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シナリオ詳細

<ラケシスの紡ぎ糸>アウズンブラ・ブラックレギオン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●天穿つ塔
 鉄帝国に突如として現れた巨塔がある。コロッセウム=ドムス・アウレアと名付けられたその塔は鉄帝国の伝説、全剣王からの挑戦状に等しい。塔からは終焉獣、不毀の軍勢が次々と現れ、周辺を侵略している。
 歴代最強の皇帝を騙るものが堂々と宣戦布告を行い、再び鉄帝国の地に戦乱の嵐が吹き荒れようとしている。
 冠位魔種バルナバス・スティージレッドのお遊びによって起きた惨状を教訓とした鉄帝国の民は、今回は口車に乗せられてたまるものかと意気込んだが、全剣王からの交渉などは見られない。つまり、何がどうあろうと鉄帝国を侵略し、支配しようという算段だ。
 鉄帝国の現状に不満を持つものや反乱分子、無法者を問わず塔より進軍する魔物の餌食となっている。国家としてはそれほど深刻な被害を受けてはいないが、これが塔に巣食うものたちの総力でない事は明白であり、尖兵の駆除だけでは根本的な対策に成り得る事はないだろう。
 複数人の腕利きの男たちがこの不尊な巨塔に挑んだ。このようなイレギュラーな事態はローレットが専門とする所であるが、すぐに泣きつくほど物わかりの良いものではなく、彼らや国家にもそれなりの意地というものがあるのだ。
 それでも、男たちはイレギュラーズを模範として8人からなる小隊でコロッセウムへと臨んだ。塔は巨大な直径を誇っていたが、それを考慮しても内部は広すぎる空間が広がっており、すぐに魔術的な要素が絡んでいると情報が共有される事となった。
「頭の悪い俺たちでもこりゃわかるぜ、ダンジョンってやつだな」
「こりゃ全剣王も眉唾ものだな。おおかた、自分の魔力だかを誇示したいウィザード集団が大層な事を始めたって所だろう。塔の最上階は、陰湿でひねくれたジジイが鎮座してるに100ゴールド賭けるぜ」
 腕っぷし自慢の鉄騎種たちは数の力もあって、侵入当初はそれなりに順調であった。本依頼は彼らへの小手試しが終わった所を発端とする。
「おい、ちょっと何か臭くねぇか?」
「ふざけんなよ、こんな時にてめぇは」
「バカ言ってるんじゃねえ。何か、薬みてえな匂いが……」
 化学薬品のような香りが僅かに感じられたと思うと、男が一人、文字通りに消し飛んだ。
 8人は円を組むように周囲を警戒して進んでいたが、気付けばその円の中に黒光りする鎧を身に纏った、見覚えのない男たちが武器を構えていた。
「な、なんだてめぇら! 何処から現れやがった!」
「我らは全剣王が配下、不毀の軍勢にして第999連隊、黒鋼軍団兵(ブラックレギオン)。惰弱なる鉄帝国を憂う、真なる鋼である」
 ブラックレギオンを名乗る男たちはその全身鎧の荷重や人数差をものともせず、ひどく恐ろしい疾さで次々と敵を粉砕した。
「アウズンブラ卿。敵の殲滅を終えました」
「若き騎士よ、まだ息のあるものが存在する。我々は完璧さを規律とせねばならない」
「無礼をお赦し下さい。グランドマスターよりこの鼠を生き餌にせよ、との命が下っております」
「赦そう。ロードとしての小言もまた、理解して貰いたい」
 十秒も経たぬ内に、たった4人の騎士によって7人の命が失われた。

