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シナリオ詳細

<神の門>神の楽隊

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 テュリム大神殿。
 礼拝堂や、長く美しい回廊、神殿内の中庭には花が季節外れに咲き誇っている。
 神の国で最も重要とされている神殿だ。上位に属する遂行者や指導者の居所でもあり、祈りの地でもある。
 その中のひとつ、遂行者アルヴァエルが管理する音楽堂のステージから、音楽で主や御使いたちを支援するため、いままさにオーケストラ編成の楽隊が戦場へ出立しようとしていた。
 楽隊を指揮するのは作曲者であり指揮者でもある『致命者』と、『偽・不朽たる恩寵』を授かりしピアノを弾く『致命者』の2体。
「君まで戦場に出る必要はない」
「バカをいってはいけないよ。指揮者がいないオーケストラの音なんて、割れ鐘をでたらめに鳴らしているようなものじゃないか。君はアルヴァエルさまに恥をかかせる気かい?」
「私のピアノがリードする」
 指揮者は話にならないとばかりに、つぎはぎされた首を振った。
「そんなこといっちゃって。ピアノと一緒に寝返る気じゃないのかい? アルヴァエルさまに殺されて、傀儡同然にされたことを怨んでるんだろ、本当は」
 まさか、と否定するピアニストの声に力はなかった。
 顔には諦めの色が強く滲んでいる。
 いまさら……。
 ならばこのピアノと共に、美しい音を奏でる道具であり続けよう。
「ま、僕はどうでもいいけどね。戦場に赴けば、新しい曲のイメージも湧くだろうし、やっぱり僕も行くよ」
 指揮者が銀のタクトを颯爽と振り上げる。
「僕に続き給え諸君、神の御声と御意思を美しい調べに変えて、力を同志に届けようではないか!」
 影の天使が聖痕の刻まれた黒光りするグランドピアノを担ぎ上げる。
 指揮者を先頭に、バイオリンやトランペット、さまざまな影の楽器を鳴らす天使たちが隊列を組んで音楽堂を出ていく。


 先日、預言者ツロによる直接オファーがイレギュラーズにあったことは記憶に新しかろう。
 ならばご存じか。
 彼の者の言葉に応じた『2人のイレギュラーズ』がローレットから離反し、あとに残った幾人かが『神の国』にて行われた茶会で、『身の安全』を保証されながらも、『聖女の薔薇庭園』にて囚われたままになっていることを。
 どうする?
 無論、仲間を助けに行く、とあなたは力強く答えてくれるに違いない。
 では、どうやって『神の国』へ?
 『バビロンの断罪者』の一員たるネロはこう言った。
 帰還したイレギュラーズらが持っている『招待状』を使えば、聖女の薔薇庭園の道を辿ることが出来る、と。
 『招待状』は、教皇たるシェアキム・ロッド・フォン・フェネスト六世にも届けられていた。これら数通の『招待状』を駆使すれば、『神の国』に至る神秘の路の解析精度がよりあがるであろう。
 道は間もなく開く。
 ――ただし。
 下手に人員を投入すれば、救出に向かった者、全ての魂が侵されかねない。それが問題だった。

「つまり、おまえら精鋭の力が必要というわけさ」
 『未解決事件を追う者』クルール・ルネ・シモン(p3n000025)が誇らしげに言い放つ。
 もともと預言者ツロから招待されていたイレギュラーズであれば、招致の力が働けど道をなんとかこじ開け続けることが出来る可能性がある。
 なおかつ、滅びのアークにも害されにくい『可能性(パンドラ)』持ちであれば、簡単に魂を侵されることもないだろう、と。
「リンバスシティより神の国へと攻め入り、薔薇庭園に滞在するイレギュラーズの帰路を確保する。今回、これがローレットにとっての『優先事項』だ。お前たちは先行した仲間がこじ開けた『審判の門』を抜け、さらにその奥へ進め」
 イレギュラーズに同行する騎士、リンツァトルテ・コンフィズリーは告げる。
 相手は傲慢の魔種とその配下。こちらを侮っているうちに喉元まで攻め入り、急所を狙うべきだと。
「此度、神の国への道を確かなものとすれば必ずしやあの男が姿を現すはずだ」
 リンツァトルテ・コンフィズリーがいうあの男とは、『冠位魔種』ルスト・シファーのこと。かの魔種を表舞台に引き摺り出すためにも、この作戦は成功させなくてはならない。
 クルールは居並ぶイレギュラーズに檄を飛ばす。
「気張っていけ!」

