シナリオ詳細
霧深き田舎に泊まろう。或いは、忌み日に外に出てはいけない…。
オープニング
●田舎に泊まろう
豊穣のある寒村には、1年に数日、“忌日”と呼ばれる時期がある。
その名の通りの「忌むべき日」であり、村全体が濃い霧に覆われ、まるで死んだように静まり返るのだ。
“忌み日”の期間は、その年によってまちまちだ。
短ければほんの1日、長い時だと半月ほども続いたという記録が残っているという。
「さて、ではその“忌み日”に何が起きるかと言うと……まぁ、不可思議なお話なんっすけど、誰も知らないんっすよね」
何しろ忌み日の期間中、村人たちは各々の家に引き籠って過ごすのだ。当然、濃い霧に飲まれた村で何が起こっているかなんてことは、村人の誰も知るはずがない。
過去には忌み日の真偽を疑い、期間中に家の外へと出かけた者もいるそうだが、悲しいかなその者は、結局、帰って来なかった。
霧の中で迷ったのか、何かに襲われでもしたのか、それとも村を出ていったのか……それさえも分からない。
家族の制止を振り切ってまで家の外に出て、そのまま姿を晦ましたから。
忌み日に何が起きるのか……そんな話を聞こうにも、行方知れずの者に何かを問えるはずもなく。
まぁ、つまりは依然として“忌み日”の習慣は、昔から何も変わらないまま続いているというわけだ。
「忌み日の規則は2つだけ。1つは、霧が晴れるまで家から1歩も出ないこと。もう1つは、家の前に盃と酒の瓶を置いておくこと」
2本の指を立てながらイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)がそう言った。
今回、イフタフが村を訪れたのは“忌み日”の謎を解明するためである。豊穣の偉い学者様から、それなり以上の金品を積まれて調査を依頼されたのだ。
偉い人というのは、まぁ、あまり自分が動くようなことをしない。
金を払って、自分の代わりに下っ端に仕事を押し付けるのだ。仕事の内容が危険であればあるほどに……今回、不幸にも貧乏くじを引いたのがイフタフだったということだ。
「噂じゃ霧の中を何かが歩き回っているとか、無数の足音が聞こえるとか、猫の鳴き声が聞こえるとか……まぁ、何かしら“忌み日”が起こる原因ってものがあるんでしょうね」
別に忌み日の原因を、取り除いてやる必要はない。
それは依頼の範疇を超える行為であるからだ。
依頼内容は1つだけ。“忌み日”の期間、村の中を歩き回って、原因があればそれが何かを突き止める。
そして、生きて帰って来ればそれでいい。
「っと、件の村が見えてきたっす。見ての通り、すっかり霧に覆われていて、立ち入れば数メートル先さえよく見えなくなるようで」
村から数十メートルほど離れた位置で、イフタフはピタリと足を止めた。
その頬には冷や汗が伝っている。
「……何か、足音とか、聴こえてくるっすね。人影なんかは今のところ見えないっすけど」
背筋に感じる悪寒から、忌み日が単なる迷信ではないことが理解できた。
理性ではなく、本能で……忌み日が危険なものであると分かったのだ。
「あぁ、何か聴こえる。聴こえてくるっす」
耳を押さえて、エントマがその場に蹲る。
だが、霧の中から聴こえる音は……声は、耳を塞いだ程度ではシャットアウト出来ない。その声は、鼓膜では無く、脳髄に直接、響いているのだから。
『……ねっこ』
不気味な猫の鳴き声を聞いて、エントマは悲鳴をあげたのだった。
- 霧深き田舎に泊まろう。或いは、忌み日に外に出てはいけない…。完了
- GM名病み月
- 種別 通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年11月13日 22時05分
- 参加人数7/7人
- 相談0日
- 参加費100RC
参加者 : 7 人
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参加者一覧(7人)
リプレイ
●忌み日について
『……ねっこ』
霧の濃い夜。
どこか遠くで猫が鳴く。
「おぉ。こんなに霧が濃くても、猫は普通に出歩いてるんだな」
囲炉裏の灰を掻き混ぜながら、『斬竜刀』不動 狂歌(p3p008820)はそう呟いた。
ところは豊穣。
名も知らぬ寒村。
霧の深い夜である。この村では年に1度、こんな風に辺りがすっかり濃い霧に飲み込まれる日が来るのだ。村ではそれを“忌み日”とそう呼んでいる。
