シナリオ詳細
<伝承の旅路>ゼロは二になる
オープニング
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『境界<ロストシティ>』。
この地は、混沌と密接にリンクしており、混沌のありえたかもしれない世界として分離した地。
果ての迷宮第十層に位置する異空間……境界図書館の館長を務めるクレカの故郷であり、混沌世界からすれば随分と遠い昔の出来事であり、本来ならば終ってしまった物語の別の側面でもある。
そこでは、魔王を倒し、『レガド・イルシオン』の建国の祖となった男『アイオン』とその仲間達が『勇者』と呼ばれることのなかった『IFの物語』が続いているという。
クレカの誘いもあり、イレギュラーズはこの世界を知るべく探索することになる。
今回、境界へとやってきたイレギュラーズは、以前救ったゼロ・クールの元を訪ねる。
「こんにちは」
とある魔法使いの工房へと入ったところ、ゼロ・クール『ECMk-Ⅱ』……双葉が出迎えてくれた。
「こんにちは、双葉」
「元気なら、何よりです」
双葉の名づけ親でもあるアルテミア・フィルティス(p3p001981)は笑顔を見せ、グリーフ・ロス(p3p008615)の2人は小さく頷く。
「キズはもういいようだな」
今回は完治するまでずっとついていようとすら考えていた鵜来巣 冥夜(p3p008218)だったが、元気そうな姿に眼鏡を釣り上げて僅かに笑んでいた。
「その節はお世話になりました」
彼女は丁寧に3人を含め、同行していたイレギュラーズに頭を下げ、お茶を振る舞ってくれる。
なお、魔法使いは留守とのこと。
ゼロ・クールの需要が高まっているのか、色々と忙しいらしい。
「ただ、皆さんを手助けするのを優先して構わないとの指示は頂いています」
双葉の話によれば、彼女をつくった魔法使いはこの世界の危機をすでに察知しており、様々な手を尽くしているとのこと。
だからこそ、自らが留守でも、双葉にそう言い残していたのかもしれない。
●
ローレットはできる限りこの世界について知るべく、探索領域を広げている。
加えて、アルテミアの発案で、双葉が魔王の手先にも遅れをとらないよう鍛えることになる。
これらを合わせて達成できそうな場所として、双葉を連れてプーレルジールを出た一行は、砂漠方面に……混沌でいうところのラサがある場所を目指す。
幻想と同じく、ラサという国は存在していないようで、商人がオアシスを中心として共同体を作っている状態とのこと。
それらの商人もほとんどラサ砂漠地帯から出ていないようだったが、思った以上に有益な情報を有していた。
「ラサ砂漠地域……名前だけは残っているのですね」
アルテミアは彼らの言葉になるほどと頷く。
この世界には何れも大きな国ができていないようだったが、ほぼ口伝によるものらしい。
「あちらこちらで起こる小競り合い……下手に介入すべきではなさそうですね」
グリーフも別の商人からこの世界の事情を聴く。
混沌で言うところの鉄帝、天義、海洋は何れも2勢力が争っているようだ。
ラサの商人もあまり国を出ないらしく、その話自体も口伝での情報でしか知らないとのこと。
そして、冥夜が聞いた話。
なんでも、西にあるサハイェル砂漠と呼ばれる場所の向こうの異変がこちらにも伝わってくるとのこと。
「異変……?」
訝しむ冥夜。
それもそのはず、西を見通せば、昼間にもかかわらず明らかに昏くなっているのが見て取れたのだ。
それ自体はプーレルジールからも微かに確認できたらしく、双葉も知っていたが、具体的な状況までは知らなかったようである。
その双葉を連れて奥まった場所まで向かうのは厳しい。
ただでさえ、寄生終焉獣なる危険極まりない存在がいるのだから。
今回はできる範囲でその砂漠へと近づきつつ、状況を確かめることに。
砂漠を進むうち、不意に現れた一団がイレギュラーズの行く手を遮る。
まずは魔王の手先と思しき砂漠の蛇。
続いて、混沌でも視認されたことのある終焉獣、巨大な口の姿をした飽食の口。
そして、禍々しい甲殻類を思わせるモンスター。
それらは星界獣と呼ばれるそうだ。
「滅びに際して現れ、エネルギーを求める飢えた獣だといいます」
淡々と与えられた知識を語る双葉。
