PandoraPartyProject

シナリオ詳細

霧深き猫の村。或いは、あなたも猫にならないか…?

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●黒猫の里
「にゃんだこれは!」
 気が付けば猫になっていた。
 エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)は、いつの間にか白い猫になっていた。
 澄んだ川の流れに映った自分の顔を凝視して、エントマはたまらず絶叫をあげた。
 黄色い瞳に、ピンと尖った両の耳、アンテナのように長く伸びた髭もある。肉球の色はピンクであった。間違いなく、猫である。白猫である。愛らしい猫の顔が水面に映っている。
「にゃんでぇ?」
 にゃんで……もとい、何で猫になっているのか。
 そもそもここは何処なのか。ぐるぐるしている脳を必死に働かせ、ここに至るまでの経緯を思い出す。 

 にゃる……!
 にゃる……!
 どこか遠くから、ノイズ混じりの歌声が聴こえた。
 ぼんやりと歌声を聞き流しながら、エントマは山道を歩いていた。
 どれだけの距離を歩いただろう。
 どれだけの時間を歩いただろう。
 覚えていない。そもそも、自分がどこに向かっているのかさえも覚えていない。
 歌声に導かれるように、ただ“どこか”を目指して、山道を歩いていたのである。
 それから、しばらく……。
 歩いて、歩いて、ただまっすぐに歩き続けて、やがて黒い門を見つけて……。
 その門を潜ったところまでは記憶にあった。
 門を潜って、そこでプツンとエントマの意識は曖昧になる。

「そうだった。門だ! 門を潜ったんだった!」
 そう叫んで、エントマは背後を振り返る。
 果たして、そこにあったのは霧に包まれた村である。霧の向こうに見える家屋の形状から、ここが豊穣の山村であることが分かった。
「にゃんだこれ」
 異様である。
 明らかに異様な村である。
 空が赤い。空高くには黒い太陽が浮いている。
 こんな風なおかしな空に覚えは無い。空がこんな色をしているはずはない。
 そもそも、人が猫に代わるはずはないのである。
「夢……にゃの? 夢にゃら覚めてほしいんだけど」
 爪で顔を引っ掻いてみる。
 少し、痛い。
 痛いだけで、目が覚める気配はない。
 痛みはどうも、本物のように思えた。
「やっばぁ……これ、この霧の深い村を歩いて、門のところまで戻らないといけにゃいやつ?」
 さぁ、っと血の気が引く音がした。
 もしもエントマが白猫になっていなかったなら、きっと今頃、顔色は青ざめていたことだろう。
「……にゃぁ」
 自然と、口から猫の鳴き声が零れた。
 自分の意思が、まるで本物の猫に侵食されていくような感覚がした。
 これは良くない。
 時間が経過してしまえば、エントマはきっと“本物”の猫になってしまう。本能的にそれが分かった。そして、恐ろしいことに「猫になって、のんびり過ごすのも悪くないかな」と、そんなことを思ってしまった。
「逃げにゃきゃ。この村から。霧の中を突っ切って……門のところまで!」
 勇気1つを胸に抱いて。
 エントマは、霧の中へと足を踏み入れたのだった。

GMコメント

●ミッション
霧深い村から脱出しよう

●状況
門を潜ったところで記憶が途絶えています。
気付けば、霧深い村の端の方に立っていました。
霧が深くて、村の様子はよく分かりません。数メートルほど先までしか視認できません。
また、村には人の気配が全くありません。
人の気配はありませんが、人の影は時々見えます。
そして、猫になっています。

●猫
あなたの心に猫はいますか?
心の猫を解放しましょう。
時間の経過と共に、皆さんの意識は徐々に“猫”へと近づいていきます。
なお、特に指定が無い場合は猫化した皆さんの柄は、髪や肌の色を参照します。
猫になってしまう前に、門を潜って村から脱出しましょう。
なお、猫になっていても人間の言葉を話せます。
今のうちは……。