GMコメント

●成功条件
・『致命者』の2体のうち、どちらか一体の撃破。
※ピアニストが弾くピアノは『偽・不朽たる恩寵』(インコラプティブル・セブンス・ホール)です。
過去の戦いで、『偽・不朽たる恩寵』を発動し、周りの者をその音の波で吹き飛ばしています。
また楽員(影の天使)たちに囲まれており、ピアニストに近づくのは困難でしょう。

●場所
『テュリム大神殿』の大廊下です。
 楽隊は『審判の門』に向かっている途中で、やってきたイレギュラーズと鉢合わせしました。
 ※この大神殿内には『原罪の呼び声』が響いています。

●敵、『致命者』ピアニスト
アルヴァエルに殺された、海洋のさる青年貴族アルトゥール・ルーシュタインに似ているようですが……。
何か胸に埋め込まれています。
攻撃すると、狂気の叫び声をあげます。
アルヴァエルの聖痕が刻まれた『触媒』、グランドピアノをひいて攻撃してきます。

●敵、『致命者』指揮者
アルヴァエルお抱えの作曲家でもあります。
『致命者』になった経緯は不明。
20代後半の青髪の青年。死んだのはずいぶん昔のことのようです。
銀のタクトを振るい、近づく者を魅了、惑わせます。

●敵、『影の天使』……複数
 影の楽器を演奏します。
 彼らの演奏には、味方の『回復』や『防御力アップ』、『攻撃力アップ』の効果があるようです。
 影の楽器を慣らし、質量のある音をぶつけて攻撃することもあります。

●その他
このシナリオには『遂行者』アルヴァエルは登場しません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <神の門>神の楽隊完了
  • GM名そうすけ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月26日 22時11分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

奥州 一悟(p3p000194)
彷徨う駿馬
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ


 荘厳華麗な装飾が施された大廊下を足音高く駆けながら、『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)から審判の門でアルヴァエルと交戦したときのことを聞いていた。
「因縁のピアニストがこの先の神殿にいる?」
「そうなんだ。アルヴァエルは、ピアニストと楽団はテュリム大神殿にいるといった」
  沙耶は審判の門前で大切な人と一時的に別れ、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)や『彷徨う駿馬』奥州 一悟(p3p000194)とともに大神殿の奥へ奥へと転進していた。
 ベルナルドたちとは 途中で合流だ。
「私たちに勝ったら祝賀会を開くとかなんとかほざいていたが……きっと無理やり演奏をさせるつもりだったんだな」
「芸術ってのは作り手の魂が込められて初めて作品として完成するものだ。奏でる側も辛いだろうな。望まぬ演奏なら猶更……」
 前を走るイズマの背へ視線を向ける。
  ベルナルドの視線を感じたイズマが、ともに走る仲間たちに聞こえるよう力強く宣言した。
「死後まで苦しませ縛り付ける音楽は、今度こそ終わりにするぞ! 音を楽しむ音楽は、何よりも自由であるべきなんだ」
 おう、と一悟が応える。
「アルトゥールさんを今度こそアルヴァエルから解放してあげようぜ! それにしても敵はどこだ? 門をこえてここに入ってから影の天使を一体も見かけていないぞ」
「確かに変だな」
 大廊下の石柱は、細かな細工の中に不気味なシンボルが刻み込まれており、彫刻の一部には魅惑的でありながら、何か邪悪な存在の姿が垣間見える。高いアーチ型の天井の隅には闇がうずくまり、時折、怪しげな影が揺れ、不可解な音を奏でている。
 『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は、目深にかぶったフードの下で耳をそばだてた。
(「これは『原罪の呼び声』か……この先に魔種が……?」)
 その声は冷たく、不協和で聞く者の心を侵食し、理性を蝕む。幽闇から聞こえる原罪の叫び声は、苦痛や絶望、孤独の深淵を反映している。
  アーマデルは恋人である『君を全肯定』冬越 弾正(p3p007105)の身と心を密かに案じた。
 弾正はまだ元相棒の死を乗り越えていない。失われた魂の救済を、強く強く求めている。原罪の叫び声に絡め取られなければいいが……。
 長頼を失った後悔はアーマデルにもある。
(「だが俺は弾正を支えなければならない。彼が揺らぎそうになったときは、声をかけて引き戻す。それが俺の贖罪であり、使命だ」)
 そんなアーマデルの心を知ってか知らずか、弾正が怒りに拳を固める。
「俺はピアニストの撃破を最優先する。アルトゥール殿に安らかなる死の救済を。それこそがイーゼラー教の信徒である俺の役目だ!」
 手伝います、と『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)。
「楽団いうからには、可哀想なピアニスト以外にもようさん敵がおるんやろ。俺はみんなが気持ちよく戦うために、頑張ってそれ以外のザコを片す。まあ、最初は封殺を範囲でばら撒いて足止めかな」
 事前の情報によれば、影の天使たちは恐らく楽器を演奏して、聞く者にBSを与える音で攻撃するようだ。足止めにどれほど効果があるかは怪しいが、少なくともピアニストまでの道を作る役には立つだろう。
  彩陽は首を斜め後ろへ向けた。
 『狼救急便』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)に、「アンタはどうする?」と声をかける。
「え、あたし?」
 イレギュラーズたちは季節外れの花畑の横を通り過ぎる。
 花壇に咲く美しい花々の香りは甘美でありながら、どこか不快だ。
 ウルズは愛らしい鼻に皺をよせつつ、「あたしはどっちでも良いから先輩たちの望むように動くだけっす!」といった。
 自慢の足を活かして戦場を駆けまわり、幅広いサポートを届けると請け負う。
 そのときだ。イズマの耳が楽器を調律する音を聞きつけた。
 大廊下の四つ辻を全速力のまま右に折れる。
 ――と。
「おやぁ? まさかと思うけど、アルヴァエルさまは君たちに審判の門を突破されてしまったのかい?」