“忌み日”の期間中、村の住人は家屋に引き籠って、外に出るようなことはしない。ひっそりと息を潜め、玄関先に酒と杯を設置して、霧が晴れるのを待ち続けるのだ。
「いやぁ、狂歌さん。猫の鳴き声って……あんなんだったっすかね?」
「まぁ、変だけど」
イフタフの問いに、狂歌は少し難しい顔をした。今しがた聞こえた猫の鳴き声は、以前にもどこかで聞いた覚えがあったから。
「生贄を求めてるなら放ってはおけないが、ちょっとの酒と数日の休暇と思えば、なぁ」
現在、狂歌とイフタフは村の中にある空き家を借りて、皆の帰還を待っているところだ。
イフタフたちが村を訪れた理由は“忌み日の原因を突き止める”ためである。
既に仲間たちが村の調査に出ているのだから、拠点に詰める自分たちはのんびり果報を待っていればいいのだと、狂歌はそう言っているのだ。
「何の仕業であろうと、野良猫に餌をやる位の感覚でいいだろ」
囲炉裏にかけた薬缶の中から、燗した酒を徳利に注ぐ。
徳利と盃を盆に乗せた狂歌は、それを玄関前へと置いた。扉の隙間から見える外の景色は真っ白。数メートル先も見通せないほどに濃い霧に覆われていて……なるほど、これはまるで異世界にでも飲み込まれてしまったようである。
霧というのは、通常、風や空気の流れで広範囲へと広がるものだ。
だが、どういうわけか“忌み日”で発生した霧に関しては、少々事情が異なるらしい。
「イフタフ君、また妙な依頼に巻き込まれたんだねぇ」
『芽生え』アルム・カンフローレル(p3p007874)が霧をじっと観察している。村と外の境目で、ぴったりと途切れた奇妙な霧だ。
「ですが、確かに何かいる気配がします」
言い伝えで聞いていた通り、やはり霧の中に“何か”がいるようだ。それが決して人や猫の類ではないことを、『ジョシュにゃん』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は直感的に理解した。
うっかりそれを直視すれば、精神に大きな影響を受ける。そんな嫌な予感がひしひしとしている。
「この時期にだけ何か来てるなら、外からかな」
『海妖』エーギル・フレーセイ(p3p011030)が視線を村の西部へ向けた。そっちの方向には川が流れているはずだ。
霧というのは、大気中に多数の微小な水滴が浮かぶことで、視界を悪くする現象のことを指す言葉だ。つまり、その発生には必ず水分が必要となる。
村全体を覆う、これほどの量の霧となれば必要となる水分も大量となるはずだ。
「霧は川や沼からかな」
「とはいえ全く霧の中に行かないのも成果が出なそうだしな」
「その時は、慎重に行きましょう」
顔を見合わせた3人は、ひっそりと息を潜めて川の方へと歩いて行った。
何かに呼ばれた気がしたのだ。
「めぇ…どこかで感じたような気配がする、ような……?」
『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)は、いつの間にやら霧の深い村の外に立っていた。
どこを、どのように歩いてきたかは覚えていない。ぼんやりと、思考にまで濃い霧がかかっているような感覚がしていた。
「霧が濃い場所ですが……この集落に何かあるのでしょう、か」
見るからに不気味な場所である。
足を踏み入れることさえ躊躇われる。
かといって、不思議と立ち去る気にもなれないメイメイは、その場にじっと立ち尽くしていた。
“忌み日”の間、家から外に出てはならない。
そんな伝承。そんな約束。
「とはいえ、人の“忌み日”は妖怪には関係ないですからね」
胡散臭い言い伝えでも、必ず大元には“何かの原因”がある。その原因が何なのか、一体どうしてこんなことをしているのか。
『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)が気になっているのは“そこ”だった。
「しかし、まぁ……なんというか」
村に入ってしばらく立つが、それらしい影は見当たらない。
鏡禍が首を傾げた、その時。
『お、おぉぉ~!』
遠くの方から、誰かの悲鳴が響いたのである。
王者とは、家臣の安心のために動くものである。
誰よりも勇敢で、誰よりも鮮烈な輝きを纏い、誰もが憧れ、尊敬する者でなくてはならない。
君子危うきに近寄らず……そう言う言葉もあるけれど、『リスの王』カナデ・ラディオドンタ(p3p011240)に言わせれば、そのような勇敢さの欠片も持ち合わせぬ者など、紛い物の王者に過ぎない。
それゆえ、カナデは霧の村に踏み込んだ。
