シナリオ詳細
<渦巻く因果>村娘の日常とその崩壊
オープニング
●ミシェーラの日常とその崩壊
村娘という生き方は単純だ。朝目覚め、井戸の水で顔を洗ったら近くの畑まで草刈りに出かける。
畑を耕し、育て、収穫し、そしてまた耕す。それを生まれてから死ぬまでくり返すのが村娘という生き方だ。
ゆえに村から出ることは稀で、この村娘ミシェーラもまた、村から出たこともなかった。それでいいと考えていたし、そうあることに疑問を持たなかった。
長く伸びる灰色の髪をゆい、長い野良仕事で荒れた手はしかし白く、年若い彼女を娶りたいと考える男もそれはそれは多いことであった。
さあ、今日も昨日と同じ一日がやってくるぞ。井戸で顔を洗いながらそう考えていると……その日常は、脆くも一瞬で崩れ去った。
空が青紫色のドームに覆われていくさまを見たことによって。
遠くからあがる悲鳴。『魔物』。『魔王軍』。『襲撃』という言葉が途切れ途切れに聞こえる。
「ミシェーラ、さがりなさい!」
農具を武器のように構えた父が前に出て、幼い妹を託すようにミシェーラへと預ける。
がちゃがちゃと聞こえ近づいてくるのは鎧の音だ。鎧を纏った、集団の音だ。
集団は……人間ではなかった。
人型こそしているが、首から上が狼の頭をしたコボルトという亜人モンスターである。
彼らは皆鎧や剣によって武装し、隊列すら組まれている。
「我こそは『獣王』ル=アディン様が配下、コボルトリーダーのゴルバスである」
中でもひときわ強力そうな鎧を纏ったコボルトはそう吠えるように言い放つ。
集まった村の人々は皆不安そうだ。当然だろう。村を弱いモンスターが襲うことはあっても、こうして強力そうなモンスターが村まで入って呼びかけてくることはそうないことなのだ。
「人間たちよ、諦めるがいい。いまこの村にはった結界は弱者の逃走を阻害するもの。貴様等程度がこの結界から逃れることは叶わぬ」
「ウオオ……!」
途端、ミシェーラの父が農具を振りかざしコボルトリーダーのゴルバスへと遅いかかった。一撃でも加えよう――というのだろう。だが、それは叶わない。
ゴルバスの放った大剣による横一文字斬りによって父の身体は上下に両断され、上半身が回転しながら地面へと落ちたのだった。
「ふむ、よいパフォーマンスになった。皆も見ただろう? 抵抗すればこのように死ぬことになる。今から……この者等の苗床となるがいい」
そう言ってゴルバスが部下に命じて大きな袋から解放したのは闇の気配を纏ったスライム状のモンスターだった。
「寄生型終焉獣だ。喜べ、貴様等は……これより我等が同胞となるのだ」
父の無残な死に泣き叫ぶ妹、悲鳴をあげるミシェーラ。
そんな彼女たちに寄生型終焉獣は遅いかかり、口や耳から入り込んでいく。
「あ……がっ……!?」
抵抗しようにも、もはやなにもできない。自らの意識までもが混濁していき、ミシェーラは、寄生型終焉獣の傀儡と化してしまったのだった。
●イグニスとゼロ・クールの日常
アトリエ・コンフィーの外、プリエの回廊の一角。ひろい修練場めいた部屋で大剣を振る大男がいる。
球体関節をもったその男の名はイグニス。プリエの回廊の魔法使いによって作られたゼロ・クールという人形である。
彼の専門は戦闘。そして、イレギュラーズたちの案内だ。
「イグニスさん! この前言っていたヒーローとしてのユニット名を決めましょう!」
そう言って修練場へ入ってきたのは鵜来巣 冥夜(p3p008218)だ。
「おう、お前も好きだな。ま、この前のヒーロー? っつーのも悪くなかったし、一緒にやってやってもいいぜ」
ニッと笑って振り返るイグニス。
そこへイーリン・ジョーンズ(p3p000854)が遅れてやってくる。
「待って待って、この世界のコトをもっと調べるんでしょう? この前約束したじゃない」
「したか? ま、それもいいぜ。あんたとの旅も楽しかったしな。とにかく――おっと」
話を続けようとしたところで、イグニスはふと動きを止めた。
「悪いな、マスターからの呼び出しだ。もしかしたら依頼かもしれねえ。後でアトリエ・コンフィーへ来てくれるか」
