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シナリオ詳細

<神の王国>虚構の響き・ 滅びゆく定めと知りながら

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ここは遥かなる楽園。
 美の追求と共感の心が溢れるアルヴァエルの理想郷では、今日も芸術家たちが創造の喜びを分かち合い、互いに刺激し合いながら永遠の美を紡いでいた。
 氷河の光り輝く山頂上にある蒼い光を灯した宮殿の自室で、遂行者アルヴァエルは致命者イズマに事後の守りを命じていた。
「夢を見ていたのは我らの方だったかもしれないな」
 だとしたら随分と長い夢だ。
 楽しく、幸福であった。
 この幸せを多くの者に知らしめ、救うことが、あの日神によって再び生を得た己の使命であると思っていた。
 これは絶対的な正義であると。神の真理を広める戦いであれば、負けるはずはないと。
 だが、イレギュラーズは強かった。何度も我らに挑み、何度も勝利をもぎり取っていった。
 これも神の気まぐれと、最初の頃は負け戦も気にならなかったのだが……。
「認めよう、かの者たちは強いと。小さな事実も積み重なれば、真理となる。我らは偽の正義を掲げた者として断罪され、滅せられるやもしれぬ」
 そろそろ出立の時間だ。
 致命者イズマ――出会ったころはイズマティヌスと呼ばれていた青年が、両腕を使って扉を押し開く。
「まだそうだと決まったわけじゃないですよ。これも神の演出、全てが終わってみれば我らの大勝利だったという可能性だって残っているじゃないですか。そんなに簡単に諦めないで頂きたいですね」
 全てを悟ったような顔を見て、返す言葉に詰まった。このまま無理に続けてしまえば全て涙に攫われる予感がある。
 アルヴァエルは踏みとどまるため、だからしばしの間、選ばれし者たちが奏でる旋律に耳を澄ませた。
「それもそうだな。つまらぬことを言った。我らが勝ち残り、みごと神の御国を顕現させることが出来たなら、祝祭の宴でさきほどの話と私の弱気を笑っておくれ」
 アルヴァエルは、影の従者が恭しく差し出した大剣を手に取る。
 赴く先は海洋だ。
 少し躊躇い、 ふかふかのベッドで眠るアモル・カリートの名を読んだ。
 聖痕が刻まれたウサギはすぐに目を覚まし、ベットから跳ね置きだすと、アルヴァエルのそばに駆け寄った。
「連れて行かれるのですか?」
「ああ。お前は……、戦わずに逃げてもよいのだぞ」
 致命者イズマが、無感動に、わずかに判る程度の薄い微笑みを浮かべた。
「どこに? もしも滅びる定めならば、ボクはここでみんなと一緒に朽ちたい。もしも、ですけど」
 踏み出す先は茨の道かもしれないが、それを後悔することはもうないだろう。
「そうか。では、留守を頼む」
「行ってらっしゃいませ」
 アルヴァエルは己が腐心して作り上げた理想郷を後にした。いつでも帰れると疑いもせずにいた場所を。


 『冠位魔種』ルスト・シファーの権能により海洋のある一角に降ろされつつある帳の中は、薄いカーテンのように揺らめく陽光の下、美しい紅珊瑚の森が延々と続く。珊瑚の枝の間を色とりどりの魚が飛び、白い砂地には美しい巻貝がゆっくりと這っている。
 空中に揺らめく黒い穴が現れ、徐々に大きく広がって、中から白い甲冑に身を包んだアルヴァエルと聖痕のウサギ、それに『影の艦隊(マリグナント・フリート)』が2体現れた。
「ふむ。悪くはない。悪くはないが、これはルストの趣味なのか。それとも――」
 アルヴァエルの脳裏に、遂行者となる以前の記憶がどっと流れ込んできた。
 そうだ。ここは私の生まれ故郷の海だ。
 なぜか海水の代わりに空気に満ちているが。
 生まれた時から体が大きかった。幼き頃から力が強かった。異形と呼ばれるほど育ったアルヴァエルは、やがて村を追われる。
 たった1人、小鳥のさえずりを音楽とし、変化に富む大海原を絵画に見立て、誰も来ない孤島で静かに暮らすことになった。
 村を追われて10年がたった。
 ある日、大嵐が生まれの村を襲った。
 家も船も全てが破壊され、豊かな恵みをもたらす珊瑚の海も壊滅的な被害をうけた。
 生き残った人々は、村を追われたアルヴァエルが仕返しに大嵐を呼んだのだと騒ぎ立てた。

 魔女を殺せ、魔女に死を!

