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シナリオ詳細

<悠久残夢>零と終のしもべ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『獣』の熱
 その終焉の使徒は自らを『獣』と呼称するのが嫌いだった。
 知性の欠片も理性の微塵もなく、ただそこに生えるだけの終焉の切れ端。
 滅びの一片。そんな輩ごときと同質に扱われるのは随分な話だ。
 この世界に舞い降りて見た『ゼロ・クール(心なし)』と呼ばれる連中を見たとき。
 随分と愚かなものだと思った。
 滅びに抗い、死んでいった数多の命の代わり。
 淘汰される人類に代わってその補助を担うべき者たち。
 それらをあろうことか『心なし』、『しもべ人形』などと呼称している。
 吐いては捨てるお人形。実に興味深い。
 それは終焉の獣――ありふれた滅びの一片にも及ばぬ有様ではないか。
 実に、実に興味深い。虫けらには虫けらを。
 けしかけた小さなスライム達は、代替可能なお人形たちを使って人類圏に牙をむいた。
 これ以上の愉快な話はあるか?
 あの時、ちゃんと壊しておけばよかったと。どうして人形如きが我々を殺すのかと。
 助けてくれと、許してほしいと、言うことを聞けと。人間に逆らうなと。
 そう声高に叫び、殺されていく人間風情。
「これ以上の喜劇はありませんなぁ。そんなもの、『お前たちの自業自得』以外にありますまい」
 けらけら、けらけら、魔術師は笑う。
 そんな魔術師マンフリートが初めてその生涯に別の輝きを見た。
 それはどこにでもいるゼロ・クールに違いない。
 人に黙って使われ、遺跡の奥地に至り宝石を得て帰還せんとする、そんな個体だった。
 いつものように、マンフリートはそれへと魔の手を伸ばす。
 けれど彼女はそれらの手を振りほどき、出口めがけて駆けていく。
「――私は、逃げねばならないのです。我が主はそれを私への厳命としているので」
「あはは、あははは、あははははは! 随分な話ですなぁ。
 自分が死地に赴く度胸がない魔法使い。そんなもの厳命に何の価値があるんですかな?」
 そんなけなげな有様に、マンフリートは思わずそう笑っていた。
「当然です。魔法使いは偉大、言うならば我々の親のようなもの。
 我々を生み、育んできた。それはこの命を尽くすに足る理由です」
 生きるために、逃げ延びるために健気にも矢を放つ。
 畜生の如き終焉の獣たちが、四肢を喰らい、兵士たちが彼女を殺そうと獲物を振るう。
 頭部が砕けても、下半身を断ち割られても、その個体は前へ進み続けた。
 ただ、ただ『我が主の下へ帰還する』ためにと。
「――貴女は随分と人らしい性格をしているようですなぁ」
 両手をばたつかせ、前へ進むその姿を見て、マンフリートは魔の手を伸ばす。
 体を蹂躙し、コアを捉え、内側まで擽るように嬲り、食らい潰して成り代わる。
「貴女のような素体は珍しい。ぜひとも、それがしの身体となって使われてほしいですなぁ」
 やめてと、嫌だと、私は帰るのだと。
 そう激情と共に叫んでいる声さえも塗りつぶして。
 マンフリートと名乗る終焉の獣はその形を成り代わった。
「いやはや、実に良かった。貴女のようなゼロ・クール達はそう多くないのでしょうなぁ……あぁ、あぁ。
 気になりますなぁ、どうしてこうも違うのか。うぅん、次を捕らえてみたいところですなぁ」
 ぼやくまま、マンフリートは浮かび上がる。
 こうして終焉の獣は壊れかけのゼロ・クールに成り代わった。
「あぁ、楽しみですなぁ、それがしは心を得たクルエラ。
 心を得たゼロ・クールを弄ぶことのどれほど楽しいことか!」
 ケタケタとマンフリートは魔王城の内に笑う。
 その周囲には、複数のゼロ・クール達。
 あぁ、それはきっと。無垢なる子らに違いないのだろう。
 心なし、無垢なる子らに終焉の獣を憑依させた獣の軍勢は、魔王の城にあった。


