＜渦巻く因果＞揺れる心の傾く前に

オープニング

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　――あたしは、帰りたいのだろうか。
　自分の気持ちが分からなくて、色々な人の気持ちを聞いた。
　その１つ１つが佐熊 凛桜（p3n000220）にとっては目を瞠るような意見だった。
　思ったのは、色々な人がいて、その人達それぞれなんだなってことだった。
「――あたしは、帰りたいのかな」
　あの世界には、きっとまだ元気な両親がいる。
　友達だと言える人たちだっている。
「……逆に、あたしが帰りたくないとしたら――それは、どうして？」
　ぽつりと呟いた。
　その理由が解れば、このもやもやが取れる気がして――少しだけ考えてみた。
　少しだけ考えても、分からなかったから、時間を掛けて考えてみた。
　そして、ふと気づいたのだ。
　それはどこか物哀しい現実で、胸が引きつけられるような感覚でだった。
（あたしがどうしてこんなにも分からなくなってるのか。
　多分、あたしは『向こうにいた頃と大して環境が変わらないんだ』）
　両親と会えないのは、少しだけ思うところはあるけれど。
　実のところ、凛桜は良くも悪くも、両親からは放任されてきたのだ。
　それは両親の信頼だったのかもしれないし、ある意味、見放されているとでも言えたのかもしれない。
　それでも、中学を出て、高校に入るまで育ててくれたのだから、感謝してもしきれないけれど。
（だから、この世界に慣れてしまって、向こうに執着がわかなくなってるんだ……）
　それは、気付いてしまったら最後、自分の薄情さに怖くなる現実だった。
「……よし、考えないようにしよう」
　それは現実逃避以外の何物でもないけれど――そもそもそんなことを考えている場合ではなくなるとは思っていなかった。

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　血の臭いがこびりついている。大地が血の色に塗り替えられるのもそう遠くなかろう。
　夥しい人の死体が、機能停止して崩れ落ちたゼロ・クール達が転がっている。
　物見遊山の空気さえ感じさせながら、魔王の軍勢は蹂躙を続けていた。
「酷すぎる。いくら、先輩たちをおびき寄せるためだからってここまでする必要ないでしょ。
　行こう先輩たち、幾ら何でも酷すぎる……！」
　声を震わせる凛桜が術式を展開して走り出そうとした――その時だった。
「……ふぅん、そんなところにいたんだ。貴方達、少し下がって」
　不意にそんな声を聞いた。女性の物だ、それも若い。
　終焉の獣たちが、声に従うように引き下がっていく。
　奥から姿を見せたその人物はローブに身を包み、フードを目深にかぶっていて容姿は定かでない。
　その全身からはイレギュラーズの良く知る気配があった。それはこの戦場においては濃い――滅びの気配。
「こんにちは、同胞の皆さん」
　いっそ朗らかに、その人物は笑ってみせる。
　周囲の人々を蹂躙する悍ましき戦場で、それとはまるで対照的に笑ってみせる。
　あまりの朗らかさに毒気を抜かれかける者もいたか、あるいは逆に警戒を高めた者もいるだろう。
　ここは戦場で、蹂躙の只中で――そんな時に朗らかに笑って話しかけてくる存在が『まとも』なわけもないのだから。
「――私は魔王様にお仕えしてるの。折角だからご同胞の皆さんにご挨拶をしようかなって」
　からりと笑って、その人物は懐に手を置いて――すらりと日本刀を抜いた。
「ねぇ、ご同胞の皆さん。折角だから、取引をしましょう。
　取引の内容は簡単よ、その凛桜って子を私にちょうだい？　それが嫌なら――そうね、貴方達の首を貰いましょうか」
「……へ？」
　思わず凛桜が素っ頓狂な声をあげた。
「……なんで、あたしの名前、知ってるの？」
　まだ、名乗ってないはずなのに――

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　勇者パーティーとなる者達との逢瀬を果たしたイレギュラーズはアイオンと共に『魔王イルドゼギア』の元を目指すことを決めた。
　――だが、状況は待ってなどくれなかった。
　イレギュラーズがアトリエ・コンフィーのお手伝いとして活動を始めたのを察知したのか、の配下である四天王はイレギュラーズの前に姿を見せて宣言する。

