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シナリオ詳細

<伝承の旅路>墓所破り。或いは、ゼロ・クールの葬送…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●廃棄人形
 『ゼロ・グレイグヤード』。
 またの名を『ゼロ・クール達の墓場』と呼ばれる陰鬱な土地だ。
 雑多に破棄された人形はもあれば、人のように墓を造られた人形もいる。
 この地に破棄されたゼロ・クールは、そのほとんどが機能をすっかり停止させていた。時々、ほんの少しだけ動いているゼロ・クールも存在するが、きっと長くは持たないだろう。
 ゼロ・クールは“魔法使い”により製造された人形だ。
 “魔法使い”の手によるメンテナンスを受けられなくなれば、遅かれ速かれ機能を十全には維持できない。

「先の騒動で破損したゼロ・クールを“ゼロ・グレイグヤード”に破棄すること。それが今回の依頼っす」
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)が運んで来たのは、黒く塗られた台車であった。幌をかけられた台車からは、焼け焦げた人形の腕が覗いている。

 人形の数は3体。
 YMTKナンバーズと呼ばれる人形たちであり、寄生終焉獣に取り憑かれたことでその役目を終えている。
「ゼロ・グレイグヤードに行けば“YMTKナンバーズ”の共同墓地があるらしいっす。そこに3体を納めて来るだけの簡単なお仕事っすね」
 簡単。
 そう言いながらも、イフタフの表情は硬い。
「廃棄済みのドール達がたくさんいる関係上、“魔王たちの配下”にも狙われやすくなってることが予想されます。寄生型の終焉獣の目撃情報も上がってまして……」
 ゼロ・クールを墓に納めて来るだけ。
 たったそれだけの簡単な仕事にイレギュラーズが駆り出されている理由がそれだ。
「警戒は怠らないよう、十分に注意してほしいっす」
 そう言ってイフタフは、黒い台車をイレギュラーズへと託す。

●墓所破りのサリエリ
 どこかぼうっとした顔の女だ。
 歳のころは20代の半ばほど。青い髪を風に揺らして、彼女は墓所を歩いていた。
 時折、片手に持ったシンプルで頑丈そうな槍を使って、足元に転がっている人形を小突く。ほとんどの人形は何の反応も示さない。ひどいものになると、槍で小突いただけで表面の加工が剥離し、崩れる者もある。
「10点。こっちは0点……廃棄された人形なんて所詮はこんなものよね」
 溜め息を零し、女は槍を肩に担いだ。
 
 女の名はサリエリと言う。
 昨今、世間を騒がせている“魔王たちの配下”の1人である。
 彼女の役目はゼロ・クールの兵隊化……つまり、寄生終焉獣をゼロ・クールに取り憑かせ、手駒となる戦力を増やすことである。
 そのために彼女は、わざわざゼロ・グレイグヤードに足を運んだのである。
「預かった寄生終焉獣は13体……さて、寄生先が見つかればいいけど」
 何度目かの溜め息を零す。
 ゼロ・クールの墓場というだけあって、なるほど確かに辺りには無数に人形が転がっている。だが、そのほとんどは破損していたり、昨日が停止していたりで、とてもじゃないが寄生終焉獣の依代としてふさわしいとは言えない状態であった。
「失敗だったかしら? 使えそうなゼロ・クール……できれば、最近破棄されたばかりのものが見つかるといいのだけれど」
 そう呟いて、サリエリは槍を回転させる。
 【滂沱】【致命】【必殺】を付与する特別製の槍であり、実のところサリエリは寄生終焉獣という得体の知れない存在よりも、この槍の方が信頼できるし、便利であると感じていた。
 もっとも、上の命令であるため、サリエリに拒否権などは無いのだが……。
「あら?」
 遠くに人影を認め、サリエリは墓標の影に身を隠す。
 数人の人影は、黒く塗られた台車を運んでいるようだ。台車に積まれた荷物は、おそらくゼロ・クールであろう。
「あぁ、ちょうどいい」
 微笑み、そして言葉を零す。
 今しがた、運ばれて来たばかりの人形であれば、きっと寄生終焉獣の依代に使えるかもしれない。そう考えたサリエリは、誰にも知られることもなく、ひっそりと行動を開始した。