「――マルタ……私は君に死んでほしくない。必ず生きて帰ってきてほしい」
 蒼髪を揺らして、アンネマリーがそう語るのを、ルブラット・メルクライン(p3p009557)は偶然に聞いた。
「……君はたしかに、私にとっては、製作したゼロ・クールの1体だ。
 でも、私は君を……いや、君達を私の娘や姪のようなものだと思っている」
「……マスター。そう言っていただけて光栄です」
 そう言って微笑んだ。
「……ですが、マルタは、戦いに出たいのです。マスター。
 この世界が滅びるのだとしたら……それを少しでも良い形にできるのなら、マルタは。
 そのために、力を尽くしたいのです」
「マルタさんのことは、私達が守ります。必ず」
 そう告げるのはグリーフ・ロス(p3p008615)だ。
「……マティルダ様も、助けたいのです」
 続けるのはニル(p3p009185)だ。
「……そうだね」
 ルブラットはそれに応じながらも静かに沈黙する。
「ありがとう……だが、それは難しいだろう」
 アンネマリーはそれに静かに応じる。
 静かな答えにルブラットは医師としての自分の直感が恐らく正しいのだと理解する。
「あの子の身体は、ボロボロだ。何故、生きているのかさえも分からない」
「ですが、死せる星のエイドスがあれば……」
 そう言ったグリーフに、アンネマリーは目を伏せる。
「……助けることは、できないのですね」
 ニルは震える声と共にアンネマリーを見た。
「あぁ……君達の軌跡であれば、きっと終焉獣とやらを剥ぎ取ることができるだろう。
 けれど……多分、そこで終わりだ。頭部が砕け、下半身が断ち切られているのだ。
 恐らく、その損傷はコアにまで伝わっているはず……死せる星のエイドスとやらで救い出した時点で、あの子は死ぬ」
 そう言ったアンネマリーはマルタの手を取ってぎゅっと握り締めていた。
「あの子を、壊してくれ。イレギュラーズ。もうこれ以上、あの子が悲劇を作らなくて済むように」
 静かな、決意の乗せられた答えがそう響いた。


「ンフフフフ! ンフフフ! ようこそ! ようこそおいでいただきました、来訪者の皆様方!」
 慇懃無礼に、一丁前に、そのゼロ・クール擬きとでもいうべき終焉の獣は令を示す。
 周囲に控えるのはゼロ・クール達だろうが――もちろん、それらが真っ当な状態ではないのは明らかだ。
「……貴方の目的は、貴方の意志はいったいどこにあるのですか?」
 そうグリーフは問うた。
「それはもうご存じでは?」
 今にも落ちそうな頭部をガタリと揺らして、マンフリートが首を傾げた。
「……魔王たちはこの世界を滅ぼして、ステラさんを箱舟のようにして混沌に渡航しようとしている。
 終焉はこの世界を滅ぼし、滅びのアークの蔓延した世界を混沌に食わせて内側から侵食しようとしている。
 それは確かに知っています……」
「けれどそれらは大目標だ。マンフリート君だったかな? 君の個人的な目的は未だ不明だ。
 何のために、動いているのだろうか……管理人のために――というのならそれでもかまわないが」
 ルブラットの問いかけに、ようやく合点がいったようにマンフリートは笑った。
「――使われる者達の足掻きを見るのは随分と面白いでしょう?
 特に、使っていた側が自由を得た彼らに裏切られて叫ぶ姿が何とも」
「……マンフレート様。ニルには、あなたが前に言っていたことがどれが本当でどれが嘘か、ニルにはわかりません。
 でも……そのカラダがかなしいことをこれ以上しないでいいように、ニルはかならず、止めるのです」
「ならばそれがしを引き剥がすが宜しいでしょうなぁ! もっとも、そうなればこの身体は死ぬでしょう!
 何せ、完全に砕け散る寸前にそれがしが乗っ取ることで存命しておるのですからなぁ!」
 けたけた、けたけたと、マンフリートはニルに答えて笑う。
「さぁ、始めましょうか、来訪者の皆様方。
 皆さまにこれよりご覧いただくのは使われてきた者たちによる激情。
 虫けらの如き下位の、陳腐な終焉の獣たちに導かれる『しもべ』たちですからな!」
 ゼロ・クール達が動き出す。
 そう、これは短くも長かった、新たな世界での最後の戦いだ。
 ここで負ければプーレルジールは滅び、その影響は混沌へ伝播する。
 負けられない、戦いだ。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。

