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シナリオ詳細

再現性東京202X:百九回目の煩の音

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●年を跨いで何処までも
「知ってる? この音」
 再現性東京のとある寺。
 二人の男女が脇に設置された椅子に座っている。
 少しだけ暖かく感じる今年の冬。だから少しだけ、いつもより長く外で今年の夜空を眺めていた。
 気付けば時間は疾うに真夜中。
 段々と話す事も少なくなってきた。そんな中で聞こえてきた、鐘の音。
 もう少しだけここに居たいな、なんて邪な考えまで吹き飛ばしてしまうように響き渡る音。
 女性の口からそんな言葉が出たなら、例え知っていても知らないフリをしてしまう。
「……どんなのだっけ? 何か、聞いた事有る気はするけど……」
「えっと、一年の締め括りの日にね、大きな鐘を百八回鳴らすの。その音で煩悩を全部祓って来年を迎えるんだって」
「へぇ、俺の居た所じゃ……そういうの無かったからなぁ」
 鐘の音がまた響く。
 結構、距離は近いらしい。
 何度か会話を中断されながらも、無理矢理に話を繋げては訊き返す。
「本当はね、本当の本当の最後の夜中に鳴らして」
 鐘が、彼女の声と被さった。
「え? 何て?」
「本当はね! ホントのホン」
 ゴオン。
「後の夜中に鳴らして年を跨ぐ」
 ゴオン。
「うん!? ごめん、もう一か」
 ゴオン。
「え!? 何て!?」
「あ、ごめん! もう一回言って」
 ――ゴオン。
 二時間。
 二時間だ。鳴り始めてから。
 何なら三時間目に突入している。
 こうなったら男女の方も意地である。
 声は常に肺活量の限界まで出し、例え足腰に痺れを覚えようとも鐘が鳴り止むまでこの場を去ってなるものかと、あれだけ悩んでいた会話のネタを強引に作り出して耐え続ける。
 年末だとか冬だとかそんな話題は一時間前に尽きていた。
 そもそも日時とか何かずれてない? とか、そんな会話もした気がする。鐘が鳴り終わったら確認しておこう。
「あそこに落ちてる石がねー!」
 クソッ……! 駄目か! 話題を出し尽くしたせいで、彼女がとうとう路上の石ころに目を付け始めた。詩人か何かか。
 かく言う男性の方も限界を迎えつつある。
 今出来る話と言えば精々職場の愚痴。いやそれだけは駄目だ。プライベートでこの空気感に持ち込むにはあまりにリスクが高い。
 それにしても。
「どんだけ鐘鳴らすんだよ!」
 謎の攻防戦の末、男性はやっと音の方に向かっ『ゴオン』全然止まねぇじゃんこの音。

●耳を聳ててみなって、ほら
「聞いた話だと、昼間から鳴らし始める所もあるそうだね」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は酒の入った小さなグラスを傾けると、そのまま飲まずに机に置いた。
 年末だというのに。勝利の美酒の余韻も残っている頃だというのに。
 また変なのが現れてしまった。
「その時の男女かい? あぁ、結局耐えられずに帰ったそうだよ。流石に、一般人が何日も耐えられはしないだろうしね」
 彼の言葉から察せられるように、鐘の音は既に日を跨いでいるようだ。
 そう、今回の敵は寺に吊られている大鐘そのもの。
 そしてその下でそれを突いている袈裟掛けの男。
「どちらも夜妖だけど、鐘の方は寺に元から在ったそうだから夜妖憑きになるかな。祓い屋の出番だが……そこまでの脅威じゃないようだし、今回は祓い屋の見習いとして君達が対応してくれ。袈裟掛けの方は一見ただのお坊さんに見えるけど、ひたすら鐘を突いてるから行けばすぐに判ると思う」
 恐ろしいのは、その坊主は取り付けられた物ではなく自前の丸太で突き続けているという事。
 もし夜妖でなければとんでもない修行僧かとんでもない丸太好きなのだろう。
 一時も休まずに丸太を振るい続けている事から、その力には一応注意しておきたいところだ。
 大鐘の方は自立して攻撃を仕掛ける様子は無いものの、音による影響を間近で受ければ肉体にダメージが入るレベル。
 男女が無事だったのは、多少ではあるが距離が離れていたのが幸いした。
 とはいえ、流石に日夜絶え間なく鐘の音が響くのは大迷惑である。
 寺の所有者もこれでは本来の日に突けないと嘆いていた。安全を考えれば諦めるしかない。
「お坊さんの方は、それ自体が夜妖だね。霊とみて良いだろう、そのまま退治してくれ。鐘の方は破壊までする必要は無い……かな。鐘に対して必要なのは、憑りついた邪気を祓う事。祓えば夜妖も消え去って普通の大鐘に戻るだろう」
 ただ、それを行う際に注意すべき事が一つ有る。
「攻撃し続ければ憑りついた邪気も祓われていくだろうけど、お坊さんの夜妖が突く度に音が鳴っているんだろ? こっちが打撃を加えたら、きっと音が鳴るだろうね。鐘の音が攻撃になるとしたら……さて、どうしたものかな」
 鳴り始めて約一日が経過した。
 もう一万回を超えましたよ。と連絡が来たのは、出発メンバーを集った直後の事であった。

