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シナリオ詳細

<グレート・カタストロフ>猛る固城の眠り姫

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●眠り子よ、今何処に。
「別の階に現れたって?」
 塔を駆け上がりながら、声が進む。
 彼らの脚の速度に必死に合わせながら、鉄帝の軍人、バラッドは彼女に応えた。
「あぁ、この先だ。昇りながら言うのも何だが」
 返答を受けて、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は眉を寄せる。
 この塔に足を踏み入れれば、思い起こす姿はまだ記憶に新しい方だろう。
 緑色の髪。白のワンピース。
 不毀の軍勢と言われなければ。向こうから攻撃を仕掛けて来なければ迷い込んだ少女のような容姿。
「あの時は逃げてっちゃったけど」
 『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)は言いながら二人の後に続く。
 籠の中で微睡む少女。
 不毀の軍勢、リアム。
 前に相対した時には、彼女の特性も有ってか然程脅威では無かった。
 手間は掛けさせてくれたが……。
 共に塔の上階へと臨む『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)、そして『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)。
 並びに『メカモスカ』ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)の対応も有っての勝利。
 確かに些か面倒では有ったが、それでも素直な敵だと言えばそうかもしれない。
 何と言っても、起こさないようにすれば一方的に展開を持ち運べたからだ。
「それで、今は?」
 イズマは、確実に前に進んではいる事を確認しながらバラッドに問うた。
 今の所この塔内がループしている可能性は少ない。だが各階層や判明していない事も多い。断言は出来ない。
「先行していた俺の部隊が様子を探ってる。まぁ、この前の事も有るからな」
 対策は充分だ、とバラッドは自信を持って答えた。
 対策、要は力を使った彼女が眠りに落ちたのを見計らって眠らせ続ければ良い。
 眠らせる方法は至ってシンプル。
 いや、シンプルと言えば語弊が有るか。『何でも良い』のだ。
 こちらが、リアムを眠らせるという意思を持ってその行為に臨めば手段は関係してこない。
「またバラッド君の声を聞かせて貰えるのかな?」
 ルブラットは「勘弁してくれ」と顔を歪ませるバラッドに言いながら、自分の懐に入った睡眠薬にも意識を向けた。
 この前はそれに加え、子守唄という方法で対処している。
 封じ込めさえすれば、リアムがどれだけ驚異的な力を持っていようが支障は少ない。
 まだ、その力を目の当たりにしたイレギュラーズは居ない。
「……何じゃ……?」
 だが、それはリアムがどれだけの力を秘めているのか判断しかねる、という事にもなる。
 ビスコッティが疑問符を投げたのは、向かっている最中に階上から地響きのような揺れを感じたからだ。
 誰かが戦闘をしている。
 もしくは襲われている?
 それにしても今の揺れ、まるで恐竜か何かが暴れ出したような振動。
「……こっちだ!」
 嫌な予感を察知したか、顔に陰りを見せてバラッドは皆の前へと出た。
 この先に居るであろう、微睡み姫に向かって。

