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シナリオ詳細

<神の門>クトゥーゾフ・ドラゴンファイア

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●神国
 預言者ツロによる会合は二人のイレギュラーズを離反させる、手痛いものとなった。ローレットに属する者は多種多様、善悪を問わないものであるがギルドマスターの定めたルール、そして世界の破滅を防ぐという目的のもと結束されている。しかし時折このようにして制御不能な事態が起きてしまう事もある。これはイレギュラーズとて混沌の地に生きる生命であり、誘惑の魔の手を無条件に跳ね除けれるものではない事を物語っている。
 だが、残されたイレギュラーズも悲しみ、憤り、悩んでいる暇などはない。未だ薔薇庭園に滞在するイレギュラーズの帰路を切り開く必要があるのだ。それは永きに渡る遂行者たちとの戦いの変化でもある。海洋や天義で行われてきたテロへの対処から、テロリストの本拠地に乗り込む作戦へとフェーズは進んだ。リンバスシティより神の国、神の国より薔薇庭園へと攻め込む、イレギュラーズのターンである。
 そして、この攻勢にはもう一つの目的が存在する。騎士リンツァトルテ・コンフィズリーの狙いは『冠位魔種』ルスト・シファーへ挑戦状を叩きつける事だ。こちらを侮り、傲慢に構えているあの男を表舞台へと引きずり出してやろうではないか。彼の箱庭を踏み荒らし、その涼しい顔を歪ませてやろうではないか。それは義憤に燃えるイレギュラーズに加えて、闘争そのものを生きがいとしているバトルマニア達の興味を引く所だろう。面倒な事件の解決、その糸口がついに開かれたと思う者もいるかもしれない。
 こちらを侮るのであれば好きなだけ侮っていれば良い。ローレットは、イレギュラーズはこのままでは終わらない。希望を掴む為に、どのような苦難が待ち受けようと彼らは進む。猟犬は放たれた。

●天なる門
 神の国に入るには審判の門を通る必要がある。無論、ツロの招待状を持たないイレギュラーズの通り方は神の国を信じる者たちとは違う、少々荒々しいものである。
 偵察に長ける者が見渡すと、流石は遂行者の本拠地というべきか、見慣れた面々が勢ぞろいしているようであった。予言の四騎士に炎獣、影天使にゼノグロシアンと今までの戦いに投入されてきた敵たちだ。これらを突破し、審判の門をくぐり、レテの回廊を通らなければならない。敵の本拠地に乗り込むという大掛かりな反撃の一手に相応しい、これほどわかりやすい強行突破作戦もないだろう。
 敵方と剣を交えたものも少なくない、あちらの手の内は読めている。油断はせずとも、この侵攻軍の敵ではないだろう。そのようなムードが漂っていたが、やはり向こう側としてもタダでやられるつもりはないらしい。