　曰く『我々はこの世界を滅ぼし、混沌世界へと渡航する事に決めた』と。
　選ばれた世界の住民達しか『混沌世界』に渡ることが出来ない、滅びに抗えるお前達を捕え混沌に渡る手助けをして貰おう。

　それはイレギュラーズへの宣戦布告であり、それを証明するようにヴィーグリーズの丘やその周辺での虐殺を開始した。
　だが、その台詞にはある意味で宣戦布告よりも意味のある事があった。
　彼らはプーレルジールの人間でありながら知っているのだ。
　混沌世界のことを、イレギュラーズの事を。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

サポートNPC一覧（1人）

リプレイ

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「えっ！　もちろん嫌でござる！」
　なんの躊躇いもなく『忍者人形』芍灼（p3p011289）はそう口に出した。
「どうして？　同胞さん達はたくさんいるでしょう？　ならその子一人ぐらいもらっても良いでしょう？」
「それがし達を誘き寄せるために各地で虐殺を行うような輩がろくな奴らな訳が絶対ありませぬので、先輩の凛桜殿は渡せませぬ！　いえ仮に後輩でも渡せませぬが！」
「……先輩たち」
　佐熊 凛桜（p3n000220）がその声に気付いてハッと我に返ったように小さく呟いた。
　対照的にくすくすとフードの奥で女が笑った。
「凛桜殿！」
　芍灼はそのまま凛桜に声をかける。
　不思議そうに眼を瞬かせた凛桜に笑いかけるようにして。
「それがしアーカーシュで発掘されて、かなり最近イレギュラーズになりましたので凛桜殿は先輩にございまする！
　それがし、後輩にございまする！えへん！」
「こ、後輩――」
　驚いたように目を白黒させる凛桜にもう一度「後輩にございまする！」と胸を張って言えば、緊張を解したように凛桜が微笑んだ。
「ありがとう、芍灼さん」
「急にきて誰かをよこしなさいって言われて、はいそうですかなんて言えるわけないじゃない」
　応じるように『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア（p3p000282）もまたそう言いながら、凛桜の傍へとオディールを寄り添わせた。
「残念だったなァ。俺達は仲間を売るなンざ卑劣な手段はやらん。
　それに『頂戴』なんて凛桜に失礼だ。凛桜は物じゃねぇ！　お前はぶっ潰す！」
　魔力を回しながら『祝呪反魂』レイチェル＝ヨハンナ＝ベルンシュタイン（p3p000394）は、静かにそう告げて弓を構えた。
　それはブレイ・ブレイザーを剣のようにして構えた『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト（p3p010126）も同じく感想だった。
「我々を同胞と呼び交渉を行っているようでありますが……貴方のやっていることは単なる虐殺でしかない。
　そんな貴方に……彼女、我々の仲間を引き渡すつもりなど一切ない！　断固としてお断りする！
　そして我々の首をくれてやるつもりも…毛頭ない！」
　一喝を飛ばせば、女は「そう」と小さく応じると後退していく。
　変わって終焉の獣たちがまた道を塞ぐように壁を作る。
「イレギュラーズを捕まえて混沌に飛ぼうってサクセンは思い付かなかったね！」
　一方の『黒撃』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン（p3p002377）は今回の状況の根幹たる事情に思いを馳せる。
「素敵でしょう？　私もそういう手段が出来るなんて思わなかったわ」
　終焉の獣の向こう、女が小さく答えた。
「――でも、そんなことが出来ると思ってる考えがアマイよ！」
「そう？　出来るかできないか――試してみましょう」
　柔らかく朗らかに女は笑っているように聞こえた。
「詳細を伺いたいところですが、そう悠長にしていられませんね」
　そう槍を構える『刑天（シンティエン）』雨紅（p3p008287）は周囲に視線を巡らせる。
　終焉の獣たちが何故か目の前のフードの女に応じて大人しくしているだけで、ここは戦場のど真ん中だ。
「わたくしは线。傭兵として馳せ参じました。
　必ずやあなた様をお守りしましょう」
　凛桜の隣に立ち、『運び手』线（p3p011013）はそう声をかけるものだ。
　柔らかな髪をふわりと流して、妖艶に笑って見せれば、凛桜が少し驚きつつも「ありがとう」とお礼を言った。
「交渉は決裂、それは仕方のないこと――なら首を頂きましょうか」
　そんな声の刹那、終焉の獣たちの咆哮が戦場をつんざいた。
「可愛い妖精の首、取れるものなら取ってみなさい。惑わされてここまでたどり着けないでしょうけど！」
「それなら妖精さんこそ、私の場所まで辿り着けるか試してみる？」
　オデットがいえば戦場の奥で女が笑った。
「交渉というのなら、応じれるような選択肢を持ってくることだ！」
　静かに告げる『修羅の如く』三鬼 昴（p3p010722）は金剛のごとき闘氣を纏う。
　元より、難しいことを考えるのには向いていない。
「――待っていろ。少しでも早く殲滅する」
　滾る闘志と共に昴は凛桜へとそう声をかけた。