「いててっ!」
 一悟は急に足を止めて立ち止まったイズマの背にぶつかった。後続のベルナルド、 沙耶と次々に後ろからぶつかられる。
「おい、なにやってんだ!」と沙耶。
 ウサギに蹴られてまだ赤い鼻を、またも手で覆う。
「オレは悪くない、イズマが急に止まるから――」
 一悟はイズマの横を抜けて固まった。
「青い髪……音楽家……んん?」
「どうした一悟。前に何があるんだ」
  後ろから来るアーマデルたちに手のひらを向けて止まるよう指示を出していたベルナルドが、イズマの肩を向こう側を見て固まる。
 ベルナルドの問いを無視して、一悟は前方にいる指揮棒を持つ男のにこやかな顔と、イズマの強張った顔を交互に見比べる。
 追いついた他の仲間たちも、前方をみてぽかんとし、次いで一悟と同じように2人の顔を見比べた。
 ウルズが小声で彩陽に話しかける。
「瓜二つとはいえないっすけど、よく似てるっすね。イズマさんの親戚かなにかっすかね?」
「俺に聞かれても困るわ」
 蓮後のひそひそ声を無視して、イズマは一歩前に進み出た。
「青髪に銀のタクトの指揮者だと……? 何者だ!」
「失礼だな。人に素性を問うときは、まず自ら名乗るべきだと教えられていないのかい?」
「……。俺はイズマ。イズマ・トーティスだ」
「ふうん。そうか、トーティスか。随分ご無沙汰しているうちに名家も落ちたものだね」
 おい、と平蜘蛛を構えた弾正が吼える。
「次は貴殿の番だろ。さっさと名乗れ」
 ヒートアップする弾正の腕を、アーマデルがそっと取った。
 指揮者はふふっと笑った。イレギュラーズたちに恭しく腰を折って名乗る。
「僕はイズマ。ファミリーネーム? 遥か昔にポイっと捨てちゃったよ」
 彩陽が呆れたように軽く息を吹きあげ、「なめてんな」と言った。
「ま、どうでもいいけど、そこ退いて。俺たちはアンタの後ろにいるピアニストに用がある」
「はいどうぞ、なーんていうと思った? キミたちの方こそどいてくれないかな。どうやらアルヴァエルさまは撤退しちゃったようだけど、ほかの執行者さまたちはまだ頑張っているんだろ? なら音楽で応援しなきゃね」
 指揮者がさっと銀の指揮棒を振り上げる。
 が、ベルナルドの方が早かった。
 蒼穹の絵筆で素早くエレキギターを描き、構える。
「荘厳なオーケストラも悪くないが、そればかりじゃ飽きるだろ? これが俺のストリートビート。ロックな一撃を喰らいやがれ!」
 ベルナルドがギターを引き鳴らすと、具現化されたエレキギターから漆黒のエネルギーが放出され、指揮者たちの前に広がった。根源的な混沌の力を具現化し、広大な領域に広がっていく波紋を生み出す。
 指揮者のすぐ後ろに控えていた影の天使の楽団員の数体が、楽器を演奏する間もなく混沌の力に押しつぶされ、汚れた泥に姿を変えた。
「キミ、なかなかやるね! でも、本業は画家だろ? 無理せず絵で勝負した方がいいんじゃないかい」
「だからなんだ。俺は絵画も音楽も、全力で取り組んでいる!」
 ベルナルドの情熱に、指揮者は冷笑で答えた。
「ではでは、お返しに僕たちの演奏をお聞かせしよう」
 銀の指揮棒にあわせて、アルトゥールが鍵盤に指を踊らせる。ピアノの静かで不気味な音色が戦場に広がり、緊張感がもたらされた。
 楽曲はたちまちのうちに力強く高揚し、漆黒の弦楽器、冷徹な金管楽器、死者の鼓動を思わせるドラムが鳴り響く。
 イレギュラーズたちはその音楽に圧倒された。
「く……。作戦変更だ。俺は指揮者を押さえてその正体を探る。ベルナルドさん、バックアップを頼む。彩陽さんとウルズさんはそのまま遊撃軍として動いて。一悟さんと弾正さん、アーマデルさん、沙耶さんはアルトゥールさんを頼む!」


