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シナリオ詳細

<神の門>第二水雷戦隊、抜錨

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●マリグナント・クッキング
 まず材料を用意する。
 肉は叩くといいらしい。柔らかくなるそうだ。
 徹底的に叩く。『徹底的に』。
 それから調味料を加えるそうだ。塩などがいい。塩味は刺激的でとても良い味だそうだ。
「涙を流させればよい」
 と、その悪性生物はつぶやく。
 マリグナント。狂気に陥った『旅人(ウォーカー)』。いや、そもそも、彼女のそれは植え付けられた狂気であったのだろうか?
 目を逸らすなかれ。初めから皆狂っているのだ。
「影の天使。私たちの力を一部利用されたのは業腹ですが、故に、私たちの艦隊を再現することもできました」
 つぶやく。影の天使を媒介に生み出された『影の艦隊』。マリグナント・フリートは、今は遂行者サマエルの手勢として、偽りの歴史を是正するための戦力となっている。
 とはいえ。マリグナントそのものが、この艦隊を利用し、運用できないわけではない。サマエルが信用がならないが、しかし不誠実な男ではなかった。それは誰かの理想故の欠点であったが、それはさておき、マリグナントにとっては好都合だ。
「生み出しましょう。私たちが食べた、あなたの友の記憶を基に。あなたの、涙を流させるための、もっともっと、たくさんの塩味をつけるための、何かを」
 マリグナントが、ぐるぐると、空中を掻いた。すると、あたりの影がぐるぐると巻き起こって、次第に人影を作っていった。
 まずは一つ。刀を持った女性である。年齢だけを見れば、雪風よりは上であろう。
 更に二つ。背格好は、雪風(p3p010891)とよく似ていた。だが、片方は少女で、片方は少年だった。
 刀の女性が、ゆっくりと瞳を開いた。すると間髪入れずに、刀を抜き放つと、マリグナントの首筋に叩きつけた。
「何のつもりだ、テメェ」
 吐き気を我慢するかのような忌々しい表情で、女性が言う。
「塩味を追加しようと思いまして、神通」
 神通、と呼ばれた女性――厳密に言えば、艦船制御用AIモデルを影の艦隊として『再現』された存在である彼女は、何の躊躇もなく、刀を振りぬいて、マリグナントの首を切り飛ばした。つもりだった。
「ちからははいりませんよ。造物主に逆らえるわけがないでしょう」
「舐めやがって」
 ぎり、と力を籠める。刀はギリギリとマリグナントの首の表皮を触るだけで、そこから先にはいかない。
「テメェが初霜の姿をとってるだけでも気に入らねぇのに、これ以上なんの真似だ」
「ですから、雪風を、いじめてきてほしいと」
 そういった。
「あなたたちは、雪風が生まれて最初に組んだ仲間です。隊長である神通。同僚である、初風。黒潮。そのように情報が残っています」
「最悪だね」
 少年、黒潮が言った。
「だからこいつらに食われるときに、データバンクを完全消去しておくべきだったんだ」
「いややぁ……」
 少女、初風が言う。
「雪風おねえ、いじめたない……」
「あなたに泣かれても味がしないので、無駄なことはやめてください」
 マリグナントがそういった。
「さて、ちょうど良いタイミングですね。サマエルは、私たちに『好きにしろ』と言いました。
 更に、この『神の国』はローレットからの攻撃を受けていると。
 そうすれば、雪風も来るでしょう。
 適度に泣かせて、塩味をつけて、連れてきてください。おいしくいただきます」
「死ね、クソ野郎」
 神通が憎悪の表情でそういった。だが、すでに体は己の意思とは無関係に動いていることに気付いた。頭は戦闘に最適化されて、いかにして敵を撃滅するか、そういうことを考えていることに気付いた。マリグナントの力で生み出された兵隊である彼女たちに、自由意志などはないのだ。「最悪だ、クソが」神通が吐き捨てた。