なんでも、食らった存在によって大きく姿形を変化させることもあるというが……。
個々の集団はイレギュラーズを敵視しているらしい。
魔王軍にとっても、終焉獣にとっても排除すべき相手とみなされており、星界獣はイレギュラーズが極上のエネルギーを有しているという認識のようなのだ。
「来ます。皆さん、よろしくお願いします」
ここに来た目的の一つは、双葉に戦闘経験を積ませるいい機会。
一行は彼女と共闘し、立ち塞がる障害の排除に当たるのである。
- <伝承の旅路>ゼロは二になる完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年10月31日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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砂漠に向けて出立するイレギュラーズ一行。
「双葉様、よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします」
『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)に、市松人形のような双葉……ECMk-Ⅱは丁寧に挨拶を返す。
「今回の目的は、敵を倒し双葉に経験を積ませる事ですね」
「はい、双葉様の特訓も兼ねています。ニルもいっぱいいっぱいがんばります」
『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)の確認にニルが応じてやる気を見せる。
そこで、『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)が早速助言を始めて。
「まず大事なのは携行品。戦場での自分をコーディネートするつもりで選びましょう」
なお、今回冥夜が持っていたのは可愛らしいサメぐるみ。
冥夜曰く、なんでも、効果が良かったのだとか。
首を傾げる双葉を、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)は見つめて。
「そういえば、私はゼロ・クールを見るのは初めてだな」
ふむと唸るモカは、ゼロ・クールが半生体半機械自律人形……バイオロイドである自身と似ている部分があることに気づく。
今は懺悔のおかげで感情を得たモカだが、双葉が感情を示さぬところなど、かつての自身を思い出すらしい。
「ゼロ・クールの皆だって、いつかそうなれるさ」
「そう、でしょうか」
疑問を口にする双葉が何を目指すか、何を求めるか、それを知るのは己だけだと、『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)は教授した。
ちなみに、今回のチームは半数が秘宝種である。
例えば、『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)。
「私には、分からないことばかりです」
どこで、どのようにして生まれたのか。
生み出したドクターは今どこで何を思い、何をしているのか。
グリーフはそれでも、私は私であり、それはこの地にあっても損なうことはないと語る。
「ですから私は、私と、私を成すこれまでの全てを否定する存在、敵対する存在との戦闘を、拒みません」
そのグリーフは盾役となるようだが、メンバーによって立ち回りも異なる。
「それぞれの方向性を見定め、どう動くか参考にするがいいさ」
ブランシュのアドバイスに、双葉は小さく頷いていた。
●
イレギュラーズ一行は砂漠の状況を確認しながら、探索を進める。
『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)がテスタメントでサポートする傍ら、ニルは2羽のファミリアーを飛ばし、感覚を研ぎ澄まして温度を知覚しようとしていて。
「サンドスネークが砂から出てくるの、事前に気づけたらいいのですけど………」
「……そうですね」
グリーフもまたファミリアー2羽で空からの哨戒と合わせて、敵探知を続ける。
