シナリオ詳細
<神の門>ネロ=ヴェアヴォルフ
オープニング
●
――天義にはかつて『人狼』という種族がいたとされている。
獣であるならば獣種(ブルーブラッド)ではないか? と思うかもしれないが明確に異なるものだ。ようは魔物の一種であり、滅びのアーク側の存在である。人の営みの中に紛れ、人を滅す悪鬼羅刹。
事態に気付いた天義の騎士団が動き出し戦いの末に滅ぼした。
悪しき種族は善き正義の下に討たれ世には平和が戻る――
で、終わる筈だったのだが。
『――人狼か。珍しいものを見たな』
『まだ生き残りがいたとは……海洋の辺りに船で運ばれ、売られる予定だったか』
絶滅の確認など出来ないものだ。
人狼の生き残りはいた。恐らく最後の生き残りではあるが……
幼き『その存在』は人に囚われていた。物珍しい存在として。
一時は人を恐怖に貶めた種族とて、無敵でもなければ最強でもない。
幼ければ尚の事。『その存在』は、人の玩具になって生涯を終える筈だった。
――しかし。運命の悪戯はあるものだ。
『バビロンの断罪者』
苛烈なる天義の時代に生まれ、より深淵に抗する為に深淵に潜った者達。
それが『その存在』の前に現れたのだ。人身売買を目的としていた組織潰しの折に。
……ただ彼らの瞳には困惑と驚きこそあれど。
人狼は滅ぼすべき存在だと思えばこそ、次なる瞬間には殺意が至る。
表の天義の平穏の為。死すべしと――しかし。
『まぁ、待とう。この子からは悪意を感じない』
バビロンの断罪者の一人が、その動きを制した。
檻を破壊し。鎖を解き。そうして抱き寄せる。
……あぁあの日。きっと『その存在』は光を見たのだ。
呪われた命。その深淵の命に、きっと一筋の希望が零れ落ちた。
だから――『私』は――
●
神の国へと多くの意志が踏み込む。
イレギュラーズや、一部の聖騎士が選抜されアリスティーデ大聖堂の奥へと。
預言者ツロによって囚われたイレギュラーズを救出せんとする者。
遂行者達の拠点を潰さんと心に定めている者。
その事情は様々だろうが――とにかく誰も彼も神の国へ戦いを挑む心算なのは間違いなかった。そして、その中には。
「遂にここまで来れたか……アリスティーデ大聖堂の、更に深部へと」
「連中の根城を見つけることが出来た、って事ね」
『バビロンの断罪者』なる組織に属するネロの姿もあった。
隣にはネロに語り掛ける秦・鈴花(p3p010358)もいようか――
バビロンの断罪者。それは天義が苛烈だった時代に結成された闇に潜りて闇を裁く者達――尤も、組織と言っても長年にわたる遂行者との戦いでネロ以外の人員は壊滅しているようだが……それでもネロの顔に絶望はない。
信じるに足る光を、彼はイレギュラーズの中に見たのだから。
「此処は呼び声に溢れている。だが……イレギュラーズならば屈するまい」
「勿論よ。この程度、なんてことはないわ――でもネロ。聖女の薔薇庭園ってのは何処に?」
「私も正確な位置は分からない。だが、その地は神の国でも最重要とも言える場所なのは間違いない……つまり深部だ。奥へ、奥へと向かえば必ず辿り着ける。恐らく――あの大神殿の先であろう」
その光の内たる者はリア・クォーツ(p3p004937)が例えばそうだ。ネロが指差す先を見据えれば、かのテュリム大神殿が実際に見えてこようか。今更ここまできて臆する事などないと、誰も彼も歩みは止めない。
――しかし。ここは当然、敵地だ。
ならば遂行者達が動いてこない訳はない。
大神殿へと向かい駆け抜けた先、で――
「ようこそ。何度も何度もしつこい連中ね――イレギュラーズ」
「あっ、メイさんなのです! またお会いできたのですね……!」
立ちはだかったのは、遂行者メイ・ミディアであった。近くには彼女の配下であろう者の姿も見える。流石にそう簡単には通してくれないかと、メイ(p3p010703)は遂行者を指さしながら思考を巡らせるものだ。
偶々だが名前が被っていたが故かメイは親近感をも感じている。
きっとまた出会うだろうと心のどこかで直感もあったものだ――しかし。
「ふふ。前の傷がね、疼くのよ。ここでその痛み……返させてもらうわ」
「何を言うのかと思えば。決着をつけるのはこっちだよ!」
「存在ごと消滅させてあげましょう――」
対するあちらは怒り心頭気味のようであった。以前の戦いの傷が完全には癒えていないのか……ならば望むところだと桜咲 珠緒(p3p004426)に藤野 蛍(p3p003861)は告げよう。今度こそ逃がすまい、と。
ただ、視線を巡らせれば気になる所はある。
遂行者メイは配下召喚型の魔術師のような者であった。
であればこそ騎士のような人形がいるのはいい、が――
「あれは――竜、ですか?」
「幻影竜……! 聖竜の尾とも呼ばれる存在だ、大神殿で出してくるとは……!」
グリーフ・ロス(p3p008615)が気付いた。
天を舞う存在がいると思えば――まるで竜のような姿を持つ個体がいる、と。
さすればネロは言を飛ばす。アレには注意しろ、と……
幻影竜。竜にまつわる存在であり、その力の一端。
聖痕を持たぬ者を狙い焼き尽くす存在であると――されど。
「あんなのがなんだ……! 本物の竜はもっとすごいよ……!」
「ああ――紛い物だな」
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)やエーレン・キリエ(p3p009844)は、覇竜領域で感じえた『本物』には程遠いと直感するものだ。人や遂行者に飼いならさる程、竜は容易い存在ではない!
無論、油断は出来ぬだろうが、しかしネロもいるのだ。
――必ずここを突破してみせると闘志を漲らせようか。
「遂に。あぁ遂に此処まできたのだ……皆の力を貸してくれ」
「それは勿論ですが、しかし、ネロ様。剣は抜かれないおつもりで?」
「――あぁ、これか」
瞬間。ネロも遂行者に立ち向かわんとすれば、言の葉を紡いだのはメイメイ・ルー(p3p004460)だ。彼女の視線の先には――ネロが背負う大剣がある。それを使わないのか、と尋ねれば。
「これは聖遺物だ。悪を祓う聖なるもので強力な力を宿してはいるのだが、しかし少し『問題』があってな……ここ大一番で使うつもりだ。その時が来れば躊躇いはないが、容易くは使えん。バビロンの断罪者が受け継ぐ武器だ――大事なものでな」
応えてくれた。聖遺物であるからこそ、と。
これを使う時は自らが正念場であると……『決断』した時だと。
――柔らかな、笑みを見せながら。
「とにかく今は此処を突破したい。行こう、イレギュラーズ!」
それも一瞬。次なる瞬間には、険しき顔と共に遂行者を見据えよう。
さぁ。神の国を攻略するのだと――告げるように!
