PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<くれなゐに咲く>恋散華

完了

参加者 : 15 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●くれなゐに染まり
「アラーイスさま!」
「アラーイスちゃん!」
「……? みな、さま……?」
 とっぷりと陽も落ちた頃に目覚めたアラーイス・アル・ニール(p3n000321)は、瞳を赤くして覗き来んできた友人たちの顔にぱちりと瞬いた。
「――ッ」
 わたくしは何をと記憶を探った先で、ハッと息を飲んだアラーイスが寝台の上に飛び起きる。片手で穴が空いたはずの腹を探り、片手は口元を抑える。あれだけの出血をしたのだ。犬歯と言い張れない程の牙が覗いている可能性が高く――そんな姿をアラーイスは友人たちに見られたくはなかった。
「ああ、お嬢様! お目覚めに……!」
 様子を見に来た彼女の店の従業員がそう口にして、アラーイスの寝台前へと跪いた。勝手に助力を求めてしまったことを詫び、どんな処罰も受けると額を床へと擦り付ける彼の双肩にジルーシャ・グレイ(p3p002246)がそっと手をおいた。彼の気持ちが痛いほどに理解できて。
「つまり、わたくしは……」
「アラーイスちゃん、アタシたちが勝手にしたの」
「わたしも、アラーイスさまを助けたくて」
「わたくしは……こんなことを望んでおりません! わたくしは、わたくしは……!」
 アラーイスの瞳に膜が張り、ぶわりと膨れ上がった。けれどそれは雫となって頬を濡らすことなく、ポロポロと水晶となって掛布の上へと転がった。
「……わたくしはこんな姿、見せたくありませんでした……」
 その雫型の水晶すらも見せたくないと言うように、アラーイスは両手で顔を覆った。
「勝手なことをして、ごめんなさい。こんな大怪我をさせちゃって、ごめんなさい」
 アタシが声を掛けなければ――。
 アラーイスの気を逸らさせてしまったことを理解しているジルーシャは内心己を責めていた。何としても助けようと血の提供を快諾し、自ら自身に刃を立てた。自身の血で『大丈夫か』少し不安ではあったが、強いエネルギーとして受け入れられた。
「アラーイスさま、わたしは」
 従業員は『理由は言えないが、血が必要なのだ』と告げていた。
 その血を輸血するわけではなく青白い顔で横たわるアラーイスへと吸い飲みで飲ませたことから、メイメイ・ルー(p3p004460)は理解してしまった。彼女が血を飲む存在なのだ、と。
 けれど、それでも。メイメイは彼女の傷の治癒をしながら、迷わず血を提供し続けた。どんな隠し事があろうとメイメイにとってアラーイスは大好きで大切な友人で、助かって欲しかったから。
「……わたくしのことをお話せねばなりませんね」
 今は顔を見られたくないからこのままでもよろしいですかと断って、アラーイスはジルーシャとメイメイに話していく。
 今まで太陽を避けてきたのは吸血鬼であること。命令で酷いことをいくつもしていること。モモを吸血鬼にしたのは自分であること。たくさんの吸血鬼たちを養っていること。友人の血を貰いたくなかったこと。ずっと人間の血を口にしていないこと。それ故に弱まり、勝手をする者たちを抑えるために奔走していて忙しいこと。命を長らえたいとは既に思っていないこと――。
「わたくしはあの子たちを護らねばなりません。ですので、どうか」
 内密に――。
 従業員からも請われたが、アラーイスもローレットへは報告しないでほしいと願った。
 けれど。
「ローレットの助力を得てみては、どうでしょう、か」
 耳を垂れさせたメイメイがそう口にした途端、アラーイスの肩が跳ねた。
 顔を覆ったままのアラーイスは暫く無言であったが、「どのように」と震えた声が零された。助力を求める。メイメイがそれが死神の鎌と思わないのは、ひとえにローレット側の人間だからだろうか。
 ローレットは考えが一貫した組織ではなく、様々な考えをもつ冒険者たちが身を寄せるギルドだ。ローレットに助力を求めたところで、『吸血鬼ならば殺せ』と言ってくる吸血鬼に恨みを持つ者も多いだろう。親身になってくれる者ばかりではないことを彼女は知らないのだろうか。そして一度知られれば、そこが終点。リスクは跳ね上がり、アラーイスは同朋たちを守り切ることはできなくなる。
「それはわたくしたちに死ねと仰っているのと同じこと。……メイメイ様がそうお望みでしたら、わたくしは」
「ダメよ、アラーイスちゃん! 早まらないで!」
「アラーイスさま、わたしはそういうつもりではなくて……!」
「いいえ、そういうことですわ、メイメイ様」
 現時点で、策もなく、ただローレットという不特定多数の人材が集まるところへ報告するということは、そういうことだ。
 顔から手を降ろしたアラーイスは「死を受け入れる覚悟はとうに出来ております」と、普段通りの笑みに見える仮面を被って微笑んだ。

●ローレット
「匿名の情報……かな?」
 ローレット・ラサ支部へと届いた手紙を覗き込んだサマーァ・アル・アラク(p3n000320)はゆるく首を傾げた。
 内容は『血溜まり事件』の犯人についての情報だった。
 犯人は複数人であることがそこには記されていた。勘が正しければ今日にでも動くことだろうとあり、同封されていた地図には事件が起きている場所――噂に上がっていない場所にまで印がつけられており、事件の起きた順番まで番号が振られていた。そして、次はこの辺だろうと思われる区画が丸で囲まれている。
 手紙の内容を見ただけで、手紙の主はずっと事件を追ってきた人物だと思えた。
「情報が正確かどうかは別として、今は他に情報もないし行ってみようかなってアタシは思うんだけれど」
 どうかなと視線を向ければ、新道 風牙(p3p005012)が顎を引いた。
「行くってことは夜だろ?」
 オレも付き合うよと告げた風牙にサマーァは万歳と両手をあげた。
「ワタシも……行こう、かな」
「ニルもごいっしょしたいです」
 血溜まり事件がラサ全土に広がらないとは限らない。ラサに領地を持つフラーゴラ・トラモント(p3p008825)が呟けば、ニル(p3p009185)もはいっと手を上げた。悲しいことは止めないといけない。お手伝いできることがあるならがんばります!
「それじゃああとは他にも人を募って……事件を解決しちゃお!」
「遅い時間だし、温かい格好で行こうな」
「やしょく、というのもあったほうがよいかもしれませんね」
「それならワタシ、お肉を持っていこうか?」
「一番大事なのは仮眠だよ! 多分!」
 皆やる気は充分。夜になったら頑張ろうねと笑いあった。

