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シナリオ詳細

<再現性大阪>猛虎日本一やねん! 道頓堀川に飛び込め~!(38年ぶり2回目)

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

「いえ、飛び込まないでください」
 と、ザビーネ=ザビアボロスがまじめな顔で言った。『●章題』が出る前に。

●何故こんなことになったのか――。
 それはそうである。そもそも、道頓堀川に飛び込んではいけない。
 ここは再現性大阪、再現性道頓堀川。最近は水質浄化が叫ばれているため、とりあえず見た目から綺麗になった(もともと綺麗だったが、再現のために見た目だけ汚くされていたのだが)、再現性綺麗な道頓堀川である。
 さて、猛虎が日本一になった。それも、38年ぶりにだ。
 つい先日、アレしたこともあるのだが、このビッグニュースにわかない再現性大阪人ではない。というわけで、道頓堀川に飛び込む者たちが現れたのだが――。
「大変です。夜妖が現れました」
 と、T(タイガー)部隊のドンマイちゃんが言った。ドンマイちゃんは新人である。あと割とうっかりしている。
「ちなみにミキガン隊長は風邪でお休みです」
「それはいいのだが」
 紫電・弍式・アレンツァー (p3p005453)が訪ねた。
「今回もあれか、愛を叫びながら川に飛び込むとか?」
「何を言っているのですか?」
 ドンマイちゃんが怪訝な顔をした。
「まじめな仕事ですよ。ふざけないでください」
「あっ、はい……」
 紫電がしゅんってなる。
「とにかく、夜妖が現れました。彼らは警官隊の姿を取り、道頓堀川を占拠しています。
 彼らの要求は、道頓堀川に飛び込まないこと――」
「普通では?」
 水天宮 妙見子 (p3p010644)が首を傾げた。
「それは普通のことなのでは?」
「それと、非課税の五千兆円と、猛虎の解散。あと猛虎日本一セール価格を十年間維持し続けること」
「急に俗っぽくなりましたね」
 トール=アシェンプテル (p3p010816)が目を細めた。
「結局これ、いつもの変な依頼なのでは?」
「何を言っているのですか。我々のあっせんする依頼に変なものなどありません」
 ぷんぷんとドンマイちゃんが怒った。
「で、敵の数は?」
 紫電が言う。
「全滅させればいいんだろう? いつも通り――」
「334体です」
「ゲームのルール理解してる??????」
 紫電が言う。
「このゲームのルール、理解してる?????」
 もう一回言った。
「当然です――というわけで、適当にていやーして終わり、とはいきません。無理です。勝てません。
 そこで行うべきは――潜入、です」
「潜入?」
 トールが目を輝かせた。
「スニーキングミッションですね! こう、スパイ的な! ソリッド的な!」
「そうなります」
 ふふん、とドンマイちゃんが笑う。
「というわけで、皆さんは敵の集団から隠れながら道頓堀川に向かい、最終的に道頓堀川に飛び込むことになります」
「なんで?」
 妙見子が首を傾げた。
「なんで飛び込むんです?????」
「いえ、道頓堀川に飛び込むと、夜妖はなんやかんやあって死ぬのです」
 ドンマイちゃんが言う。
「なので――飛び込むしかないのです」
「やっぱり変な依頼だぁ」
 紫電が言うのへ、ドンマイちゃんがぷんぷんした。
「我々のあっせんする依頼に――」