イグニスの案内に応じてアトリエ・コンフィーへと集まったイレギュラーズたち。彼らに告げられたのは、ヴィーグリーズの丘で行われた魔王軍による虐殺行為の情報であった。
「連中はどうやら、あんたらイレギュラーズを認識しているらしい。でもって、『この世界』から『混沌世界』に進出するために利用するつもりだろう。
この虐殺も、あんたらをおびき寄せるために仕組んだことだ。どうする」
「どうする、ですって?」
冥夜が不敵に笑う。
「ヒーローユニットを組むのです。虐殺される民を黙って見過ごすことなどありえません」
「だよなあ!」
ハハッと快活に笑うイグニス。
一方で、イーリンはイグニスのもたらした資料を一通り眺めてから顔をあげた。
「この寄生型終焉獣っていうのも気になるわ。救出する方法はあるの?」
「ああ、マスターによりゃあ、【不殺】攻撃によって倒せば母体にされた人間を救出できるらしい」
「なら、決まりね」
イーリンたちがガタッと机から立ち上がる。
イグニスもそれに応じて立ち上がった。
「俺も一緒にいくぜ。案内役も必要だろ?」
こうして、村人たちの救出作戦が幕をあけたのであった。
- <渦巻く因果>村娘の日常とその崩壊完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年09月20日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●カルキン村の悲劇
コボルトナイトの軍勢と終焉獣による襲撃を受けたカルキン村は恐怖と絶望に染まっていた。
剣を持ったコボルトたちに追い詰められ青ざめる者。寄生型終焉獣によって寄生された家族や知人によって押さえつけられ新たな寄生先にされる者。
このような小さな村では全員が顔見知りだ。そんないわば巨大な家族のような存在が変わっていく様を見せられて、村人たちは――。
「どっせええい!」
コボルトの一体を殴り飛ばし、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は叫ぶ。
「助けに来ましたわよ!もう少しだけ頑張って……どうやら、思っていたのとちょっと状況が違うみたいですわね?」
助けたと思った村人たちがよろよろと起き上がり、そして俊敏な動きでヴァレーリヤへと遅いかかったのである。
「操られているのかしら。まずは大人しくさせないと、助けられるものも助けられませんわね」
村人から繰り出される拳や蹴りを防御しつつ、大きく飛び退くヴァレーリヤ。
「『主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に』!」
聖句を唱え、突き出すメイス。
放たれた衝撃は村人を派手に吹き飛ばした。
「上手く手加減できなかったらごめんなさいね。これで如何ですこと!?」
そこへ『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が駆けつけ、『アッパーユアハート』を開始。目の色を変え遅いかかる村人たちから距離を離すべく走り出す。
「敵は殺すより味方にするほうが上策とは昔から考えておりましたけれど。
やはり私が思うような事は、現実になるとおぞましいものばかりですねえ。
奪られたものは奪い返し、もともと彼らのモノは取り上げずここに打ち捨てていきましょうか」
村人たちは棍棒を握り、時に石を投げ、小さな子供でさえ鎌を持ちだして斬りかかってくる。
だがそんな彼らの攻撃をひらりひらりと回避し、そして大きく距離を離したところで『ジャミル・タクティール』の術を行使した。『忍法霞斬』とよばれる練達製の単分子ワイヤーを仕込んだ忍者刀から繰り出す変幻自在の斬撃は村人たちを切り裂き、しかし命は奪わず鎮圧していく。
するとどうだろう。村人たちの口からどろりとスライム状の何かが流れ出てきた。
「なるほど、あれが寄生型終焉獣……の死骸ですか」
「民草一人殺せば十人に恨みが広がる。
しかし民草一人操れば、何十と恐怖が広がる。
実に正しい戦術だわ、魔王らしい。
ならば勇者らしく、止めさせてもらうわ」
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は呟き、そしていつもの言葉を口にした。
