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シナリオ詳細

<伝承の旅路>虚なる光のアナトリウス

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●欠けた道行きを辿って
 ちりんとドアベルが鳴る。
 ドアを開いた向こう側に立っていた深い青色の髪の娘が立ち止まり、こちらに向いた。
「いらっしゃいませ、来訪者の皆様」
 緩く微笑んだ彼女の名はマルタ――『探索式・M003号』と製造番号を振られたゼロ・クールである。
「やぁ、マルタ君、元気なようで何よりだ」
 先頭で入ってきたルブラット・メルクライン(p3p009557)はそうマルタへと声をかければ、「おかげさまで、何の問題もありません」と、マルタは短く笑って頷いた。
(……ふむ、ますます、『人』らしい感情表現が出来るようになっている気がするね)
 興味深げにマルタを見ていると、彼女は不思議そうに首を傾げ、奥へ案内するように半歩退いた。
「マスターは既にお待ちです。奥へどうぞ」
「あぁ、そうだった。ありがとう」
 ルブラットに続くように、4人のイレギュラーズは店内へと入っていく。
 そのまま、テーブル席に案内されると、マルタはお茶を持ってくると言って下がっていく。
「来てくれてありがとう。『サハイェル砂漠』への侵攻作戦も上手く行っているようで何よりだ」
 声をかけてきたのは空色の髪と瞳をした女性だった。
 宝石商であり、ゼロ・クールの製造者(まほうつかい)でもあるアンネマリーは、今回の依頼人である。
「……魔導師についての情報があるって話だったな」
 三鬼 昴(p3p010722)はアンネマリーへと視線を巡らせてすぐさま切り出していた。
「……最悪の予想は、していたんだけどね」
 そう言ったアンネマリーは、一枚の静止画をすっとテーブルの中央に置いた。
 それは4人が追う、ボロボロのゼロ・クールの腕。
 戦闘中では見えにくかっただろうが、静止画にすればそこには『製造番号』と思しき痕跡が残っている。
『――式・M001号』、その型式を見た4人のうち、ルブラットとグリーフ・ロス(p3p008615)はあることに気付いてハッと顔を上げる。
「これは……もしや、マルタさんと同じ?」
 一瞬だけマルタの方を見たグリーフに対して、アンネマリーはこくりと小さくうなずいた。
「あの寄生型終焉獣は『探索式・M001号』……私がマルタと同じ探索・戦闘用に魔法(プログラミング)したゼロ・クールだ」
「ほかの例も見ましたが、どうやら魔導師はゼロ・クールに寄生型終焉獣が張り付いて乗っ取った結果のようです。
 ……あの日、マルタさんを遺跡に向かわせたのは、この『探索式・M001号』さんを回収するためですか?」
 グリーフの問いかけに、アンネマリーはこくりと短く頷いた。
「……魔導師は、マルタ様のおねえさんなのですか?」
 ニル(p3p009185)がきゅっと握りしめた手で、アンネマリーを見る。
 アンネマリーは、切なそうにも、悲しそうにも、悩んでいるようにも見える表情を浮かべて。
「あの子たちはね、私の姉のマティルダの姿を元にしている。あぁ、性格まで一緒ではないよ。
 そもそも、似せたいわけでもないからね……だから、そうだね。ニル君の言う通り、姉妹のようなものだろう。
 私から見ると、娘であり、姪でもある――そんな子たちなんだ」
 アンネマリーはそう言って写真を撫で、視線を上げる。
「なるほど……その口ぶりだと、お姉さんの方は……」
 昴は念のためにそう問いかけた。
「魔王軍の攻撃で死んだよ。私の許婚と、義兄と一緒にね。姉さんは、私と違って戦うすべが会ったからね……」
 そう言って、どこか遠い目をして、マルタのほうを見やり、そのまま別のゼロ・クールを見て。
「早速、と言いたいところなんだけどね。実はもう1つ。
 多分、この2つの事件は繋がっているだろうから――もう1つの方と合流してもらえるかな?」
「もう1つ……ですか?」
 ニルがきょとんとしたところで、ドアベルの音が鳴った。

●アナトリウスの痕跡
「ケイ殿ー!」
 ドアベルを鳴らして、芍灼(p3p011289)はひょっこりと顔を出す。
「おはようございます。芍灼様」
「聞いてくだされ! それがし達はいろいろと冒険をしていて……寄生型終焉獣からケイ殿のような方を救えるようになったのでござるよ!」
 握手を交わしながら、芍灼は自慢げに『死せる星のエイドス』のことを語る。
 それは不完全の軌跡を呼び寄せる力。
 パンドラの無いプーレルジールにおいて可能性の奇跡を呼び起こす力である。
 決して安くはないリソースではあるが、それにより寄生されたゼロ・クールを開放する効果をも持つ。
「……それは、とても素晴らしいことでございます。
 来訪者様達のおかげで、魔王軍との戦いも好転しつつあるとのことでございますね。
 本当に、ありがとうございます。きっと、主人様も喜んでおいで出てしょう」
 人らしい表情を浮かべつつあるケイに喜びながら、その発言でハッと我に返る。
「そう言えば、それがしらをお呼びとのことでしたが?」
 改めてケイは店内に入ってくるときょろきょろと辺りを見渡した。
 既に集まっていた別の4人のグループに話をしていたアンネマリーが芍灼を含む4人へと手招きをする。
「そう、ケイと一緒にアナトリア地方に赴いてくれた君達についても、話があるんだ」
 席に到着した4人へと、アンネマリーはそう言って切り出した。
「この闇の騎士についてだが……私は彼の握る武器に覚えがあってね」
「本当ですか?」
 目を瞠り、マルク・シリング(p3p001309)は思わず問いかけていた。
 何とかあの男の尻尾を掴みたかった。
 そのヒントが思いのほか近くにあったとあれば、驚くのも仕方ない。
「既に魔王軍に滅ぼされたアナトリウス氏族に伝わる黄昏の剣……代々、その氏族長が愛剣とした氏族長の証だ。
 最後の持ち主の名はアルタクシアス=アナトリウス=ルーベン。
 私の婚約者でもあった男だ……魔王軍に殺されなければ、私は彼と結婚していただろうね」
 そう言い終えた彼女はどこか悲しくて目を細めていた。
(アンネマリーさんの旦那になるはずだった人……それなら、本来の歴史的にはテレーゼさんのご先祖様の一人ってことか)
 そう推察するのはサイズ(p3p000319)である。
 悲恋の宿命を抱く妖精は分かたれてしまった人の様子を見やる。
 そこに立つ女性が割り切れていないのは明らかだ。」
「アナトリウス……聞き覚えがありませんね」
 そう首を傾げるリースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)へと、アンネマリーは苦笑するように声を震わせる。
「君たちの歴史ではクラウディウス氏族の中に組み込まれたのだろう。そもそも、私の知る限りそう大きな氏族でもなかったからね」
「なるほど、勇者王の下に結束して幻想が建つ以前は群雄割拠であったといいます。
 併合された氏族がいるのは何ら不自然ではありませんね。彼らの根拠地は……アナトリアですか」
 頷きつつも、リースリットは考える。
 アナトリアとアナトリウス、明確な同一性が見受けられる2つの単語、推察は容易だ。
 こくりと、アンネマリーが頷いて肯定する。