 全てはおとぎ話に語られる遠い昔の話だ。
「……ルストめ。趣味が悪いにもほどがある」
 今さら悔しさを思い出させなくとも、この命を神に捧げる覚悟はもうできている。
 片手で握る大剣が、とくんと脈打った。
 聖痕のウサギが腕の中から抜け出して、少し小高い丘に置かれた巨大なホタテ貝コキーユ・サン・ジャックに向かって走りだす。
「あそこか。儀式の場は」
 イレギュラーズたちは遅からずやって来るだろう。
 戦いの前の平和なひと時を楽しむかのように、アルヴァエルたちはゆっくりと歩いて儀式の場に向かった。

GMコメント

●勝利条件
・『遂行者』アルヴァエルの撃破
・『影の艦隊(マリグナント・フリート)』の撃破。
※聖痕のウサギは無理に倒さなくともかまいません。『冠位魔種』ルスト・シファーが倒されると同時に消滅します。

●場所。
・海洋。とある場所に降ろされた帳の中です。
美しい珊瑚の森に囲まれた、小高い丘の上に遂行者たちはいます。
海中の風景ですが、なぜか海水の代わりに空気が満ちています。泳げなくても溺れることはありません。


●敵1
・『遂行者』アルヴァエル
2メートル近い大女。白い鎧を身に着け、赤刃の大剣を武器に持っています。
体術に優れているほか、影による転移術を行うことが確認されています。
雷や突風など、さまざまなフィールド効果を発生させる歌声で攻撃もするようです。
なお、今回は影の天使を召喚しません。

●敵2
・『影の艦隊(マリグナント・フリート)』2体。
『影の天使』のうち、遂行者サマエルの客人、狂気の旅人(ウォーカー)マリグナントの影響で生み出された者たちです。
『影で出来た人間』の姿をしています。
2体とも『戦艦の大砲や高射砲のような、近代的な装備』で武装しています。
相手の『心』を探ったり、のぞき込んだりする個体が多いです。
●敵3
・聖痕のウサギ、アモル・カリート。
アルヴァエルのペット?
後ろ脚で蹴るのが得意です。ほとんど攻撃力はありません。
※『冠位魔種』ルスト・シファーが倒されると同時に消滅します。

●その他
こちらは『<神の王国>虚構の響き・ 儚き幻影』より時間が前のシナリオになります。
両方のシナリオに参加している必要はありません。それぞれ独立したシナリオになっています。
よろしければご参加ください。

  • <神の王国>虚構の響き・ 滅びゆく定めと知りながら完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年12月20日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

リプレイ


 『鳥種勇者』カイト・シャルラハ(p3p000684)は泳ぐように空を飛びながら、感心したように目を瞬かせた。
(「きれいな景色だけど、結局コレも帳ってやつなんだよなあ」)
 海中のようでいて海中ではない。目に見える景色は南海の浅瀬の中でありながら、あたりまえのように空気がある。
 帳によって作られた景色であるが、それでも美しい。
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)もカイトと同じようなことを感じていた。
「随分と、美しい景色になっているな」
 聖痕のウサギ、アモル・カリートがイレギュラーズが落とす影に気づき、後ろ脚でダンダンダンと白砂を踏み鳴らした。
 『遂行者』アルヴァエルと従者2体が儀式を中断し、口を開いた巨大なホタテ貝コキーユ・サン・ジャックの前で招かざる客を出迎える。
「来たか、イレギュラーズよ」
 高みから落とされた冷ややかな声に顔を向けて、汰磨羈は凛と言い放つ。
「ここが、御主にとっての決戦場となる訳か。――問わずとも分かる。その覚悟が恐ろしく固い事とはな。ならば、その覚悟に全力で応えるとしよう!」
「望むところよ」
 『至高のシンデレラ』トール=アシェンプテル(p3p010816)は微笑む。
「美しい場所ですね……こんな素敵な景色を教えてくれた事に感謝します、アルヴァエル。私の世界にも美しい舞台があり、女性たちは互いを尊重して自由に美を競いました」
「それは良き時、良き場所に生まれたのだな。神に感謝せよ、それは万人が得られる幸福ではない」
「そうですね。私は幸せ者なのでしょう。ですが、貴女が奉じる偽神に感謝はしません」
 それまでアルヴァエルの両脇で大人しく控えていた影の艦隊が、偽神の一言に血色ぱむ。
 トールを守るため前に進み出たのは『少女融解』結月 沙耶(p3p009126)だ。アルヴァエルに人差し指を突きつけ、影の艦隊たちを更に挑発する。
「偽神ルストをぶっ倒す前に、君をこの海のような景色の中の一つの泡にして消してあげるよ、人魚姫のように!」
 影の艦隊の一体が吼えた。と、同時にアルヴァエルの傍を離れて駆けだす。
 反神者の女に肩のキャノン包の照準を合わせ――
 荒々しいまでの闘気を湛え、『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)が躍動した。
 素早く白砂をけり上げた身のこなしは一種の舞踏のようであり、振り上げた手刀が太陽光を受けてきらめけば、狙われた敵も思わず目を見張る。
「ちっ、二体まとめてやるつもりだったんだがな」
 目に見えぬ刃が颯爽とした軌道を描いて乱れ飛ぶ。
 乱撃に見舞われた影の艦隊は硬質で高い音を何度も響かせ、全身に傷を負って後ずさった。
「まあ、しかたがねぇ。成り行きだ。お前たちが何をするつもりなのかもしれないが、ロクでもない事になるのは確か……。ここで叩き潰す!」
 もう一体の腕がショットガンになっている影の艦隊が、すかさずアルヴァエルの前に出て、仲間を助ける動きを見せた。


