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シナリオ詳細

<信なる凱旋>優しかった時代をもういちど

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●優しかった時代
 教会の中に響く歌声が好きだった。
 優しいシスターのつむぐその声が、優しくて、優しくて。
 そんな時間はもう訪れないけれど。
 けれどもし戻ってくるのなら。

●星灯聖典
「……と、言うわけだ。いま天義に広がってる『星灯聖典』は聖騎士グラキエスを教祖とする新興宗教(カルト)で、『失ったものを取り戻す』ことを訴えている。そこまではいいな?」
 確認するようにこれまでのいきさつを離す精霊種、スモーキー。探偵である。彼は手にしていた煙草を灰皿にトンと置くと、深く呼吸を整えた。
「クロームさん……いや、星灯聖典の洗礼名『アッバース』が取り戻そうとしてるのは、あの人の所属していた心臓教会が地下化し分裂する前の時代。誰もが手を取り合っていた、優しかった時代を取り戻そうとしている。
 調べてみたが、今の心臓教会は酷いもんだった」

 心臓教会とは元々天義に属する教会のひとつであった。
 クロームというシスターは綺麗な歌声と美しい容姿から人気があり、教会の面々も仲が良かったという。
 だがそんな彼らに決定的な亀裂が入った。ベアトリーチェ災厄によって天義の暗部が暴かれ、国の教義への疑いが生まれたのだ。
 アドラステイアのように壁を作り天義から独立をうたうものもあったが、心臓教会は地下組織化し、天義とは異なる教えをもつようになり始めた。
「そこからは地獄さ。元の国家に戻るべきだと主張する奴、より先鋭化させるべきだと主張する奴、いっそ国に攻撃を仕掛けるべきだと過激なことを主張する奴。そういう連中で派閥争いが起きて幾度も仲間を『潰し』あった。人数は減っていき、ごく僅かになったところで……最終的にまとめ役として据えられたのがクロームさんだったってわけだ。
 想像してみろよ。信じた仲間たちが互いに争って、潰し合って、時には死ぬより酷え目にあうさまを。
 あのひとは心を壊しちまったのさ。もしくは、閉ざしちまったのかもな。
 そこへ現れたのが星灯聖典だった。
 星灯聖典の力があれば、かつての教会や仲間たちがいた『現実』を作り出し、帳のように上書きすることができる。あの人は……優しかった時代に帰ろうとしているんだ。そのために、どんな犠牲を払っても構わない、ってな」

●白き騎士
 探偵スモーキーの情報によれば、新たな『帳』を下ろすため天義の町パルカスが襲撃を受ける予定であるという。
「けど注意してくれ、今回はただ襲撃するだけじゃない。ルストの権能によって作り出された四騎士のひとつ『白騎士』が部隊に加わっている。こいつは厄介な相手だ」
 白騎士。それは存在しているだけで味方を強化してしまうという力を持つ騎士だ。当然個体としての戦闘力も強く、簡単に倒せる相手ではないだろう。
「そこに加えてクロームさん――いや『アッバース』と星灯聖典の信徒たちが加わってる。聖骸布を下賜された星灯聖典の信徒たちはその力を強化され、そこいらの兵隊よりずっと強い力を発揮してるはずだ」
 そこまでの話を聞いていたアーマデル・アル・アマル(p3p008599)は、隣に立つ冬越 弾正(p3p007105)に目を向けた。こくりと頷く弾正。
「スモーキー殿。いいのか? クローム殿はお前にとって――」
「いいんだ。このやり方が間違ってるってことくらい、俺にだって流石に分かるんだぜ。今更……『優しかった時代』になんて戻れねえんだ。戻しちゃ、いけねえんだよ」
 煙草をくわえ、ゆっくりと吸い込む。目を閉じる彼の表情に浮かぶ感情を、弾正はあえて口にしなかった。
「わかった。白騎士の部隊を止める。俺たちへの依頼は、それでいいな?」
「……ああ」
 依頼料をカウンターテーブルに置いて、スモーキーは煙を吐き出した。
 優しかった時代は戻らない。戻しては、いけないのだ。

