PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Je te veux>八文字のホープ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●reboot
「あ、おきた」
「おきたね」
 二人の子供に見下ろされる形で『【五文字のノイズ】ホワイト』は目を覚ました。
「Hi 私、White Dolly」
「え? なんて?」
「Hi White. How are you?」
 己に登録されている所定の挨拶文が自動で再生してしまった。
「……おほん。失礼、ごきげんよう」
 数度目を瞬かせはするものの、努めて冷静に軌道修正。
「確か私は混沌へ戻ってきて、それから……」
 そのまま記憶の糸を手繰り寄せていく。
 どうしてこうなったのか。
 境界世界で遭遇したイレギュラーズとの戦闘。
 戦いは苛烈を極め、いわゆる痛み分けのような形で終わった。
「なるほど。先の戦いでは思いの他深手を負ってしまったようですね」
 白く澄んだ肌の傷は塞がっているとはいえ、深く割かれた白いロリィタ服は戦闘の苛烈さを物語る。
「森で眠っていたところを見つけたから、連れて来たんだよ」
「そうそう。安全なところにね」
「本来ならば感謝すべきところなのでしょうが。私には貴方達に関する情報がありません。助けた理由も理屈としては不十分です」
 彼女は元々秘宝種だった存在。
 生命維持に睡眠は不要であるが、全ての機能を自動修復へ当てることで迅速な再起を図った。
 それ故人間で例えれば睡眠を取り、寝ぼけた状態となっていたことは認めよう。
 だとしても、自身が運ばれていることに気づかない程機能を切ったつもりはなく。
 気配を感じさせない立ち居振る舞いも、警戒対象と分類するには十分過ぎる理由だった。
「本当はね、願いが聞こえたから助けたんだ」
「願い?」
「そう、願い。ほら、これが必要だよね?」
 二人いた子供のうち、垂れ目の少年がホワイトの眼前に腕を差し出せば。
 開かれた手の平からは僅かな魔力が立ち上り、映像のようにある青年の姿を映し出す。
「これは……」
「きみの願いに相応しいパーツを見つけておいたよ。はい、どうぞ」
「『メウ』が頑張ったんだから、感謝しなよ」
 垂れ目の少年からホワイトへ魔力が注がれる間、釣り目の少年はまるで自分の手柄が如く言う。
「……」
 何もかもが不明。
 けれど自身にとって現状有益であるのは明らか。
「……そうですね、ありがとうございます」
 故に場を荒らさぬための礼を小さく述べ、ホワイトは立ち上がる。
「きみの願いが叶うといいね」
「叶えますとも。彼は、Masterは。……まだ眠る時間ではないのですから」
 決意を胸に秘め、美しき傀儡は歩き出す。
「ねぇメウ」
「なあに」
「あれが、えっと……あれなの?」
「殺戮兵器?」
「それそれ」
「どうかな。ボクには分からないけど」
「そうだよねー。ボクも他の人と大して変わらない気がするから分からないや」
「例え兵器でもそうじゃなくても。願うなら叶えるのがボク達の仕事。それだけだよ」
「うん、分かってるよ」
 子供達は、強く手を握った。

●remain
――Master。私の世界は、あの色褪せた屋敷だけでは、なかったのですね
――そうだよ、ホワイト。君の世界は、広いんだ

 光も香りも、心の高鳴りも。
 貴方の笑顔と共に刻まれている。

――皆気付いてるんだよ、僕の意図に。あ、意図って云うのは僕が死んでも、君が独りでも、寂しくないように、っていうのね
――Masterは、死ぬのですか
――うん。近いうちに、必ず

 これまで見せてくれたものとは違う一面。
 夢も希望も見失った、悲し気な男の子の姿。
 世界に絶望し、それでも世界を見て、私の世界になってくれた貴方に滲む黒い色。

――ホワイト。あの人たちの元へ行きなさい
――なりません
――じゃあ、もう、知らない

 震える足。零れる涙。熱が移る唇。

――あいしてる

 ずっと木霊する言葉。

「Mas……。ブラック」

 この声が聞こえる限り。
 私は貴方の名を呼び続けます。
 貴方の代わりに、欠けた貴方のパーツを集めます。
 だから、どうか。
 私に貴方の想いを。
 ×××××の意味を、教えてください。