- <神の門>ネロ=ヴェアヴォルフ完了
- あの日、光を見た。
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年10月28日 22時05分
- 参加人数15/15人
- 相談6日
- 参加費150RC
参加者 : 15 人
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参加者一覧(15人)
リプレイ
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乱戦壮絶。遂行者メイの操りし騎士が、イレギュラーズを阻まんと動く。
空には竜の紛い物の姿も見えようか――
神の国の深部にまで侵入した以上、タダでは帰さぬという意志を感じる。されど!
「至れり尽くせり、だな。歓迎とあらば受け取ろう。
我が名は死神クロバ・フユツキ。悉くを蹴散らす死の使い――参るぞッ!」
「幻影竜……ハッ! こんなのが竜だなんて笑わせるわ!
紛い物も紛い物よ! 足止めにだってならない……!
騎士だろうが竜だろうが――何を操ろうが貴女の格は上がらないわよ、メイ・ミディア!」
「そうさ、本物の竜の方がよっぽど強いよ。
幻影は幻影にしかすぎない……全部ぶちのめしてやるからね……!」
竜の真なる恐ろしさはこんな程度ではないと『滅刃の死神』クロバ・フユツキ(p3p000145)は駆け抜けようか。彼が見据えているのは上空に在りし二体――空すら足場と出来る彼の一歩は瞬時に連中との距離を詰める程。
直後に放つ斬撃は幻影竜を確かに捉えるものだ。
されば『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)や『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)もまた、覇竜で出会った本物の竜を脳裏に想起しながら戦場へと己が力を巡らせるものだ。
リアの燃えさかる様な炎の力が、地上に跋扈する遂行者の配下騎士を襲っていき。
次いでヨゾラの紡ぐ星空の魔力が空に在りし竜共を捉えようか――!
撃ち落とす。斯様な偽物程度に手古摺っている暇はないとばかりに。
(とはいえ、幻影と言っても竜であるなら力量の高い魔物であるとは思うべきかしら――ここは敵陣でもある事だし、心して掛からないといけないわね?)
同時。リアたちの動きに次いで『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)も戦場を広い視点から見据えようか。地上の騎士、天の竜。どちらも遂行者によって指揮されているとすれば……それこそ遂行者の思考、動きこそが重要であるからと。
彼女の下す判断を推測すべく、観察の目を巡らせる。
当然、戦いの手も止めぬ。いつでも敵の攻勢に対し対応出来るように治癒の術式を備えて。
「イレギュラーズ、調子に乗るのもここまでよ……此処で殺してあげる」
「遂行者メイ。また会うたなぁ、どうもお久しゅう――ま、しつこいんはお互い様ってな」
「くだらない。一々顔を覚えてるとでも思った――? 傲慢ね!」
「つれへんなぁ、それならそれでもええけどね。
どうせこっちは……突破させてもらうだけやから!」
然らば遂行者メイはすぐさまに対応の一手を巡らせるものだ。
騎士らはイレギュラーズを抑えんとし竜は空から炎を舞い散らせる……妥当にして真っ当な戦術だが、しかし『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)はそんな遂行者の狙いを阻まんと一気に動き出す。
優れた視力によって戦域を観察し、敵の位置を的確に把握しながら。
紡ぐのは連中の動きを阻まんとする一撃――降り注ぐ掃射の嵐。彩陽の力をもってすれば彼らの動きを縛る可能性も十分に見えた。一手でも敵の手を封じられるのであれば、この混戦に陥りそうな状況では大いに優位になるかもしれない要素だろう――
「……さて、ネロだったか?
俺は詳しい事情は分からんが彩陽が助けたがってるらしいんでな。
助力させてもらおう。願わくば、闇に掻き消されない光ってのを見せてくれよ」
「フッ。光とは、こちらが見せられた側だが、な……」
そんな彩陽に続く形で『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)は彩陽とネロに視線を巡らせながら、敵の観察と索敵を行おうか。彼の瞳には敵を解析せんとする力が宿っている……どれ程の能力があるか、分かればこそ次なる有効の一手になるが故に。
そして、往く。
クウハが狙うは幻影竜だ。まずは主人より借り受けた権能を纏いて全霊へと至ろうか。
あらゆる撃を己に届かせぬ力。
万全へ至った上で空舞う一体に狙い定め力を振るわんとする――
と、ほぼ同時に。その動きを導くように跳躍したのは。
「この召喚兵。この布陣……見る限り、珠緒らを想定したとは思えませんね。舐められたものです」
『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)だ。彼女は斬撃術を紡ぎながら戦場を広く見据えるが――それだけではない。彼女の歩みは、一部の者らの動きを追随させるが如く昇華させる。
その一人がクウハであり、更には。
「さぁ、やりましょう! 竜がいようと高位騎士がいようと――打ち倒すだけ!
遂行者メイのやり口はもう十分理解してる。今回こそ……届かせてもらうよ!」
「一度戦端が開かれれば混戦になる可能性もあります。注意して参りましょう」
『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)や『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)も共に往こうか。心に安寧を抱く蛍の剣先は、幾度刃を振るおうと一切濁らぬ――故に全霊全開をもってして敵の注意を引き付けんと立ち回る。
戦場で吹き出でる焔の輝き。更には、咲き誇り刹那に舞い散る桜吹雪の結界も展開。
数多の者らの目を奪う煌びやかな世界が其処にあった。これぞ蛍の成し得る絶技。
そしてグリーフは周囲の状況を見据えながら、的確に撃を選択してゆくものだ。
クウハや蛍の動き。誰がどこを抑え、零れている敵はいないか。
――狭間には念話を用いて情報を適時共有していこうか。その対象は、ネロにも。
『いつもお会いするのは戦場ですね、ネロさん』
『――やむを得ん。今の天義の情勢は、穏やかなる時を過ごすのを許さぬ』
『そうですね。しかし、この件を終えていつか、戦場以外の居場所が、生き方が。
私にも、そして、貴方にもある――
平穏にして安息の時と場があると……そう願っています』
『…………』
同時に紡ぐのは未来への願い。生きていてほしい、希望。
ネロの背負う剣に、何か感じ得る所があったから。
「おいおい、何かあっても。軽々に剣を使おうとか考えるなよ?