「――!」
 島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)が、その刃を振るうと、眼前にいた駆逐艦タイプの影の艦隊が切り裂かれて消滅した。
 『テュリム大神殿』。神の国へと進行したイレギュラーズたちは、その奥へと進むべく、進撃を続けていた――。
「まったく、一体見たら三十体! みたいな!」
 水天宮 妙見子(p3p010644)が舌打ち一つ、影の艦隊を迎撃する。どうも、このチームの進むルートには、影の艦隊が大量に配置されていた様だった。死んでも次々と補充される軍隊の相手は実に骨が折れるが、しかし雪風にとっては、このルートはある意味で臨むべく道でもあった。
「この先に、きっと、マリグナントがいる……!」
 憎悪と怒りを胸に、雪風は刃を振りぬいた。影の艦隊が消滅する。この先にいるであろう、にっくき敵、マリグナント。かつての世界で友を殺し、今の世界で友を侮辱する『アレ』を、どうしても許すことはできない。
「止まれ!」
 大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)が、不意に叫んだ。
「新手だ! 三機!」
「三機? 少数」
 島風が言うのへ、武蔵が応える。
「少数精鋭という事だろう! 警戒を厳に!」
 武蔵が叫んだ刹那、二方向から迫りくる、『魚雷』が宙を駆けた。とっさに妙見子が迎撃する。その爆風の中、刀を持った女性が飛び込んできて、雪風に斬りかかった。
「神通隊長……!?」
 雪風が叫んだ。
「悪ぃな……クソ、止められねぇ!」
 神通が刃を振りぬく。雪風が後方へと飛んだ瞬間、
「雪風おねえ、ごめんねぇ……!」
 涙声が響き、
「初風……!」
 雪風が初風と呼んだ少女が、魚雷を発射する。間髪入れず、島風が飛んだ。その手にした刃で、魚雷をぶった切る!
「別世界の艦船制御AIかな……!?」
 今度は少年が、再び魚雷をうちはなった。
「黒潮まで……!」
 雪風が歯を噛みしめた。武蔵が叫ぶ。
「初期の第二水雷戦隊か!? 奇妙な、世界が変われど、縁まで同じか……!」
 第二水雷戦隊。かつて雪風が所属していた艦隊である。旗艦である神通に、同僚である初風と黒潮。つまり――。
「お友達のコピーに、攻撃させてるってことですか!?」
 妙見子が叫ぶ。その通りだろう。イレギュラーズたちは知りえぬことだが、「雪風に涙を流させる」というマリグナントの言葉は、つまりこのような精神攻撃での事であったらしい。
「外道 絶許」
 島風が、その眉を吊り上げた。
 かつての友をコピーし、心を揺さぶる。そのような行いを、許すわけにはいかない!
 どのみち、ここは突破しなければならないのだ。決死の戦いが、ここに始まろうとしていた。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 第二水雷戦隊を突破してください。

●成功条件
 すべての敵の撃破

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●状況
 囚われた仲間の救出のため、そして神の国への進撃のため、『テュリム大神殿』を進んでいた皆さん。
 そんな皆さんの目の前に現れたのは、『影の艦隊』と呼ばれる敵兵士であり、その中でも特殊な個体である『神通』『初風』『黒潮』でした。
 この三体は、雪風(p3p010891)さんの世界からやってきた旅人(ウォーカー)、マリグナントにより製造され、雪風さんのもとの世界では同僚だった人たちです。それをコピーし、影の艦隊として利用して、こちらを襲わせたようです。
 外道の所業ですが、しかしこれを倒す以外に、ここを突破する方法はありません。
 すべて撃破してください。
 作戦エリアであるテュリム大神殿廊下には、充分な明かりがあり、また充分な広さがあります。戦闘ペナルティなどは発生しませんので、戦闘に注力してください。

●エネミーデータ
 影の艦隊、神通 ×1
  神通と呼ばれる艦船制御AIモデルをコピーして作られた影の艦隊。
  赤毛でちょっと乱暴な少女です。
  手にした日本刀や、艦砲などにより攻撃してきます。
  主に接近戦をメイン行動としてきます。他の二体に比べて耐久力が高めです。盾役だと思って間違いないでしょう。