●塔に挑め
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)は一段と寒くなった鉄帝国のバーで暖を取っている。シャイネンナハトの足音が聞こえるこの頃であるが、その日までイレギュラーズや情報屋が休まる時はないだろう。今年こそは、もう少し穏やかな年末であって欲しいものだ、とショウはため息をついた。
「やあ、集まったようだね。もう耳に挟んだと思うけど、仕事だよ。依頼人は……と言うよりも生還者か。今回は例の塔でのお仕事だよ」
 聞けば鉄騎種で構成されたチームがダンジョン・アタックに挑んだと言う。嫌な予感は的中するもので、結果としてほぼ全滅という形となった。活気あふれる鉄帝国の戦士はこれで怖気付く事もないが、ローレットの見解としては一般人に対処できるレベルの相手ではないと判断した。
 塔の外に放り出された瀕死の男は未だ重傷を負っているが、いくつかの情報を持って帰ったらしい。
「いくらオレでもあんな中の情報までは仕入れる事ができないからね、彼の証言を伝える事しかできなくて悪いとは思ってるよ」
 塔の中は広大な空間が存在していた事、化学薬品のような香りがしたと思うと信じられない程の不意打ちを受けた事、アウズンブラ卿という男……。
「薬の匂いってのは多分、触媒とかそういった物じゃないかな。魔術的な嗜みがある敵が予想されるね、油断は禁物だよ」
 ショウはそう言うと、グラスに注がれたアルコールの芳醇な香りを堪能する。 
 この辺りでブリーフィングを終える事が通例となっているが、一人の男がショウに耳打ちする事でもう少しだけ会議は続く事になった。
 犠牲者は8人となった。情報を持ち帰る、持ち帰らせる余力を残した半殺しに思えたが、暗黒魔術に明るいローレットのメンバーが調査した所、時限式の魔力爆弾が破裂したような形であった。

GMコメント

●目標
【必須】アウズンブラ卿の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ロケーション コロッセウム=ドムス・アウレア
 塔の浅い階層です。現場は鉄帝国の街並みに近い雰囲気でした。
 何が起きるかわかりません。

●敵
 アウズンブラ卿
 ブラックレギオンのリーダー。予兆こそあるものの、極めて強力な不意打ちが確認されています。
 魔力爆弾は時間差で確定の大ダメージを受けるため、治癒面はもとより各々の機転やカバーが必要となるでしょう

 ブラックレギオン 3人
 騎士鎧に身を包んだ謎の敵です。鉄騎種なのかもわかりません。
 数こそ少ないですが、イレギュラーズが8人で挑む必要がある相手です。

  • <ラケシスの紡ぎ糸>アウズンブラ・ブラックレギオン完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年11月11日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
陰房・一嘉(p3p010848)
特異運命座標
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●検死
 『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)は黒焦げとなった死体に直面している。道徳的には歓迎され難い行為であるが、その屍が天涯孤独の身であった事と、ローレットの作戦遂行の為に安置所を借りる事はそう難しい案件ではなかった。損壊が激しく、有用な情報を拾う事はできなかったが、それは逆に考えると純粋な力による作用が大きいと判断した。
「褒められた行為じゃねえが、あんたの死は無駄にはしねえからな」
「ああ、この赤羽様が有効活用してやるゼ。身体も、霊魂もナ」
 『ガイアネモネ』紅花 牡丹(p3p010983)が準備を追えると、霊魂へのヒアリングが始まる。身体に聞く事ができなければ魂に聞けば良い。『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)としては、目の前で非現実的なオカルト儀式が行われているのだが、この世界に飛ばされてからはもう慣れてしまった。これについては自分の領域ではない訳で、ひとまずとして蚊帳の外にいる面々は全剣王についての話題へと移行した。
「ふむ。伝説の全剣王の再臨か。実在はともかく、そういった伝説のある遺物が聖遺物系の遂行者と、同じ原理で動き出したのだろうか?」
「遂行者と関わりがあると?」
 『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)も一嘉が実在を疑うであろう妖怪の類だが、この世界においてはそれを認めるしか無い。
「其処までは読めないな」
「もー! バルナバスの面倒事から鉄帝が解放されて、まだ1年も経ってないって言うのに! マリオンさんは激怒です」
 『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)は再び鉄帝国の地に呼び出された事に憤慨している。酷寒の地というだけでも辛いものがあるというのに、この周辺での仕事は脳から足の爪先まで筋肉で構成されている敵を相手する事が多いのだ。いずれ来たる武力衝突にげんなりしている。
「いつの間にか祖国にこんな塔が建っていたとは……。やっとの思いで平穏を取り戻したというのに」
「果たして同士達が平穏を臨んでいるかは難しい所ですが。鉄帝国がこのようなものに屈する事はないと教えてあげなければいけませんね」
 ゼシュテルの地を故郷とするイレギュラーズも今回は召集されている。『その毒は守るために』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)に鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)は見慣れた風景、そして見慣れぬ塔を眺めていた。
「チッ、敵の練度が高すぎてロクなヒントを得れなかったナ」
「油断できない相手って事で行こうか。爆弾だけが彼らの取り柄でもなさそうだし」
 『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)がやや鋭い眼で死体を射抜く。化学と魔術の融合、複雑にして単純な破壊をもたらす力。高度な技術を使いこなす敵だが、魔術においてヨゾラは遅れをとるつもりはない。