(……この文字)
 夜の集合時間まで仮眠をするねと別れたサマーァは、『もう一通』の手紙を手にしていた。
 匿名の相手。サマーァはそのひとの文字を知っていた。
 きれいな文字を書く人だ。何度も手紙のやり取りをしてきたから間違えるはずもない。それなのに送ってきたということは――サマーァには誰からか知られても良いということだ。
 そうしてもう一通の手紙に記されていたのは――。

●娼館『アンバル』
「……アンバル?」
 開店中を知らせる明かりが灯っていない看板を見上げたルナ・ファ・ディール(p3p009526)が店名を読み上げ、ラダ・ジグリ(p3p000271)が扉へと手を掛ける。振り返り僅かに揺らされた頭は『開かない』と告げており、ふたりは揃って道を引き返す。向かうのは先刻の裏口だ。扉に手をかければ、駆け込んだ女が如何に気が動転していたかがよく解る――鍵はかかっていない。
 ふたりは店内へと侵入しようとし――やめた。
 何人居るか解らない建物内へふたりで侵入するのは得策とは言えない。況してや『どうやらここには吸血鬼がいる』と既にふたりの勘が告げており、吸血鬼と対峙したことのあるふたりにはその危険性も理解できるものであった。
 さすれば救援を呼ぶのが望ましい。片方がその場を見張り、片方が仲間を呼びに行く。そして呼びに行くのならば、機動力の高いルナが動く。
 運良く帰路につくところの娼館帰りの男――サンディ・カルタ(p3p000438)を見つけたルナは彼にラダが居る場所を告げ、向かってもらった。
 次に、アラーイスの店の緊迫した様子にスッと身を引いたチェレンチィ(p3p008318)を捕まえ、彼女は飛行で家屋を飛び越え、ルナは半身を獅子として素早く駆け、ラダの元へと戻った。
 ラダの元にはサンディが到着しており、戻ってきたルナの姿を見ると顎を引いた。どうやら娼館に動きはなかったようだ。
 四人は闇に紛れるように静かに動いた。
 扉に手をかけ、体を滑り込ませる。
 裏口から入った場所は厨房のようで、店をしめているせいか人は誰もいない。
『――たすけて。どうしよう、このままじゃ……』
 こどもの声を人助けセンサーが拾い、ラダは周囲を見渡す。近くで反応があるものの、正確な位置は解らない。
『おねえちゃんをたすけて。どうしよう、どうしよう』
 幼い声が、心の中で助けを求めている。けれどもどうしようもないのだろう。
『ぼくに血をくれようとしないで。おねえちゃんが……しんじゃう、よ』
 ザッと1F探索した四名は階段を駆け上るが、2Fにも誰の姿も無かった。店を閉じているため、そこには静けさのみが存在していた。
 なれば何処か――。
 そう考えて、思い当たる。
 ――吸血鬼ならば陽を避けるだろう。
「地下への通路を探そう」
 そうして四名は、地下室で身を寄せるアンバルの住人――吸血鬼たちを見つけたのだった。

●とある女の胸中
 ――ひぃさまが、しんでしまいました。
 それは、妾にとっての最悪の事態でした。
 ひぃ様の仇を取らねばならないという強い怒りと――谷底を覗き込むような不安。
 みな、ひぃ様に恋をしていたのです。雛鳥のように母から与えられる寵愛を欲しておりました。褒めて頂けるのならば、どんな命令にも応えられると信じておりました。愛されていると盲目に信じ、愛を、心を、身を、捧げておりました。
 ですが、ひぃ様亡き今――同朋たちは『悪しき者』と断罪されることでしょう。
 与えられた命令に従っていた者たちは、ひとりで生きる力のない者たちは、どうなりましょうや? 妾のように強者から力を与えられた者ならばまだ良い。けれどそうではない者は?
 妾は同朋たちを守らねばならない。見つからないように生きていく道を探さねばならない。例え妾がいくつ嘘を塗り重ねようとそれがあの子達のためになるのならば――。
 いくつもの命を預かる身としての責任が、双肩に乗りました。一挙一動で全ての命が失われるかも知れない。ならば仇を討つ時を見極めねばなりません。より深く爪痕を残せるように騙して――ですが、それは同朋たちを巻き込むということ。……他の命を預かる以上、思慮深くあらねばなりません。

 最愛の月が失せてから、日毎に『洗脳』が弱まっていっているのだと感ぜられました。
 仇を討つことよりも、同朋たちを生かすことが大切になっていきます。
 知られずに、断罪されずに、このぬるま湯のような生活がずっと続けば良いのに。
 あの想いは洗脳だったのでしょうか。妾は――わたくしは恋だと信じていたい。
 ――ああ。この『恋』が尽きる前に燃え尽きてしまえたら、なんと幸せなことでしょうか。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 前後編の後編ですが、よくわからんがラサで起きている事件を止めればいいんだな! と【1】へお気軽にご参加ください。

●シナリオについて
 戦時に上司の命令で殺戮を行った兵に罪はあるのでしょうか?
 絶対的な支配の元で命令を遂行していた者たちに罪はあるのでしょうか?
 その罪はどうすれば精算されるのでしょう?

