬は少々難しいです。
 五感を取り戻してやれば人も馬も自力で移動できますので、そうなれば皆様のフォローがあれば無事に脱出できるでしょう。
 
【巨大終焉獣】
 現状において撃破を狙うのは厳しいです。
 主に右手を硬質化し、盾のようにして皆様の攻撃を防ぎますが、勘の良い方であれば、戦闘中にその一部が傷ついている事に気づけると思います。
 必要最低限以上の対応を行うならば、敵の能力を確認するなり、次なる勝機への可能性を紡ぐことを意識した方が良いかと思います。
 
【絶望の檻】
 簡潔に説明すれば、希望の中にある限り絶望に苦戦することはありません。
(但し要救助者の捜索にサーチや使い魔は使えないので、直接近づき希望へ引きずり込むか、呼びかけて何とか来てもらう必要があります)
 通常は歌唱や演奏を希望付与の判定基準にしますが、思いを込めた名乗り口上や、スピーカーボムを使った演説等、工夫がある音で希望を導くような内容であれば、プレイングボーナスとして希望付与判定基準に加えます。
 キャラバンの皆様や仲間達にとっての英雄を目指してみるのも良いかも知れません。

【魔法陣】
 空高くに存在するため、皆様の攻撃は基本的に届かないでしょう。
 魔法陣の主はよほど皆様の事を警戒している事が伺えます。


・その他
目標達成の最低難易度はH相当ですが、行動や状況次第では難易度の上昇、パンドラ復活や重傷も充分あり得ます。

  • <美徳の不幸/悪徳の栄え>奏でるは希望の音色完了
  • GM名pnkjynp
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月26日 22時25分
  • 参加人数9/9人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 9 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(9人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

リプレイ

●Hoffnung for B
 キミと交わした最期の想い出を、愛の温もりを忘れない
 ずっと変わらぬ願いの果てに、永劫の罪は許されたでしょ
 そんな愛しいキミが遺した世界を守り抜いていつか追いつくから

●奏でる音色Ⅰ
『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は紡ぐ。
 かつて大切な人と舞台で披露した思い出の歌。
 その希望に愛を添えた特別な一節を。
 すると本来目に見えないはずの声は、白き光となって草原を覆う闇の壁を溶かしていく。
「こ、これは……!」
 驚きを隠せないキャラバン隊の頭。
 壁の先には漆黒の粒子が吹きすさぶ。鉄帝の猛吹雪を彷彿とさせようか。
「みんな聞こえる? 無事なら返事をして!」
 レイリーの言葉に、近くに倒れていたアイドル見習いが顔を上げた。
 だが粒子はすぐに壁を再生成。捕らえた獲物を逃がさぬ檻となる。
「頭領さん、ここに逃げ出せた人達を集めてくれないか?
 商隊の皆さんにも一緒に音を奏でてほしいんだ」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の呼びかけに頭は難色を示す。
「確かにこの檻は危険。襲われた恐怖に今すぐ逃げ出したくもあるだろう。だが――」

