PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ゴーストマリッジに祝福を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

祝福あれ

●誰がために鐘は鳴る
 ――ゴォンゴォンゴォン。
 心寂れた廃教会に鐘が鳴った。
 ずっと昔に尖塔は朽ちて無く、鐘すらもとうに落ちたというのに。
 ――ゴォンゴォンゴォン。
 毎年この10月2日には必ず鐘が鳴るのだが、それを聞く者は居ない。既に廃教会の周辺に人は住んでおらず、教会が捨てられてからどれだけ経過したのかもわからない。
 毎年、毎年、鐘が鳴る。祝福の鐘が――祝福が成就されなくて。
 今年もまた、一組の幸せになるはずだった男女が襲われるのだ。
 奪う者も奪われる者も、既にその身はありはしないのに。
 毎年、毎年――死してなお惨劇は繰り返される。

 昔、その教会の近辺に小さな村が合った頃、一組のうら若い恋人たちが居た。その恋人たちは両親から結婚を反対されていたため、静かに準備を重ねて深夜に村外れの森の中の教会での挙式を計画し、若い村人たちはみな新郎新婦の味方だったため新婦が家から抜け出すのも手伝ってくれた。
 家を抜け出して、森の中を友人たちとともに教会へ向かう。大人たちにバレてしまわないように、悪戯が成功した時のようなくすくすとした笑いを抑えながら、若者たちはみな晴れやかな心と表情だった。森に闇の帳が降りていても、新郎新婦にとっては小さな星あかりさえ祝福してくれているような心地であったことだろう。
 神父は流石に首を縦には振ってはくれなかったが、場所の提供には応じてくれた。神父の代わりは友人たちがするといい、彼等は随分と前から文言の練習をしてくれていた。
『これから幸せになる』
 未来ある若いふたりは、そう信じてやまなかった。
 ――しかし、悲劇が起きた。
 誓いの口吻を送り合うタイミングで、教会の扉が揺れた。
 大人たちが気付いて来たのかも知れないと友人たちが参列席から立ち上がり、扉を抑えに行った。「今のうちに誓いを済ませちまえよ」なんて笑って。
 扉を抑えに行った友人たちが、扉とともに切り裂かれた。
 広がる赤に、響く悲鳴。
 誰かが逃げろと言った。だが、たったひとつの出入り口には怪物がいる。
 教会の扉を破って侵入したソレは、女の血肉が好きだった。獲物を定めると真っ直ぐに新婦へと凶悪な鉤爪のついた腕を伸ばし、純白を赤に染めた。茫然自失している新郎の前で、ゴリゴリと美味そうに咀嚼した。
 幸せになれる日だった。それが全て、絶望と赤に染まった。
 朝になり、惨状を神父と村人たちが知った。村の未来ある若者たちが全て死してしまった村人たちは嘆き、冒険者に怪物討伐を依頼し――そうして廃村となったのだった。

●死せる新郎新婦へ祝福を
「毎年、挙式が行われるんだ」
 挙式が行われ、そうして冒険者に討伐されたはずの怪物が現れる。
 どちらも生きては居ないのだけれどねと肩を竦めた劉・雨泽(p3n000218)は「どちらも囚われ続けているのだろう」と小さく零した。
「怪談として聞いたんだけれど、どうやら本当のことらしいんだ」
 雨泽は昨年確認しにいき、そうして今年「そろそろだから」とあなたたちに声を掛けたようだ。
「結婚式だからさ、どうせなら華やかにしてあげたいし」
 怪物の残り滓を倒すくらいなら雨泽ひとりでも出来ただろう。けれど昨年雨泽が確認した時には、既に村の若者たちの魂はそこにはなかった。怪物の残滓を倒せば、新郎新婦の魂は抜け出せるだろう。だが、誰にも祝われずに成婚をするだなんて、そんなのは悲しすぎる。
「どうかな、参列者とか……あとブライズメイドとか? そういうのをやって貰えると嬉しいな」
 ブライズメイドとは、練達辺りだと花嫁のサポートをする介添え人だ。だが、元々は結婚するカップルをねたんでやってくる悪魔に花嫁が取り憑かれないよう、花嫁のような華やかなドレスを着て悪魔の目を惑わすためにある。
 真っ直ぐに怪物は花嫁を狙うから、彼女の直ぐ側で花嫁のふりをして囮となれる。またブライズメイドで無くとも、カップルを増やして花嫁を増やしてしまっても良い。
「僕は女装とかはしないけど、パンツスタイルのドレスを着たっていいし……」
 怪物の残滓を欺ければいいだけだ。見た目がドレスであれば問題ない。
「花嫁に傷ひとつ付けず、幸せな形で送ってあげようよ」
 そう言った雨泽は徐ろに練達のレンタルドレスのカタログを広げた。
 ――さあ、どれにする?