 ふと、アンネマリーがイレギュラーズの方を見た。
「私には、力がない。私の姉マティルダとその夫、それにアルタクシアスのように。
 こうして生きているのは、ゼロ・クールを作るだけしか才能が無いからだ。
 ……みすみす、家族を、愛した人を失った愚か者だ……お願いすることしか、できない。
 私の姉の姿で人を殺す終焉獣を……私の愛した男の剣を振るうあの終焉獣を、倒してほしい」
 そう言って、彼女は深々と頭を下げる。
 それが泣き崩れるのを抑えているように見えたのは間違いではないのだろう。

●終焉の淵にて
 深い闇のように滅びの海が広がっている。
 イレギュラーズが目指したのはその付近に存在する古代遺跡である。
 元は浮島であったのか、海から少しばかり突き出したそこに、終焉の気配が立ち込め始めていた。
 終焉の気配を持つ者たちの中に浮かぶのはゼロ・クール。
 それも滅びの気配を纏い、下半身が砕けた不思議な個体だった。
 砕けた下半身からは小さな破片がほろほろと零れ落ちている。
「ほほほほ、これはこれは、ようこそおいでくださいました、来訪者の皆様。
 あぁ! 芽吹き始めた命が2つも! これは楽しそうですな」
 ケタケタと男のような声で笑うのは『魔導師』と呼ばれる終焉獣。
 同じように、けれど少しばかり間を開けて佇むのは、闇で塗り固めたような騎士のような男。
「長い付き合いになってきた。そろそろ騎士、ではつまらんか。
 とはいえ、俺は終焉獣――名など存在せんが……ふむ、奴の名を使おうか」
 紅の瞳を輝かせ、騎士は名乗りを上げる。
 それはここに来る際に、アンネマリーから聞かされた名前――アルタクシアス=アナトリウス=ルーベン。
「それならばそれがしはマンフレートとでも名乗りましょうかな!」
 魔導師と呼ばれていた終焉獣はケタケタと笑い、名乗りを上げた。

GMコメント

 そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう。

●オーダー
【1】遺跡の確保
【2】情報収集

●リプレイの流れ
 当シナリオは前半と後半に別れるものとします。

【前半】
 戦場での戦闘兼エネミーとの戦います。

【後半】
 アンネマリーの下に戻り、ゼロ・クールやアンネマリーと交流します。

●フィールドデータ
 何らかの神殿を思わせる古代遺跡です。
 浮島であったのか隆起しており、内部に滅びのアークが入り込んでいない……ように見えます。
 小さな浮島の中心に小さなピラミッドのようなものがぽつんと存在しています。
 フィールド自体はピラミッドの外周にある平地となるでしょう。
 あまり広くないので射程の調節や落下に注意が必要です。

●エネミーデータ
・『闇衣の騎士』アルタクシアス=アナトリウス=ルーベン
 闇の身体をした騎士風の男――の姿をした終焉獣です。
 あまりにも暗い闇に包まれており、予備動作の把握がしにくくなっています。
 髑髏の面に赤い瞳が映り、他には黄昏色の炎を纏った剣が辛うじて見えるだけです。
 その暗さは暗視やカラーボールなども闇に呑むほどです。
 遺跡の保持が難しくなったと判断した時点で撤退します。

 いよいよ名乗りを上げましたが、実際にはかつて自分が殺した人物の名を借りているだけのようです。
 ROOでの最終決戦で遭遇したような指揮官級とでも呼ぶべき存在なのか、明確な知性を持ちます。
 スペックとしては魔種に相当し、普通に強大な敵です。

 自信家であり傲慢な性格。興が乗らないと口を滑らせてくれません。
 何やら来訪者である皆さんの実力に焦がれる部分があるように見受けられます。

【火炎】系列や【不吉】系列、【暗闇】などの攻撃を行います。
 射程はそれほど広くはありませんが、EXAや防技はそこそこ高め。

・『魔導師』マンフレート
 頭部が砕け散り、下半身が何かに両断されたようなゼロ・クールです。

 常に低空飛行状態にあります(というより、下半身がないので地面に立てないという方が正確です)
 その正体は寄生型終焉獣であり、寄生している『――式・M001号』の型番からマンフレートと名乗りました。
 滅びの気配が濃く、『死せる星のエイドス』の効果を適用できません。
 遺跡の保持が難しくなったと判断した時点で撤退します。

 普通に考えれば下半身が砕け、頭部も破損した存在に固執するのは違和感しかありません。
 その理由は現時点では不明ですが、ゼロ・クールのことを『心なし』、『しもべ』人形と評することに対して嘲弄する雰囲気があります。

 神攻、EXA、抵抗が高め。
【怒り】や【呪縛】、【足止め】系列、【窒息】系列、【呪殺】などを駆使する範囲攻撃型。

・『終焉獣』機兵獣×2
 寄生型の終焉獣が古代文明のゴーレムに寄生した存在です。
 全身に纏う終焉の気配が単一の寄生型終焉獣とは到底思えぬほどにとてつもなく濃いです。
 5mほどの巨体を持ち、自我のようなものは見受けられません。恐らくは遺跡を守る守衛だったのでしょう。

 守衛らしくタンクタイプで、非常にタフかつ守りと抵抗力に長けているようです。
 潜入者を吹き飛ばすような薙ぎ払い攻撃には【飛】が付きます。

・『狂戦士』ゼロ・クール×4
 寄生型終焉獣に取り付かれた戦士型ゼロ・クールです。
 ハルバードを手に近接戦闘を主体とし、貫通や【出血】系列による攻撃を行います。
 滅びの気配が濃く、『死せる星のエイドス』の効果を適用できません。