●オーダー
【1】『クルエラ』マンフリートからマティルダを解放する。
【2】エネミーの撃退

●フィールドデータ
 魔王城内部に存在するホールの一つです。
 戦場の奥には下りの階段が見え、そちらからはより濃い滅びの気配が覗いています。
 恐らくはそちらにプーレルジールへの裏口、終焉への扉があるのでしょう。
 戦場自体は広く、見晴らしがよいです。


●エネミーデータ
・『クルエラ』マンフリート
 クルエラと呼ばれる終焉獣の中でも指揮官クラスの上位個体。
 表の身体は『探索式・M001号』マティルダというゼロ・クールです。
 下半身が両断されているため常に低空飛行状態にあります。

 ゼロ・クールのことを『心なし』、『しもべ』人形と評することに対して嘲笑を以って接しています。
 それは終焉獣にさえも劣る人類の醜さ、自然とゼロ・クールを下に見る人類への嘲りであるようです。

 ダメージを与えることで『死せる星のエイドス』の効果による終焉獣剥がしが可能です。
 ただし、完全に壊れる寸前のところでマンフリートが乗っ取っている状態です。

 マンフリートが剥がれればそれはマティルダの完全な機能停止・故障を意味します。
 剥がすことは出来ても死ぬことはたしかです。このシナリオは救うために殺すお話となるでしょう。

 神攻、EXA、抵抗が高め。
【怒り】や【呪縛】、【足止め】系列、【窒息】系列、【呪殺】などを駆使する範囲攻撃型。

・『終焉獣』機兵獣
 寄生型の終焉獣が古代文明のゴーレムに寄生した存在です。
 5mほどの巨体を持ち、自我のようなものは見受けられません。
 マンフリートの忠実なしもべとして彼を守るように行動します。

 非常にタフかつ守りと抵抗力に長けているようです。
 潜入者を吹き飛ばすような薙ぎ払い攻撃には【飛】が付きます。

・『狂戦士』ゼロ・クール×2
 寄生型終焉獣に取り付かれた戦士型ゼロ・クールです。
 ハルバードを手に近接物理戦闘を主体とし、近貫や近扇へ【出血】系列、【乱れ】系列による攻撃を行います。
 滅びの気配が濃く、『死せる星のエイドス』の効果を適用できません。

・『狂司祭』ゼロ・クール×2
 寄生型終焉獣に取り付かれた司祭型ゼロ・クールです。
 魔導書と錫杖を手に遠距離神秘戦闘を主体とし、単体や遠範へ【痺れ】系列、【凍結】系列による攻撃を行います。
 滅びの気配が濃く、『死せる星のエイドス』の効果を適用できません。

・『狂狩人』ゼロ・クール×2
 寄生型終焉獣に取り付かれた戦士型ゼロ・クールです。
 弓を手に遠距離物理戦闘を主体とし、単体や遠範へ【足止め】系列、【毒】系列による攻撃を行います。
 滅びの気配が濃く、『死せる星のエイドス』の効果を適用できません。

●友軍データ
・『探索式・M003号』マルタ
 ゼロ・クールと呼ばれる魔法使いたちのしもべ人形の1体。
 深い青色の髪と綺麗なサファイアの瞳をした女性型アンドロイドです。
 スタイルの良い筋肉質な長身の美女といった趣き。
 どこか張り切っているようにも見えますし、どこか皆さんを頼もしそうに見ています。