●折れぬ鋼が奏でる歌
 闇に抗う命の星よ
 迷える君に光よ届け
 例え帳に包まれど
 その身に宿す命の響きへ
 希望の奏は巡り導く

●奏でる音色Ⅱ
 イズマは自身へ魔力を巡らせると同時、歌声を壮大な打楽器の音色へと変え打ち付けた。
 詞と旋律はビートとなって、断続的に壁に穴を生じさせる。
「特別な音じゃなくていい。ただ希望を願い奏でればこの苦しみを打ち破れる!」
 彼の言葉(音)は、まず頭へと響いた。
 頭の号令に他のキャラバン隊員達も合流し、馬車に積まれた楽器類を取り出していく。
「目を覚まさせてくれた礼だ。あんたにはあれを貸すよ」
 頭は馬車に積まれた大型のドラムセットを指さした。
 それは馬に取り付け騎乗しながら演奏するパフォーマンス用のもの。
「でもあんたの相棒なら、つけててもしっかり戦えるだろう?」
 己の役目を感じ取ったか亜竜『リオン』が一声鳴いた。
「ああ分かった。借り受けよう」
 そこへ異変を感じ急行した仲間達が到着、レイリーとイズマは状況を共有する。
「……ったく面倒なことに首突っ込みやがって」
 『騎兵の先立つ紅き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)が大太刀を抜き放つ。
「エレンシア、巻き込んでごめんね」
「まぁ、レイリーらしいっちゃらしいから気にしてねぇさ。それで、どうすんだ?」
「音楽を奏でれば滅びの運命から人々を護れるんですよね? 救助は任せて下さい!」
『君を護る黄金百合』フーガ・リリオ(p3p010595)は『日向の百合(ルズソル・リリオ)』と名付けたトランペットを握りしめる。
 昨今の戦いでは『青薔薇救護隊』の司令として、死地での救命に尽力してきた彼。
 ましてや己が得意とする演奏がその役に立つとなればこれほどまでに整った舞台もないだろう。
「フーガが演奏と救助か。なら俺は歌って癒すとしようか」
 『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)がどこからともなく『応援マイク』を取り出した。
「大地、どうしてそんなもの?」
「この前イズマに教えてもらってから、うちに(預かって)いる娘の中で音楽がプチブームでな。
 でも楽器を教えるのは向いてないから、前に読んだ本を参考に歌をちょっと教えてるんだ」
「そうか、なら丁度いい! オイラ達で希望を奏でようぜ!」
 友人であるフーガは、大地の事情や彼が司書を務める図書館についてある程度知っている。
(チッ。フーガにゃアイリスの事はネタバレしてるだろうからなァ。勘違いでおちょくるのも無理だナ)
 大地に宿るもう一つの人格『赤羽』が残念そうにぼやくが。
「早速俺達のリリックで絶望に希望のライムを刻んでやろう。手伝えよ、赤羽」
(今日はこっちの方が面白れぇからいいカ)
「あァ。いつでもいいゼ」

●DJ:Rot Erde
~E~
俺はMC One Dead
集った仲間はown Friend

感覚消し去る異様なZONE 勘弁してくれregulation
されど高ぶる異質なBONE 歓迎しろよIrregularization

~R~
そしてオレサマ MC RED
そこのキサマは NG LIST

オマエが放った絶望のring
オレ達見つけた希望のHearing

~ER~
今から始まる 聖火リレー
成果を持っテ、無事帰レ

「『さぁ囚人に希望Shooting!』」

●奏でる音色Ⅲ
 『赤羽大地』の即興ラップに、フーガとイズマがリズムを添える。
 これもまた剥き出しの感情が迸る希望への音楽。
「いいねぇ! 気合いが入るぜ!」
 それはエレンシアの心を震わせ。
「何だかよく分からないですけど、やる気だけは満ちあふれて来ましたわー!」
 『願いの星』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)の身体を震わせた。
 ※この日の彼女はまだアルコールを摂取していないため、音楽の影響と信じたい。
「いいぞ、壁は充分に剥がれた!」
 イズマの言葉にレイリーは頷くと、愛馬『ムーンリットライト』の上で高らかに宣言する。
「ヴァイス☆ドラッヘ! 皆に希望を与えに仲間達と共に只今参上!」
 絶望の檻へと勇ましく飛び込む5人。
 その様子を『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は飛空探査艇から見ていた。
(鉄帝の時も思いましたけど、勇壮な音楽を背に敵へ挑むというのも、何だか妙な心持ちになりますね)
 生まれながらの境遇と能力故、善悪の狭間で仮面を付け替え過ごす日々が続いた彼女。
 だが混沌での経験が、仲間達の音楽と姿が、今日の彼女の『志(こころ)』にはとても輝かしく届いて。
(らしくないかとは思いますが……私も精々やってみるとしましょう)
 瑠璃は探査艇を檻ではなく上空へ向ける。
(遙か遠くから絶望を産み落とす根源ですか。かなりの脅威でしょうけれど)
 レバーを引き一気に加速。
 何があるかも分からないリスクに飛び込むというのに、どこか彼女の心は高揚しているように思えた。