 PCが直接見聞きしていないものはPL情報です。PCは知らないはずです。
 プレイングが公開されないので、自由に記してください。

●行動場所
 誘導がない方は【1】になります。

【1】血溜まり事件
 時間帯は夜から深夜。サマーァが皆さんと頑張るぞーしています。
 先日探していた区画とは違う娼館のある通りを探索します。
 探索が上手く行った場合、事件前に犯人に辿り着けます。が、探索が上手く行かなかった場合は被害者が出ます。

《敵》はぐれ吸血鬼の男女…計2名
 最初はもっといましたが、アラーイスが刈り取っています。
 彼等はアラーイスに邪魔をされて腹を立てています。そのため邪魔をされると「アイツの手下か!」とか言いながら排除しようとしてきます。
(※彼等はアラーイスの名前等を知りません。此処ら辺で隠れ住んでいる吸血鬼たちを守っている強い吸血鬼、という認識です。)

【2】アラーイスに寄り添う
 アラーイスはおふたりには全てを話しました。
 おふたりがCを選択した時点でアラーイスは死を選択するところだったのですが、おふたりの意見が割れたため、アラーイスに可能性と生きる希望を示す時間となります。
 アラーイスはおふたりのことを信用していても、ローレットのことを信用してはおりません。『誰か』や『ローレット』に丸投げはただ考えを放棄しているだけで救いにはなりません。

「いつかこんな日がくると知っておりました。わたくしひとりならば何処でも生きられることも知っておりました。それでもわたくしはあの子たちを切り捨てることが出来ないのです」

※ジルーシャ・メイメイのみ
 ですが、どうしても他者を呼びたいと望むのであれば、ふたりが呼んだ人(追加上限二名・【3】に誘導が出てる人は呼べません)のみ追加参加可能です。その際は誰を呼んだかをプレイングに記してください。
(呼ばれていない方の描写はありません。)

【3】娼館『アンバル』
 アラーイスが経営する店のひとつ。彼女の庇護下にある吸血鬼たちのための居場所です。娼婦・男娼として、彼らは一夜の夢を提供する代わりに少量の血液を得ています。貧血ではない者たちはもっと幼い子たちのために血の提供をし、助け合って生きています。人数は全部で30名ほど居ます。
 ……だったのですが、上記のはぐれ吸血鬼たちがネフェルストで『狩り』を始めたため、バレる訳にはいかない『アンバル』は店を開けられなくなりました。また、店を開けていると『狩り』による血の香りが彼等を刺激してしまうのも要因のひとつです。
 腹を空かせています。獣の血で誤魔化して繋いではいるものの、人の血の魅力に抗えません。弱い吸血鬼ほど自制心がききません。そのため、前回のOPのような事件が起こり他の同朋を守るために『粛清』される者も出ました。吸血鬼の血は花弁となって風が撒き散らしてしまうため、発見時には被害者一人分の血溜まりしか残っていません。

 ルナさんが会った女は、血の乏しい体で男の子に血を与えようとしています。自らが死んだとしても彼の命を繋ぎたいようです。
 事情が話せる状況となれば、彼等はポツリポツリと話すようになるでしょう。
 『お嬢様』と呼んでいる強い吸血鬼の配下であること。『お嬢様』は人の血を口にしなくなり弱っていること。普段どうやって自分たちが血を得ていたか。そしてそれを得られなくなった上記の理由。
 彼等の事情を知ってしまったあなたたちは、彼等が生き残る術を探すことになります。

※ルナ、ラダ、サンディ、チェレンチィのみ

●共通【最終的な判断】
 アラーイスが吸血鬼であるかが他の人たちに明かされるかは【2】次第ですが、「はぐれ吸血鬼が居た」ことから、「他にも悪さをしていない吸血鬼がいたら」についてを考えて頂きます。
 イレギュラーズたちの考えは一辺倒ではないため、多数決となります。
 多数決を無視して「殺す」行動を取ることも可能ですが、それを見越して守ろうとすることも可能です。

・吸血鬼たちを生かす
 今までアラーイスがひとりで頑張って来ていました。生かすのであればそれを越える具体的な案が必要となります。具体的な案がなくては『殺す』と変わりません。遅いか早いか、です。
 具体的な案は『それを自分が行えるか』『責任を負えるか』で考えてください。アラーイスは匿っている吸血鬼たちの命の責任を背負って今日まで生きてきています。

・吸血鬼たちを殺す
 どうあろうと吸血鬼は敵!

「ここで潰えた方が幸せかもしれません」
 アラーイスはそう感じているため、死を受け入れることでしょう。

●同行NPC
・アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
 狼の獣種の少女。アルニール商会の主。
 ……というのは世を忍ぶ姿で、吸血鬼。瀕死となったところをメイメイさんとジルーシャさんから血の提供を受けて一命をとりとめています。
 友情を深めるにつれ、人の血を口にしなくなってしまいました。そのせいで彼女は吸血鬼として弱まっており、人に近いほど薄れた血もすぐに花弁へと変わらない状態でした。(露見しないのは権能のせいです。本来の彼女は複数の権能を持つ強い吸血鬼です。)
 同朋たちのことを愛しており、守るべき子供たちだと思っています。そのためならどんな嘘にも塗れるし、自身の命で精算できるのならばそうしています。

・サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
 新米イレギュラーズ。ラサのことなら任せて!
 【1】で頑張るぞー! します。
 なんだかいつもより少し元気がないかもしれません。何かを思い悩んでいるようです。……が、彼女の中で答えは既に出ております。
 番外パートですが、最終的な判断がなされるとサマーァとアラーイスは対話をします。このパートにおいてサマーァに害が及ぶことは絶対に起きません。

●EXプレイング
 開放してあります。文字数が欲しい時に活用ください。
 此度、関係者の採用はいたしません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 以下、選択肢になります。


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。

【1】血溜まり事件
基本的には此方。

【2】アラーイスに寄り添う
※ジルーシャ・メイメイのみ
+呼ばれた場合2名まで

【3】娼館『アンバル』
※ルナ、ラダ、サンディ、チェレンチィのみ


最終的な判断
 多数決となります。

【1】吸血鬼たちを生かす
具体的な案が必要となります。

【2】吸血鬼たちを殺す
見つかることを怯えながら隠れて生き続けるのも辛いでしょう。

  • <くれなゐに咲く>恋散華完了
  • GM名壱花
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月25日 22時15分
  • 参加人数15/15人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 15 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(15人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
チェレンチィ(p3p008318)
暗殺流儀
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
ルナ・ファ・ディール(p3p009526)
ヴァルハラより帰還す

サポートNPC一覧(2人)

サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
くれなゐに恋して
アラーイス・アル・ニール(p3n000321)
恋華