●電撃
 イレギュラーズは普段以上に警戒した陣形を取っている。間接的と言えど、手の内を一度見せた相手に無策で立ち向かう者はいない。強力な転位、それに伴う触媒の香りが対策の中心となった。牡丹はいったい何処でそのような知識を蓄えたのか、極めて理系的な方面でそれを分析していた。ヨゾラの魔術知識もそれを後押ししたが、結局の所は未知の物質であるようだった。
「はっ 避けちまえばあとは殴り合いだ。オレの警備をかいくぐれると思うなよ!」
「爆弾自体も透明って可能性があるのかな? マリオンさんも急にどかーんは嫌だなあ」
 マリオンが地面を蹴ってみるが手応えはない。マリオンもこれを敵が出現するまで続けるつもりはないが、手榴弾のようなものを蹴り返すイメージトレーニングのような気持ちがあったかもしれない。
「クラシックな警備に温度に特殊な視点。これを突破できる者はそういないと思いたいのだがな」
 一嘉が警備員時代の頃を思い出す。ここまで厳重な警備が行われるのは余程のVIPだけだろう。今回は自身の命が掛かっているので、やれる事を全てやるフルサービスにならざるを得ないのだが。
「周辺に罠がないかも確認したいのですが、孤立すると危なそうですね」
 ジョシュアと鏡禍は隠された罠を警戒する。普通の人間であれば息苦しく、そう長くは続けられない警戒態勢をイレギュラーズは取り続けられる。それが功を奏して、結果として重大な被害を回避する事に成功した。
「皆様お気付きでしょうが」
 オリーブが長剣を構える。若干の空間のゆらぎ、薬品臭の両方を捉えたイレギュラーズは即座に戦闘態勢へと移行した。ヨゾラや牡丹、マリオンといった面々を狙った不可視の一撃はあと一歩の所で空を切ったが、真っ向から受け止めた鏡禍は若干の裂傷を受けた。
「来るってわかってれば何とかなるんだガ、わざと受けたナ?」
「ええ、あちらの得物や威力も確認しておきたかったので」
 赤羽は流れるような動作で鏡禍を治癒する。放っておいても問題ない程度のかすり傷だが、何を発端に奥の手を行使してくるか想像もつかないので手厚すぎるきらいがある治癒をそのまま受け入れた。
「アウズンブラ卿、ワープアタックは失敗しました。ワープ時の反応速度から、我らの技術が何者かにリークされている可能性があります」
「騎士よ、白兵戦の準備を行え。全剣王に歯向かう邪悪はどのような手段を取ろうと、ここで討たねばならない」
 空間から4人の騎士が色を付けるように姿を表す。奇襲の失敗に動揺している様子もなく、すぐに最善手を打ってくる厄介な相手だとオリーブは感じた。
「いきなり斬り付けてきて、挨拶もなく作戦会議? マリオンさんちょっと怒っちゃうよ」
 マリオンが糸による斬撃を繰り出すが、騎士は即座に斬り払う。恐ろしいほどの速さで振られる刀剣は変幻自在な斬糸と拮抗している。
「正直、オレを狙うとは思わなかったぞ。あんた達も試したな?」
 無関心にこちらを惨殺しようとする騎士がぴくりと反応した。敵の立場になれば牡丹のような素早い相手は後回しにしたいものだが、初手で牡丹は狙われた。鏡禍が敵を試したように、騎士もイレギュラーズのフロントライン、その中核を試したのだ。騎士の剣が変形し、槍へと姿を変える。恐らくは牡丹を捉える為の精度に特化した形状なのだろう。
「おい、オレもシカトするってのかよ。いいぜ、そんなもん使っても当たらねえからよ。失敗続きで上司の機嫌を損ねないようになっ!」
 空へ舞い上がる牡丹に狙いを定め、槍からは追尾性の光線が無数に放たれたが、牡丹は有言実行でそれをかわし続けている。