GMコメント

初めまして、又はこんにちは、こんばんは。夜影鈴です。
今年のご依頼は(通ってれば)恐らくこちらで最後となります。
宜しければ、私と一緒に鐘を突きに行きませんか?

●目標
寺に憑りついた邪気の夜妖、袈裟掛けを来た男の夜妖、二体の退治。

●敵情報

・袈裟掛けの男
再現性東京の寺に現れた夜妖。
人間種のお坊さんの見た目をしているが、破戒僧の霊となって現れた。
イレギュラーズ達が来るまで自分の背丈以上も有る丸太を振り、鐘を突き続ける。
丸太は重く、それを日夜振り回す破戒僧の腕力には注意すべきだと思われる。
また、イレギュラーズとの戦闘となればこちらを攻撃する行動に切り替えるだろうが、時折鐘を打ちつけ、その音で範囲的に攻撃してくる。
目標は十万回突破。

・大鐘(夜妖憑き)
寺の大鐘に憑りついた邪気の夜妖。邪悪な霊魂。
比較的ではあるが脅威度はまだ少ないものとして、戦闘は祓い屋の代わりにローレットが出動する事となった。

鐘自体は自分から攻撃を仕掛けて来ないが、攻撃など何かしらの大きな衝撃を加える度に邪気を纏った鐘の音を鳴らし、それを間近で聞いた者にダメージを与える。
鐘に対して攻撃を仕掛ければ鐘が揺れて音による反撃が返って来るだろう。
音自体はその場に居る全員に聞こえるが、ダメージが入るのは攻撃を加えた者とその時同じ範囲に居た者だけだ。音であるため、前後左右は関係無い。
近ければ近い程反撃ダメージの影響が大きくなり、一撃の威力が大きければ大きい程良い音が返って来る。

だから何だという話ではあるが、三段階くらい有るらしいので挑戦してみたい方はどうぞ。
多段攻撃のスキル、ですか。
ご想像にお任せ致します。
ダメージが入らないスキルや行動では音は鳴りません。
攻撃すれば憑りついた邪気が祓われていくので、鐘自体を破壊までする必要は有りません。
祓われるまでは邪気の不思議な力で守られていますので、攻撃の最中に壊す心配は御座いません。

●ロケーション
再現性東京・夜の寺。
寺の横に大鐘が設置されており、そこで鐘を突き続ける破戒僧と鐘を見つける事が出来る。
イレギュラーズ達が近くに現れれば、破戒僧は丸太の対象を鐘からイレギュラーズに変えるだろう。
大鐘は屋根付きの段差の上に備えられているが、飛行が必要な程ではない。
高低差は地面とそれ程変わらない。

周囲は広いので、大鐘を囲む様に広がる事も可能である。
因みにではあるが、大鐘は出発日を迎えるまでに8万を越して4420回突かれている。
最早年末のBGMと化してしまった。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


----用語説明----

●夜妖<ヨル>
 都市伝説やモンスターの総称。
 科学文明の中に生きる再現性東京の住民達にとって存在してはいけないファンタジー生物。
 関わりたくないものです。
 完全な人型で無い旅人や種族は再現性東京『希望ヶ浜地区』では恐れられる程度に、この地区では『非日常』は許容されません。(ただし、非日常を認めないため変わったファッションだなと思われる程度に済みます)