アノマロカリスの海種であるカナデにとって、そこにいるだけで衣服が濡れるほどの霧など特筆すべき問題にならないのである。
けれど、しかし……。
「お、おぉぉ~!」
村の散策を開始してから数十分。
カナデの足首に何かが巻き付き、その身体を地面に引き摺り倒した。
「チィッ!?」
「出て来ては駄目です、リス・レッドフィールド。しっかり安全にポケットに入っているように」
地面を引き摺られながら、カナデはポケットの中にいる臣下……次世代を担う勇敢なるリスへ呼びかける。
両手の指で地面を掴むが、引き摺る何かは力が強い。
そして、きっとその“本体”は巨大であろう。
「さて、そうはいったものの」
このまま引きずられて行って、何の問題も起きないだろうか。疑問を抱いている間も無ければ、ゆっくり思考する暇もない。
なので、とりあえず“お決まり”として、カナデはこういうことにした。
「あ~れ~」
無論、事態は好転しないが。
●霧の中に何かがいる
銃声が鳴った。
濃い霧を突き抜け、1発の弾丸がカナデの脚に巻き付く“何か”を撃ち抜いた。
爆ぜた肉片の一部が辺りに飛び散り、何かは霧の奥の方へと逃げて行く。
「今のが“忌み日”の元凶……ですか?」
解放されて、地面に転がるカナデの前にやってきたのは鏡禍である。鏡禍はカナデを助け起こすと、警戒心を顕わにした様子で“何か”が消えていった方向に視線を向けた。
「おや、そちらも不思議な気配を感じて? 随分と落ち着いたご様子ですが、もしかして霧の中での生活が長い?」
「そう言うわけじゃないですけど……酷い目に遭おうが何されようが怖がることは無い、でしょうね」
「ふむ。王者の素質がある様子」
「……王者?」
納得した、という風にカナデは頷く。
それから2人は、逃げて行った何かを追って霧の奥へと進んで行った。
銃口から燻る紫煙を吹き消しながら、ジョシュアは霧の中にじぃっと目を凝らす。
だが、もはやどこにも人影は見えない。
「今のは、何だったんでしょう。なんだか生臭いというか、磯臭いというか」
悲鳴が上がってすぐのことだ。
霧の中に、何かに引き摺られていく誰かの人影を認め、ジョシュアが銃を抜いたのは。
何かは無事に追い払えたし、引きずられていた誰かも解放されたと思う。
もっとも、結局のところ何かの正体は依然として不明なままであるが。
「そこ……何か、足跡? のようなものが見えない?」
しかし、その時、同じように霧の中を見ていたエーギルが何かの痕跡を発見した。
地面に何かを引き摺ったような痕跡で、例えば蛇などが砂の上を這った後には似たような跡が残るだろうか。
霧の奥へ、川からは少し逸れた方向に続いている。
「追う、かい? 危険が無いとも限らないけど」
アルムが眉間に皺を寄せて、そう問うた。
今回のような、いかにも奇妙なシチュエーションに身を置いた経験もある。その時はたしか、アルムが“猫”になったのではなかったか。
その時も、確か霧の濃い村が舞台であった。
「危険は上等。それはそれで手掛かりになるしね」
「じゃあ、まぁ、ちょこっとだけ……!」
とはいえ、エーギルの言うことも当然。
虎穴に入らずんば虎児を得ず、とは古くから伝わる至言である。
顔を見合わせた3人は、とりあえず村の外周に沿って謎の痕跡を追うことに決めた。
「……なんだったんだ?」
そう呟いた狂歌は、大太刀を卸して扉の前から身体を離した。
最初に悲鳴が聞こえて来てから、そう長い間も開けず銃声が響いた。
その後に訪れたのは静寂。
音も、気配も、何もかもが濃い霧に吸い込まれたかのように辺りが無音に包まれる。
「だ、大丈夫だったんすかね? 誰か襲われたんじゃ……」
「かも知れないけど、今さら俺らが外に出たって仕方ないだろ」
大太刀を鞘に仕舞うと、狂歌は囲炉裏の傍に腰を降ろす。それから両手を囲炉裏に翳すと、白い息を吐きだした。
家の中とは言え、季節柄少し冷えがきつくなってきた。
「のんびり待ってればいいんだよ」
「はぁ……そう言うもんっすかね。いや、何が出来るわけでも無いんっすけど」
手元の湯飲みに茶を注ぎながら、イフタフは口をもごもごとさせる。
何の役にも立てないことはまだいいとして、外で何かが起きているかもしれないというこの状況が、酷く落ち着かないのであろう。
「めぇ……?」
メイメイが手に取ったのは、酒のたっぷり入れられた徳利である。
村中を歩いた結果、メイメイが理解したことが2つ。
どの家の前にも酒と盃が置かれていること。そして、酒には一切、手が付けられていないことの2つ。