 影の艦隊、初風 ×1
  初風と呼ばれる艦船制御AIモデルをコピーして作られた影の艦隊。
  栗毛で内気な少女。
  手にした艦砲や魚雷による攻撃を行います。
  性能的には後衛タイプになっています。反応や機動力は高めですので、引き撃ちされないように気をつけてください。

 影の艦隊、黒潮 ×1
  黒潮と呼ばれる艦船制御AIモデルをコピーして作られた影の艦隊。
  黒髪のクールな少年。
  手にした刀や、艦砲、魚雷による攻撃を行います。
  性能的には、スピードファイターといった感じです。前線を動き回って引っ掻き回します。
  足を止めて、集中攻撃を仕掛けてやるとよいでしょう。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • <神の門>第二水雷戦隊、抜錨完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年10月26日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
タナトス・ディーラー
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)
島風の伝令
大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)
雪風(p3p010891)
幸運艦

リプレイ

●激戦
 爆風が、テュリム大神殿の廊下を包み込んだ。
 間断なく撃ち込まれるそれは、魚雷、と呼ばれる兵器である。
 厳密にいれば、空中を走るそれは魚雷とは言えまい。とはいえ、概念的には魚雷であり、それは科学技術の決勝でもあったが、さながら魔術的な其れにも似ている。
 平たく言えば――めちゃくちゃに過ぎる攻撃、ということだ。
「うう、ごめん、ごめんなぁ……!」
 その攻撃の主は、心から辛そうに、申し訳なさそうに、謝罪の声を上げる少女の様な影の艦隊=初風、である。『幸運艦』雪風(p3p010891)の世界に存在した、雪風の同僚ともいえる存在を、雪風の宿敵である『マリグナント』がコピー再現した存在だ。
「この攻撃は……!」
 大和型戦艦 二番艦 武蔵(p3p010829)が歯噛みする。
「私たちの世界とは違う。が、確かに、初風のそれだ!
 ちぃっ、奴め!! 人格情報の再現性の精度を上げてきたか!!
 悪性という意味で底は見せていないと思ったが、ここまでするからには更に一二段は悪辣な仕掛けがあっても驚かんぞ!!」
 応戦する武蔵の一撃を、神通がその日本刀で切り伏せて見せる。武蔵が舌を巻いた。
「なるほど、さすがはかの神通の名を冠する!
 水雷戦の練度は推して知るべしといったところか!」
「敵、艦 統制完璧」
 わずかに言いよどんだ『島風の伝令』島風型駆逐艦 一番艦 島風(p3p010746)は、しかし敵の性能を見誤るような艦姫ではない。
「当方 世界 異なる。
 でも 間違いなく――」
 奇妙なことであるが、しかしその存在は似通っているような気すらした。これもまた、混沌世界の、いや、あまたの世界が存在するが故の奇跡のようなものだろうか。
「できれば――」
 島風がつぶやく。敵として、会いたくはなかっただろう。
「状況はつかめた!」
 『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)が声を上げる。
「マリグナント自体に縁はないのだが、雪風の反応を見ただけでもわかる……友達に攻撃させるなど、友達同士で殺し合わせるなど、そして雪風に友達を殺させるなど、どれだけ鬼畜で外道の所業か……!
 しかも、彼女たちは……!」
 沙耶が、つらそうに視線をぶつける。戦う敵艦隊の表情は、苦悩に満ちていた。特に初風などは、辛そうに涙を流している!
「自らの意思をゆがめられて、戦いを強制されている……!