 天空を舞うは幻影竜。異端なる悪を浄滅する神の炎である。

 生半可な冒険者であれば脚の震えが止まらないような光景が広がっているが、覇竜領域とのコネクションがあるイレギュラーズはすぐに冷静さを取り戻す。あれは確かに竜と分類できるモンスターだろう。しかし、手心がある。真なる竜種はあのようなものではない。こちらの都合など、こちらの命など些末なものとして扱い、世界の頂点として振る舞う傲慢さがあれには感じられない。
 つまる所、竜にあって竜にあらず。ユーモラスな者は火吹きトカゲと称した。その呼称は核心をついているようで、上空より放たれる火球があちらこちらに着弾し、イレギュラーズの進軍を阻もうとしている。火を吹く生体型対空砲にして対地爆撃機の対処は急務である。
 このレテの回廊を守る幻影竜は無秩序なようで、若干の連携、行動ルーチンが感じられた。上空からの砲撃という圧倒的なアドバンテージを持ちながらこちらの深追いは行ってこない。これは無理攻めによるカウンターを恐れたものだ。そして、幻影竜の本能が導いている答えではない。このドラゴン達を使役しているものがいる、イレギュラーズはそう読んだ。
「流石はイレギュラーズ、我らの宿敵と言った所か。これ以上の探り合いは私としても趣味ではないのでね。いや結構、君たちの話など耳に入れたくもない。なので私の話だけ聞き、大人しく帰って頂ければ竜の火を無駄にしなくて済む。私はクトゥーゾフ、そうだ、このエリアの竜を任されている」
 クトゥーゾフと名乗った男は一方的にこちらへ語りかける。ほぼ間違いなく遂行者の類だろう。
「いや結構! ならばお前を倒して活路を切り開く、と言いたいのだろうが二つの理由から私はそれにNOを突きつける。一つ、私のドラゴンは私が使役しているが、私を倒したとて大人しくなる訳ではない。二つ、私は負けんと言う事だ。考えてもみたまえ、君たちの前に姿を現すという事はそういう事なのだよ。結構! 御託を並べるなという顔をしているな! それ以上は言わない方が良い、英雄ごっこに興じるのであれば、せめてもう少し格好の付いた台詞を述べなければ、死に際のSceneが台無しになってしまう。 フッ……君、演劇は好きかね? 私は大好きだ。私の舞台に二流の役者など必要ないのでね、退場してもらう」

GMコメント

●目標
 【必須】遂行者クトゥーゾフの討伐
 【努力】制空権の確保

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●ロケーション
 レテの回廊
 上空を幻影竜が飛び回っています。制空権は間違いなく向こう側にあります。