●家族の定義
「父上。ただいま戻りました。業務の報告、宜しいですか?」
 ある一室。
 幻想貴族の仕事場にて、齢17の青年『ヴェリタス』が告げる。
「はぁ……。お前は何度言えば分かる?」
 部屋の主は青年を一瞥することもなく、心底呆れた様子で返した。
「……失礼致しました、『アズィナシア卿』」
 言葉を、居住まいを正し。
 子と親ではなく。
 当主とその候補として語る。
「以上から、色欲魔種による被害からの復興にあたっては、石材資源が不足していると判断。
 明日は採石場へ赴き、現場指揮と作業の補助を行います」
「報告ご苦労。下がって良い」
「はっ。失礼致します」
 青年が部屋を後にするのと入れ替わりで、メイド服を着た老齢の従者が訪れる。
「ご当主様。あれではあまりに冷たすぎるのでは?」
 男はその問いかけに答えない。
「いつまで当てつけのようにしているのですか、男らしくもない」
「……余所者が我が家名を継ぐというならば、相応認められる器でなければ困る」
 苦言を呈することが許されるだけ認められてはいても。
 従者の言葉を受け入れるわけにはいかぬという表れであろう。
 語気を強めた男に、従者はそっと息を吐いた。
(ヴェリタス様は不貞を行いアズィナシア家を追放された奥方の生んだ子。
 思うところがでてしまう気持ちも分からなくはないですけれど)
 疑念が生じるまではずっと実の子として愛を持って育てていたはずなのに。
(逆に自身を愛して他所の家から飛び出してきた女性を奥方として迎え。
 その間に生まれた長女『ヴィーナス』様へ、愛の行き先が変わってしまわれた)
 気づけば長男には当主教育という名の迫害を。
 長女へは過度とも言える溺愛を。
 主人の振るう飴と鞭の行方に、事情を知れども従者は手を出す事が出来ずにいた。
「用が済んだなら出ていけ。執務中だ」
「では本題を。ご当主様へお客様です」
「誰だ?」
「『アドリアン卿』の使いだそうで」
「……そうか、今行く」
 アズィナシアはその重い腰をあげ、客間へと急ぐ。
 そこでは、『赤髪』が印象的な青年が待ち受けていた。
「初めましてアズィナシア卿。『ヴェルグリーズ』と申します」
 青年の口元は美しく歪んだ。

●胸に渦巻く炎
 激しい戦いの跡が残るローレットにて、『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)
は情報屋に呼び出されていた。
「ここのところ、妙な依頼が続いていてご迷惑おかけします」
「いや、貴方が謝ることじゃないよ。冠位色欲の王都襲撃にバグホール。
 それに魔種の活動も活発化しているようだし、俺達イレギュラーズの手が必要となる機会が増えるのも当然だと思うよ。
 まぁ、子供達や大切な相棒との約束が先延ばしになっていくのはつらいけどね」
 そうはにかむ青年は実に人間らしく。
 愛する者達を思う故に来る優しさは、うっすらと頬の朱としてにじみ出る。
だからこそ。
 情報屋はこの依頼を伝えることに少々戸惑いを感じていた。
「そう言って頂ければこちらも助かります。ではこちらをご覧下さい」
 手渡された紙、その依頼主の名は聞き覚えがあった。
「アズィナシア卿。会ったことは無いが、確かアドリアン卿が懇意としている貴族の中にそのような家系があったような」
「ええ。その方からの依頼なんですが、変なんです」
「依頼内容は……秘宝種魔種の出現が予測される採石場の警備と、出現した場合の対処。
 この特徴は……ホワイト殿か」
 記載された魔種の特徴から、ヴェルグリーズはこの依頼が自分へ回された意味を察する。
「最終的には魔種を討伐し、コアを持ち帰ってきてほしい、となっているね。
 コアを持ち帰る、という点は奇妙だけれど、他に気になるような何かが?」
「はい。実はこの魔種の出現予測は『ヴェルグリーズ』さんからもたらされたと先方は言っておりまして……」
 またか。
 なぜだ。
 浮かぶ言葉、そして怒り。
 自然と手を握りしめてしまう。
「もしかしたら、罠かもしれません」
「だとしても、俺は行くよ。行かないと」
 脳内で過る炎を振り払い、ヴェルグリーズは前を向く。
「今はかつての主に縛られた彼女の縁を、断たなければならないからね」

●だって家族だもの
「どこにいくのー?」
 どこか気の抜けた声色で『スカイシュ・リリー』がきけば。
「厨房よ。明日お兄様に届けるお弁当作りのお手伝いを頼みに行くの」
 アズィナシア家第二子にして長女『ヴィーナス』が答える。
 彼女によれば、明日兄が仕事で赴く採石場は他の仕事場に比べ屋敷から近いところにあるので、お父様には内緒で兄を労おうという作戦らしい。
「お父様ったらお兄様に厳しすぎますから。だから私はその分優しくしてあげるの」
「ヴィーナ、優しいの」
「当然ですわ。だって愛する家族のためですもの」
 愛する家族への思い、行動。
 何故かは分からないが、リリーの胸に宿る欠けたコアが僅かに熱を帯びたように思えた。
「素敵なの。お兄様、喜ぶといいの」
「リリーも手伝ってよ。あなただってわたしたちの大切な家族なんだから」
「うん、わかったの」


※1分で分かるOP
●1(PL情報)
不思議な子供二人から情報を得て、魔種ホワイトが動き出したぞ!