  • 再現性東京202X:百九回目の煩の音完了
  • GM名夜影 鈴
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2024年01月16日 22時35分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
シラス(p3p004421)
超える者
ソア(p3p007025)
愛しき雷陣
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
囲 飛呂(p3p010030)
君の為に
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
安藤 優(p3p011313)
君よ強くあれ

リプレイ


「どうしてぼくの受ける依頼に出てくるのは!」
 寺の中に鐘と一緒に声が木霊する。
「トンチキモンスターばかりなんですか!?」
 両手で頭を抱え叫ぶ『君よ強くあれ』安藤 優(p3p011313)。
 何を隠そう彼の名声、その殆どがトンチキモンスターの討伐によるものだ。
 それはもう好き者なのでは? という疑問は一つ横に置き。
 誰もが溜息を吐きたくなる中、『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)は腕を組んで奴を見る。
「シンプルに」
 ゴォン。
「五月蝿くて」
 ゴォン。
「迷惑なヤツが出たみたいだな……」
 ――ゴォン。
 昴は大きく息を吐く。
「落ち着いて年越しもままならないとは……」
「これは確かに耳にくるな……」
 目的場所に行くにつれて顔を渋くした『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)、気持ちは昴と同じ様子だ。
 出発前にローレットの誰かが言っていた。
『八万回到達でーす』
 郵便物感覚の定時連絡。一万とか八万とか一体誰が数えてるのか。多分ノイローゼ気味になった住民が正の字とか書いているのだろう。
「まったく。梵鐘をああも無駄に突きまくるとは」
 罰当たりにも程がある、と『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は妖刀を抜き払う。
「正に厄そのものだ。さっさと祓わせて貰うぞ!」
 ピクリと、袈裟掛けの男の身体が動く。
 返事は『ゴォン』。
(うるせえ!!!!)
 そろそろ彼の中の蛇も出て来そうな勢いで『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)は拳を握り締めた。
 再現性東京に在住している彼からすれば色々な面で死活問題になるのだろう。
「それ会話用の道具とかじゃねぇから!」
 コォ……ン。
「何だ今の!? 『じゃあちょっと手心加えてみよっかな?』じゃねぇんだよ、止めろっつってんだ!」
 飛呂の額に浮く血管。
(昼も夜も構わずなんだよしかもよりによって今の時期とか受験大詰めなんだぞ勉強もしづらいし寝たくても響いてくるしやるならマジで大晦日の夜だけにしろよお前そんなに鐘突かなきゃ払えないほど大量に煩悩あるってことかよ俺の煩悩は十万式まであるぞってことか!?!)
 大よそ数行に渡る飛呂の怒りは、身体ブースト飲料を飲み干した彼の口から、たった三つの重い音に凝縮されて吐き出された。
「しばく」
 騒音問題、怒りはもっとも。
 ずんずんと進んで行く飛呂の後ろで呆れ顔をするのは二人。
「もう新年だぜ? 悪いが他所でやってくれ」
 本当にその通り。『竜剣』シラス(p3p004421)達が来る頃には、大晦日どころか正月すら越しているに違いない。
 千差万別な夜妖と言えど、ここまで無差別な迷惑夜妖が居ただろうか。居たかもしれない。
「ご近所さんに迷惑だし、風情とかそういうの台無しじゃない」
 ド正論である。『無尽虎爪』ソア(p3p007025)の言葉は杞憂でもなく、既にクレームが相次いでいる。
 しかも付近の寺とローレットにだ。早い所何とかしなければ和尚さん達のメンタルも心配である。
「おやぁ?」
 その目は輝くか、悲哀に染まるか。『黒武護』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)が皆の隙間から豊満な身体を覗かせる。
「丸太をぶんまわすイイ男がいるって聞いて来たら夜妖じゃないですか、やだー!」
 はい、ここに一つの煩悩が消えました、と。残りの煩悩の桁は垓とかで数えたら良いです?
 流石のムスティスラーフも男とは言え、相手が夜妖は躊躇いもするか。
「けど夜妖でもヤれるならイイかも……」
 しなかったわ。まぁ良いか。いや良かねぇな。
「はーい、僕と一緒に一夜を過ごさないかい?」
 このムスティスラーフの熱いラブコールで昇天してくれれば話は早いが、そういう訳にもいかないだろう。
「……構えました! 向こうも来ます!」
 その手に奇怪な本を開き、何処かの深海から邪神でも呼び起こさんとする勢いで優は両の瞳に魔術を施す。
 でもほら良く見て! 薩摩だ超大陸だ果ては火星の隕石なんて規格に比べたらまぁトンチキはトンチキなんだけれども人型一人と鐘だし……苦しいか! 苦しいね! ごめんね!
『――ゴォン』
 ゴング代わりの鐘の音。
 再現性東京の夜に今、響き渡る。