 HP、防技、抵抗が高め。
 防技を攻撃に転用するタイプのサブアタッカー兼タンク。

●参考データ
・『魔法使い』アンネマリー
 テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)のご先祖様。
 何の因果かテレーゼのそっくりさん。ゼロ・クールの製造主である魔法使いの1人。
 親類や縁者は魔王軍に殺しつくされています。
 戦う術が無かったため本人は生き残っています。
 どこかで生き残ったことを気負っているような節が見られます。

・『探索式・M003号』マルタ
 ゼロ・クールの1人。
 深い青色の髪と綺麗なサファイアの瞳をした女性型アンドロイドです。
 どうやら『探索式・M00?』の型番はアンネマリーの姉を元に設計されたようです。
『魔導師』マンフレートは素体だけならマルタから見て姉型機に相当するとのこと。
 姉型機の探索のために訪れた遺跡でマンフレートに遭遇。
 破壊寸前まで追い込まれたところをイレギュラーズに救い出されました。

 生真面目でまっすぐな性格のこともあり、マスターと皆さんへの恩返しのためにがんばります。
 かなりイレギュラーズに好意的な面が見えてきています。

・マティルダ
 アンネマリーのお姉さん。故人。
 戦う術を持ち異邦人の夫を迎えるなど、奔放な人物であったと予測されます。
 魔王軍と戦い戦死しました。

 ●サハイェル城攻略度
 フィールドが『サハイェル城』のシナリオにおいては城内の攻略度が全体成功度に寄与します。
 シナリオが『成功』時にこの攻略度が上昇し、全体勝利となり、プーレルジールにおける『滅びのアーク』が減少します。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <悠久残夢>零と終のしもべ完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年12月04日 22時50分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ


「『しもべ』ねぇ。まぁ確かにさ、扱い自体がよかったかといえば、多分そうじゃねえんだろうな。
 んだけどまぁ、ひとつだけ忘れてるんじゃねえか。
 今の主人はお前。だからその激情って、あるとすればお前に向くんだぜ。ま、獣にゃ分からんだろうけど」
 マンフレートと名乗ったクルエラの言葉を振り返り、『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)が言えば、返ってきたのは笑い声だった。
「えぇ、えぇ、その通りでしょう。それがしに向けておるのでしょうとも!
 あぁ、それこそが楽しい話でございましょうなぁ! 無垢で使われていくだけの物ども!
 本当にそんな感情があるというのなら、是非にそれがしに向けてみてくだされ!」
 ケタケタと笑う。
(実質、『探索式・M001号』マティルダさんを殺す事になるのだとしても。
 眠らせる為にもマンフレートを引き剥がす……!)
 静かにそう覚悟を固めるのは『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)である。
 その覚悟に呼応してヨゾラの本体たる魔術紋が淡く光を放つ。
「生きて帰って、大事なヤツとまた会いたい。
 きっと、皆そうだよな。だから……そこを退け、マンフレート」
「いやですなぁ! それとも、新しい宿主を頂けるのですかな?」
 ケタケタ笑いながらマンフレートが『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)にそう問い返す。
「お前が嫌でも退いて貰う」
「怖いですなぁ!」
 ケタケタ、ケタケタ、マンフレートが笑っている。
 この短い応酬だけでもどんな性格なのか容易に理解できる笑い声だった。
「マンフレート 否 マティルダ。
 君ガ眠レル様ニ 頼マレタ」
 その姿を見やる『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は静かにその個体の名を呼んだ。
「おやおや、それは困りますなぁ! 殺されたくはありませんなぁ!l
 ケタケタ笑っているのは余裕なのか本心に非ざるが故なのか。
「『帰りたい』……ですか。それが、彼女の願いだったならば。
 帰りましょう。私たちに魂というものがあるかは分かりませんが。欠片となっても」
 静かに語るのは『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)である。
「ふふふ、面白いことをおっしゃいますなぁ! 来訪者の皆様方は随分ときらきらとしておられる。
 もっとも、この世界にあるはずのない輝きがまぁ目についてたまりませんが!」
 相変わらずケタケタとマンフレートはそう笑う。
「マルタさん、機兵獣をお願いできますでしょうか?
 無理はなさらず、とは言えませんが。貴女のマスターの為。貴女の『お姉さん』の為」
「はい! 頑張らせていただきます!」
 そう頷いたマルタが視線を上へ。
 巨大なるゴーレムは寄生型終焉獣の傀儡に他ならない。
「帰りたかったマティルダ様。
 帰ってきてほしかったアンネマリー様
 それがニルは悲しくて……マティルダ様を、返してもらいます。
 マンフレート様……これ以上、かなしいことを続けないでください」
「それは出来かねますなぁ! それがしがクルエラである限り!」
 ミラベル・ワンドを握りしめた『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)の言葉に、マンフレートは相変わらずケタケタと笑う。
「それに、お返ししたが最期、この個体は死ぬのですがね?」
「……それでも、これ以上、かなしいことを続けさせないために」
「ほほう、なるほどなるほど!」
 けらけら、ケタケタ笑ったマンフレートへ届かせるためにも、ニルは手を握り締めた。
「――そうなのか。
 面白いからという単純明快な理由、嫌いではないよ。
 私が死ぬ瞬間もさぞかし楽しんでくれるのだろうな。
 無論、ここで死ぬつもりも、世界を滅びに向かわせる予定もあるまいがね」
 ペストマスクの下、『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は静かにそう答えた。
「そりゃあもう、楽しませていただきましょう! どのような死に様なのか!」
「ふむ、それは良かった」
 そう応じるや、ルブラットは武器を構えた。
(これまで何度か戦ってきたあの魔術師――マンフリートともここで決着をつけよう)
 静かに拳を握り、『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)は闘志を高めていく。
 心なしか昂りが普段よりも激しいのか、荒ぶる闘志は鋭さを増している。
「その不愉快な笑い声。今日こそ止めさせてやる」
「これはこれは、貴女の拳は本当に厄介ですからなぁ! 嫌ですなぁ」
 静かな宣言に、マンフレートがいつものようにケタケタと笑った。