●2(PL情報)
ホワイトの心の中には大切な人との思い出が溢れてるぞ!

●3(PL情報)
貴族「アズィナシア家」はちょっと家族関係がこじれてるぞ!
そこに赤い髪でヴェルグリーズを名乗る男が訪れたぞ!

●4(PC情報+GMコメント一部PC情報化)
アズィナシア卿からローレットへ依頼が!
明日採石場に魔種が現れるかもしれないから現場へ行ってほしいとのこと!
もし出くわしたら、討伐して「コアを奪ってほしい」んだって!

●5(PL情報)
アズィナシア家の長女とリリーはとっても仲良し!
明日お仕事へ行くお兄ちゃんのためにお弁当を作って持っていくつもりだぞ!


※関係者関連SS、シナリオ
 以下を読んでいなくとも問題無く参加できますが、知っていると関係者回りの解像度が上がります。

●ホワイトが魔種になった経緯
「五文字のノイズ」(染NMご担当)
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/1634

●ホワイトとヴェルグリーズさんの邂逅
「<悠久残夢>解体屋『D-81ム』と足りないパーツ」(愁SDご担当)
 https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/10312

GMコメント

※相談日数4日です。状態異常などに注意してご参加下さい。

●目標(成否判定&ハイルール適用)
 魔種ホワイトの討伐
●副目標(一例。個人的な目標があれば下記以外にも設定可)
 貴族の長男を守る
 男性らしき遺体を丁重に処理する
 ドールからコアを回収し貴族へ渡す

●優先
※本シナリオにはヴェルグリーズ(p3p008566)さんの関係者が登場するため、
 ヴェルグリーズさんに優先参加権を付与しております。

●冒険エリア
【幻想内某地】
 大きな採石場の敷地一部15km四方程度(以後「採石場」表記)

●冒険開始時のPC並びに状況
 基本的に貴族の長男が作業している広場にて、彼を見守る状況からスタートとなります。

《依頼遂行に当たり物語内で提供されたPC情報(提供者:貴族、ローレット 情報確度C)》
●概要
 採石場に魔種ホワイトが出現する可能性があるので備え、出現したら対処してほしい
<貴族からの追加オーダー>
 そのドールからコアを回収してほしい。

●人物(NPC)詳細
【アズィナシア卿】
 幻想貴族。
 ヴェルグリーズさんの関係するカノッサ家の当主候補「アドリアン卿」とも深い繋がりがある人物です。
 彼に気に入られれば、上手く助力を得られるかも知れません。
 長男のことを不貞の子ではないか、と疑い日頃厳しく当たっています。
 一方の長男(名:ヴェリタス)は、それを自身を立派に育てようとする父の愛だと信じて頑張っています。
 長女(名:ヴィーナス)のことは愛娘として出来愛しています。
 ローレットに関しては便利屋程度に考えています。

【ホワイト】
 正式名称「White Dolly」。色欲の魔種、元秘宝種。関係者その1。
 以前の戦闘で負った傷を癒すため機能停止しており、結果冠位色欲の招集から逃れていた。
 海洋のある屋敷で眠っていたところを目覚めさせ、自身へ様々な事を教えてくれた魔種の青年「ブラック・パペット」(推定年齢17歳)をMasterと認識。
 彼が殺されたことが引き金となって反転した。
 記憶に刻まれた主の最後、遺した五文字の言葉が彼女を支えている。
 世界の敵として彼を殺した世界は憎むべきものと定義し。
 主の壊れた肉体を代替パーツと入れ替えることで、生き返らせようと旅を続けている。

 シルクのリボンを自由自在に操る他、人形遣いのようにブラックの遺体を操り戦います。
 EXAと反応・耐久力が高め、付与でCT命中上昇と各種鎧、出血/足止系統のBSや飛/移系統の縦横無尽な動きが考えられます。
 基本回避減衰が強いので、回避型よりは耐久型が戦いやすいです。

【スカイシュ・リリー】
※設定
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/5619
長女が家族のように、親友のように大切にしている秘宝種(シナリオ背景左側)。
関係者その2。
自身の名前と『あいされるように』と命じられた事以外、基本的な記憶を失ったまま世界を流れており、数年前この家に拾われた。
コアが欠けており、そのせいかぼーっとしている。
基本的には幼い子供のようなあどけなさを持つ少女だが、リリーも与えられた愛の分だけ長女や彼女が大切とするものを重要に思っている。

色とりどりのお弁当を持った長女と共に兄の元へ向かっています。

●味方、第三勢力詳細
 シナリオ参加人数が定員に満たない場合、下記協力者が不足分参戦。
 プレイングにて役割を指示することで利用可能。
・ローレットに居た冒険者→参加者平均程度の能力値+役割補正
 (タンクならHP、防御技術高め、等)