困るぜ、悪を祓う剣だって言うなら俺も巻き込まれる。使われないよう圧倒しないとな?」
「安心しろ、私とて使う場は見極めるつもりだ――私が剣を使う前に死んでくれるなよ?」
「ま、何を背負ってるか知らねぇが――命を大事にするこったな」
当然だ、と。クロバは目前の敵に剣を振るいながら視線をそちらへと滑らせ。
続け様には『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)もネロへ言を零しておこうか。
はじめましてでも、手伝わない理由だってあるっちゃある。
お前に何か生き様があるのならそれに口を出せる程の事はない――けれど。
「『お前には弟子が世話になったから』な」
「……縁が縁を紡いだ、と言う事か」
「そういうこった。ま、それ以上の理由を俺に求めなくてもいいし。お前も俺を好きに使うといいさ。俺も俺で、好きに動くからよ」
俺の得意分野は『お膳立て』だからよ、と。
カイトは言いながら珠緒の行動に追随しようか。
そして敵陣中枢に撃を撒く。死出を彩る呪われた舞台を演出してみせよう――
地面より降らす雨の術式。反転現象が敵へと襲い掛かりて、その運命を凶兆へと。
「よう、また会ったな遂行者メイ。わざわざの出迎え痛み入るぞ。
――鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。さっそく始めようじゃないか」
「やる気満々ね? だけど近付けさせないわよ――弾き飛ばしなさいッ!」
直後。カイトの雨撃が止んだと同時に『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が踏み込んだ。卓越した一歩からなる接近の先には騎士……グランド・ナイト達が動きを阻まんと立ち塞がる。
だがそれこそがエーレンの狙い。居合抜きからの一閃が襲い掛かろうか――!
その一撃、正に渾身。そもそも言の葉こそフランク気味であるがエーレンの瞳には只管なる闘志が宿っている。なにせ……預言者などという輩に仲間が何人も連れていかれたばかりなのだから。
(――報いを知れ。お前達が何をしたか)
行為には代償が付き物であると――知れ。
「ネロさんと一緒に戦えて嬉しいよ。何度も縁があるものだね――
仲間として頼りにしてるし、私達の事も頼りにしてね!」
「ネロさん。また会ったねなのです! また会えて、とっても嬉しいのです……!
一緒にこの場を切り抜けて、先に進もうなのです!」
「サクラにメイか。あぁ無論だ……その気迫。その魂、高潔であると信じられる――戦おう」
更に敵陣へと勢いを強めるべく、前線を担うネロの隣へと至ったのは『聖奠聖騎士』サクラ(p3p005004)に『ひだまりのまもりびと』メイ(p3p010703)である。サクラは幻影竜を見据え、居合の一閃を放とうか。身に纏った戦いの加護があらばその一撃、正に強靭無比。
竜の方も痛みに抗して炎を放って来るが――であればとメイは即座に治癒の術を巡らせる。
誰一人として崩させるものかとする意志が戦線を支えるのだ。
「いい顔するようになったじゃないの、ネロ。前はどっか暗い顔ばっかしてたのに、ね。前は辛気臭い顔とか言ったら生まれつきとか言ってごめんなさ――いや顔がいいわね!? 好きな食べ物は!? 休みの日何してる!? 今度ご飯とかどう!? いいお店知ってるわよ!!」
「……落ち着け。落ち着くのだ。まずは此処を切り抜けてから、だな」
「ふふっ、ネロさまの、笑うお顔、初めて見ました。とっても、素敵です、ね」
そして『未来を背負う者』秦・鈴花(p3p010358)に『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)も一度、ネロに声を掛けておこうか。鈴花は味方の攻勢が集中している敵個体へと更に重ねる様に。メイメイも同様に幻影竜を狙わんと思惑を巡らせる、が。その前にネロに守護の力を齎しておこうか。
――きっとまた。この先も笑い合って語り合う為に。
穏やかなる未来の為に。
「ええ、参りましょう、ネロさま! きっと私達なら、勝てます!」
「あぁ無論だ――頼むぞメイメイ」
生きて帰るのだと、確かな意思を携えながら。
踏み込む。苛烈なる戦場の只中へとッ!
●
「ギ、ィ、ィ――!!」
甲高い金切り声。それは幻影竜の一体が地に落ちる合図――
遂行者の指揮下で動いていた幻影竜は敵対者を排さんとしていたが……イレギュラーズの一斉攻撃の方が上であったか、その猛攻の前に飛行の力を失ったように見える。激痛が生じれば刹那の硬直と共に地へと一直線。
激しき衝突音が鳴り響く。あれだけの衝撃が至ればすぐには動けまい。
「次も叩き落すぞ――まだ数は多い。ゆっくりとはしていられねぇ!」
「空はアタシの領分なのよ、幻影ごときの竜が見下してんじゃないわよ!
アンタらなんかに空を飛ぶ資格はないわ! 生まれ変わって出直してきなさい!!」
だがそれだけで安心は出来ぬとカイトはすぐさま次弾の準備。周囲に活力を満たす号令も響かせながら、更なる一撃を紡ごうとしようか。同時に鈴花も幻影竜などという存在に憤怒しながら、一気に距離を詰める。
連中を地に落としてやるために。連撃連打、猛攻加えて芯へと届かせる。
しかし問題なのは一体だけではない事か。
見える範囲に三体。内一体は常にメイの傍にある。
落とした竜に関しても時間を過ぎれば立ち上がる事だろう――故に。
「畳みかけます……! 騎士達が、動くよりも、速くに!」
「恐ろしさまで再現されてるとは思わんが――幻影とは言え竜を名乗るんだ、きっちり殺しきらせてもらう! そうでなくば安心できないのは、覇竜で散々経験済みなのでな……!」
竜の行動が崩れている内にメイメイにクロバが動くものだ。
戦いはまだ序盤。だからこそ削れるだけ削って『先』に繋げる為に。
メイメイは騎士達に神翼獣ハイペリオンの権能を顕現させる。無数のミニペリオン達が果敢にグランド・ナイトへと立ち向かい、散っていく――しかしミニペリオンの雄姿は騎士達に確かな傷を刻むのだ。その様子をメイメイは、天に飛ばしたファミリアーの使い魔からしかと確認しようか。離れた場所に置いているが、優れた視力を併用すれば戦場の様子を空から窺う事も十分可能だ。
そして騎士らの動きが乱れている隙にクロバは空に残っている竜へと再びの斬撃。
二刀による連撃が羽へと至ろうか。
連中を自在にさせぬ為に。一刻も早く墜落させる為にと。
「動きが早いわね。でも、貴方達の力は承知済みよ――騎士よ、払いたまえ!」
「そうはさせないわ。いい加減、あたし達の顔見るのも嫌になってきたんじゃないかしら、メイ・ミディア? ま、あたしは――アンタが折れるまで地の果てまで付き合ってあげるつもりだけどね」
「幻想の修道女が、天義にまで来るだなんてご苦労な事ね……!」
然らば遂行者メイも騎士に命じてその動きを阻まんとする。
クロバの様な空へと至れる事が出来る者も中にはいるが――しかし単独での性能で言えば幻影竜とて相当なものだ。地上からの支援抜きであれば幻影竜とて早々劣らぬと遂行者は考え指示を飛ばす……しかしその動きに対応した一人がリアであった。
彼女はグランド・ナイトらを引き付けんと立ち回るのである。
放たれるは精霊の力を宿した剣技。
魔力を帯びた斬撃が騎士らへと直撃し、更に駄目押しとばかりに炎すら舞散らせようか。
――同時に声は、騎士の指揮を執る遂行者に向けてのものだ。
幻想で伯爵を襲撃してから追っている遂行者メイ・ミディア――
「逃れられると思わないでよね。アンタ達は、やってはいけないことをやったのよ!」
激しき声と共にリアは敵陣を攻めたてようか。
遂行者メイに近寄れば毒の気配も醸し出されるが、しかしリアであれば治癒の手もある。
何を恐れる事があろうか。リアの歩みと意志は――決して止まらぬものだ!