・『英雄譚のしもべ』藤太
 英雄譚に語られた嘗ての英雄の姿をした滅びのアークの塊です。
 人間が引けるとは到底おもえぬような巨大な和弓を持つ個体です。

【凍結】系列、【乱れ】系列を付与する可能性のある中~遠範攻撃を行います。
 火力も高めですが、EXAは低いので連発はないでしょう。

・『英雄譚のしもべ』鎮西
 英雄譚に語られた嘗ての英雄の姿をした滅びのアークの塊です。
 人間が引けるとは到底おもえぬような巨大な強弓を持つ個体です。

【火炎】系列を付与する可能性のある【防無】【鬼道】【追撃】の中~遠貫攻撃を行います。
 火力も高めですが、溜めが必要なようです。

・『英雄譚のしもべ』雷光
 英雄譚に語られた嘗ての英雄の姿をした滅びのアークの塊です。
 和弓と日本刀と思しき物を携える個体です。

【痺れ】系列、【麻痺】のBSを与える可能性のある弓による中~遠距離攻撃。
【出血】系列、【致命】のBSを与える可能性のある刀による近接戦闘を使い分けます。

●友軍データ
・『探索式・M003号』マルタ
 ゼロ・クールと呼ばれる魔法使いたちのしもべ人形の1体。
 深い青色の髪と綺麗なサファイアの瞳をした女性型アンドロイドです。
 スタイルの良い筋肉質な長身の美女といった趣き。
 どこか張り切っているようにも見えますし、どこか皆さんを頼もしそうに見ています。

 HP、防技、抵抗が高め。
 防技を攻撃に転用するタイプのサブアタッカー兼タンク。

・『隠密式・K001号』ケイ
 ゼロ・クールと呼ばれる魔法使いたちのしもべ人形の1体。
 武士や忍者を基盤に設計された隠密・索敵、探索用の魔法(プログラミング)が施されたアンドロイドです。
 長身の東洋人風といった印象を受ける黒髪に紫の瞳をした女性型。
 軽装ではありますが日本風の甲冑を装備し、短めの日本刀風の武器を2本装備しています。

 反応、EXF、回避が高めの生き残り特化型。
 高い反応による攻撃も可能なサブアタッカー。

●参考データ
・『魔法使い』アンネマリー
 テレーゼ・フォン・ブラウベルク(p3n000028)のご先祖様。
 何の因果かテレーゼのそっくりさん。ゼロ・クールの製造主である魔法使いの1人。

 親類や縁者は魔王軍に殺しつくされています。
 戦う術が無かったため本人は生き残っています。
 どこかで生き残ったことを気負っているような節が見られます。

・『アナトリウス氏族』アルタクシアス=アナトリウス=ルーベン
『アナトリウス氏族』の氏族長、故人。アンネマリーの婚約者でした。
 イレギュラーズがプーレルジールへ来るよりも前に魔王軍に抵抗し、殺されてしまいました。
 その際に氏族長の証である『ルーベンの宝剣』が闇衣の騎士に奪われていたようです。
 闇衣の騎士は名乗りも彼から借り受けたようです。

 どのような人物なのかは不明ですが、戦士として戦える人物であったのは確かのようです。
 アンネマリーに聞いてみたら教えてくれるとは思います。

・アナトリウス氏族
 混沌において『オランジュベネ』と呼ばれる地域に存在していた氏族です。
 氏族名は同地の当時の名前である『アナトリア』に由来。なんやかんやで混沌のテレーゼに続いています。
 規模が小さく混沌においては幻想王国建国以前の群雄割拠時代にクラウディウス氏族に吸収されたと思われます。

・『隠密式・K001号』ケイ
 ゼロ・クールの1人。
 長身の東洋人風といった印象を受ける黒髪に紫の瞳をした女性型。
 アンネマリー曰く、義兄から教えて貰った『日本』と呼ばれる国の『武士・忍者』を元ネタに設計したとのこと。
 ケイの存在そのものが義兄の忘れ形見とでもいえるのかもしれません。

 性格は柔らかく、落ち着いています。
 まだどこかゼロ・クールらしさが残っています。
 その一方、イレギュラーズの活躍をお礼するなど、自我のようなものが見え隠れしています。

・『探索式・M003号』マルタ
 ゼロ・クールの1人。
 深い青色の髪と綺麗なサファイアの瞳をした女性型アンドロイドです。
 どうやら『探索式・M00?』の型番はアンネマリーの姉を元に設計されたようです。
『魔導師』マンフレートは素体だけならマルタから見て姉型機に相当するとのこと。
 姉型機の探索のために訪れた遺跡でマンフレートに遭遇、破壊寸前まで追い込まれたところをイレギュラーズに救い出されました。

 生真面目でまっすぐな性格のこともあり、マスターと皆さんへの恩返しのためにがんばります。
 かなりイレギュラーズに好意的な面が見えてきています。

・マティルダ
 アンネマリーのお姉さん。故人。
 戦う術を持ち異邦人の夫を迎えるなど、奔放な人物であったと予測されます。
 『アナトリウス氏族』アルタクシアスや夫と共に魔王軍と戦い戦死しました。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <伝承の旅路>虚なる光のアナトリウス完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年11月08日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
マルク・シリング(p3p001309)
軍師
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く
芍灼(p3p011289)
忍者人形