 『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)が上空から光の柱を影の艦隊に落とし、連携の動きを阻む。
「貝! みんな、あのでっかい貝の影に気をつけろ!」
 アルヴァエルが何度も見せた転移術の対策は練っていたのだが――。
 貝は盲点だった。
 口を開いた貝が白い砂の上に落とす影はもちろんのこと、口を閉じれば口の中自体が影、というか暗闇になる。いざとなれば貝の中に入り込み、口を閉じさせることで逃げられるのだ。
 影の天使たちを連れていないのは、逃げる手立てを別に用意してあったからなのか。
「それも含めて全部ぶち壊す!」
 だから関係ないと、昴が急ぎ後退する影の艦隊を猛追する。
 アルヴァエルが大剣を構えた。
 ショットガンの腕から魔法の銃弾を乱発しながら、もう一体の影の艦隊が仲間と合流する。
 イレギュラーズたちも本格的に攻撃を開始した。
 敵味方入り乱れる中、イレギュラーズの足元を小さな影が素早く駆け抜ける。
 脛を蹴ってやろうか、齧ってやろうか。
 長い耳を後ろへ寝かし、三角にした目で手ごろな得物を探しているようだ。
 こいつに決めた、とウサギが立ち止まったのを見計らい、『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)はモフモフした茶色い冬毛の背に両手を伸ばした。
「怪我したらご主人が悲しみますよ!」
 アルヴァエルの悲鳴が長い耳に届くよりも早く、 慧は聖痕のウサギを抱きあげていた。そのまま体の正面をアルヴァエルの方へむける。
「ウサギ、えらい気に入ってくれたようで……」
 捕まえられたとたん、じたばたと脚を空蹴りさせていたアモル・カリートだったが、慧の声を聞いた途端に大人しくなった。
「ん?」といった表情で見上げて、ひげをせわしなく震わせる。
「思い出してくれたっすか。あの日、ウサギさんに目と耳を貸してくれって頼んだのは俺っす」
 いずれは、とは思いつつも、この場でこのウサギをどうこうするつもりはない。だから、とりあえずは戦場から逃がそう。
 アルヴァエルは慧の考えを感じ取ったのか、刃の届く範囲にいるにも関わらず剣を振るわなかった。ただアモル・カリートを連れて目の前から走り去ることを許す。
 そんなアルヴァエルにたったのが『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)だ。
「綺麗な海だな。理想郷ではなくここを戦場に選んだのは何故だ?」
 砲撃の轟音が響き渡り、呪文の詠唱によってエネルギー弾が宙を飛ぶ。剣や拳が振られ、砂と血が飛び散る中でささやかれた鋼の声は、何に邪魔されることなくまっすぐアルヴァエルに届いた。
「我が選んだのではない。ルストの指示だ」
「そうだったのか。てっきり……アルヴァエルさんに思い入れのある場所だと思っていたよ」
「思い入れ、思い入れか。そうだな、ここには確かに思い入れがある」
 アルヴァエルは大剣を白い砂に突き立てると、両手を使って兜を脱いだ。
 整った顔の中で爛々と光る赤い目がイズマを射抜く。
 額に浮かぶ黒の印はアルヴァエルの紋様だ。
「ここは我の生まれ故郷の海。嵐によって失われた心のふるさとを再現した場所。ルストのつまらぬ小細工の結果とはいえ、うぬらに再び壊さはせぬ」
 アルヴァエルは兜を投げ捨てると、砂の中から大剣を引き抜いた。
 イズマもメロディア・コンダクターを掲げる。
「ああ、俺たちも全力で戦おう。これが最後の戦いだ、決着をつけるぞ!」