 戦いが始まってすぐ、プリンは一気に戦場を駆け抜け、マンフレートの前に立った。
「オレの事が怖いか? なら相手をしてもらおう」
「嫌ですなぁ! 怖いですなぁ!」
 ケタケタ笑い、パンと手を叩いたマンフレートが無数の黒い腕を生み出し、プリンめがけてけしかけてくる。
 それらを撃ち返しながら、プリンは真っすぐにマンフレートから視線を外さない。
 そこへ至る道を切り開いた1人はルブラットだった。
「……」
 その手に握る刃を持ってゼロ・クール達を1体ずつ確かに殺し切っていく。
 滂沱の血を流すゼロ・クール達は生かすことの出来ぬ達。
 無機物の命――そう定義づけた以上、その手を振るうことに躊躇は出来なかった。
「……もう、戻せないひとたち」
 眼前に迫りくるゼロ・クールへ、ニルはミラベル・ワンドを捧げ持つ。
 放たれる輝きは混沌の泥。全ての宿命を操作する輝きが戦場を貫いていく。
「合わせてくれ!」
 それだけ言って、サンディはその身の内から吹き溢れる風をナイフへと作り変えていく。
「S・M・S!」
 上空めがけて投擲されたナイフは上空にて炸裂すると、吹き荒れる暴風となって降り注ぐ。
 まるで上空から俯瞰で落としたかのような正確無比なる暴風の吹きおろしがゼロ・クールの動きを阻害する。
「任された!」
 応じるままに昴は拳を握り締めた。
(……とはいえ)
 一気に戦場に飛び込み、振るうべき拳の在り方など、そう変わらない。
 踏み込むままに撃ちだす拳は覇竜の穿撃。
 壮絶極まる火力から放たれる竜をも穿つべき鮮烈の一手。
 明らかに体勢を崩した刹那を狙いすました栄光の一撃は確かな一撃となってゼロ・クールに浸透していく。
 ヨゾラは魔導書に魔力を通していく。
 視線の先には多数のゼロ・クール達。
 既にコアにまで完全なる侵食を受けた彼らを助けることは不可能だ。
「呑み込め、泥よ……寄生された彼等も、ここで眠らせる為に!」
 それだけがこれ以上の苦痛を負わせないために出来る事だった。
 淡いかが気を放つ魔導書が魔法陣を作り出す。
 空に浮かぶは星明かり。
 煌く星空の輝きは運命を染め上げる不吉なる凶星たち。
「流石に後退する者もいますか……ですが、逃がしません。
 貴方達もここで眠りましょう。もう、いいんです」
 グリーフは多数のゼロ・クール達に向けてそう声をかける。
 魔力を通して強く輝いた秘宝の魅惑の輝きは耐え難き誘惑となり、多数のゼロ・クール達の視線を誘導する。
 究極の宝石、隣人を見つけた無垢なる個体を操る終焉の獣たちが動き出す。
 激しさを増す戦いの中、フリークライはいつもどおりだった。
「ン フリック 任セテ」
 水月花の導、主命を胸に宿すフリークライの呼び寄せる天上のエンテレケイアは戦場に置いてこれ以上にない要の1つ。
 吹き付ける温かな風は数多の魔術が痕跡を吹き飛ばす。


