PandoraPartyProject

シナリオ詳細

今回はきちんと護衛をつけたな

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●つまり
「まあ」
 豊穣は鬼灯領、深く静かな屋敷の広間で、孤児院の院長シスターイザベラは手を打った。
「旅行ね!」
「旅行、ですね」
【孤児院最年長】ベネラー (p3n000140)はいよいよかと、膝の上の拳を握った。
「そうなるな」
 屋敷の主、黒影 鬼灯(p3p007949)がうなずいた。
「ベネラー殿の身になにがおきているか、練達のエリア777の医者に見てもらおう」
「それがいいだろうねえ」
 武器商人(p3p001107)が【魔法使いの弟子】リリコ (p3n000096)を膝の上に抱きながら言う。
「名無しの魔種による呪いと、亡きお父上グドリアスの封印が、いったいどう作用しているのか長い間謎だった。エリア777といえば、人外ばかりが集まった練達の中でも雑多な場所。そこに蓄積されたウォーカーたちのデータをもとにすれば、なにか手がかりが見つかるかも知れない」
 いいコいいコと、自分にベッタリのリリコの頭を撫で、武器商人はそう判じた。
 豊穣から練達まで、イレギュラーズなら空中庭園を経由すれば一瞬、だが今回の直接の依頼人こと、ベネラーをはじめとした孤児院の子どもたちはそうではない。
「お、頭領出かけんの?」
「長めの旅になりそうですね」
「ああ」
 金銀双子こと文月と葉月が目を輝かせた。

●状況
 これはひとりの、少年の話だ。少年はみなしごで、魔種に呪いをかけられたまま幻想の孤児院へ来てしまった。呪いは暴走し、少年はビースチャン・ムースと呼ばれる吸血スライムに変じて、孤児院の院生たちを襲った。強く頼もしいイレギュラーズのお陰でからくも難を逃れたものの、呪いは未だ解けてはいない。いつまたあの吸血衝動に襲われるだろうかと、少年はうずくまって奥歯を噛み締めている。天義にある故郷の調査で、少年には呪いを抑え込む封印が亡き父によってかけられていると知れた。同時に、少年へ呪いをかけた魔種が復活した。名無しの魔種による襲撃から逃れるため、孤児院のシスターは少年と院生を、黒影鬼灯へ預けることにした。何度か名無しの魔種を撃退できたのだから、鬼灯の判断は正しかったのだろう。少年は、名をベネラーという。彼の心臓は、冷たい。

●それから
「旅行!」
 孤児院のいちばん下の子、チナナが手を叩いた。
「おそといくでちか!? いきたいでちいきたいでち!」
「遊びに行くんじゃないのよ? ベネラーの容態を検査してもらいに行くの」
 孤児院のガミガミ役、ミョールが声をとがらせる。実は今回の旅行で、誰よりもベネラーを心配しているものだから、つい態度に現れてしまうのだ。
「なんでもいーじゃねーか、同じ行くんなら楽しもうぜ」
「そーだそーだー」
 わんぱくなユリックと、いつも彼の後をついて回る幻想種のザスが声を上げる。
「まあまあミョール殿、どうせなら楽しい旅路にしたいとは思わんか。せっかくだ。思い出に残る旅行にしよう」
 鬼灯は配下の暦に命じてさっそく計画を練らせた。
 練達こと探求都市国家アデプトへたどり着くには、やはりシレンツィオから海洋を経由する海路が確実であろうと思われた。ただ、なにもない海の上を進むのだから、相当退屈になるだろうと思われた。モンスターにだって、気をつけなくてはならない。
 だが、そんなものは怖くはないよと武器商人は微笑む。
「ゴールの練達にはね、ファッションショップ【Olina】、花屋【トーメリーサ】が軒を連ねているよ。思い出の小物を買いに行くのもありだよねえ」
「いきたーい!」
 ひよこ色のワンピースがまぶしいカワイイ男の子、ロロフォイが夢見る瞳で叫ぶ。きっと彼の頭の中には、最先端のカワイイが並んでいるのだ。
 さてそれまではどうしよう。
 必要なのは、道中のひまつぶし、それからモンスターへの備えだ。練達についたら、買い物を楽しんでしまおう。きっとそのあいだに、ベネラーの検査も終わっているだろう。