 イズマは最強という幻想の鎧を身にまとわせつつ、バックステップで敵から距離をとった。
「第一楽章は『クェーサーアナライズ』。ストリングェント、徐々に加速しながら」
 真鍮で作られた楽器が静かに奏でられ、たちまちのうちに神秘的な雰囲気が戦場に漂って味方の傷を回復する。
 続くスウィング・スティールの鋼のリズムが緊迫感を高める中、波打つ青い空から強襲するのはカイトだ。
「俺にも理想郷があってな。海洋って国なんだけどな! だからこれ以上荒らされる前にココでお前らを止めてやるんだ!」
 逸話にある神鳥のごとく赤き矢となってアルヴァエルに迫る。
「『鳥種勇者』、カイト・シャルラハ。海洋の赤き翼が相手だ!」
 三叉蒼槍の刃が皮膚をつき破る寸前、アルヴァエルが振るった赤黒い大剣がすんでのところで差し込まれた。鋭い刃と大剣が打ち合い、重々しくも甲高い音が鳴り渡り、両者共に尋常ではない胆力をもってせめぎ合う。
 だがその利那、カイトの赤い翼が黒髪に縁取られる顔面を捉えた。
「――くっ」
 アルヴァエルは屈辱を怒りに変えて赤黒の大剣を大振りし、三叉蒼槍ごとカイトを勢いよく振り払った。
 手首を返してそのまま赤刃をイズマに向かって滑らせる。
 オーロラのリボンをたなびかせて、トールが赤刃とイズマの間に駆けこんだ。
「素敵な景色を見せてくれたお礼です。私の剣に至高のシンデレラの矜持を乗せて、貴女を美しく倒します!」
 戦いの中で、乙女は究極の力を解放する。臨界稼働時のみに発動可能なスキル、その名も『プリンセス・シンデレラ』。
 発動の瞬間、トールの手にオーロラの輝きを放つ巨大な輝剣が現れた。
 一瞬の静寂。
 『プリンセス・シンデレラ』が振り下ろされる。
 空を覆う暗雲を切り裂くかのように、輝く刃が巨大なホタテ貝コキーユ・サン・ジャックを縦に割った。
 白い破片と砂が空高く舞い上がる。
「――え!?」
 瞬きひとつの間にアルヴァエルの姿が消えていた。
 一悟の大声が戦場の喧騒をついてイレギュラーズの心に届く。
「ショットガン野郎の後ろだ!」
 イレギュラーズたちの目が一斉に影の艦隊の足元に向けられた。
 トールが愉快玉のピンを引き抜いて投げるも、すでにアルヴァエルは膝の下まで影から出ている。
 恐らくは縦に割った貝の影を強引に利用して転移したのだろう。
「やはり使ってきたか」
 汰磨羈は想定内とばかりに輝く光の中で雪白の髪を弾ませて、厄狩闘流新派『花劉圏』のひとつを舞い踏み、姿を消した。
 次に現れるときは敵の近く――。
 まるで汰磨羈の心を読んでいたかのように、激しく切り結び合う中で巧みに体制を建て直した影の艦隊たちが、主を守り、敵の勢いを削ぐために弾幕を張る。
 瞬く火薬の閃光。耳をつんざく銃声。
 イレギュラーズたちに銃弾の雨が降り注ぐ。
「得意なのはこっちなんすわ。そうそう落ちませんよ」
 戦場に戻ってきた慧は防衛ラインの最前線に立った。飛んでくる弾を大きくて引き締まった体で少しでも多く受け止め、仲間が受けるダメージを減らす。
 味方の戦況が厳しくなりつつある中、慧は痛みに満ちた瞳を一瞬閉じた。とたんに異次元のような力が体のまわりで渦巻き始める。
 慧は咆哮を放った。独特の言葉が戦場に響き渡る。幾つも生える角が闘志に燃えて光り、体からは魔力が溢れ出す。
「今がチャンスっす。一機に片づけるっすよ、イレギュラーズ!」