●敵
 遂行者クトゥーゾフ
 とても話の長いおじさんです。
 幻影竜を意のままに操ります。

 幻影竜  無数
 たくさん飛んでいるので全滅は難しいかもしれません。
 強力な炎の他、物理的な行動も考えられます。

  • <神の門>クトゥーゾフ・ドラゴンファイアLv:30以上完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月25日 21時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
天下無双の貴族騎士
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ルーキス・ファウン(p3p008870)
蒼光双閃
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●ネスト
「本物の竜に抉られた事のある身からすれば、この程度まだ可愛いものだ」
 『導きの双閃』ルーキス・ファウン(p3p008870)は回廊の上空を飛び交う幻影竜を4匹ほど数えた所で呟き、その作業を中断した。生物界の頂点、真なるドラゴンはこのような物量に頼る事なくこちらの数を、力を、規格外に上回るものだ。だが、竜の名を借りる火吹き蜥蜴と言えども流石に数が多い。何匹この場に存在するか、介入してくるかを読む事は馬鹿馬鹿しいと感じた。
「レグルスやそれこそジャバーウォックなんかに比べれば圧はないけど……」
 『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)も同様に幻影竜の脅威を測っている。一匹であれば何の苦もなく撃ち抜けるだろう。遂行者たちの本拠地を守る防衛装置として働くそれは途方もない群れを成している。こういった相手こそ六十八式強襲型機動魔法少女の本領を発揮し、マジカルゲレーテ・シュトラールに適したシチュエーションと言える。オニキスはこちらの出方を伺っている竜に照星を合わせた。
「演劇はわたしも好きですよ。実はですね、女子二人が絆を深めながら困難に立ち向かい、互いへの愛にきづく、というストーリーの劇をみて感動しました。クトゥーゾフ、あなたはわたしより年上に見えますので、こういうのはどう思います?古典の方がいいです? 女子同士の愛とか不埒でしょうか?」
「これはこれは、教養のありそうなお嬢さんだ」
 『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)の問いに遂行者クトゥーゾフは驚いた。ローレットという組織は何かにつけて武力で介入してくる、厄介なごろつき集団という認識しかなかったのだ。ココロを例外とするべきだと、『愛を知らぬ者』恋屍・愛無(p3p007296)の方へわざとらしい失笑を見せる。
「筋書きは悪くない。だが、観客が求めるものは美しい成功ではないのだよココロ君。その二人は死という花によって彩られなければならない。この甘美なる花を、芸術の欠片も理解できぬ猛獣のそれと混同してはいけないがね。この線引きは繊細だ……喝采のラインは私にしか引けない」
「親切心から忠告しておこう。戦闘中の長口上は舌を噛むぞ」
 愛無もいい加減に無関心のスタンスから出る事とした。クトゥーゾフからすれば愛無はこの神聖な地に足を踏み入れている事が許せないのだろうか、風当たりの強さを感じる。芸術家気取りの偽物を殴り倒す事は確定した、あとは実行に移すのみ。怪物の如きランペイジを。
「物言いが、正に三流舞台監督のソレだな……一流は結果そのもので語るものだ。それを今から教えてやろう」
「嗚呼、批評家たちの得意技だ。何も生み出せぬ凡才どもが、すぐに結果を求めてしまう。良いかね、せっかちたぬき。過程に美を組み込んでこその一流、結果だけでは味気ないものだ。私の竜が君たちを即座に焼き払ってもそれは当然の帰結だ。これは芸術に昇華させる事はできないのだ」
 『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は愛無をちらと見た。互いに察する所で、これは暴力でわからせるしかないだろうと結論づける。そして、せっかちたぬきの不名誉なオファーを断らねばならない。
「話が長いうえに少々面倒な敵が来たみたいだな」
「間を取る、て事を知らないようだ」
『先導者たらん』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)に『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がクトゥーゾフを睨む。何も考えずに戦った方が気が楽な事は確かだが、あちらの物言いを聞き流し続ける事も苦痛が伴う。
「三流の役者が多いが……私の指揮でこの舞台を紡がねばなるまい。才能のある者は足を引っ張られる。ここで地に堕ちるか、そうでないかが二流と一流の分水嶺となる。これは芸術の神が私に与えた試練なのだ!」
「……というか、俺を相手に舞台を語る? 役者ではないが俺は舞台に立つプロだよ。これが舞台だと言うならば、降りるのはお前の方だ」
 『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)があくびをもらしていた。クトゥーゾフからすると牡丹は女優としては落第点だ。がさつな口調に仕草すべてが美に反する。恵まれた容姿を持っていながら行う愚の骨頂、この女も演目に組み込む事は不可能だ。
「台詞っつう一要素でしか演劇を語れねえおっさんがよく言うぜ。てめえこそ舞台を降りな、ド三流!」
 クトゥーゾフはわざとらしい大声で陶酔する癖があったが、それを上回る声量の、牡丹の罵声によって何か言おうとした所をかき消された。
「貴様の台詞は必要ない! 出番もだ! 良いだろう、くだらぬ即興劇に付き合ってやろう」
 気付けば、幻影竜がイレギュラーズを包囲していた。