●救生の輝きⅠ
 イレギュラーズ達が絶望へ入っていく姿を遠くから見つめる双眸。
 その輝きは草原を蹴る馬の足音に合わせ揺れるが、どの音がそれか分からぬほどの錯綜していて。
 つまるところ迫る存在が単騎ではなく騎隊であることを物語っていた。
「なるほど。これからはああいう絶望にも見舞われるのね」
 隊の先頭『【鋼鉄の女帝】ラムレイ』と共に旗印となるは『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)。
 引き連れる18頭にも及ぶ馬の群れは、分かれて2台のチャリオットを牽引。
 そちらはイーリンが管理する『書庫』の本来の持ち主、幻想貴族クラナーハ家の従者『【鳴山童子】シュリ』が手綱を握る。
「シュリ。現場へ着いたら私はこのまま突っ込むわ。貴方は離脱した市民の保護をお願い」
「イーリ……いや、外だから司書と呼ぶべきかな。
 確認させてもらうが、本当にこの馬車達は必要なのかい」
 シュリが問うのは現状の分析や認識ではない。
 彼女自身聡明であるし、イーリンの実力や性格にも絶対の信を置いている。
 その上でイーリンが出発を遅らせてでも、ここまでの用意を整えた理由を知りたかったのだ。
「そうね……」
 イーリンもまたそれを分かっているからこそ、無物資地帯である草原において何が起きても対処出来るように、等という数式的な理由は用いない。
「神がそれを望まれる。ただそれだけ」
「ふっ、分かったよ」
 為さねばならぬ。熱く速く響く鼓動がそれを告げている。
 救わねばならぬ。背負うと決めた重さの分だけ願いを叶える義務がある。
 そう自分が選んだから。みんなで未来が見たいから。
 失われつつある彼女の心が、それが嘘偽りでないと奏でているのだから。
「気をつけて」
 決意を宿すイーリンへその言葉だけを残し、シュリはチャリオットから飛び降りるとキャラバン隊へ合流。
 イーリンが救出するであろう人員の把握や運搬計画の想定。
 徐々に幻想方面へと迫る壁の分析をすべく動き出す。
「僕達は皆さんを救出に来たものです。少し情報を――」
 気を逸らした僅かな瞬間。
 聞かせて欲しい。そう言い切る前に。
 シュリが振り返る前に。
 オーロラのように煌めく何かがイーリンの後を追った。