GMコメント

●シチュエーション
 パルカスの町を襲う白騎士と星灯聖典の軍勢を撃退しましょう。
 襲撃ポイントは判明しているため、待ち構えて勝負をしかけることができます。

●エネミー
・星灯聖典×多数
 失ったものを取り戻すために戦う元一般市民たちです。
 聖骸布によって強化されており、武装こそ粗末なものですが力は常人よりずっと強いでしょう。
 心臓教会の面々も混ざっています。

・白騎士
 味方を強化する能力をもつ騎士です。
 ただ存在してるだけでも味方全体を強化し、更にバフスキルも豊富に持っています。
 当然自分が倒されれば不利だと分かっているので防御面もかなり固めているようです。

・アッバース
 星灯聖典のネームドです。多くの聖骸布を下賜されており能力はかなり高くなっています。
 これまでの戦いでは逆ハート型の魔術障壁や砲撃といった戦闘方法をとっていましたが、今回あたりからより本気を出してくるかもしれません。
 なぜなら、最近の活動の中で背後に巨大な時計の幻影を浮かべる様子が目撃されていたためです。これがどんな能力なのかは、まだ謎です。

●味方NPC
・スモーキー
 クロームもとい『アッバース』を止めるために今回は同行します。
 吐き出す煙によって相手の動きを阻害するBSスキルを使うほか、格闘術によって戦う精霊種です。

  • <信なる凱旋>優しかった時代をもういちど完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
ロレイン(p3p006293)
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


 パルカスの町は花の栽培が盛んな町であったという。
 商店街には花屋が必ず並び、色鮮やかな花は避難が済んだ今でもまだ並んでいる。
 『聖女頌歌』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)はそんな店先のひとつを目にして、ながい睫をうつむけた。
「失ったものを取り戻す……それができればどんなに幸せなんだろうね」
 そんなことは、本当にはできはしない。わかりきっていることだ。
 信徒たちは何故、この凶行に加わってまで星灯聖典に与するのか。
 本当に信じてしまっているのか。あるいは、偽物でもいいから取り戻したいと考えてしまったのか。
「失ったものを取り戻したいと、思わなかったと言えば嘘になりますが。
 きっと、それでも過去を否定することは、思い出を嘘にすることは、できなかったのです」
 『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)は戦いが近づく気配を察しながらも、通りの向こう側へと視線をなげた。
「だからでしょうね、教義に惹かれなかったのは」
 何も失わない。失っていない。そんな世界がよかったのかと問われれば、そんな世界でも……よかったのかもしれない。けれど本当にそうしないのは、失ったが故に出会った人や、見えた景色や、結んだ約束があるからだ。
「信仰は移ろい、信者も年を経る」
 ロレイン(p3p006293)が冷たく呟いた。
「皆同じ神を拝して穏やかに生きられる日々は、確かに心地よかったのでしょうね。
 でも無理よ。かつてのようには出来ても、時間は戻らない」
 ロレインの目はやはりどこまでも冷たく澄んでいた。
 たとえば晴れた朝の空のように。

「スモーキー殿のあんな表情を見てしまったからには、俺も全力を出さねばなるまい」
 『黒響族ヘッド』冬越 弾正(p3p007105)がそう呟くと、『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)が確かにと小さく頷きを返した。
「『あの頃に戻れれば』、誰しも一度は思う事だろう」
 アーマデルの視線が弾正のそれと交わり、据えられる。
「だが、『今』を否定して『やり直し』するのは、何かを成した誰かの努力を、健診を、犠牲を否定する事。
 死者が蘇らないのと同様に、時は戻らない……戻ってはいけないものだ」
 その通りだ。
 戻ってはいけない。戻らない。
 全てを元に戻すことは、すなわち積み重ねた人生を抱えて自爆するようなものだ。
 それをすら望んでしまう者がいることは、悲しいかな、事実なのだけれど。