「『神がそれを望まれる』」
イーリンが最初に放ったのは『紫苑の魔眼・織式』。魔眼の力を解放したことで村人たちは一斉にイーリンへ遅いかかってくるが、それはむしろ望むところである。
「助けに来たわ。もう少しだけ我慢して」
『紫苑の魔眼・紅蒼』を今度は発動し、魔力をあふれ出させていく。
魔力の奔流を喰らった村人たちが悲鳴すらあげてばたばたと倒れていくが、しかしやはり命はとっていない。口から流れ出た終焉獣の死骸を吐き出して、村娘のミシェーラはげほげほとえずいた。
「痛い? ならよかった。生きてるってことよ」
イーリンはウィンクをしてそう言うと、ぽんとミシェーラの背を叩いてから走り出す。
この戦いでのネックは勿論村人たちだ。
コボルトナイトの集団は確かに手強いが、だからといって高威力の範囲攻撃を連発しては村人を殺してしまう。
そう、コボルトリーダーのゴルバスは村人をある意味人質にとった形でイレギュラーズたちを攻撃しにかかっているのだ。
「メイベリア、力を貸して」
だがこちらとて百戦錬磨のイレギュラーズである。
『覚悟の行方』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)は鳥の人形をひとなですると、不殺の力を込めてアタッシュケースからメアリを解放した。
ステッキを握り踊るように村人たちの間を駆け抜けるメアリ。解き放たれたのは花の咲くような魔法、魔法、魔法。
連発されたそれが村人たちをたちまちの撃ちに昏倒させ、その場に崩れさせていく。
中にはよろよろと起き上がる者がいたが、そんな者には……。
「マシュー、オフィーリア、おねがい!」
操作したオフィーリアと、羊の男の子型人形のマシューを使って安全な場所へと避難させていくのだ。
「あちこちで凄惨な事件が起こってるみたいだね……。だけど、怒るのや悲しむのは後回し!」
その一方で、『特異運命座標』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)はギラリと目を光らせた。
「……見えるし、聞こえるし、分かるぞ。
お前らがここで何やったのか、それで皆がどうなったのか。
そこの村人みんな助けて、お前らは全員ぶっ飛ばす!」
プリンのギラギラとしたその気迫によって誘引された村人たち。コボルトナイトはそんなプリンを警戒して大きく距離をとっている。まずは村人たちを使ってすりつぶそうという作戦だろう。
だが、そうはいかない。
「荒チリョーってヤツだ! ちょっと痛いけど……我慢しろよ!」
プリンは身につけた不殺戦闘術を用いて次々に村人たちを殴り倒していく。
「大丈夫! みんな助ける!」
操った村人はイレギュラーズの敵に、そして助けられた村人はイレギュラーズへの人質となる。
戦場に残っていては不用意に範囲攻撃をばらまけず、場合によっては直接人質にとることだってするだろう。
例えば……。
「おっと動くな、この男がどうなってもうおお!?」
村人に短剣をつきつけ人質にとろうとしたゴルバス。そこへ飛空探査艇がおもむろに突っ込んできた。
慌てて男を放り出し自らも飛び退くゴルバス。
飛空探査艇から華麗に飛び出し着地したのはイグニスだった。
彼は男を救出すると、ターンして戻ってきた探査艇に振り返った。
「こいつは無事だ。ゴルバスは暫く押さえつけておく。避難を頼んだぜ」
「ええ、お任せ下さい。それと――ユニット名が決まりました。あとでお教えしましょう」
「楽しみが増えたぜ。任せた!」
男を放りだし、ゴルバスに大剣で斬りかかるイグニス。
一方で冥夜は大声で探査艇から呼びかけた。
「我々はアトリエ・コンフィーより派遣された者です。様子のおかしい方も必ず救いますので、まずは避難を!」
式神をダブルで呼び出して着地させると、彼らによって足の不自由なお年寄りや子供を抱えさせる。
そこへ突っ込んできたのは『忍者人形』芍灼(p3p011289)のドレイクチャリオッツだった。
馬車部分に村人たちが駆け寄ってはぎゅうぎゅう詰めになった乗り込んでいく。
「それがし達を誘き寄せるために虐殺を行うとは卑怯な奴らですね!