足場の悪い砂漠を自らも浮遊するグリーフは何かを感知して。
「来ます。振動に備えてください」
ニルの呼びかけに続き、グリーフが迷わず自身を輝かせる。
すると、地中からその身を突き上げるようにサンドスネークが4体出現する。
それだけではない。巨大な口の形をした巨大な終焉獣2体と、黄色いサソリを思わせる姿をした星界獣4体。
「ふむ、敵が多いな」
「バラバラの相手が一か所に集っている、という感じですが、こっちを優先的に狙うのはなかなか面倒ですね……」
数の増えた敵対勢力をモカは冷静に見回すと、シフォリィはイレギュラーズのエネルギーを狙う星界獣を敵視する。
「やれやれ。プーレルジールは厄介なお客様ばかりですね」
「なるほど、それなりに面倒な相手が混ざっているようだな」
敵能力を探る冥夜の言葉を受け、汰磨羈が一つ嘆息して身構える。
「終焉獣はいますが、寄生型はいないようですね」
ニルがほっとするのも無理はない。
今でこそ寄生されたゼロ・クールはエイドスで元に戻せる可能性があるが、前は破壊することしかできなかったのだから。
「寄生される危険性が無いのは安心ね」
「丁度いい。あの手合いに対するやり方を双葉に学ばせるとしよう」
仲間達の情報に『双葉の師匠』アルテミア・フィルティス(p3p001981)もまた安堵するのを受け、汰磨羈は双葉には頃合いの相手だと判断したようだ。
「双葉さんの経験を積むならこういう様々な相手と戦う状況はおあつらえむきでしょうか」
シフォリィもまたそれに同意し、仲間や双葉の反応を見る。
「双葉さんも。貴女は貴女です」
グリーフは、先ほどの続きで双葉へと語り掛ける。
作られた目的、理由、与えられた役目、能力……。
それを成すも、あるいは生きる……活動する中で芽生えた『何か』に従うも、彼女の自由、選択次第。
「けれど、何かを成すにもまた、生きなければいけません」
だからこそ、力をつけよう。
目の前の障害に抗おうとグリーフが促すと、彼女は無言で言葉を噛み砕いていた。
「油断はせずによ、双葉さん」
「はい」
表情を変えぬ双葉は、緊張も見せずに敵と対する構えだ。
「ホストは来る者拒まず、シャーマナイトの輝きで魅了し尽くして差し上げましょう」
数々の難敵を倒したイレギュラーズも悠然と身構える者が多く、冥夜も不敵に微笑む。
「折角ですし戦いぶり、見てもらいましょうか!」
「ええ、連携戦闘の経験を積んでもらいたいしね?」
シフォリィに同意し、アルテミアが双葉の傍につく。
「さぁ、この子の経験を積む為の糧になってもらいましょうか!」
凛然と叫ぶアルテミアに対して、敵もまたこちらを糧とすべく動き出す。
●
敵は3種10体。
それぞれがイレギュラーズを敵視して襲ってくるが、メンバー達は地中へと潜行するサンドスネークを優先討伐対象と見定める。
「地中に潜るタイプは、戦場において特に面倒な部類の一つだ。可能なら、最優先で排除するに限る!」
意気揚々と語る汰磨羈が双葉へと語るのと同時、敵よりも速くブランシュが敵陣へと迫る。
「俺は、ただ速く」
それだけを求めたブランシュは誰よりもこの速度だけは譲らないと強い意志を持つ。
救済執行を宣言し、彼は突撃戦術に出ると同時に多数の仲間を牽引する。
「とはいえ、やることはいつもと変わりません」
シフォリィもサンドスネーク目掛けて突撃する。
とにかく相手が避けられぬよう徹底的に叩き、かつ地中からの突き上げができぬようその技を封じつつ戦いを進めたいところ。
シフォリィは敵陣に堕天の輝きを瞬かせ、サンドスネークを強い呪いで侵す。
それによって、地中に潜れずのたうつ個体も。
「このまま有利に展開したいですね」
シフォリィが次なる攻撃手段を講じる前に、他メンバーも続く。
「えーい!」
ニルもまたブランシュの速さに乗る。
サンドスネークを中心に周囲の敵を多く捉え、ニルは一気に周囲に漂う根源たる力を泥に変えて浴びせかける。
闇の帳によって身を潜めるモカも間髪いれず、攻め入る。
茨の鎧を纏うモカは敵の攻撃には手痛い反撃を与える態勢を整え、後は気功で生み出した黒豹の弾丸を放出し、食らいつかせる。
なお、サンドスネーク以外の敵はグリーフが受け持つ。
発する光に寄せられ、秘宝種としての体を活かして終焉獣や星界獣を多く誘引していた。