●やられたら、やっぱりね!
 その少女は、ご満悦な笑みを浮かべていた。
 その少女は、中央に生えた木々の上に立っていた。
 開きっぱなしのその階層の入り口。
 緑色の髪に青い瞳、部屋の中央で腕組みをしている少女を見つけ、バラッドを含む六人はすぐに入り口手前で左右に分かれて身を隠した。
「起きてるじゃない」
「起きてるね」
 美咲とヒィロは壁に背を預けたまま中を覗きながら状況を確認する。
 対策はしてきた、と言っていたバラッドの部隊が既に交戦に入っている。
 部屋の中央にリアム。その周囲を囲む三体のゴーレム。
「この前と同じ布陣だな」
 イズマは率直に感想を述べる。
 部屋の内装もほとんど変わりない。
 遺跡のような古びた石造りの部屋の中央に、神秘的に思える木々が小さく円状に広がっている。
 リアムはその木々の空間の真ん中に、その空間を三角形に守護するように三体のゴーレム。
 言葉に続くのはビスコッティ。
「じゃけど、この前より一回り位でかいぞ?」
 成程、リアムもリアムで対策をして来た、という訳か。
 あれならそうそう簡単には中央に入り込めない。
 今度は、扉に謎の穴もゴーレムに宝玉も入っていない。
 つまり、この階層はリアムとの単純な力勝負になりそうだ。
 それを防ぐ為の巨大ゴーレム。前と違うのは大きさだけではなく、三体ともがクリスタルのような物質で構成されている事。
「あぁ……! ローレットが来るまでちょっと待っとけって言ったのに……!」
 彼女を容姿で侮ったか。
 それとも先の戦場での報告を受け、自分達でも何とかなりそうだと思ったのか。
 部隊が彼女に突っ込んで行く。まずは、到達するまでに障害となるゴーレムへと。
「止める?」
 美咲が問う。バラッドは頭を横に振った。
「いや……今から続くともしもの反撃で巻き込まれる」
 一度様子を伺うしかない。
 今直ぐに突入したい者も居るかもしれないが、堪える時だ。
 と、口元に手を当てたルブラットは何か違和感を感じた。
「……起きたまま、だ」
 前は割と早くに眠りに落ちていた。
 交戦状態に入ってからどれくらい経っている。数分か? たった今か?
 もし前者だったとしたら、それはバラッドの予想通り……。
『吹、き、飛、べえぇぇぇえ!!』
 リアムが咆哮した。
 美咲やヒィロとそう変わりない小さな身体から放たれる、目一杯の魔力の放出。
 階層が、光に包まれる。
 一瞬遅れてやって来る衝撃波は、隠れているイレギュラーズ達の元まで響き渡った。
「……この威力……!」
 石造りの階層が激震する。
 自然そのままの形状を模した荒い天井が、音を立てて崩れいく。
 尚も不思議と壊れる気配の無い塔の一階層で、その少女は。
「ふふん!」
 やはりご満悦な顔して、言葉通りに壁に叩き付けられた部隊の真ん中で仁王立ちしていた。
「眠った分だけ強くなる! 私の魔術、『スリィ・ピース』!」
 その言葉に応える者は居ない。
 静まり返った部屋の中でリアムはそれに気が付くと、木々の下に造られた、鳥の巣のように小枝を集めた小さな揺り籠の中に背中から倒れ込んだ。
「……つまんない」
 やっぱり普通の人間じゃ物足りない。
 誰も彼もすぐに沈んでしまう。
 別に強敵と戦いたい訳じゃないんだけど。
 なかったと、思うんだけど。
 リアムが思い出すのは撤退を余儀なくされたあの顔ぶれ。
 全身鎧の騎士みたいな人と、色白銀髪の女の子。
 そして青髪で赤目の、綺麗な音を奏でていた義手義足の男。あの声に微睡んでしまった。
 妙ちくりんな仮面を被っていた灰色髪の人。あの時、眠りの狭間で良い香りがしたのは多分あの人だ。
 水色髪の人も居た。声は最初にちょこっと聞いただけだけど、ずっと頭の中に響いてた唄声の人だと思う。
 それから、狐耳の女の人。もし彼女が私の力に耐えられるなら、ちょっとお喋りしてみたい。
 そして、私に包丁を投げつけてきた、黒長髪のあの女。
 最後に言われた言葉がまだ頭に残っている。
『かわいそーだから見逃してあげる』
 見逃してあげる?
 良いよ。良いじゃん。上等よ。
 別に戦いが好きな性分じゃないけれど。
「もう一回会ったら、絶対ぶっ飛ばしてやる」
 リアムは寝転んだまま両手を宙に伸ばし、強く強く拳を握り締めた。
「どっからでも、皆まとめて掛かって来おい!!」
 リアムは宙に叫ぶ。
 今度来たらまず一発。
 何よりも先に、眠たくなる前に叩き込む。
 でも、その前に。
「ふあぁ……あ、誰か来る前に起こしといてぇ……あと……そこに転がってるの全部外に投げ出しといて……」
 ゴーレムにそう告げた彼女は、伸びをしてから目を閉じた。
「来たら……一撃……お見舞いしてやるから……」
 階層が、また静かになる。
「……今がチャンスっぽいけど」
 ヒィロがバラッドに伺った。
 彼の顔を見れば、乗り気ではない事は明らかだった。
「……俺の部隊……今からこっちに放り投げられるんだろ? ちょっと回収手伝ってくれ……」