●敵詳細
【ホワイト】
 人物詳細にて解説。

【終焉獣】
人間型(ゼロ・クールに見える)が初期で10体。
ホワイトが健在である限り時間経過に応じどんどん湧いてきます。
理由は定かではありませんが、ホワイトを庇うように行動します。
剣での斬りつけ、神秘攻撃、ヒール等々、各々へ課せられた役割を忠実にこなそうとします。
雑魚敵枠の割にはそこそこ強く、EXFも高いです。

●ステージギミック詳細
 特になし

●エリアギミック詳細
<1:洞窟>
 石を掘削するため作業中の青少年~大人が多数。
 ここに敵対勢力が辿り着けば民間人に被害が出たり、魔種にとって豊富な逃げ道になり得る等、目標失敗へつながるでしょう。

<2:広場>
 貴族の計らいにより、長男だけがここで作業しています。
 作業用具が乱雑に配置されていたりしますが、基本的には岩肌だらけの殺風景な場所。
 1km四方くらいは障害のない戦いができる場所があります。
 長男を逃がすのは10km程度移動が必要なので困難です。

<全般(戦闘エリアのみ表記)>
光源:2問題なし
足場:2問題なし
飛行:2問題なし
騎乗:2問題なし
遮蔽:2ほぼなし
特記:特になし

《PL情報(提供者:GM プレイングに際しての参考にどうぞ)》
【主目標のために何すればよい?】
 魔種ホワイトと、お付きの終焉獣と戦いましょう。
 倒すだけなら全力で。
 コア奪取を狙うのであれば、右手の甲にコアがあります。
 攻防に用いられるシルクのリボンを壊していくことで甲が露出しますので、発見し部位破壊を狙いましょう。
 (物理的に殺さなくとも、ホワイトはコアが本体から外された時点で可動停止≒死亡します)

【貴族の家族関係】
 父親は長男への疑念と長女への愛故に盲目となっています。
 長男は父親を信じていますが、愛という水が足りず今にも渇ききってしまいそうです。
 長女は長男も父親も純真に敬愛しています。
 戦闘シナリオですので直接行動を仕掛けられる場面は少なく余力もあまりないですが、愛されているという実感は人を救うものです。

【ホワイト】
 五文字のノイズの答えを求め、抱きしめる存在を生き返らせようと頑張っています。
 そのために彼女が選んだ方法は確実に間違っています。
 ただ、彼女が求めた答えは、人形では、魔種では。
 望んではいけないものなのでしょうか。
 彼女のマスターらは何を望んだのでしょうか。
 魔種は決して油断できず、どこかでわかり合えない相手。
 ですが、精神や心を持たぬわけでもありません。
 戦いながら語り掛ける内容の如何や、何を狙い攻撃するのか、等で彼女の心に影響が生じるでしょう。

【リリーとコア】
コアが綺麗な形で手に入った場合、貴族はそれをリリーに移植しようと考えています。
移植は愛する長女のためなので全力でやるでしょうし、そのための術も持っているようですが、貴族にはコアの『形』しか判断できません。
コアを渡すのであれば、その『中身』がどうなっているか気遣ってあげるのが良いかも知れません。

・その他
目標達成の最低難易度はH相当ですが、行動や状況次第では難易度の上昇、パンドラ復活や重傷も充分あり得ます。

  • <Je te veux>八文字のホープ完了
  • GM名pnkjynp
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2024年02月18日 22時45分
  • 参加人数8/8人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)
鉱龍神
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
星影 向日葵(p3p008750)
遠い約束
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ

●Witch is truth?
 採石場の広場区画に辿りついた一行。
 見渡せばそこは道具や岩肌は山ほどあれど、洞窟区画と異なり人の姿は只一人『アズィナシア家』の長男『ヴェリタス』だけの場所。
「いやー笑えるくらい広いっすね」
 陽光に照らされながらも、寂寥感のある空間は『先駆ける狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)に渇いた笑みを浮かばせる。
「それにしても変だよねこの依頼。魔種の情報もあの長男のやらされてる事も」
 『天翔龍神』ェクセレリァス・アルケラシス・ヴィルフェリゥム(p3p005156)が言えば『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)が頷いた。
 二人は先日も『ヴェルグリーズ』を名乗る魔種が引き起こす事件に遭遇しており、この依頼そのものに対する怪しさは拭えない。
「情報屋の話では、赤髪の俺は魔種の出現情報と魔種が彼くらいの年の男性を狙う可能性が高いと証言したらしいよ」
「え、それって……」
 『未来への陽を浴びた花』隠岐奈 朝顔(p3p008750)の表情が僅かに曇った。
 危険があるのにこんな場所へ一人きり。
 自分達がいるとはいえもし『何か』があれば。
 その責任は魔種に全て押しつけられる。
「貴族様はどこでも『ゴカゾクモンダイ』に揺れてるものなのねぇ。面白いわぁ」
 朝顔と同じ発想に至ったであろう『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)も、表情を変えぬまま呟く。
「背景の思惑はどうあれ、魔種出現の可能性は無視出来ない。そうだろう?」
 そもそも当人が考えても難しい問題に他人が深入りするのは野暮なもの。
 『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)はそう割り切り周辺へ鋭い視線を向けていた。
「とはいえ依頼の中に彼を助けてはならない理由もない。俺達はやるべきこと、為したいことをするとしよう」
 そう言うと『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は岩で長男を隠せるような簡易塀を作ることを提案。
 全員で協力して岩を集める事となった。

~~~

「ていっ」
 カツンと固い岩盤にピッケルの弾かれる音が響く。
 数多の力や技が存在する混沌においても、肉体労働の主力は人力だ。
 粗末な道具のみが与えられ、後はその身をもって業務を遂行する。
 逆に現場を指揮する者には、それを加味した実際の作業時間や必要な人数の算出が求められた。
「つ……」
 腕が痺れ、痛む。
 だが、これを知らずして人の上には立てぬと。
 父は、きっと。それを伝えるためにわざとこんな事をさせているのだ。
「急がないと……」
 まだ昼には早いが、目標の仕事量を考えれば遅れ気味。
 震える手で岩肌に針を突き立てようと振り上げた。
 その手を背後から掴み止めるは、岩を集め終えた朝顔。
「……えっ?」
「頑張っててすごいね」
 振り向かせ青年を抱きしめる。
 突然の出来事、それも体躯の大きい朝顔によるものなので少々混乱した様子ではあったが。
「でも、一人でそんな辛い顔をしていちゃ駄目だよ。弱音もどうか吐き出して。私が肯定してあげるから」
「そうですよ。もし他人に打ち明けるのが怖いなら、最初は部屋の鏡とかで、自分に打ち明けてはどうでしょう。どんな態度を取られても父親を愛せるとても素敵な心をお持ちの貴方になら、鏡の怪異も悪さはしませんよ」
 『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)も加わり包み込むような行動や言葉を届けると、思わず涙が浮かぶ。
 だが一方で。
「辛いというならば、いっそ離れてみては如何でしょうか? 私が手伝って差し上げます」
 突如出現した魔法陣から現れた白き人形は別な選択を投げかける。

●Battle Dance
「まさか本当に来るとはな」
 半信半疑が確信に変われば、もう隠す必要もない。
 昴は全身の筋肉に力を込めると、二つの闘氣を激しく解き放つ。
「魔種『ホワイト』。お前の相手は我々だ」
「oh、ゴリラ……いえ、鬼人の知り合いに心当たりはありませんが。そちらの皆様を見るに、私の障害となられるのは間違いないようですね」
「覚えていてくれて光栄だ、ホワイトさん。彼の復活は進みそうか?」
 イズマの言葉に、ホワイトはシルクに包まれた大きなそれを抱きしめることで応えた。
「ホワイト殿、もう終わりにしよう」
 ヴェルグリーズも並ぶ。
 靄のかかった剣だけであった頃の記憶。
 全てが覚醒しかけるそれは、黒の名を冠する主人はこんな彼女を望んでいないと教えてくれる。
「ホワイト、貴女のマスターはどんな人だったんですか?」
 鏡禍もまた、前回彼女が撤退した時の様子から『彼』にホワイトを凶行へ駆り立てる理由があると気づいていた。
「ええ。終わりにしましょう。今日こそパーツを手に入れマスターを復活させます。そうしたら貴方マスターもきっと喜んでくれる。……また一緒に世界を見る事ができるのです!」
 人形のように。
 そう形容される血の通わない白い腕が伸びれば、再び地面には魔法陣。
 十体の終焉獣。更に次々増援が飛び出してきた。
「避難させろ!」
 昴の檄が開戦の合図となり、前に出ていた三人はホワイト、鏡禍は終焉獣に相対し。
 ウルズと朝顔は青年の護衛となって用意した簡易防壁まで移動、その間の露払いはメリーノが受け持つ形となる。
「おーけー。そこよりこっちは通行止めだよ!」
 陣形が整うまでの間、終焉獣は迷い無く進行。
 しかし素早く飛翔し真上を取ったェクセレリァスの魔力がその多くを止める。
「終焉獣……ゼロ・クール達の姿を模倣するなんて」
 第二の壁は妖気を纏った鏡禍。
 薄紫の霧状であるそれに炎を走らせ敵を燃やし注意を惹く。
(あぁ、僕にはホワイトの気持ちがわからないでもない。
 大事な人、愛する人を生き返らせたいと願うその心は、きっと作られたものじゃない……本心だ)
 視線の先では、ホワイトのシルクのリボンが仲間達を襲っている。
 誰が見ても、悪いのは魔種だと言うだろう。
 彼女は化け物であると言うだろう。
 だがもし自分が妻を失い、復活させられると信じる方法があったなら。
 どんなに不可能であり得ないと今思うことでも、彼女と同様の事をするだろう。