GMコメント

みどりです。ベネラー君のお話、進められるかな? がんばります。

相談期間が短いのでご注意ください。

練達までベネラーくんたち孤児院の子どもを送っていくおはなしです。ゆるーい警備ものですね。
船は貸し切りの中型船で、衣食住、すべての施設が最低限揃っています。
自分で小型船を持ち込むのもありですよ。


●友軍NPC1

 今回はこの三人がお供します。EXプレで追加しても大丈夫です。残った暦は豊穣でお留守番をしています。
 文月 暦の弟枠、楽しいこと大好きなんでついてきちゃいました もちろんしっかり戦ってくれます
 葉月 文月さんのお兄ちゃん、弟のセーブ役 心配でついてきました ちゃんと戦ってくれます
 睦月 お財布係のピアニスト忍さん 買い物するなら彼がいたほうがいいでしょ?

●友軍NPC2
名もなき孤児院の子どもたち
 男『孤児院最年長』ベネラー (p3n000140) なんか呪われてて魔種に狙われてるなう
 男ユリック やんちゃ
 女リリコ(p3n000096)『魔法使いの弟子』
 女ミョール 一途
 男ザス 能天気
 ×女セレーデ さびしがりや→討伐
 男ロロフォイ 男の娘
 女チナナ ふてぶてしい
 院長イザベラ くいしんぼう
え、君ら誰? って人はみどりのGMページを覗いてみてください。フレーバーが乗っています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。


行動
メインとなる行動を選択してください。もちろん、俺はぜんぶやるぜ! でもかまいません。

【1】前半 海の旅の暇つぶし
ぼーっと海を見るのもすぐ飽きちゃう、だってこどもばっかりだもの! 三度の食事だって用意が大変!

【2】中盤 モンスター討伐
エネミー 飛びマグロ ✕10 トビウオみたいなヒレを持つマグロで、砲弾のように船を狙ってきます。友軍である暦のみなさんが孤児院のこどもをガードしてくれます、思う存分戦いましょう!

【3】後半 練達にて買い物を楽しむ
ファッションブランド「Olina」
 『喜びに満ちた』を意味するブランド名に則って、普段着から礼服まで幅広い取扱いで人々の生活へと寄り添う。
花屋「トーメリーサ」
 「あなたにぴったりの花を見つけます」という触れ込みで、生花やミニブーケ、押し花の小物など幅広く売ってくれる。
 もしかするとかわいい店長に会えるかも?

  • 今回はきちんと護衛をつけたな完了
  • ベネラーくんのおはなし
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月21日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談4日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

武器商人(p3p001107)
闇之雲
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ファニアス(p3p009405)
ハピネスデザイナー
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

サポートNPC一覧(2人)