GMコメント

●ミッション
ゼロ・クール3体を墓地へ納める

●ターゲット
・サリエリ
青白い肌の、どこかぼうっとした女性。魔王たちの配下の1人。
マイペースな性格をしており、他人の言動やシチュエーションに点数を付ける癖がある。
ゼロ・クールに寄生終焉獣をとり憑かせ、兵隊化する役目を担っているようだ。
【滂沱】【致命】【必殺】を付与する槍を武器として携えており、現在はひっそりとゼロ・グレイグヤードに潜伏中。

・寄生終焉獣×13
スライム状の終焉獣。
人の形をしている者に取り憑く習性を持つ。
現在はサリエリが運んでいるようだが、状況に応じて付近のゼロ・クールに取り憑く可能性がある。
寄生終焉獣に憑かれたゼロ。クールは非常に強力な膂力や運動能力を手に入れる。

●アイテム
・YMTKナンバーズ×3
黒い台車に積まれている破損したゼロ・クール。
既にコアが破壊されており、機能は停止している。
3体を“YMTKナンバーズの共同墓地”に納めて来ることが今回の任務。

●フィールド
『ゼロ・グレイグヤード』。
またの名を『ゼロ・クール達の墓場』。
そこら中に破棄されたゼロ・クールが転がっている陰鬱な土地。
また、ゼロ・クールの墓も点在している。
足場は悪く、見通しも悪い。
どうやら、ゼロ・グレイグヤードはあまり丁寧に管理されていないらしい。
幸いなことに“YMTKナンバーズの共同墓地”付近は、比較的、道が整備されている。墓所から離れれば離れるほど、足場や視界は悪くなる。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <伝承の旅路>墓所破り。或いは、ゼロ・クールの葬送…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ

●お墓に参ろう
 ゼロ・グレイグヤード。
 またの名を『ゼロ・クール達の墓場』。そこら中に、破損した人形が転がるゼロ・クールたちの墓所である。
「きちんと埋葬してあげましょ。安らかなる眠りを」
 『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)の運ぶ台車には3体の人形が寝かされている。どの人形も動かない。その役目を終え、既に眠りに就いたのだ。
 人形たちを指定の墓所へ運び、墓へと埋葬すること。
 それが今回、イレギュラーズたちに課せられた任務である。
「……墓所トイウニハ 酷イ有様ダ。埋葬粗雑ナ者モアレバ 防衛機構モ無ク マダ機能停止シテイナイ ゼロ・クール達マデ廃棄サレテイル」
 墓場とは名ばかりだ。ろくに手入れもされていない、道の整備さえ適当な陰鬱な土地。『青樹護』フリークライ(p3p008595)が路面を踏みならしていなければ、台車などきっととっくの昔に破損していただろう。
「簡単なお仕事となれば俺の出番だ。楽して収入を得る……これが賢い大人の稼ぎ方ってやつさ。とはいえ、俺の経験上こういう依頼はほぼ100%面倒事がついてくる」
 『狂言回し』回言 世界(p3p007315)がぼやいている。その言葉に偽りはない。少なくとも、事前に聞いた情報だけを真とするなら、3体のゼロ・クールを埋葬するだけの簡単な仕事であるからだ。
 もっとも、少し離れた位置から何者かの視線を感じているのだが。それが友好的な視線であるとは、世界にはどうにも思えない。
「人形達の墓場、ってのは間違っちゃいないかもしれんが……せめて載せてるコイツらはちゃんと埋めてやりたいもんだ」
 台車に積まれたゼロ・クール……YMTKナンバーズに手を触れ、『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)はため息を零した。
「彼らは、やっと眠れるのです。私と同じであれば、眠る必要のない彼らが、やっと。その眠りは、誰の物でもない、彼ら自身のものですから」
 『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)はそう言った。役目を終えた人形に、思うところがあるのかもしれない。
「ここで眠っているひとたちは、きっとたくさんのひとが笑っていられるようにがんばってきたはずなのです。だから、おつかれさまと、おやすみなさいを」
 『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)も、YMTKナンバーズに触れる。硬質な肌、けれど目を閉じて眠るその表情には、人間とそう大きな違いは無いように見えた。
 指定の墓所まであと少し。
 陰鬱な葬送も、直に終わる。
 そんな地点に差し掛かった頃、彩陽が足を止めた。
「埋葬を邪魔するやつってのは倒さなあかんわなあ。とっととしっぽ巻いてお逃げ」
 まっすぐ、前を見据えて。
 湿った地面から、じわりと滲みだすように不定形の何かがそこに現れる。寄生終焉獣……ゼロ・クールや、人型をしたものに取りつき、自在に操る化け物である。