●それで
「いや、そんなの信じられるわけないでしょ」
 と、ムラデンがあきれたように言った。
 というわけで、再現性道頓堀である。
 無数の警備員――夜妖だ――の中に、イレギュラーズたちは見知った姿を見かけた。
 具体的に言うと、ザビーネ、ムラデン、ストイシャ、の三竜である。
 なんでこんなところに、と驚いて尋ねてみたところ、ザビーネはうんうんとうなってから、
「お仕事を頼まれました」
 と、得意げに言ったわけである。
「夜妖に?」
 トールが首をかしげるのへ、ザビーネが小首をかしげた。
「夜妖?」
 ちらり、とあたりを見る。
 どう見ても警備員であった。
「……夜妖はとても恐ろしいものと聞いていますが。こんな警備員のはずがないでしょう。
 しかも、道頓堀川に飛び込んではいけませんと言っています。
 それはそうでしょう。まったく正しい理屈だと思いますが」
「しまった! この人与太慣れしてない!!」
 妙見子が声を上げて、ムラデンに視線を移した。
「ムラデンなら知ってるでしょ!? 世の中には変な夜妖が、わりと高頻度で出てくることを!」
「んー。わからないなぁ……メイド服とか着たことないし……夜妖が変な奴だなんて記憶にないなぁ……」
 ムラデンがそっぽを向くのへ、トールがぐぬぬ、という表情をする。
「このドラゴン、例の与太シナリオの存在をとぼけて通すつもりですよ!
 そんなにザビーネさんに知られるのが嫌なんですか!」
「嫌に決まってんだろ!!」
 がーっ、とムラデンが言うのへ、ストイシャが苦笑する。
「だ、だから、あんまり、触れないであげて……」
「こういう時はお姉ちゃんだな……」
 紫電がゴクリ、とつばを飲み込んだ。
「とにかく。私たちも、お仕事をしてお金を稼ぐ身。これも社会勉強といいましょうか。
 そういうわけですから、皆さんのような不埒ものを道頓堀川に飛び込ませるわけにはいきません」
 むふー、とザビーネが言う。まったく、表面だけをなぞれば、ザビーネたちに理がありすぎた。
「……どうします? 途端にガチみが増してきました。
 弱体化しているとはいえ、ムラデンとストイシャ様は強敵ですよ。
 ましてや、ザビーネ様は、消耗しているとはいえ能力は未知数……。
 ぶっちゃけ、かなりベリーハードなのでは?」
 妙見子の言う通り、ムラデンとストイシャは、消耗しているとはいえ、イレギュラーズたちに匹敵するほどの力を未だに持ち合わせているし、ザビーネもまた消耗しているとはいえ、どれほどの戦闘能力を維持しているかは不明である。
 つまり、正面からぶつかれば、確実に壊滅する。それは、夜妖が334体いる以前の問題である。
「で、でも、あんしんして」
 と、ストイシャが小声でイレギュラーズたちに伝える。
「夜妖が、へんなのは、ちゃんとわかってるから。
 おねえさまがやる気だから、止められないけど……。
 でも、ムラデンと一緒に、おねえさまの気を引いてあげるから」
「ま、最悪、なんかあったらうまく手伝うよ。だからさっさと、この仕事終わらせてくれない……?」
 ムラデンが苦笑していうのへ、紫電はうなづく。
「なら、予定通り、道頓堀に侵入して、敵に見つからないように道頓堀川に飛び込む……!」
 その言葉に、仲間たちもうなづいた。
 そういうわけで――スニーキングミッションである!

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 電気屋でマイクロSDを買いました。
 その一週間後に猛虎が日本一になってセールが始まりました。
 洗井落雲です。

●成功条件
 参加者の内、最低一人が道頓堀川に飛び込む

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 道頓堀川に飛び込むの禁止する夜妖が出ました。
 それっていい人なのでは? と思いましたが、彼らは道頓堀を占拠し川に近づくものを排除しています。同時に、非課税の五千兆円と、猛虎軍の解散と、猛虎日本一セールを10年継続することを要求しています。
 もう殺すしかありません。が、こいつらは何せ334人いるので、正面からぶつかると圧殺されて死にます。
 加えて、なぜか夜妖にお仕事の依頼を受けたザビアボロス一家がおり、特にザビーネは未だに強力なユニットです。正面からぶつかって勝てる状況ではありません。
 そこで、スニーキングミッションになります。道頓堀に潜入し、時に隠れ、時におとりとなり、時に少数の敵と戦い――とにかく、大群とザビーネに見つかりお仕置きされないように、隠れながらすすみ、道頓堀川に飛び込むしかないのです!
 道頓堀付近は、ビルや商店などの立ち並ぶ、乱雑な市街地になっています。建物中に、路地に、ひそみ、かくれ、死力を尽くし、道頓堀川に向かいましょう。
 最低一人でも、道頓堀川に飛び込めば勝ちです。言い換えれば、一人でも目標を達成すればいいわけですが、時には犠牲を強いてでも先に進む必要があるかもしれません。お覚悟を。