霧の中に何かがいるのは確実だ。だが、それは酒に手を付けていない。
「何かいる、のでしょうか?」
そう呟いた、その時だ。
『ねっこ』
メイメイの耳に、猫の鳴く声が届いた。
「……めぇ……何か、聴こえます。この『声』は、にゃる、さま?」
にゃる様。
メイメイとは幾らかの交流がある、豊穣に住まう黒猫である。目も鼻も口もないような真っ黒な顔で、『ねっこ』と奇妙な声で鳴くのだ。
『……ねっこ』
再び、黒猫の声がメイメイの耳に届いた。
その声には、メイメイを呼んでいるかのような気配を感じる。
「にゃるさま、お手伝い、する事はあります、か?」
鳴き声に導かれるように、メイメイは村の奥へと向かった。
「どうしました? リス・レッドフィールド」
胸ポケットの中で震える小さなリスの頭を撫でながら、カナデは問うた。
だが、リス・レッドフィールドが鳴き声を返すより少しだけ先に“答え”の方からやって来た。ずるずると地面を這いずるような耳障りな音。それが複数。
カナデと鏡禍が腰を低くし、警戒心を露にした。
2人とも、背筋に走る悪寒を感じているのである。
脳髄をじくじくと蝕むような、奇妙奇天烈なる不快感を覚えているのである。
「なんと言うか……随分と奇怪なものが現れましたね」
やがて2人の眼前に、霧の中から這い出でたのはいかにも不気味な怪物であった。一見すると、それはザリザリとした質感の触手のようである。
しかし、まるでアメーバがそうであるように、ぐにゃりと歪んで別れて増えて、その一部は汚泥のように溶けて崩れて……そんな風にして、増殖と崩壊を繰り返しているのだ。
無意識のうちに、2人の心臓が太鼓のように脈打った。
どこからか吹く風の音は、まるで“触手”の来訪を祝う笛の音のようである。
「どうします? 僕としては、アレの目的が知れればそれでいいのですけど」
「話が通じる輩には見えませんが。それより、何となく偉そうな感じがしますので、王者としては黙って退くわけにはまいりません」
「じゃあ、やるしかないですね」
鏡禍がふっと腕を振るえば、その周囲に薄紫の霞がゆらりと舞い踊る。
●忌み日の終わり
カナデの張った結界を、のたうつ触手が強打した。
ガラスの割れるような音が鳴り響き、結界は脆くも崩れ去る。触手が地面を打つ衝撃で、カナデと鏡禍が地面を転がる。
倒れた2人に、複数本の触手が一斉に襲い掛かった。
知恵のある生物らしくない。そこに獲物がいるから襲っているだけのような猛攻である。
触手の本体がどこにいるのかは知れないが、どうにもあまり知恵の回る風では無かった。
「とは、いえ……っ!」
地面を転がりながら触手を回避して、鏡禍が僅かに歯噛みする。知恵が回らなくとも、その手数と質量は厄介極まる。
その数をカナデと鏡禍の2人だけで捌き切るのは難しい。
2人だけでは……だが。
「危険だなんだと言っていられないな、これはっ」
霧を貫き、魔力の光が触手を焼いた。
それを放ったのは“鍵”を手にしたアルムである。手元の鍵を中心に、吹き荒れる魔力の波が灰色の髪を激しく靡かせていた。
次いで、風を切る音。
同時に、数発の銃声が鳴った。
触手にも痛覚が存在するのか。それとも、反射的にそうしただけか。
矢と弾丸の雨を浴びた触手たちが、痛みに悶えるように蠢いた。その隙にカナデと鏡禍は後方へと退避。
「大丈夫ですか!? 2人だけで無理しないでください!」
「とはいえ、この人数でも足りるかな? イフタフ君には追加報酬を貰わないと」
矢と弾丸の雨を降らせたのは、ジョシュアとエーギルである。
2人は霧の薄い場所に立ったまま、次々と触手へ矢と弾丸を当てていく。狙いは正確。けれど、触手はのたうつばかりで退く気配はない。
現状維持が精いっぱいといった有様。当然、その場にいる誰もがその事実に気付いている。
「だれか、大元をどうにかしてくれるといいんだけど」
額に滲む汗もそのままにして、アルムがそう呟いた。
『ねっこ』
同時刻。
メイメイが辿り着いたのは、霧の一層濃い場所にある大きな門の前だった。
半開きになった門からは、無数の触手が溢れている。
幸いなことに、触手がメイメイの存在に気付いた様子は無かった。のたうち、跳ねて、何かを探るように暴れているのである。
「やっぱり……にゃる様。お手伝いすることは、ありますか?」
『……ねっこ』
メイメイがそう問いかけると、黒猫……にゃる様は重厚な扉を前肢で叩いた。
どうやら扉を閉める手伝いをしろと言っている風だ。