 白い有刺鉄線が寄生終焉獣の前に展開された。
「まったく、眠りについた人形を叩き起こそうだなんて……そうでなくとも墓暴きなんて許されないものよね」
 有刺鉄線を展開したのは『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)だ。彼女はまず1体の動きを止めた。現時点における最適解が、それであると判断したから。
 寄生終焉獣の数は2。
 『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)が虚空に指を走らせて、残る1体を気糸で縛った。
 これで、敵2体は“的2つ”へと変わる。
「彼等への寄生なんてお断りだ、兵隊になんてさせない……敵は殲滅する……!」
 不定形の終焉獣を、糸や鉄線で長時間、縛り付けておくことは難しい。だが、そもそも長時間の間、動きを止めておく必要が無いのだから、まったくもってこれで何も問題は無い。
「寄生終焉獣がたくさんいるの、ニルはいやです」
 じくり、と足元が緩む。
 ニルの展開した泥沼が、2体の怪物を奈落の底へと飲み込んだのだ。

●騒がしい葬送
「うぅん……20点、いや30点」
 物陰から様子を窺う青髪の女……サリエリが、槍の柄で肩を叩きながらそう呟いた。
 トントン、トントン。
 一定のリズムで肩を叩くその動作からは、サリエリの苛立ちが見て取れる。
 元より、寄生が完了していない寄生終焉獣程度では、イレギュラーズの相手が務まるとは思っていない。それゆえ2体を犠牲にして、威力偵察を行ったわけだが結果は惨敗。
 手の内を大して暴くことも出来ないまま、2体の寄生終焉獣を失った。
「まぁ、しかし……戦えないでもないわね。連中のうち1人でも瀕死にして持って帰れれば、人形どもよりは優秀な戦力になりそうだし」
 サリエリが持参した寄生終焉獣は残り11体。
 そのうち数体を、近くへ放つと彼女はにやりと口角を曲げた。

