PandoraPartyProject

シナリオ詳細

十五夜まんまる蜜芋

完了

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●宿に椿が咲き誇り
 豊穣のとある町は、波止場から交易船がよく出ていた。
 交易が盛んなだけではなく、海を望むその町はすぐ近くに山があり、山と海の幸、両方を味わえることで知られている。
 山には、古くから地元に住む人たちに『山の手のお屋敷』と呼ばれている大きな旅館がある。何代も前の初代主が、お家が潰れて手つかずとなったお屋敷を買い取り、旅館にしたのだそうだ。元々あった椿園を年々広くし、丁寧に世話をし――それはそれはとても美しい椿園があるのだと、広く人々の口に噂が上る程だ。
 そんな宿に『幽霊』の噂が流れ、客足が遠のいた。
 何とか噂を払拭したいと望んだ宿からの依頼でイレギュラーズたちが泊まり、何事もなかったと示したのだった。

 ――それが、昨年の2月頃の話。

「今は秋咲きの椿が見頃なんだ」
「椿は秋にも咲くんですか」
「そうだよ。『炉開き』の頃から咲きだすんだ」
 秋咲きのものは長く楽しめるんだよ。そう口にした劉・雨泽(p3n000218)へなるほどと物部 支佐手(p3p009422)が目を瞬かせた。
「それで、今日は椿を見に行こうのお誘い?」
『椿屋』へいくのでしょう? だったらアタシもいこうかしら? そう微笑むのはジルーシャ・グレイ(p3p002246)。
「そう。前は雪の白さと椿の赤が美しい時期だったけれど、今日は中秋の名月! 綺麗な月と椿が楽しめるってわけ」
「椿屋さんは……温泉ある、する。いいかも、ね」
 こくんと頷いたチック・シュテル(p3p000932)へ、「でしょ」っと雨泽が返す。椿屋の露天風呂には家族風呂がある。だから知人の夫婦たちにもたまの羽伸ばしの旅行にどうかと誘うつもりだ。
 秋の椿屋の露天風呂からは赤や黄色に色を変えた山々の連なりが望める。時折ひいらりと湯へ落ちてくる紅葉も趣あるものだ。そして夜に温泉に浸かれば、空の満月も湯に浮かぶ満月も楽しむことが可能なのだと雨泽が笑った。
「あとそれから、女将から良かったらーって言われてることもあって――」

●芋名月
「えっ、お芋掘り!? 行く行く、行きたい!」
 はいはいはい! とサマーァ・アル・アラク (p3n000320)が元気に手を挙げる横で、メイメイ・ルー(p3p004460)が控えめに手を挙げている。掘ったばかりのお芋を食べていいだなんて、天国以外の何者でもない。
「アタシ豊穣初めて! お芋掘りも初めて!」
 だから一緒に行こうよ! とサマーァはフラン・ヴィラネル(p3p006816)へと声を掛けた。ハンナ・シャロン(p3p007137)やウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)にも時間が合ったら行こう行こうと声を掛けてまわり、ウィリアムから「汚れてもいい格好が良いかもね」と微笑まれた。
「お芋ってずるーって捕れるんでしょ? アタシやってみたい」
「うまくやるにはちょっとしたコツがあってな」
「風牙はお芋センパイ!?」
 なんだそれは。だが様々なことで新道 風牙(p3p005012)はサマーァよりも経験を積んでいるからお芋掘りもセンパイかもしれない。
「椿屋さんは冬以外もしょこらてぃえはやっている……?」
「うん、やってるみたい。今だと秋桜とかあるんじゃないかな」
 花型の貯古齢糖が売られているしょこらてぃえ『椿』。
「甘味処でお芋スイーツもあるらしいよ」
「雨泽様のおいしいおすすめはありますか?」
「僕はスイートポテトが好き」
 問うてきたニル(p3p009185)へホクホクで甘いんだと答えた。
 優しい甘さのスイートポテト。
 濾したさつまいもを使用したおいもラテ。
 それから――
「そうそう、月餅も女将におすすめしたからあると思うよ」
 花と兎の柄で型抜きした生地にさつまいもの餡と胡桃を詰めた月餅。
「あとお芋とアイスの組み合わせもすごくヤバいと思う」
 庭では味わえないが、甘味処では輪切りのさつまいもにアイスクリンを載せたものを味わえる。さつまいもは焼きと蒸しが選べるらしい。因みにこれはテイクアウトも可能で、ふたつに折った焼き芋を少し掘って窪みを作ったところにアイスクリンを載せたものを縁側や椿園の散策で食べても良い。
「……ごくり」
「全部食べたくなってきちゃうでしょ」
 いえーいっとピースをした雨泽を、サマーァは「もー!」とポカポカと叩いたのだった。

GMコメント

 ごきげんよう、壱花です。
 お月見にいきましょう!

●目的
 旅館『椿屋』でのんびり過ごす

●シナリオについて
 このシナリオの時間軸は9月29日、中秋の名月となります。(明け方だと9/30)
 昼間は秋晴れの青い空、夜になるとぽっかりと美しい月が空に浮かびます。
 宿のある山はもう紅葉しています。
 「ひとときを過ごす」でも「お泊り」でも雰囲気はご自由に。

●プレイングについて
 選択肢グループから行き先を選択してください。(選択肢を選び間違えないか不安でしたら【1】等を一行目に記してくださっても大丈夫です。プレイングの記載を優先します。)
 同行者が居る場合は一行目に、迷子防止の魔法の言葉【団体名(+人数の数字)】or【名前+ID】の記載をお願いします。その際、特別な呼び方や関係等がありましたら二行目以降に記載がありますととても嬉しいです。
「相談掲示板で同行者募集が不得手……でも誰かと過ごしたい」な方は、お気軽に弊NPCにお声がけください。お相手いたします。

●旅館
 若い女将が、一生懸命経営しています。たくさんの人が来てくれるようにと、他国の甘味である貯古齢糖を作れる菓子職人を招き入れ、花の形の貯古齢糖を甘味処で出すようになりました。
 豊穣の一般的な旅館です。再現性東京等の旅館で見られる、マッサージチェア・ゲームセンター・コーヒー牛乳等はありません。

●EXプレイング
 開放してあります。
 文字数が欲しい、関係者さんと過ごしたい、等ありましたらどうぞ。
 可能な範囲でお応えいたします。

●サポート
 イベシナ感覚でどうぞ。
 同行者さんがいる場合は、お互いに【お相手の名前+ID】or【グループ名】を記載ください。一方通行の場合は描写されません。
 シナリオ趣旨・公序良俗等に違反する内容は描写されません。

●NPC
 弊NPC、2名が同行しています。

○劉・雨泽(p3n000218)
 【1】で芋を掘ったり、【2】でウロウロたり、【3】【4】で甘味ににニコニコしたりしています。【5】は男湯であれば現れます。露天風呂が好き。

○サマーァ・アル・アラク (p3n000320)
 【1】と【3】と【4】が気になるお年頃。
 お芋! お芋掘って焼きたい! あつあつをはふはふしたい!