リプレイ


 黄昏色の剣を掲げたその騎士の口上に、魔術師の口上に合わせるように敵が宣戦布告とばかりに鬨の声をあげた。
「なるほど闇衣の騎士の持つ剣……そういう事か」
 その男の名乗りを聞き、揺らめき立つ黄昏の剣を見やる『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は血色の鎌に魔力を通す。
「呪物としてやるべきことがわかった。その武器をそれ以上汚染しないで貰おうか」
「――呪物か、来訪者どもというのは面白い者が多すぎる」
 敵陣の奥、楽しげに黒き騎士は笑ったように見えた。
「アンネマリーさんのお姉さんの姿と婚約者さんの愛剣を勝手に使う騎士……
 婚約者さんの名前まで騙るとは、どこまでもふざけた輩だね……!」
 敵を見やり、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)は怒りを露わに見せる。
「戦場にて戦士が命の取り合いをしたのだ。その結果の戦利、俺が使わぬほうが奴のためにもなるまい」
 短い答えの意味はいかなるものか。
「成る程ね。魔王イルドゼギアと同じく、闇衣の騎士もアルタクシアスの身体を使っている、という事だったんのか」
 ようやく目の前の男の正体へと最後のピースがはまろうとしていることに『ウィザード』マルク・シリング(p3p001309)は納得の思いがあった。
(テレーゼ様のご先祖様だったかもしれなかった、アルタクシアスの身体を奪った相手と戦う。
 僕がテレーゼ様と関わった結果で生まれた因縁だとするなら……因果なものだね)
 撃鉄を起こし、世界と接続するままに、マルクはふとそんなことを考えていた。
(彼の両家の祖先がこの時代から続いていた、という事自体は納得ではあります。
 歴史の長い名門だったと聞きますし、あの重要度の高い地域を領有し続けていた理由にも納得できる話です。
 ……黄昏の剣。正に彼の一族を象徴するかのような一振りですね)
 緋炎を構える『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)は改めて闇衣の騎士が握る剣を見据えてそう思わずにはいられなかった。
(『日本』……か。私の出身世界『日乃本』との違いが気になるところだ)
 双刀を構えるケイなるゼロ・クールを見ながら『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は改めて思う。
 日本、と呼ばれる国の話は再現性東京などでもよく聞く存在だ。
 かの地で聞く日本と同じような世界なのか、あるいはそことも別なのか。
(亡き方を模したゼロ・クール。私も、同じように生み出された身。
 その身を汚されることは、耐えがたく。そして、自身を思ってくれる製作者がいることは、温かく思います)
 魔力を高める『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)が向けた視線の先にはマンフリートなどと名乗った終焉獣がいる。
 その存在について、グリーフは思うところがあった。
 その終焉獣が語る数々の言動は愉快犯的な部分もあれど、その言葉の一貫性は確かに存在していた。
(寄生獣に、自我はあるのでしょうか。
 マンフレートさんの、物として扱われるゼロ・クールの代弁者ともとれる言動。それは、彼本来のものなのか。
 あちら側の勢力として、滅びを纏うものとしての思想なのか)
 そう疑問がある。イルドゼギアやら四天王やらに宿る終焉獣の言葉を『自我』と形容することもできるだろう。
 それは向かい合う敵にも存在するのだろうか――と。
(あるいは、宿主に感化されたものであるならば……いえ、全ては分かりません。
 今のマンフレートさんの言葉でその答えを語られたとして、それが真実かも、知る由はありませんから)
 微かによぎった思考を思い直す。
 それどころか、これまで数度の遭遇時の台詞を考えれば、何が返ってきても『悪意』で上塗りされた言葉であろうことは推察できた。
 故に――
「私は、私自身の生きる場所と、これまで重ねてきたメモリ(記憶)、そしてこれからを守るため。戦います」
「うぅむ、素晴らしい輝きですなぁ! ですがあまりにも眩しすぎる!」
 グリーフの言葉にこたえるように、ケタケタと笑うマンフリートの心情はいかなるものか。
「マルタ様のおねえさんは、マルタ様を傷つけることやアンネマリー様をかなしませることはぜったいぜったい、したくないはずです。
 マンフレート様、おねえさんの身体でいやなこと、しないでください!」
 アメトリンの装飾の輝く短杖を握りしめ、『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)は声をあげる。
「けけけ、それは難しいでしょうな! この身体、それがし無くてはいつ死んでもおかしくはありませんからなぁ!」
 マンフリートは挑発的に笑いながら戦場をゆらゆらと飛んでいる。
 ケタケタと笑う声は悍ましいが、同時にあるい一点については正しいことを言っているようにも見えた。
「相変わらず上機嫌だな、魔導師の……マンフレート君だったか
 負けが込んでいるというのに。本当の思惑が順調なのかね? それとも人生そのものに充足を感じる性格か? 結構なことだ」
 ペストマスクの下あたりを緩やかに撫でながら『白のサクリファイス』ルブラット・メルクライン(p3p009557)はその様子を眺めていた。
「ほほほ、そりゃあもちろん。これが上機嫌にならないなんてことがありますか!
 心の芽生え始めたゼロ・クールが事もあろうに滅びのただなかに足を踏み入れる!
 それがし達のようなものに身をゆだねたいと言わんばかりではありませんか!」
「……ふむ、そういうことか」
 その愉快そうな声にルブラットは思案する。
(状況は不明点が多く敵の数も多数……やるべきことが多いな)
 静かに拳を握る『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)は改めて周囲を見渡した。
「……だが確かなことは一つ。アンネマリーにこれ以上辛い思いをさせない」
 握りしめた拳と共に、取り出したのは死せる星のエイドス。
 同時に星に掛けた願いを束ね、自らの力をさらに高めようと考えていた。
 けれどそれは『寄生型終焉獣に憑かれた存在を救う』などとはまるで質が違う。
 正真正銘の奇跡、一生にそう何度も扱えるはずもないパンドラの可能性を尽くす御業、文字通りの命を懸ける行為である。
 目の前の敵を討ち果たす程度のために安易に使えるものではない。
「……失敗したか。なんにせよ、私のやるべきことは一つだ」
 昴は拳をに握り、狂戦士たちのただなかへと突っ込んでいった。
(ケイ殿達のお姿はアンネマリー殿の姉君をモデルにしたもので、敵の中に婚約者の所持していた剣を振るう者が居る……)
 敵を見やり、『忍者人形』芍灼(p3p011289)は静かに思う。
「自身にとって大事な人々の姿を勝手に借りられて悪事を働かれていたらそれは『苦しい』こととそれがしは考えまする。
 ケイ殿、それがし達でアンネマリー殿の心労を取り除ける様に頑張りましょうぞ!
 それから、お初にお目にかかるマルタ殿もよろしくお願いいたしまする!」
「――ええ、主人様の心労を取り除けるならば!」
 そうケイが応じて、同じようにマルタが首肯する。
「――さぁ、戦いを始めよう」
 静かな騎士の声が戦いの火ぶたを切った。