 寄生終焉獣は、人の形をしている者に取り憑く習性を持つ。
 特にゼロ・クールなどは絶好の依代で、寄生終焉獣に取り憑かれれば尋常でない頑丈さと膂力を得ることから、容易な戦力増強の手段として扱われていた。
 核の破損したゼロ・クールに取り憑くことは出来ないが、幸か不幸か、ゼロ・グレイグヤードには機能の停止していない人形も廃棄されている。
 イレギュラーズの周囲を取り囲んでいたのは、そんな“壊れ切っていない”人形たちだ。
 その数は9体。
 数だけなら、イレギュラーズを超えている。
「出来れば敵から離れておきたいんやけど」
 台車の近くに陣取ったまま、彩陽は弓に矢を番えた。きりり、と弦を引き絞るが彩陽が矢を放つことは無い。
 襲って来た人形たちの背後、ゼロ・クールの残骸の影に寄生終焉獣の影が見えたからだ。
 今、眼前にいる9体が敵勢力の全てでは無い。
 現地調達したらしき人形たちは、きっとその場凌ぎの兵力に過ぎない。本命がいるのだ。姿は良く見えないし、その数も定かではないが、必ず近くに隠れていて、じっくりと機会を窺っている。
 全力を傾けて人形の掃討にかかれば、必ずその隙を突かれる。それが理解できているから、彩陽は慎重にならざるを得ない。
「ほらみろ、面倒ごとだ」
「あまり無理せず、あくまで遺体を守ることを優先しましょう」
 世界とヴァイスが台車の左右へと展開。
 じりじりと距離を詰める人形を牽制している間に、敵数の多い正面へグリーフとフリークライが向かった。
 拳を握り、ぎくしゃくとした動作で襲い掛かって来る人形をグリーフが身体で受け止める。半壊した人形の眼窩からは、涙のように黒いオイルが漏れていた。
 寄生され、自我さえも失った人形。
 元より命の無い存在であり、そもそもが役割を終え廃棄された人形だ。哀れと思うことは間違いなのかもしれない。
 人形が動きを止めた瞬間、何者かが駆け出した。
 足音がしないのは、その体が少し地面から浮いているからだ。
「ゼロ・クールのみなさまをまもらなきゃ……っ」
 ニルである。
 手にした杖を、眼前に掲げた。
 動きを止めた人形を、至近距離からニルの放った魔光が射貫く。顎から鼻までを抉られて、人形が大きく仰け反った。
「……確実に数を減らなきゃ」
 破損した顔面の奥に赤く光る核がある。罅割れた核には、スライムのような寄生終焉獣が張り付いている。
 ギシ、と核の軋む音がした。
 ニルが、手を伸ばす。開いた指が核に触れるより先に、赤い光が消え去った。核が砕け、人形が機能を停止する。限界を迎え、人形はその命を……人形に命があるのなら……終えたのだ。
「っ……寄生させて言うことを聞かせるなんて、ひどいのです!」
 なぜ手を差し伸べたのか、ニル自身にも理解できない。伸ばした手は結局、何も掴めなかった。少しだけ悲しそうな様子で自分の手を見るニルへ向け、グリーフが告げる。
「一度、死せる星のエイドスに奇跡を願い、終焉獣に寄生されたゼロ・クールを救えました」
 殴打を浴びる。
 グリーフの白い肌が削げ、抉れ、内部構造が剥き出しになる。
「けれど、思うのです」
 1体の人形がグリーフの肩を掴んだ。
「“寄生されてからでなければ救えないのか。一度、は汚されてしまうのは避けられないのか”と」
肩の関節が砕け散る。
 脱力した腕を身体ごと捩じることで無理矢理に動かし、グリーフは人形の側頭部を打った。よろけた人形の首を、無事な方の腕で掴む。
「無尽蔵の願いは届かないか、あるいは私自身のパンドラが枯れ果ててしまうことでしょう。ですが、せめてこの手の届く範囲だけでも護れるような。そんな奇跡の形を、私は願います」
 1歩、前へと踏み出した。
 グリーフの手から逃れようと藻掻く人形の手足に、しゅるりと気糸が巻き付いていく。まずは両腕を、次に量の足首を。
「彼等に手を出すな……!」
 気糸から逃れようと人形が暴れる。その度に、人形の手足に、劣化した身体に亀裂が走る。長く墓地に放置されていた人形だ。寄生終焉獣に取り憑かれているとはいえ、もはや満足に動ける状態ではないのだ。
「暫くそちらでじっとしていてください」
 祝音の手により拘束された人形を、グリーフは通路の端へと転がした。

 数とは力だ。
 個々の戦力は決して高くない。だが、絶え間なく四方より降りかかる攻撃は、着実にイレギュラーズの体力と集中力を削る。
 その身を盾とするグリーフは言うに及ばず、祝音やニル、ヴァイスたちにもダメージは積み重なっていく。
「うっ……く」
 最初に祝音が痛打を浴びた。
 一瞬の隙を突かれ、その側頭部を人形に殴打されたのだ。
 細い体が地面を転がる。
 血管を傷つけたのか、祝音の髪はべっとりと血で濡れている。流れる血が、だくだくと溢れる鮮血が地面を赤く濡らしていく。
 額を押さえ、地面に膝を突いた祝音へ防衛網を抜けた人形が駆け寄っていく。
 けれど、その時。
「我 フリック。我 フリークライ。我 墓守」
 暗い墓所に、淡い燐光が吹き荒れた。砂塵も、瓦礫も、枯れた草木も、そこらに転がる人形たちの残骸も、そして傷ついたイレギュラーズの誰も皆を、区別なく燐光が包み込む。
 暖かな光だ。
 じわりと骨身に染みこんで、身体の底から痛みと疲労を癒す光だ。
「死 護ル者也。墓標荒ラス者 許スコト無シ」
 フリークライの声には怒りが滲んでいる。
 安らかに眠る人形たちの尊厳を、悪戯に踏みにじるかのような行為がフリークライには許せないのだ。