 しかも、影の艦隊である以上、彼女たちを救う手立ては……!」
 殺すしか、ない。
 救うことはできない。
 助けることはできない。
 ただ速やかに、終わらせてやることだけ。
 それだけが、イレギュラーズたちができることだった。
「こんな……! 誰が勝っても、これでは笑うのはマリグナントだけじゃないか……!」
「雪風君にダメージを与えたいだけならば効率的と言えるね」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が、表情を崩さずに、そう言った。
「……中々いい性格をしていると見える。
 個人的に他人の戦術をどうこう言う気は無いが……彼女が因縁を精算するなら、できる限り手助けはしようじゃないか」
「悪いね、こっちも止められない」
 黒潮が、艦砲を構えた。一気に打ち放つ。それが着弾する前に、イレギュラーズたちは飛びずさった。
「止めてくれると助かる」
 殺してくれ、と言っているようなものだった。そうしなければ、この戦いは終わらないのだ。そして殺される覚悟を、彼らは持ち合わせているということでもあった。
「コピーされた方にとっては、写す時に劣化してなければ、生前の全てをそのまま複写したのなら……!
 コピーの方は自身が再現されたものだと分かっていても、記憶や思い出、経験は本物なんだろう……!?」
 『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が、吠えるようにそう言った。
「その涙も、言葉も……演技なんかで出せるものじゃないはずだ!
 その意識が本物であるならば、あなたたちは……雪風さんは……!」
「なんつうんだろうな。俺たちはもともとAIで、そうなると、最悪データコピーなんてのはあり得る話だったのさ」
 神通が、自嘲気味に言う。
「だからなんだろうな、オリジナルがどうこう、なんてのは気にしたことがないもんでな。
 今この瞬間、今生きている俺が、神通だ……そう思って生きてた。
 ありがとよ、白狼。気にしてくれて。
 こうじゃなければ、飲みって奴にでも誘ってやるところだったが……!」
 神通が飛び込む。上段から構える斬撃を、ウェールにたたきつけた。ウェールは、カードから盾を実体化させて、それを受け止める。
「少しでも憐れんでくれるなら、アンタが殺してくれ」
 真摯な目を、神通は向けた。ウェールが、静かに、その瞳を、見つめ返した。
「まかせろ。この北上が請け負った」
 そう、『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が声を上げた。飛び込む。全速の力を乗せて。同時に打ち放たれた『火弁』が、神通を打つ。
「北上……別世界のやつか! ずいぶんとみょうちきりんな感じだな!」
 笑うように火弁を振り払う神通へ、ブランシュは飛び蹴りをぶち当てた。そのまま、神通が後方へと飛びずさる。
「武蔵、島風、雪風、北上、かい。
 ここにきて海戦とはな……」
「何の因果なんだろうね」
 黒潮が言う。
「……これも、前の世界で沈んだ罰かな」
「そんなこと、ありません!」
 『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)が、叫んだ。
「誰かを守って戦うことが罪だというのならば、そんなものは、そんなものは……!」
「どうにも、優しい人が多いみたいだ」
 黒潮が頭をかいた。
「手加減しないでよ。お願いだ。全力で、沈めてくれ」
「ごめんな……ごめんなぁ……!」
 初風が、涙ながらに声を上げた。もはや涙も枯れ果てた彼女の瞳は、ただ赤く腫れるばかりだ。
「救いましょう、彼女たちがこれ以上仲間を傷つけさせないために。
 ……そして私たちも彼女たちをこれ以上苦しませないように。
 雪風様?」
 妙見子が、いたわるように尋ねる。
 雪風は、力強くうなづいた。
「……戦って、せめて、神通隊長達に再び静かな眠りを……それが、今すべきこと……!」