●スレイヤー
「では、演劇らしくかっこよくいかせてもらおう。さあ、遂行者よ。僕たちと、シューヴェルト・シェヴァリエとの決闘を受けてもらおうか!」
 シューヴェルトが手袋を投げ、決闘の意を示す。クトゥーゾフにとっては極めてチープな意思表示だが、愚かな観客の感性に合わせるのであれば悪くないものだ。観客はいつもこのような典型を好む。
「古風な男だ。お前は貴族か? フッ、僅かに天義の血が流れているようだが、その調子では没落でもしたと見える。ローレットの犬となり、首輪を付けられて貴族としての誇りも失ったか?」
「その評価を甘んじて受けよう。だが、僕は一人の貴族騎士としてお前を討つ。シェヴァリエ家の汚名、呪いは僕の代で晴らしてみせる」
「英雄ごっこに殉じる気かねシューヴェルト君?」
 言わせておけ、とシューヴェルトは貴族式格闘術『蒼脚』を繰り出さんと素早く接近する。クトゥーゾフは面倒くさそうに指を鳴らすと、上空の幻影竜が火を放ち、両者の間に炎の壁を発生させる。突破できない事もないだろうが、今は無闇に傷を負うべきではないだろう。シューヴェルトは飛び退いた。
「どのような芸術的な布陣を構えるかと思えば、よりにもよって円陣とは。これが芸術家様の引き出しの限界か」
 愛無が敵の位置取りを俯瞰視点で評価する。こちらを包囲しきれると思いこんでいるのか、四方八方から降り注ぐ炎弾は効果的に見えて、脆い。高度の加わった立体的な包囲と言えど、東西南北360度に竜を分散させてしまえば、面の制圧は困難でも点の突破は容易なのだ。
 愛無は無数の炎弾を受けたが、温い。温度、殺意、覚悟の全てが沸点に達していない、これは闘争の真似事だ。
「なんという傲慢な化け物だ。出番を終えても突っ立っているとは、面の皮も厚いのだな!」
「喜怒哀楽の激しさは、その感情とともに実力までも滅ぼす」
 その化け物はシェイクスピアを引用する。炎で焼く事のできない強靭な身体、そして凶悪な風貌に似合わぬ知性はクトゥーゾフに多少の戦慄が走ったようだった。
「必要ですか?」
 ココロの右手が、幻影竜の吐く火とは違う性質で燃え上がっている。人を傷つける為に放たれる悪辣なる炎との対極、不死鳥の如き希望を纏う生のエネルギー。戦いの場に似合わぬ少女は反射的とも言える速度で、次の一手を準備していたのだ。
「無用だ。気遣いには感謝する」
「感謝するのなら無用の長物も押し付けられてください」
 放っておいても問題のない傷が塞がる。どうも火に関わる事が多い一日だ。
 汰磨羈がお返しとばかりにグラビティ・ゲートを開き、絶界へと踏み込む。一連の動作は幻影竜の生体的スペックを安々と超え、個が無数を凌駕する事となる。殲光砲魔神による迎撃が行われる度に空が清浄化されていく。雲が晴れるかのように幻影竜は数を減らしていった。
「どうだ、ド三流。そろそろ、格好の付いた死に際の台詞でも思いついたか? 終演は近いぞ」
「せっかちたぬきめ。犠牲なき争いのSceneの何が盛り上がると言うのだ。竜の数匹を屠った所で調子に乗るなよ」
 クトゥーゾフは3匹の竜を呼び寄せ、交互に炎弾を放たせる事で連射銃のように攻撃へ転じた。せっかちたぬきに攻防の妙を教授してやりたい所だが、今はそれどころではない。
 早急に対処すべき対空砲、オニキスを止めなければならない。この人間砲台はこちらに少なくない犠牲を払わせたかと思えば小賢しく位置取りを変えるので幻影竜としても狙いづらい相手だ。オニキスが足を止めれば竜が死に、竜がそこを狙おうとすれば既に退避行動に移っている。これを止めねば、極めて単純なルーチンで優位性が脅かされるのだ。
「主砲に気付いたようだね。演劇のことはよくわからないけど、役者を阻害するのは健全かい?」
 クトゥーゾフの指揮のもとで放たれた連射は精度も良く、2発ほどオニキスに直撃した。ヒット・アンド・アウェイを咎めたは良いが、オニキスの受けた被害以上に、幻影竜の損失が多い。クトゥーゾフは悪態をついた。
「見下されるのは好きじゃねえ、オレがあんたらを見下ろしてやるぜ!」