●エントマ・ヴィーヴィー
白猫の姿をしています。
村からの脱出を目指し、積極的に門を探しているようです。
効率的に門を発見したい場合には、彼女と協力するのもいいかもしれません。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】歌が聴こえた
「にゃる……♪ にゃる……♪」不思議な歌に導かれて門を潜りました。

【2】門を見つけた
山中で不思議な門を見つけました。門があれば潜りたくなるのが人の性です。

【3】猫を追って来た
猫を追って門を潜りました。気づけば自分が猫になっていました。


霧深い村から脱出しよう
霧深い村からの脱出を目指します。ここでは皆さんの初期猫度数を選択していただきます。

【1】猫度数20%
しっかりと自我を保てていますし、人の言葉も問題なく操れます。村からの脱出を目指し行動します。

【2】猫度数40%
猫化が進行しています。時々、心が猫に侵食されて、昼寝をしたり、何かを追いかけたりといった猫的な行動を取ってしまいます。

【3】猫度数70%
猫化がすっかり進行しています。自我は曖昧になり、行動も猫に近しいものとなります。もはや門のことも忘れかけています。

  • 霧深き猫の村。或いは、あなたも猫にならないか…?完了
  • 猫の日ですね。9月に猫の日が無いのは寂しいですよね。なので、今日は“猫の日”とします。
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月18日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)
極夜
アルム・カンフローレル(p3p007874)
昴星
カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ライ・ガネット(p3p008854)
カーバンクル(元人間)
ハンナ・フォン・ルーデル(p3p010234)
天空の魔王

リプレイ

●旅に出よう、霧深い村へ
「にゃ~る、にゃるにゃる、にゃるしゅたん♪」
 猫が歩いていた。
 白い猫が、歌いながら霧の中を歩いていた。
「いや、ほんと、にゃにすればいいんだっけか」
 エントマである。
 変わり果てた姿のエントマである。身体はすっかり猫と化し、もうしばらくもすれば自我さえ猫へと変わるだろう。
「門のところに行かにゃきゃ……門、門、どっちだろ?」
 うろうろ、うろうろ。
 平時であれば、そこそこ優秀な方向感覚も今ばかりは頼りない。深い霧と、慣れない土地という2つの条件が悪い風に組み合わさった結果である。
 と、そんなエントマの目の前に1匹の猫が跳び出して来た。
「ふにゃーーー!!」
 全身の体毛が逆立っている。髭もピンと伸びている。
 跳び出して来たのは、1匹の白い猫だった。猫らしくない、ふわふわとした毛並みはいっそ羊か何かのようだ。
「にゃぇ……歌につられて……エントマさま?」
 羊であった。
 ふわふわの白猫は『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)であった。目を丸くしたメイメイを見て、エントマは目を丸くした。
 まさか、こんな霧深い場所で自分以外の猫に……違った、人に会うとは思わなかったのである。
「メイメイさん? あ、もしかして貴女も門を?」
「めぇ……? 門なら其処に……」
 短い前脚で空を掻きながら、メイメイは自分の背後を指し示した。
「あ、ありません……潜った筈にゃのに」
 そこにあるのは、ただ霧深い村の光景だけである。