●エネミーデータ

 夜妖 ×334
  夜妖です。単体性能でも十分強いのですが、これが334体いるのでどう頑張っても勝てません。
  正面からぶつかるのは失敗一直線です。うまく潜入作戦を行い、やり過ごしましょう。

 ザビーネ=ザビアボロス
  バシレウスがひとつ。強大な竜。
  ただ、今のところ、先の戦いの影響で非常に消耗しており、おそらく、かなり弱体化しています。
  が、もともと超強力な竜。334体の夜妖に加えて、ザビーネと戦えばまず勝てません。
  うまく隠れたり、話しかけて気をそらせたり(道頓堀に側に飛び込むそぶりを見せなければ割と穏やかです)して、とにかく戦闘に入らないようにしましょう。
  ムラデンとストイシャも、気を引くのを手伝ってくれます。

 ムラデン&ストイシャ
  レグルス竜の双子。
  強力な竜ですが、現在はザビーネと同じ事情から弱体化しており、だいたいイレギュラーズたちと同じくらいの強さ、と考えてもらって問題ありません。
  この二人はイレギュラーズたちに協力的で(この依頼の夜妖が変な夜妖だと理解しているので)、プレイング次第で手伝ってくれます。
  戦闘で協力を仰いだり、潜伏の同行を頼んだりするといいでしょう。ザビーネの気を引いてくれたりもします。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。

  • <再現性大阪>猛虎日本一やねん! 道頓堀川に飛び込め~!(38年ぶり2回目)完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年11月26日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)
真打
※参加確定済み※
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
メリーノ・アリテンシア(p3p010217)
狙われた想い
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
※参加確定済み※
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス
※参加確定済み※
ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

サポートNPC一覧(3人)

ザビーネ=ザビアボロス(p3n000333)
バシレウス
ムラデン(p3n000334)
レグルス
ストイシャ(p3n000335)
レグルス

リプレイ

●というわけで
 再現性道頓堀川に飛び込むミッションを受けた、いつものローレット・イレギュラーズたち――。
 『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)。
 『真打』紫電・弍式・アレンツァー(p3p005453)。
 『芽生え』アルム・カンフローレル(p3p007874)。
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)。
 『狙われた想い』メリーノ・アリテンシア(p3p010217)。
 『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)。
 『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)。
 『瀉血する灼血の魔女』ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)。
 彼らは恐るべき事態に直面していた。
「確かに、リクエスト文に『ムラデンとか居てもいい』とは書いたが!
 なんでザビアボロス一家総出になってんだ!!!」
 紫電が叫ぶ! そう! なぜか洗井落雲のその場のノリで、ザビーネ=ザビアボロスが何となく参戦していたのだ!
 弱体化したとはいえ、バシレウスが一つ。その強力な竜を相手に、いつものノリでは通用しない!
 そのうえ、警備員夜妖が334体もいるのだ! これは難易度ナイトメアである! いや、ナイトメアではないのだが、そういう気持ちということで一つ。
 しかし、ローレット・イレギュラーズたちも、ただ黙ってすごすごと退散するわけがない。ここでローレット・イレギュラーズたちは、逆転の一手を考え付いたのだ!
 そう――洗井落雲の自宅への襲撃である!!!!

 ここは、自然あふれる山の中。洗井落雲のおうち――。
 洗井落雲の朝は遅い。
 大体夜遅くまでリプレイを書いていたり、ゲームをしたり、本を読んだり、プラモデルを組んだりしているからである。
 今日も、朝日が頂点に達したころに、洗井落雲はもそもそと布団からはい出した。昨日の夜ごはんだった残ったドングリをかじりながら、カレンダーを眺める。
 ああ、今日はリプレイを書かなくては。
 山の光ファイバーに繋がった、木製ゲーミングパソコンを起動すると、山のインターネットにつながった森の仲間たちに挨拶。今日も頑張ります、とキーボードをたたきつつ、山のポットでお湯を沸かして、山のコーヒーを淹れる。
 さぁ、今日も頑張るぞい、と気合を入れて、動画サイトでおすすめの動画を眺め始めるのだ。