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。

●シナリオについて
 このシナリオの時間軸(決行日)は10月2日になります。
 前日に募集を掛け、翌日に皆で向かい、準備をしたりします。
 時間にならないと現れないため、霊魂疎通等に反応はありません。

●挙式前に出来ること
 『教会の清掃』
 遠くから見ると形は教会っぽく見えますが、ボロボロです。ほぼ瓦礫と呼んでいい状態ですし、参列席もとっくに崩れています。祭壇等も同様です。

 『ブライズメイドや参列するためのドレス等に着替える』
 現場が森の中なので、汚さないためにも現地で着替えることになるでしょう。汚れてもいいぜ!って方は着て来ても大丈夫です。(レンタルしたものは汚したら弁償です!)
 メイクとかヘアセットとかも自分でやらねばなりません。(雨泽が自分のこと以外は得意なので暇そうだったら手伝わせて大丈夫です。)

●挙式中に出来ること
 ★ブライズメイド
 ★参列
 ★神父役(1名まで/希望者が居なければ雨泽がやります)
 ・おとりカップル(2組まで/PCor関係者の相手が必要です)

 ※ブライズメイドやおとりカップル等に性別を懸念する必要はありません。

●エネミー:魔獣の残滓
 相当花嫁が美味しかったのでしょうね。
 倒された怪物(魔獣)の魂の残り滓です。毎年現れて新婦を喰らい、新郎を喰らいます。食べ終えるとフッと消えます。
 陽の気に弱いです。残滓であるため、えいやーすると倒せます。

●新郎新婦の霊魂
 新郎:トニ 新婦:アンジュ
 結婚が成就するまで囚われ続けている哀れな魂。永遠に『その日』を繰り返しており、魔獣の残滓が無くなるまでそれは続きます。彼等は『その日』にいるため、イレギュラーズたちが何かをしても反応しません。
 23時頃になると教会内の扉(があった場所)に現れます。幸せそうな笑顔を浮かべており、彼等の視界には『その日』に居た友人たちが映っているのでしょう。時折参列者へはにかんだ笑みを向けながらゆっくりと祭壇へと歩んでいきます。
 成婚すると成仏します。消える寸前、きっと彼等にはあなたたちの姿が見えることでしょう。

●殺された若者たちの魂
 既に居ないようです。

●劉・雨泽(p3n000218)
 同行しています。やってほしいことがあればプレイングで指定してください。
 基本的に雨泽は★がついている項目に希望者がいなければそれをやります。
『神父>参列>ブライズメイド』です。全てが埋まっている状態でしたら、これをやって欲しい!にお応えできます。

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい、関係者さんと参列したい、等ありましたらどうぞ。
 可能な範囲でお応えいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。


役割
 挙式中のあなたの役割はどれですか?

【1】ブライズメイド


【2】参列者


【3】神父
1名のみ。話し合ってください。

【4】おとりカップル
PC・NPCもしくは関係者のお相手様が必要です。
偽装でOKです。

  • ゴーストマリッジに祝福を完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年10月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
耀 澄恋(p3p009412)
六道の底からあなたを想う
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
ピリア(p3p010939)
欠けない月