 言霊となった慧の声が、まるで雷鳴のような迫力を持って味方の耳に届く。
 その瞬間、汰磨羈の瞳は殺気と闘気が交じり合った瑠璃色の炎に包まれた。手にする妖刀『愛染童子餓慈郎』の白き赫刃が光り輝く。
「そのデカい武装、剥してやろう」
 まるで春の風に舞う花びらのような速さでガトリングガン手に斬りかかった。
 臨界点に到達した赫刃の発する物質化された殺気と闘気が、彼岸花の妖しくも美しい花火のように敵の両腕を包み込み、一瞬で消し去る。
 木偶の棒と貸した影の艦隊の後ろで、アルヴァエルが 透明で深みのある高い声を放ち、歌う。
「純潔な女神よ、これらの神聖な戦士を白く輝かせ給え。雲もヴェールもないままで、私たちに美しい顔をみせ給え」
 白い光が影の艦隊たちを包み込み、鋼の装甲についた傷を埋めていく。
「が、しかし。落ちた腕までは再生できなかったようだな」
 昴は彫刻のようにキレのある美しい筋肉を盛り上げた。
「ここで手こずってはいられないが、力を使い果たすのも本末転倒……」
 もう一体の影の艦隊が、肩に背負うキャノン包を昴に向ける。
「無駄だ」
 低く呟いた。
 こちらの考えが読まれていようが関係ない。
 照準を当てられるより早く、大股の足運びで影の艦隊たちにずいっと近づく。
 固く握った拳を怒りに振るわせて、嵐のごとく鋼を纏った体に打ち込んだ。
 拳が敵に激しくぶつかる音と、鋼鉄がこすれる音が轟く。敵の装甲は昴の怒りに抗いきれずに大破して、その下に露出した肌が裂けて鮮血が噴き出す。
 タイミングを見てイズマがタクトを振るった。
 アルヴァエルがまた転移する前にまとめてダメージを入れる。
「第二楽章『タイダルウェイヴ』。アレグロ・マルチャートで!」
 色鮮やかな珊瑚の森を越えて押し寄せる津波が敵を飲み込み、陣形を乱す。
 影の艦隊は膝を崩したまま、イレギュラーズの心に分け入ろうとした。
 沙耶は、心を一つに集約させて神秘の力を巧みに操り、若緑に輝く大剣を作り上げる。
「怪盗の心は盗むもの、触れられるものじゃない。私たちは自らが選んだ宝物を心に隠し持つ……、それは他者が踏み入れるべきではない絶対領域」
 静かに呟きながら、沙耶は手に宿る大剣を構えた。
「怪盗リンネが鉄槌の刃を振り下ろす。震えろ、人の心に土足で踏み込む三流盗賊!」
 若緑に輝く刃が空気を裂いて腕を失った影の艦隊に迫る。
 斬撃は獰猛な黒き獣の顎さながらに喰らいつき、飲み込んだ。
 一悟が上空から、立ち上がろうとしているもう一体の影の艦隊に光の柱を打ち落とす。
「座ってろ!」
「いや、ぶっ飛べ」
 膝を折りたたむようにして沈みつつある影の艦隊の腹にむけて、昴が下から竜の拳を突き上げる。
 渾身のアッパースイングは、巨体を軽々と偽りの空へ飛ばした。
 沙耶が落ちてくるタイミングを見極めて極光魔王を放つ。
「はい、終わりー」 
 大破した影の艦隊がボタボタと散り落ちる。衝撃で白砂が激しく飛び散った。
 アルヴァエルはそれを煙幕がわりにして、後ろへ大きく跳び退いた。
 カイトが影の艦隊の頭の上すれすれを飛んで越し、アルヴァエルを追撃する。
 トールも駆けた。アルヴァエルに肉薄する。
「チャーム攻撃に気をつけるっすよ!」
 慧が回復しながら警告を飛ばす。
 アルヴァエルは迫りくるイレギュラーズから目を逸らさず、着地した足で強く砂を踏み、歌いながら赤黒の大剣を構えた。
「無垢な君が前に私が立った瞬間、君は震えながら私の『はい』を受けとるだろう。私の手をとって――」
 高く澄んだソプラノが帳を震わせる。
 赤刃が妖しく瞬き、カイトとトールの心を枷め取ろうとするが、縮地による瞬間的移動で接近した汰磨羈の一撃が先に白い腹に入った。