「どれだけ操り人形を駆使しようと、所詮使役者の腕前次第だな」
「此処は突破されてもらうで――足止めされてる場合やないんや!」
更にエーレンも騎士を相手に大立ち回り。
引き続き己が『足』を活かし攪乱の斬撃によって斬り込もうか。騎士らも反撃の剣を紡いでくるが……引き付けた身として己に意識が集中しているのは計算通りである。そして斯様にエーレンに集中していれば、その横っ面から貫く様に彩陽の一撃も襲来。
精密なる一矢が敵を貫こう。
足を撃ち抜けば、その歩みを封殺せんとする意志も感じられようか。
どこにも行かせない。皆で生きて帰る為に――そして。
「仮にも竜を名乗るなら、空からちまちま妨害なんてみみっちい真似してんなよ。
本物の竜種は地上でも強いぜ? あぁ、まぁ。所詮は適当な偽物って事なら納得だがな」
自分を手伝いに来てくれたクウハの為にも、敵の自由にはさせないのだ。
クウハの狙いは幻影竜。破滅への誘いたる力を行使すれば――かの竜の動きが鈍ろうか。
あぁこんなものが『竜』を名乗るなどおこがましいにも程があると思考しながら……
まぁ。本物と比べて御しやすいのは結構であるが。
「腐っても竜かと思ったけれど、これなら蜥蜴もいい所ね。
ジャバウォックの足元にも及ばないわ、この程度。
幻影にしてももっと出来の良いものを使役するべきだったわね――」
「確かに強いには強いけど……クワルバルツちゃんやホドに比べれば容易いよ!
こんなのでイレギュラーズを止めれるつもりなら――見通しが甘すぎるね!」
同様の事を考えているのはルチアやサクラもか。彼女らも過去に、それぞれ相対しえた竜がいる――あの圧倒的な存在感は、若い竜であっても成熟した竜であっても強大無比。それに比べれば目前の存在は『少し強い魔物』程度しか感じぬものだ。
竜とは土台が異なる。故に畏れ抱く事なく追撃の一手を紡ごうか。
ルチアは周囲の味方に、啓示の乙女としての加護を齎せるように位置も気に掛けながら、活力を満たす号令を一つ。戦いの為の闘志が宿るものだ――然らばサクラは飛行中の竜を狙いて、跳躍。
抜刀即撃。超速の居合は天空の竜を落とすが如く、だ。
いや実際にその一撃が決めてとなりて、地へと引き摺り落とされようか! 先と似たような絶叫を挙げながら幻影竜が墜落――その瞬間は完全な隙が生まれる。行動出来ないだけでなく、回避の為の運動もろくに出来ぬのだから。
「だが油断はするな! 連中は膂力も侮れん……地に落ちた蛇とは異なる。
炎の吐息のみならず爪や尾にも警戒を。思わぬ一撃を貰うかもしれんぞ!」
「分かってるよ、ネロさん! 大丈夫! 侮っている訳ではないけれど、本物を知ってるからね――彼らの反撃に比べれば鈍いものさ……! 確実に、仕留めていってみせるよ……!」
「竜も近しい内に再び立ち上がるでしょう。その際、分断されないようにお気を付けを。恐らく……グランド・ナイト達も此方へと至るでしょうし、ね」
直後。竜の撃墜に伴って即座にネロが動くものだ。五指に力を。全霊の拳が幻影竜の身を穿つ――次いでヨゾラもネロと同じ個体を狙おうか。グランド・ナイトらの妨害がないかも注意しながら、星空の如き輝きを再び。
さすればグリーフの予想通り、騎士達がそうはさせじと襲い掛かってこようか。
竜が再び態勢を取り戻すまでの時間を稼がんと狭間に介入してくる――
彼らの剣撃はそれなりの力がある。一撃程度で倒れ伏す事はないだろうが、しかし混戦の最中に積み重なっては危険と……だからこそグリーフは自らに物理も神秘も遮断しうる術を巡らせる。
己が引き付け、皆の傷を抑える為に。
ともすれば竜の意識すら此方に向けさせてみせよう、と――
「しかし一手が遅いですね。
速度で上回る隠し玉がなければ、貴女がこの場を掌握することは、ない。
――兵は神速を貴ぶとは言いますが。そちらの指揮はそうでもないようで」
と、その時だ。言うは珠緒か。
彼女は天高くにファミリアーの使い魔の鳥を展開しながら戦況の把握を同時に行わんとしていた。念話も駆使すれば連携の密度も挙がる上に、グランド・ナイト達の動きも俯瞰から眺める事も叶う……しかし鎧を着込んでいる騎士の様な姿をしているが為か、彼らの動きはそう早いとは言えない様だ。
そこに隙があった。
珠緒は己が動きに一部のイレギュラーズを連動させ、常に先手を取らんと動き続けていた――騎士達の動きが素早くないなら、あちら側の対応を後手にしてやる事が出来る。性能自体は以前よりも高いのは確かなようだが、しかしそれだけだ。
だからこそ彼女は先程『こちらを想定したものではない』と断ずる。
堕天の輝きをもってして正確に竜のみを穿てば、遂行者の方を眺めて。
「クッ……!」
「もしや素早い個体を作る事は出来ないのでしょうか――?
まぁそちらの事情を考慮などしませんが。己が無能を呪う事ですね。」
「行くよ! 全部無茶苦茶にしてあげるから……!」
次いで蛍も敵陣へと踏み込もうか。遂行者メイの陣の中へと至れば毒の力が降り注いでくるものだ、が。蛍は自らに、負を祓う守護の力を纏わせて抵抗していた。仮に加護を突破されようとも問題ない――
不屈の心と必護の誓いを胸に、彼女は自らを『修復』するのだ。
多少のダメージなど歩みを淀ませる事にすらならぬ!
圧倒的な防の力を宿す蛍にとって大きな問題とはならぬのだ――
「この先に進むために、メイはアナタを退けるです」
「――あら。貴方も来ていたのね!」
「はい。でも、迷いはないのです」
然らば其処には、イレギュラーズのメイの姿もあろうか。
偶然だが同じ名前。メイさんと、一緒にのんびりお茶したかった。
もっともっとお話しして、歩み寄れる点とかを探したかった。
もしかしたら分かり合えて一緒に仲良くなれたりした未来もあったのではないか――
そう、想う事もあるけれど。
でも、今は。
――全員を無事に先に進ませることを優先に考えるですよ。
「邪魔をするのならメイは、メイさんを倒すのです……! 毒を受けた人は一端下がってくださいなのです! 倒れてしまっては癒すことができないですが……生きているなら、メイが必ずなんとかしますから! 治癒を受けてほしいのですよ!」
それはメイの本心であった。一番凌がなければならないのは、敵の戦力が健在の時に毒の効力を深く受けてしまう事――竜を撃滅し、戦場を安定させるまで無茶は禁物なのだからと……!