 白い人形が踊っている。
 ヴァイスが地面を蹴り付けて、その両腕を左右へ広げた。
 途端に巻き起こる暴風。
 巻き込まれた人形が、地面の上を転がった。
 その様子を遠くから見て、サリエリは笑う。
「あの子とあの子……それと、向こう2人も人形かしら? なに? 人形が、人形を埋葬に来たの?」
 くっくと笑って、槍を構えた。
「100点、100点、100点、100点……連れて帰るなら、あの辺ね」
 槍で指し示すのは4人。
 ヴァイス、ニル、グリーフ、フリークライを順番に見やったサリエリは、少し迷った素振りを見せて視線をヴァイスに固定した。
「あの子に決めた」
 ヴァイスが、台車の傍を離れた。
 後衛にいた人形を仕留めるためだ。
 舞い踊るように、白いスカートを翻しながら前へ出る。片手に握った儀礼用の短剣が、淡い光を発していた。
 突出した獲物から狙うのが狩りの鉄則だ。
 サリエリの目には、今のヴァイスが愚かな獲物に見えていた。

「お出ましだぞ」
 サリエリの足音を聞きつけて、世界がそう囁いた。
 瞬間、弾かれたようにマカライトが踵を返す。
 これまで徹底して気配を殺していたマカライトだが、ここに来て遂に動き始める。巨狼・ティンダロスを走らせ、接近するサリエリの眼前へと跳び出した。
「二度も乗っ取らせるのは偲びないんでな、早々に退場願えるか?」
 サリエリの槍をマカライトが刀で受け止める。
「0点! もう人形なんていらないわ。それにアンタに用事は無い」
 サリエリの視線がヴァイスを向いた。
 狙われているのはヴァイスだとマカライトは理解する。
 ティンダロスに騎乗したままマカライトが刀を一閃。だが、サリエリは紙一重でそれを回避すると、マカライトの腰に向かって槍を放った。
 ティンダロスが身を伏せることで刺突を回避。
 サリエリは舌打ちを。
 マカライトは笑みを零した。
「残念。お互い0点だ、サリエリ」
「0点はそっちだけよ」
 体の左右で槍を縦横に旋回させながら、サリエリがそう告げるのだった。

 マカライトの頬を、サリエリの槍が斬り裂いた。
 傷は深い。
 飛び散った血が、マカライトの片目を潰す。
 しかし、サリエリは忌々し気に舌打ちを零した。
「……0点」
 すぐに燐光が降り注ぐ。淡い光がマカライトの傷を癒すせいで、ちまちまと体力を削るサリエリ得意の戦法が全く意味を成さないのである。
「サリエリ先生は何かと点数を付ける癖があるようだな。素敵なご趣味だこと」
 サリエリは前へ踏み出せない。
 世界の呪弾が、嘲るようなその声が、サリエリの前進を阻むのだ。
 血走った目を世界へ向ける。
 世界はおどけて、両手を顔の横へと上げる。
「言動にも点数を付けるようだが……参ったな、俺は国語が苦手なんだ。お手柔らかに頼むぜ」
 そう言って、世界は自分の額を指で叩いた。
「赤点取ってアンタとマンツーマンの授業なんてことになったら頭の頭痛が痛いからな」
 世界の眼前……空間から滲みだすように、黒い短剣が現れた。
 短剣そのものが意思を持つように飛翔し、サリエリの頭部へと向かう。咄嗟に槍で短剣を払ったサリエリだが、その隙にはもうマカライトが戦線に復帰していた。
「これは何点だ?」
「っ……0点に決まっているでしょう!」
 マカライトの問いに応えを返し、サリエリは奥歯を噛み締める。