 がしゃぁああん、と窓ガラスが割れる音が響いた。慌てて男が飛び出してみると、鉄パイプをもって仁王立ちする、メリーノ、トール、紫電、妙見子の姿があった!
「開けろ洗井落雲! FBIだ!」
 紫電が叫んだ。もう開いているというか、窓ガラスを突き破って内部に侵入している!
「笑顔をお届けに来たわぁ!」
 メリーノがそういう。鉄パイプで窓ガラスを割って笑顔も何もあったものではない。
「名乗るほどのものじゃあないが、誰もがこう呼ぶ――え、呼んだ覚えはない? それはそう」
 ふふん、とトールくゃんが胸を張った。
「妙見子は無実です」
 妙見子が言った。
「妙見子は無実です」
 そうかそうか。さておき、メリーノが、トールが、紫電が胸を張って叫んだ。
「洗井落雲ちゃん! 年貢の納め時よ! さっさとムラデンとたみちゃんのラブラブSSを書くのよ!」
「なんでだよ」
 ムラデンが突っ込んだ。
「いや、なんでだよ」
「というか! オレはムラデン君だけ指名で呼んだ筈なんだが! おい聞いてるのか洗井! なんでザビーネさんまで呼んだ! 言え!」
 面白かったからとしか言いようがないのだが、しかしそれで紫電の腹が収まることはないのだろう。トールは腕組をしながら、ラーメン屋の大将みたいな顔をしている。
「ラーメン、食ってくか?」
 圧を持って迫るイレギュラーズたち。ここで洗井落雲を打ち取れば、あとはもう、依頼は完遂したようなものであった。この後はザビーネ一家と日本一セールで家電でも買って帰ればいいのだ。残り7千文字ほど、ぶらり道頓堀の旅が始まります。
「いや」
 と、男が言った。
「洗井って人は先週引っ越しました」
「えっ」
 と、メリーノが言った。
「妙見子は無実です」
 妙見子はそういった。
 それじゃあ、皆さんはここに、罰として性癖を開陳した感じのイラストでも頼んで挿絵ではっておいてください。

 洗井落雲の夜は遅い。
 朝が遅いので、必然、夜遅くまで起きているのだ。
「今日も一生懸命働いたな」
 日課になっているソシャゲのデイリークエストを消化して、んー、と肩をほぐした。
 開いていた動画サイトを閉じて、森の仲間たちに「おつかれさまでした」と声をかける。
 木製のゲーミングパソコンを閉じて、電気を消して、布団に潜り込む。
 明日も頑張ろう。そう考えながら、洗井落雲は眠りにつくのでした。