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「驚かないでね？」
　オデットはそう改めて声をかけてからその手に魔力を束ねていく。
　妖精は騎士のごとき姿の終焉の獣へと視線をやり、天に祈りを捧ぐ。
　それは祈りは術式に代わり、空に浮かぶのは小さな太陽。
　それはゆっくりと地上に降りていき、一帯を焼き払う。
　その炎には熱はなく、けれど運命を狂わせる呪いが込められている。
「お前たちは自分が止める！」
　ムサシは終焉獣の眼前にまで飛び込むと共にそう声をあげた。
　視線の先にある騎士のような装いの終焉獣たちが一斉に視線をあげ、ムサシの方を見る。
　滾る熱は守るための誓い、その意志にほかならぬ。
　燃える情熱は確かに騎士たちの動きを封じ込めるのには十分すぎるだろうか。
（そういえば、この世界では魔種はまだ確認されていなかったような。
　滅びの気配を纏っているということは、彼女がその魔種に該当する存在なのでしょうか。
　それとも人型の終焉獣とか……そういう？）
　芍灼は内心で疑問を抱きながらも愛刀を手にシャドウマジシャンめがけて駆け抜ける。
（……では、同胞とはなんぞや？）
　仮にも魔種や人型の終焉獣に相当する存在と仮定して、それでは『同胞』の意味が解らない。
　乱撃を打ち込みながら、内心の疑問に思いを馳せる。
　昴は先程の宣言を現実にすべく最前線へと駆け抜ける。
「まずはお前からだ！」
　踏み込むと同時、足を振るう。それはただの回し蹴りにすぎぬ。
　それでも鍛え上げられた昴の足で以てすれば終焉の獣達の身体を削り取るのには十分すぎる。
　乱打が身体をえぐり、黒い靄が揺れながら世界へと還っていく。
（アイツはマトモじゃねぇ。昔の顔見知りとかお前の過去を知ってても耳を貸すんじゃねぇぞ）
　レイチェルは凛桜にそう声をかけてから弓を引き絞る。
　内に秘めた熱に導かれるように引かれた弓に紅蓮の炎が一条の矢を作り出す。
「――厄介な奴から狙うのが定石だろ？」
　放たれたる復讐の炎が天より降り注ぐ。
　終焉より来る獣を焼き尽くすべく復讐の炎は収まることなく更なる天輪を描いて燃え盛る。
「そう容易くは通しません」
　続くままに线も戦場に雷光を走らせる。
「一人も欠けず、皆で揃って帰る。私達の役目は、そこまで含めてのもの。共に切り抜けましょう、凛桜様」
　雨紅は改めて凛桜へとそう語りかけてから、槍に力を込めた。
　全霊の力で振るう刺突と薙ぎ払いが数多の斬撃を作り出す。
　それらは終焉獣を一掃するようにして戦場を駆け巡る。
　痛撃に煽られるもの、避けようとするもの、それらの紡ぎだすはダンスのようである。
「同胞だっけ？　キミもイレギュラーズだったりするのかい？　オレとは直接会ったことはないよね？」
　イグナートは戦陣を縫うようにして走りこんできた女の前へと踊りこんだ。
「ええ、初めまして。色男さん。でも、貴方の名前と活躍は何度か見たことがあるわ」
　正面から撃ち込んだ拳は女の刀とぶつかり合う。
　黒き呪腕と気功術を駆使すれば刀程度に斬られることはない。
「顔を見せてもらうよ！」
「そうたやすく取られては隠している意味もないでしょう？」
　笑う女の声が少しばかり余裕を無くしたのをイグナートは確かに感じ取っていた。