GMコメント

リベンジ戦です。どちらかと言うとリアム側の。
力勝負といきましょう。

●目標
クリスタルゴーレム三体、『不毀の軍勢』リアムの撃破。

●敵情報(計4体)
・クリスタルゴーレム×3
リアムの居る中央を護るように、三角形の布陣で守護しているゴーレム。
全身がクリスタルで構成されている。
前に戦った時より更に体格が大きく、何人たりとも中央には通すまいとイレギュラーズの進路を妨害する。
その大きさからして、一体でイレギュラーズを一度に二人分は塞き止めてしまうだろう。
攻撃方法は殴る、両腕を振り回すなどの単調ではあるが、このゴーレム達はリアムによって以下の命令を受けている。

『ウェイクアップ』
……リアムが眠った3ターン後、地面を両手で叩き、振動でリアムの目を覚まさせる。
  この行動は3体のゴーレム全てが使用する可能性が有り、ゴーレムに近い者はこの振動で【体勢不利】になる可能性が有る。
これはこの詳細欄にて詳しく開示された行動だが、イレギュラーズ達はこの事をPC情報として知っていて良い。
対処していたバラッド(OP中のNPC)が教えてくれてます。
ですので、対処方法が有ればプレイングに書くのも問題無いです。大丈夫です。

・『不毀の軍勢』リアム
緑の髪、青い瞳、白のワンピースを着た少女のような外見。
今回は開幕から起きている。
イレギュラーズが目の前に現れると、リアムは真っ先に攻撃を仕掛けてくるだろう。
第一波を凌げるかどうかが一つの鬼門になると思われる。
尚、イレギュラーズ達の戦闘場所への登場の仕方(リアムとの対面)にもよるが、最初に現れたイレギュラーズの数が二人以下ならどちらかに向けて単体遠距離砲撃、三人以上なら域の範囲に及ぶ範囲攻撃となる。

彼女の攻撃は声と共に放たれる単純な魔力の放出。
だが単純ながらにその威力は計り知れない。
方法は単体【自・貫】と広範囲【自・域】の二種類。
単体は魔力の砲撃、範囲は魔力の拡散衝撃波で、肉弾戦は無いと見て良い。
単体か範囲か一応の見分け方が有り、誰かに向かって両手で照準を合わせる動作をしたら単体攻撃。
眠っている間に攻撃を受けたら即座に目覚め、そのターンの最後に上記どちらかの攻撃を放ちます。

彼女が誇る自身の魔術、その名前を『スリィ・ピース』。
魔術の名前は自分でつけたらしい。
眠っていた分の間だけ自分の攻撃力が増していく。
最大火力は5ターン後。

リアムは初撃を終えたターンの最後に力を使い果たして眠りにつく。
その次のターンからを1ターン目と数え、3ターン目に先述したゴーレムの行動によって目覚めると、敵味方を含む一番最後にまた攻撃する。
ここで起きられなければ、5ターン目に自分で起床して同じタイミングで攻撃します。
攻撃後、睡眠と攻撃が同じ間隔で繰り返されます。

備考として、『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)さんが視界内に居れば優先的に狙われます。
割と根に持ってる。
因みにいつも眠っているのはただのリアムの体質です。
前シナリオ『少女は籠に微睡んで』の睡眠導入も有効。
出来そうならやってみても大丈夫ですが、途中で起きる可能性も有ります。

●ロケーション・敵の行動
鉄帝『コロッセウム=ドムス・アウレア』内部。
先日戦った場所よりは上の階層。
内部は先日と似たような場所であり、四角形に縁取る石造りの遺跡のような部屋の中。
中央には木々の生えた小さな丸い空間、その中にリアムは位置している。
木々の空間の周りを三体のクリスタルゴーレムが囲っており、先日の布陣を彷彿とさせる。
どうやら完全なリベンジを果たしたいようだ。