  牡丹が空戦に持ち込む。高所からの爆撃で均衡を保っていたこの戦いは、牡丹という空兵が動いた事で大きく変貌する。猛スピードで領空侵犯を行った牡丹を、幻影竜たちは怒り狂いながら追い回す。クトゥーゾフの指揮下から離れた、不規則な暴動。汰磨羈やオニキスの対空砲火の中をトリッキーに飛び回る牡丹を仕留める事は至難の業だった。
「航空猟兵を舐めるなよ!」
「航空猟兵だと? お前は大鷲に追われる雀に過ぎん。演目の邪魔をするな!」
「やなこった!」
 牡丹による呪術は周囲の竜の足並みを見出し、クトゥーゾフの重視する統一感を汚した。このように演者がバラバラに動いていては、彼らのような三流に、身を落としてしまう。
「このまま神の国が全焼してくれても良いんだが、まだ仲間も戦っているんでね。鎮火させてもらおうか」
 イズマがメロディア・コンダクターを構える。普段とは違う構えで行使された魔力は大津波となり、クトゥーゾフを飲み込もうとする。幻影竜を盾にするべく呼び戻そうとするが、一番近い竜はルーキスによって斬り裂かれている。
「邪魔だったか? 俺も舞台に呼ばれていないようだったからな、こうして隅の方で自分の仕事に従事していたわけだ」
 ルーキスはそう言い捨てると、捨て身で飛びかかった幻影竜の首をはねた。
「ぐぁっ……! 火に対する水、ふん。陳腐な脚本だ……お前は許さんぞ」
「批評をどうも。陳腐な脚本に出演した気分はどうかな」
 津波に押し流され、壁に激突したクトゥーゾフは呻きながらも立ち上がる。手持ち無沙汰に尻尾で幻影竜を殴打していた愛無は、思いの外に頑丈な男だと思った。魔力によるクッションを敷いたのだろう。
「まだ立ち上がりますか。どんなに頑張っても、あなたはわたし達の前座にしかならないのです。申し訳ないですけど」
 ココロがクトゥーゾフに告げる。この戦いは冠位魔種ルスト・シファーへ迫る為の一歩でしかない。クトゥーゾフは踏破すべき前座、立ち寄る事すら惜しい障害物の一つでしかないのだ。
「自分たちが主役と思っているのか! 嗚呼、役者志望というものは何時もこうだ。身をわきまえずスポットライトを浴びたがる。私はこの国で、稀代の芸術家として名を残すだろう。冷厳なるドラゴンマスター、芸術家にしてイレギュラーズを退けた、文武両道の偉人として……」
「奇人としてなら僕の頭の片隅に覚えているかもしれないな、それも昼食を終えるまでの話だが。脳にも容量があると聞くが、僕の脳が君のような路傍の石を記憶できるかは自信がないのだ」
 愛無は落ち着いた口調で話すが、行動は熾烈だ。槍状に精製した粘膜が空を裂き、竜の喉に突き刺さる。小汚い断末魔を搾り出し、無数の竜が地に落ちる。この損害はクトゥーゾフと言えども無視できない。何より神の国を守る聖なる竜の浪費は、自分の立場すら危ういものだ。未だイレギュラーズに勝利できると信じ込んでいるクトゥーゾフは、これをどのように上へ報告するか頭を悩ませていた。
「このような戦いは許されん……! お前たちは私の指揮で踊る人形でなければならぬ、人形は私の栄光の踏み台でなければならぬのだ!」
「……黙って聞いていれば、随分と言ってくれるな。一つ言っておこう、敵を討つまでは皮算用を控える事だ」
 ルーキスが瑠璃雛菊と白百合の二刀を以て連撃を繰り出す。クトゥーゾフはとても剣士とは思えない見た目の男だが、彼の属する組織が配る怪しげな聖遺物で強化されているようだ。何の変哲もないロングソードを取り出したかと思うとルーキスに迫る勢いの剣術で二刀を止める。
「剣の心得があるとは思わなかった。だが、俺の芸には程遠いようだ」
 クトゥーゾフは基本的に竜を扱う、ロングレンジを得意とするウィザードというのが戦闘の型に当てはまるだろう。最低限の自衛能力を聖遺物で強化しているとはいえ、ショートレンジを本職とするルーキスの猛攻を付け焼き刃でいなし続ける行動は、すぐに限界に達した。ルーキスの刃がクトゥーゾフの胸を浅く裂いた。幻影竜の介入がなければもう少し踏み込めていただろう。
 