 その想いが分かるから。せめてこれ以上不幸が広がる前にと、鏡禍はここへ来たのだ。
 自身に近しいものを感じたのは、第三の壁となる朝顔も同様。
 目の前で喪ったあの人との約束(はじめまして)を果たすため。
 彼が生まれ変わるための世界を守らんと戦う姿は、ある意味己の現し身のよう。
「似てるから……だからこそ全力で貴方を止めます!」
 朝顔が双刀で敵を両断する傍ら、塀の内側へ送り届けた青年をメリーノは見つめた。
「ヴェリタス坊や。ここにわたし達が居なければ、きっとあなたは死んでたわ。でも、依頼を受けてわたし達はここに居る。だからちゃんと自分の目で見て考えなさいな。あなたが欲しいものは一体何なのか」
「私は……父に託されたこの採石場を、父の期待に応えたいです……!」
 そしてまた表情を普段のものへ戻すと『ウルズちゃん、後は任せたわねぇ』と残し、手近な敵を袈裟斬りにしながらメリーノも前進する。
「了解っす!」
 ウルズはそのまま青年の盾となるが、これだけの先輩方が防壁となっても終焉獣の侵攻が思いの他衰えない事に感じるものがあった。
 それは単純な能力の高さもあるが、死を恐れず目的達成まで機械的に行動し続ける無機質さに起因する。
(でも、あの魔種は違う)
 人が意志で、可能性の力で冠位を打ち破ってきたように。
 ホワイトもまた全身全霊という言葉が相応しい気迫で戦っている。
(魔種だから殺す事になるんだとしても。元が人形だとしても。物を考え、意志を持つ相手なら……)
 知りたいという好奇心。
 揺さぶれるという自信。
それらを持って大声で問いかける。
「ホワイトー! さっきマスターがどうのって言ってたっすけど、本当にそうっすかー!?」
「そうですとも! 私には聞こえます、マスターの声が! 私が呼びかけ続ける限り、彼は共にいてくれるのです!」
 人形の性か、律儀に答えるホワイト。
 だがその間にもシルクを巻き上げ鎚状にすると、勢いよく昴へ叩き付ける。
「ふぅん!」
 彼女はそれを脇腹で受け止める。
 ダメージは避けきれぬとはいえ、普通なら肋骨の数本は持って行かれるところを鍛え上げた肉体が阻んでいる。
「戦いの中呑気にお喋りとは、悠長な奴……だなっ!」
 掴んだそのまま、逆に固いシルクを利用し持ち上げると採石場の岩肌へ叩き付けた。
「これでもイレギュラーズ屈指の力自慢のつもりだ。舐めるなよ?」
「……舐めてなど、おりません」
 ホワイトもまた倒れない。その体が、心が、止まらない。
「なら問おう。彼は……ブラックは何と言っているんだい?」
 シルクを用いて戦う彼女の姿を見続ける中で、全てを思い出したヴェルグリーズ。
 この質問には明確な答えがある。
「マスターは、言いました。
『ホワイト。もしも、もう一度僕の名前を呼んでくれるなら、僕は、君の傍に居よう。君が望む限り。永遠に!』と!
 そして……!」
 ×××××。
 ホワイトの口から言語化できない音声が流れる。
「あ、れ……」
「ホワイト殿。その声は偽物のはずだ。俺は思い出したよ、ブラック殿の言葉達を。それは……」

 ――ホワイト。あの人たちの元へ行きなさい
 ――さよなら、ホワイト
 ――愛してる

「あいしてる……?」
「そう。キミが復讐し続けることを喜ぶ言葉じゃない。
 キミだけでもこの世界で生き続けることを願い……そしてキミと別れる覚悟を奮い立たせるための大切な言葉だったはずだよ」

 そうだ。
 私は探していた。あいしてるの意味を。五文字のノイズの答えを。

『ホワイト、僕の名前を呼んで』
『ホワイト。君の世界は、広いんだ』

 ――Error。


●Witch is noise?
「私は、私はまだ……! 知らないのです! あいしているの意味を!」
 別れる覚悟を。
 悲痛な叫びを上げながら、彼女は大切に背で守り続けていたそれを解き放つ。
「ホワイトさん、これが貴方のマスターか?」
 イズマは敢えて、その身で攻撃を受け止めると、ホワイトに見せつける。
 継ぎ接ぎだらけ。どんなに丁重にメンテナンスしようとも、消しきれない腐敗臭が漂う。
「わたしは、わたしは……! マスターがいないと私わああああ!!!」
 荒ぶり鞭のように叩き付けられるシルクを、メリーノが次々に斬り捨てる。
「真っ白できれいな子ねえ。穢れを知らない秘宝種のお人形、詩的だわぁ。
 でもね? お前にどんな事実があろうとも。それは変わらない。
 お前が魔種である限り、壊さなきゃいけないお人形なの」
 突きつけられる事実に、ホワイトの感情は狂っていく。
 同類の嘆きに呼応する終焉獣の攻撃も激しさを増すが、パーツへの道は強い意志の壁が立ち塞がる。
「ホワイトさん。もしかしたら、その彼を動かす術はどこかにあるのかも知れない。でもね、其れは貴女が求めた彼じゃないよ」
「ヴェルグリーズさんの言った思い出は、貴女にもあるはずですよね。
 マスターは、全てを壊そうとするその姿を喜ぶ人だったんですか?
 そんなに酷い人でしたか?」
「そのマスターも、魔種なのにあんたに愛を教えたっすよね? こんな風に誰かを傷つける愛なんて、悲しいだけじゃないっすか!」
 朝顔の、鏡禍の、ウルズの思い。
 悲恋への悲哀が注がれていく。
「あ、あああ、あああ!!」
 最早訳も分からぬのだろう。
 狂い続ける『彼』を繋ぐ糸は三本。
「本来なら重力を崩壊させるんだけど……混沌に吸い込まれた今なら、鎖を断ち切るくらいになるだろうね!」
 元々世界の断片であり神とも言えるェクセレリァスの光が。
「大切で、失いたくなくて、彼を想う事が世界の全て。
 そうして行動する貴女は彼を愛してる。なら、後は本当の彼の愛に応えるべきじゃないか」
 強き鋼が生み出す火炎が。
 「ホワイト殿。人は人との出会いで思いを深めあい、その意味を知る。
 キミがブラック殿と出会い深めたその気持ち……ノイズに穢される前の気持ちこそが、愛だよ」
 人と生き、遂には人へ辿り着いた剣の煌めきが。
 最後のシルクを断った。
「あ、ブラック……!」
 倒れ込むそれを受け止める白きロリィタ。
「あ、あれ……?」
 それの顔は、自分の知っている彼ではなくて。
「そのパーツにされた人にも、きっと大切な人がいたのよ。
 だからこの世界ではお前はずっと憎まれる。作ったマスターも、あなたに愛を教えたマスターも」

 ――ねぇホワイト、この世界に彼を呼び出せたって、幸福なんてないでしょう?

 振り抜かれるメリーノの太刀は右腕を斬り放し、採石場の奥へと飛ばしていった。