リプレイ

●陽の下を歩けぬ者たち
 暗がりに、多くの者が潜んでいた。
 地上部に人が訪れたことに気が付いていた彼等は酷く怯えた表情で、『ああもうおしまいなのだ』と恐怖していた。『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)は静かに仲間たちへと視線を向けると、『何もしない』を示して両手を上げた。一等大事なのは最初の言葉と態度だと、理解して。
「安心してくれ、摘発でも襲撃でもない。お前達、烙印の被害者か?」
 身を寄せあう人々は互いの顔を見合い、どう答えようか悩んでいるようだった。
 私はこういうものだと『アイトワラスの印章』をラダが示せば、数名がアッと声を上げた。知っている商会だ、と。
「商人……ですか? ここに、一体何を……」
「無断で上がってしまってすみません。どうにも様子がおかしいと気になり……」
 それからと『暗殺流儀』チェレンチィ(p3p008318)が眼帯を捲って烙印の後遺症で水晶になったままの左眼を見せ、「ボクも烙印を受けたことがあって」と告げた。同様に烙印を得たことのある同行者たちもその証を示した。
「……そこの。さっきの娘だな?」
 周囲を見渡した『駆ける黒影』ルナ・ファ・ディール(p3p009526)は、先刻遭遇した娘を見つけた。彼女はぜえぜえと荒い息を零しながら倒れ込んでおり、小さな男の子がぎゅうと彼女を抱きしめていた。
「お、おねえちゃんに、ちかよらないでっ」
 大きな大人が怖いだろうに、目に涙を溜めて少年は女性をかばうように抱きしめる。その声で、ラダはすぐに察した。
「助けを求めていた子だな? 安心しろ。私はお前達を助けられる」
 本当に? 問いかけてくる視線にはやはり疑念が多い。けれども少年は腕の中の女性とイレギュラーズとを何度も見て、蚊の鳴くような声で助力を求めた。
「腹が減っている者は別室へ行こうか」
 移動できる者は別室での血の提供を、動けない者は血液瓶での提供を。今すぐに提供できるものは限られている。けれど今できる限りのことをする、と『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)が促した。
 血液の提供を行い、話を聞こうかと思ったが――時間を見れば日の昇る頃。
 太陽を不得手とする吸血鬼たちが日中を避けることを知っている『経験者』たちは、彼等を急かさず休息を取らせることにした。不眠と空腹は気を逸らせる。まずは落ち着かせ――イレギュラーズたちも交代で仮眠を取ることとした。

 夕刻、吸血鬼たちが目覚め始める。
 まずはこの娼館の主は誰かと問えば『お嬢様』という単語は出るものの、彼等は決して口を割ろうとはしない。ラダとルナの目にも、絶対的な信頼を彼等がその者へ覚えていることが映った。
「この娼館では安全に血を得られていたのですか?」
 チェレンチィの問いに、ウェーブ掛かった髪の美しい女性が顎を引いた。
「気付かれないくらいの僅かな血をほんの少し。それで上手く廻っていたのですが、はぐれ吸血鬼が暴れ出してしまいまして……お嬢様は少しだけ耐えて欲しいと私たちのために……」
「……あのままではお嬢様が倒れてしまうのに」
「そのお嬢様については矢張り教えては貰えないのか」
「……私たちはあの方を裏切りたくありません」
 なので助力はここまででいいと吸血鬼たちは揃って答える。吸血鬼たちが寝ている間にも追加の血液瓶を運んでもらったため、暫くは繋いでいける。イレギュラーズたちは此処でのことを外部に漏らさないと約束してくれたから、それを信じると彼等は口にした。
「もしくは……」
 最初にルナたちと出会った娘がそろりと口を開く。何人かが迷うような視線を彼女へと向け、けれども仕方がないと判断したのか、頷きあった。
「お嬢様はいずれ此処へいらっしゃいます。『偶然』お会いになるのでしたら、大丈夫でしょう」
 ウェーブの髪の女性がそう言った。まとめ役なのかもしれない。
「じゃあ待つか」
 あっさりとルナが頷き、外へとファミリアーを放っておく。数日ははぐれ吸血鬼も大人しくはしているだろうが、何か起きるかもしれない。警戒はしておくにこしたことはないだろう。
「茶でもどうだ? 体があたたまるぞ」
 体が温まれば血の巡りもよくなるし、思考も上向く。悲観するばかりにならぬようにとサンディが茶を振る舞えば、アンバルの者たちにも笑みが溢れるようになっていった。

●希望を示して
 瞳を丸くして小さく息を飲んだ『約束の力』メイメイ・ルー(p3p004460)は、拳を握る。眼前に居るのは小さな少女ではなく、細い双肩に沢山の命を背負った女なのだ。
「ごめんな、さい」
 悪さをする者の始末程度にメイメイは考えていたが、従業員やアラーイスが内密にと言ったのは己等の正体のことである。
「わたしも、力になります」
 改めて決意を瞳に宿したメイメイが触れても大丈夫だろうかと手を彷徨わせる。
「なりたい、です」
「モチロン、アタシも力になるわ」
 メイメイもアラーイスも遠慮をしてしまっている。その両手を引いて、ギュッと『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)は大きな手で包み込んだ。
「アタシも……吸血鬼の命を奪ったわ」
 だから、償わなければいけないのだとしたら自身もだろうと眉を下げる。
「でも……だからこそ、諦めたくない。アンタも、アンタの大切なものも、全部守りたいの――守らせて」
「わたくしは護られるような存在では」
「何言ってるの。アタシはいつだって女の子たちの味方よ!」
 ね、そうでしょう?
 茶目っ気のあるウインクに、アラーイスの眉が下がっていった。