 ベルナルドとウルズが初演で仲間につけられたBSを剥がしとる。
 弾正は体が軽くなってすぐに、ベルナルドに無響和音の楔を刺した。ウルズが伝令役も買ってでてくれているが、保険として通信手段は持っておきたかったのだ。
 仲間たちが回復をうけ、体制を整えているうちに、彩陽は広く戦場を見渡せる位置へ下がった。
 指揮者とその周辺にいる楽団員を攻撃に巻きこめる算段がつくと、剔地夕星に穿天明星の矢をつがえつつ、ひょうひょうと ジャミル・タクティールを詠唱する。
「闇を穿つ明の明星。地を剔り、敵を封じ、風を切るその音で美しき恐怖を奏でる」
 彩陽は矢を放った。
 その瞬間、矢が空間を歪め、影の天使たちの足を縛りつける。
「まだまだ」
 彩陽は次々と矢を放ち、戦場を一時的にではあるが支配した。
 動きを止めた影の天使たちの間に、聖紋がつけられたグランドピアノとそれを苦し気な顔で弾くアルトゥールの元までの道が朧げに浮かび上がる。
「いまだ、いけ!」
 おう、と勇ましく声をあげて一悟が走りだす。沙耶、弾正、アーマデルも後に続いた。
 進路を阻もうとした指揮者をイズマがメロディア・コンダクターを激しく振るって牽制する。
「冷たき音の刃。遠くの心。引き寄せよ距離の壁、彼の者の心を我のものに! 」
 一瞬の沈黙の後、冷たく鋭い音が響き渡った。
 銀のタクトを振りあげた指揮者の心を凍りつかせると同時に、注意をイズマに引き寄せる。
「相手を取り違えるな。俺が相手だ! トーティス家を侮辱し、なおかつ俺の名を騙る不埒な奴。この手で正体を暴いてやる」
 邪魔をされたことに怒った指揮者がイズマを睨みつける。
「つくづく失礼だね、キミは。イズマという名は僕が最初だよ。オリジナルは僕なのさ。もっとも、家系図から僕の存在は消されているから、確認はできないだろうけどね」
「まさか貴方はトーティスなのか!?」
「さあね。忘れた」
 イズマの目に動揺が走る。
「正直に答えてくれ、ピアノのセレナーデにこの楽団の曲……貴方の作品か?」
 指揮者は、そうだよ、と不遜な態度で答えた。
「では、名がイズマというのは嘘で、本当は『イライザ』を書いた――」
「『イライザ』? ああ、違う違う。あれは僕じゃない。なんで僕が自分の名前で嘘をつかなきゃなんないのさ。あれはベルリオ君の作品だよ」
 イズマは指揮者に気取られないよう、薄く息を吐き出した。
 いまここで魔種を相手に戦えるか、といえばキツイ。審判の門からの連戦であることを差し引いても。
 まるでイズマの考えを読みとったように、指揮者が煽ってくる。
「彼、魔種になっちゃったんだって? くっ、くくく……トーティスってさ、ほんと、音楽に呪われた家系だよね。ま、彼は僕のことを知らないだろうし、僕も彼に興味ないけど」
 ベルナルドが再び絵筆を振るう。
「ペラペラとよくまわる舌だな。音楽家なら音楽で語ったらどうだ」
 指揮者は放たれたロックな音弾を銀のタクトで阻むも、しっかりとダメージは喰らって体を揺らした。
 が、すぐに持ち直して微笑む。
「ち、大して効いてないな」
「指揮者は体力勝負だからね。あ、ちなみに作曲もなかなか体力を使うんだよ」
「フィジカル自慢っすか。よゆーぶっこいでいると痛い目にあうっすよ。気づいてないようだから教えてあげるっす。あたしと彩陽先輩、それに沙耶先輩の3人で楽団員を半減以下したっすよ」
 半減以下というのは相手の動揺を誘うためについた嘘だが、ウルズは指揮者やピアニストを守る影の天使たちの数体を、彩陽たちと協力してボコボコのコテンパンにのしていた。
 弾正が、異形創神で影の天使たちが演奏する楽曲を分析、回避に繋げていたことも大きい。
 指揮者周りにいたっては全滅させている。
「――ということで、正義の鉄槌を喰らうっす!」
 いい気になっておしゃべりに興じているあいだに孤立した指揮者に、戦甲「烈華」を巻いた拳をチャカポコ見舞う。
「だから~、無駄だって。いうことききなよ、ね?」
 ウルズの目の前で指揮者が銀のタクトを振るう。
 と、ウルズの目が虚ろになった。
「ウルズさん?」
「ウルズ!!」
 振り返ったウルズが今度は仲間たちに向かって拳を振り上げる。
 魔法抵抗が高いはずのウルズが魅入られてしまったのは、銀のタクトが秘める能力のせいなのか。それとも――。
「ウルズは俺に任せろ」
 ベルナルドがすかさずクェーサーアナライズを唱える。
 彩陽が遠くから、指揮者のタクトを持つ腕を射抜いた。
「よくもやってくれたね!」
 指揮者は銀のタクトを叩きつけるように、激しく振るった。目に見えぬ音の圧が大理石の床を削りながら迫ってくる。
 イズマは音の壁を断ち切るようにメロディア・コンダクターを鋭く振るった。