後は障壁と結界を展開するグリーフ。
星界獣はイレギュラーズを好んで狙う事もあり、グリーフも下手に暴れられると困る終焉獣を優先して押さえつけていた。
壁となるグリーフを気掛け、冥夜は英雄叙事詩を高らかに謡い、周囲の仲間を奮い立たせる。
その中には、双葉も入っていて。
「集団戦はチームワークが大事です」
こうした役割分担が肝となることをアルテミアは伝え、双葉も頷きつつ攻撃の機を待つ。
少し遅れ、汰磨羈が暴れる敵へと迫って。
重力の門をその身に宿し、汰磨羈は限界を超えた力を得て一時的に白い髪を長く伸ばす。
戦闘態勢を整えた汰磨羈は鋭く敵を睨みつける。
しばしの交戦。
ただ、それも長くはない。
汰磨羈が頭上へとサンドスネークを突き上げることで地面に潜るのを防いだ1体に、ブランシュがスピードに任せて迫る。
「ランデヴーと洒落込もうか」
他の敵もろともブランシュは速力をもって敵陣へと仕掛ける。
「これが――俺の速さだ。目に焼き付けろ」
音よりも速く、動け。
素早さは力へと変換される。
そこから放たれた衝撃波は、頭上から落ちてきたサンドスネークにも浴びせかかり、そのまま砂上へと叩きつけられて動かなくなった。
「素早さは力に変換される。お前が俺を目指すのなら、早くなることだ」
「はい」
戦闘中である為か、双葉は短く返事していた。
●
その後もイレギュラーズ優勢で戦いが進むが。
「……終焉獣には注意ですね」
冥夜はそれ以外なら、双葉と連携して倒せそうだと個体ごとの強さもチェックしていた。
その声は、ニルが声を上げ、モカやグリーフが意思疎通を中継して皆へと情報共有する。
さて、戦いが進めば、潜行するサンドスネークも出始める。
アルテミアはニルの支援によってその音を聞き分ける。
脚にも伝わる僅かな振動。
次の瞬間繰り出される突き上げを彼女はしっかりと避けてみせる。
「こういう相手には目で見るよりも音や振動を感じ取る事が大事よ」
「勉強になります」
双葉が頷く暇にも、汰磨羈がなおも高く空へとそのサンドスネークを打ち上げる。
ここは冥夜が残る敵もろとも顕現させた泥で敵陣を覆いつくす。
とはいえ、すぐに砂の景色が戻る中、先程打ち上げられたサンドスネークは力尽きてしまっていた。
「これで地面潜りは阻止できそうでしょうか」
シフォリィが呟く間にも、残りをメンバーが追い込む。
またも潜る個体が出れば、今度はモカが聞き耳を立てて探知する。
(後方だ)
テレパスでモカが伝えた情報を受け、さらりと避けたアルテミアがそいつの頭と喉、腹を一度に捌く。
砂埃を上げてのたうつそいつに双葉が迫り、カミソリを振るって喉を大きく裂き、仕留めてみせた。
喜ぶアルテミアの傍ら、残る1体は必死になってこちらに噛みついてくる。
仲間を失って荒ぶるサンドスネークの毒を嫌がり、ニルは天からの光に暖かな風を吹かしてメンバーの態勢を整える。
「立ち続けることは大事、なのです」
それに、皆異論なく、サンドスネークにとどめを刺すべく攻撃を繰り返す。
再度、シフォリィが斬撃を浴びせて敵の力を削げば、汰磨羈がこいつもまた高く打ち上げる。
最後のサンドスネークはその一撃で力尽き、メンバーの追撃を待つことなく果て、地面へと叩きつけられていた。
次なる攻撃対象は終焉獣、飽食の口。
それらは全てを食らい、食らった対象の存在すらも消し去らんとする。
星界獣も決して弱くはないが、こちらは幼体らしく、グリーフがうまく抑えてはいたが、終焉獣は気を抜くとそれだけで意識を奪われかねない。
サンドスネーク全てが倒れたことで、ブランシュがそちらへと近づいて殺陣で迎え撃つ。
変わらず、人智を越えるような速度で動き回るブランシュは、炎片を舞わせて漆黒の巨大な口を焼く。
炎で焦がすだけではない。その力を封じんとするのは仲間と同じ。
「絡め手の一つは用意しておくと何かと役に立つ」
すでに仲間達が似た戦法をとっていたが、初手に見せたインパクトが大きければ大きいほど、相手はそれを警戒してくれるとブランシュは語る。
とはいえ、ブランシュはここまでと違う戦法をとっている。
少なからず終焉獣が警戒するのは間違いないだろう。
グリーフが変わらず引付を繰り返すが、終焉獣は自我が強いのか、思った以上に他の仲間へと牙を剥く。