 何もかもを飲み込んで、雪風はそうとだけ言った。
「そうだ、雪風。おもいっきりこい」
 神通が笑う。
 かつての世界のことを思い出す。
 それだけで泣き出しそうになる。
「泣くなよ。前も……そう教えたはずだ」
 構えた。雪風も、ゆっくり構える。
 酷い気持ちだった。
 それでも、幸運は、『生きよ!』と命じるのか。
 今度は直接、友の命を奪ってまで――。
「は、あ、っ」
 熱い息を吐いた。感情を、今は全部、吐き出すみたいに。
「行きます、隊長」
「頼むぜ」
 神通が、そういった。
 再び――。
 両軍は衝突する!
「初風をしとめる」
 北上が――タナトスが――ブランシュが、そういう。
「……奴が、このメンバーなら一番厄介だ」
「うん……!」
 目を真っ赤に腫らしながら、しかし決意の表情で、初風はうなづく。
「わかっとるよ。まず沈めるなら、うち!」
「だがな……すまんが、そうやすやすと沈めさせてやれねぇ!」
 神通が飛び出る。その装甲を生かした盾役を、まっとうするつもりだ!
「こちらです!」
 妙見子が叫ぶ。
「神通様、探照灯の用意はできましたね?
 ではお互い殴り合いと行きましょうか!
 逆落とし戦法は通じませんからね!
 黒潮様もまとめて相手して差し上げます!
 華の二水戦のお相手、光栄ですよ!」
「君の知ってる二水戦ではないけど」
 黒潮が言う。
「それでも、同じ部隊名と名前を戴いた僕らだ。それに恥じない動きはできるつもりでね……!
 姐さんともども、加減はできない!」
「上等です! 全部受け止めましょう! 妙見子ちゃん、懐は広いのでね!」
「いいじゃねぇか! こんな喧嘩じゃなければな……!」
 神通が、その刃を振り下ろす。その斬撃を、妙見子がその手に小規模結界を展開して受け止める。
 黒潮が合わせるように艦砲射撃。爆風が、妙見子を包み込んだ。
「こっちだ、初風さん!」
 ウェールが叫ぶ。
「さっきの謝罪が、涙声が嘘じゃないなら!
 友をいやいや傷つけるより俺を殴りに来い!」
「痛いけど、ごめんなぁ……!」
 初風がその魚雷を打ち放つ。ウェールを包み込むように、強烈な爆風が発生して、ウェールの体をしたたかに打ち付ける。そう、何度も耐えられるようなものではあるまい……!
「頼むぞ……!」
 ウェールが吠えた。仲間たちへ。その意気を受け取った、ブランシュが突撃を敢行する。
「初風、その魚雷を封殺する!」
 ブランシュが、その速度ごと衝撃波をたたきつける! 信管がぶれて破裂し、発射管の中で魚雷が破裂する!
「……!」
 さすがに驚きの表情を見せる初風。同時に、自己修復機能が発射管の再生を始めるのへ、
「すまぬ……が! この好機を捨てるつもりはない!」
 武蔵が吠えた。同時、艦砲より放たれるは、強烈なる、戦艦の号砲。九四式四六糎三連装砲改が、高らかに歌い上げる。『砲歌』。初風がそれを聞いた刹那、腕部に装着されていた魚雷発射管がさらに盛大な爆発を上げた。直撃した危機の砲弾が、初風をとらえたのだ!
 痛い、と思った。痛いのは間違いない。でも、ぐっとこらえた。ここで泣いたら、きっとこの優し人たちの心を傷つけてしまうから。
「まだ」
 初風が声を上げた。
「まだ!」
 そう叫ぶ初風の前に、島風はいた。
「『幸運艦』は当方部隊。
 負ける理由 ない」
 そう、言った。
「繰り返す。
 『幸運艦』は当方部隊。
 当方、部隊」
 そう、伝えた。
「お願いなぁ……」
 そう、優しく、初風は笑った。
 イレギュラーズたちが、初めて見た笑顔かもしれなかった。
 島風の刃が、初風を切り裂いた。じわ、と、傷口から影が染み出て、崩壊していく。
「……ごめん。
 当方 殺人剣。
 救出 力不足。
 雪風姉の同僚とも──『遊びたかった』」
 そう、告げるのへ。
 初風は、また笑った。
「えへへ……うちも……」
 強烈な爆発が、その言葉を遮った。
 島風の目の前で、初風は爆発と影に消えた。