 2匹の猫が相対している。
 片や、茶色い細身の猫。
 頭部から伸びた長い体毛に、目元が覆い隠されている。
 片や、闇夜の如く黒い猫。
 意地の悪い笑みを浮かべたような顔をした猫だが、どういうわけか瞳孔が四角い。まるで山羊のようだった。
「何だお前は……その気配、猫では無いな?」
 やんのかステップを踏みながら、茶色い猫……『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が黒い猫を威嚇していた。
 対して黒猫は、にたにたとした笑みを浮かべてアーマデルを眺めると、まるで嘲笑するかのような声音を零す。
「猫だろ、俺も、お前も。はっはー、ミイラ取りがミイラになっちまったな」
黒猫の正体は『極夜』ペッカート・D・パッツィーア(p3p005201)であった。自慢の黒い山羊角も、猫になった今はすっかり失われている。
せいぜいの名残りと言えば、猫らしくない四角い瞳孔ぐらいのものだ。
「俺は猫……? いや違うだろうこいつらが猫で俺はヒト……この黒い太陽は……うっ、頭が」
 アーマデルが頭を抱える。
 だが、猫が顔を洗っているようにしか見えない。猫の身体の扱いに、未だ不慣れなのだろう。ともすると、自分の身体が猫に代わっていることに気が付いていないのかもしれない。
 ペッカートは、優雅に前脚を舐めながらアーマデルへ言葉を投げた。
「落ち着けよ。アーマデルも、門を潜った口だろう?」
「門……あぁ、そうだ。黒猫を追って門を潜った」
「じゃあ、俺たちは同じ穴の狢……いや、猫だな。俺も猫を追って来た。猫の行先の雰囲気が良くなかったから保護するつもりがどうしてこうにゃったんだか」
 と、そこで言葉を途切れさせたペッカートは、慌てて自分の口を押えた。
「にゃ?」
「まずいにゃ……」
 猫化が徐々に進行している。
 2人が自我を保てる時間は、そう長くないのかもしれない。

「にゃん?」
 霧中を歩く灰色の猫。どこか眠たそうな顔をした立派な体躯の猫である。世が世なら、地域のボス猫に君臨することも出来たであろうが、悲しいかな『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)の本性は人である。
「なんだろうここ、不思議なところだなぁ。迷っちゃった……どっちから来たっけ」
 アルムもまた、これまでの例に漏れず、門を潜って村に迷い込んだ1人だ。
 人を猫に変えるのは、果たして門か、それとも霧深い村の方か。どちらにせよ、好奇心で首を突っ込むには、些かここは危険な場所であるらしい。
「探し物かな? だったら、こっちだ」
 アルムの頭上で声がした。
 見上げれば、そこにいたのは小柄な1匹の黒猫。
 言葉を発しているということは、黒猫もまた誰かが猫に姿を変えたものなのだろう。
「にゃ?」
「ついて来るといいよ」
 詳細を口にはしなかったが、黒猫……『数多異世界の冒険者』カイン・レジスト(p3p008357)は躊躇いの無い足取りで、塀の上を歩いて行った。

 村の外れの民家の裏で、2匹の猫が額を合わせてひそひそと言葉を交わしている。 
 灰色の小さな猫は『天空の魔王』ハンナ・フォン・ルーデル(p3p010234)、そしてもう1匹、額に赤い宝石を持つ青毛の猫は『カーバンクル(元人間)』ライ・ガネット(p3p008854)である。
「にゃぁ……これは、どうしたことでしょう。猫になって、出口も分からず……あなたもですよね?」
 ライの顔や耳の辺りを様々な角度から観察しつつ、ハンナはそう問いかけた。
 擽ったそうに身をよじりながら、ライは自分の手元を見やる。
 そこにあるのは、肉球のついた小さな手だ。
「俺、猫になっちまったのか……」
「あまり動じてにゃいですね?」
「うーん、元々カーバンクルだったせいで衝撃があんま無いな」
 なるほど、確かに今のライの手は獣のそれだが、そもそもの話、ライは日頃からカーバンクルの姿をしているので、あまり違いが分からない。
 ある意味では、いつもの通りであるとも言える。