「…………!」
怨嗟の声を響かせる飽食の口は、捉えたモカの体へと食らいつく。
逃れられなかったモカは瞬く間に意識を持っていかれそうになるが、パンドラの力で意識を繋ぎ止め、口から逃れてみせた。
やはり、直接噛みつかれるのは恐ろしいと、アルテミアは双葉と共に逆側へと回り込み、代わる代わる斬撃を浴びせかける。
アルテミアの刃から発せられる炎と冷気がどす黒い口を焼き、同時に凍結させる。
そこに飛び込んでくる終焉獣。
気づいたアルテミアが双葉を庇い、彼女を危機から救う。
「弟子の成長を見守るのも大事だけれど、弟子の身を守るのも師の役目だからね?」
「あ、ありがとうございます」
その場は、冥夜が秘宝種としての希少価値に加えて内から出る炎で一時そいつを誘い、壁役となって抑える。
グリーフはモカの回復支援を済ませた後、再び盾となるべく自身の体を輝かせていた。
終焉獣を抑えるのに、グリーフは些か難儀に感じていたが、それでも相手もかなりの攻撃を浴びており、所々からどす黒い液体を垂らしている。
「存在を消そうとする……噛みつかれたら大変そう」
改めてそう実感したニルは、傷つく終焉獣に泥と光を浴びせていたが、ここぞと戦法を変えて術式を展開する。
界呪・四象。
世界へと干渉したニルは四象の力をもって終焉獣を蹂躙し、消し去ってしまう。
「………………」
もう1体の飽食の口から、なおも吐き出される恨み節。
それは聞くだけでも精神を貪られるものだろう。
シフォリィはそれに耳を貸さず、思考を自動演算化することで最適行動をとり、徹底的にその口を切り刻む。
メンバーと協力して攻撃する双葉に、冥夜は号令を発しつつ告げる。
「俺は泥臭い努力を積み重ねてここまで強くなりましたから。幾らでもお付き合い致しますよ!」
大切な子を預けてくれた魔法使い、そして、頑張る双葉の想いに冥夜は応えたいと本音を零す。
その甲斐もあってか、自らの魔神を降ろす汰磨羈の放つ魔力砲が終焉獣を穿つ。
その唇に大きな穴を開けた飽食の口は僅かに硬直した跡、虚空に消えていった。
ここまで、目立った動きはほとんど見せなかった星界獣。
ほぼほぼグリーフが抑えていたことに加え、そうでなくとも他メンバーを優先して狙い、双葉にはほとんど注意すら払っていなかったようである。
ただ、エネルギーを求める本能は先に倒したサンドスネークや終焉獣にも劣らない。
覆い被さるように飛び掛かるそいつは直接口で、あるいは尻尾を使ってこちらのエネルギーを奪わんとしてくる。
残るそれらは4体。
アルテミアは1体ずつ叩くべく、雷の如く肉薄して鋭い一閃を。
加えて戦いの鼓動を高めて自らに意識を集めようとする。
そちらに群がろうとした敵へと双葉が斬りかかるのを受け、汰磨羈も同じ敵へと近場から斬りかかっていく。
さらに、冥夜が直接魔力を叩き込んで倒そうとしたが、星界獣はエネルギーを吸ってくるだけあって思った以上にしぶとい。
追撃をかけたニルもまた神秘の極撃を見舞い、ようやく砂の上に崩れ落ちる。
その後も、思った以上の星界獣のタフさに辟易としながらも、イレギュラーズは堅い殻へと持てる力をぶつけていく。
2体目はアルテミアと双葉の連携が光る。
アルテミアの繰り出す双炎の蒼と紅がそいつの体を燃やし、凍り付かせたところに、双葉の一閃が甲殻の合間を裂く。
ただ、その一撃は浅い。
そこへ攻め入るモカは残像を展開し、幾度も堅い殻を蹴りつけた。
モカはここぞと残像と共に拳を叩き込み、星界獣を仕留める。
(星界獣、少し気になるな)
3体目、仲間と合わせて攻めていたブランシュは交戦途中で考える。
(滅びの時に現れるというだけあると、それほどまでに滅びが近いという事だろうか)
このプーレルジールも、そして、混沌も。
今はそれに抗う為、ブランシュは最大最速モードへと切り替え、更なる公演を見せつけるべく戦場を立ち回り、激しい衝撃波を発して星界獣の体を引き裂いてみせた。
相手が1体となれば、グリーフも抑えるのが容易となり、禍の凶き爪や精神の弾丸でメンバーの攻撃を支援する。
合わせて、覆い被さってこちらのエネルギーを奪おうとする星界獣。
シフォリィは突撃戦術をとり続け、最後の星界獣の能力を封じてみせて。