リリコ(p3n000096)
魔法使いの弟子
ベネラー(p3n000140)
怠惰な寛容

リプレイ


「いろいろあるかもがけどみんなでお出かけ楽しい~! 楽しもう▲」
 くるっとまわってウインクしながらポーズを決めた、『ハピネスデザイナー』ファニアス(p3p009405)の声かけに、子どもたちがおーと手をあげた。
 そんなわけで海の上。常夏のシレンツィオを経由していくせいか、気温は高く、長袖を着てきたこどもたちはさっそく上着を脱いだ。
「あー、海きもちいいなー」
 船べりから身を乗り出すユリックに、落っこちるなよと『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)が微笑みかける。
「今回は半分以上が知っている顔ぶれだ。皆、心強い」
 ベネラーも、皆も、きっと安全にたどり着けるだろうと、大地は確信していた。とはいえ。船旅というものは、退屈との戦いだ。旅行中でいうところの移動パートがやたらと多い、というかそっちがメインな感じもある。
(だったらせめて、この時間を充実した思い出にしてあげないとな)
 いそいそと荷物をまさぐる大地の傍らでは、『やさしき愛妻家』黒影 鬼灯(p3p007949)とその部下、暦たちの姿があった。
「いよいよ練達へ向かうわけだが、この船旅では、一旦、楽しむことを優先しよう」
「「了解!」」
「おい双子、あまりはしゃぎすぎるな?」
「もー、頭領は心配性だなー。もちろん葉月がなんとかしてくれますって!」
「文月、頼られるのは嬉しいけれど、今の場面はちょっとなんというか……」
 葉月の発言に、文月は複雑そうな顔をし、睦月と鬼灯は目を合わせて苦笑した。
「奥方は潮風にあたってもだいじょうぶでしょうか」
「問題ないぞ睦月、章殿はこれでもかとプロテクトしてある。なんならいっしょに泳ぐか?」
「えっ、水着持ってきてないのですが?」
「真面目に悩むな、睦月」
 ぼそりと水無月がつっこんだ。そのとき、今日も愛くるしい章姫が、海へ向かってぱたぱたと手を振った。
「イルカさん! イルカさんよ鬼灯くん! 私、見てみたかったのだわ!」
「ほう、あれは……」
 桃色のイルカがジャンプした。背中には『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)が乗っている。ひらりと片手で返事をすると、クウハはおいでおいでをした。
「こいつはフィーネ、歌が好きなメスイルカだ。可愛いだろ? 乗せてやってもいいぜ」
「鬼灯くん! 私、乗ってもいいかしら?」
「もちろん章殿が決めることに夫であるこの身が否を言うはずがない。クウハ殿、すこしお邪魔してもかまわないだろうか」
「もちろんだ。慈雨、手伝ってやってくれ」
「いいよぅ」
『闇之雲』武器商人(p3p001107)が、鬼灯の手を取る。そのまま風に乗って海の上へ降りた。不思議と沈むこともなく、鬼灯と武器商人は、ゆらゆら揺れる波の上に立っている。クウハに場所を変わってもらい、章姫を抱いたまま、鬼灯はフィーネにまたがる。フィーネは波をくぐり、産後の上で回転し、船を先導するように泳ぎだす。
「みんなー! しゅっぱつしんこーなのだわー!」
 フィーネを追うかのように船は波を蹴立てている。『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が、武器商人が用意したドリンクを子どもたちへ配っていく。最後の一つを壁偽を預けて所在なさげにしている少年へ手渡す。
「ベネラー殿」
「アーマデルさん」
「俺は、いつでもベネラー殿の味方だ」
 べネラーはくすりと笑った。
「ありがとうございます。心配はいらないですよ。僕はこう見えてわくわくしてるんです。練達なら、僕の体に何が起きているかわかると思うんです。そうすればきっと対処ができる。未来は明るいと、信じています」
 無邪気な笑顔が言葉に続く。ああそういえば、彼はまだこんな顔をする子どもだったのだ。いつもなにかにおびえているような彼に、幸あれと願わずにいられない。
(たとえ心臓が冷たくとも、ハートは暖かく、心には灯を)


「では一通り遊んだところで、読み聞かせを……したいの、だ、け、ど」
 大地は絵本を子どもたちの前で広げた。が、はしゃぎまわったあとの大地の声はあまりにやわらかくやさしく、ユリックとザスはすでに船を漕いでいる。
「大地、俺に任せナ。刺激的な話なら、たんと知ってるゼ。そうあれは夜の街で悪霊と対峙した時のこト……」
 勝手に体を借りて話を始めた赤羽に、大地は場を任せた。赤羽のケレン味たっぷりの口調による実話の数々は、子どもたちを恐怖で凍りつかせていく。
「……というわけで、見えない世界はすぐそばにあル。振り返ってみロ」
 おそるおそる後ろを見た子どもたちは、悲鳴をあげた。そこには煙のように揺らめく霊の姿があったからだ。
「悪霊退散! 葉月!」
「おう、文月!」
 武器を手に霊へ襲いかかる双子に、大地があわてて声をかける。
「あ、やめてあげて、その霊、俺たちがゲストで呼んだ子供好きな悪意のない霊だから……」
「まぎらわしい!」
「演出盛りすぎたナ、スマン。おい、泣くなよガキどモ。悪かったっテ」
「……こうなれば、もう彼に頼るしかない……! ダイヤ、ダイヤー!」
「OK、こっち見てくれヨナ~!」
 ダイヤことダイヤモンド7が、ナイフでジャグリングをしてのける。その隙に大地は楽しげな音楽を流し、場の雰囲気を変えようと努めた。そのかいあってどうにか場が温まる。
「ありがとう、ダイヤ。君がいなきゃどうなってたことか……」
「それよりナ、大地。オレとオマエで国を跨いでの船旅って……これってハネムーン、ってヤツ?」
「違うよ!?!?!」