 両手に魔力を溜める、と見せかけて一気に突っ込んだのはシラス。
 貧困街で培った不拓手段。振られた丸太の下から懐に滑り込み、蹴り上げの足もフェイントに片足軸で背後へと。
 再度その手に魔力を宿し、前後から挟む様に二度の衝撃拳を穿つ……いや。
「速攻だ」
 袈裟掛けが振り向き様にすれ違う、槍の如き一刺しの三発目。
 男と離れた場所から切れ長の目で全員の位置を把握し、自身も強襲する為の前傾姿勢を保つ飛呂が次の一手の瞬間を見極め。
 左右から駆けるのはソアと汰磨羈。
 やや速く加速した汰磨羈は一歩ごとに己の出力を上げる。
 絶技の一つ、白旺圏。
 此度の相手には過剰とも思える、溢れ出さんばかりの霊気は汰磨羈の白髪さえも靡く長さへ促進させ。
 妖刀より払い放つ三絶の陰の太刀。影の月光が袈裟掛けの丸太をも重力の中に沈めていく。
 その逆側、ソアは軽い身のこなしで跳ぶと、大きく息を吸い込んだ。
「鐘の音よりボクの声を聞いて」
 振り上げた両手、振り下ろしたと同時に放つ虎の咆哮。
 音の弾は衝撃の塊となり、衝撃を振り払うように丸太を振れば、眼前にはソアの顔。
 振られた丸太とソアの腕がぶつかり合う。尚もソアは続けて鐘から遠ざけるように右へ移行。
 後を追うように駆け出した瞬間、破戒僧の身体を包み込んだのは魔空間。
 対竜種用の術式に加え、破戒僧を圧搾する空間内でムスティスラーフの言の葉が破戒僧を串刺しにする。
「ええい、やってやりますよ! ぼくだって少しくらいは成長しているんですから!」
 なけなしの勇気と少しのヤケクソ気味な言葉。
 そんな台詞が遠くの優から飛ばされれば、いや、無視は出来ずとも破戒僧の眼光は尚もソアへと向く。
 ただ、二人からの熱烈な誘いを受けた破戒僧、向かう先は鐘からどんどん離れて行く。
 だが動かない。
 破戒僧の足が動かない。
 先程のムスティスラーフの串刺しの中に混じった一本の細剣。
 『羅』と『創』の織り成す、イズマの一刺し。
「たいそう力自慢のようだが」
 その目の前に立ち塞がるのは、破砕と金剛の闘氣を纏いし――。
「私も力には自信があってな」
 鬼人、昴。
 深く腰を落とした体勢から闘氣を吹き上がらせた拳で突き放たれる、竜牙の一撃。
 その頭上から空気をも斬り裂くようなシラスの手刀が、魔力と共にその首元に深く突き刺さった。
 連弾、地に叩き付けられた破戒僧を蹴りで掬い上げ、更に両の拳で突き上げる。
 空中に浮いた破戒僧を狙い定めるのは、飛呂の狙撃銃、P-BreakerⅡ。
「鐘より撃ち易そうじゃねぇか」
 片手の照準が狙うのは奴の胸。鳴った音は一つ。
 飛呂の銃口は下がっていない。シラスと同じく、相手に油断していないからこその両手を添えた再度の照準。
 着地地点を予測した死神の狙撃が、僧の脚を撃ち抜いた。
 動く敵は破戒僧の一体。囲むように迅速に接近し、月夜の中で眩く輝く刀身に陽の呪詛を充填させ、抜刀の姿勢で汰磨羈は僧を鋭く睨んだ。
「畳み掛ける!」