●ご注意
 公序良俗に反する事、他の人への迷惑&妨害となりうる行為、未成年の飲酒は厳禁です。年齢不明の方は自己申告でお願いします。

 以下、選択肢です。


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。
 選択肢は【2】だけれど「『しょこらてぃえ』で購入したチョコを食べている」等も可能です。

【1】芋掘り
 旅館のある山の中に畑があり、そこで芋掘りが出来ます。他のお客さんや、今後のお客さんも居ます。食べれる分だけ掘りましょう。
 掘ったお芋は旅館内の庭(場所が決められています。山の中は禁止です。)で焼いてもらうことが出来、焼き芋にして食べることが可能です。

 ※こちらの時間帯は『昼間のみ』になります。

【2】椿園
 旅館のお庭から続く広い椿園。遊歩道になっており、椿を愛でながら散策できます。
 品種別に植えられており、一重咲・八重咲・宝珠咲・牡丹咲、赤・白・桃・縦縞としっかりと分かれていますが、咲き分け(一本で異なる色を咲かせる)・七曜変化(色・形が多彩)等、多彩な椿の道もあります。
 今は秋咲きです。

【3】しょこらてぃえ『椿』
 椿園の中にひっそりと建つ離れ。
 以前は茶室だったようですが、建て直してチョコレート屋さんになっています。
 花の形の貯古齢糖がたくさん並んでいるので、選ぶのを楽しみたい方向け。
 此処で作られた貯古齢糖が甘味処や売店で売られています。が、こちらでは椿以外の和花の形の貯古齢糖もあります。

【4】甘味処
 旅館(本館)内の甘味処。椿の形の貯古齢糖を取り扱っています。売店でお土産として購入することも可能です。
 こちらで購入した場合、庭が眺められる落ち着いた甘味処でも、客室や休憩スペースのある玄関広間(ロビー)等でも、好きな場所で召し上がれます。
 <食べ物>
  椿チョコ、練りきり、月餅、おいもアイス、スイートポテト
 <飲み物>
  煎茶、抹茶、ほうじ茶、おいもラテ

【5】浴場
 男女に別れた大浴場と予約制の家族風呂があります。
 どちらも露天風呂があり、椿の垣根で覆われています。
 入浴可能時間:15時~23時、5時~10時

【6】その他
 ただロビー等に座ってのんびりしたい等、旅館内でできることができます。


時間帯
 以下の選択肢の中から行動する時間帯を選択して下さい。

【1】昼間


【2】夜


【3】明け方
 浴場と椿園のみ。


交流
 誰かと・ひとりっきりの描写等も可能です。
 同行している弊NPCは話しかけると反応しますが、他の人の行動によっては添った行動を取ることが難しい場合もあります。(【4】が優先されます。)
 いかなる場合でもNPCが動くと文字数が吸われます。

【1】ソロ
 ひとりでゆっくりと楽しみたい。

【2】ペアorグループ
 ふたりっきりやお友達と。
 【名前+ID】or【グループ名】をプレイング頭に。
 一方通行の場合は適用されません。お忘れずに。

【3】マルチ
 特定の同行者(関係者含む)がおらず、全ての選択肢が一緒で絡めそうな場合、参加者さんと交流。(ソロ仕様なひとり完結型プレイングはソロとなる場合が多いです。)

【4】NPCと交流
 おすすめはしませんが、同行NPCとすごく交流したい方向け。
 なるべくふたりきりの描写を心がけますが、他の方の選択によってはふたりきりが難しい場合もあります。
 交流したいNPCは頭文字で指定してください。

  • 十五夜まんまる蜜芋完了
  • お月見イベシナ枠です。
  • GM名壱花
  • 種別長編
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2023年10月17日 22時05分
  • 参加人数20/20人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 20 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC1人)参加者一覧(20人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
コラバポス 夏子(p3p000808)
八百屋の息子
チック・シュテル(p3p000932)
赤翡翠
ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)
優穏の聲
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
フラン・ヴィラネル(p3p006816)
ノームの愛娘
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
ハンナ・シャロン(p3p007137)
風のテルメンディル
タイム(p3p007854)
女の子は強いから
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ニル(p3p009185)
願い紡ぎ
祝音・猫乃見・来探(p3p009413)
優しい白子猫
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
咲花 イザナ(p3p010317)
花咲く龍の末裔
フーガ・リリオ(p3p010595)
青薔薇救護隊
佐倉・望乃(p3p010720)
貴方を護る紅薔薇

サポートNPC一覧(2人)