「……お前、トビウオじゃないのか。まあいい、来るがいいマグロ。色数では負けないぞ」
 こんなところまでゲーミングでカジキマグロな運命がアーマデルを襲う。だがそれに屈するアーマデルではない。
「最近は電気ショックでアニサキスを処理する技術があるらしい」
 ということは妄執さんは百メガワットってこと……!? そんなことは脇において、さっさと飛んでくるマグロを撃ち落とすアーマデル。
「……何故か羽が生えたマグロが来たな」
「おっきいのだわー」
「お前その羽根のサイズで身体飛び上がらせるの、どうやってんの? しかして、お前が襲ったのが豊穣在住民だったのが運の尽きだな。豊穣では醤油さえあれば大半のものは食べるぞ、舐めるなよ。水無月、援護」
「承知」
「文月、葉月、睦月。集中して調理……叩くぞ」
「頭領、本音でてますよ」
「ええい、こんないかにもな雑魚相手に使う字数がもったいない。空繰舞台の幕を上げろ」
 編み上げられていく魔糸によってマグロの動きが鈍る。そこへ睦月が飛びかかる。
「しかたないですね、奥方の前で格好悪いところは見せられないですから」
 すぱんっ! 空中でマグロが三枚におろされる。続く文月が中落ちを蹴飛ばして甲板へ放り込み、身の部分をキャッチ。葉月が足場となって睦月が船へ帰れるようにし、さらに文月を回収して、自分もまた船へ飛び乗る。流れるような連携に、こどもたち、特にチナナが大興奮。きれいに肉がそがれたマグロの頭を、ツンツンつついている。章姫もいっしょになってツンツン。
「みんな、とってもすてきだったのだわ。いっしょにおさしみを食べるのだわ」
「「はい奥方!」」
 よっしゃご褒美タイムだと、いろめきたった暦を視線で制し、鬼灯はあらためて口を開いた。
「睦月、後で酒用意して。米のやつ」
「船酔いするからダメです」
「そっかあ……」
 武器商人がさらっと毒見をして、すばやくかつ丁寧に刺し身を作っていく。ほれぼれするような包丁の線。ぴんと立った角にほほうと水無月が顎をつまむ。
「ナナシ、マグロはどうだ?」
『いただこう、海の幸というものも味わいたいものだ』
「ではこのあとに、奥方およびこどもたちもふもふコースをセッティングしても?」
『……水無月の頼みとあらば断れないな』
 くるがいい! などと、ナナシは翼を広げた。子どもたちが拍手したので、ナナシはすこしばかり照れていた。