 戦いは続き、ゼロ・クール達は倒されていく。
「ふむ、以前にも会ったがやはり大きいね」
 ルブラットはそう機兵獣を見上げれば、一気に動き出す。
 飛び込むままに紡ぐはコキュートスの楔。
 毒を塗布した暗殺針は正面に立つ機兵獣の脚部に突き立ち、その内側に呪毒を注ぎ込む。
 腕を振るわんとした機兵獣ががくりとバランスを崩す。
「ニルもお手伝いするです」
 そう告げるニルはマルタの隣へ立つや、ミラベル・ワンドへ魔力を注ぎ込む。
 飽和する魔力は温かな光となって戦場を照らしだす。
 壮絶極まるフルルーンブラスターがゴーレムの身体を文字通り吹き飛ばした。
「俺のことは気にすんな、優先すべきはマティルダちゃん! だろ?
 なんたって俺はアニキだからな! いや初対面だけど」
 からりと笑ってみせたサンディはそのまま目の前に立つ機兵獣を見上げた。
 振り上げられた巨大な手がサンディに打ち下ろされるより前に吹き荒れる断チ風が吹き荒れる。
 眼で捉える事の叶わない刃はゴーレムの巨体を内側から切り刻み、荒れ狂う暴風の余波がサンディの身体に僅かばかりの傷を生み出した。
 既に倒すべきはこれだけだ。
「私も続こう」
 そこに昴は続く。
 握り締められた拳は破砕の闘気を纏う。
 見上げたゴーレムは既に腕を振り上げている。
「良いだろう。正面から受けてやる」
 握りしめた拳に纏う闘志が濃く、厚くなっていく。
 放つべきは鉄帝が秘奥、対城絶技――
「鋼覇斬城閃!」
 踏み込みのままに打ち出した拳は真っすぐにゴーレムに叩きつけられた。
 振り上げられた腕が、衝撃を受けて後ろへぐるりと回転する。
 ミシミシと、音が鳴る。
 対物破壊性能の高められた拳に昴の火力が乗れば、その結末は必然だった。
 拳打の突き刺さる場所から鳴ってはならぬ音が響いて、ゴーレムが木っ端みじんに砕け散った。