「……こんにちは、アラーイスさん。私の事を……知ってる、かしら?」
 人を一人呼びたいとジルーシャが言ったから承諾したアラーイスであったが、訪れた人を見るなりバッとジルーシャを見た。ひい様のお姉様を呼ぶだなんて聞いておりませんわ~の視線だ。
「え、ええ。存じております……エルス様。わたくしはあなた様の義妹姫様から力を与えられた者。知らぬはずがございません」
 それなら話が早いわねと『祝福(グリュック)』エルス・ティーネ(p3p007325)が微笑んだ。
「あなたは私のことが憎い?」
「いいえ」
「あなたの主を手にかけたのに?」
「ひい様はそれを望んでおいででした」
 最初は憎んだ。エルスを――ではなく、ローレットを。
 今でも矢張り憎いと思わぬ事もない。けれど、お互い様でもあるのだ。
「私はあなた達の居場所を作りたいと努力したいと思うわ」
 ラサに領地を持っており、自身も吸血鬼であるエルスの提案に、アラーイスは瞳を丸くする。まさか女王の義姉君が手を差し伸べてくれるとは思ってもいないことだったのだ。……ふたりの間には確執があると思っていたから。
 アラーイスの蜜色の瞳が揺れて、ジルーシャとメイメイへ向けられる。ふたりは笑顔で見守ってくれていて、メイメイは今度はしっかりと腕を伸ばしてアラーイスを抱きしめた。
「大好き、です。アラーイスさま。貴女を嫌いになんてならない。生きて、貰いたいです」
 アラーイスが罪だと感じているものは、罪だろう。けれど死だけが償いではないし、人によっては死んで楽になるなとも思う者も居るだろう。
「一生を尽くして……それで許されなくても、生きて」
 それがアラーイスの償いだと告げるメイメイは、そんな友人の幸せを願う自身も罪深いと感じていた。けれども、大切なのだという心を押し込めることなんて出来ない。
「私達は長命種……死ぬ事より生きる事の方が苦しいと思う事もある。それでもあなたに生きて欲しいと願う人が居る事を信じて欲しいの」
 最低でもあなたの眼前には三人居るわとエルスが微笑んだ。
「生きて……そうして、私と話をしてくれたら嬉しいわ。あの子ったら頑固者で、全然私に甘えてくれなかったの。だからあの子を知ってるあなたにはあの子が生きていた時の事を教えて欲しい」
「アタシも、生きて欲しい。アンタが守っている子たちも、皆そうよ。だから……アラーイスちゃんも、ちゃんと『栄養』を摂って。アンタが元気でいなくちゃダメでしょ」
「わたくしは……もうずっと『どう死のうか』ばかりを考えておりました」
 どうすればこの優しい友人たちは自分を殺してくれるだろうか、と。
 ぽつりぽつりとゆっくり零される言葉を、三人は急かさずに待った。
 今までのことを明かしただけでもかなりの決断であった。今までずっと秘めていたことを言葉にするのは難しく、また考えを改めることも難しいことだ。
 けれどもアラーイスは受けた言葉を受け止めて、賢明に言葉を探していた。
「生きても良いのでしょう、か」
「ええ」
 エルスが言った。あの子の義姉である私が許すと。
「当たり前よ」
 ジルーシャが言い切った。彼には見知らぬ人より、友人の命の方が大切だ。
「いっしょにいさせてください」
 メイメイが抱きしめる。慈しみを籠めて、小さな体にこの気持ちが届くようにと。
「……生きたい」
 涙が溢れ、晶石へと固まる前にメイメイの服へと染み込み消えていく。
「わたくしは、生きていきたい。叶うなら、皆様と……!」
 口にしていなかった血もちゃんと摂取するとアラーイスは約束をした。ジルーシャが血の提供を申し出るとメイメイもすぐに挙手をして。その勢いに可笑しそうにくすくすとアラーイスが笑えば、安堵したような笑みがその場に溢れた。

 ――――
 ――

 深夜、フードを目深に被ったアラーイスがジルーシャに支えられながら娼館へとやってきた。商会側の従業員に様子を見に行かせたところ、イレギュラーズたちが居ることが知れたからだ。
 ――本来なら、まだアラーイスは歩き回れるほどに回復してはいない。それでも娼館の子たちの身に何かあったのかと蒼白になったアラーイスは止める声を振り切ってでも向かおうとし――そうしてその場に居た全員を伴い向かうことにしたのだった。
「矢張り『お嬢様』はアラーイスさんでしたか」
 意識を失っているアラーイスの姿と、彼女を店に運んだ後の従業員たちの言葉を耳にしているチェレンチィは柔らかに微笑んだ。
 彼女の細やかな気遣いを知っている。優しい人だからきっと何とか人と共に生きる道を探したのだろうとチェレンチィは思っていた。
「此方へ座ってください」
「ありがとうございます」
「……お怪我を?」
「大丈夫よ」
 立っているのは辛かろうとチェレンチィが椅子を用意すれば、ワラワラとアンバルの者等がアラーイスへと近寄っていく。アラーイスは子に接する母のように彼等の頬や頭を撫で、それから座ったままでごめんなさいと口にしてからイレギュラーズたちへと頭を垂れた。
「この子たちを救ってくださってありがとうございます。アルニール商会はいくつもの店を持っておりますが、ここがそのひとつになります」
 そうしてアラーイスはアンバルに居たルナたちと、そして一緒に来たエルスたちへ、この娼館の仕組みを詳しく話した。概ねアンバルの者が話した通りであるから、メイメイたちへの説明である。サンディは幼い子たちを中心に別室へと連れていき、曲芸等を見せてやっている。アラーイスの店は無理なことは普段させないから、血を得られた幼い彼等は安心した表情でキャラキャラと笑って過ごしていた。
「血液瓶、というものがあるのですね……」
 決して多い訳ではないが入手が可能なものだと知ったアラーイスは、顎へと指を這わせた。
「もっと簡単に入手できれば……」
「私は将来的に血を買う組織を作りたいと思っている」
 ラダがそう思うのは烙印の後遺症に悩む者や旅人の吸血鬼等、必要としている者がおり、そしてラダ自身が烙印でその苦しみを知ったからだ。ラダの言葉にルナも顎を引く。彼女の商売にはルナも協力を惜しまないつもりだ。
「ラダ様。わたくしにもその商売、噛ませて頂いても?」
 生きて償って行かねばならなくなったアラーイスもまた、自身の元に居る子達以外の者も救いたい。多くの者が救われるように、人らしい生活が送れるように、そのために今までアラーイスは商売をして銭を稼いできたのだから。
「勿論、構わない」
 使える伝手は使う。商人とはそういうものだ。
 血液を確保でき、此処の情報が秘匿されると知り、アラーイスの双肩から力が抜けた。
「これで……選択肢が増えます。後は……」
 アンバルの者たちにも選択する自由を与えてあげられる。
「アラーイスさま」
「はい、メイメイ様」
 話す相手をしっかりと見極めた上でなら、助力を求めてみようとアラーイスの心が変わった。
 たった半日でこんなにも色々と考えてくれる人たちに出会えたのだ。探せば居るはずだと、そう思えたのだった。