サポートNPC一覧(1人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草

リプレイ

●一夜限りの奇跡を此処へ
「さあ皆様、張り切ってお掃除をいたしましょう!」
 人の寄り付かない薄暗い森に明るい声が響き、カラスたちがグワーグワー鳴きながら飛び立った。
 プロ花嫁! ゆえにここは戦場!
 素敵な結婚式にするために、プロ花嫁『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)は一切の手を抜く気はないと打ち掛けを脱ぎ、袖をたすき掛けにして挑んでいる。
「瓦礫はか弱い私におまかせを」
 大きな瓦礫もうんせと澄恋が持ち上げれば、『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)は自身の腕と彼女の腕を見比べた。プロの花嫁はあれが出来て当たり前だと言うのだから、何れは自分も出来るようになるべき? と思いかけて考えを散らした。
「綺麗になったらキャンドルも並べましょう、ね」
「参列席も祭壇も、作らないと……」
 瓦礫を取り除いたら砂埃を履いて……けれどもほぼ屋根も無く雨ざらしとなっているために綺麗にしきるのは難しい。顎に指を添えて頭を悩ませる『雨を識る』チック・シュテル(p3p000932)は、やるべきことの順序を考えた。
 参列席も祭壇も崩れていると聞いていたが、それをどうにかする術をイレギュラーズたちは考えてこなかった。
「人数分座れれば良いと思うので、参列席は瓦礫を利用しましょうか」
 崩れた参列席や祭壇の木は腐って朽ちきっているため、素材として使えない。
「布とお花でかざりましょう」
 澄恋の提案に『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)が言葉を添える。
「おれ、『ばーじんろーど』の布……持ってきた、よ」
「チックは教会に詳しいの?」
「海洋の教会……ある、したから」
 なるほどと雨泽が顎を引く。バージンロードへ赤い布を敷けば歩いてもドレスは汚れないし、見目が悪い状態のものは布で隠して花やリボンで飾ってしまえばいい。
「ボロボロだからお花とかリボンでちょっとはきれいになったらいいな……」
 ぴょんっと頭を揺らした『欠けない月』ピリア(p3p010939)も賛成し、「これは使えそう……」と燭台を拾い上げた『玉響』レイン・レイン(p3p010586)は小さく祝詞を呟いて本番の練習をしながら燭台を磨き上げていく。
 やることがいっぱいで夜まで終わるだろうかという気持ちが増すが、此処に揃ったイレギュラーズたちの心はひとつ。『必ず終わらせる』それだけだ。……勿論、「本番にヘトヘトになっていたら駄目だから程々にね」なんて雨泽は釘を刺して率先して休憩を取ろうとしていたけれど。

 掃除を少しだけ手伝っていた『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)は「何してるの、君たちは一等準備に時間を掛けるべきだよ」と雨泽に急かされ、木と木の間に張った垂れ幕の向こう――着替えスペースへと姿を消した。
 向こう側には既に『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)が居て、髪を整えたりタキシードを纏ったりと慌ただしく過ごしている。鏡に映る佇まいがしっかりとしたように見えても、次の瞬間には不安になってくる。模擬結婚式と言えどもきんちょうしているんだなと感じ、ヨゾラは小さく苦笑した。
「フィールさん、大丈夫そう?」
 女性であるフィールホープは、また垂れ幕の仕切りが別だ。ヨゾラが声を掛ければ少し惑うような声がしたため、雨泽がメイメイへウェディングドレスの着付けの手伝いをしてくれないかと声を掛けに行った。
「髪のセット、手伝ってくれないか?」
「任せロ」
 服を汚さないためにも、まずは髪のセットから。そういうのは得意だと、ダイヤモンドが大地の後方に着いた。柔らかに触れる手がくすぐったく、心も別の意味でくすぐったい。内なる声が聞こえた気がしたが、無視を決め込んだ。
「ニルは自分で結える?」
「はい。ニルはいつもゆっていますので」
 ブライズメイドを務める三人もそろそろ準備をと男女で別れた幕の内へと入ってきている。……ニルはどちらでも良いので、変なところはありませんかと雨泽へ見せに来たところだ。白い衣装でくるんと回って見せれば、雨泽が可愛いねと笑った。
「じゃあ僕の髪を後から三つ編みに結って欲しいなぁ」
 髪が長いと三つ編みって大変だよね。下の方が綺麗にならない、とボヤキながらも雨泽は大地の髪のセットを終えたダイヤモンドに化粧を施している。
「ダイヤ、その……」
「綺麗、だロ?」
 ダイヤモンドと大地は揃いのパンツスタイルのウェディングドレス。雨泽からの化粧を終えたダイヤモンドが、今度は大地にメイクを施した。
「ピリア様、可愛くするお手伝いをさせてもらってもいいですか?」
「ありがとうなの!」
 お着替えはできるけれどヘアメイクとメイクが出来ずに困っていたピリアには、掃除を一段落させた澄恋がそっと声を掛けた。
「うみ様もお揃いにしましょう」
「わあ、うれしいの!」
 ピリアの頭の上に兎のような大きなリボンを結んで、白ウサギの『うみちゃん』にも似たようなリボンをキュッ。
 ちらりと視線を動かせば、みんなみんなどんどん可愛くなっていて、ピリアは結婚式が益々楽しみになっていった。