「ウルズ君、あっちは?」
 沙耶は敵の間を抜けて伝令にやってきたウルズに、向こう側の状況を訊ねた。
 指揮者のみを残して周囲にいた影の天使が一層されたことを知り、他の3人に伝える。
「あっちはあのすかした指揮者だけになった。こつちも気合を入れていくぞ!」
 彩陽が初手に放ったジャミル・タクティールによって、沙耶たちは敵陣の中央まで楽々と突破。
 ピアニストとビアノを守るように立ちはだかった影の天使たちを、後ろに残してきたものたちとまとめて一悟が業火の渦で焼き払い、敵陣の分断に成功していた。
 沙耶が影の天使の天使たちを煽って引きつけ、ピアニストとビアノから引き離す。
「夜空を駆けるほうき星、怪盗リンネ推参! 影出てきた天使たちよ。君たちが出す音は軽薄で退屈だ。欠伸がでる」
 演奏を貶された影の天使たちは案の定、挑発にのって逃げる沙耶を追いかけていく。
「怪盗の逃げ足に勝てるもんか。追いつきたかったらその重そうな楽器を捨てたらどうだ?」
 提案を思案するかのように足を止めた影の天使たちのど真ん中に、自己回復を済ませたばかりの一悟が飛び込んできた。
「捨てても追いつけないぜ。なぜなら今からオレがお前たちを焼き払うからな!」
 一悟を中心に炎が渦巻き、影の天使たちを焼く。
 崩れながら飛ぶ灰の向こうでは、アーマデルが蛇銃剣と蛇鞭剣をクロスさせ、沙耶の挑発に乗らなかった影の天使たちの排除にかかる。
「彼岸と此岸の間に生じし赤き果実よ。我が敵に忘却をもたらし、猛毒の炎を燃え上がらせん」
 アーマデルの周りに忘却の川の水面よりも美しい赤色の霧が立ちあがり、敵の喉元を包み込んだ。瞬く間に、猛毒の炎が敵の体を焼き尽くす。
 その時である。
 諦めを孕んだ旋律が、冷たく空気を裂きながら響き渡った。
 ピアノの弦から滴るような音は、まるで心の闇を剖開するかのように奏でられていた。
 曲は激しさを増していく。ピアニストの指は鍵盤を叩くたびに、刃物のような音がアーマデルと、行動を共にしていた弾正を切り刻む。
 弾正は唇を強くかみしめた。
 肉体の痛みに耐えるためではなく、心の痛みに耐えるためだ。
(「嗚呼、忘れてなるものか。救いきれなかった悔しさを!」)
 あんなことは二度とあってはならない。
「アルトゥール殿に安らかなる死の救済を。それこそがイーゼラー教の信徒である俺の役目だ!」
 危機を察して鍵盤を強く叩こうとしたピアニストを、沙耶が黒顎魔王を放って牽制する。
「この前は素晴らしい演奏をどうもありがとう、だけど……また逃げられるわけにはいかないんでな」
 弾正はアーマデルを振り返らない。
 アーマデルは弾正に声をかけない。
 それでも――互いに互いを深く理解し、通じ合っているからこそ、阿吽の呼吸で攻撃を合わせられる。
「この一撃に俺たちの覚悟と誇り、そして音楽への敬意を込める! 」
 アーマデルが英霊残響でピアニストごとピアノを刻むような音を奏でる中、弾正が裂帛の気合を発し、鋭い斬手を繰り出す。
 竜鱗すら断ち切る一撃は、未練の結晶が奏でる音色を纏って光を放ち、空間を切り裂きながら飛んで、執行者の聖紋か刻まれたピアノを粉砕した。
 椅子から転げ落ちたピアニスト――アルトゥールに上空から落下してきた一悟が馬乗りになる。
「アルトゥールさん、ごめん! アルヴァエルはオレたちが必ず倒す、約束だ!」
 一悟は燃える拳をまっすぐ、何か埋め込まれているアルトゥールの胸に突き落とす。
 胸に沈み込んだ一悟の腕が、自身の発する炎とはまた別の炎に一瞬包まれる。
(「……なんだ、これ? 胸に埋め込まれていたのは……紙きれ、なのか?」)
 アルトゥールは穏やかな笑みを浮かべ、灰が風に崩されるようにして消えていった。