「まずは崩しやすそうなところからだな――」
 戦場の只中、昴は改めて拳を握りしめた。
 荒々しい闘気に身を包み、放つ拳はその一撃一撃が渾身にして壮絶。
 狂い果てた無垢なる者たちへその拳は確かな死を与えるべく苛烈に紡がれる。
 敵と自身の間にある空気さえも吹き飛ばさんばかりの猛攻は鬼神の如き力となってゼロ・クール達を叩き伏せていく。
「その剣は、あるべき人のところに返さねばならぬゆえ、頂きまする!」
 芍灼は懐に仕込んだクナイを騎士めがけて降りぬいた。
 圧倒的な速度で打ち出された暗器は避けることなどできようはずもなく戦場を行く。
 剣を動かした闇衣の騎士が一閃を振るった次の瞬間、確かにクナイは黄昏色の剣の向こう側へと突き立った。
「ほう、面白い芸当ではないか」
 ぎらつく紅瞳が確かに芍灼を見ていた。
「そちらのゼロ・クールとも似ているな。面白い――む?」
 毒が聞いてきたのか、紅色の光が明滅する。
「飲み込め、泥よ。混沌揺蕩う星空の海よ――」
 魔導書を紐解き、ヨゾラは詠唱する。
 揺蕩う星空の輝き、闇のような深い夜に輝く星空の光。
 煌く星々の輝きは不吉なる星の輝きとなって戦場を星海に作り変えていく。
 星の光は対する者たちを瞬く間に呑みこんでいった。
「抑えは私に任せてください」
 続けるままにグリーフは鮮やかなる秘宝が放つ魔力を戦場に照らしつける。
 耐えがたき誘惑、秘宝の放つ魅惑の輝きに魅せられるままに、敵陣の多くがグリーフを見た。
 呪いにも等しきその輝きは多くの敵を確かに絡め取っている。
(……もう、戻せないひとたち)
 ニルは握り締めた杖に魔力を籠めて武器を手に構えるゼロ・クールへと視線を向ける。
 寄生型終焉獣による浸食を魂にまで及んでしまった子たち。
 助け出すことの出来ない子たち。
 握りしめた愛杖から降り注ぐ鮮やかなりし光が、せめてもの安らかな死を与えられると信じて、ありったけを叩きこむ。
(まだ動きはないか……)
 モカは一気に動き出す。
 呼び起こされた黒豹が身を低くしたままに一気に飛び出した。
 しなやかに、軽やかに、鮮やかに、戦場を飛ぶように駆けるまま、ゼロ・クール達の喉笛を噛み切って行く。
 その軽やかなる足取りは一度には収まらず、二度、三度と縦横に廻れば、肉体的な死を持たぬゼロ・クール達の動きを押しとどめる。
(闇衣の騎士にたどり着くのためにも、まずは数を減らさないとな)
 闇衣の騎士の姿を認め、サイズは鎌の先端に魔砲ユニットを取り付け、戦場をめぐる。
 定まる射線、高めた魔力は鮮血の如く輝きを放つ。
 直線を穿つ鮮血の魔弾が数多の影を貫通する。
「アルタクシアス……その名とその剣の担い手だった人物を討ち取ったのは、貴方という事ですか?」
 リースリットは闇衣の騎士へと問うた。
 かねてよりの知り合いでもなければ、その名を知ることができる人物は直接戦った敵手に限るというのがリースリットの予測だった。
(奴、という言い方からもアルタクシアスを知っているのは間違いない)
「是なり。奴を討ち果たしたのは俺だ」
「ならば戦の作法として名乗りには返しましょう。
 私はリースリット・エウリア・ファーレル――アルタクシアスの名にもその剣にも在るべき場所が他に在る。取り戻させていただきます」
 答えを聞くと同時、リールリットは雷光迸る愛剣を振るう。
「――ふ、面白い。出来る物ならばやってみせろ、来訪者よ」
 迸る雷光をその身に受けながら、闇衣の騎士がその身をリースリットを見た。
 その眼差しから受けるひりつくような気配がリースリットの身体に緊張を呼んだ。
(髑髏面以外にも剣を保持する以上は腕に相当する部位がある。
 足音が無いなら魔導師同様歩いていない可能性は高い……何れにせよ、闇の衣の下には核となる何かが在る筈)


「これは褒め言葉だが……随分と足癖の悪いことだな」
 モカを見るその男の視線はまっすぐだった。
「ふ、料理人が手を痛めるわけにはいかないのでね」
 応じるままに身をかがめ、モカは走り出した。
「――そのいいや良し」
 引き絞られた矢が、爆ぜる。
 戦場を吹き飛ばさんばかりのただの一撃の矢が、飛んだ。
 躱せたその矢が飛んでいく。その余波だけで空気が揺れるのが分かった。
(当たるわけには行かないな……!)
 次の一撃を構えんとする男へ到達したモカはそのまま連撃をたたき出す。
 享楽たる暗器の連撃より始まる圧倒的な連撃は武者の鎧を剥ぎ取っていく。
「――見事」
 男の口からその一言が漏れる頃には、最後の一撃は確かに滅びのアークたる身体を貫いていた。
 巨兵獣の腕が戦場を薙ぐ。
 凄まじい衝撃が昴の身体をわずかに後ろに下げた。
「やるな……だが、私も膂力には自信がある」
 受けた技をそのまま返すように、昴は巨兵獣へと肉薄する。
「いつまで受け止められるだろうな!」
 獣の咆哮はまるで昴への挑戦状のようだった。
 撃ちだした拳が巨大なる獣の脚部へと炸裂し、振動に諤々とその身体が揺れる。
「こちらも突き落せないか試してみようか」
 ルブラットは一気に飛び込んでいく。
 走り抜けるままに弓を番える武者へと刃を振るう。
 瞬く間に軌跡を描く闇色の軌跡。
 連続する刺突は強かに人体の致命傷足りえる場所を貫いた。
「――ぐぅう!?」
 確かな衝撃が重力を無視して武者を吹き飛ばす。
 続けるままに振るう一閃は滂沱の海を作り上げ、その身体を島の外へと吹き飛ばす。
「ぉぉぉ!!」
 絶叫とも雄たけびともとれる声が伸びていく。
 ちらりと舌をのぞき込めば、滅びのアークの海へとその個体が消えて行った。
(あと残っているのは……)
 ファミリアーと自身の広域俯瞰能力を駆使して戦場を把握しながらヨゾラは再び魔力を練り直していく。
 再度の詠唱と共に戦場を包み込む深い闇色の夜。
 その中に会ってキラキラと眩しく温かく煌く星々の光は、味方にとっては温かくとも、敵にとってはどうしようもない不吉の星に相違ない。
 それは確かに輝く戦場の星で、自分自身の戦いを背中を押してくれる――仲間たちに勝利の運命を引き寄せる輝きだった。
 雷光たるしもべの日本刀が降りぬかれる。
 グリーフは障壁の後ろからその存在を見据えていた。
「面妖な術を振るう」
(マンフレートの依り代とされている、マルタさんの姉妹さん。
 彼女は、何を調べる目的で活動していたのでしょう。
 彼女のその、両断された身体。それは、今目の前の脅威となっている彼らと関わりはないのでしょうか?)
 グリーフは迫りくる敵の攻撃を受け流しながらそんなことを考えていた。
 警戒心は常にある。
(伏兵、あるいは強烈な一撃……何かがあるかもしれません)
 グリーフは警戒を露わにしながらもしもの可能性をし続けていた。
「しからば、これならばどうか!」
 剣身に雷霆を纏う斬撃は――しかし、そのなんの不運か、その力を失っていく。
「ここで、止める」
 昴の言葉は凪のように静かだった。
 溢れる闘志の全ては拳に束ね、思考はいっそ清々しいまでにおだやかなものだ。
 踏み込むままに撃ちだす拳は竜をも穿つべき覇竜穿撃。
 破砕の闘志が輝きを放ち、マンフリートのボロボロな身体を粉砕するが如く走り抜けた。
「おぉぉ!?」
 確かな手ごたえと共に、マンフリートの身体ががくりと落ちた。
「今度こそ、頂くでござる!」
 芍灼は忍び刀を手に一気に飛び出していく。
 愛刀に籠めた『気』がその美しき剣をさらに映え映えと美しく彩った。
 鮮やかなる剣気を以って振るう斬撃が闇衣の騎士を斬り裂いて、その内側から爆ぜ狂う。