~~~

「朝顔先輩、深さこんなもんすかね?」
「あ、良いと思いますよウルズ先輩」
「なぁ、それじゃあ二人のどっちが先輩か分からなくないか?」
 ェクセレリァスのツッコミに、思わず周囲に笑顔が零れる。
 時刻は昼になろうとする頃。
 迅速な決着に向け、ホワイトへと集中的に向き合った戦いは時間にすればあっという間であったが、一部始終を見ていた貴族の青年にはそれはとても長い時間に思えて。
 イレギュラーズ達からの希望もあって、人の手が入らないであろう採石場の影に、ホワイトと魔種のお墓を作っていたのだ。
「今度こそ、迷わず彼と同じところへいくんだ。ホワイト殿」
 自身に繋がった悲運の縁。
 それに分かれをもたらしたヴェルグリーズが、そっと彼女のボディを穴へ入れる。
「愛する人と共に眠れれば、きっと寂しくないだろう」
 隣にはイズマが切れたシルクの残骸で丁寧に巻き直したブラックの遺体を入れた。
「土を戻すのは任せろ。感傷に浸るつもりはないが、できることはやる」
 昴が用意を調えていると、ようやく腕を見つけたメリーノが戻ってきた。
「遅くなってごめんなさいねぇ」
「ちゃんとそれも入れてあげないとね。置いていかれるのはつらい、ですから」
 近くにいた鏡禍はそれを預かると、元の右手の位置へ添えてやる。
(この世界に何かが残ってしまったら。きっとそれ抱いて彷徨ってしまうでしょうから)
 一瞬その腕が髑髏のような何かに見えた気もしたが、彼は首を振ってそれを忘れた。
「じゃあ埋めるっすね」
 昴がその腕で土を被せて行く中、ウルズはスコップで要所を整えていく。
(事情を知らないあたしには多くはしてあげられなかったっすけど、少しは吐き出せたっすかね)
 せめてもの手向けにと、ウルズが優しく岩を乗せたなら。
 ヴェルグリーズがそこに名を刻み。
 そして霊への祈りに心得のある朝顔が膝をつき祈りを捧げる。
(ホワイトさん、どうかやすらかに。
 ブラックさん、もしこの身体に貴方の魂が残っているのなら。
 どうか彼女を貴方の側に連れてって、本当の愛してるの意味を……また教えてあげて)
 朝顔の祈りは、太陽の輝きのように真っ直ぐと。
 別れの痛みを知るからこそ、強い結びの思いが注がれて。
 土の中からもその光を浴びたブラックの身体は、きっと21gだけ軽くなった。
「お兄様~!」
 遠くから響く呼び声、そして馬車の音。
 愛に満ちたそれは、間違い無く信じられるもので。
「皆さん、助けて頂いてありがとうございます。私ももう一度、父上と向き合ってみようと思います。こんな風にすれ違ってしまう前に……本気の思いで」
 馬車の中では『スカイシュ・リリー』が虚気味ながらどこか嬉しそうな表情で空を見上げていた。