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「いかせねェ！」
　レイチェルが剛弓を引き絞る。
　その先は凛桜の下へと向かおうとした女の姿がある。
「復讐するは『我』にあり──」
　短縮詠唱、威力よりもまずは、足を止めること。
　全霊で撃ち込んだ炎の矢が女へ向けて走り出す。
　気付いたらしい女が跳躍してそれを躱すことを、レイチェルは半ば解っていた。
「堕ちろ！」
　それは放物線を描いて落下するアンジュ・デシュ。
　堕天の冠が女の腹部あたりを貫いて輪を描き周囲へと走り抜ける。
「今度こそ、その下を見せてもらうよ！」
　イグナートは踏み込むと同時に拳を叩きこむ。
　女をくぎ付けにしたままに振るう拳がフードの下を穿たんと奔る。
　とはいえ、イグナートが女を狙うのはあくまで凛桜への射線を切るためだった。
　その役目は完璧といっていいだろう。
「欲しい理由も言わない相手との交渉など、応じる気になりませんね」
　雨紅は眼前に立つザハークへと槍を叩きこみながらそう女へと問うた。
「ほしい理由なんて、言うまでもないでしょうに。凛桜もイレギュラーズでしょう」
　雨紅の言葉が聞こえたらしき女は寧ろ不思議そうにそう声を返してきた。
　今回の襲撃はイレギュラーズを使って混沌へと殴り込みをかけんとする策であるという。
　なるほど、凛桜が旅人である以上、彼女もまたイレギュラーズだ。
　狙うのは雨紅らを狙うのと何も違わないと言うことか。
「そういうことであれば――益々渡す理由はありませんね！」
　踏み込むと同時に放つ刺突が跳ねるような軌跡を描いてザハークの心臓あたりをさし穿つ。
「あなた達がどうして私達を必要としているのかは知らないわ。
　でも、そう言われて、はいそうですかって渡すわけにはいかないわ！」
　オデットは再び術式を戦場に照らしていく。
　燃え盛る太陽は戦場に熱を放ち、終焉の獣たちの身動きを封じ込めていく。
「――目標捕捉、解析結果、良好！　今であります！　ビームバスターッッ！！」
　放たれたビームレーザーが騎士のような姿をした終焉獣へと炸裂する。
　確かな命中精度を有したビームに焼かれた騎士たちが黒いヘドロのようなものをこぼしていく。
　滂沱の如く零れ落ちる終焉の気配が空気に溶けていく。
（やはり、あのローブ、以前の依頼で見掛けた敵と似た雰囲気を感じる）
　昴の脳裏にはあるゼロクールのことがあった――だが吹き飛ばされたその下は明らかに人の顔だった。
「貴様、『魔導師』の同類か？」
　飛び込みながら、昴は念のためにそう問いかけるものである。
「魔導師？　どこの誰のことか知りませんね」
　その身体から溢れる濃い終焉の気配は原罪の呼び声に他ならぬ。
（もしも奴と同じとすれば……ゼロ・クールか？）
　昴が全霊の闘志を込めた拳は、燃え上がるような熱を帯びた極限の一撃。
「正体を確かめさせて貰うぞ！」
　天運に任せ、追撃の一撃をも叩き込んだ。
　拳圧がフードを吹き飛ばせば、フードの下に隠されていた顔が驚きに揺れた。
　深い青色の瞳は澱みがないが、それが狂気を孕んでいないと言う評価には当たるまい。
「――し、志穂？」
　拳圧に吹き飛ばされたフードの下、そこにある人の顔。
　それを見た凛桜が目を瞠り小さく声を漏らした。
　ある者は言った。悩みも葛藤もない真にまっさらな純真は狂気にも等しいのだと。
　その考えからすれば目の前の女は間違いなく狂っているといえた。