「そんな丸太を振り回すとは。生前は、さぞストイックな鍛え方をした高僧なのだろうな」
 爆散する汰磨羈の一撃を丸太で受けながら、袈裟掛けはニヤリと笑う。皮肉か。
 この身は経より修羅を選んだこその肉体。
「ならばこそ。これ以上、その力をこんな事の為に使わせる訳にはいかぬ!」
 向かう汰磨羈に破戒僧は頭上で丸太を回転させて迎え撃つ。
 我は既に戒律の中には非ずの破戒僧。
 回転させた丸太を振り下ろす。その太い腹に、ソアの拳が衝突した。
「その丸太とボクの爪のどちらが強いか勝負しよ」
 組みあったままの状態で、活性化したソアの雷が身体で弾ける。
 乱れ咲くのはソアの爪。雷撃を纏った妖華の斬閃。
 しかし気を取られている場合ではない。
 瞬間、そこへ放たれる緑色の『ゴォン』閃光。
 ……ん? 今当たった?
 ムスティスラーフが位置しているのは破戒僧と鐘を捉えた直線上。
 僧の身体で緩和されたか、僅かに揺れた鐘の手前、ゲ……緑色の光の中から手を払って僧が姿を現す。
「光の星から魔を討つために!」
 そのやや前方で掌を空へ掲げるのは優。
「来たれ、我らのウルトラ――じゃなかった、星の戦士よ!」
 その腕に宿るは外なる神々からの混沌の炎。片手を突き上げたポーズと口上は何処かの三分戦士を呼び寄せそうだが関係は無い、良いね?
 星々の加護が優の拳を輝かせる。深淵より出でた業炎の腕。
 強烈な打撃を和らげるように受ける衝撃で後退する破戒僧、それを逃さず追撃の優の炎腕は二度目の殴打をその身に浴びせる。
 その怯みを狙ったのはイズマ。
 ここまで見てきた僧の動き。飛び込んだシラスへ右に一振り、続く汰磨羈へ左に横薙ぎ。丸太を棒術のように振るう腕力。
 ソアが爪で弾く音。激しく叩き付けた後に身体を捻り、慣性を付けた光の速度の回し蹴り。
 ムスティスラーフと飛呂からのダメージは恐らく、耐え忍んでいるだけだ。反撃に向かおうにも先の三人、優と昴を含めた五人が居れば出来る筈も無いか。
 尚もイズマの目は追う。フェイント気味に放たれたソアの蹴り、かろうじて反応した破戒僧が、丸太を背中側に回して器用に身体の裏側から突きを穿つ。
 両腕を交差させて受け止めたソア、それでも後方へ飛ばされるのは止む無し。
「やってくれたね」
 口角を上げたソアの肉体に、一層強く光が弾ける。
「……そこだ!」
 この一瞬。
 動きを止め、汰磨羈の剣筋に耐え次の一手に臨まんと構えたほんの数コンマの硬直。
 その中心に、溢れ輝くイズマの光剣が振り下ろされた。
 咄嗟に、破戒僧は丸太を盾に身構える。問題無い。
 狙いは最初からそっちだ。
 ただ破戒僧のあの体勢、両手で支えられた丸太に影響出来るかどうか。
「ならば、一手加わればどうか!」
 重ね、今一度汰磨羈の刀より放たれた絶禍。呪詛の籠った妖刀が織り成す陽の十字閃。
 対象は丸太を持つ破戒僧、その右腕へ。
 体勢を崩された丸太に細剣の筋が走る。
 一瞬遅れて罅割れたそれを見て、破戒僧が完全に両手を離す。
 それと組み合ったのは昴だ。
「どちらの力が上か勝負といこうか」
 丸太を振り続けてきた男の腕と、防御さえも捨てた殲滅重視の昴の上腕二頭筋。尤も、昴の場合はその肉体こそが鋼ではあるが。
 昴の口元がほんの少し上がる。
 破戒僧がそうしたように、そいつを丸太のように頭上に持ち上げ回転、地面へ叩き伏せた。
 追い打ちに繰り出されたのは、あまりにも無慈悲で暴力的な闘氣の拳。
 一息吐く音が聞こえれば、シラスの身体に再度魔力が充填される残影。
「破戒してるんならお経はいらねえよな?」
 急所狙いのシラスの一撃一撃が鳩尾と喉に突き刺さる。
 飛呂の魔弾が望み通りに左肩を貫き、連続するは爆ぜる汰磨羈の一太刀。
 ムスティスラーフの魔空間が僧の周囲を浸食する、その空間丸ごと叩き付ける優の衝撃波。
 やっと起き上がった破戒僧を待ち受けていたもの。
 それは反撃に燃え膨れ上がる雷。
 狩りでもなく、威嚇には程遠く、唯相手を屠る為だけの力の解放。
「これで、バイバイ」
 死に塗れた雷が破戒僧の身体を直撃する。
 肉が焦げる。視界が光の一色に染まる。魂ごと、焼き尽くされる。
 荒ぶる雷撃の後、黒に染まった破戒僧が膝から崩れ落ち、力の抜けきった身体は前のめりに地に伏せた。
 物言わぬ肉塊と成り果てて。