討伐するのに良心の呵責がないというのはいいことです」
セヤッと声を発してクナイを投げる芍灼。それによって追いすがろうとしたコボルトナイトの一体が牽制される。
「弱者を狙うのは定石ですが、それにしても下劣ですね」
更に牽制をしかけた线の蹴りと『四連手刀』によってコボルトナイトは舌打ちしながら飛び退く。グルルと唸るそいつを無視し、线はまた別の村人を抱えてチャリオッツへと飛び乗る。
村人を運び出してしまえばこっちのものだ。
もう彼らを人質にも敵にも使えない。
「チイッ、手際と連携が良すぎる。イレギュラーズとは有象無象の集まりではなかったのか!?」
ゴルバスが唸ると、探査艇を降りた冥夜がバッと手をかざし突きつけた。
「情報不足……と言わざるを得ませんね」
「小癪な。やれ!」
ゴルバスの号令と共に、コボルトナイトたちが遅いかかる。
●コボルトナイト
『おつかいクエスト』においてコボルト退治を行っていた冥夜たちから見て、コボルトナイトの戦闘能力は明らかに格上だ。
無傷で蹴散らすというわけには、やはりいかない連中だろう。
だが、こちらには策がある。
「獣王麾下のゴルバス殿には、後程洗いざらい教えて頂きましょう。
どれ程口が堅くても結構、死体は私に雄弁ですから」
瑠璃はコボルトナイトの内二体だけに対して『アッパーユアハート』を発動。
剣で斬りかかる二人組の攻撃を右へ左へと華麗に回避していく。
「グルル――!」
うなり声を上げて剣を突き出すその動きを大きく後方へ飛び退くように回避すると、瑠璃は『ジャミル・タクティール』を発動。変幻自在のワイヤーがコボルトナイトたちを縛り付ける。
そんなコボルトナイトたちにトドメを刺すように放たれるのはイーハトーヴの魔法だ。
キャンディのようなキラキラした指輪にそっと口づけをすると、コボルトナイトめがけて魔法を放つ。
キャンディカラーの弾丸が次々に発射され、コボルトナイトの分厚い鎧の装甲を貫いて打ち込まれていった。
ガハッと血を吐いて倒れるコボルトナイトたち。
そんなイーハトーヴを襲おうと別のコボルトナイトが剣でもって斬りかかろうと走り出す――が。
「そこまでよ」
イーリンが『紫苑の魔眼・織式』を発動。別同するコボルトナイトたちを引き連れるように手招きすると、『傾国の戦旗』を水平に翳すことでコボルトナイトの斬撃を同時に防御した。
「村人の対処をしてる間に攻撃をしかけるべきだったわね。戦術が甘いんじゃないかしら」
イーリンがそう囁くと、横からすっとんできたヴァレーリヤがそのメイスでもってコボルトナイトを今度こそぶん殴った。
「イーリン、皆! しばらくそちらはお願いしますわね!」
任された、とばかりにウィンクするイーリンを横目に、ヴァレーリヤは更なる打撃を叩き込む。
一度頭部を思い切りぶん殴っヴァレーリヤのメイスが強引に軌道を曲げ、今度は足をへし折りにかかる。
そうして二連撃を喰らったコボルトナイトは膝から文字通りに崩れ落ちたのであった。
「またせたでござる! 村人は安全な場所に避難させてきたでござるよ!」
芍灼が线を伴って走ってくる。
ならば貴様だけでもとばかりにコボルトナイトが遅いかかるが、芍灼はそれを抜いた忍者刀によって防御した。
がきんとぶつかる剣と剣。
そして、体重を移しての受け流し。
ギリギリで一発だけ凌いだ芍灼はその直後に繰り出した线のコンボキックによってコボルトナイトとの距離をあけた。
ビリッと腕が痺れる感覚。剣の腕ではコボルトナイトの方が若干上かもしれない。だが、それでも芍灼と线は引かなかった。
再び繰り出されるコボルトナイトの斬撃を今度は线が翳した腕で受け止める。
下半身から伸びた副腕がコボルトナイトをがしりと捕まえ、その隙に芍灼の忍者刀がコボルトナイトの首筋を切り裂いて行った。
「お前に言いたい事、色々あるけど! 今言うのは一つだ!