イレギュラーズ達が現場に着くと、既に起きているリアムと対面する事になる。
リアムは攻撃範囲に入ったと見るや否やで初撃を仕掛けてくるので、何とか凌いで頂きたい。
今回はバラッドは同行しないので、イレギュラーズ達のみの戦いとなる。
また、変わった扉なども無い。今回は純粋にどちらが勝つかの戦闘だ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <グレート・カタストロフ>猛る固城の眠り姫Lv:40以上完了
  • GM名夜影 鈴
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年01月28日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
シラス(p3p004421)
超える者
エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)
流星と並び立つ赤き備
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)
メカモスカ

リプレイ


 微睡みから目覚めた少女は入り口の気配を感じた。
 緑色の髪の下で悪戯子供が笑うが如く、大きく口角を吊り上げる。
 居るのは誰? 早く入って来なよ。
(解った。警戒してるんでしょ)
 実のところ、これは少女の勝手な勘違いだ。
 待ちきれないという感情は、ありったけの御馳走の匂いを嗅ぎながらテーブルに着く。それに似ている気がした。
 少女はまだこの感情を知らない。
(……二人!)
 少女はそれを頭で理解しようなどとは、これっぽっちも考えていなかった。
 地面を蹴る音。少女の角膜が左右に動く。部屋に駆け込んだのは、黒と金の髪。
 少女は即座に両手を上げる。両手の親指と人差し指を合わせて作った三角形の中に捉えた標準。
 『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)。
「喰らえッ!!」
 掌から放たれた極大の光線が部屋を光で包み込む。
 直線上の美咲が己の倍はあろうかという光を眼前に。
 その直線を経て、光線は真後ろの石造りの壁に容易く巨大な穴を開けた。
 衝撃で発生した土煙の中に二人の姿が飲み込まれる。
 当たったか。外れたか。アイツはどっちだ。狐耳の女の子が庇うように咄嗟にアイツの側に跳んだのは見えた。
「今のが、か。確かに当たるとマズいな」
 煙の中から全く聞き覚えの無い男の声。
 黒い影が段々と形を成す。『竜剣』シラス(p3p004421)は煙を払って前へ出た。
「当たると、だろ?」
 もう一つ、少女は知らない声を耳にする。
 煙から現れたのは黒髪ツインテールの女性。
 『騎兵の先立つ紅き備』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は、少女より先にその周囲に佇む鉱石の人形に目を向ける。
「ゴーレムが御守りたぁ、こいつは中々どうして……めんどくせぇな」
 纏う精神は赤備え。
 そうして見れば、煙の中に燻る影はそれだけではないと少女は知った。
「今ので回復が必要な人は?」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が手に淡い光を宿しながら皆へ問う。
「居ないようだ」
 と返って来た『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)の声を聞き、ヨゾラは一度その光を収めた。
「美咲君に集中した分、こちらの被害も抑えられたようだね」
(仮面の人!)
 少女の瞳孔が開く。
 今日も一緒に来てるんだ。なら……。
「久し振りじゃのう、美しいお主よ」
 居た。水色髪の人。
 けど。あれ?
(オヌシァー!!)
 腕を組んで目線を逸らした少女に、『メカモスカ』ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)はフェイスカバーを引っ切り無しに往復させて怒りを表明した。
 まさか、まさかだ。この前あれ程あやしてやったというのに、この女子は。
「……何か、顔と唄声が一致しない」
「ゆ゙る゙ざん!」
「今度は起きて戦うんだな?」
 立て続けに掛けられた声に、少女は逸らした視線を元の位置に戻した。
 袖から見えた鉄の右手。彼の赤と彼女の青の目が交錯する。
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は、綺麗な高音を奏でながら魔導の細い剣を鞘から抜いた。
 音が、イズマの身体を向上させる。
「再戦を望むなら受けて立とう」
「ふふん、何だったらずっと起きててあげよっか」
 やがて、晴れていく煙の中でまた影が揺らめいた。
 増えた足音に耳を傾ければ、それは別に九人目が現れた訳ではないと悟る。
「へー、結構強いじゃん」
 立ち昇る煙の中心から『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)が姿を見せる。
「でも、目線も仕草もターゲットがバレバレ。美咲さんを傷付けようだなんて百年早いんだよ!」
 こっちは躱されてたか。まぁ、元々狙ったのはもう片方だ。
 そしてその傍らから平然と出て来た人物に対して。
「何で?」
 と少女は問うた。
 問うたは良いが、少女の瞳が喜と楽の期待に大きく膨らむ。
 あれを受けてそんな澄ましてられる筈がない。
 当然、彼女は真正面から受け切ってなどおらず、それが出来たのは直前のヒィロの行動で矢張り自分へ照準が合わせられたと知った事。そして魔術知識に長け、少女の動作から初手の一撃を看破した洞察力。
 様子見の際に大体のタイミングは把握出来た。
 発声、照準、放出。
 見誤らなければ予測出来た最初の一撃。
「気を付けて。あれ、喰らったら強化魔術とか全部引っぺがされる類のヤツよ」
 自身はまだ第四の壁の先へ干渉出来る事を確認して、彼女はそこから更に身体の逸脱を図り皆へ告げる。
 加えて今の光線。目の前のクリスタルゴーレムごと撃ってきた。
 つまり少女の魔術、あれは……。
(対象の識別も出来る……って事か)
 であれば先の軍隊との衝突時にも、周囲のゴーレム達への影響が見られなかったのも頷ける。
 そうして顔を上げると彼女は煙を振り払うように、その場で包丁を横に薙いだ。
 その顔は一番良く覚えている。
 黒い長髪。手に持った包丁。それを壊したくて、私の方が強いと思わせたくて。
 やっと、『少女』はじっくりと彼女に視線をぶつけたのだ。
 どれくらいだろう。『私』がハッキリとこう言えるのは。相互に意識した敵とぶつかるのは。
「先日は名乗らなかったわね。私は美咲。貴女の敵よ」
 あっ、そう。まずは自己紹介? 随分と余裕じゃんか。
 じゃあ私も教えてあげる。
「リアム」
 背中から、視線もそのまま天井に向けて、言葉を朧気にしながらその少女は自分の巣へ倒れ込んだ。
「不毀の軍勢……リアム……」