「次は僕の番で良いですよね」
 ジョシュアがベラドンナの秘薬をアウズンブラに投げつける。失明にも似た暗闇を引き起こす劇薬で司令塔の眼を奪う算段である。騎士の一人がアウズンブラをかばったが、深刻な事態には陥っていないようだった。
「アウズンブラ卿、お怪我は」
「心配は無用だ、若き騎士よ。だが奴らの警戒レベルはトゥルー・グレネードを感知している事も有り得るな」
 兜に隠された騎士達の眼光をジョシュアは感じた。アウズンブラ達の切り札を咎める為に放ったミセリア・ドンナはその意図を瞬時に判断、評価される事となった。
「出し惜しみしますかね?」
「貴重品でもなければ試してみるでしょうね」
 鏡禍とオリーブは対面する騎士の攻撃を捌きながら会話を行う。使えるなら使ってみろという、挑発めいた行いであった。
「アウズンブラ卿、やはり……」
「戦いの最中に余所見はやめた方が良いですよ」
 オリーブの取り出したクロスボウが騎士の肩を貫く。騎士も素早い反応を見せたが、いい加減にオリーブも頭にきているようで神速の射撃とも言うべき動作であった。
 好機を逃さずヨゾラが星空の泥で攻め込む。騎士一人ひとりが完璧なチームワークを見せるものの、オリーブから放たれた一矢はそれを穿ち、綻ばせる。
「さぁ、ぐずぐずしていると爆弾を使う機会を失うよ。僕だったら、敵に知られていてもまずは使ってみるけどね」
「その時は僕が受け止めますので、ヨゾラさんは攻撃に集中してください」
「おいおい、俺の仕事を増やすんじゃねえゾ」
 大地は慎重に、一歩引いた位置で味方を注視している。早く爆弾の威力を確認し精神的に楽な気持ちになりたかったが、使わせないに越した事もない。だが、やはりどちらかと言うと治癒配分を確定付ける為に情報が欲しい。爆弾に頼らずとも、この騎士たちはそれなりに強く治癒の機会が多いのだ。
 その機会はすぐに巡ってきた。幾重にも警戒しておきながら、どのタイミングで付けられたかもわからないまま一嘉を中心として爆発が起こった。
「む……切り札なだけはある。異常な温度も、火薬の香りも何一つ感じれないとは」
 爆発は少なくない被害を一嘉に与えたはずだが、騎士達がはじめて動揺している所を見ると耐えきられた事は想定外であったようだ。そして、一嘉は既に強烈な気合で傷を塞ぎ始めている。
「おっさん! 大丈夫か!?」
「オレはまだ31だ」
 牡丹の心配も無用だったようだ。ついでに、一嘉の厳しい表情から全く想像できない年齢が返って来た。これが修羅場を掻い潜ってきた人間の顔立ちなのだろうか。
「チッ、オレが見逃すほどのステルス性能を持ってるなんてズルじゃねえか。けどよ、一発でやられなきゃやりようはある!」
 耐えれるといっても突然に爆発するのは心臓に悪い。牡丹は身体に変なものがついていないかと空中で身体のあちこちをさすった。
「目視も観測も解除もダメとなると、これはシンプルな破壊性の魔術という認識でも良いかもしれないね」
「ええ、過程や解法に活路を見出すのではなく、結果を対処する事が一番の近道でしょうか」
 妖怪の勘か、鏡禍は仲間から適切に距離を取り、自身に取り付けられた爆弾を巻き込まないように処理した。敵側もいよいよ隠し玉を披露せねばならなくなったようだ。
「しかし必中の魔術とは……騎士なら騎士らしく小細工に頼らず正々堂々勝負したらどうですか?」
 結局の所、起きている事態は不規則な確定被害であり、仲間をかばうという行動が予測不可能な性質に縛られているに過ぎない。少々危険なルールだが、まだ対処できる状態にある。