 終わり。


「なんだったんですか今の?」
 ルトヴィリアが戦慄した様子で声を上げた。
「あり得ない……なんだったんですか、今の……?」
 状況を理解することを脳が拒んでいた。それくらいに訳の分からない寸劇が繰り広げられていた。そもそも、洗井落雲とはいったい何なのだろうか。井と名乗る旅人とは違うのだろうか? わからない。わからな過ぎて瀉血っていうか吐血しそうだった。
「気にしたら負けだよ?」
 モカが言う。
「大丈夫? 再現性大阪の依頼だよ?」
 モカが言う。ルトヴィリアの表情が曇った。おそらく、ここでは常識は通用しなのだろうと思った。
「ううん、どうすればいいのかなぁ」
 アルムが困ったように声を上げる。ここから強引に軌道修正を図る。とにもかくにも、なにせ、何度も言う通り正面からの攻撃は通用しない。いかに精鋭のローレット・イレギュラーズとはいえ、ザビーネと愉快な334体の警備員たちを相手に、真正面から飛び込めば、間違いなくすりつぶされて死ぬ。
「ふむ。とにかく、ザビーネさんの相手をしなければなりませんね」
 寛治が言う。この依頼でのキーとなるのは、やはりザビーネだろうか。とにかく、真っ先に何とかするのは、かの竜であるザビーネだ。とはいえ、ザビーネは『好戦的』というわけではない。寧ろ「警備員」に徹しているわけで、『道頓堀に飛び込む』という行為さえ見せなければ、友好的であるといえた。
「皆様は、そちらで立ち話などなされてはお疲れでは?」
 ザビーネが小首をかしげる。
「ソチャでよければ、ご用意できますが。あの、少々、苦いのですが」
「いえ、大丈夫です」
 ぷるぷるとルトヴィリアがかぶりを振った。
「そうですか……そちゃ……」
 しゅん、とザビーネが肩を落とす。
「……飲んだほうがいいですか?」
「いや、大丈夫」
 ムラデンが答える。
「とにかく、この仕事何とか早く終わらせちゃってよ。そのほうが、キミらも楽だろ?」
 そういうのへ、ストイシャがうなづいた。
「私も、早く、お菓子の調理器具のセールが見たい……から……」
 ストイシャも苦笑する。レグルス竜の二人にとっては、何とも『面倒な夜妖』の相手であることは理解しているわけだ。ザビーネは与太慣れしてないので気づいていないのかもしれないが、それでわざわざ止めてやるつもりは、二人いはないらしい。多分、ザビーネも楽しそうだからだろう。
「では、楽しい気分のまま、ひとまず退場してもらうのはどうだろうか?」
 モカが言う。
「ムラデン、ストイシャ、キミたちは手伝ってくれるんだったね?」
「そ、それは、もちろん」
 ストイシャがうなづく。
「はやく帰って、セール見たいし……」
 そわそわと再現性道頓堀の街並みを見やる。
「まぁ、ニンゲンが怖いからって僕はストイシャに付き合わされるんだけど」
 ムラデンが肩をすくめる。
「可愛い妹のためなら荷物持ちもね。というわけで、何でも……とか言うと変なことされそうだな。できることには付き合うよ」
「ちっ」
「たみこ?????」
 舌打ちする妙見子に、ムラデンが圧をかけた。
「いえいえなんでも! 妙見子ちゃんは無罪です。
 なんでもさせられないのは残念ですが、そこはそれ。
 手伝っていただけるのなら幸いですよ、ムラデン」
「そうよねぇ。なんでもさせられないのは残念だけど、手伝って頂戴ね? 坊や?」
「メリーノは何なんだよ、もう。
 とにかく、何をするのさ?」
 そういうのへ、モカはうなづいた。
「そうだね……まずは、ザビーネさんをデートに誘ってもらうか」


「再現性大阪名物の食い倒れにご案内しますよ、ザビーネさん」
 寛治はそういう。再現性道頓堀の川べり。赤いライト棒を楽しそうにふっていたザビーネが、はた、と手を止める。
「ですが、私はここで、こうして」
 ぶん、とライト棒を振った。
「警備の仕事を」
「存じています」
 寛治がうなづく。
「道頓堀川に飛び込もうとする不届きもの……それを制したいという気持ちも。
 その大切なお仕事中である事は承知しております。
 しかし、ただ川で待ち構えるのではなく、こちらから打って出て川に飛び込みそうな者を予め牽制する方が、より効果的では無いですか? ほら、竜の威光的なやつで。
 そういう者達が立ち寄りそうな所を、先んじて巡ろうというのが今回の趣旨です」
 ほう、と、ザビーネが感心したような声を上げた。
「目からうろこです……」
「騙されてる……」
 ストイシャが小声で言った。
「おひいさまが心配になってきた。ローレット・イレギュラーズを信用したからって限度があるだろ……」
 ムラデンが頭を抱える。
「こちらとしてはうれしい言葉なんだけどね……」
 アルムがそういった。竜が全幅の信頼を寄せてくれているのはうれしい。それがこんな妙な依頼だとしても。
「では、ニッタ。パトロールに行きましょう」
 ぶんぶんと赤いライト棒を振るザビーネに、寛治は笑った。
「とりあえずそれは置いておいてください。では」
 そう言って、寛治が仲間たちに目配せをする。果たして寛治は、ザビーネとともに道頓堀の街に消えた。なんでも、おいしいたこ焼きに行くらしい。普通にうらやましい。
「それじゃあ、作戦を始めましょう」
 と、トール。
「あらためて確認します。僕らは、ひきつけるほう。
 紫電さんと、ルトヴィリアさんで、飛び込みの先陣を切ります。
 とにかく、誰か一人でも飛び込めば勝ちなので。
 なんかこう、最終的に全員飛び込むことになりそうですけど」
 トールが未来を幻視した。多分全員飛び込むことになるぞ。
「ええと、はい。任せてください」
 ルトヴィリアがうなづいた。
「ああ。伝説の傭兵のように……スニーキングして見せよう」
 ぐっ、と紫電が親指を立てる。
「とにかく、こういうと申し訳ないけど、厄介なのはザビーネさんだからね」
 アルムが言った。
「彼女を押さえつつ……334体の夜妖はスニーキングで何とかする。それでよし、だ」
「では、始めようか――我々の舞台を」
 そう言ってモカが笑うのへ、ストイシャは恥ずかしそうに、ムラデンは肩を落とした。