●血溜まりを消そう!
「…………様…………」
「へ? あ、ごめん。呼んでた?」
 はいと答えた『おいしいを一緒に』ニル(p3p009185)は気遣わしげにサマーァ・アル・アラク(p3n000320)を見た。
「ぼーっとしちゃってた。何だっけ」
「ニルは、昼間に少し下見をしました」
 サマーァは仮眠をしていたけれど、眠らないでも大丈夫な秘宝種であるニルは地図を手に歩き廻り、人目のつかないポイント等を抑えたのだと地図を見せてくれた。
「じゃあニル、アタシと一緒に廻ってくれる?」
「はい、勿論です」
「それと……あっ、ゲオルグ、いいかな?」
 サマーァは商人としての出入りがあるから顔が利くけれど、ニルもサマーァも子供のように見えてよくはない。大きな大人が居て欲しいなと頼めば、『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は顎を引いてくれた。
「ジークの冬衣装はもうできた?」
「ああ、先日良い具合に完成した」
 アラーイスが紹介した糸屋で買った毛糸を使って作った衣装を着た羊の『ジーク』はとても愛らしい。満足のいく出来となったと感慨深げなゲオルグの声に、パッとサマーァとニルは表情を明るくした。見たい見たい!
「事件解決したら見せ……あれ、祝音だ。ねー、祝音! 祝音も一緒に行動しない?」
 ふいとひとりで娼館通りへと向かおうとしている『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)を見掛けて、サマーァは小走りに彼へと駆け寄った。サマーァは裏通りの怖さを知っているが、祝音みたいな子はきっと知らないだろうと思ったのだ。
「ううん、僕は大丈夫」
 チラリと祝音の視線がサマーァの後方へと流れ、それから首を振った。大人は居るんだと式神に大人の姿を取らせれば、サマーァの瞳が「おお」と丸くなった。
「何かすごく便利そう」
「お手伝いをしてくれるんだ。みゃー」
「えー、いいなー。荷物運んだりとかもしてくれそ……っと、話がそれちゃった。大人が居ても気をつけてね! 祝音は可愛いんだから……えっと、変な人に声を掛けられた股間をこう! だよ!」
 えいっと蹴りをしてみせるサマーァの後方では「こかん?」とニルが首を傾げ、間違ったことは言っていないとゲオルグも突っ込まない。
「サマーァさん達も……気を付けて、ね」
「うん!」
 危ないことがあったら呼んでね、絶対にだよとサマーァは念を押し、手を振って別れた。

「ああ、商談で遅くなっちゃった」
 暗い夜道をキョロキョロ。帰路を急ぐていで行くのは『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)。昼の時間から『人工血液瓶』を売る商人のフリをして動いていたため、昼間に見掛けた者たちからは「気をつけてなー」んんて声を掛けられている。
(……今のところ怪しいところは無さそうだな)
 彼女よりも後方を『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)がつけていく。
(それにしてもサマーァ、少し元気が無かったな)
 やはりこの事件が心配なのだろうと、風牙は思った。早くこの事件を終わらせ、犠牲者を出さないようにしなくては! そのためにも犯人をひっ捕らえるぞ!

「ボクね、気配でなんとなくわかるの」
 吸血鬼を感じ取る力。そして『殺意』の探知。
 ふたつの感覚が、重なることに気がついた『無尽虎爪』ソア(p3p007025)がみぃつけたとにんまり笑った。
「ハンナさん、いこ」
「あ、あの」
「うん?」
「こ、このままで?」
「うん! すっごく似合っているよ!}
「そう……でしょうか」
 今日のふたりの姿はお揃いだ。胸やら臍やらがバーンっと露出した踊り子衣装。口元を隠すヴェールは神秘的で、先刻から周囲の男性の視線が気になっている『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)はチラ、チラ、とそちらを見遣った。
「サマーァさんもすごーいって言ってたよ?」
 すごい似合ってる! なのか、胸がすごい! なのかは解らないが。
 キラキラな笑顔を思い出したハンナは『剣舞用』の剣を撫でて、ソアが見つけた地点へと急いだ。
 そこには――。
「蛮行もここまでだ。大人しく降伏するならよし。抵抗するなら覚悟を決めるんだな……っと、援軍か。助かる!」
「この人たち吸血鬼みたいだよ!」
「うん、知ってる!」
 黒装束の男にほんの少し前に襲いかかられたと思わしきフラーゴラと、その凶刃を受け止めた風牙。
 加勢するねとソアが身を低くして飛び込むのは――
「――こっち!」
 カンッ!
 鋭い音は暗がりから。舌打ちした黒装束の女がそこに。
 もみ合っているところを襲撃しようとしていたのだろう。
 ガオッとソアが吼え、錠剤で暗視を得ていたハンナも飛び込み、ソアのサポートをと《ソリッド・シナジー》で自身も立ち回りやすくして。
「怪我はないか?」
「結界をはりますね!」
「うん、ニル、お願い!」
 しっかりと暗視を供えた能力で周囲を見渡していたイレギュラーズたちも、騒ぎを見つければ駆けつけてくる。
 周囲の建物――破壊された場合に直せる財力がある者ばかりでないことを知っているサマーァは、皆の攻撃で破壊されてしまう前にニルが周囲を守ってくれることに安堵の笑みを浮かべ、ゲオルグが投擲した小刀を追うように駆けていく。
「ハンナ!」
「はい、サマーァ様!」
 サマーァが浅く傷つけたところへ、ハンナが必殺剣を叩き込んだ。
「ふたりだけか?」
 運悪く一般人が近付かないかを見るためにも広域俯瞰を維持したまま、ゲオルグが低く問うた。ハンナの大剣を受けて苦々しい表情をした女が吠える。
「だったらどうなの!?」
 犯人は複数との情報であったから、ふたり以上にも居るのかという問いだったのだが――女は何かに憤慨していた。
(考えられる状況は、情報提供者が何らかの手段を講じている、というところか)
「折角いい狩り場だったのに! 邪魔をして!」
「狩りをするなら縄張りをまちがえたらダメ、もうおそいけれど」
 研ぎ澄ました狩人のソアは、獲物を逃さない。
「あ。人が来ます」
「アタシが来ないようにしてくるね」
「はい、お願いします!」
 ゲオルグ同様、ファミリアーで警戒に当たっていたニルが告げれば、サマーァがあっちだねと路地を確認して駆けていく。
 その道中ですれ違った『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)に、「あっちに犯人が」と後方を指差すのも忘れずに。
 シューヴェルトは合流が遅れたが、それは被害者が出なかったということでもあるため、僥倖だ。
「すまない、遅れた。僕も手を貸そう」
 到着したシューヴェルトが剣を構え、貴族騎士流抜刀術を向けるのはフラーゴラと風牙が相手取っている男の吸血鬼。……女の方はそろそろ決着がつきそうだったため、対峙しているイレギュラーズが少ない方へと加勢した。
「君たちは何故こんなことを?」
「何故? 狩りに理由が必要なのか?」
 男が吼え、鋭い爪でシューヴェルトを裂きにくる。それを剣で受け止めたシューヴェルトは眉を寄せる。貴族は動物は狩っても、人を狩らない。
「気をつけて。その人吸血鬼だよ!」
 声を鋭くしたフラーゴラがぬいぐるみたちにパレードの行進をさせ、素早く移動した風牙が槍に『気』を溜めた。そこに一切の手加減はない。
「待った!」
 静止の声に、ちょうど女の方へと《フルルーンブラスター》で止めをさしたニルの肩が跳ねた。
「捕縛し、情報を聞き出そう」
「ハッ、情報も何も」
 シューヴェルトの言葉に、男が嗤う。
 先刻の彼の言葉の意味はそのままだ。貴族が遊戯で獣を狩るように、人が腹を満たすために獣を狩るように、吸血鬼もまた腹を空かせるから『獲物』を狩るのだ。
 だが狩りである以上、余裕がなくてはいけない。焦りは判断を鈍らせるから、腹が空き切る前に徒党を組んだ流れの吸血鬼たちが犯行に及んでいたのだ。
 今回の依頼人は『情報提供者』だ。手紙には『事件が起きぬようにしてほしい』とあった。法で裁いて済む存在であるならそうし、そうでないのであれば――。此度の犯人を法で裁こうとも、服役を済ませればまた繰り返すことは目に見えていた。
「犯人か……!」
 その時、他のイレギュラーズと接触することを拒絶して離れて遠くへ居た祝音が駆けつけた。暗視がないため戦闘音を聞いてから駆けつけたため遅れたのだ。すぐさまザッと見渡して、彼は神滅の魔剣を創造した。
 ぴくんと耳を揺らしたソアがただならぬ気配に静かに移動した。
「どいて。そいつを拷問して、情報を引き出してから殺す」
 祝音の言葉に、他のイレギュラーズたちの視線が交差した。これ以上の情報が得られないであろうことは、肌で感じている。
 シューヴェルトが嘆息とともに顎を引き、そして――騎士として吸血鬼の男の尊厳を守るために止めを刺したのだった。