劉・雨泽(p3n000218)
浮草
サマーァ・アル・アラク(p3n000320)
くれなゐに恋して

リプレイ

●秋立ちて山染まり
 椿が有名な『椿屋』は実り豊かな山に建っている。客たちは紅葉を眺めながらの温泉や秋咲きの椿を楽しみにやって来る――だが、冬よりは秋の方が客足が落ちるのだとか。そこで女将は秋ならではのことが出来ないかと昨年から手を回していたのだ。
 それが此度の芋畑。
 宿泊客にその日焼いて食べれる分の芋掘りで体と心を楽しませて欲しい、という試みだ。
「ほくほく焼き芋楽しみですね、フーガ」
 早速『貴方を護る紅薔薇』佐倉・望乃(p3p010720)はお芋が楽しみらしい。自宅の近所で購入していたらパイやタルト、シチューにしてもいい……なんてふわふわと考えてしまう。
 けれども今日のお約束は『その日その場で食べられる量を掘って、決められた場所で焼き芋』である。そうでなければ他の客が芋掘りを楽しめなくなる。
「けど食べすぎてもいけませんよね」
「後から甘味処にも行きたいから、か?」
 妻の思考を正しく読んだ『君を護る黄金百合』フーガ・リリオ(p3p010595)へ、望乃が「そうなんです」ときりりと眉を上げる。甘味処ではほかほかの焼き芋にアイスクリンを添えたものやほくほくのスイートポテトだってあるし、久しぶりの椿チョコもおいもラテだって口にしたい。
 それを考えると掘るのは1個くらい? となってしまうが、でも折角掘るのだから……とシャベルを握る望乃を悩ませる。ああお芋、なんて悩ましい存在なのだろう。
「明日、帰りがけに甘味処に寄るっていうのはどうかな?」
「流石フーガ、名案です!」
 眉間の皺が解れてパッと明るくなった望乃の表情が可愛い。最愛の望乃の悩みも解けたことだし、とフーガは腕まくり。
「葉を引っ張ればよかったか?」
「葉、というよりは、茎? 蔓?」
 実家が農家なため麦の収穫経験はあるが、芋の経験はないフーガは望乃と一緒に首を傾げて。とりあえず引いてみるかと引っ張ってみた。
「……こりゃ重そうだな。望乃、一緒に引っ張ってみるかい?」
「はい、フーガ。せーの!」
「せーの!」
 一緒にえいと力を籠めれば、ずるりと地面から芋が出てきた。小さなお芋が連なる様を見て「大量なのです」と泥の付いた顔で望乃が笑っていた。
「タイムちゃんはやっぱそう 食欲の秋だね」
 秋晴れの空に大きく伸びをした『八百屋の息子』コラバポス 夏子(p3p000808)のその一言に、農耕服も似合うと何を着てても大抵格好良く見える『この手を貴女に』タイム(p3p007854)は瞳をぱちりと瞬かせ、軍手を嵌めた手で両頬を抑えた。それって食いしん坊の顔をしてるってこと?
「夏子さんこういうの結構得意でしょ?」
 やっぱり食べるなら、小さなお芋よりも大きなお芋を両手ではふはふ頂きたい。大きいのを掘って欲しいなと開き直ったタイムがねだれば、八百屋の息子たる夏子はにっかりと秋晴れに似合いの笑みを見せる。
「任せてよ この国一番の いやさ 神話級の芋を掘り出して見せますよ」
 神話級って如何ほど? 首を傾げながらも、タイムは夏子の後についていった。
「タイムちゃん ここの掘ってみようか」
「周りの土から掘ればいいのよね?」
 スコップでせっせと掘って、垂れてきた汗を軍手を嵌めた手の甲で拭う。
「そろそろいいかしら」
 えいっと引っ張れば次から次へと小さな芋が連なって穫れて、タイムは目を輝かせた。
「お芋掘り……懐かしい……」
「お姉ちゃんはお芋掘りしたことがあるの?」
 うんと頷く『祈光のシュネー』祝音・猫乃見・来探(p3p009413)の姉は、偶然近くをぼんやりと歩いていたらしい。かさねに弟センサーがあるのか、祝音にお姉ちゃんセンサーがあるのか……何とも言えぬ巡り合わせで、今日も二人は一緒にいる。
 傷つけないように気をつけて、丁寧に掘って。
 掘り出した芋の土を払って綺麗にした祝音の手には片手で掴めるサイズのお芋がひとつ。
「あれ、祝音はそれだけ?」
「あ、劉さん」
 ひとつだけなのかと問われ、こっくりと頷く。これ以上は食べきれないかもしれないから。
「僕ね、結構大食感なんだ」
 雨泽の言葉に祝音は首を傾げ、すぐに察したかさねがくすくすと笑う。
「もっと掘って大丈夫だよ。僕が食べるから」
 だからお芋掘りを楽しんでと、雨泽は離れていった。
「よかったね、祝音君」
「みゃー」
 綺麗なお芋を掘るの頑張るよーと祝音は姉に笑顔を見せるのだった。