 リアムを三角の陣形で囲う睡眠の守護者。
 右の眼前に対峙したのはシラス。
 さて、見るからに堅牢だ。あれに手を焼かれれば、先の大火力が再び来る。
「意地悪を思いついたぜ」
 シラスの口元が微かに上がる。
 己から重力の制限を失くすと、繰り出すのは不可視の糸。
 多少抵抗が有るが、これなら。
 シラスはその糸を強引に手繰り寄せ、絡ませたクリスタルゴーレムごと自身の元に。
 空いた三角の布陣、右の隙間からルブラットが中央へと接近。
 通り抜け様にシラスが寄せたゴーレムへ手刀の斬撃を放ち、その身に血潮を流すべくリアムへ闇色の刃を振りかざす。
「うっ!?」
 たった今眠りに落ちたばかりの少女の、半開きの目が不思議そうに揺れている。
 美咲と共に中央からゴーレムへ向かうのはヒィロ。
 ヒィロがゴーレムの周囲で攪乱、それに気を取られれば美咲が雷の速度に乗ってゴーレムへすれ違いに斬り込み、区域のより外側へ。
 ゴーレム越しにリアムが起きた事を目にしたヒィロが、挑発に熱い視線と指を向ける。
 が、起き抜けであった為だろうか。定まっていない彼女の視線は、ぼんやりと只そちらを見るばかりだ。
 起きた事を確認した美咲は雷撃の速度を維持して後方へ、次いでヒィロもゴーレムを足蹴に後宙して美咲の隣へ離脱する。
 その左側で構えるエレンシア。見据えるのは行く手を阻む鉱石の巨体。
「綺麗な置物だったら良かったんだがな。まあ邪魔な以上は破壊あるのみだぜ」
 赤備えとは紅き焔。
 紅く染めるは自身の衣装と。
「行くぜッ!」
 相手の血飛沫。
 クリスタルゴーレムからそれは流れないだろうが、破壊には相違無い。
 地面からは常に両足を離した状態。これは恐らく眼前への対策。
 そして華奢な体躯からはとても想定出来ぬ、その膂力を持って滅刀がゴーレムを薙ぎ払う。払った返し手でもう一撃閃。
 続き、イズマが奏でる蹂躙の旋律。
 発する音は闘志の波に。その波は兵士の軍勢となり、ゴーレムとリアムを襲撃する。
 ヨゾラは味方全体を自身の射程範囲内に収める、中央やや後方に。
 流れる楽曲はその場の皆の耳に届き、治癒の力を促進させた。
「どけそこのゴーレム共!」
 穿つ、ビスコッティの打拳がゴーレムの腹部に叩き込まれる。
「我はリアムに用がある!」
 こちらはこちらで思っていたより相当な怒り。
 それをそのままゴーレムへと押し付けて、中央へ至るまでの道をこじ開ける。
 その怒りの相手は、二度の攻撃によりルブラットの眼前で。
「今度は、寝かせてくれないんだ」
 覚醒、した。
 リアムが息を吸い込む。
 こんなに早く起こされるのは想定外だ。美咲はちょっと遠いね、目の前にも仮面の人が居るし。それなら。
 リアムの息が、魔力が。
 空気を振動させる。
 確かに私の魔術は溜めれば強い。
 ――でも、溜めなかったら弱いとでも?
「纏めてぇ……! 吹っ、飛べ!」
 一瞬の静寂。
 後、空気の振動が破壊を帯び、リアムを中心に周囲へ拡散する。
 一番後方に居たヨゾラは見た。
 間一髪、最も近い位置にいたルブラットが身を屈めて回避。と同時に射出した魔弾がリアムを掠め。
 範囲外近く、爆煙の境界線から美咲とヒィロ、シラスが抜けて出る。
 範囲外へと避ける事を念頭に動いた者は多かったろうが、問題はゴーレムの位置とその鈍重さ。
 リアムを護る布陣上、奴らは中央近くに位置する。先手で攻撃を中心に加えに行った者が悉く魔力の嵐に飲まれたのだ。
「たった十秒位でこれか……!」
 衝撃に耐えるも、口からは血を流してイズマの顔が歪む。
 同じく弾かれたビスコッティの身体は、既に自己修復を始めている。だが間に合うか。
 その中に在りながら、エレンシアは両手剣の腹を見せて構えはしているが痛手は負っていないように見える。
 リアムは、ようやくヒィロの挑発に応えるように両手を腰に当て、たっぷり笑い顔を見せつけた。
「舐めんな!」
 但し、視線の先には相変わらず彼女を捉えて。