 23時を少し過ぎた頃だろうか。教会の入り口付近に、唐突に一組の『薄っすらと透けている』カップルが現れた。金の小麦色の髪を撫で付けた少し緊張した面持ちの青年に、ヴェールが降ろされていてもなお頬の赤みが覗える少女。トニとアンジュだ。
「大地クンの陰キャオーラガ、ダイヤの輝きを邪魔しなきゃ良いがナ」
「煩いぞ赤羽」
「それじゃ……行こうか、フィールさん」
「ふふ……よろしくお願いしますね、ヨゾラ様?」
 大地の緊張は赤羽に伝わっている。互いにヒソヒソと参列席には聞こえない声で言葉を交わしあった大地たちとヨゾラたちはパートナーへと左腕を差し出し、右手を添えてもらう。
(はわ……とってもきれいなの……)
 ピリアが喜色を浮かべる眼前でトニとアンジュは頷きあってからゆっくりと歩み始め、待機していた大地組とヨゾラ組もそれに続く。三組のカップルの後に続く『花嫁』は、メイメイとニルとピリアのブライズメイドたち。
(みなさまとても素敵、で)
 既にトニたちはこの世ならざる存在であることにピリアが悲しむ傍らで、三組の後ろ姿を見つめたメイメイが微笑む。二組は囮で、本当でなくとも、二組のペアの間にある縁の形がとても微笑ましく思えて。
 ぼう、ぼう、ぼう。
 歩みに合わせて前方のキャンドルへと順に火を灯していくのは澄恋だ。人一倍張り切って掃除をしていた彼女も、可愛らしいカラードレス姿で参列席に収まっている。
(これでちゃんと、撮れる……出来てる、のかな)
 新郎新婦の姿を撮ることは叶わないけれど、バージンロードを歩む大地とダイヤモンドの姿を形に残そうと、彼から借りたカメラ『G-E』のシャッターを切ったチックは首を傾げた。作動音が静かなため少しだけ不安になるが、覗き込んできた雨泽が親指と人差し指で丸を作ったからきっと大丈夫だろう。
 毎年人知れず行われる結婚式は、死してなお永遠に続く惨劇は、そうやって静かに進行していった。
 違いはふたつ。屋根もない廃教会内が綺麗になっていること。そして居なくなったはずの友人たちの代わりにイレギュラーズたちが居ること。――イレギュラーズたちは、この死してなお永遠に続く惨劇を終わらせるために此処に居る。