 ――秋といえば?
 読書の秋、運動の秋……色々な秋があるけれど、やっぱり秋といえば実りの秋である。つまり、天高く馬肥ゆる秋であり、食欲の秋!
「そして芋だ! 芋は芋でも紫色の甘~いお芋、サツマイモ!」
「秋だー! お芋だー!」
「お芋! お芋!」
「美味しいお芋です!」
 栗も良いのだがと思いながらもクワッと告げたお芋先輩こと『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)に続いて、『ノームの愛娘』フラン・ヴィラネル(p3p006816)とサマーァと『風のテルメンディル』ハンナ・シャロン(p3p007137)が秋晴れの空へと拳を突き上げる。
「お芋天国……ふふ、最高です、ね」
 場所は山の中にある芋畑。この見えてる葉と蔓を辿っていくと、地中にはお芋という宝の山。美味しいものがここに沢山埋まっているだなんてとついふくふくと笑ってしまった『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)は、ちょっぴり姿に合った行動を取りたいお年頃。けれども「めぇ」と恥じらいながらも、皆と一緒に控えめに拳を上げた。だって美味しいお芋は正義なのだ。心が弾まない訳がない。
「汚れていい格好! 軍手!」
 風牙の声がけに、ハイッと皆で軍手をした手を上げる。風はひんやりとしてきているから長袖長ズボン、足元は長靴。
「タオルは持った? 帽子は……っと、はいサマーァにフラン、しっかり被って」
「これくらいの天気なら大丈夫じゃない?」
「そうだよー」
「でもフランは、夏は暑くてバテバテだったって聞いているよ」
「うっ」
「サマーァはラサの太陽に慣れてても、太陽熱と涼しい風のタッグには慣れていないでしょ」
 タオルを挟んだ麦わら帽子をふたりの頭に載せた『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は、今日もお兄ちゃんだ。
「スイートポテトが、雨泽様の『おいしい』なのですね!」
「そうだよ、後で一緒に食べに行く?」
「はい! ニルは『おいしい』を知りたいです」
 大きく頷いた『おいしいで満たされて』ニル(p3p009185)の姿に雨泽が笑う。
「夜ご飯のデザートには大学芋もついてるって女将から聞いたんだ。あれも好き」
「おいもは色々な『おいしい』になるのですね!」
「ご飯と炊いたりしても美味しいよ」
 サツマイモは甘いから、米に塩気を利かせるのが雨泽の好みだ。最近稲刈りを体験したし、少し前にはおにぎりだって作ったニルは美味しいお米も美味しい芋も、とってもとっても気になった。
「サマーァ様はどんなおいもの食べ方が好きですか?」
 ニルに問われたサマーァが「スイートポテトが好きだよ」と答える。大学芋は食べたことが無いらしく、夜が楽しみだと笑った。雨泽もサマーァも、皆も。今日ニルの周りに居る人たちは皆笑顔で、ニルは胸が暖かくなる。こんな楽しくてワクワクする日々を、毎日送れたらいいのにな。
「そうだシャハル、勝負をしません?」
「勝負? いいよ」
「兄様、姉様、私もっ」
 ウィリアムとハンナ兄妹は勝負をするようだ。すると、可愛らしい手がぴょっこりと生えた。可愛い妹のライラの手だ。
「勿論いいですよ、ライラ」
「あっ、楽しそう! アタシも!」
「楽しそうな気配! あたしも!」
 お芋掘りが初めてなサマーァとフランの手もぴょんぴょこ生えた。一通り掘り方を風牙に聞いたから、後は実践するだけのふたり。でもお芋掘りは引っこ抜いて見なくてはその成果は解らない。
「風牙もするよねー?」
「おう! 芋掘り王になるぞ!」
「えー、なにそれー」
 キャッキャと楽しく笑い声が響く中に、勿論メイメイとニルもやりますと手を挙げる。
「……小生も良いだろうか」
 こほんと咳払いをして少しだけ控えめに手を挙げたのは『花咲く龍の末裔』咲花 イザナ(p3p010317)。甘味処へ行こうかとも悩んだが、やはり収穫したての新鮮な焼き芋の魅力には抗えなかった。
 何より、皆でこうして芋掘りをするというのも魅力的だ。先刻から響く明るい笑い声と弾けるような笑顔に、つい郷里の童等の姿を思い浮かべ――その場に身を置ける心地良さを愛おしく思う。
「参加者が増えると楽しさが増すだけで悪いことはありません!」
 勿論オーケーですよとハンナがにっこり笑う。
「勝負に没頭して掘りすぎてもいけませんし、ここは潔く一株勝負で参りましょう」
「そうだね、それがいいと思う」
「それでは皆さん、健闘を祈ります!」
 秋空に、清々しい声が響いた。
「折れないように注意しろ!」
「ええっと、垂直、垂直……ゆっくり、ゆっくり……」
「よーしいいぞ、その調子だ!」
 真剣な表情のサマーァの額に汗が滲む。風牙お芋パイセンの指導の下慎重に行っているが、折れたらどうしようと思ってしまうのだ。
「あっ」
「よっしゃーーー!」
 急にスポンと抜けて、サマーァが尻もちをつく。折れたから抜けちゃったの!? と思うよりも早く風牙の気持ち良い声が響いて、パアァとサマーァに笑顔が広がった。
「わ、やった! 見て見てフラ……」
「待って、今真剣だから」
「あ、うん。がんばれー」
 フランもお芋と真剣に向き合っている。ついさっきは土埃でくしゃみをしてしまったから、今度こそはと真剣なのだ。
「と――獲ったどー!」
「わー! フランのお芋もいい形ー!」
「二股になってるのとか掘れると面白いんだけどな」
 やったーっと喜ぶ二人を笑って、風牙もこれと決めた株と真剣に向き合うようだ。
「二人共、いい感じの芋だね。うん、ライラも上手に出来てすごいよ」
 皆のお兄さんのウィリアムは色々と気にかけてくれる。末の妹のライラがはにかんで、フランとサマーァと見せあいをするのを優しい瞳で見守って――あとは、もうひとりの妹のことなのだが……。
「ハンナ……力任せにいかないよう、」
「えいやー!」
 ズボボボボボボボ! これぞ芋づる式!
「シャハル、何か言いました?」
「……何でも無いよ」
 勿論ウィリアムがしっかりと周囲の土をよけたり柔らかくして抜きやすくしてくれたおかげなのだが、大量に獲れた芋たちにすごーい! とフランたちが目を輝かせた。

 全員が芋を掘り終えれば、芋の見せあいだ。
 勝負を知らなかったイレギュラーズも何々? と近寄ってきて、飛び入り参加で芋自慢。
「僕はコノ 大岩みたいなヤツがマイベストかな~」
「わたしはねえ、これ!」
 大岩なんて夏子は言うけれど、少し大きめのまるっとした芋だ。
「そういえば タイムちゃん 土がついてるよ」
「えっ! えーやだやだどこ? もう夏子さんってば、もっと早く教えてよ~!」
 気付いて居たんでしょと顔を赤くしてぎゅっと目を瞑ったタイムの顔を、夏子はごめんごめんと笑って拭いてやった。
「ホラ 可愛いお顔がもっと可愛くなった」
「結局勝敗は何で決まるの?」
 雨泽が問えば、それぞれ考えが異なることが解った。
 形という者もいれば、大きさという者もおり、重さという者も居る。
「……全員優勝でいい、か! 変な形のやつは特別賞だ!」
 何か商品や賞金が出るわけでもない、ただのお遊びだ。風牙の言葉に賛成の声が重なって。けれども自分が獲った一番素敵と思えるお芋を披露しあった。
「わたしは、こんな感じ、です」
 メイメイのお芋は、どっしりとした重量も形も良いもの。
「ニルもココアとがんばりました!」
 ねこのココアも一緒に掘り掘りしてくれたのだと、ニルは形の良い芋を見せる。泥だらけのふたりは後からピカピカシャボンスプレーをするのだと聞いて、雨泽が温泉に入ればいいよと指を伸ばしてニルの頬の泥を拭った。
「あ、でも。ココアは嫌がるかな?」
「どうでしょう。ココア、桶に冷ましたお湯なら入れますか?」
 真面目な顔でココアへと問えば、にゃーんっと可愛いお返事。そのお返事は、どっち?
「泥だらけの子は、お芋を食べたら温泉に入っておいでね」
 皆にも聞こえるように声を掛ければ、「はーい!」と秋晴れの空に良い子の返事が幾つも重なった。
 因みにサマーァは異国の温泉も初めてだ。