「強力な魔術に強力な敵……それでも、誰も倒れさせないよ!」
 ヨゾラの回復術が止めどなく起動している。
 少し、いや想定より攻撃に回れていない。
 イズマの派手な音楽機材から鳴る音が、更にリアムの覚醒を速める。
「気分が高まる一曲、どうかな!」
 リアムを起こし続ける。確かに有効かもしれない。
「もう! 全然寝かせてくんないじゃん!」
「適度に体を動かすことも大事だ。そう、今みたいにね……よく出来てるよ」
 ただ、このままでは先にこちら側が消耗してしまう。身が持たない。
 たった数回の目覚めでもその考えに至ったルブラットは一旦リアムへの手を止め、暗器を指で回して対象をゴーレムへと切り替える。
「眠った!」
「態勢、立て直すよ!」
 俯瞰からリアムの、本来は予備動作を探っていたイズマが気付き、美咲がその間に起こさないよう皆へ伝達。
 美咲の声でヨゾラに合わせ、すぐにビスコッティも対応に入る。
『――眠れ、猛き愛子よ』
 ビスコッティが目を閉じ、歌を紡ぐ。
「薔薇の天蓋の下、三つの平和の中で」
 それは前にも見せた手段。
「父と、母と、私の名前に」
 ただ、紡がれる言の葉は少々中身を変えて。
「眠れ、今はいと安けく」
 幸いだったのは、拡散攻撃はそう何度も仕掛けて来なかった事。
 目覚めの先に美咲が居れば、そちらへの攻撃が攻撃頻度が高かった事。
 そしてその美咲は、ヒィロ以外の仲間とは距離を取っていた事。
「完全なランダムじゃなさそうだ」
 ゴーレムからの傷跡を爆発的な治癒力で塞いだシラスは、攻撃から避ける素振りのままに真後ろ、エレンシアが相手取るゴーレムへと魔力の一撃を叩き込む。
「予測出来るってか?」
 ゴーレムの頭上へ滅刀を振り下ろしエレンシアは問う。
「完璧にって訳じゃない。放出直前の動きなら、多少判別出来るが」
 自然起床かゴーレムに起こされた時の眼前、射程圏内に美咲が居ればほぼ必ずそちらに。
 その代わり、他の者が間近でリアムを起こすなら。
 魔力の拡散で周囲ごと薙ぎ払う。もしくは仕掛けて来た者に対して貫通砲撃の手を構え、奥に居る美咲ごと直線に捉えるように動き。
「美咲さん!」
 放ちたかった、のだが。
 丁度良い位置に居るヒィロが邪魔をする。
 ヒィロ自身は攻撃から容易く身を翻す上、段々とゴーレムの周囲を駆ける姿が目に追えなくなってきている。
「アハッ! 攻撃は力任せだけど、なかなか強いヤツだね」
 しかも美咲を狙って撃つ度に横のヒィロが。
「……フッ」
(また……鼻で笑われた!)
 何か、ちょっと、自分の顔が紅潮しているような気がしたが、狙いは飽くまで変わらない。
 ゴーレムの真上で逆さに立ったヒィロが、完全にゴーレムの動きを掌握して前宙、着地したヒィロと起き抜けのリアムの。
 視線が、合わさった。
「踊った分だけ強くなる! ボクの魔術、『ラスト・ダンス』!」
「真似、しないでよッ!」
 この時ばかりは掌もヒィロに合わせ、しかしその砲撃も余裕を持って躱される。
 次こそは、と唇を噛み締めながら眠りにつくリアムがやけに傷付いていたのは、ここまでも重ねられ続けたルブラットの攻撃の余韻が響いているからだろう。
「おぉッ……!」
 エレンシアの両手剣がクリスタルゴーレムの横っ腹にめり込む。
 攻撃はやや大振り、ゴーレム相手に時たま剣閃を外してもいる。
 だが、当たれば。
「らぁッ!!」
 その一撃は、ゴーレムの固い身体を物ともしない。
 胴斬りにした横で、シラスは次のゴーレムを見遣りながら背に当たった人物に振り返らず口を開く。
「この前の鐘よりは脆そうだ」
「あぁ、あれは……」
 背中合わせにイズマが思い出すのは、いつかの鳴り続けていた煩悩祓いの鐘の音か。
「確かに、これより硬かった!」
 息を整えたシラスが放つ、魔力の拳、その連撃。
 ルブラットが速攻性の睡眠薬で緊急的にリアムを眠りに誘う中、その連撃は瞬く間にゴーレムの身体に罅を入れ一気に破壊まで到達する。
「――『共に』窓に訪い来るまで」