●選ばれた八文字
 生き延びた子供達は、念の為の護衛についた数名のイレギュラーズに見送られ無事に帰還。
 ヴェリタスを先頭に依頼結果を報告すべく執務室を訪れる。
「失礼致します、アズィナシア卿。本日の報告へ参りました」
「……入れ」
「お父様、お邪魔致しますわ」
「ん? 何故『ヴィーナス』まで! それにヴェリタス、その怪我は何だ? 部屋が血で汚れるではないか!」
「まぁ! お兄様は採石場で襲われて怪我をされたのですわ! それなのに……お父様のバカ!」
 興奮で今にも泣き出しそうな少女の隣へしゃがみ込むと、ヴェルグリーズはその両肩にそっと手を添える。
「客観的立場からの方がありのままの真実を伝えられる。だから俺達から報告させてもらって構わないかな?」
「君は確か……」
「初めまして、アズィナシア卿。俺が本物のヴェルグリーズです」
 その後、一行は改めて客間に通されると事の経緯を伝えた。
「そんな事が……」
 想定外の事実、その衝撃で押し黙る貴族にイズマが告げる。
「ヴェリタスさんは採石場を護り抜きたいという思いで逃げ出さずにいたんだ。それに戦後の処理も彼の指示でこなした。子細はともかく、その事だけは褒めてやってくれないか?」
「……ヴェリタス。……いや。よくやった、我が息子よ」
「……父上!」
 兄と妹、そして父の間に笑顔が広がっていく。
「それとコアの件。魔種が強すぎて破壊するしか方法がなかったけど。回収してどうするつもりだったの?」
 ェクセレリァスの問いかけに、貴族は妹の隣にじっと座るリリーを見据えた。
「娘は人形が好きで色々集めていたのだが、最近は特にあれがお気に入りでな。だがあれは古い人形故にコアの一部が欠けている。もし完全なコアが手に入れば、移植してやるつもりだったのだ」
「移植って?」
「人形集めの際に手に入れた古い魔導書があってな。これによれば人形のコアに刻まれた魔法陣を上書きすることで、一体の人形の精神や記憶を移し続けた職人がいたらしい」
 魔導書に残されていたのは、遙か過去に失われた技術を再現し得る魔術式。
 だが同様の魔法陣が刻まれたコアが必要など条件は多く、魔術の素養に恵まれない貴族の儀式では、完全な上書きとはいかないことも考えられる。
 とはいえリリーは条件を満たしてはいるため、より明るい性格となった彼女や、心の中に姉を持つ彼女が生まれていた可能性はあろうか。
 しかし肝心なのはそんな事ではない。
「……残念だけれど、それはさせられないよ」
「何故だ?」
 不思議がる貴族に、ヴェルグリーズはそっと告げる。
「あれは替えのパーツなんかじゃない。ホワイト殿の命そのものだからね」

~~~

 その頃メリーノは、一人採石場で手に持った石を月にかざしていた。
「残念だわぁ」
 それはどさくさに紛れて魔封石とすり替えた本当のコア。
 斬り放した瞬間は穏やかで美しい魔力の熱が宿っていた。
「きれいな石はわたし、みんな欲しかったのだけれど」
 けれど愛を知り、死を受け入れた彼女の意志を代弁するように。
 刻まれていた魔法陣は白い光となって暗い夜空へと溶け――やがて完全に輝きを、熱を失う。
「……あっちでマスターと仲良くね」
 片翼を広げ飛び立つメリーノ。
 その跡には、彼女にとって色の失われた一つの宝石が埋められていた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

冒険お疲れ様でした!

人か人形か。人か魔種か。パーツか命か。
見た目は似ていても、認識1つで見方は大きく変わるもの。

今回皆様が示した答えは『「魔種」に対して「人としての死を贈る」事』となりました。
形が変わっても、世界のどこかで、誰かに『あいされるように』。
世界に、全てに嫌われようとも、せめて『ふたりやすらかに』。
この混沌での希望ではなく、二人の来世に希望を託す結果です。
今度は幸せになってくれると良いですね!

それでは、またどこかでお会いできることを願いまして。
ご参加ありがとうございました!

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