 ――――
 ――

「たくさん動きましたからエネルギーをたくさん補充をしましょう!」
「さんせー!」
 嬉しい楽しい焼き芋タイム。焼けたお芋から、どんどん振る舞われていくが――折角だから自分で掘ったのを食べたいと、焼けるのをわくわく見守りタイムでもある。
 パチパチと爆ぜる焚き火を見る皆の瞳は、炎の反射でも余りあるほどキラキラと輝いていた。
「焼き芋は美味しいけれど、たくさん食べるなら飲み物があった方がいいよね」
「ヤカンを借りられないか聞いてきますね」
「うん、よろしくねライラ」
「あ、アタシもついてくー!」
 フランと風牙にアタシのお芋を見守っていてね! と言い置いて、サマーァはライラと建物内へと入っていった。向かう先は甘味処だろう。
「おいらの知るお芋は南瓜みたいにはっきりとしたオレンジ色だけど……」
 焼きたての芋をアツアツ! と跳ねさせてからふたつに割れば、濃い黄色が覗く。
「この世界の芋は満月みたいだな」
「この世界のお芋が満月なら、フーガの世界のお芋はお日様みたいなのでしょうか」
 カモテとフーガが呼ぶ芋を望乃は知らない。けれどもフーガの言葉から、知らないことをいつも想像している。
「月に由来した名前を持つというキミと隣にいると、なおさらおいらの人生は満月のように満ち溢れているかのような気持ちになるよ」
「……月は、太陽が無いと輝けませんから。だから、ずっと、隣にいて下さいね?」
 焼き芋を手に、浮かべる色は同じ色。
「はい、夏子さん」
「ありがタイムちゃん」
 夏子が収穫した大きめのお芋をふたつに割れば、ほかほかの湯気が甘い香りとともに秋空へと昇っていく。
「熱いから気をつけてね」
「焼き芋には軽く塩を振って食べるとぉっほっほふ……っ! カ……ッ!! うぃ ゲホッ」
「って、言った傍から! 誰か~! お水ちょうだい~!」
 大慌てで手を振ってアピールすれば、ギフトで水を出したウィリアムが「はい」と渡してくれる。
「ほら、お水飲んでお水」
 ウィリアムへと礼を告げ、タイムは夏子の口元へと急いで湯呑を近づける。しっかりと湯呑を握りしめたのを確認してタイムが手を離すと、夏子は喉仏を大きく動かしてゴッゴッと一気に水を呷った。
「ふい~」
 一息つけたのだろう。気の抜けた吐息が夏子から吐き出され、タイムはホッと胸をなでおろした。
「お水もありがと ……は~ じゃ~ 旅館にでもお邪魔して お風呂入って 二人お部屋でしっぽりと……」
「そうねえ、汗もかいたしお風呂でさっぱり……って、も~夏子さんてば!」
 皆がいる前で何言ってるの!
 人差し指を口の前で立ててシーッと注意をして、慌てて周囲の様子を窺う。みんなお芋に夢中のようで、夏子の言葉は聞こえていない様子に再度タイムは胸を撫で下ろした。まったく、夏子さんってば……。
「ラサにはサツマイモはあるの?」
「あるよー。バタータって言うの」
 サツマイモは外来種だ。豊穣での歴史よりも異国での歴史のほうが古い。お芋掘りはしたことはないが、サツマイモの味はサマーァもフランも知っている。
 ふーふーと息を吹きかけてから、はむっと食べる。ラサのサツマイモは水分が多くてどちらかと言えばべっちゃりするから、食感の違いにサマーァは内心おお! と思う。
「は、ふあ、あふー」
「……あっふい! は、はははふ!」
「熱くて美味しいねフラ……フラン?」
「は、はふ、はふ……!」
「ウィリアム大変! フランが死にそう!」
「ええっ!?」
「フラン様!?」
 喉に詰まらせない限り、死にません。
 ハンナはフラン様~と慌てたが、冷静なウィリアムの瞳にはただ熱がっているように見える。
「ライラ、お茶を持って行ってくれる?」
「はい、兄様。……どうぞ、フラン様」
「は、はふ……ん……ありはと……」
 まだ口の中が熱いのか、フランの顔がギュッ><となっている。
「フラン様、気をつけてくださいね」
 そう言うハンナははふはふパクパクもぐもぐと次々とお芋を食べていく。それに気付いたふたりの視線を受け止めて、ハンナは美味しいですねと笑った。
 ――あの栄養はどこへ行くのだろう。
 サマーァとフランは同時に同じことを思い、同時に同じ部位を思い至った。
 彼女の母とてそうだ。ハンナとウィリアムの母のマルカも皆が取りすぎてしまった分の受け入れ係をしてくれている。親子揃って消費していく芋の量にサマーァとフランは顔を見合わせ、それからライラを見た。
「……あ、普通の量食べてる、ね」
「……どうかされました?」
「ライラのお母さんとお姉さんはいっぱい食べてたから」
「いや、あの二人が特別なだけで……」
 誤解しないでねとウィリアム。ハンナは大剣を振るうし、マルカは魔女の神秘。きっとどれだけ食べても大丈夫なのだろう……とは思うが、ふたりの姿を見てウィリアムも驚いた。……本当に大丈夫?
「うーん、いくらでも食えそうだ!」
「風牙もいっぱい食べるね」
 たくさん動いたからカロリーゼロ(ゼロではない)とは言え、ふーふー冷ましているフランも同じことを思ったようだ。
「秋の風、青い空、友達と一緒。最高のシチュエーションだからな!」
 明るく風牙が笑うから、つられてサマーァの手も焼き芋へと伸びる。うーん、もう一本入るかな?
 メイメイのお芋は大きめだったから、焼けるのに少し時間が掛かった。甘くて美味しそうな匂いと温かな焚き火の気配についうっとりと瞼を閉じた頃焼き上がり、耳をぴこぴこ頬張った。
「ほいひいへふ、へえ……!」
「うん、おいしいねー!」
 しっかりと通じたらしいサマーァがにっこり笑って、お芋をもぐ。
 あつあつ、はふはふ、はぐはぐ。無限に食べられそうで困ってします。
「あっ、お芋じゃない匂いがする!」
 唐突に、ハッとサマーァが芋から顔を上げた。
 キョロキョロと探し、その視線がイザナの手元に定まる――と、イザナがフッと笑んだ。
「も、もしかしてそれは」
「先に甘味処から調達してきた貯古齢糖とあいすくりんである」
「なっ」
「ハッ」
 フランとハンナにも衝撃が走る。その手があったか~!
 イザナの手元では焼きたてのホクホク焼き芋の上にアイスクリンと貯古齢糖の『全部載せ』が行われているのだ。あれ絶対おいしいやつ! 周囲の誰もが思ったに違いない。
「うむ。溶けて落とさぬように食すのは少し難しいが、美味である」
 美味いぞとイザナが皆へ勧めれば、「雨泽~……」とサマーァが雨に打たれた子犬みたいな顔をした。
「はいはいはい。僕が買ってくるね。何人分要るかな。欲しい人、手を挙げて~」
 はーい!!! 沢山連なる挙手に苦笑した雨泽は、ちょっと待っていてと甘味処へと向かう。
 暫くすれば、アイスクリンは持ってこられなかったけれどと貯古齢糖が配られた。
「雨泽さま」
 戻ってきた雨泽へ、メイメイが声を掛ける。
「その、掘りたてのお芋、お土産にいくつか、いただいても大丈夫でしょう、か?」
 食べられる分だけ掘って、焼き芋にして食べる。それがお約束だ。そうでなくてはわざと大量に掘って持って帰る客が増えて宿や後の客たちが損をする。
 けれどやはり、美味しいお裾分けがしたいのだとメイメイは雨泽へ相談した。
「ニルも、ちょっと持って帰れたらいいなって思うのです」
「うーん……」
 気付いたニルも駆け寄れば、雨泽が悩む。
「お土産なのだから、買い取ればいいんじゃないかな」
 何かを得るには、対価を払うのが当たり前だ。女将に話しておくねと雨泽が告げると、メイメイとニルの表情がパッと明るくなった。
「雨泽様、スイートポテトや月餅も、ニルはとってもとっても気になります」
「それもお土産?」
「はい、おみやげにしたいです」
「スイートポテトは3日くらい保つだろうし、テイクアウトで買って持って帰ってお茶にするのは大丈夫だと思うよ」
 海洋等なら話が別だが、ニルの行き先はきっと練達だろう。月餅はスイートポテトよりも保つはずだ。
「劉さんこれ、僕が掘ったお芋……」
「わ、大きいね。ありがとう」
 丁寧に掘ったからシャベル痕もついていない。
 焼いたお芋は宿の人が希望に合わせて手ぬぐいで包んでくれる。猫と椿の絵柄の手ぬぐいに包まれた焼き芋を手に雨泽が「姉弟水入らずにご一緒しても?」と首を傾げる。祝音は姉の顔を見上げ、降りてきた笑みに口角を上げ、雨泽へとうんと大きく頷いた。
「僕もご一緒してもいいかな?」
 焼きたての芋を片手に近寄ってくるのはヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)だ。どうやら大きい芋を掘り当てたらしく、ひとつだけ。
「そういえば、椿園に猫が居たよ」
 芋を割ってから少し冷ましている雨泽が口にするのは猫の話題。ヨゾラも祝音も好きなのを知っているから、後から行っておいでよと声を掛け、芋を一口。
「ん、おいしい」
「はふはふ……おいしい!」
「はふ、あつ……あつあつで、ほこほこしてて、美味しい。みゃー」
「あつ、はふ……焼き芋、おいしいね」
 秋晴れの空の下、皆でお芋を食べる時間はとても幸せなひとときだった。
 横を見れば美味しそうに芋を頬張る顔が見られて、もっと向こうを見ても皆幸せそう。何気ないことだけれど、こういうひと時が大切で、守りたいと思うから祝音は毎日を頑張り、怖いものにも立ち向かっていけるのだ。