「来るか――だがその間合いは既にこちらの物だ」
 肉薄せんとするマルクへと、闇衣の騎士が剣を振るう。
 黄昏の剣が炎を帯びてマルクへ迫る刹那、マルクはそのときを待っていた。
「――この距離で斬り合うなら、多少見えなくとも関係ない。付き合ってもらうよ」
 予備動作の見極めが難しいのなら、受けて断つ――相打ちを狙うように放たれた蒼穹に誓う極撃が黄昏色の剣を弾いて騎士へと迫る。
「――は、それぐらいでなくては!」
 紅瞳が一際つよく輝いて、笑ったような声がした。
「その武器がカースドに堕ちるのは惜しい。あるべき所に返す為に奪わせてもらおう!」
「あるべき場所だと? そのような場所がどこにある」
 鮮血に輝く刃を手に、サイズは斬撃を振り払う。
 飛翔する斬撃は獣の顎の如く闇衣の騎士が身体を食らい潰さんと走る。
 黄昏の炎が勢いを増して鮮血の顎と真っ向から食らいあう。
(久々に武器としてやらなきゃいけない所だ。一撃で駄目なら、二回、それでもなら――何度だって!)
 閃光は赤く戦場を翔け、騎士の身体を断ち切らんと角度を掛けて放たれる。
「良い手数だ――実にいい」
 闇衣の騎士が紅瞳が明るさを増して輝いた。
「姿も、剣も、その名前も……貴様なんかが使っていいものじゃない!」
 その手に星の光を集め、ヨゾラは闇衣の騎士へと肉薄する。
「――逆だ、魔術師。奴を除くのなら、この名を使っていいのは、奴を討ち果たした俺だけだ」
 瞬く星の輝きは闇衣の騎士の身体を照らしつけながら炸裂する。
 闇夜にこそ輝く星光がどこまでも深い闇の奥を攫うように鮮烈に輝いた。
 返すように放たれた黄昏の剣がヨゾラの身体を強かに撃った。
「騎士様も、ひどいのです!」
 ニルはミラベル・ワンドに力を籠めて闇衣の騎士へと肉薄する。
 重ねられる限りの魔力を重ね、集束をさせ続けた宝石は眩い光を放っていた。
「何のことだ」
「アンネマリー様の大切なひとの名前を、かってに名乗るなんて……ひどいのです!」
「ふ、全くどいつもこいつもそれだな……」
 飛び込んだニルの多重の魔力を帯びた一撃は、確かに騎士の身体を穿つ。
「まったく、面白い技ばかりする! そこの呪物、お前のはたしかこんな業であったな」
 そうサイズを見やり、騎士が剣を振るう。
 黄昏色の炎は牙となり、戦場を奔りサイズめがけて飛んできた。
「真似されたぐらいで、負けるか!」
 張り巡らせた氷結の結界が黄昏に燃える。
 ひび割れた一部が結界を抜け、サイズの身体に深くはないものの傷を立てた。
「……あっさりやられるわけにはいかないな!」
 本体たる鎌に揺蕩う魔力を循環させ、傷を修復しながら反撃のための一閃を振りぬいた。
「――そうか」
 緋炎に力を束ねながらリースリットは小さく声に漏らす。
 微かな音は奴が剣を振るう音、闇の身体は定形を感じさせない。
 まるで風か何かを斬っているような――そんな違和感。
(奴の身体が元より全て闇ならば、絶対的に変わらない場所が存在の核となる何か)
 振るうシルフィオン。
 精霊術の極撃を見舞うべき場所は、最初からずっと見えていたではないか。
「貴方の心臓とでも呼ぶべきものは、その髑髏面ですね」
 刹那の内に撃ちだした斬撃は正解を意味するように黄昏の剣によって防がれた。
「ご名答だ」
 互いの刃が激しく音を鳴らす。
「見えた! ここだ!」
 ワールドリンカーを起こし、掌に集めた魔力。
 刹那の隙をついて、マルクは手を騎士へと伸ばす。
 いかに挙動が見えづらくとも、動いた後は隙が生まれざるを得ない。
 射出されたブラウベルクの剣が爆ぜるように騎士の仮面を斬り裂いた。
「ほう! ついに届かせるか!」
「いつまでも『主君そっくりの主君のご先祖様の婚約者』の身体を使わせておくほど、僕は寛容にはなれないからね」
 確かな一撃、傷は薄くはなかろうが――それでも、まだだという感覚はあった。
「――ふ、ふははは! はははは! あぁ、全く! 実にいい。
 これだから来訪者どものはたまらん! あぁ、戦士としての血が騒ぐ!」
 高笑いの後、騎士は紅瞳を明滅させる。
「……だが」
 そう短く呟いたままに、闇衣の騎士が顔を上げた。
 その視線の先は――