●そして練達へ
「とーちゃーく♪ ようこそ『Olina』へ、デザイナーのファニアスだよ☆ い~っぱい買物してね〒」
 まっしろな真珠色のドレスから、真っ赤な店長服へ早着替えしてのけたファニアスは、指を鳴らしてみなをまねいた。
「ヒヒ……ようこそ商人ギルド・サヨナキドリ練達支部へ。そしてようこそ、我が領域(はら)へ、まァ、今回は我(アタシ)も楽しむ側だけどね。頼んだよ、ファニアスの方」
「まっかせてー◎、もうばんばんおすすめしちゃうよ%」
「ベネラーは病院か。この機械にファッションセンスってやつを教えてやろうと思っていたんだがな」
 クウハはアーマデルが付き添っていった後ろ姿を思い返した。その間にもファニアスは次々とおすすめを広げていく。
「ロロフォイちゃんとチナナちゃんが気になりそうな新作は、このラックと棚だよ♭ ミョールちゃんとリリコちゃんはそろそろフリルの可愛いより大人っぽいレースが良いかな? ユリックちゃんとザスちゃんは格好いいのが好きだもんね、各種レザーの洋服と小物を揃えておいたよ◆」
「ふ、ふぅん、いいじゃない、でも、お高いんでしょう?」
「うふふふー↑、ところがなんとたったの……」
「ええっ、うそでしょう!?」
 目をむいて驚くミョールに、ファニアスはころころ笑いながら歌うように続けた。
「いいのいいの! あなたたち、あんまり服もってないんでしょ@。そんな子へはファニアス、ついあまーくなっちゃうの¥」
 あとねあとね、とファニアスはかわいい袋に入ったタグをシスターイザベラへ見せた。
「大きくなってもお下がり出来るようみんなの名前シールを用意したよ§ 着れなくなったら名前シールの四隅の糸を切れば、すぐ付け替えられるから¶」
「まあ、ありがとうございます。助かります」
「これは貴女へのサービスだよ、イザベラちゃん。大変な中でも笑顔でこなす貴女が少しでも楽になれたらって……§」
「そうですね、ベネラーのことは、長らく気にかけていました。……なるべく顔には出さないようにしていましたが、お見通しでしたか」
 くすぐったそうに笑う黒い肌の女は、ファニアスから袋を受け取り再度頭を下げた。
「そういえば」
 クウハがイザベラへ声をかける。
「俺の館にちょっかいかけてくる魔種も、シスターっぽい見た目してんだよな。知り合いに心当たりあったりするかい?」
 イザベラは顔を曇らせ、クウハを見やった。
「どのような方でしょうか?」
「銀髪の老女だが、剣の使い手で、馬鹿みたいにつええ。レイモンドとかいう男の保護者をやってる」
「……まあ」
 おねえさま。イザベラはたしかにそうつぶやいた。
「私の知る、おねえさまは、猫舌で、情に厚くて、皆の模範であろうとする、そんな方でした……」
「そうか」
「もしも、刃を交える時があるのであれば、けして手加減はなさらないで。わたしはおねえさまがおいたわしい。この苦界から解き放ってさしあげて」
 わかったよと、クウハはうなずいた。ファニアスがにひひと笑って、ばっと両手を上げ、皆へアピールする。
「大地ちゃん達みたいにシンプルデザインが好きな子の為にそういう洋服も用意したよ†」
「お、ありがてえナ」
「試着できるか?」
「当然当然★、みんなが納得してさらにすてきになる、それが『Olina』の魔法だよっ! ねえ、暦の子たちは、やっぱり豊穣風か海洋あたりのファッション好きだったりする?」
「どうだ? 睦月」
「この品質でこの値段なら、お買い得かと」
「そうではなくて、好みを聞いている」
「好みですか、そうですね。息抜き用にシャツとジーンズなんかほしいですけど」
「ほおおお!?」
 意外なところいったな。ピアノを引く時は、気軽な格好の方が集中できるんですよ。なるほど。
「クウハちゃんや商人ちゃんにはシルバーアクセサリー、好きでしょ?」
「ああ、たしかに好みだ。この百合の紋章が入ったやつなんか、重厚感があっていいな」
「ピアスに指輪にネックレス、色々あるねぇ。……この透かし模様が入ったバングル、ちょっといいかも。お揃いで買ってみるかい? 我(アタシ)の猫」
「そうだな。慈雨がそれを望むなら」
「ナマ言うようになったじゃないか、このこの」
「くく、そう言うなよ。慈雨の眷属になったからか、慈雨に近づいてきてんだよ」
 楽しく買い物を終えたあとは、皆で喫茶店へ行った。入口は狭くて、中は広い。レコードが落ち着いたジャズを奏で、コーヒーの湯気がくゆる、そんな喫茶店だった。武器商人とクウハも気に入っているというそこで、クリームソーダとプリンアラモードをごちそうされ、子どもたちはうるさくならない程度におしゃべりしながらそれを味わった。
「鬼灯くん」
「なんだ、章殿」
「こうしていると、なんだか、悲しいことなどなにもないような気がしてくるのだわ」
 クリームソーダのさくらんぼうをもぐもぐしながら、鬼灯は目を伏せた。