 クアドラプルバースト、シーケンス開始。砲身4基展開。ジェネレーター接続。魔力回路全基同調。バレル固定。超高圧縮魔力充填完了。マジカル☆アハトアハト・クアドラプルバースト―――発射(フォイア)!

 クトゥーゾフからすると呪文にしか聞こえない、そして呪文の根源すら理解できない声が聞こえた。この状況で何かを撃ち込まれでもしたら、避ける自信はなかった。
「何をするつもりだ! やめろ!!」
 しかし、幻影竜の多くを犠牲にする形でクトゥーゾフは難を免れる。オニキスの放ったマジカル☆アハトアハトなる異質な光が空を吹き飛ばし、破壊し、穴を開けるのではないかという勢いで幻影竜を爆殺したのだ。
 クトゥーゾフの支配下にある幻影竜は残り少ない。レテの回廊は広く、全ての幻影竜を管理している訳でもないようで、このような窮地にあろうとも遥か彼方に見える竜たちは増援に駆けつける事もなかった。
「流石に彼処までは狙えないけど、この一帯は制圧したと判断して良いかな? 放熱を開始するよ」
「おいこら! オレじゃなかったら巻き込まれてたぞ!」
 牡丹が上空から人間砲台にぷんぷんと文句を飛ばす。
「何時かは君の変速飛行も捉えられるようにチューニングしたい所だね。実際にはやらないが」
 汰磨羈が瀕死の幻影竜から霊力を抽出し、自身に回帰させる。竜は完全に息の根を止められた上に、汰磨羈は速やかにコンディションを回復させて行く。長期戦になるとクトゥーゾフ側にできる事は少なく、頼みの幻影竜も片手で数えれるほどしか残っていない。
「無駄にはできんのでな。慈悲という程ではないが、御主らの力は無駄にはせぬぞ」
 しんみりと、空を見上げれば残った幻影竜がココロにほたてぱんちを繰り出されていた。623623+P同時押しらしい。何だそれは。
 何度かココロがしゃがみパンチに化けた後に繰り出された謎のジャンピングアッパーは、見た目からは想像できないおぞましい威力を発揮していたようだが、これで空の脅威は壊滅した。残るはクトゥーゾフのみである。
「ココロよ、あの動作は必要なのか?」
「トレモが望まれます。それよりも、最後まで気を抜かず戦いましょう」
「そ、そうだな……」

 イズマが聖王、光輝の魔術を以てクトゥーゾフの動きを阻害する。次々と繰り出されるイレギュラーズの猛攻を一人で受ける事は不可能だ。
「さぁどうした! 悪あがきはお前の言う所のオペラではみっともない行為じゃないか!?」
「この馬鹿どもがっ! どこまで私の舞台を邪魔すれば気が済むというのか! 天才はいつも疎まれる、このような馬鹿どもに!」
 クトゥーゾフが剣でなぎ払おうにも身体が動かない。聖遺物の効力も尽きようとしている。
「みんな、ここは僕にやらせてくれないか。手袋を投げた手前、正当な形式でこの戦いを終わらせたい」
「逃しそうになったらほたてぱんちしますからね」
 汰磨羈にはほたてぱんちの動作の必要性が最後まで理解できなかった。
「推奨される事ではないが、僕は構わない事にしよう」
「負けんなよ!」
 シューヴェルトが厄刀『魔応』を握り、クトゥーゾフの前に立つ。イズマや愛無のような理性派からすると、一対一の決闘は受け入れがたくもある提案だったが、ここからクトゥーゾフが逆転の一手を潜めているとも考え辛いのでひとまず静観する事とした。
「ふん、この決闘に何の正当性があるかは知らんが。まあいい、この後に私が倒れようとも……芸術を理解できぬ愚か者を道連れにする事で、この世から凡愚が一人消える事になる。これは美を追求した者の……崇高なる最期だ。フッ、フハハハッ!」
「みんなを待たせる事はできない。始めよう、クトゥーゾフ」
 
シューヴェルトの刀とクトゥーゾフのロングソードの先端が触れ合う。かちりという音を機にクトゥーゾフが突きを繰り出し、それを魔応の刀身が横に払う。クトゥーゾフが体勢を整えて振り上げるよりも速く、手首のスナップを効かせた刀の横薙ぎがクトゥーゾフの首を裂いた。
「異国の武器と思えば……真っ当な剣術を身に付け……か」
「決闘を挑んだ身だ。これくらいは出来なければ、相手に失礼だ」

レテの回廊における、幻影竜の脅威が一つ減った

成否

成功

MVP

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました!

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