 ビスコッティが最後の節を歌い切ると同時に、ヨゾラは全体に向けて呼び掛けた。
「よし、回復は行き届いたよ!」
 直後、リアムは再び目を覚ます。
『態勢、立て直すよ!』
 美咲の声が聞こえたからだ。
 起床したリアムが即座に狙いを定める。そして放つ。
 特大の、魔力砲撃。
 美咲の姿が光の中に飲み込まれる。やった、当たった!
 その直後にリアムは見た。
 すぐ隣でヒィロの挑発に合わせ、クリスタルゴーレムを斬りに斬り分けた美咲が何ともない顔で地面に着地する姿を。
「何で!?」
 と、今度こそリアムは動揺した。
 視線を戻す。光の中に薄れ行くのは、美咲の形と声の幻影。
「……録ってたの?」
 美咲がイズマに問う。姿まで完璧に再現できたのは、近くでずっと見ていたからだ。
 頷いたイズマは後ろの巨大な穴を振り返る。
「素晴らしい破壊力だな。だがまだだ、踏ん張るぞ!」
 楽しい。
 ――楽しい。楽しい!
 リアムと正面、美咲は向き合った。
「さ、次は? 結構見せたし、対処できるよね?」
 こんなにも戦えるのか、手段が有るのか! イレギュラーズ!
「お前さんとは初対面だし、なんら恨みも因縁もねぇが……まあ強い相手と戦いたいってーのはアタシもそうだからな!」
 肩に担いだ両手剣を向け、エレンシアは名乗りを上げた。
「アタシは赤備・エレンシア=レスティーユ。まあ覚えられんかったら別に覚えなくていいぜ」
 そしてここに来て、改めて顔を突き合わせてビスコッティも続く。
「我が名はビスコ。これから生まれゆく勇気に寄り添う者なれば。聞こう、お主の名を」
「私は、リアム」
 ゆっくりと、彼女は返す。
「不毀の軍勢なんて関係ない! 私はリアム!」
 眠りかけの頬を無理矢理抓って言い切った。
「アンタ達の敵だっ!!」
 魔力の咆哮が場を包む。
 中で、シラスの不可視糸がリアムに巻き付いた。
 肉弾戦は見られなかったが、何という膂力。
 代わりに自身の身体をリアムへ手繰り寄せ、シラスは魔力を込めた拳を放つ。
 波状で仕掛けるルブラットの斬手、斬り結ぶ中で見せるのは、一発の銃弾。そして跳躍。
 同時に飛び込んだのはエレンシア。枯れかけた気力の代わり、滅刀の一閃は彼女の血肉より生み出される。
「恨みはないけど……勝つのはこっちだからね!」
 追撃するのはヨゾラの零距離魔術。
 夜星が輝くが如く、己の身体を瞬かせて彼女を穿つ。
 イズマの細剣は袈裟斬りにリアムの身体に線を走らせ、次いで到達したのは遠当ての。
 ビスコッティの必中毒。
 そして見た。ヒィロが得意気に人差し指で煽る様を。
 挑発だ。解ってる。でも乗った!
 対峙したリアムは、美咲の瞳に虹を見た。
 対象に美咲はリアムの周囲を知覚する。
 魔力の繋がり。この世との接点。そして、今も流れ出しているその命の終着点。
 避けようと、リアムは思ったのだ。
 ただ、それは成されなかった。
 ここまでに蓄積した負傷。ルブラットが与えた微小な傷跡の数々。
 足が、崩れた。
 同時に、美咲の包丁はリアムの境界を断ち割いた。
 視界に血が広がる。
 血の向こうにヨゾラの顔が見える。
(リアム……彼女自身に合う魔術を編み出したのはさすが、って思うけど)
 あぁ、これは……私の。
 なぁんだ。折角、面白い奴らに会ったと思ったのに。
 もう、私の負け?
「我は忘れぬ。また起きれば傍に居よう」
「お休みリアムさん、今度は永く眠ってくれ」
 ビスコとイズマの声が聞こえる。
 背中から倒れる身体は眠りからじゃない。
 それはハッキリ理解した。
(お休み、だってさ)
 リアムはエレンシアにシラス、ルブラットの顔を順に見て。
 ヒィロと。
 最期に、美咲の顔に目を向けた。
 起きたらさ、また、やろうよ。
 じゃあね、うん、お休み。
 ――バイバイ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色
ビスコッティ=CON=MOS(p3p010556)[重傷]
メカモスカ