●救生の輝きⅡ
 吹きすさぶ絶望の粒子。
 それを防ぐのは4つの光のドーム。
 2つ。アイドルとDJが歌う希望はヴァレーリヤを伴い強大な漆黒の影へと向かい。
 2つ。トランペットとドラムが奏でる希望は苦しむ人々へと向かう。
「どきな! この刃、アンタらに振う暇なんかねぇんだ!」
 奏でる音色は、その音を聞いた全ての者を引き寄せる。
 エレンシアはそこに人がいれば手を伸ばし、そこに獣を模した厄災があれば手当たり次第に薙ぎ払う。
「よし、この馬と御者はもう動けそうだな。フーガさん、こちらの演奏を変わってくれ!
 俺が足止めする!」
 イズマもリオンの飛行能力で上空から救助対象を探しては接近。
 近づく終焉獣の対処と五感の回復に努めていた。
(マズいな。救助者は散り散りになっている。俺達だけでは人手が……)
 音楽家として、希望を感じさせる演奏を途絶えさせはしない。
 だが冷静に状況を分析すれば、空から降り注ぐ終焉獣が減るか、人手が増えるかしなければとても救助が間に合わないのは明白であった。
「ちょっとお邪魔するわよ!」
「なっ、司書さんか!?」
「私が奥を受け持つわ!」
 イーリンは絶望の影響を浴びながらも進行。
 フーガの演奏音を頼りに近づき、空間内で感覚を取り戻す実感を得たことで全てを『知った』のだ。
 彼女は騎乗からそれだけ言い残すと、再び闇の中へ消えていく。
(音の希望が消えれば、また感覚が消えていくでしょうね。でも)
 常人ならばそれは堪えがたき恐怖を感じさせよう。
 なら、彼女は。
(私を絶望させるには及ばないわ)
 感覚を失う。それと同時に心すら魔力に溶け込み消えてしまう感覚を知っている。
 友人を失う。されどその耐えがたい痛みに寄り添ってくれる波の音は感じられる。
(こんなの、最強でも絶海でもないのだから)
 なら後は、超えるだけ。
「イズマさん、お待たせしました!」
「この人達はあたしらに任せな!」
「ありがとう。俺はこの増え続ける終焉獣を何とかできないかやってみる。リオン!」
 イズマもまたこの場所を離れ、イーリンやエレンシア達の援護を為すべく空へ飛んだ。
「皆さん、もう大丈夫ですからね。おいら達がこの檻から出してあげますから!」
 フーガは普段の砕けた口調は極力抑え、安心感や希望を感じさせるように、笑顔を浮かべながら治療を行う。
 エレンシアは先行して終焉獣へ対処。
 音の加護が切れる前には戻ってフーガの音色を身体へと蓄え、再び戦うことを繰り返して道を切り拓いていく。
「待って下さい! まだ近くに私の妻が引いていた馬車があるはずなんです!」
「な、なんだと!?」
 救助した男がすがりつき、涙と共に懇願する。
 それは救助隊としてだけでもイレギュラーズとしてだけでもなく。
 『世界で一番幸せな旦那さん』として、絶対に見過ごせない願いであった。
「アンタ、トランペット吹けるか?」
「は、はい!」
「ならこれを使え!」
「ですが、これは貴方の」
「オイラにはまだ、とっておきがあるんだぜ!」
 フーガはその手に光輝く『黄金の百合』を手にする。
(歌は苦手だ。声変わりして、自分の表現ができなくなってからずっと)
 それはこれから希望を奏でようとする男が知る絶望。
 もしかしたら笛の音だけでもその妻はこちらへ向かってこれるのかもしれない。
(でも……ただの音じゃ駄目だ)
 ここにかけがえのない愛があることを。
 希望がすぐそこにあることを伝えなければならない。
 誰かを助けるために。
 愛しい想いを護るためならば。
「ああ。堂々と歌ってみせるさ」
 勇気と希望と、ありったけの愛情を籠めて。言葉を贈る。
 いつか離れ離れになるその時が来るとしても。
 ずっと一緒にいたいと願う人がいる温もりを。彼は教わっていたのだから。