 さて、たこ焼きとラーメンを食べ、にくまんを片手にほくほく顔で食べ歩きをするザビーネと、的確にエスコートする寛治。地元のダチコーから仕入れた情報は的確にうまいものを提供させていた。
「そろそろ休みませんか、ザビーネさん」
「あぁ、申し訳ございません、ニッタ。
 ニンゲンの体では、長い距離でしたね」
 どうやら、まだまだ元気らしい。そこは底なしのパワーを持つ竜か。これで疲労させようとしていたなら失敗だったかもしれないが、今回は気をそらすことだけが目的なので、むしろ寛治を気遣うほどに食べ歩きに夢中になっているあたりで正解であろう。
「このあたりで、舞台をやっているそうです。ああ、ちょうどあちらですね。
 席も用意してあります。一緒に観劇いたしましょう」
 さっ、とテーブルに誘導する。椅子の埃を軽く払い、着席を促した。肉まんを片手に座ったザビーネが楽し気に部隊のほうを見ると、そこにはモカとメリーノの姿があった。
「まったく! キミはいつもそうだな! メリーノさん!」
「もう、なによぉ、お隣の食堂のモカちゃんったら!」
「みたまえ! キミのペットショップのトリが! いつもこっちのほうに飛んで来ようとするんだよ!?」
 許せねぇよ……(ペットのオウムの声)
「まぁ! このオウムは……オウム? 本当に? えっと、まぁ、いいの。とにかくこのオウムちゃんは、ただちょっと許せないことがあっただけじゃない! ねぇ?」
 許せねぇよ……(ペットのオウムの声)
 ナレーションのストイシャの声:た、大衆食堂を営むモカと、ペットショップのメリーノは、な、仲が悪くていつも大騒ぎ……。

「何やってんだ」
 舞台袖でムラデンが嘆息する。まさか、『喜劇をやるから手伝え』といわれるとは思わなかったものだ。
「なに~? 柄にもなく緊張してるんですか?」
 妙見子が、ムラデンを後ろから抱きしめた。ムラデンが慌てる。
「ひ、人前で抱き着くなよな! 恥ずかしいだろ!」
「ふふ、気にしない気にしない」
「たみこはちょっとしろよ! っていうか、こんな、寸劇みたいなのやらされるとはさ……!」
「恥ずかしいです?」
 からかう様に言う妙見子に、ムラデンはうなづいた。
「そりゃそうだろ。みろよ、ストイシャの顔! 赤竜みたいだ!」
 顔を真っ赤にして、ナレーションの文言を読み上げるストイシャ。ちなみに、この後子供役で出番もある。
「でも、楽しいでしょ?」
「それ言えば全部解決するとは思うなよな!? まぁ、楽しくなけりゃこんなところにはいないけどさ!」
 ふん、とムラデンが妙見子を振り払った。
「もう、手伝ってやるんだから、さっさと片付けろよ、こんな仕事……。
 ストイシャ、大丈夫か? セリフ覚えてる?」
「せ、セリフ、全部アドリブで何とか、しか書いて無くない……?」
「そうだけどさ、そうなんだけど! 雑だな、みんな!」
 ぎゃあぎゃあと、双子が大騒ぎ。でも、どこか楽しそうなのは、きっと幸せなことなのだろう。