幸い、と言うべきか敵の数自体は多くない。
巨大である幻影竜複数に加え、防に優れる騎士もいればこそ戦況はまだ分からないが。
しかしネロに加え歴戦のイレギュラーズも多ければ、圧倒される事などあり得ない。
「えぇい、どいつもこいつも……煩わしい……!」
遂行者メイの苛立ちは募るばかりであった。
次なる一手としては己が前線に出でて、毒の効力を片っ端から付与していく手段があるのだが――しかし。彼女は前回以前のイレギュラーズとの闘争により負傷していたのが足を引っ張っていた。迂闊に前に出れば、それこそ毒の力によって削り殺す前に己が倒される可能性がある。
それこそ疲弊していなければ話は別だったのかもしれないし。
或いはイレギュラーズ達が前のめりに突っ込んで来れば優位だったかもしれないが。
そんな隙を見せる戦いを――彼らはせぬものだ。
「もどかしい……!」
故に遂行者はやむなくグランド・ナイトを更に召喚する。
態勢を立て直しつつある幻影竜と共同させ、圧し潰さんとするのだ。
まだだ。この神の国を――ルスト様のいる地へとこれ以上踏み込ませたりなどせぬが為に!
●
洗礼の門付近での戦いは激化していた。
地上へと引き摺り落とされた竜達は、グランド・ナイトの援護を受けた上でも少なからぬ傷を負っている――とはいえ落ちた衝撃で動き辛かろうと、その間で命奪われる程脆弱ではなかった。今は立ち上がり聖痕持たぬ者を浄化せしめんと炎を吐き散らしている。
超高温のソレはイレギュラーズ達の身を焼かんばかりだ。
受け続ければ危険な者もいるだろう。加えて騎士達の薙ぐような剣技も至れば、一気に体力を削り取られる可能性もある――だからこそ。
「ここが正念場、ですね……!
めぇ……こんなの本物の竜の咆哮に比べたら、何て事ありません……!
でもネロ様も、お気を付けを……! きっと、マトモに受けたら、痛いでしょうし……!」
「大丈夫だ。無茶はせんよ――!」
メイメイは此処からが戦いの流れを掴む場面だと確信した。
ネロの身を気遣いながら、負傷している竜の傷口を狙わんと魔力を収束させる。撃ち込みて、その身を抉るのだ。取り巻きの敵、やはり遂行者メイの力によって増える事はあるが……しかしやはり無限でないのであれば凌げば勝てると。
「後ろに立って場作りをするタイプの召喚師、か――
成程な。そう言う手合いは親近感が湧かなくもねぇが……そうだな」
俺はそういう相手の場作りを『ぶっ壊す』場作りも大好きなんだ、と。
紡ぐはカイトである。遂行者メイが配下を召喚したと同時に、そこへと撃を放とうか。
際限なく降り注ぐ雨を顕現させ、一瞬にして凍土へと至らせるのだ。
極寒の呪いを知れ。あぁそもそも、ここで躓いている場合ではないのだ。
「ここはあくまで救国の為の通過点。
お前がどんだけ十全に対策を練って来ようが『通過点』として捻り潰す――
ゴールですらないんだ。悪いが、さっさと退場してもらうぜ」
「私達を通過点ですって? ――随分と、あり得ない未来を見てるのね、傲慢だわ!」
「……ハッ。傲慢とか、お前らには言われたか無いがな!!」
然らば遂行者メイから直接魔力の返答を貰おうか。
カイトは咄嗟に跳躍。地を転がりながら直撃を躱さんとし、て。
「最近殺意に飢えててな。オマエの煮え沸る殺意って奴を俺に少しばかり見せてくれよ?
大した事のねぇぬるま湯だったら――分かってるんだろうな?」
「クウハ、あんま脅しかけたらあかんよ? 俺らの目的は」
「あぁ。ネロを助ける事、生きて帰る事――だろ? 分かってるさ」
直後。カイトを狙う遂行者メイへと言を零したのはクウハだ。
隣には親しき彩陽の姿もあろうか――彩陽が狙うは遂行者を護衛している竜の瞳。いや。その近くに展開しているグランド・ナイト共もついでに巻き込んでしまおう。彼の放つ矢が掃射の如く敵へと襲い掛かる。敵から反撃があろうと問題ない。そこからはクウハの治癒の力が満ちて、癒すからだ。
――先の扇動は遂行者が切り札として持っているであろう『恩寵』を切らせる意図もある。
『恩寵』が攻勢に使われ、その範囲によってはイレギュラーズ側に致命的な被害が出ぬとも限らぬが故に。被害を最小に抑えんとする為の――あえての挑発だ。遂行者メイは奥歯を噛みしめつつも、まだ使う様子を見せないようではあるが……
しかし遂行者側にとって余裕のある状況ではない。グランド・ナイト達はイレギュラーズ達を通さんと抑え込む力は優れている、が。イレギュラーズ側はその騎士達の対応よりも早く動き続けんとするからだ。
「あまり目移りなんてされたら困りますわ、騎士様。
ちゃんとあたしと踊って頂きませんとね。
もしかしてダンスはお嫌い――? 騎士であるなら舞台の作法も知っておくべきね!」
その一人がリアである。騎士らへと串刺しの概念を宿す攻勢を加え、その身を刺し貫こう。
多少の剣撃が至ろうと反射的に紡ぐ一撃が彼らの体力を更に奪っていく。『あぁ、でもうっかり足を踏んでしまったらごめんなさいね――』なんて冗談も告げようか。しかし仕方あるまい。ダンスが下手な人物は、蹴られたってやむを得ないのだ!
「カ、カ、ガ――――ッ!」
「煩いわね! でっかい図体してる癖に、声が甲高すぎるのよ!
叫び声しか挙げれないなら――とっとと終わりなさい!!」
そして防衛の中核を担っていると言える竜に関しても叩き落し、その身を打ち倒さんと撃を続けている――鈴花だ。再び飛翔し、地上からの攻撃より逃げんとすればむしろ好機と全力たる直死の一撃を繰り出そう。
何もさせてやるものかと。連中から反撃として炎が出でようが――止まらない。
なんなら、あぁ。グランド・ナイト達も固まっていれば纏めて殴り込んでやる。
「こんなんで止めれるとでも思った? お待たせ、性格の悪い方のメイ……なんかアンタの周りどんよりしてるし腐った匂いしてるわよ。もしかして陰気な感じ? 性格とお似合いで結構な事ね!」
「黙りなさい――来るというならその魂ごと汚してあげるわ!」
「そうは行きません! メイが……メイ達が皆さんを、必ず助けるのです……!」
「ここまで来れば指揮官として振舞うのも限界があるでしょう?