『ッ!?』
 トニとアンジュが突如息を呑み、背後を振り返った。
 事態を察し、イレギュラーズたちも教会の入り口へ視線を走らせる。――招かれざる客のお出ましだ。
「あなたは、ご招待していません、よ。……お引き取りを」
「しあわせな場所に、かなしいことは要りません」
 囮組と神父は遠いため、出番はない。怪物の残滓の視線が定まる前に参列席からチックが歌を紡いで行動を阻害し、その隙に近寄ったメイメイがウェディングミニペリオンを飛ばし、ニルが握りしめた杖を振りかぶってえーいっと全力魔力を当てれば、残滓でしかない怪物の姿が掻き消える。
 怪物が消え、新郎新婦へと視線を向けると、彼等は既に祭壇へと顔を向けている。怪物が消えたことにより彼等の時間に怪物は『居なかったこと』となったのだろう。直前までの行動に戻っている。
 つまりは、宣誓だ。
「新郎トニ……あなたは新婦アンジュを妻とし……病める時も、健やかなる時も、悲しみの時も、喜びの時も、貧しい時も、富める時も……これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い……その命ある限り、心を尽くす事を誓いますか……?」
 新郎新婦にはレインの言葉は聞こえていない。それを知っているレインはふたりの行動に合うように告げねばならないため、いつもより早口で唱えられるようめいっぱい練習した。
「新婦アンジュ……あなたは新郎トニを夫とし……病める時も、健やかなる時も、悲しみの時も、喜びの時も、貧しい時も、富める時も……これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い……その命ある限り、心を尽くす事を誓いますか……?」
 トニとアンジュの動作を見るに少しレインは遅れたけれど、ふたりは幸せそうな表情でレインへ――レインの居る場所に立っていたであろう神父役の友人へと深い頷きを返し、見つめ合う。
(せめて、このひとときは)
 ドリームシアターは1分で消えてしまう。けれどもこのひとときだけはと、ニルは幻影を作り出す。
 きらきら降り注ぐ星の光に、ひらひら舞う光の花びら。在りし日の教会の姿をイメージしてみたが――想像力が足りなくて少し歪つだ。
(ほんとうは、だめ……かもなの。でも)
 聖歌隊でもないブライズメイドが歌うのは間違いかもしれない。けれど宣誓は終えたから、声を阻害することのない今ならば――ピリアは唇を奏でて歌を紡ぐ。ピリアが歌っている間のみに現れるオパール色の奇跡のために。
 新郎新婦のふたりには見えていなくても、ニルとピリアは祝福の気持ちで心寂れた教会を美しくした。ピリアの歌に合わせ、チックも祝福の歌を紡いだ。三組以外の者たちは、瞳で、心で、持ちうる技で、この挙式を祝福する。
「誓いの口吻を……」
 アンジュのヴェールが持ち上がり、ふたりの顔が近付いた。
 淡い光の中でふたりの唇が重なる。
 ――ゴォンゴォンゴォン。
 今宵の鐘は、本当の祝福の鐘。
 彼等には見えているのだろう周囲の友人たちが囃し立てながら祝ってくれているのか、ふたりははにかむように笑って――そうしてふと、イレギュラーズたちに気がついた。
『あの人たちは?』
『さあ。知らない人たちだね。僕らを祝いに来てくれたのかな?』
 声は聞こえないけれど、そんなやり取りを交わしたように見えて、メイメイは瞳を細めた。
(……いつか……そう、いつか。わたしも、好きな人と、そうあれればいいな、と……夢見てしまいます、が)
『あなたたちにも祝福を』
 アンジュの唇がそう動いたのを見て、澄恋の笑みも深くなる。ああなんて幸せに溢れた光景で、やはり結婚こそが幸せ。何れはわたしもあんな風に――。
 ふたりは本当に幸せそうで。笑いあったふたりは手を取り合って、『外』へと駆けていく。友人たちがふたりを『外』で呼んでいるのだ。外に出て、ライスシャワーと歓声でめいっぱいの祝福を受け、ブーケトスをしてから朝まで皆で踊って過ごす。それが本来ふたりが歩むべき喪われた未来だったから。
「君達のこれからに幸多からん事を。君達の友達にも幸あれ!」
「お元気で……ご友人達の所へ行けますように」
「……おめでとう。トニ、アンジュ。二人と友人達に……安らかな眠りと、未来への祈りを此処に。どうか、幸せに……ね」
 駆けていく幸せそうな背にヨゾラもフィールホープもチックも祝福を送り、ふと消えるのを見守った。
「無事に逝けたみたいだね。皆、ありがとう」
 一応外を確認してきた雨泽が、それじゃあと胸の前で指を合わせた。
「君たちの式を進めようか」
「え?」
「あれ、嫌だったら無しでもいいけど」
「やル!」
 目を丸くした大地の傍らで元気にダイヤモンドが挙手をして。
「もう少しお付き合いくださいますよね、ヨゾラ様」
 折角ですものとフィールホープが微笑んだ。
「それでは……」
 神父役のレインには雨泽が伝えていたのだろう。レインは驚くこともなく落ち着いた様子で祝詞を唱えた。
「ち、誓います」
 大地の声が震えて、心の中で赤羽が笑う気配がする。けれど今は、そんなことはどうだっていい。チラリと傍らを見れば誓いの宣言をするダイヤモンドが名前のような輝きを瞳に浮かべていて、どうしようもない愛おしさで胸がいっぱいになって苦しい。
(……幸せだ)
 はしゃがないようにとずっと我慢をしていたダイヤモンドに首へ抱きつかれてしまったけれど、皆の前は少なからず恥ずかしいけれど、それでもしっかりと口吻を交わし合った。
「僕は……これで」
「……っ!」
 恋仲ではないヨゾラとフィールホープの宣誓は割愛したけれど、ヨゾラはフィールホープの前で跪き、彼女の指先に唇を落とした。
 すぐ近くにいるブライズメイドのメイメイもニルもピリアも、参列席に居る澄恋もチックも雨泽も、二組のカップルへと祝福の拍手を贈った。真実であろうと演技であろうと構わない。当人たちが幸福に包まれていること、そして悲しみに包まれて潰えてしまった教会が再び祝福に包まれることに意義がある。
「それじゃあ」
 雨泽が参列席から立ち上がったから、まだあるのかと視線が集まった。
「これ、借りるね。ほら皆、並んで並んで。写真を撮るよ」
 チックの手からG-Eを預かって、その場に居る全員に祭壇の前に並ぶよう指示をする。
 結婚式の終わりはやはり、参加者全員での記念写真。
「あっ、それでしたら」
 先刻もすぐに消えてしまったけれど、ニルはドリームシアターで同じものを再度映し出した。
 降り注ぐ星の光とキラキラ舞う花の幻。
 うみちゃんが宣誓の時から降らせ続けている海色の花と白色の花。
 そして集った素晴らしい仲間たちの笑顔。
 音も立てずに静かに、カメラは愛おしくも輝かしいその一瞬を切り取った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

皆さんの頭上にも、祝福の鐘が鳴りますように。

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