「さて……」
 両手を打ち鳴らし、シラスは身体の向きを大鐘へと変える。
 まだ終わりではない。しかし彼に取っては興味をそそられる対象だろうか。
 問題の大鐘は破戒僧に打ち鳴らされる事は無かったが、位置取りも離れていたためムスティスラーフの光閃以外ではほぼ損耗もしていない。
 立ち上がったのは七人。
 それを観客席でソアが見守る。
「みんなこういうの好きだねえ」
 ホントですよね、男子って皆そう。
 ちょっと待って済みません! 女の子もいらっしゃるんでした!
 それぞれ破戒僧への痛打以上の構えを見せているのが気になるところだが、まず前に出たのは優だ。
「慌てることはないでしょう。最悪、適度に回復を図りながら……」
 放るように振られた炎腕。
『ゴオォォン』
 これだけでもかなりの衝撃だ。そして響く、聞き慣れたあの音。返って来るその衝撃。
 音がモロに身体に伝達する。
 そしてここはカフェ・ローレット。
『……何か今、カフェ攻撃された……?』
『いや誰にだよ』
 遠くのやり取りは露知らず、二人目が前に出る。
「えっ、俺も鐘も突かなきゃ駄目か?」
 もう聞きたく無いとウンザリ顔の飛呂。破戒僧とまとめて祓えたなら重畳だったが、こうなればヤケだ。
 幸いにして鐘は元々から在るもの。それを突く為の棒も設置されている。
 比呂はその紐を徐に掴むと思いっきり、力任せに鐘へ叩き付けた。
 二回や三回ではない。もう煩悩をと言うよりそちら側に憑りつかれた何かが見え隠れしている。
 そしてここはカフェ・ローレット。
『ほらやっぱり衝撃来てるって!』
『いやこれ……衝撃っつーか腹いせの嫌がらせだろ! クッソ五月蠅ぇんだけど!!』
 そう、ここまでは想定していたのだ、私も。
「強烈なダメージを与えるとどうなるのか……まずは、私がそれを試そう」
 汰磨羈の目を見るに、どうやら甘い目算だったようだ。
「とびっきりのモノをぶち込んでみるから、少し離れておいてくれ」
 まずは六刑地獄から陰の太刀。充分な負荷が掛かったと見た汰磨羈の手には、破戒僧を追い詰めた白陽の剣。
 基本姿勢から下ろされた、全く邪魔の無い一振り。
 尚も止まらない。己の限界を見極めつつ、体力を取り戻したところで水銀のような水を掌に変えて撃ち飛ばし再度の烈剣。
 そしてここは。
 幻想王国。
『どうかしました? ミレイナさん』
『あ、い、いえ! 今、何処からかお寺の鐘の音が……』
『はは、そんな馬鹿な。寺なんてこの近くには無いでしょう!』
『でも……凄く鋭い音だったなぁ。うーん、やっぱり気のせい……?』
「鐘に負けないくらいおっきい攻撃がんばろー!」
 ムスティスラーフは耳を塞ぎ、口を大きく開けた。
 やはりアレか。アレが来るのか。相手は動かない、今なら溜め放題だ。
 まずは小さく、鐘を揺らせば返ってくる波のような衝撃。
 溜めた霊力と蓄積した反動、より圧縮された文字通り大口径の主砲。
 先に放ったものより数段強力な超むっち砲。
 カフェ・ローレット内に怒号が響く。
『うおぉ!? 何だ今の音!?』
『大変だ! 仲間が一人今の音で……!』
『倒れた!?』
『……着てた服が全部破れたって』
『何で!?』
 鐘の前に深く腰を落としたのは昴。
「どれだけ硬くとも、この拳でもって粉砕するのみ……!」
 苦難を破る為の栄光の光をその手に。
 放つは鈍重な一撃。その重さに鐘の方が反応出来ていない。