●奏でる音色Ⅳ
「アレ、本当に私達が相手するん……ですの?」
 酔いがさめたかのように。
 ヴァレーリヤは檻の中心で叫ぶ巨大終焉獣を前にしてそう呟いた。
「勿論よ。来なさい絶望! 私達の希望は負けないわ!」
 そして歌うは『ヴァイス☆ドラッヘ! 只今参上!』。
 楽しげな曲調ではあるが、今日のレイリーには絶対に引かないという強い意思が込められている。
「ええい、分かりましたわよ! やれば良いんでしょう、やれば!
 『主の御手は我が前にあり! 煙は吹き払われ、蝋は炎の前に溶け落ちる』っ!」
 ヴァレーリヤが唱えた聖句の一節は、彼女の身体を炎で包み込む。
「レイリー、そっちはお願いしますわ! 大地達はもう一本つけて下さいね!」
「人のラップを酒みたいに言うんじゃねぇヨ!」
「どっせえーーい!!!」
「Do Say――」
(って普通に始めんのカヨ!)
 圧倒的終焉を前にして気力と笑(き)力は充分。
 三人はキャラバン隊の救助に際し最も障害になるであろう敵を押さえに掛かる。
「オオォォ!!」
 もくろみ通り、レイリーと大地が照らす希望の光は終焉獣を引きつけた。しかし。
 ――引きつける役目はもう終わりさね。目指すは幻想、お前は絶望をまけばいいんだよ。
「オ、オ!?」
 突然の反転。
 糸を引かれた操り人形のように、獣は町へ進むべく歩を上げる。
「こらー逃げるなーですわ! 喰らって行きなさーい!」
 飛び上がり足先へメイスを振り下ろすヴァレーリヤ。
 象られた天使の翼が狙った表皮に傷をつけ、そこから滅びの粒子は血のように流出。
 だがその歩みを止めることは出来ず、足が地面に着く瞬間には黄色いガスが周囲へ拡散した。
「ちょ、けほっけほっ。何なのこの匂い?!」
「何だ、力が抜ける……!」
 危険を察知した大地は素早く味方を回復させる。
「何をされたとしても、私が倒れない限り、ここから先へは絶対に通さない!」
 愛馬の機動力を活かし再び終焉獣の進路を塞いだレイリーは、城塞を彷彿とさせる鉄壁の守りを構える。
「オオ!」
 今度は障害として排することを許されたか。
 終焉獣の目に当たる部分。
 高さ30mから放たれる大口径砲術は滅びの涙。
 隕石を思わせる鉛の塊は辛うじて弾く彼女の体力を削り、堅牢な守りに隙を生じさせていく。
「つっ!!」
「あんな所に顔が、ならこれでどうだ!」
 大地が投げつけたガラス瓶は弾の一つに当たり破損。
 砕け散ったインクが希望の空間に残された陽光へ反射し虹となる。
「あー! アイツゴーグルなんかつけて……! ズルいですわ!」
 眩しさに目を細めるヴァレーリヤと対象的。
 余裕を見せる終焉獣だが、一時的に目は塞がった。
「なんだかおちょくられてる気がして不愉快ですわ!
 こらー終焉獣! 私達を甘く見ると、痛い目に遭いましてよ!」
 ぶんぶんとメイスを振るう敬虔な司祭。
 まだ戦いの趨勢は決まらないが、課された条件はどちらも同じか。