「まぁ、ストイシャとムラデンも参加しているのですね」
 くすくすとザビーネがわらう。一方で、あたりの夜妖を巻き込んで、酒を配って大騒ぎしているのはアルムだ。
「さぁさぁ、今日はめでたい日だからね! 楽しんでいっておくれよぉ!」
 アルムがあちこちにお酒を配って回る。
「あ、ザビーネ君はお酒飲める?」
「竜とお酒。伝説ではつきものですよね?」
 ふふ、と笑う。
「私は若輩ではありますが、ニンゲンで換算しても成人はしております。
 たしなむ程度でしたら」
「なら、よかった」
 アルムが笑う。
「いろいろお話したかったんだよね! ストイシャ君とも、一緒にお菓子を作りたかったし……ムラデン君と妙見子君のデートの話も聞きたかったんだよねぇ~!」
「デート?」
 ほう、とザビーネが小首をかしげる。
「ちょ、まて、アルム! それはダメ!」
 ムラデンが叫ぶのへ、アルムは目を丸くした。
「あ、この話はダメだった!? ごめんごめん!」
「おう、ラーメン屋では静かにしてくれよな!!」
 と、トールが腕を組んでそう叫んだ。ラーメンとぉるである。
「てやんでぇ! 俺が命かけて作ったオーロラ色のスープが自慢のシンデレララーメン喰っていきな!
 本日限りだべらんめぇ! ムラデン、ストイシャ! 手伝ってくんねぇか!」
「え、え、え? ら、らーめんとか、つくったこと、ないけど……!?」
 ストイシャが目を丸くする。
「大丈夫だべらんめぇ! お客さんに配膳するだけでオーケーだ!」
「まぁ、それならいいけど……っていうか、メリーノ! その写真なんだ!?」
「あら坊や、なんで持ってるかって? たみちゃんに「あの凄いカメラ」のこと教えたのわたしなのよ?
 報酬がないのに情報をあげるわけないじゃないの。
 ほらほら、ザビーネちゃん、前回のね、ご依頼でのことなんだけど、坊やとみんなのこんなお写真みたかしら~~?」
 メリーノが写真をひらひらするのへ、ムラデンが飛びつく。そのままムラデンを持ち上げて、メリーノがけたけたと笑った。
 ザビーネはほほえましそうにそれを見ながら、ラーメンをすす
「ザビーネさん! うちはスープからって決まりがあるんでね!」
「…………?」
「お客さん! スープから頼むよ! 絶対にスープから飲めよ! フリじゃないって言ってるだろ!!」
「ずず~~」
「アァァァァ~~~~~~!!!」
 トールが叫んだ。