オレ達に用があるなら……最初からオレ達を呼べ!」
プリンは怒りも露わに拳を突き出し、そしてロケットパンチを発射した。
ギャギャっと叫んだコボルトナイトがゴルバスを庇うように間に割り込み、パンチを受ける。
チッと舌打ちしたプリンは戻ってきた腕を再装着するとそのコボルトナイトめがけて飛びかかる。
「女性に群がる不埒な狼の対処は、日頃より心得ておりますので。丁重にお引取り願います!!」
そこへ繰り出されたのは、冥夜の術であった。
広域に展開する漆黒の魔術が、ゴルバスを庇うコボルトナイトを飲み込んで行く。
それをやめさせようとコボルトナイトが冥夜を狙うが、それをイグニスの大剣が撃ち弾いた。
「ところで、ユニット名をそろそろ教えてくれねえか」
「ええ――」
耳元で囁く冥夜の言葉に、こくりと頷く。ならば名乗ろう。
「「爆炎無限(ばくえんインフィニティ)!」」
コボルトナイトを切り裂くイグニスと、魔術によってコボルトナイトを殲滅する冥夜。
二人は見栄をきると、最後に残ったゴルバスへと身構えるのだった。
●コボルトリーダー『ゴルバス』
かつて戦ったコボルトとコボルトナイトの違いを語るならば、コボルトナイトとコボルトリーダーの違いもまた格段の違いがあった。
それこそ、策をもってしても、容易に倒す事の難しいだけの敵だ。
なにせ、ギャアギャアと叫ぶことしかできない下級モンスターと違い、ゴルバスは知性を持って言葉を喋るのだ。上級のモンスターであることは間違いないだろう。
「どっせえーーい!!!」
ヴァレーリヤがいつものかけ声と共にゴルバスへと殴りかかる。対するゴルバスはヴァレーリヤの大上段からのメイスの一撃を、大剣によって受け止めたのだった。
コボルトナイトの鎧をひしゃげさせるほどの打撃を、である。
「――!」
逆に剣によって振り払いを受けたヴァレーリヤが飛び退き、じりっと額に浮かぶ汗を拭う。
「寄生する終焉獣とは陰湿な真似をしますね。その命、頂戴致す!」
そこへ遅いかかったのは芍灼である。
素早く背後をとった芍灼はゴルバスの首筋に忍者刀をはしらせ――ようとして、相手がかききえた錯覚を覚えた。
否、凄まじいスピードで屈んだゴルバスが芍灼の足を払って転倒させたのである。
「粉砕ッ!」
そこから素早く体勢を戻し、上段からの斬撃を叩き込む。
なんとか防御できた芍灼だったが、相手の打撃を受けて吹き飛び、地面を転がることは免れなかった。
「流石に、強い……」
「ですが、囲んでかかれば一撃ずつでも入れられるはず」
线が側面回り込み、ヴァレーリヤの打撃と线の飛ぶ手刀、そして芍灼のクナイが全て撃ち込まれ、そこへイーハトーヴが更なる攻撃を仕掛けにかかった。
「メアリ!」
人形を操作し踊るように飛び込ませ、ステッキから魔法を発射させるイーハトーヴ。
ぽぽんと花が咲くような魔法はゴルバスを包み込み、一度は全員の攻撃をヒットさせる。
……が、ゴルバスはそんな彼らを剣のなぎ払いとその衝撃によって吹き飛ばしてしまった。
「負けぬ! 我こそは『獣王』ル=アディン様が配下、コボルトリーダーのゴルバスであるぞ!」
突進をしかけるゴルバス。それに対し、瑠璃とイーリンは真っ向から対抗する姿勢をみせた。
瑠璃は忍者刀を投擲。と同時にイーリンが『カリブルヌス・月神狩』を繰り出す。
飛んできた瑠璃の刀を弾こうと剣を振るゴルバスに、イーリンの戦旗が直撃する。