 プリンは真っすぐにボロボロのゼロ・クールを見据える。
 圧倒的な速度から打ち出される拳には不殺の覚悟が乗っている。
「わざわざ不殺でやる事が不思議か、マンフレート」
「そうですなぁ! さっくりと殺せばよろしいものを!」
「悪いな。今オレが見てるのは……お前じゃ無いんだ。
 1分でも、1秒でも。……取れる時間は長くしてやりたいからな。
 乗っ取られてる状態でも。体も意識もそこにあるなら肉体言語で伝わるか?
 待ってろマティルダ。すぐに終わらせる」
 そうだ。表面にある終焉獣のことなど、一度も目もくれていない。
 プリンは、この戦場に立ってからずっと、きっとそこにいるはずのゼロ・クールの心に視線を向け続けていた。
「オレ達に、魂が有るか何て分からない。
 カラクリや機械の魂に、会ったことはない。だから、きっと無い可能性の方が高い。
 でも、心は絶対にあるって言える。心が芽生える事は、あり得るんだ。
 だから。魂だって芽生えてもいいも良いだろ?」
 プリンは静かに、けれど熱くマンフレートを――その内側にあるマティルダへと問いかける。
(死せる星のエイドスにオレのパンドラを!
 オレから『その可能性』が失われたって良い。
 マティルダに魂を。壊れてしまった、その先の安らぎを、輪廻を。
 どうか、どれだけ先になっても……また帰れる様に)
 それはただゼロ・クールから終焉獣を引き剥がすだけにはおさまらぬ奇跡を願う。
 眩いばかりの輝きが戦場を包み込む。
「馬鹿な! よもや、よもや! このボロボロの身体に!?」
 それは明確な焦りだった。
 たった一人では、それは余りにも無謀な祈りだったに違いない。
「『探索式・M003号』マティルダ。
 君二生キテト願ッタ主ハ。
 今 君ノ死ヲ願ッテイル。君ノ悲シミ断ツ為二。君ヲ想ウガ故二。
 ダカラ。モウイイノダ。眠レ マティルダ。
 君ノ主カラノ最後ノ命令デアリ 祈リデアル」
 静かに、フリークライもまた、静かにマティルダを見続けていた。
 問うべき者は、別にいる。
「死せる星のエイドス 起動。コードPPP。
 我 フリック。我 フリークライ。我 墓守。
 君ガ逃ゲ続ケ マンフレート奪ッタ死ヲ 此処二。
 マンフレート引キ剥ガシ マティルダトシテノ死ヲ 君二。
 今度コソ主命ヲ果タセ マティルダ! ソレガ君ノ未練デモアルノダカラ」
 静かな言葉は戦場に響いていた。
 パンドラの無い世界へ、1人ではなく、2人。
 そして2人の示した奇跡はそれを紡ぐ者達の手で形を変える。
「それがマティルダ様の最期だとしても……そのカラダ、返してください!」
 ニルは死せる星のエイドスにパンドラを籠めて願う。
 返りたかったゼロ・クールと、返ってきてほしかった人のために。
 それを願うのはニルだけではない。
 グリーフもそのタイミングに合わせてパンドラを死せる星のエイドスに注ぎ込んだ。
「たとえ小さな奇跡では足りなくとも、重なれば」
 パンドラの届かぬ異世界にて、重ねてグリーフはそれを願う。
「私は死にゆくゼロ・クールの為には、心の底から願えない。
 だから、だから、この奇跡はアンネマリー君と、……マルタ君のために願う。
 帰ってきた過去を抱き止めて、未来に進むために」
 最後にルブラットは死せる星のエイドスにパンドラを注ぎ込む。
 マンフレートを引き剥がすために。
「煌めく星の一撃……食らっとけ!」
 ヨゾラの本体たる魔術紋は淡く輝き、その手には星の輝きを纏う。
 たとえマティルダに恨まれることになるのだとしても――覚悟を乗せた星の破撃が鮮やかな光を放つ。
「マンフレート! マティルダさんの体から……剥がれろぉぉ!!」
 持てる魔力を注ぎ込み、ヨゾラは叫ぶ。
 死せる星のエイドスへと注ぎ込んだパンドラをマンフレートへと叩き込む。
 星を生むが如き閃光が戦場を強烈に輝かせた。
 ふらりと落ちて行くゼロ・クールの背後、そこには黒い靄の塊があった。
「うぐぐぐ! まさか! そこまで命を削りますかな!? とんでもない方々ですなぁ!」