●救生の輝きⅢ
「遅くなって悪かったわね、もう大丈夫よ! この私が……『騎戦の勇者』が必ず盾となる!
 だから手綱を、仲間の手を引きなさい! 勇気を出すのよ、さぁ!」
 聴覚以外の五感を奪われてもなお、強い意志の力で行動するイーリン。
 そんな彼女から発される力強い鼓舞は、活力を奪われた者達へ立ち上がるという感触を思い起こさせ。
 イーリンも感覚が戻る瞬間ごとに状況を再認識し、負傷者を馬車へと担ぎ込む。
「これで全員ね! 私の馬が先導するから、御者はそれに続かせるだけでいいわ!」
 馬の性質を活かし救助を行うという説明と鼓舞。
 裏を返してみれば自身の馬に対する命令でもある。
 貴方達の背に命が託されているのよ、と。
 イーリンは騎兵隊として共に戦い抜いた馬達を信じていた。
「ヒヒーン!」
 期待通り、馬も途切れ途切れの感覚を何とか繋げながら、脱出へと動き出す。
「ガアァーー!」
 しかし、終焉獣もまたその声に迫っていた。
(くっ、この霞む視界で狙えば巻き込みかねない……!)
 残す策はひとつ。
 どこまで正常に機能するか分からないが、魔眼を解き放つのみ。
 そう思った時だった。
「イーリンさん!」
「その声は……!」
『プリンス・プリンセス』トール=アシェンプテル(p3p010816)。
 イーリンが信頼を置く『女性』の一人だ。
 未だ霞む彼女の目には、オーロラの輝きだけが見えている。
「このまま安全なところまで『僕』が守るので安心してください!」
「わ、分かったわ! 敵の位置を教えて。そうすれば私も指示を出せる」
「分かりました! では、一気に離脱しましょう!」

~~~

「……え。貴方……トール、よね?」
「ああ、そういえばこちらの姿でお会いするのは初めてでしたね」
 檻から離脱し、視覚を取り戻したイーリンに相対する見目麗しき男性。
 シンデレラを護り抜く騎士の姿は、彼女の知っているトールではなかった。
「あの時、輝きたいと願う僕を支えて下さったから、こうして本当の姿を取り戻せたんですよ。
 改めて、宜しくお願いします」
 言葉と共に向けられる笑顔に、思わず恥じらいがこみ上げてしまうイーリン。
「え、ええ。今後とも宜しくね……? ところで、過去の貴方にもまた会えるのかしら?」
 それを隠すため、イタズラ心に聞いてみる。
「女装ですよね……希望があれば」
 これにはトールも照れ笑い。
(あー……。ふふっ。その顔、やっと実感できたわ)
「行きましょう! 僕の人生を変えてくれた貴方へ感謝を示すために。命を賭けて戦います!」
 長きに渡る苦悩を乗り越えた姫から王子へと生まれ変わった一人の少年。
 彼が心に宿した大いなる希望は、霊樹の枝と結びつき彼の不幸とも言えるギフトと共に絶望を押さえ込む。
 それは彼が騎乗する白馬『カヴァス』にも及び。
「ええ、行くわよトール!」
 真実を知った司書にも希望を伝えた。

●救生の輝きⅣ
「まるでフィクションですね」
 瑠璃は近づく魔法陣を観察しながらそんな事を考えていた。
 元々彼女がいた世界でも創作というのは普通に存在してするものであるし。
 そもこの混沌世界こそ様々な常識が混ざり合い、奇々怪々が蠢くカオスの権化だ。
 この程度の現象にいちいち驚くようでは、驚嘆という感情の在庫はあっという間に底を尽いてしまうのだが。
「光の雫が零れ落ちて、徐々に形を成し、獣を産み落とす」
 そこにあるのは驚愕というよりある種の感動だ。
 絶望が降り注ぐ様だというのに。
 神託の元となるありがたいお言葉の主。
 その誰のものとも知らぬ望みを叶えるために、輝きは地上を満たさんと進んで行く。
「悪人も幸福になっていい。ですが……」
 他人を不幸にしていいとは思えない。
「名も姿も見えぬあなた。機会が来れば聞いてあげますよ。
 あなたがこうまでして為したかったことを」
 だから今は手を出し阻もう。
 機会(遺言)をもたらすために。
「妖術……影鰐」
 瑠璃が結んだ印。そこから這い出す巨大な顎が光の雫を飲み干していく。
『またわっちの邪魔をするのかい。矮小な蛆の分際で』
 穴の奥から聞こえる声。
 絶望の雨が止む。
「瑠璃さん、そこから離れろ!」
 次に届くのはスピーカーボム。
 投げたイズマは先程の声に主を把握した。
 声を受けた瑠璃はまずは距離を取るべく動き出した。
『ふん。言ったでしょうや? この借りはいずれ、と』
 穴からは再び雫。
 けれどそれは、とても大きな丸い球。
『返しにきたから、受け取りなさいな』
 絶望が、爆ぜる。
 魔力の流線が、空を薙ぐ。

●奏でる音色Ⅴ
 各所での救助活動は順調に進行した。
 それは当然その役目を遂行した者達の手柄である。
 だが同じくらい重要な役割を持つのが、巨大終焉獣を抑えるという戦いの行方だ。
 しかも終焉獣そのものと空から降り注ぐ小型終焉獣による囲み攻撃は邪悪で。
 三人は可能性の炎を燃やしそこを守っていた。
「まけない、わ……!」