「アウズンブラ卿がこれを発動させているのでしょうか。浅い階層でこれほどの敵が存在するのなら、これよりも上の存在……その情報を得たい所ですが」
 ジョシュアが敵側のリーダーを睨む。相変わらずこちらに無関心に、周囲の騎士へ指示を行っている。アウズンブラが行うハンドサイン、その身振り手振りがこの不可視の魔術に必要な動作にも思えてしまう。
「質問も生け捕りも尋問も無理だろうナ。あの手の奴は、霊魂すらロクに話してはくれない」
 大地は鏡禍の受けた被害を確認し、優先順位を目まぐるしく変える。目先の治癒に行動を移していては、タンクと呼ばれる面々以外に被害が及んだ時に取り返しが付かないのだ。自分の一手一手が仲間を救い、敵を消耗させ、そしてチームの敗北に繋がる。失敗は許されない。死霊術師と言えど、イレギュラーズの同僚の霊魂を扱うような事になるのは夢見が悪いだろう。
 オリーブは騎士と激しく斬り合うが、決してリスクを取らない。ダメージ覚悟で踏み込めば有効な一撃を繰り出せるような場面でも、逆転の一手と成り得る魔力爆弾が作動すれば相打ち以上の結果を引き起こしかねないのだ。やり辛い相手ではあるが、こちらも相手がやりたい事をやらせないように動く必要がある。
 読みは的中するもので、オリーブの守備を崩さんとばかりに足元が爆ぜる。イレギュラーズが既に何度か耐えれているという事実もあるが、オリーブはこれを怯ませる為のものと心構えていた為、爆発後に襲い来る斬撃に意識を向ける事ができた。
「これはもはや騎士とは言えない戦い方ではないでしょうか」
「それじゃ、赤羽君が忙しそうだからマリオンさんがここは手伝うね」
 一人二人の治癒では手が回らない所に、一嘉の自己完結した戦闘継続能力やマリオンのスイッチロールは大きく作用した。攻撃に回ったかと思えばサポートにも切り替わる、各自の動きは徐々に有利を掴んでいく。
「呑み込め、泥よ……爆弾魔達を全部飲み干せ!」
 ヨゾラの強烈な一撃が騎士を飲み込む。8対4からなる不利は、ついに8対3へとパワーバランスを変える。
「これで、25%は敵討ちが終わった計算で良いかな?」
「はっ やるなら徹底的に100%やらねえとな!」
 騎士の攻撃を引き付けていた牡丹が急降下し、今まで好き放題に自身を狙っていた敵の頭を蹴りつける。牡丹でも避けきれない程の精度を持つ爆弾と言えど、一発二発が直撃した所で倒れるような鍛え方はしていないのだ。騎士達にとって牡丹は驚異的な存在であり、開幕のワープ攻撃で仕留めておきたかっただろう。
「アウズンブラ卿。ブラザー・オーランが討たれました。戦術評価を見直すべく撤退用ワープリフトを開く事を具申します」
「騎士よ、オーランの死を無駄にする訳にはいかない。不名誉なる撤退を選択する。準備が整うまで守備を固めるのだ」
 数は減ったが、もとより少数で動く者たちのようで、それぞれが欠員を補うようにスタンスを変える。敵の眼前で撤退の打ち合わせを行うとは何と自信家なものだ、とヨゾラは感じたが、これは愚かさからくるものではない。徹底的に敵へ無関心を貫く事で、僅かな心の動揺や焦りを思考から排除した機械のような冷静さ。それがアウズンブラのレギオンの強みであった。事実、オーランと呼ばれた男の死すら何の感情もなく事実として受け止め、現在可能なフォーメーションを導き出している。
「こちらも逃してあげる訳にはいきませんのでっ!」
 ジョシュアが聖弓による狙撃を試みる。オリーブのクロスボウに遅れを取ったからか、騎士達は遠隔攻撃に対して驚くほど速い反応を返したが、それでも装甲が貫かれる方が早かった。