「むむむ、仕方ありませんな!」
 マンフリートの両の袖から真っ黒な手が大量に姿を見せた。
 その視線の行く先は、ゼロ・クール達。
 するすると伸びた手がゼロクールを捉えんとせまり――
「そうはさせぬでござるよ!」
 マルタへと伸びた魔の手を忍刀で斬り払い、芍灼は庇うようにその前に躍り出た。
 ペタペタと自分の身体を掴んでくる手が、ずりずりと芍灼を引っ張りだす。
「――くっ!」
「おふたりは、マンフレート様には渡さないのです!」
 そこに追撃とばかりにニルが声をあげた。
「むむむ! これはいけません!」
 鮮やかな光を放つ杖の光に、慌てふためいた様子でマンフリートが闇の手を引っ込めていく。
「ずっと、聞きたかったのです。その身体でい続ける理由はなに? おねえさんのことが好きだから? それともトラブルなのです?」
 ニルは思わずそう問う。
「この個体の望みだとしたら? 暗くて、辛くて、悲しくて。それでも生きたくて、砕けた半身を引きずりながらも動き続けた。
 この身体の、最後の望みだとしたら? どうですかな?」
 ケタケタ楽しそうに笑いながらマンフリートが言う。
 それが本当のところどうなのかは分からなかった。分かりようもない。
 きゅっと杖を握る手に力がこもる。
「もしそうだとしても、その気持ちを利用するのはゆるせないのです」
「まぁ――嘘なわけですが!」
 ケタケタと、マンフリートは相変わらず笑っている。
 まるで真意を隠すようにも見えたのは――気のせいだろうか。
「マンフリートと名乗ったか、魔術師め――退くぞ」
「むぅ……仕方ありませんな!」
 いつの間にか隣に移動していた闇衣の騎士に合わせ、マンフリートがあきらめたように溜息を吐いた。
「では、魔王城となるでしょうか。またお会いしましょう!」
 それを最後に、2体は空を飛んで消えていった。
(闇騎士、いずれ絶対倒す……アンネマリーさんの願いを叶えるんだ……!)
 ヨゾラは消えゆく敵をその姿が完全に消えるまで油断なくみつめていた。



 戦いの後、サイズは小さなピラミッド型の遺跡を調査していた。
 あんなマリーの元へと戻ってきてから、その情報を共有するべく開示し始めていた。
「ピラミッドの中からこんなのを見つけたんだが」
 それは壁面に描かれた絵画のようなもの。
 石像を思わせる物はゼロ・クールだろうか。
 それらを先導するのは、騎士のような――
「これ、闇衣の騎士だよな」
 直感的にそう思ったサイズに一同が肯定する。
「こっちは壁画のあった部屋の中心にあった奴だ」
 石棺と思しきものの中は、光を当てても空っぽなぼんやりとした闇があるだけ。
 なんとなく探ってみれば、解読技術を駆使しても読み取れないほどに掠れ切った文字列のようなものが見えた。
「もしかして、元は闇衣の騎士が眠っていたりして?」
「壁画と合わせると……可能性はあるだろうね」
 アンネマリーが驚いた様子を見せながらもそう呟いた。