 さて、そんな大騒ぎの中、紫電とルトヴィリアはすごくまじめにスニークミッションを敢行していた。えらい。
「与太だからっててかげんしません」
 むん、とこぶしを握り締めるルトヴィリア。さて、ルトヴィリアは路地裏から空を飛んでビルの屋上へ。
 なんだか近くなった空を見ながら――実際、練達再現性大阪の作り物の空は、本当に近くなったのだろう――ルトヴィリアは息を吸い込む。
 眼下に広がる334体の夜妖の中に、紫電が潜んでいるはずだ。きっと、今も息をひそめ、こちらのチャンスの合図を待っているに違いないのだ。
「はじめましょう、紫電さん」
 そうつぶやいて、ルトヴィリアは飛んだ。
「猛虎の優勝を記念し、道頓堀上空にて花火を打上げさせていただきます」
 響く、声。同時に、その体が輝く――。
 それは、地上から見れば、花火。輝く、一輪の。
「でも」
 そう、つぶやいた。
「気づきますよねぇ……!」
 ルトヴィリアが苦笑する。夜空を猛スピードで疾走するそれは、人間の姿でありながら、そして弱体化してありながら、未だ驚異的な力を誇る、バシレウスが一つ――。
「だめです」
 ザビーネが、そういった。
「だめですよ」
 ふ、と優しく笑う。そのまま、ルトヴィリアの首根っこをつかんだ。ぐい、と押し込まれる。体ごと――大地へ!
「手加減はしますが――少しだけ、反省なさってくださいね?」
「ええ、そうですね……でも……!」
 そう、ルトヴィリアは、あくまで一の矢に過ぎない――!
「そうだとも……!」
 紫電だ! ここまで雌伏の時!
「皆の尊い犠牲とラーメンとデートと漫才は無駄にはせん!
 必ず飛び込んでこのふざけた悪夢を終わらせよう!」
 叫ぶ――スニーキングから、ダッシュへ。走る――ゴールへと、向けて!
「……!」
 ザビーネが、驚いたように目を開いた。追撃できるだろうか? いや、もしここで紫電を追えば、抱えているルトヴィリアに甚大なダメージを与える可能性がある。
 詰んだのだ――ルトヴィリアが、自らをおとりにした段階で。ザビーネは、もはやローレット・イレギュラーズたちを傷つけようというつもりはないのだから。
「もらった――!」
 紫電が、とんだ。飛び込む。道頓堀川へと――。
 その瞬間、清浄なる道頓堀川から、神々しい光が吹き上がった。それは、警備員夜妖を次々と飲み込み、消滅させていく――!
「……参りました」
 ザビーネが、ルトヴィリアを伴い、ゆっくりと降り立つ。
「いえ、皆様に誘われ……浮かれていたことも事実。
 ふふ、まいりました」
 そう言って、楽しげに笑った。
「おっと、まだまだこれからですよ?」
 寛治がうなづく。
「さて、この再現性道頓堀の乱痴気騒ぎ。
 長らくこの川に施されていた封印が解かれた事が原因でしょう。
 よって、再封印を行います。
 これこそが、かつて道頓堀の川底にて『アレ』が起きぬよう封印していた再現性創業者おじさん人形なのです!」
 と、どこかのチェーン店のおじさんを持ち上げる!
「いや、それ投げたらだめなんじゃないの!?」
 川の中から紫電が叫ぶのを気にせず、おじさんが放り投げられた。
「ふふ、こうなったら、もうみんな好き放題ね!」
 メリーノが笑った。
「しゅぺるちゃんってね、どうしてあんなに可愛いと思う?
 お顔もキュートだし、ずっと引きこもりでお肌真っ白だし、カレーうどん食べられないような真っ白のお洋服も、いっつも気怠げなのにたまぁに、気まぐれに返ってくるお返事も、全部素敵でしょ?
 誘ったら真夏のバカンスに目玉ロボ飛ばしてくれるし、ほんっとたまんない どうしてこんなに狂わされたのかしら――!」
 愛を叫びながら、メリーノが飛び込む。
「じゃあ、僕も!」
 アルムが叫んだ。
「俺はこの世界で出会えたたくさんの人達が好きだし忘れたくない!
 でもまだどうしたらいいかわかんな〜い!
 滅びを回避して皆無事にいられますように!
 ついでにプーレルジールのステラ君ともう少し仲良くなれますように!」
 願いを叫び、アルムが飛び込む。
「いや、もう愛とか叫ぶ必要ないだろ!?」
 ムラデンが驚くのへ、しかし妙見子はその手を取って。
「こういうのは飛び込んどいた方がいいんです!
 どうせこれからもっと与太依頼に突っ込まれるですから慣れておかないと!」
「いや、嫌だよそれ!?」
「あら、ムラデンは、私と遊ぶのは嫌?」
「そうじゃなくてさ……!」
「ほら、行きますよ!」
 そう言って、手を取って走り出した。
 気づけば、多分みんな。
 走り出して、飛び込んでいた。
「ザビーネ様ストイシャ様! 弟さんを……妙見子にくださ~い!」
「何言ってんだたみこ!?」
 手をしっかりとつないだまま、二人が飛び込む。
 皆が、飛び込む。
 笑いながら。
 笑いあいながら。
 だってそうだろう?
 今日も世界は――こんなにも愉しい!

成否

成功

MVP

ルトヴィリア・シュルフツ(p3p010843)
瀉血する灼血の魔女

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました。
再現性道頓堀のお祭り騒ぎ。

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