●山に香るは椿かチョコか
 椿園へと足を運べば、芳しい香りに包まれる。
 人々は秋めいた風を感じながら椿を楽しみ、のんびりと過ごす――はず、なのだが。
「雨泽殿、もっと速うこちらへ!」
 中腰で椿に隠れた『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)は真剣な表情で雨泽を呼んでいた。
「宮様に何ぞあったら、どうするつもりですか!」
「何も起きないし大丈夫だよ」
 今日この宿に何人イレギュラーズたちが居るとお思いで?
「好いた相手の尾行なんて格好悪いよ支佐手」
「そ、そういうもんではなく。わしは宮様を」
「ほんと宮様莫迦」
「おんし今宮様の悪口を!?」
「君への悪口だよ」
 幾ら隠れていたとしても。
 幾ら小声だったとしても。
 成人男性ふたりが言い合っていれば耳目を集める。
「支佐手に雨泽……」
「は、宮様……!」
 ふたりに気付いた弓削・真賀根の視線が、支佐手が手にしている武器へと向かっていた。
「いや、はは……これは奇遇ですの。わしら椿同好会。仲良く連れ立って、たまたま偶然、椿見物へ来た次第でして。のう、雨泽殿?」
「そう、なんです。支佐手が椿に埋もれるくらい間近で見たいって言って」
 ささっと武器を背中に隠しながらのその言い訳は無理がある。が、支佐手に肘で小突かれた雨泽は一応合わせてあげる。
「それで、椿を愛でるのに武器が必要なのはどういう理由かな?」
 真賀根に追求されると支佐手の笑顔は固まり、ため息を吐いた雨泽が実はですね説明をした。お察しの通り僕は被害者です。
「いつもすまないな。昔から不器用で友達の少ない子でな。これからも仲良くしてやってくれると、私は嬉しい」
「それはまあ、勿論」
「来なさい、ふたりとも」
 そう言って真賀根は爪先を甘味処へ向ける。秋らしい芋菓子を馳走してくれると言うことだろう。
「ええんですか!? 貴重な休日をお邪魔したわしらをお許し下さるばかりか、甘味まで……」
「邪魔したのは支佐手だよ」
「有難うございます、こん菓子は家宝として末代まで受け継ぎます!」
「いや、食べなよ……」
 主の懐の広さに忠誠心を新たにする支佐手は子犬のように目を輝かせていて、雨泽を少し……いやかなりドン引かせたのだった。
(支佐手はどうしてああも真賀根殿が絡むと……)
 どうにかこうにか支佐手を振り切った雨泽は、椿園に建つ『しょこらてぃえ』へと向かった。
 しょこらてぃえ『椿』には、季節を問わず沢山の『花』が咲いている。その花たちを真剣に悩む者はたいてい中腰で、じっくりと花の造形を吟味していることが多く――『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)もそのひとりであった。
「あの子にはこの花が似合うかしら……あっ、でも花言葉を考えるとこっちも好きそう……!」
 お土産をあげたい相手が沢山居るジルーシャは真剣だ。
 好いた相手にならこの薔薇を。でもこっちの方が好みかも? 鉄帝や天義の友人宛は大丈夫だろうけれど、ラサ住まいの子だとチョコレートは溶けちゃう?
「百面相だね」
「えっ、ちょ、やだ、雨泽!?」
 見てないで声を掛けてよ! 後ろから掛かった声に慌てて振り返ったジルーシャは、コホンと咳払い。折角だから選ぶのを手伝ってよと願い出た。
「一人で悩んでると結局自分の好みに寄っちゃいそうで不安なのよ」
「わかるー。でも君からのお土産なんだし、それでいいと思うよ?」
「でも相手の好みも取り入れたいじゃない?」
「それなら相手の好みと君の好み、ふたつにしちゃえば優勝」
 それに華しょこらは可愛いのだ。可愛いものが沢山増えることは正義である。
「やーん、アリガト! アタシも、アンタのそういう面倒見良い所、好きよ♪」
「どういたしまして。僕も買いたかったし、君が居てくれて楽しかったよ」
「それでね、はいコレ。付き合ってくれたお礼よ♪」
 ウインクとともにアンタの分も買っておいたのと笑みを向ければ、ぱちりと瞬いた瞳が猫のように細まった。
「奇遇だね。僕も君の分も買っちゃったんだよね」
「アラヤダ、交換? んふふ、こういうのも楽しいわね♪」