 小さな診察室で、ベネラーは硬い丸椅子に座っていた。アーマデルがその背を支えている。
 レントゲンを見つめて百面相をしているのは、白衣を着たこざっぱりとした身なりの、五十絡みの男だ。看護婦が彼を促す。
「ドリン部長、説明をお願い致します」
「いや、その、失礼。あー……」
「ドリン部長、説明を」
「私にもだな。君くらいの子どもが居て。いま高校受験をどうするか悩んでる最中なんだ。嫁さんからはもっと稼げなんてせっつかれてるけどね、はは」
「ドリン部長」
 はあ、とドリンはため息を付いた。
「説明をしましょう、ベネラーくん。結論からいって、きみはもうカオスシードとは呼べない。御尊父の封印と、魔種の呪いが複雑に絡み合った結果の、理性持つ魔物だ。魔種を倒しても、君は人間には戻れない」
 ベネラーが小さく息を呑んだ。ドリンが続ける。
「君は全身の細胞一つ一つがビースチャン・ムースというスライムへ置き換わっている。君を統御しているのは既に脳ではない。頭部にあるのはただの肉の塊で、実際に君の精神があるのは心臓部分にあるコアだ」
 練達では珍しくもないけどね。はは。はあ。
「見た目は現状のまま固定され、これ以上成長しない、寿命は不明と言った状態だ。君を魔術解析にかけた結果、この呪いを生んだ魔種は、不老不死を目指しているとだけわかったが、それ以上の解析は不可能だった。こうなってしまうと、私達の技術をもってしてもいかんともしがたい。御尊父の封印は、残念ながら鳥かごの中へ泥を詰めたようなものでしかない。今こうしている間もビースチャン・ムースの呪いは染み出して君の体へ飽和していく。吸血衝動は、いつか必ず来る。だがそれがいつになるかはわからない。明日かもしれないし、千年後かもしれない」
「そうですか」
 ベネラーは椅子へ固く座ったまま、まばたきをした。
「僕は、誰も傷つけたくないです。たとえそれが友達とか、仲間とか、家族じゃなくても、誰も」
 まつげがふるえる。赤い瞳はそれでもドリンをひたと見据えていた。
「もし吸血衝動が来たら感知して爆発する、そんな小型爆弾を作成し僕のコアへ埋め込むことは、練達ならできますか?」
「君は聡明だね。でも幸せとは程遠そうだ。うん、できるとも。でもうちではやれないんだ、すまないね。一応これでも公共機関だから。金を積んで闇医者へ行ければいいのだけれど」
「ちなみにどのくらいですか」
「うんといる」
「そうですか、そこまで自由になるお金はないです」
「こまったね」
「はい」
「こまった時はなにはともあれ、助けを求めよう」
「は、はあ」
「まずは呪いの本体である魔種を倒す。コレに関しては、プロが居るだろうからその人達へ任せるといい。呪いの元凶がいなくなれば吸血衝動は、大きく緩和される」
「はい」
「そのうえで、うちでできるのは、血液製剤の提供だ」
 ベネラーは不可解そうにまばたきを繰り返した。
「いわゆる輸血用の血液だね。そういうものが練達にはあたりまえにある。血を飲むんだ、ベネラーくん。みずから血液を接種することで、吸血衝動を抑えることができる」
「抑制……ですか」
「そうやって飢えをしのいだり吸血衝動を抑えている種族がエリア777には大勢いる」
「そうなんですね……」
「提案だ。私たちから君へ、練達エリア777への居住権と必要最低限の住居を提供できるよ。いかがかな。あ、引越し代の補助も降りるよ。最大で7割」
「……考えておきます」
「うん、自分が魔物だと認めるのは勇気がいる。だけれど、なるべく早く、決めるといいよ」


 診察が終わると、彼にしては珍しく、アーマデルは落胆の色を隠さなかった。リノリウムの廊下で、うつむいているベネラーの傍らにたたずんでいる。
「いい話が聞けると思ったのだが」
 嘘偽りないつぶやきが彼の口からこぼれる。孤児院の子どもたちも、一様に落ち込んでいた。誰よりもしょぼくれていたのはミョールだった。魂が抜けたようにぼんやりしている。
 武器商人がふわりとベネラーと視線を合わせた。
「これからどうしたい?」
「……なにもしたくないし、考えたくない」
「ショックが大きいのはわかる、けれど、怠惰だよ」
「そうですね。きっと僕は、怠惰なんでしょう……」
「君は決断しなきゃならない。吸血衝動に負けてまた誰かを傷つけるか。自分が魔物であると認めて、血を飲むか」
 長いこと黙っていたベネラーが、やがて顔をあげた。
「飲みます」
「認めるんだね」
「はい」
 べネラーは大きく息を吐いた。
「もうどうしようもないことに、頭を悩ませても仕方がないでしょう。僕は人間の姿に擬態した魔物で、いつかは人を襲う。理性を保っているのは、父さんが封印をくれたから。でもそれはあの魔種を倒し、血を飲むことで解決する。それだけのことでしょう?」
「少し落ち着こうな、ベネラー殿」
 アーマデルがベネラーの頭を撫でた。
「魔種を倒せば丸く収まるかと思っていたが、そうはならなかった。だがせめて、より良き未来になるよう努力しよう。ベネラー殿、共に、戦うとも」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

もうちょっとだけ続くんじゃ。

またのご利用をお待ちしております。

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