「降伏は……して頂けませんよね」
「無駄無駄、このブリキ缶ヤローたちは徹頭徹尾オレたちと話をしたくないらしいぜ」
 撤退を止めるべくイレギュラーズが一気に攻め込もうとした矢先、独特の香りが漂った。爆発や撤退準備に気を取られ、一瞬の隙を突かれてしまう。
「かはっ……ま、マリオンさんに気があるのかな、君は……!」
 一人の騎士が再びワープを行い、マリオンに致命傷一歩手前の深い斬撃を繰り出している。
「ブラザー・ディスト。既定値を越える転位を行っているぞ」
「アウズンブラ卿、身勝手な判断になりますがワープリフトを止められる訳にはいきません。私が遊撃を努めます」
「貴公の死はブラザー・オーラン同様に我らを救う事となる。全剣王の歴史の一部となり、我らを見守ってくれ」
 ディストと呼ばれた騎士はマリオンに深刻な被害を与えたが、立ち位置としては四方をイレギュラーズに囲まれた、突出した状況にある。マリオンは治癒に専念する事で体勢を立て直せるが、ディストが仲間の援護が届く位置に戻る事は難しいだろう。
 だが、イレギュラーズがディストを無視してアウズンブラの撤退を止める事も難しい。この類の覚悟を決めた者は総じて厄介な、強力な存在となり場を支配する事があるのだ。
「あーあ、やだやだ。決死隊ってやつダ。こいつの霊魂も期待はできないぞ。このパターンは未練とか願望とかそういった感情を残す事なく霧散するからナ」
 大地は情報収集の為に騎士達の霊魂に問う算段があったが、死霊術師の経験から徒労に終わる確率の高さにため息をついた。
「鉄砲玉か……嫌なものを思い出させてくれる」
「ちょ、ちょっとマリオンさんもそろそろ限界なんだけど!」
 すかさず鏡禍と牡丹が割って入り、マリオンとディストの間に距離を作る。ヨゾラの援護もあって、これ以上ディストの連撃は不可能となった。
「すみません、このような手段で択を取ってくるとは思わなかったので」
「既定値とか言われておりましたが、最悪もう一回か二回は覚悟しなければいけませんね」
 オリーブが撤退作業を進めるアウズンブラにロングソードを向けたが、周囲に感じる空間のねじれを認めると、手遅れである事を悟りディストへと向きを変える。ここで無理に襲いかかっても、もう一人の騎士が何の感情もなくその身を余す所なく使ってアウズンブラを守るだろう。
「見えている敵を逃すというのも惜しい話ではあるが」
「今はこのお客さんをどうにかしないとね……! くっ、近いよ!!」
 マリオンが守られたと思うとディストはヨゾラへと狙いを変える。これほど敵に囲まれた絶望的な状況でも適切に行動する様子は、ある類の信念すら感じた。
「ブラックレギオンは全剣王の所持品である。これ以上の損失は許されん……一つ貸しだぞ、アウズンブラ」
「テクニクス<技術局>の介入に感謝する。ブラザー・オーランの座標を送信する。回収を願う」
 アウズンブラのワープ離脱が始まろうとした刹那、コロッセウム=ドムス・アウレアに聞き覚えのない敵の声が響き、閃光が走った。気付けばアウズンブラ、孤立したディストに加えてオーランの死体も消えていた。
「あいつら、後片付けまでして行きやがった。今日はとことん死体に恵まれない日だナ」
「そんな日は勘弁願いたいものだ」
 一嘉がやれやれと肩をすくめた。

成否

成功

MVP

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました!

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