「アンネマリー君」
 ルブラットはアンネマリーへと声をかけた。
「……あぁ、良かった無事に戻ってきたんだね」
 ほっと安堵の息を漏らすアンネマリーに頷いてみせてから、その表情を観察する。
「貴方の様子が気に掛かっていたのだ。
 随分気に病んでいるように見えてね。己の無力が苦しいのだろう?」
「……あぁ、全くもってその通りだよ」
「私が貴方だとしたら、魔王軍に殺される者が増えないように、より強くより大量のゼロ・クールを生産するだろうな。
 ……すまない、残酷に聞こえたかな」
「……いいや。その点については私も同意見だよ。より強くより多くのゼロ・クールを――作れる物なら、作っておきたい」
 力なく笑ったアンネマリーへとルブラットは静かに視線を向ける。
 同意こそ受けながらも、ルブラット自身とアンネマリーの『そこから』は違う――という認識があった。
「……生かすにせよ殺すにせよ、無機物の『命』を人間の上位に置くことは私には出来ない。
 医師として生きてきた過去の私を、裏切ってしまう気がするから……だが、貴方は違うのだろう」
 静かに向けた視線の先、ルブラットとアンネマリーの違いはそこにある。
 アンネマリーは『魔王軍に殺される者が増えないように、より強くより大量のゼロ・クールを生産』し、同時に『ゼロ・クール達の命をも重く見ている』。
「結局、我々というものはどうにかして過去の死と向き合い足掻き続けなければいけない訳だ。
 ……マルタ君ともう一度話し合ってみてもいいのではないかな」
「……あぁ、そうなのかも、しれないな」
 マルタへと視線を向けてそう続ければ、アンネマリーから静かな肯定が返ってくる。
「最後には、貴方なりの答えを見つけられることを願っているよ」
「私なりの、答え……か」
 ルブラットの答えに、ぽつりとアンネマリーが呟いた。。
「そうだ。あなたが生きている事で、御姉様と御義兄様の事を語り継ぐ事ができる。そこに意味がある」
 モカはそう続けた。
「お姉様と、御義兄様の事を……そうだろうか。私は、あの人たちの死にざまを見たわけではない。
 亡くなった後の姿を、見ることしかできなかったのに」
 そうどこか切なくアンネマリーは言った。
「自分に力が無いなら、その能力を持つ人を集めて事を成す。それだって立派な『力』だと思うんです」
 マルクは不甲斐ないとそう言って目を伏せるアンネマリーへ声をかけた。
「立派な、力……そう、だろうか」
「僕の世界にいる、貴女によく似た人は、そうやって僕たちを頼ってくれています。
 それは上に立つ人の能力だと思いますし、頼られるのは、嬉しいものです」
 驚いた様子を見せるアンネマリーへと肯定すれば、マルクは持ってきた物を広げて微笑んだ。
「こうしてブラウベルクの旗を預かる事は、僕の誇りでもあるんです」
 青い鳥の描かれた旗は名代として託された思いに他ならない。
「だからこれからも、どんどん僕らを頼ってください。貴女が成すべき事を、成すために」
「ブラウベルク……とは、私の末の名乗り何だったね……そうか……ありがとう」
 驚きながらもアンネマリーは静かにうなずいて。
「あぁ……しかし、その旗を見て、私はようやく、ブラウベルクとやらが私の子孫であると納得したよ」
 そう言ってアンネマリーは旗に描かれた鳥を優しくなでた。
「これはアルタクシアスから教えて貰ったことだけどね……アナトリウスの旗は、剣を中心に両脇を外に向いて控える鳥の旗でね。
 剣を胴、鳥を翼に見立てた大きな一羽の鳥――という物であるらしい」
 懐かしむように、そうアンネマリーは言った。
「どのような方だったのですか?」
 リースリットはアンネマリーの様子を見ながら問いかけた。
「私が言うと惚気になってしょうがないが……いい男だったよ。
 来訪者……君達のような混沌? だったかな。そこから来たものでなくても、この地に踏み入れた異世界の人々を受け入れる度量もあった。
 よく私を馬の背に乗せて旭を一緒に見に行ってね、そうやって旭を眺めながら穏やかな朝食を食べていたよ」
 思い出を語るアンネマリーの表情は柔らかく穏やかだ。
「アルタクシアスさんのご遺体は……回収されているのでしょうか?」
「……そうだね、回収自体はしてある。もう埋葬されているよ」
「そうでしたか……死亡の確認はどのようにして行われたのでしょう?」
「場から帰還した戦士に伝え聞いたよ。そのあと、君達がわかりやすく言うとカメラ……だったかな?
 記録媒体をゼロ・クールの目に付けて映像で確認したんだ。そのままアナトリウス氏族流の埋葬方法で埋葬したよ」
「……なるほど、ありがとうございます」
 リースリットはそう頷きながらも考える。
(……ということは奴はアルタクシアスさんの身体を乗っ取った寄生型終焉獣とは違うのでしょう。
 遺跡で見つかった壁画や奴の言葉を考えると、元々戦士として作られたゼロ・クール、のような存在だった……とか?)
 少しばかり考えてみる。
「あなたを作る際に参考にした『日本』という国はどういった国だったのか知っているだろうか?」
 モカはふとケイに問いかけてみた。
 日本とやらと、モカの出身世界たる『日乃本』との違い。
 別の世界によれば織田信長なる人物の謀殺をはじめとする様々な差異があるらしい。
「難しいところでございますね……私はあくまで参考に設計されただけに過ぎません。
 主人様の方がまだお応えできるかと……」
 そう言ってケイは首を傾げている。
「そうだね、まだ私の方が答えられるだろう。とはいえ、私も義兄から聞きかじった程度だが」
「たとえば……そうだな。信長公の名前は出てきただろうか?」
 そう言ってアンネマリーが頷くのを見て、モカは改めて聞いてみた。
 少なくとも、モカの世界とはそこが歴史の転換点であろう。
「信長……あぁ、その名前は聞いたことがある。たしか、戦国の世の最後の覇者だとか。
 家臣の謀反により亡くなり、代わって台頭した太閤殿下の御世に戦乱は治まったとも」
(再現性東京の地球の歴史に近しいようだ……)
「……聞いた話では太閤の死後に将軍が現れ、この将軍が斃れ天皇――王の下に集まったそうだ」
(私の知る歴史とも、再現性東京でよく聞く歴史とも異なる歴史を辿ったか……その義兄とやらも異世界の者のようだ)
「アンネマリー殿! 実はそれがし、少し考えていることがございまする!」
 芍灼はアンネマリーの元へ戻ると、事前に考えていたことについての相談をしようとしていた。
「それで現地民である皆様にお聞きしたいことがありまする」
「私が手伝えるようなことであれば相談に乗らせてもらうよ」
「では! 寄生されたゼロ・クールを助けられる様になった今、主人や製作者の魔法使いが居ないまま救出されたゼロ・クールを保護して生きていける様にしたいなーと考えておりまする」
「……ふむ」
「なのでこう、場所とか修復できる方とかを確保できないかなと現地民の皆様に相談してみようかと!」
「……あぁ、なるほど。その1人として私が、ということだね」
 アンネマリーへと頷見てみせれば、彼女は少しばかり考えた様子を見せた。
「正直、誰も引き取り手が居ないから稼働しているのに廃棄場戻り~とかあんまりな仕打ちと考えますゆえ!」
「……言いたい事は分かる。私の出来る範囲であれば協力させてもらうよ」
 少しばかり考えた後、アンネマリーはそう言って頷いた。
「ありがとうございまする!」
 芍灼は胸を撫でおろして改めて「お願いします!」と握手を交わす。
「『探索式・M001号』さんの本来の名前って何だったの?」
 ヨゾラの問いかけに、アンネマリーは目をぱちぱちと瞬かせた。
「あの子はマティルダ姉さんの姿をモチーフにした最初の個体だ。つけるのなら、マティルダだろうね」
 少しばかり首を傾げて考えた様子を見せたアンネマリーはそう答えた。
「アンネマリーさん、少しよろしいでしょうか」
 グリーフは戦場に置いて気になっていたことをアンネマリーへと問いかけた。
 すなわち、マンフリートに依り代とされているマルタの姉に相当する機体、マティルダというらしい彼女。
「あの子が何を調べていたのか? あの子は宝石を探してもらっていたんだよ。
 より強いゼロ・クールを作るためのね……まさか、そんな彼女が終焉獣に寄生されるとはね……」
 そう言ってアンネマリーは力なく首を振った。
「アンネマリー様、一緒にごはんを食べませんか」
 戦いの後、ニルはそうアンネマリーへと問いかけた。
「温かいご飯は、『おいしい』のです。『おいしい』は元気になれるのです」
「……あぁ。そうだね。ふふ、ありがとう、ニル君。私が子のような体たらくでは、全くもって駄目だな。
 君達へのお礼も兼ねて、昼食はごちそうさせてほしい」
 薄っすらと零れるように笑ったアンネマリーが視線を巡らせる。
 視線の先にいた2人のゼロ・クールが昼食の準備に向けて動き出すのが、分かった。

成否

成功

MVP

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド

状態異常

なし

あとがき

大変お待たせしてしまい申し訳ありません。
お疲れさまでしたイレギュラーズ。

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