「……鳴らない?」
 優が疑問符を打つ。
 いや、そうではなかった。確かに鳴っている。正確には、鳴り始めている。
 あまりの膂力にじわじわと痛みを思い出しているのだ。鐘が。
 時にここはカフェ・ローレット。
 aPhone10の音が止まない。
『今度は何だ!?』
『昨日出現した煩悩系の夜妖が……』
『逃げられたのか!?』
『今の音で消滅したって……』
『だから何で!?』
 イズマは一番良い音の出所を探る。
 真ん中より少し下め。そこへ連撃を叩き込み、そして清水を持って放たれるは全身全霊の。
「煩悩も邪気も全部、吹き飛べ!」
 無限の剣光。
 そして遠くは天義の何処か。誰かの帰り道。
『……今、メチャクチャ澄んだ鐘鳴った』
『鳴ってません』
『鳴った』
『鳴ってません』
『鳴った!』
『まぁ混沌世界ですから除夜の鐘の一つや二つなんてザラに』
『聞こえてんじゃんブッ飛ばすわよホントにアンタ!!』
「最後は俺か」
 極度の集中に至ったシラスは鐘を眼前にしてその間合いから攻撃の道筋を組み立てる。万全の状態まで己を回復させ緩やかに筋肉を垂らした。
 呼吸を深く落とす、刹那。
 叩き込まれる、決定打の連撃。
 止まらない。これが普通の鐘なら当の昔に形を変えているだろう。
 まだ止まらない。能率的な魔力の消費が最大限まで攻撃の手を休めない。
 果たして鐘は。
「動かない……」
 イズマが呟く。
 いや、我々は昴の時に学んでいる。
 結果が、来る!
『再現性東京の寺の鐘が……!』
『一斉に鳴り出している……!? 共鳴してるのか……!?』
 瞬間、現場では突き終わった者の脳内に広がる青空。
 穏やかな風。地面には、爽やかに吹く緑の葉。
 走り回る子供達。不思議そうに見つめているソア。そこに鳴るのは、まるで。
 ――ゴォン。
 大晦日の、ジングルベル。
「今のは……!?」
 片膝を突くシラス。しかし、気分は何処か晴れやかだ。
 因みにだが、鐘の間近で大技を出し切った者は皆疲労困憊もいいとこである。
 こんなに音が響くのも、この夜妖憑きの鐘だったからだろう。
「はい、お疲れさまー」
 その者達を労うように、ソアが駆け寄ってきた。
 最早鐘は元通り。邪気など微塵も見えない。
 ハッピーニューイヤー、イレギュラーズ。
 今年が素敵な年でありますように。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

依頼完了、お疲れ様でした!
皆様色んなスタイルで最大火力を出されましたね。これは三段階くらいじゃ済まないなって事で五段階くらいに増えました。
多分、多分なんですがここに火力を集中させた構成だと思われるので、破戒僧は完全に巻き込まれた形になっちゃった気がします。
動かない、能動的に攻撃をしない敵だったからこその全力攻撃ではあると思いますが、そこら辺の夜妖消し飛んじゃうんじゃないですかね、これ。
よく頑張った! 偉いぞ、鐘!

一応リプレイ最後よりこちらにも注釈を入れておきますが、本当に鐘の音があんなに響いたかは定かでは御座いません。
もし響いてもそれはきっとこの夜妖憑きの鐘だったからです。
彼らの勘違い? 服が破けたのも偶然? さぁ、どうでしょう。
では、またの機会にお会いしましょう!

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