さて。どう動くのかしら? 尤も、逃がすつもりはないけれど」
されば、遂に幻影竜の一体が崩れた――騎士達の防衛網にも穴が開き始める。
故に遂行者メイ自体を狙う時も訪れようというものだ。
鈴花の視線の先には迎撃の魔力を紡ぐ遂行者メイがいる。
――近付けばやはり毒の力は健在か。長期戦になれば厄介だが、しかし。性格の良い、イレギュラーズの方のメイがいれば毒の蝕みを軽減させられるものだ。彼女の紡ぐ治癒の力が命を繋ぐ。誰も遂行者の好きにはさせまいと――続けざまに遂行者メイを注視し続けていたルチアも、皆の活力を満たす号令と治癒術を用いて支援を行う。
彼女らのような戦場
「そろそろ因縁にも決着をつけようか……! これで四度目の邂逅ッ。もう逃がさないよ、こんな結界のようなもので私達を止めれると思ったら――大間違いだと知る事だね!」
「えぇい……! 竜よ、薙ぎ払いなさい!」
「させんッ!」
直後にはサクラの斬撃も至ろうか。傍に待機させていた竜に咄嗟に対応させんと遂行者は命じるが――しかし其処にネロの援護たる拳が至った。幻影竜の顔面に、剛撃が放たれる。更にサクラも竜へ斬撃を紡ぎつつ、遂行者メイも隙あらば狙おう。
狙うは首――致命傷を与えんとするべく、サクラは踏み込むのだ。
「そっ首、もらい受ける――!」
「させないわ――我らの神が世界を統べるまで、私達は……!」
「しつこい奴だ。神におんぶにだっこされなくとも、人間は自分の脚で歴史を歩めるんだよ。
神による支配が全てであると考えるお前達とは……その点で相容れない」
サクラに抗する為、遂行者は魔力を絞り上げ更なる騎士の召喚を果たす。
――が。騎士を作れば作る程に遂行者自身は疲弊するもの。
例えそれで一人止めれようと、また一人。もう一人と至れば刃は届く。
故に。遂行者達は気に入らないと紡ぎながら接近するはエーレンだ。
グランド・ナイトを切り伏せながら、彼は。
「長いようで短い付き合いだったな――申し訳ないが、お前たちに歴史はやれない」
「くぅぅッ!」
「どうする? まだ戦う? 大分アンタは限界に見えるけどぉ? 今からでも泣いて謝るのなら、まだアンタの為にローレットでお茶会開いてあげるわ!」
「舐めてくれるものね、私達の神の国で――!」
居合の一閃。超速より至る彼の刃を止めれる者が、この場にいようか。
押し込んでいく。遂行者メイの指揮が間に合わない速度で。
さすればメイ自身の抵抗と反撃が行われるものだが……そこはリアがカバーしようか。あぁそちらのメンタルか、こっちの体力か。どっちが先に尽きるか――まだ意地を張るのなら、最後まで付き合ってあげる!
残っている騎士達が遂行者を護らんと集まってくるが。
それこそ纏めて捻じ伏せる事が出来る好機と言えた。
「貴様と会うのもこれを最後にしようか……この一撃で消え失せろ!
遂行者なんかの好きになんてさせない。この国も、ネロさんも、皆も!
――誰一人だってくれてやるものか!」
「遂行者。あぁ、異端者を払いのけんとするいい殺意だ。だが――相手が悪かったな。死神の名前が伊達や酔狂で名乗ってる訳でない事をこの斬撃にて証明してみせよう! 神を信じるのならば、死の神を前に首を垂れるが良い!!」
往くはヨゾラにクロバだ。ヨゾラの放つ全霊の魔力は、己に纏った可能性の欠片が更に昇華させる――遂行者を護る幻影竜ごと星空を落とし抜こうか。凄まじい衝撃が炸裂すれば、直後にクロバが絶対なる殺意と共に跳躍。
その手に宿りしは分解の錬金術の叡智。
殺意に込めて終局の概念と成す。その斬撃、防げる者無し――
「ぐ、ぁあああ――! おの、れ――!!」
「傷が痛むですか? 傷つけられたら痛いのは皆同じ。嬉しいとか悲しいとか思うのも同じ。なのに、それでも。信じるものが違う存在であるメイ達とは相容れないのですか? こうなってもまだ……メイさんは私達と分かり合う事は出来ないのですか……!?」
同じ生き物なのに……! イレギュラーズのメイには悲痛な感情が胸に芽生えようか。
心の向きが異なるだけでどうしてそこまで出来るのかと――
「えぇ相容れないわ! 信じるものが違えば、それだけで十分なのよ。
『あっち』と『こっち』それだけで戦いは起こるもの!
我らの神、ルスト様こそが絶対。叛逆する者には死を与えるのみ――それが我らの役目!」
「……正に妄信ですね。魔種であるというのなら、元々はもっと別の人だったでしょうに」
遂行者メイが指輪に魔力を収束させる。自らに向かってくる敵意を殲滅する為に。
――その様子と言に、グリーフは感じえたものを零すものだ。
ルストはそこまでの人物なのか? 彼女がどんな人物だったのか――
反転したというのなら元々は敬虔な神職者だっただけかもしれない。
誰か一個人を神と崇めるのではなく、寛容で優しき者だったのかもしれない。
真実は私には分かりません。分かりません、が――
「けれど。どんな経緯があったのだとしても」
彼女はたしかに今ここに、そして彼女の信じるもののために在るのは確かだ。
――それを誤りや愚かとは断じるまい。
ただ、互いの大切が違うだけ。そして、だからこそ。
「私も私の大切なものの為に――戦います」
「えぇ来なさい。貴方達の大切なものを、私が砕いて差し上げるわ!」
大切なもののために戦うことを、否定はすまい。
グリーフは確かな決意と闘志を胸に、遂行者メイと相対しようか。
敵の動きを鈍らせる役目を担う者達を庇い、そして立ち続ける。
決して屈さない。決して崩れない。竜の最後の咆哮と炎が至ろうと退くものか。
激突必至。グランド・ナイト達が剣撃用いてイレギュラーズを排さんとすれど。
遂行者メイの毒の結界と魔法たる撃が飛ぼうと。
彼らの歩みに淀みはない。彼らの闘志に一片の曇りも生まれない。
――また一体、騎士を破壊する。さすれば――
「ここまでだね。長い付き合いだったけれど……終わりにしよう!」
「貴女は実際……きっと優秀なのでしょう。聖遺物や魔種であることを差し引いても」
絶好の機に蛍と珠緒が至った。
蛍は残存の騎士達を弾く一撃を繰り出す。舞い散る桜吹雪。幻影を乗せた一陣の風が吹き荒れれば、騎士らの防の上から圧を加えようか。そこへ更に珠緒のダメ押しが続く――重力の権能を身に纏わせた彼女は、更に騎士達を薙ぐのだ。
光翼から紡がれる羽は神聖にして膨大に。
排除しえて一直線の道を繋げ、ば。
「その自覚と傲慢が、自身の欠点や並び立つ者を認めない――人はそれを慢心と呼びます」
「慢心? 欠点だらけの愚か者よりも遥かにマシでしょうに!」
「まだ分かりませんか。だから敗北するのです、貴女は」
――多くの欠点が例えあろうとも。支えてくれる人がいれば、どこまでも歩んでいける。
他者は必要なのだ。自分達だけで絶対などと考えいるから……
伴侶に支えられている珠緒にも負けるのです。
「黙りなさい……黙れ! 弱さなどない完璧な世界を作るのに――弱き箇所など不要!」
「この力……来るぞ! 恩寵だ!」
「皆様、お気を付けを――! これが、彼女の最後の、足掻きです!」
「そうはいかん。耐えさせてもらおうか!」
直後。騎士を打ち倒したネロは恩寵の力が収束していくのを感じた。
速効性の薄い毒の結界を捨てて、一気に挽回する事を望むか。
――警戒していたイレギュラーズ達の行動は幾つかある。メイメイは警告の声を飛ばし、同時に傷深き者を庇わんとする動きを見せる。クウハは治癒の術を行使しながら、あえて前に出でようか――自らに向かって来れば狙い通り、と。
「傷が疼く? そういうの練達の方の言葉で『中二病』って言うの。
中二って言うのは子供で――ま、要するにアンタ、ウケるわねってこと!