 それは間違いなくマンフレートと名乗った終焉の獣の声だった。
「まだ生きているのか。存外にしぶとい奴だ」
 昴は拳を握り締めた。
「皆様方がそれがしを不殺で殴ってくださったおかげですな!」
「まぁいい。ここで逃がす理由もない。終わらせるぞ」
 振るう破砕の拳が鉄帝の秘奥義を黒い靄の塊へと叩きつければ、確かな手ごたえがあった。
「都合のいいように作られ、使われる。そんなモノたちの代弁。
 貴方の言い分も、分からなくはありません。
 けれど。それを成すのは、当人たちであるべきだったと、私は思います」
 今にも消えゆかんとする終焉の獣へと、グリーフは静かにその瞳を向けた。
「ほほほほ、面白きことをおっしゃいますなぁ、ご隣人。
 それを当人たちが言うのならば、それは最早『心なし』ではありますまい!」
 ケタリと終焉の獣が笑った。
「……そうですね。そうかもしれません」
 グリーフは静かに肯定しながら、そっと葬送の為の炎を放つ。
 桜吹雪のような炎が終焉の獣を取り巻いていく。
「マンフレート 君ハ確カニ心ガアル。
 其レガ死ダ。君ハ君ノ心ハ 自ラノ死モ笑エルカ?」
 引き剥がされその姿を表面化させた終焉の獣へと、フリークライは問うた。
「けけけ、なんともや。恐れるべき話ですなぁ……」
 引き剥がされなお、終焉の獣は笑っている。
「いやはや、面白い者を見せていただきましたな!」
 そう、笑っている。
 そう笑いながら、その終焉の道化は世界の塵となって炎に巻かれて消えて行った。
「一分間だ。主への言葉を遺せる時間を」
 ルブラットのギフト、61分目の針は綻ぶ体が僅かに止まった刹那を大きく引き伸ばす。
 マティルダに命を与えるだけではその言葉を遺す時間はなかった。
 引き剥がすだけでは綻ぶマティルダの身体を支えることなど出来なかった。
 複数の奇跡が重なり、祝福(ギフト)が繋いだ結果に他ならない。
「ありがとうございます」
 静かにゼロ・クール――マティルダがそう謝礼を述べれば、その視線を妹へと向ける。
「初めまして、貴女が私の妹ですか」
「はい、そのような形になります」
「直接話せないことは悲しいことですが……アンネマリー様にお伝えください。
 主命を果たせず申し訳ありませんでした。
 一度は果たせなかった命を、もう一度果たせる機会を貰えて嬉しいです。
 ……マンフレートに制御を奪われ、多くの物を見ました。
 全てが良いことだったわけではありませんでしたが……最後に私のまま、この夢を抱いて眠れることは幸福です。
 どうか、お幸せに、我が主よ……私は、貴女にお仕え出来て幸福でした」
 そう言って、マティルダは改めてイレギュラーズの方を見た。
「来訪者の皆様……此度はご迷惑をおかけしました。
 私のことを救っていただきありがとうございます」
 そう言って頭を下げようとして落としかける。
「私から1つ依頼がございます。
 もうほとんど砕けたコアですが、どうか持ち帰っていただきたい。
 ……報酬は、差し上げられませんが」
「……分かりました」
 グリーフは短く答える。時間は惜しいのだから、少しでも長く彼女の言葉をアンネマリーへ届けるために。
「……お墓も作らないとだからね。おやすみなさい、マティルダさん」
 朽ち果て行くゼロ・クールへ、ヨゾラは視線を交えて応じた。
「……一欠片だって残さずにアンネマリー様のところに連れて帰ってあげるのです。
 ただいまって……おかえりなさいって……いえるように」
「……いえ、それは皆様のご迷惑になりましょう。コアだけで充分ですよ」
 ニルの言葉に、そう、マティルダが言った。
 それはどこか優しい声な気がして、きっと微笑みながらの声だった。
 そっと延ばされた手が、ニルへと触れて――優しくなでるままに落ちて行った。

成否

成功

MVP

ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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