●泥濘
「ウェール君、無事かい?」
 ゼフィラが、治療術式を編みながら、ウェールへと尋ねた。
 初風の攻撃を一身に受けたウェールの傷は深い。そうでなくても、ほかのメンバーの被弾も相応にあった。
「ああ……すこしつらいが」
 そう言って、いや、とかぶりを振る。
「まだ……相手はいる。早く、止めてやらないとな」
 そう言って、立ち上がる。その白き毛は、あちこちが爆風で汚れていた。それでも、立ち上がるのだ……。
「そうだね。まだ、倒れられない」
 ゼフィラは、その手を握った。支えきれないかもしれないという予感は、していた。それほどまでに、敵の攻撃は、ハードだった。
「妙見子から、黒潮を引きはがすんだ!」
 沙耶が叫ぶ。
「すまない、ウェール、ゼフィラ……もうひと働きしてもらいたい……!」
 沙耶が言うのへ、ゼフィラはうなづいた。
「もちろんだ。さっさと……救えるものは救って、私も現地の調査をしたくてね……!」
 回復術式を編み上げる。倒れそうな仲間たちを、全力で支える。ここが最後の砦だ!
「ブランシュ……北上だっけ? タナトス!?」
「貴様の魂が叫ぶ名を呼べ」
 ブランシュがそういうのへ、沙耶はしばし、うー、とうなって、
「じゃあタナトスで! 今度は黒潮を封殺する!」
「了解だ! 武蔵! 島風! 足を止めろ!」
「任せろ! 島風、砲撃戦を用意!」
「当機了解 v」