「今のうちです!」
「はい……!」
じたばたと砂の上でもがくそいつの殻の隙間、双葉は今度こそカミソリを深く突き入れる。
確かな手応えを感じた双葉は、完全に星界獣が動かなくなったのを確認し、刃を抜いた。
「連携の形はそれぞれです」
自分に出来ることをして他人を助ける、きっとそれは双葉さん達の在り方にも通じるのではないでしょうか。
シフォリィはそう双葉を諭すのだった。
●
全ての敵を退けたイレギュラーズ。
だが、砂漠の先は何が待つかもわからぬ危険地帯とあって、冥夜は伏兵がいないかと警戒を怠らない。
とはいえ、メンバーは戦勝モード。
戦いを潜り抜けた双葉を気にかけて近寄る者も。
「さて、いい戦闘経験は積めただろうか?」
「はい、充実した時間でした」
汰磨羈の問いに、双葉は小さく頷く。
「双葉よ。答えは見つかったか?」
続き、ブランシュが双葉に問う。
時間は大いにあると言いたいところだが、この世界は残念ながら滅びに向かっているらしく、余り時間はないようだ。
「戦闘プログラムのアップデートを欠かさない事だ」
「はい」
無機質ながらも可愛らしい返事する双葉を見ながら、ブランシュは独り言ちる。
「俺も同じく、だがな……」
ブランシュも他メンバー達も、滅びに抗うべく研鑽を続けるのだ。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは作戦の起点となった貴方へ。
今回もご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<英雄譚の始まり>のシナリオをお届けします。
こちらは、アルテミア・フィルティス(p3p001981)さん、グリーフ・ロス(p3p008615)さん、鵜来巣 冥夜(p3p008218)さんのアフターアクションによるシナリオです。
市松人形の見た目をしたゼロ・クール、双葉と共にラサへと情報収集に出向きますが、狙ったかのように迫ってくる一団が……。
●概要
境界の砂漠地帯『サハイェル砂漠』にて探索を進めつつ、ゼロ・クール双葉の強化を目指します。
道中で立ち寄るオアシス傍の集落エルミーツに立ち寄ってから、西を目指します。
昼間なのに、徐々に昏く変化する光景。
その前方に立ち塞がる禍々しい甲殻類、魔王の手先と思われるモンスター、そして終焉獣……。
双葉の戦闘経験となることも併せ、これらの敵に対処してくださいませ。
●敵
別種の集まりですが、一つの群れを成しています。
〇星界獣×4体
全長、1m程度で甲殻類のような外見をしたモンスター。滅びに近づくことで現れるといいます。
エネルギーを食らってその姿を変化させる性質があります。
砂漠に降り立ったからか、黄色いサソリのようにも見えます。
飛び掛かって直接エネルギーを吸い取る他、
希望のエネルギーが好物とあって、率先してイレギュラーズを攻撃してくるようです。
〇モンスター:サンドスネーク×4体
全長1.8mほど。『獣王』ル=アディンの手勢の末端モンスターと思われます。
突然砂の中から現れると同時に相手を空へと突き上げたり、尻尾を叩きつけてきたり、毒の牙を使ったりして弱らせた相手を呑み込もうとしてきます。
〇終焉獣(ラグナヴァイス):飽食の口×2体
全長3mほど。直接噛みついてくるだけでなく、歯ぎしりや怨嗟の声を発します。
また、直接食らいついたモノの存在を消し去ろうとしてきます。
●NPC
〇ゼロ・クール:双葉(生態番号;ECMk-Ⅱ)
プーレルジールなる世界の案内役。
とある魔法使いと呼ばれる職人によって作られた人形です。
ある程度の知識をプログラミングされてはいますが、必要以上の知識は持っておりません。
名付け親はアルテミアさん、グリーフさん両名です。
全長120~130センチ程度、可愛らしい市松人形といった外見の女の子を思わせる見た目をしております。
カミソリを武器とし、飛び込んで相手を仕留める戦法を得ています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、よろしくお願いします。
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