 イズマは鋼鉄の腕で指揮者の銀のタクトを受けとめながら、アルトゥールの冥福を祈った。
「素敵な演奏をありがとう。もう苦しむ事は無い、安心して眠ってくれ」
 本当は自らの手でアルヴァエルの呪いから解放してあげたかったのだが……。
「あちゃー。ピアノを壊されちゃったか。アルヴァエルさま、怒るだろうな。ま、でも、紋が刻まれたオモチャはあれだけじゃないしね」
 指揮者は横手から音を超える速さでとんできたベルナルドの光拳を、危機一髪、ギリギリのところで後ろへとんでかわした。
「僕はここで失礼するよ」
 天に向けた銀のタクトをくるりと回し、光の輪を作る。
「逃がない」
 彩陽が放った矢が刺さる前に、指揮者は下りてきた光の輪をくぐって姿を消した。

 ――残念。でも、また会えるかもね。

成否

成功

MVP

冬越 弾正(p3p007105)
終音

状態異常

なし

あとがき

みなさんの活躍によってアルヴァエルに囚われていたアルトゥールは解放され、魂は救われました。
指揮者は銀のタクトに秘められた力を使って逃げてしまいましたが、彼とはまたどこかで戦うかもしれません。
その正体についても不明のままですが、指揮者が自身について語ったことはどこまで信じていいのか怪しいものです。
MVPは信念をもってピアノを破壊した彼に。

ご参加ありがとうございました。

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