 仲間たちが、仲間たちのもとへとかけていく。
 どちらもボロボロになりながら、激しくもつらく、厳しい戦いを繰り広げている。
 自身も傷つきながら、傷つけながら、雪風は涙をこらえて走り出した。
 何が、正解だったのだろう。
 ふとそう思う。
 どこから、間違いだったのだろう。
 そう、とも思う。
 正しかったのか。間違っていたのか。
 正義であったのか。悪しきであったのか。
 わたしの歩んできた道は、なんだったのだろうか。
 この世界に呼ばれたことが、間違い、だったのだろうか。
 わからない。
 答えなどでない。
 出させてはくれない。
 ただ、幸運は、こう告げるだけだ。
 『生きよ!』と。
 それは、素晴らしい言葉であり。
 それは、呪いのような言葉であった。

「初風……よかったな……」
 黒潮がわずかに、悲しく、優しい顔をした。艦砲を構える。飛び込んできたブランシュを、迎撃する。
「如何に優秀だった駆逐艦だとしても、北上の性能が上回っている。
 俺を戦いを楽しむ外道だと見るか? 戦いを生み出す権化と見るか?
 違うな。俺は目の前の障害を壊すだけの死神だ。
 無理やり動かされてるのも辛いだけだろう。抵抗を見せろ。そんなにも雪風を苦しめたく無いのならばな」
「うちの北上は、もうちょっとおしとやかだったよ! メガネの似合うやつだった……君みたいなのも嫌いじゃないけどね!」
 爆発する。ブランシュの撃と、黒潮の撃。二つの撃が、中空で炸裂した。ぐわおうん、と、世界を震わすような破裂音が鳴る。双方が、吹っ飛ばされる。命(かのうせい)を削る音が聞こえる。
「ブランシュ!」
 ゼフィラが叫んだ。ブランシュは叫び返した。
「俺はいい! 止めてやれ! 早くッ!」
 それだけで、ゼフィラはブランシュの延命を止めた。別のメンバーに、力を注ぎこむことを選ぶ。それでいい、とブランシュが胸中でつぶやいた。それは言葉にはならない。
「島風ッ!」
 武蔵が叫んだ。同時に、雷の様な号砲が鳴り響く。戦艦の、雄たけび。黒潮が、その身をよじってそれを避けた。強烈な爆風が、その身を震わせた。
「こっちの戦艦にも勝るとも劣らないね……!」
「艦姫 伊達じゃない」
 島風が声を上げ、突撃――刃を、黒潮に突き刺す。ずあ、と、その傷口から影がほとばしる。が、黒潮の体は反撃を『やめてはくれない』。
「うちの島風もすばしっこいやつだった……懐かしいよ」
 がおうん、と、艦砲が島風を撃ち貫いた。そのまま吹っ飛ばされる。島風の意識が、黒に塗りつぶされようとしていた。刹那に、夢を見る。みんなが笑って遊んでいる夢。残酷な夢だった。
「雪風姉 ごめん」
 そのまま、地面にたたきつけられた。がふ、と、黒潮が息を吐く。体力は限界だっただろう。が、こちらの戦線もすでにボロボロに近い……。
「きたね、ユキ」
 黒潮が、言った。雪風が、ゆっくりと、光子魚雷の発射管を構える。
「雪風!」
 沙耶が叫んだ。
「ダメだ……君が、とどめを刺すなんて……」
 そんな、残酷なことを、させたくない。
 だが、体は、痛みは、限界を訴えていた。動かせない。体が。その時、誰も。
「ごめんよ、ユキ。あんまり、お兄さんらしいこと、昔からしてやれなかったな……」
「……」
 雪風が、ゆっくりと、息を吸った。
「……いや、ごめん。こんなこと言っても困るだけだ……悪い」
 そう言って、黙った。雪風も、しゃべることができなかった。話すことはできなかった。
 ほんの少しの、無言。
 永遠に感じる刹那。
 雪風は、その意思のままに、魚雷を発射した。爆発が、光子の爆発が、光の中に、影を飲み込んだ。せめてそれが、華やかな葬送であるように、と祈るようだった。
「くそっ」
 ウェールが、呻くようにそう吐き捨てた。
「ぐ……」
 武蔵もまた、己の無力さをかみしめていた。
 戦いは続く。

●敗戦
 だが……すでにイレギュラーズたちは、ぼろぼろの状態であるといえた。
 要の攻撃メンバーを幾名か戦闘不能にさせられ、盾役のウェールもまた、消耗著しい。
 そして、一人で強敵を相手にしていた妙見子も、ここに限界を迎えようとしていた。
 神通の刃が、妙見子の腹部を貫いた。ぐ、と妙見子の口元に血がにじむ。
「……誇れよ。アンタは強かった。
 くそ……」
 引き抜くと同時に、妙見子の体から力が抜けた。
「は……かの神通様に褒められるとは、光栄の至りですね……」
 にこりと笑って見せる。強がりの様な、うれしさの様な。そんな顔だった。
「アンタならわかるだろ。もう艦隊全滅状態だ。あとは俺一人でも処理できる。できちまう……」
「ええ、まぁ。今回は……そうですね。痛み分けで」
 意識が飛びそうになるのを、どうにかつなぎとめていた。ここで倒れれば、本当に死ぬだろう。そんなわけにはいかない。もう誰も、彼女の目の前で死なせるわけにはいかない。
「沙耶様、わかりますよね……!」
 妙見子が叫ぶのへ、沙耶はうなづいた。戦場を見渡していた沙耶だからこそ言える発言。
「撤退する……私たちに余力はもうない……!」
 そう告げれば、残されたメンバーは漸くに立ち上がって、撤退のための牽制打をうちはなちはじめた。神通は、動かなかった。唇を強くかみしめて、耐えているようにも感じられた。
「雪風」
 神通が、声を上げる。雪風が、激痛にこらえながら、そのほうを見た。
「次は殺しに来い。絶対に。頼むぜ」
 悲しげに笑った。こみあげてくる何かを、雪風は必死にこらえていた。
 艦隊戦、突破ならず。
 双方強烈な痛み分けであり、戦果が上がらなかったわけではない。
 それでも……。
 双方が背負った傷は、あまりにも、深かった。

成否

失敗

MVP

なし

状態異常

水天宮 妙見子(p3p010644)[重傷]
ともに最期まで

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 惜しくも突破ならず。

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