かくしてふたりの攻撃はゴルバスを確実にとらえ、そして吹き飛ばした。
「そこだ!」
こんどこそはと殴りかかるプリン。その拳がゴルバスの腹に、顔面に、胸に次々と連打を入れていく。
「トドメです、イグニスさん!」
「おう!」
冥夜は手刀に魔力を集めると大剣のごとく力を形成させ、イグニスと同時に突撃する。
「お、おのれ、我はコボルトリーダーの――!」
最後の叫びをあげようとするゴルバスに、X字の交差斬撃が浴びせられる。
魔力は炎となって燃え上がり、爆発を起こす。
燃え尽き動かなくなったゴルバスは、その場にどさりと崩れ落ちたのだった。
●そして未来の芽は
ゴルバスの死体を調べた瑠璃によれば、ネームドモンスターであっても四天王の宣言以上の情報をもってはいなかったということらしい。それだけ情報管理が徹底していたのか、それともたまたまこのゴルバスが切り捨てられていたかは定かで無い。
一方で終焉獣の死骸を調べていたイーハトーヴ。
イーリンが問いかける。
「何か分かった?」
「うーん……人に寄生するってことだけはわかったけど、それ以上は。別のケースだとゼロ・クールにも寄生したケースがあったよね」
「確かに……今回はイグニスが狙われなくてよかったわ」
「流石に寄生されればコアを破壊しなければならない、と聞いていましたから」
ヴァレーリヤが悲しげに呟くと、线もそれに同意したように頷く。
その一方では、プリンが霊魂疎通を使ってこの事件で命を落とした人々の声を、生き残った人々に届けていた。
村娘ミシェーラが目の前で殺された父の生きなさいという言葉に涙を流しているのが見える。
「イグニス殿ー!お手伝いをお願いしてもよろしいでしょうか!
穴を掘って埋めて、墓標を立てて花を添えるそうです!」
死体は放っておいてはすぐに腐敗してしまう。この集落では土葬を行っているということなので、芍灼はそれを手伝うらしい。
冥夜が振り返ると、イグニスはこくりと頷いた。
「行きましょうか」
「ああ、行こう」
そして、歩き出す。
あるいは、未来へと。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●シチュエーション
カルキン村をコボルトリーダーのゴルバスが襲撃しました。
これによって村人たちが終焉獣に寄生され、配下となってしまっています。
村人たちを救出し、ゴルバスたちを倒しましょう!
●エネミー
・寄生された村人
農具などを装備した村人たちです。
寄生型終焉獣によって寄生されているため、狂気に陥ったような振る舞いをするほか身体能力の向上効果があります。
【不殺】攻撃で倒す事によって母体を救出することができます。
・コボルトナイト
剣や鎧によってしっかりと武装した亜人系モンスターたちです。
彼らは通常のコボルトと比べて強く、それなりに手強い相手になるでしょう。
・コボルトリーダー『ゴルバス』
魔王軍のネームドモンスターです。
大剣を操り恐るべき攻撃力を誇ります。
●味方NPC
・イグニス
大剣を装備した戦闘型ゼロ・クールです。
今回は一緒に戦ってくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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