●日向を求めて
 霧深い村の一角。
 倉庫らしき背の高い家屋の屋根の上には、暖かな光が差し込んでいる。丁度、霧の晴れ間から太陽の光が降り注いでいるためだ。
 陽だまりの中、2匹の猫が身体を丸めて安らかな寝息を立てていた。
 1匹はカイン。もう1匹はアルムである。
「どうだい? いい場所を見つけたものだろう?」
 ふにゃふにゃと眠たげな声で、カインは言った。
 目を閉じて横になった黒猫の腹が、規則正しく上下にゆっくり動いている。
「あぁ、暖かいにゃぁ。よく、こんなところを見つけよねぇ」
 同じく、ふにゃふにゃとした調子でアルムが答える。
 付いて来るといい、と。
 そう言うカインの後を追いかけたところ、この場所に案内されたのだ。霧深い村の中においては一等珍しい“暖かな陽だまり”に着いた2人は……2匹は、本能の誘惑に抗えないまま、こうして昼寝としゃれこんでいた。
「あ~、ぼんやりするにゃぁ」
 欠伸を零す。
「よくこんなところ見つけたよねぇ」
 夢心地のまま、アルムが問うた。
 こちらも同じく夢心地のまま、カインはくすりと笑い声を零す。
 一見すると灰色の猫と黒猫とか、陽だまりで微睡む喉かな光景だが、2人が人であり、門を潜って帰還しようとしていたことを知ってしまえば、むしろ異様な有様だ。
「あちこち調べ回ったんだよ」
「好奇心ってやつかい?」
「そう。好奇心は猫も殺すし冒険者も殺す。即ち大体猫≒冒険者と言う事……!」
 猫とは臆病で、それでいて好奇心の強い生き物だ。締め切った扉や襖があれば、なんとしてでも開けようとする生き物だ。
「気になる事があったら首を突っ込むのが冒険者って奴なんだよにゃー」
 そう言う割に、陽だまりで微睡むという欲求には抗えないようだが。
 カインとアルムの猫化はどうにも深刻なようだ。

 霧の中を疾走する影。
 それは素早く、そして小さい。
 当然、猫である。
「猫しかいないのに、家屋があるのは何故かにゃぁ」
 そっと空き家を覗き込みながら、エントマは首を傾げている。霧深い村に人の姿は1つも無かった。それでいて、家屋の老朽化はさほどに進んでいないように見える。
 中には、つい先ほどまで人がいたかのような痕跡……例えば、湯気の立ち昇る朝食など……が残っている時もあった。
「にゃぁ……?」
 駆けて行く猫の影を目で追い、メイメイは目を丸くした。
 メイメイは猫の額に光る1つの赤色を見た。青い毛並みの猫の額には、宝石が埋まっているようだ。
 それが無性に気になった。
 あれは何かにゃ? という本能的な欲望を抑えることが出来なくなって、メイメイは赤い光を追って駆け出した。
「あ、ちょっとどこ行くのかにゃ!?」
「にゃあ……此処はにゃん海戦術…ねこさん達に話しかけて門を探します、にゃぁ」
 そう言い残し、あっという間に霧の中に姿を消した。
 まさに、猫まっしぐらであった。

「にゃぁぁ!?」
 ハンナが悲鳴を上げている。
 ハンナとライは、もつれるようにしてゴロゴロと坂を転がり落ちていく。
 子猫同士がじゃれ合っているようにも見える。
 ハンナとライは、すっかり興奮した様子で猫パンチを繰り出した。キックもだ。ラッシュ! ラッシュ! 猫パンチと猫キックの応酬が止まらない!
 喧嘩だろうか? 
 否、じゃれ合っているだけだ。
 猫はこのようにして、狩りの練習をするのである。
「止められない、止まらないにゃん」
 ライのパンチを回避し、ハンナは素早く数歩ほど後ろへと跳んだ。そのまま、やんのかステップを踏んでライを威嚇。
 対してライは上半身を伏せ、下半身は持ち上げた、跳びかかる寸前といった姿勢を取った。尻尾がピンとまっすぐ立っている。
 こうなった時の猫は怖い。
 ちょっとしたきっかけで、瞬時に攻撃へと移れる姿勢だ。何度もやられたし、引っ掻かれた。
 数瞬の睨み合い。
 そして、ライが地面を蹴って跳び出した。
 けれど、しかし……。
「にゃぇ……喧嘩は、だめ……」
 パシン、と。
 跳んだライの頭を、メイメイの手が叩いて止めた。