来世があったら練達の方にでも生まれ変わりなさい。お似合いよ!」
「私は完璧なる世界に生きる。俗世なんて不要よ!」
更に鈴花も自身に注意を向けんと煽ろうか。
多少無茶は承知の上。それでも、仲間がいるから。
必ず勝利の兆しを掴む為にと――拳握りしめながら彼女は踏み込み――
同時、放たれる。
膨大な魔力の球体が地に叩きつけられれば、凄まじい衝撃が生み出されよう。
只人であれば消し飛びかねない威力。しかし。
「――珠緒さん!」
「えぇ。蛍さん、もう一度――参りましょう」
「は、ぁ! 珠緒に蛍、貴方達二人は、どこまで、食らいついて……!!」
「どこまでも。珠緒らの深奥、貴女には理解できないでしょう」
「でもボク達には分かるんだ。ボク達は――何も言わなくたって、繋がってるから!」
蛍と珠緒の動きが連動する。優れし反応速度をもってして深き負傷を躱したのだ。
そのまま間髪入れずに踏み込む。咄嗟に、遂行者は再び魔力を紡がんとするが。
遅い。蛍の展開した桜吹雪の結界が、遂行者メイを包み。
出来えた一瞬の狭間に――珠緒が斬撃術を顕現させる。
超越の抜刀。絶死の一撃を、遂行者の首元へ。
「長い付き合いだったけど……これで本当に終わりだね」
「考えを最後まで曲げないとはな――思想には共感しないが、意気だけは認めてやろう」
「――――あぁ、ルスト、様」
更にサクラとエーレンの斬撃も至れば、最早耐えられようものか。
遂行者メイの首が、落とされる。
退く一歩が間に合わなかった。以前に受けた傷が、歩みを阻んだのだ。
「伯爵を狙った時からアンタの終焉はきっと決まってたのよ――ん?」
「なんやろ、アレは……指輪が光っとる……?」
さすればメイの操っていた騎士達も順次機能を停止していくのをリアに彩陽が確認しようか――だが同時に気付いた。遂行者メイの所有していた聖遺物たる指輪が、暗き輝きを放っている。
感じる気配は『滅び』のソレ。
魔種の手に渡り汚染された聖遺物はソレ自体が滅びのアークそのものに至っている事もあるのか? 遂行者自身が失われても未だ聖遺物は健在。触れてよいものかどうか……クウハの解析する術式でも未知たる領域であると感じられる。もしかすれば強力な呼び声に晒される可能性も0ではない――と。そう思考した、正にその時。
「……うむ。ここからは、私の出番だな」
「ネロ様?」
「安心しろ。この剣の意味を――少しだけ教えよう」
告げたのはネロだ。不安げに見てくるメイメイへと声を掛けながら……
彼は剣に手を掛ける。
同時に、一閃。聖遺物たる指輪を、なんと完全に破壊せしめようか――
「……ぬぅ!」
「ネロさん! 大丈夫? 膝をついて……その大剣、かっこいいけれど負担が大きいの?」
「うむ……これは、そうだな。お前達も気になっていた様だし、そろそろ話すべきか……これはバビロンの断罪者が代々引き継いできた聖遺物――聖遺物『Babylon(バビロン)』だ。一言で言うならばこれは……『対聖遺物用の聖遺物』でな」
「なんだぁそりゃあ? 聖なるものを壊す為のモノってか?」
一言で言うならそうだ、と。
ネロは心配して来たヨゾラや、疑問を呈したカイトに告げようか。
聖遺物『Babylon(バビロン)』……聖遺物殺しの聖遺物。
天義では呪われた聖遺物とも目されている品である。聖遺物とは定義付けるならば、なんらかの聖人に関わっている物品が神秘を宿したものの事を指す。つまり聖遺物はそれ自体が『聖なるもの』なのだ。
それを破壊する事に特化した物など、呪われた一品と目されるのもやむを得ない……故に闇に流れバビロンの断罪者が代々受け継いできた訳である。
呪われた剣であったとしても聖遺物が悪用されたのならば、それ自体を裁く事もバビロンの断罪者の目的の内にはあった。よって強力なる切り札として保有されていたのである……ただ。
「ただ。戦闘の最中にこれを同時に振るうのは――厳しい」
「……『悪を祓う聖なるもの』って言ったよね。もしかして使ったらネロさん自身も祓われる……消えるとか致命的なダメージを負ったりするんじゃないの?」
「サクラ。お前の読みは鋭いな――そうだ。今の様に一瞬使うだけなら大きな問題はない……だがもしも戦闘の最中に常に全力で振るうとなれば」
まぁ、死ぬだろうなとネロはあっけらかんと言うものだ。
聖遺物が例え偉大であり強力であったとしても、その力を使う際、無制限に幾らでも使える訳ではない。遂行者メイは魔種としての生命力と能力を活用していたようだが通常、使用者自体にも激しい負担がかかる事は多々あるものだ。
しかもネロに限ってはそれだけではない。
そもそもネロは終焉獣の一種であるとされている……存在自体が『滅び』たる『悪』だ。
遂行者メイの指輪のように汚染されている訳でもない聖遺物を背負って。
更に使えば使う程にネロ自身も蝕むのだ。『悪』であるが故に。
「そんなものをずっと背負ってたの? 私もコンフィズリーの聖剣も使った事あるから、なんでもかんでも全力の力を利用できないのは、感覚として理解できるけど……!」
「受け継いだものだからな。仲間から」
「――――」
大剣を使わない様に奮戦していたのは恐らく正解だっただろう。
ネロはいざとなればこの剣を使うつもりだったのは目に見えている。
そうなればきっと彼の命を蝕んでいたと――サクラは直感して。
「やっぱり……大きな力を使うのには、大きな代償が必要になる剣、なのですね。
……使わないで済むことは、出来ないので、しょうか? 今後の、事なのです」
「はぁ? 予測はしてたけどやっぱり碌なモノじゃないわね!