●月は上りて煌々と
「あの、ルチアさん」
「何、鏡禍」
 何か言いたいことがあるのだろうに、『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)の夫たる『夜鏡』水月・鏡禍(p3p008354)はあの……と視線を逸らすばかり。
「言いたいことははっきりと言いなさい」
 いつも言っているでしょうとずいと身を寄せれば、しどろもどろしながらも鏡禍は意を決した。
「かっ、家族風呂を予約してあるのでっ、一緒に温泉に浸かりませんか!?」
「いいわよ」
「だめ、ですよね。いくら結婚したとは言え……えっ、いいんですか!?」
 予約したのでしょう? と不思議そうに首を傾げられてから、鏡禍は挙動不審になりながらもルチアと家族風呂へと向かった。
 家族風呂ゆえ、更衣室はいっしょ。ああ、ここにも罠が……なんて、顔を手で覆いたくなる。もし神様という存在がいるのだとしたら、どれだけ僕に試練を与えると言うのだろうか。
「鏡禍、先に浸かってるわね」
 葛藤する鏡禍をよそに、ルチアはさっさと衣服を脱いで温泉へと向かった。
「あ、タオルは巻いておいてくださいね」
 勿論鏡禍の心の平穏のためだ。
 だが。
「豊穣は湯にタオルを入れてはいけないのでしょう? 濁り湯なら……っと、濁り湯ではないみたいね」
「濁り湯じゃないんですか!?」
「そんなに慌てなくたって、鹿になるような呪いをかけたりはしないわよ。ディアナ神じゃあるまいし。ねえ、私の心を射止めた人?」
 ルチアの故郷に伝わる女神の話だ。ルチアは鏡禍のことをただの狩人ではなく心を射止めた狩人と称するが、鏡禍にとってはこれはそういう問題ではないのだ。
「る、ルチアさん……」
 鏡禍は風呂に入る前から既に赤い。これではルチアにまた揶揄られてしまうと思えど、『心を射止めた人』なんて言われたら仕方がない。けれど、彼女にそう思われていることが鏡禍には嬉しい。
「隣、失礼しますね」
 極力見ないように気をつけながら湯へと爪先を浸し、隣に腰掛ける。傍らでぱしゃりと水音が鳴る度に、鏡禍は己と戦った。
「鏡禍は月見酒と洒落込まないのかしら」
「しませんよ」
「一人でしたって楽しくないじゃないですか」
 言外にあなたと一緒がいいと告げれば、それはしっかりと伝わったようだ。
「二ヶ月お預けね」
「二ヶ月なんてあっという間ですよ」
 月見酒なんて、その後でいくらでもすればいい。
 鏡禍もルチアも、月を見上げた。色の濃いまん丸の月は美しくて、この瞬間すらもふたりの思い出になるだろう。
「貴女に見惚れるのは後でいくらでもできますから、ね」
 今はその水滴滴る玉肌を直視できなくて月を見上げることしかできないけれど、いずれは一緒に酒盃に月を浮かばせあおうと約す。
「ねえ、僕の心を奪った人」
 湯に揺蕩うふたりを、月だけが見ていた。
 家族風呂は離れになっており、大人四人くらいで入っても充分と足を伸ばせるような広さを有している。
 そんな家族風呂へと『暁月夜』十夜 蜻蛉(p3p002599)と訪った『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)は、腹の底からの深い吐息とともに空を仰いだ。
 視界には満天の星と、星あかりを隠してしまいそうなほどの満月。となるはずだったのだが、曇った眼鏡越しには月の色しか解らない。
「眼鏡のおかげで、それはそれは綺麗に見えるでしょ」
「……わざと言ってるだろ、お前さん」
 何か言われるだろうとは思っては居たが、くすくすと笑み混じりの声に縁は恨みがましい視線を向けた。勿論眼鏡は曇っているから言った相手――蜻蛉の玉肌は見えやしない。
「誰のせいだと」
「あら。うちのせいなんです?」
 このお人は夫婦となっても大層初心で。けれどもそんなところが可愛らしい。
 ここに至るまでも攻防戦を為した。結局はいつも蜻蛉が一枚上手。最終的に根負けをした縁はともに湯へと浸かり――その最後の抵抗がこの曇り眼鏡であるのだ。
「せっかくいい月が出てるんだ、こんな煮魚なんて眺めてちゃ勿体ねぇぞ」
 ふいとそっぽを向く照れ隠しだって、きっと見通されている。
 けれども仕方がないのだ。湯でしっとりとした柔肌に、温かさで血行の良くなったかんばせなぞ目の毒でしか無い。
(一緒に風呂に浸かってるなんて、昔の俺が聞いたら「酒の飲み過ぎで、とうとう夢と現実の区別もつかなくなったか」くらい言いそうだ)
 そもそも蜻蛉と結婚したこと自体も昔の縁なら驚くはずだ。あの嬢ちゃんと!? と言いかねない。変わった――変えられてしまった事実に気付く度にむず痒くなるが、それも幸せゆえにと思えば――
「ねぇ、縁さん。ちょっとこっち向いて?」
「ん? 何だい嬢ちゃ――ぶわっ……!?」
 ぱしゃん!
 考え事をしていて隙が出来ていた縁の顔へ湯が掛けられた。
「水ならぬお湯に滴るええ男の出来上がりです。それに、魂胆はお見通しやよ」