●安らかな埋葬
 一瞬の隙を突いて、サリエリは何かを放り投げた。
 それは小さな布の袋のようである。
「なに……?」
 布の袋が空中で裂けた。
 その中から溢れ出したのは、夜闇のごとき黒い色をした不定形。寄生終焉獣だ。
「狙いは……ヴァイスさんですか」
 着地と同時に、寄生終焉獣は疾走を開始。
 飛びかかったのは、丁度、人形を相手にしていたヴァイスの背中。
「渡さないのです!」
 寄生終焉獣の間に割り込んだのはニルだった。ワンドを盾にして、寄生終焉獣の突進を防ぐ。
 衝突と同時に寄生終焉獣が弾けた。
 粘菌のような奇怪な動きで、寄生終焉獣がニルの腕を這いあがる。そのまま、ニルに取り憑こうというのだろう。
 だが、終焉獣がニルに寄生することは無い。
 ニルの腕を這いあがる寄生終焉獣を捕らえたのは彩陽だ。張り巡らせた無数の気糸がキリリと硬質な音をたてる。
「手は出させない」
 ニルの腕から寄生終焉獣が剥がれた。
 ニルは即座に、地面に落ちた寄生終焉獣へ向けて魔光を放つ。だが、寄生終焉獣が地面を滑るようにして移動を開始。道の端に倒れた人形へと向かったのだ。
 攻撃直後の硬直を狙い、ニルの背中へ人形が殴りかかる。
「全く、元気な子ね……それはダメよ?」
 しかし、振り上げた腕が砕け散る。
 ヴァイスだ。

 逃げた寄生終焉獣は、人形の元へ辿り着く直前に再び彩陽に捕らわれた。
「動かさせない。安らかな眠りを邪魔させはせえへんよ」
 動けないでいる寄生終焉獣の頭上に影が落ちた。ゆっくりと近づいて来た巨大な影の正体はフリークライだ。
 持ち上げた太い腕を、寄生終焉獣へと近づけていく。
「言ッタハズ。我 墓守。死 護ル者也」
 
「こっち見てる余裕があるのか?」
 そう言って世界が、サリエリの背後を指さした。
 世界を警戒し、サリエリがマカライトから視線を逸らした一瞬の隙。マカライトはそれを見逃さなかった。
 6本の鎖が絡み合い、巨大な“門”を形成したのだ。
「っ……!? いつの間に……こんなもの!」
 形成された門の内から、巨大な拳が現れる。
 マカライトが召喚した巨人の腕。その狙いは当然、サリエリだ。サリエリが槍を構えることで振り抜かれた巨腕を防いだ。
 ミシ、と軋む音がする。
 へし折れたのはサリエリの槍か、それとも骨か。
「うっ……ぎゃぁぁぁ!」
 悲鳴を上げながらも、サリエリは足を止めなかった。折れた槍を投げ捨て、折れた腕をだらんと下げたまま、即座に逃走を開始したのだ。
「早々に退場願えるか……とは、言ったがな」
 あっという間に、サリエリは姿を晦ませた。
 サリエリが他の何者よりも一等優れている点があるとするならば、それは異常なまでの見極めの早さだろう。
 サリエリの追撃を諦めたマカライトと世界は、残る人形たちの掃討へと移る。

 棺に納められた3体の人形。
 その中には半壊した人形が寝かされている。
「……どうか眠りを妨げられず、安らかに眠れますように」
 既に数体。
 今回の戦いで機能を停止した人形を埋葬している。残るは、今回の主任務であるYMTKナンバーズ3体の埋葬のみ。
 祝音は棺の前に膝を突くと、胸の前で両手を組んだ。
 人形に魂はあるのだろうか。
 冥福を祈ることに意味があるのか。
 それは分からない。だが、少なくとも目を閉じたままピクリとも動かぬ人形たちの顔は、命ある人間と大きな差があるかのようには見えない。

成否

成功

MVP

グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

状態異常

グリーフ・ロス(p3p008615)[重傷]
紅矢の守護者
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)[重傷]
優しい白子猫

あとがき

お疲れ様です。
無事にゼロ・クールたちの埋葬は完了しました。
また、サリエリは重傷を負い、暫くの間は満足に活動できないでしょう。
依頼は成功となります。

この度はご参加ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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