そんなの捨てなさいよ。いやいっそ他の人が使う方がマシじゃない!?」
「そういう訳にはいかん。私でなかったとしても恐らく寿命を削る。
これは聖なるモノを破壊するという罪在りし剣だ。
バビロンの断罪者だけが受け継ぐと固く決められたモノなのだから」
「……今後。ソレを一瞬だけでなく、完全なる状態で振るう予定がありますか?」
「――『その時』が来れば私に躊躇いはない」
然らばメイはやや表情を雲め、リアは『失われる』かもしれぬ可能性に思い至り、眉を顰めながらネロへと突っかかるものだ。そもそもこういう手合いの事はなんとなくわかる――実は持っているだけでも負担が掛かっているのではないか?
同時。グリーフもまた紡ごうか。
ネロの瞳を見据えながら。あぁ……彼はきっと本当に躊躇いはないだろう。
大きな戦いの時。ここぞという時に自分を犠牲にする事に躊躇いはない。
いやもしかすると……彼は……
「死んでもいい、なんて思ってるんじゃないの? 辛気臭い顔の時代に戻ってるわよ」
「――私の存在は全てが過ちだ。終焉の獣は、滅びなければ滅びを齎す」
「アンタとは『今度』の話をするって言ったでしょ!」
刹那、鈴花が声を張り上げよう。ふざけんじゃないわよ、と言わんばかりに。
拳を突き出す。拳と拳を合わせるのは、同意のソレだから。
しかし。
「お前達は光だ。あぁ暖かな光だ……気持ちは嬉しい。だが私はしかと定めている――」
私は人間ではない。私は――怪物だ。
だから怪物はいつか死ぬべきなのだ。それに、どうせ私は。
「どの道、そう永くない」
「……えっ?」
「だから気にする事はないのだ」
「そんな。ネロ様、まさか『問題』とはその命を早める事で……?」
滅びゆく怪物に、多少の余生があっただけの事。
微かに背が伸びたメイメイが此方を眺めてくる。
あぁ、自らを救ってくれた正しき者達の力に――ほんの少しの力になれるなら。
それが満足だからと。
ネロは穏やかな微笑みを――見せるものであった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
遂行者メイは負傷もありましたので撃破の可能性はあったのですが、退却の可能性もありました。撃破にまで繋がったのは作戦と、作戦を成し得るたしかな能力があった事が大きな要因でしょう――御見事でした。
ネロの聖遺物、そして彼自身に関しては、近い内にTOPで更に仔細も明かしたいと思っております。
ご参加有難うございました。
GMコメント
●依頼達成条件
敵勢力の撃破or撃退。
●フィールド
テュリム大神殿の一角、洗礼の門と呼ばれる地です。
戦うには不足ない広さがあります。
足場や光源なども一切問題ありません。全力をもって敵を倒してください。
///////////////////////
●『遂行者』メイ・ミディア
遂行者の一人です。
呼び声の気配が感じられ、魔種である事が窺えます。彼女は聖遺物として『指輪』を身に纏っており、そこから幾つかの配下を召喚する事が出来る様です。大きな魔力も感じ取られており、配下召喚型の後衛型魔術師タイプです。
しかし前回の戦いにより負傷の跡が見られ、HPや一部の戦闘力に影響があると思われます。彼女自体はその借りを返さんと殺意を漲らせています――ご注意を。
●『幻影竜』×3体
聖痕がない者を炎の息吹で焼き殺さんとする竜のような存在です。
竜という名を冠してこそいますが、竜種と比べると力は劣ります。
強めの魔物、と言った存在であるのが正しいかもしれません。
空を飛び、炎の息吹(範囲攻撃)を行ってきます。
戦闘開始時、二体は空を飛んで、一体はメイの傍に地上で控えています。
EXAや反応は低いですが、高い耐久力と攻撃力が特徴のようです。
幻影竜は何度か攻撃を受けると墜落する事があるようです。墜落すると、1ターン行動不能となり再度飛行するには暫く時間がかかります。
この場における幻影竜はメイによって統制、指揮されており、彼女の使役する力によって性能がやや強化されています。具体的には物攻、神攻、EXAの強化が大きいようです。ただしこの強化はメイが撃破or撤退すると失われます。
●『グランド・ナイト』×7体~
メイによって召喚・使役されている存在です。
鎧を着込んだ騎士のような外見を持っており、メイはAPを消費して更に追加召喚する事が出来ます。以前までは数を揃えるのを優先していたのですが、イレギュラーズの思わぬ強さに数よりも『質』の方が良いと気付いたのか今回は性能を重視しています。APの消費が以前より莫大になっている為、追加があってもそこまで多くないと思われます。
敵を2体まで同時にブロックする事が出来、近接列攻撃を行う事が可能です。
また一流とまでは言えませんが優れた剣技によって、近接戦闘における攻撃・防御判定においてやや有利な補正を得る事が出来る様です。ただしこの効果は必ず発動する訳ではなく、対象となるイレギュラーズのレベルが高ければ高い程、確率が低くなるようです。
●『偽・不朽たる恩寵』(インコラプティブル・セブンス・ホール)
遂行者マスティマにより開発されている技術で、メイが有している能力です。
聖遺物が強化されているようであり持ち主に加護を与えます。
この場ではメイ自身が強化されており、以下の効果をイレギュラーズに与えます。
・メイからR4内の敵に【毒】BS効果
・メイからR3内の敵に【猛毒】BS効果
・メイからR2内の敵に【致死毒】BS効果
・メイからR1内の敵に【廃滅】BS効果
上記の効果は重複します。R3内にいると毒と猛毒が強制付与されます。
R4外に出ると効果は消えます。また毒無効スキルで無効化は可能です。
また『恩寵』全ての力を注ぎ込む事により、一度だけ非常に強力な攻撃か、治癒を行う事が出来る様です。(ただし全力を注ぎこむと上述の恩寵の効果は失われる様です)
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●味方戦力
●『バビロンの断罪者』ネロ=ヴェアヴォルフ
『バビロンの断罪者』なる、天義が苛烈だった時代に生まれた組織に属している人物です。尤も、もう彼以外の生き残りはいないようですが……
非常に高い戦闘力を宿しており基本的には徒手空拳で戦います。
優れた自己再生能力もあり、そう簡単には倒れない耐久力もあります。遂行者の話した通りによると『人狼』とは終焉獣の種族らしいですが、悪意や敵意は感じません。
イレギュラーズには好感を抱いており共に戦います。基本はメイを打ち倒さんと狙っているようですが、近付けなければ幻影竜をまずは倒そうとするでしょう。何か他にやってほしい事があれば(指示があれば)その通りに動いてくれるかもしれません。
背負っている大剣はなんらかの聖遺物であるらしく『悪を祓う聖なるもの』であるそうです。
使うには何か『問題』があり簡単には振るわないようですが、必要になれば使うとの事です。
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●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
●Danger!
当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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