●生かす道
 血溜まり事件から数日後――暫くの間は警戒し、もう起きないことを確認してから、密やかに、メイメイたちによる聞き込みや調査が行われた。
 対象は軽い話から反応を見て『吸血鬼へ同情的な態度』を取る者のみとし、『困っている吸血鬼たちが多く居るからどうにかしたい』と意見を募ってみたのだった。
「なるほど。力の量も必要な血液も、個体差がある、と」
 ひとえに吸血鬼と言っても、様々な種類が居る。旅人として異世界から訪った吸血鬼たちは数多くおり、それらは見えぬところで暗躍しているのだろう。だが、此度はヴァンピーア――異世界からきたエルスの義妹の眷属たちのことを知りたいと申し出たゲオルグは顎を引いた。
「共存する道はある、と私は思う」
「人との共存を望み、害を為したくないと思っているのなら、それはオレが手を下すべき『魔』じゃない」
 風牙はきっぱりと言ってから、むしろ被害者なんじゃないのか? と首を傾げた。
「そうだよね」
 自身も烙印を得た経験のあるソアも耳を下げる。
 けれども、えっと、とメイメイが少し困り顔で告げた。
「その、烙印としての被害者というより……どうやら皆様、『普通』に生きられなかった方たちで……」
 ラサで紅血晶の騒ぎが起きるよりもずっと前、吸血鬼――ヴァンピーアには、烙印を受け、それが『運良く』定着した場合になれるものであった。運が悪ければ? 想像におまかせしよう。勿論、悪い方向で。
 アラーイスが匿っている吸血鬼たちの殆どは、力の弱い存在である。彼等は一般的な幸せを享受することなく生きてきた。吸血鬼となる前の彼等も、なってからの彼等も。……なってからの方がかなりマシだと言える生活で、『普通』には生きられないから藁をもすがる気持ちで、特別になりたくて、烙印を受けて、命を落とさずに済んだことを喜んで、新たな生を受け入れた。
 ……アラーイスも似たようなものだが、少し違う。元は裕福な家から奴隷の身へと落とされてしまったが、彼女を救ったのは『ひぃ様』だった。力を得て選択肢を持ち、力ない奴隷を、子供を、拾った。住処を与えて、どうすれば疑われずに血を吸えるかと生き残る術を教えて、純血種からの命令をこなして生きていこうと誓いあった。
 アラーイスのことのみを伏せて、ジルーシャが「力を求めるか、そのまま消費されて死ぬかの二択だったのよ」と告げた。
「僕も貴族騎士としてなせることをしたい、が――」
「そうだな、教導すれば出来ないこともないだろう」
 シューヴェルトやサンディが使用人としての道を示してくれたが、それは難しい。何故なら彼等は陽に弱く、他の使用人のように日中に働けない。
「ニルは『おいしい』がちがうだけのひとだと思います」
 人を襲いたくないから、疑われない方法で血を得る方法を考えて行使していた、理性有る人たち。ただ、ご飯が違うだけで、それを提供できるのなら、ニルはしたいと思っている。
 練達の血液パックはどうかと提案するイレギュラーズたちが数名居た。医療技術が一等進んでいるのは練達だから、血を流通させるのに役立つのでは、と。
 血液パックを安定して入手できるようになれば、どこにでもイレギュラーズがポータルで運ぶことが出来る。それをラダが行おうと思っていること、そして名前は伏せてはいるが――アラーイスも私財でそれを賄うと告げていた。
「まあ、案さえ出れば好きに選ぶだろうさ」
 もし希望等が出た時はよろしくなとルナが、沢山の意見をありがとうございますとチェレンチィが丁寧に目礼をし、聞き込みを終えた。