 反射的に閉じた瞳を開けば、クリアな視界。そう、そこにあるのは蜻蛉の……。
 ごくりと喉が鳴るのを堪えられただろうか。自信はない。大慌てで目を閉じてあのなぁと声を絞り出しては見たものの、どう考えたって魚が猫に勝てる訳がない。
「さて、目を閉じたままの旦那様は置いといて。せっかくやから月見酒とでも行きましょ」
「月見酒……」
「嗚呼美味し♪ お月さんが綺麗で進んでしまいそ」
「お、おい」
 何かと問うてわざと音がたつように猪口へと酒を注げば、目を閉じたままの縁の口元が歪む。
 猫は狩りが得意なのだ。空に浮かばぬ三日月は、愛しい魚が観念するのをただ待っていた。きっともう少し。――ほぅら、魚が釣れた。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
 優しい月明かりの下で真剣にメニューと『お見合い』していた『優穏の聲』ゲオルグ=レオンハート(p3p001983)は、お冷とおしぼりを持ってきた店員へと顔を向けた。
「飲み物はおいもラテを。それから甘味は全種。おいもアイスが焼きで頂きたい」
「全種、ですか? ありがとうございます」
 少々お待ちくださいねと微笑んだ店員は、少し紅葉と椿、それから満月を見上げながら『ジーク』を撫でている間に戻ってきて、ゲオルグの眼前のテーブルへ甘味を並べていった。
 ホクホクの芋が甘い湯気を立て、バニラ味のアイスクリンを溶かしていく。それが猫舌のゲオルグにはちょうど良く、おいもラテとて甘味を楽しんでいる間に適温となることだろう。
「ジーク、美味いか?」
 ふわふわ羊のジークはスイートポテトのバターの香りに惹かれたらしい。ぱくっと食いついて顔周りを芋色に染める姿は愛らしくも幸せそうに見え、ゲオルグの心を穏やかに癒やしてくれる。
 美しい秋の景色に秋の甘味。それから愛らしいジーク。何と幸せなひとときだろう。
 イレギュラーズたちの日々は戦いの連続で忙しいことが多いから、その合間に休むことは戦略的にも重要なことである。が、それにしてもジークが……。
「ジーク、おいもアイスも美味いぞ」
「あれ、ゲオルグは全種制覇派?」
 その時、雨泽が甘味所へ訪れた。やあとゲオルグとジークに挨拶をし、どれも美味しそうだねと笑った。
「雨泽も甘味を?」
「勿論。僕は僕の気になることにしか誘わないからね」
 大の甘味好きだよと胸を張って宣った雨泽は『雨を識る』チック・シュテル(p3p000932)に呼ばれ「今度動物カップケーキのお店でもどう? 生クリームのふわふわ羊が可愛くて……あ、羊がもし駄目なら猫もクマもあるよ」なんて告げてから去っていった。慌ただしいが、悪くはない。
「明日の帰りに、チョコも買って帰るか」
 チョコレートは洋酒にも合う。此処の宿で売られている『華しょこら』は愛らしいから、ジークと選んで買うのもきっと楽しいだろう。
「雨泽、おいもアイスを買う、したよ」
「ありがとう、チック」
 幹事として方方に顔を出し、支佐手に引っ張り回され、そうして女将にも挨拶に行っていた雨泽はチックに先に買っておいてとお願いしていたのだ。
「どこで食べたい?」
「ん……。雨泽のおすすめは?」
「じゃあ椿園にしようか。こっち」
 片手はアイス。残る片手は君の手を引いて。
 まんまるの月の下を歩いて、椿の香りを感じて。そうして腰を落ち着ける間にもアイスクリンが溶けていく。
「チック、垂れそう」
「わ、あ……っ」
 秋らしく風はひんやりと心地よいが、焼き芋が温かいからアイスが溶けてしまう。慌ててあむあむと食べながら雨泽を見遣れば、一口一口が大きいのか雨泽はもう食べきってしまったようで、静かに月を見上げていた。
 夜は晒されている赤い角が輝いて、白い髪に反射している。瞳は真っ直ぐに店へと向けられていて、心地よさげに口元が緩んでいた。
「綺麗だね」
「……うん」
 その横顔を思わずジッと見てしまっていた事に気付き、慌ててはむっと芋を頬張る。
(丸い月はいつ見ても綺麗だけど……)
 今日の月は格別だと思うのは『秋』だからだけではなく、大切な人と一緒に見られたから……なのだろう。
「また来年も一緒に見ようね」
 未来のことを雨泽が口にしてくれることが嬉しい。
「雨泽?」
 けれどふいに手が伸びてきて、驚いた。
 指先は口の端に触れて離れ、雨泽がその指を舐める。
「芋とアイス、ついてたよ」
「そ……いうのは、口で、言って」
 心臓を跳ねさせて身を固くすると、雨泽は「取ってあげたほうが早くない?」ときょとんとした顔で。
 想いぞ知るは、月ばかり。

成否

成功

MVP

咲花 イザナ(p3p010317)
花咲く龍の末裔

状態異常

なし

あとがき

お芋、甘くて大好きです。
皆さんにとって楽しい時間になっていたら幸いです。
また遊びましょうね!

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