にゃる様はきっと、1匹で扉を閉じようとしていたのだろう。だから扉は半開きの状態なのだ。
だが、小さな猫の体では、重厚な扉を完全に閉めるには時間がかかる。
それゆえ、メイメイを呼んだのだろう。
「めぇ……急いだ方が、良さそうです」
霧の中で何が起きているかはまったく理解できない。
この扉が何なのかさえメイメイは知らない。
だが、放置していてよいものではないと言う事は分かった。
「……めぇ」
扉に両手を押し当てて、力の限りに前へと押した。
ぎぃ、と軋んだ音が鳴る。
扉に挟まれた触手が、ぎちぎちと音を立てて千切れた。一部の触手は、逃げるように扉の向こうへ引っ込んで行く。
ゆっくりと、けれど確実に。
ばたん、と大きな音をたてて扉が閉じた。
逃げ遅れた触手が、一瞬のうちに汚泥のように溶けて崩れた。
風の音。
虫の鳴き声。
それから、川の流れる音と、生き物たちの息遣い。
寒村に音が戻ったことに狂歌は気が付いた。
「霧が晴れていくな。どうやら“忌み日”とやらは終わったらしい」
そう言って、狂歌が空き家の戸に手をかけた。
戸を開けば、なるほど狂歌の言う通り、視界も通らぬほどに濃かった霧が急速に晴れていくところであった。
「正直、一晩で済んで助かったっす。こんなところに、長くいられないっすからね」
イフタフは狂歌の影に隠れながら、外の様子を窺っている。
それから、ふと、玄関前に置かれた酒へ視線を向けた。
「減ってないっすね、お酒」
「まぁ、お供えもののつもりだったんだろ。もしかすると、霧を発生させてたやつと、酒を飲んでたやつは別なのかもしれないな」
大太刀を手に、狂歌が外に出た。
晴れていく霧の向こうから、幾人かの人影がこっちに歩いて来るのが見える。
「なんか……増えてないっすか?」
イフタフが連れてきた人数に対し、人影は明らかに多い。
まぁ、事態が解決したのなら、“忌み日”の原因が判明したのなら、別に2、3人ほど人が増えたところで大きな問題はないが。
「全く世の中、わけの分からんことばっかっすよね」
なんて。
空き家に待機していただけのはずなのに、妙に疲れた雰囲気を纏ってイフタフはそう告げたのだった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
“忌み日”の原因は、不思議な門のようです。
原因の解明に成功しました。
依頼は完了です。
この度はご参加いただき、ありがとうございました。
GMコメント
●ミッション
“忌み日”の原因を突き止める
●???
・霧の中にいる何か
霧の中に何かがいます。
それはどうやら1体ではなく複数で、ざりざりという耳障りな足音を鳴らして村を彷徨い歩いているようです。
・猫の鳴き声
『ねっこ』と言う奇妙な猫の鳴き声が聞こえてきました。
“霧の中にいる何か”とは別の存在のようです。
●忌み日のルール
1:霧が晴れるまで家の中から1歩も外に出てはならない
2:忌み日が始まったら、玄関の前に盃と酒瓶を置いておくこと
●フィールド
豊穣のとある寒村。
毎年、この時期になると“忌み日”という儀式が行われる。
忌み日の期間、村は霧に包まれる。
忌み日の間、村の中で何が起きているのかを知っている者はいない。
今回、調査のために空き家を1軒、確保している。
忌み日の性質上、空き家の中にいれば安全であると思われる。
動機
当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。
【1】イフタフと一緒に来た
イフタフに雇われて村を訪れました。“忌み日”の原因解明に積極的です。
【2】森を彷徨っていた
森を彷徨っている途中で、村に辿り着きました。誰も会話をしてくれないので困っています。
【3】不思議な気配を感じて来た
山の方から不思議な気配を感じました。気配を辿って来たところ、忌み日の村に辿り着きました。
田舎へ泊まろう
村での過ごし方です。
【1】忌み日の原因を探る
積極的に霧の中へと繰り出して、忌み日の原因を探ります。
最も危険な選択肢です。
【2】村の外周を周る
霧の中に入ったり、出たりしながら村の様子を窺います。
割と危険な目に逢います。
【3】空き家に待機する
拠点となる空き家に待機しています。冷静に事態の推移を観測することが可能です。
最も安全な選択肢です。
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