●少女の気持ち
 サマーァが手紙を受け取っていることは、誰も知らない。
 誰かの秘密を流布するような娘ではない。
 だからひとり、手紙に記されていた場所へ、記されていた日時に――少女は密かに案じている友人たちが居ることに気がついていたから、「ちょっとだけ約束があるから出掛けてくるね、後で食べ歩こう!」と笑みを残して向かったのだった。
「こんばんは」
 訪ったサマーァが被っていたフードを下ろすと、チャイを淹れて彼女を待っていたアラーイスは出来るだけいつも通り微笑んだ。
 ――断罪の時間。
 アラーイスはそう思いながら筆を執りサマーァへと手紙を書いたのだ。ジルーシャとメイメイ、それからエルスと話をし、少し復調してきた『次の事件』が起こるであろう日の前日に。
 その前には『アンバル』でラダとルナ、サンディとチェレンチィとも話し合った。
「サマーァ様、わたくしは」
「あのね、アラーイス。アタシの仇討ちは終わったの」
 嘗ては『さん』付けだった呼び方も、サマーァにとってアラーイスは友人だから今では呼び捨て。
 アラーイスが口を開こうとするのを「いっぱい考えてきたから、聞いて」と手で制し、手紙を受け取ってから考えていたことをサマーァは話していく。
「知っているかもしれないけれど……アタシは盗賊に育てられたんだ。盗賊。悪いことをする人たち――で、きっと、アタシの両親の仇」
 困ったような顔でサマーァが笑う。
「両親のことも家族のことも知らずに育ったんだ。『皆』に拾われて、『皆』が共同で育ててくれている。そう思ってた。仇なのかもって今は知っているけれど――でも、アタシを育ててくれた人たち」
 顔も見たことがない両親よりも、不器用ながらも大切に育ててくれたその人たちの命が失われる方が悲しいと思ってしまうのは悪いことなのかもしれない。ぎゅっと握りしめた拳へと視線を落とした。
「イレギュラーズだって様々な命を奪っているよ。それは罪じゃないのって言われたら、アタシは罪だと思う。例えそれが魔種の命でも、魔種の人の家族だった人からすれば仇だよね。盗賊退治も、山賊退治も、沢山の命がどこかに繋がっている」
 傍にいると誤解されるぞと突き放してくれた優しい山賊が、天義の地で果てたことをサマーァは知らない。
「罪って、どこからどこまで、だろうね」
 全ての罪を問えば、『どこまで』になる。
 生まれたことが罪だと言われる者もいる。
 親の犯した罪も子供が精算すべきと言う者もいる。
 大小はあれど、人は罪を背負って生きている。
 延々と続く負の鎖。罪は罪だとしても、その先にあるのは人の心ひとつ。
 だから、断ち切れるのだ。人の心による負の連鎖は。
「アタシは断ち切るよ。そうありたいと思うから」
 きっと友人たちもそれを願ってくれている。
 そうあれるように『あの日』背を押してくれた。
 だからサマーァは、友人たちのお陰で前だけを向いていられるのだ。
 友人たちが心に種を蒔いてくれたのだから、枯らさないように咲かせ続けることがサマーァの務めだ。

 それから少し取り留めのない話をして、チャイを一気に飲み干した。
「それじゃあ、またね! 今日はバザールで食べ歩きなの!」
 また一緒に行こうねと最後に誘ったサマーァは、アラーイスの店を飛び出し駆けていく。
 今日はサンドバザールでニルとハンナとソアとフラーゴラと、お肉中心の食べ歩きをする約束なのだ。待たせすぎては案じさせてしまうから、サマーァは全速力で駆けていき――転びかけたところを偶然風牙に助けられ、ふわもこ冬仕様のジークにもふんとし、一緒に食べ歩こうと仲間を増やしながらバザールへと向かった。
 紅掛空色の空の下を駆けていく少女の背中は、未来への希望に溢れていた。

「よくなっていくのでしょうか」
 サマーァの背を見送るアラーイスがポツリと溢せば、「よくなっていくわよ」とすぐ傍の路地で待っていたジルーシャが姿を現した。何があろうと守ってみせるし、よくなるようにしてみせる。血溜まり事件の主犯を倒す前から――あの日、会話をした日からずっと、ジルーシャは情報が漏れてアラーイスが誰かに狙われないかと気にかけてくれている。
「……ね、少しだけ、手を借してくれる?」
「まあ。わたくしの手で暖を取るつもりですの?」
 冗談を言う余裕も出来たアラーイスは微笑みながら手を差し出した。
 ジルーシャは小さな両手を包み、そっと祈りを捧げた。
(――アンタが太陽の下でも自由に歩けるように)
 奇跡を、願う。
 沢山の彩りを、これから先も一緒に見たいと希う。
「ひとりにしないわ。だから……ひとりにならないで」
 アラーイスが紫彩に願ったように、ジルーシャも友を想った。
「なりません。……してなどくれませんでしょう?」
「ふふ、それもそうね」
「ずっとお友達でいてくださいね、ジルーシャ様」
「ええ。アラーイスちゃんが絶交! って泣いたって受け入れてあげないんだから」
「まあ! わたくしは泣くだけでなく引っ掻きもしますわよ?」
 くすくすと笑ったアラーイスがお茶を飲んでいきませんかと誘い、ふたりの姿は店内へと消えた。
 ――奇跡は叶った。
 だが、奇跡が叶ったことを彼等は、まだ、知らない。

成否

成功

MVP

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽

状態異常

なし

あとがき

 OPに時間の描写が出ているとおり、【3】が前回の夜明け頃から始まり、【2】が夕刻、そして【1】がアラーイスが手紙を書けるくらいまで回復しているところから解る通り数日後です。
 OPは演出で並びはその限りではありませんが、リプレイは時間帯通りの描写順にしてあります。

 最終結果への多数決は14:1となっております。
 知恵を絞ってくださり、ありがとうございました。
 一人では駄目でも、皆で力を合わせればこなせることは多いと思っています。
 アラーイスが吸血鬼であるかどうかを知っている人は【2.アラーイス】と【3.アンバル】へ参加していた人、そして領地への受け入れの提案へ吸血鬼側から挙手のあった人たちのみとなります。その関連で少し個別あとがきが出ております。

 PPPが発動し、アラーイスは陽の光を厭わなくなりました。
 太陽のみの克服ですが、これまでのような日陰だけではなく、陽の光の下を友人たちと歩けるようになります。
 まだ誰も気が付いてはいませんが、ある日唐突に気が付いて尻尾がぶわわってなるくらい驚くことでしょう。

 たくさんの知恵をありがとうございました。
 これにより、アラーイスが敵対する未来は閉ざされました。

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