 奏でられる希望は途切れ途切れ。
 それでもレイリーは立つ。
「どんな時でも希望の夢を魅せるのが……偶像(アイドル)の誇りよ……!」
「あ、ああ……」
「オレ達のSoulだってまだ消えちゃいねぇゾ……!」
 首が繋がり、心臓が動けばそれは魂が生きている証。
 ヴァレーリヤへの回復を続ける。
「ありがとうございます、ですわ……!」
 厳しい戦いが続く中、彼女は左腕から垂れる終焉の雫に着目していた。
(高所は攻撃しづらいですけど、あそこなら……)
 狙いを定め、再び神の炎をその身に宿す。
「オオオッ!」
「これを最後の一曲にしてみせるわ……『スプリング・ドラッヘ』!」
「『終点(Power off)まで、Pandora kick off!』」
 アイドルとDJが希望の火を灯す。
「大地! レイリーさん達! 遅くなってすまねぇ、おいらも続くぜ!」
 青薔薇の鐘が、癒しが届き。
「レイリー、あんたの歌……バッチリ聞こえたわよ!」
「騎兵の戦いがどんなもんか。あたしの刃で教えてやる!」
 弱き群れから生じた縁は確固たる絆。
「くっ、リオン。少しここで休んでいてくれ。瑠璃さんも大丈夫か?」
「え、ええ。まさかあんな魔力で撃ち落とされるとは思いませんでした。イズマさんは?」
「俺達もかなり削られてしまったが、まだあれが残ってる。戦うさ」
 鋼の意志が鼓を叩けば。
「慣れないことはもうこりごりなんですけど……でも」
 自立した個に笑みをもたらされ。
「ここまで耐えてくれてありがとうございます。おかげで商隊は全員無事救出できました。
 あとはこの存在に希望の光を見せつけましょう! 」
 願いを勝ち取るオーロラの光が最大に煌めく。
「みんな……」
 レイリーの予感通り。
 圧倒的苦難の前に、可能性(なかま)は集ったのだ。
 ならば歌い続けるのみ!
「道は私が見つけるわ。あとはその力、存分に振るって頂戴!」
「待ってたぜ! まずはあたしが突っ込む!」
「僕も行きます!」
「オーケー、ついてきな!」
 イーリンの指揮の下、エレンシアとトール。
 新たな騎兵の戦い方を予想させる先陣が走り出す。
「聞こえるか? 檻の外から奏でられる音色が。
 境界の果てにも見せただろう? どこでだって、俺達は勝利という可能性を掴み取る!」
 イズマの奏でる音は、波となって行く手を塞ぐ小さな獣達を一気に押し流す。
「おいらの音色も持って行け!」
「希望に向かってSo straight!」
「……足元狙ってソウルストライク」
 誰にも聞こえぬ小さな声は死に残す言葉ではなく生を導く呪文の響き。
 終焉獣が揺らぐ。
「これがあたしの全力だ!」
「なら僕も、僕の積み上げてきた太刀で希望を結びます!」
 紅き大太刀と輝剣が最後の獣を排除した。
「今です!」
「ヴァレーリヤ!」
「主よ、天の王よ。この炎をもて彼らの罪を許し、その魂に安息を。どうか我らを憐れみ給え……!」
 その炎はまるで太陽。
 煮え立つコロナが雫の根源を灼いた。

 ――くっ。ここらが潮時かい。
 刹那、終焉獣は穴へと引き上げられる。

 こうして絶望の檻は消え。
 残ったのは勝利への歓喜という希望の音色。

成否

成功

MVP

フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊

状態異常

なし

あとがき

冒険お疲れ様でした!

幻想決戦ということでしたので、皆様にもなじみ深いであろう土地。
どういった敵ならば皆様の気合いが入りやすかろうか、と考えた結果こうなりました。
流石に絶海や最強には劣りますが中々に物理的意味で強大な相手。
しかしそれに臆する事無く、希望すら与える勇ましい皆様。
時代は違えど、幻想の民やキャラバンの人達には『勇者』に思えた事でしょう!
それぞれのらしさとお話への向き合い方がベストマッチした、決戦に相応しいプレイングの数々でございました!
※中でも今回大地さんからはSo HotなSoulを頂戴しましたので、Hostとしてできる限りのものをお返ししております。
 やりすぎでしたらすみません。
 あとヴァレーリヤさんはかなりチンパンジーのイラストを参照しております。
 そちらもやりすぎでしたらすみません。

全てのお話がそうだと思いますが、参加して下さったPCの皆様全員の協力があってこその成功です。
誰一人この中に欠けて良い存在はなく、劣っていたということもありません。
その上で。
今回は人々に希望を与えるため、敢えて自身の苦手という絶望に挑み戦われた貴方へMVPを。
(この理由で言うと、残念ながらここにはいらっしゃらない事となってしまった愛の片割れ様が影のMVPかも知れませんね)

それでは、またどこかでお会いできることを願いまして。
ご参加ありがとうございました!

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