「はっ! 一体、どうしたんでしょうかにゃん」
 先に正気を取り戻したのはハンナであった。
 愕然とした表情……ちょうどフレーメン反応を示しているように見える……を浮かべ、自分の額に手を当てた。
 毛づくろいをしているようにしか見えないが、ハンナは確かに困惑していた。
「さっさと門を見つけないとまずいかもしれないな……獣の本能が抑えにくい」
 ライは項垂れ、そう呟いた。
 尻尾はくるりと丸まっている。どうやら落ち込んで着るらしい。
「普段はもっと自我を保てるんだが」
 突然、獣の本能に心を支配されたのだ。
 ある瞬間に、衝動を抑えきれなくなった。どうにも目の前のハンナに跳びかかって、攻撃しなければいけない感覚に心を飲まれた。
 ハンナの方も同様だ。
 ハンナやライは知らないことかもしれないが、猫にはそういうところがあるのだ。ある瞬間、突然に野生の心が、狩人としての本能が目覚める瞬間があるのだ。
「困ったにゃん」
 言葉の通り、困ったような顔をしてハンナはがっくりと肩を落とした。

 数は力だ。
 戦闘、探索、建築……その他、あらゆる分野において数の多さは成果に繋がる。当然、霧に覆われた村の探索においても、同じことが言えた。
「え……え?」
 規則正しい足音が聞こえる。
 霧の中を、大勢の何かが行進している。
 エントマの視界、霧の中より現れたのは茶色い猫に率いられた、黒猫の大軍であった。位置関係から判断するなら、茶色い猫がボス格だろうか。
 となれば、その傍らの山羊目の黒猫が参謀といったところであろう。
「んぇ!? アーマデルさん?」
「ん? その声、もしや、我が友エントマではないか?」
 不思議なもので、仮に姿が猫に変わっていたとしても、知人であればそれが誰だか分かるのだ。
 実際のところ、人は他人を“外見”だけで誰と認識しているわけではないのである。声や仕草、体格、その者が纏う雰囲気など多様な要素が相まって、人は他人を“誰”か認識しているのだ。
 故に、猫の姿であってもエントマとアーマデルは互いが誰かを認識できた。
「え? にゃにしてるの?」
「決まってんだろ。門を探してんだよ」
 呵々と笑ったペッカートが、地面に爪で線を引く。
 どうやら、ここまでの間に調べて回った村の地図であるようだ。
「ぐるりと外周を周って来たが、どうにも門は見当たらにゃい」
 不可思議な話だ。
 そもそも、エントマたちは村の外から門を潜ってやってきたのだ。だと言うのに、肝心の門が村の外周沿いに存在しないというのはあり得ない。
「あり得にゃいけど、まぁ……」
 そもそも、人が猫に変わるという現象自体があり得ないことなのだから、そうなればもう“それはおかしい”なんて言っても意味が無い。
 不可思議なことは、それとして飲み込む方がいい。
「村の外には出て見たにゃ?」
「いや。村の外には出られにゃいようだし、どこかにある門を見つける他に術はにゃいのかもにゃ」
 門は発見できなかった。
「でも、それは成果だにゃ。外周沿いに門は無い、という成果」
 そして、村から外には出られないことも判明した。
 村のどこかに門が確かに存在するというのなら、それはつまり、村の内部のどこかということになるだろう。
「まぁ、焦ってもしょうがにゃい。のんびり探すとするさにゃ」
「あぁ。いくぞクロネコズ、絶対に帰るんだ」
 そうして、霧の中へと立ち去っていく猫の群れにエントマは付いていくことにした。
 どこかへ行ったメイメイの安否も気にかかるが、エントマ1人で探し回るよりは、アーマデルたちに随行した方が再会の確立も高くなるだろう。
 繰り返すが、数とは力なのだから。