あとがき

大変お待たせ致しました、申し訳ございません!
依頼完了、リアムとの決戦、終幕で御座います。

リアムは当初から前編、後編の構想ではあったのですが、アフターアクション元の依頼後に割とアクションを頂いておりまして、その時に頂いていた方々もお誘いするか! という流れで今回の後半が始まりました。
久々に、いつも以上にリプレイ一章から気合を入れたシナリオとなりましたが、難易度での処理も相まってその分お時間を頂く事になってしまいました。
改めまして、謝罪させて下さい。申し訳ございません。

不毀の軍勢として、というよりリアム個人として歯応えのある戦いを感じられたら幸いで御座います。
戦闘面、実はイレギュラーズの初手攻撃ターンにファンブルスレスレの出目が出たりしてて、私ホントに冷や冷やしながらロールしてました。やっぱり強化付与の恩恵はデカイですね。
ですが、まぁダイス目だけでは結果が出ないのがPBW。リアムは悔しがってますが、私は胸を撫で下ろしてます。
私個人としても、真正面から敵対関係をもったシナリオというのはこれが初めてでしたので、皆様のプレイングにおける感情や台詞に想いを馳せております。
出来れば全部入れたかったのですけどね……!

塔の攻略はこれでまた一段階進む事になるでしょう。
頂上には何が待ち受けてるんでしょうか。
それでは、またの機会にお会い致しましょう!

――お休み、またね。

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