　あぁもまっすぐに澄んだ瞳は狂気に違いない。
「凛桜殿も知っておられる方でござりまするか？」
　芍灼はその様子に驚きつつも、視線を志穂と呼ばれた女に向けた。
「……貴女は何者です？　魔種、ではないのでしょうが」
　芍灼の問いかけに、志穂と呼ばれた女が小さく笑う。
「私は旅人ですよ。その子と同じ世界からの来訪者。
　その子よりも、もう少しだけ後ろの時間から訪れた異界からの旅人ですよ。
　そして、旅人である以上、皆さんは『同胞』でしょう？」
　微笑んでみせたその意味は、解りやすい。
「ヤッパリ、オレ達と同じイレギュラーズって意味だったわけだ」
　イグナートの言葉に志穂は微笑む。
　旅人である以上、前提として彼女は『イレギュラーズ』に違いない。
「えぇ、まさか混沌からさえも放り出されて異世界に落ちるとは思いませんでしたが。
　――それじゃあ、また会いましょう、同胞さん達」
　終焉の獣たちに隠れるようにして、彼女は戦場の向こうへと消えて行った。
　それと同時、終焉の獣たちが動き出す。
　それはさながら『指示を与えていた司令塔を失い暴走する』ように。
「何度きても、我々の仲間は渡す気は毛頭ない！」
　ムサシは消えて行った方へとそう声をあげながら、ファンネルを射出する。
「行けッ！　ディフェンダー・ファンネルッ！」
　数は目に見えて減っているとはいえど油断はできまい。
　そう判断したムサシは一気にレーザーを打ち出していく。
「逃げたか……」
　昴は自らの回復に専念すると、小さく息を吐く。
（だが、あの気配、魔導師の物に似ているのも事実……）
　深く呼吸を繰り返してから、改めて迫りくる終焉の獣を蹴り飛ばしていく。
　それぐらいしか、やれることはない。
　乱撃は指揮系統を失った終焉獣を確実に削り落としていく。
「どうして？　どうして、志穂が――」
　声を震わせる凛桜へとレイチェルは声をかけた。
「落ち着け！　昔の顔見知りとかお前の過去を知ってる奴なんだろうが、今は前を向け！　受け入れて進むんだ！」
　その様子を見れば、凛桜にとっては目を瞠って驚き、混乱する立ち位置の相手であることは分かる。
　引き絞った炎が終焉の獣を焼き上げる。
「お前は俺らに欠けてる大事な戦力だ！」
　放つ炎が黒い靄さえ残さず終焉獣を消し飛ばしていく。
「凛桜様」
　雨紅は動揺する凛桜へと改めて声をかけた。
「此度、私は凛桜様に支えてもらいました。
　だから私も、喜んで凛桜様の力になりますとも。ですのでひと先ず今は！」
　迫りくる終焉の獣を押し返すべく舞の如く振るう斬撃が瞬く間に終焉獣に傷を入れる。
「大丈夫だから、あなたはあなたのできることに集中しなさい」
　オデットは続けるままにそう声をあげ、優しい太陽の光を戦場に降らせていく。
　原罪の呼び声を纏う旅人の娘は、既に消えた。落ち着かせることが最重要だと。
「……ありがとう、先輩達、ごめんなさい」
　声を震わす凛桜は、そう言ってふるふると頭を振った。
「でも……」
　ぽつりと、凛桜が口を開く。
「なんで？　なんで志穂はこんなことをするの……？
　こんな、たくさんの人を苦しめるようなことをする人じゃないのに……」
　回復術式を展開する凛桜の声は立ち去った女には届くまい。
　統率を失った終焉の獣達との戦いはそれからも暫くは続いていった。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

あとがき

お待たせして申し訳ありません。
お疲れ様でしたイレギュラーズ。