●門を潜ろう
 にゃる……♪
 にゃる……♪

 歌が聞こえていた。
 少しだけ不穏で、少しだけ愉快な、そんな雰囲気の歌が聞こえていた。
 その歌はまるで、霧の中から滲むように、村中にいた誰しもの脳裏に染みわたる。鼓膜を震わせるのではなく、脳を直接に搔きむしるかのような歌声。
 脳髄に刻まれた歌声と旋律は、決して消えることはない。
「にゃ? この歌……にゃんだ?」
「あぁ、そうだった。帰らなきゃ、友達に心配かけちゃう」
 微睡んでいたカインとアルムが歌に気付いた。
 首を上げて、視線を村の中央へと向ける。猫の聴力は敏感だ。人の可聴域のおよそ3倍~5倍ほどには優れている。なお、猫は自分の興味関心が無い音は、敢えて聴かない、聴こえないふりが出来ると言うが本当だろうか。
「……帰るってにゃんだっけ?」
 歌声に耳を傾けながら、アルムは「くぁぁ」と欠伸を零した。

 ライの猫化は深刻だった。
 初期の段階からハンナやメイメイよりも幾らか猫化が進行していたのだから、その分だけ、その心が猫に侵食されるのも早い。
 そもそも、元の姿がカーバンクルである。
 ライの心には、最初から“猫がいた”のである。
「にゃぁ……疲れ……た」
「あっちこっちに行こうとしてましたからにゃん」
 そんなライを誘導し、時には引き摺るようにして、メイメイとハンナは村の中心部へとやって来ている。丁度、歌が聴こえて来た方向である。
 何かの影を見つける度に、それを追いかけようとしていたライをここまで連れて来るのは大変だった。首の後ろを噛むと大人しくなる、という事実にハンナが気が付かなければ、きっともっと、長い時間を必要としていたことだろう。
「にゃぉ。にゃぉ」
 ライが鳴いていた。
 メイメイは、ライが何処かに行ってしまわないように押さえながら、視線を上へ。
「にゃぁ……これ……」
「どうしましょう? にゃん」
 3匹の前には門がある。
 夜闇を塗り固めて作ったみたいな、黒くて巨大な門である。
 しっかりと閉じられた門を、3匹だけで押し開けることは出来そうにない。
 けれど、しかし……。
「歌が聴こえていたのはここか」
 3匹の背後、霧の中から無数の足音が響く。
 
 数とは力だ。
 1匹で足りないのなら2匹で。
 2匹でも足りないのなら、もっと多くの力を1つに束ねればいい。
「押せ! 押すんだ! もっと、力の限りに!」
「にゃぁ! 開門するにゃ! 俺たちが正気でいられるうちに!」
 アーマデルとペッカートの号令に合わせ、黒猫たちが門を推す。なお、エントマは既に完全に猫化していて戦力にならない。今は虚空を……何も無い場所をじぃっと凝視しているところだ。
 猫は時々、そんな風に何も無い場所を観察する。
 
 門を押す猫の群れ。
 まるで津波のようである。メイメイやハンナ、カインもそこに加わった。
 アルムとライ、エントマは虚空を眺めているが。
 完全に猫になってしまった。門を潜れば、元に戻るのだろうか。不安である。
 やがて、ギィと軋んだ音を立てて門が開いた。
 ゆっくりと開いた門の向こうには、ただ暗闇だけが広がっていた。
 
 にゃる……♪
 にゃる……♪

 歌声が聴こえる。
 猫の群れが、門の向こうへ雪崩れ込む。
『ねっこ』
 門を潜るその瞬間。
 メイメイは、確かにそんな黒猫の鳴き声を聴いた。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

あなたの心に猫はいましたか?
心の猫は解放できましたか?
猫を崇め奉りましょう。

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