 爆発の赤い光が花開き、アルヴァエル詠唱が止まる。
「この剣、怪しいぜ!」
 次の瞬間、カイトの赤い翼が、汰磨羈を払ったアルヴァエルの手首を激しく打ち据えた。
 赤黒の大剣を砂の上に落とす。
「カイト、私もそう思っていた」
 昴は果敢に突進した。
 アルヴァエルを直接叩くと見せかけて、大剣に拳を向ける。
「やらせん!」
 砕かれる前に、と落ちた大剣に手を延ばそうとして屈みこんだとき、アルヴァエルはトールの澄んだ瞳に正面から囚われた。
「貴女の負けです。物語はもう終わり。潔く認めて下ってください」
「ぬかせ、この命尽きぬ限り、まだ終わってはおらぬ」
 怒りに駆られながらもそこはさすが遂行者というべきか、昴の拳に砕かれる前に素早く大剣をすくい取る。
 そのまま体を回して昴の足を刈り取る勢いで払い、螺旋を描いて立ち上がりながらトールに痛烈な肘打ちを見舞った。
「よくもトールを!」
 沙耶が攻撃を飛ばしてアルヴァエルのトールに対する更なる攻撃を牽制する。
 その間に慧は力強く天使の歌を歌い上げて、仲間たちの傷を癒した。
 一悟は地上に降り立つと、アルヴァエルに燃えるトンファーを叩き入れた。炎が花となって爆ぜる音に乗せ、情熱的に歌う。
「最後はオレたちが勝つ! アルヴァエル、誤りを認めろ。いまならまだ間に合うかもしれないぜ」
 一旦距離をとってから、アルヴァエルに向けて手を差し伸べる。無言のしぐさで仲間になれと誘いかける。
「……ふっ。もう気づいている。だが、今さら止まれぬ。いまその手を取れば、我が我が正義の名のもとに屠ってきた者たちが浮かばれぬであろう!」
 大剣に貫かれた一悟の体を汰磨羈が受け止めた。そのまま引きずるようにして後ろに下がりながら、素早くダメージを調べる。
(「?? 急所から外れている? ワザとなのか、それとももう――」)
 事実、アルヴァエルは体をふらつかせていた。腹に片腕を回し、下唇を強く噛みしめている。
 戦いも終章となり、締めくくるべく遂行者の眼前に立ったのはイズマだった。
「貴女はいつも芸術を大事にしていた。遂行者としての所業は許さないが、その心は認めたい。敵同士でなければ、もっと共に芸術を楽しみたかった。最後に一曲『演奏』させてくれよ。俺はイズマ・トーティス、海洋の音楽家だからさ!」
「我も奏でよう、この命をかけて!」
 激しくぶつかり合う光と音の洪水が帳とアルヴァエルの心臓を収めた大剣を壊し、ルストの悪しきたくらみごと押し流す。


「致命者イズマの事は……ありがとう。彼はまた音楽ができて、俺は一族の過去に出会えた。貴女のお陰だ」
 白い砂浜の上に横たえられたアルヴァエルの体が、黒い煤となって少しずつ潮風に運ばれていく。
「貴女と指揮者の次は、貴女を世界の敵にした冠位傲慢を倒す。この世界を守り、芸術で豊かにするよ」
 慧はアモル・カリートを抱いてアルヴァエルの頭の横に膝をついた。
「この子、あなた懐いてるじゃないすか。あなたを必要としてるんでしょう」
「すまない、アモル・カリート。先に行く」
 アルヴァエルは乾いた唇を閉じると、虚ろな目を慧に向けた。
「その時まで面倒を見るっすよ。俺は、この程度の偽善しか出来ません」
 一筋の涙が黒くひび割れた頬を伝い落ちる。
「もし生まれ変われるとしたら?」
 アルヴァエルは一悟の問いに儚く笑み返した。
「決まってる。……大きくて…強くて、モフモフが好き、な、か……わいい、女の……子に……みんな、と」
 満ち潮の波が最後に輝いた笑顔を攫う。
 沙耶は慧の腕からアモルを抱き上げた。
 暮れる空に目を向ける。
「すぐにみんなと会える。一緒に天国でゆっくり音楽を楽しむといいよ」

成否

成功

MVP

仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式

状態異常

奥州 一悟(p3p000194)[重傷]
彷徨う駿馬

あとがき

長い間、アルヴァエルとお付き合いくださりまして、ありがとうございました。
この戦いを持ってアルヴァエルの物語は終わりです。
聖痕のウサギ、アモル・カリートも短い間ですがイレギュラーズに可愛がられて終わったことでしょう。
いやまさか、ルストが勝つなんて展開は……。
必ずイレギュラーズが勝つと信じています。

MVPはアルヴァエルに痛恨の一撃を入れた方に。
ご参加ありがとうございました。

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