 屋根の上に立ち、遠くを見つめる『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)。
 時間は早朝。避難がすんでいるとはいえ、どこか町には人の気配の残滓を感じてしまう。
 『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)が保護結界をはってくれてはいるが、この平和な場所が戦場になってしまうことに、心を痛めないかといえば嘘になるのだ。
「誰にだってやり直したい過去の一つくらいはあるものだと思っているけれど。
 それをこんな形で為そうとするのはやはり間違っていると言わざるをえない」
「そうだね。心臓教会が潰れた辛さは察するし、星灯聖典に縋った事を責めるのは酷だと思う。だが過去には戻れないし、戻す方法ではまた同じ事を繰り返すんじゃないか。
 彼らのことは、止めてやるべきだろう」
「ああ、止めてやるべきだ」
 道路を挟んで向かいの屋根にも『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は一人足っている。
 近づいてくる星灯聖典の一群が、既に見えていた。
「失くしたもの、過ぎ去ったもの。
 其れらの思い出が、其れらへの想いが深ければ深いほど、心は縛り付けられてしまうのです」
 彼らはそうして、縛り付けられた人々だ。
 けれど、それだけじゃない。
「屹度、誰もがそういう思いを持っている様に思います。
 だからこそ、安易には責めることも出来ないのです」
 だからこそ。
 こうして戦うしか、なくなってしまうのだと。


 それはまるで聖なるパレードだった。
 白馬に乗った白き騎士を中心に、槍やマスケット銃を掲げた人々が行進する。
 行進を均一にするためか、音楽すら奏でられていた。
 その中に混ざるアッバースの姿は、どこか異様ですらある。
 イズマの仕掛けた陣地構築と罠設置はそれなりに効果を発揮し敵の群衆を纏めることに成功していた。
「白騎士のバフを受けていない部隊がある。そこを先に叩こう」
「では、わたしも」
 イズマとエリスタリスが走り出し、真っ先に星灯聖典の部隊と激突。
 星灯聖典の部隊は真っ白な僧服に身を包み、一斉にマスケットをこちらに突きつけるように構え、発砲した。
 前に出て魔術障壁を展開するエリスタリス。
 パキキッと奇妙な音が鳴り彼女の眼前で銃弾が止められる、そうでないものも弾き飛ばされ、町の壁へとぶつかった。めり込んだり傷付いたりしないのは保護結界の効果だろう。
 ガードを突破して数発の弾丸がエリスタリスの身体に命中するのは、やはり星灯聖典の信徒たちが聖骸布と白騎士双方に強化されているためだろう。
「白騎士を倒すには、やはり信徒たちが壁になりますね」
「なら、吹き飛ばすだけだ」
 イズマはドンと地面を踏みならし、『響奏撃・波』を発動させた。
 地面を通して鳴り響くズドンという爆発めいた音は大勢の信徒たちを纏めて吹き飛ばし、白騎士が施したであろうバフの効果も剥ぎ取っていく。
「これで全て剥ぎ取れたと思うか?」
「いいえ、『わたしと同じタイプ』であれば、常時発動型のバフはブレイクできませんから」
「それでも部分的には効果はあるってわけだ。それならそれで充分だ」
「いつもの作戦でいけると思う」
 スティアがスッと前に出る。槍を構えた星灯聖典の信徒たちが突進を仕掛けてくるが、スティアはそれに対して『福音』を鳴らした。
 パッと散る天使の羽根のような魔力が旋律へと変わり、信徒たちの音楽と混ざり合う。
 音に魅入られた信徒たちは目の色を変えてスティアに集中し始め、その狙いを察した他の信徒が急いでBS回復の魔法を唱え始めた。
 その間にも、スティアは遅いかかる人々へと呼びかける。
「失ったものを思った形で取り戻せると思っているの?
 帳を降ろした所でどんな世界になっているかはわからないよ。
 もしかしたら居るべき人が存在しないことだってあるんだよ。
 それにもっと酷い事になる可能性だってある。
 現に騎士達は人々を炎の獣に変えていたりするしね。
 それでも貴方達は協力するって言うの?
 後で後悔しないって思えるの?
 後ででも良いから一度冷静になって考えてみて欲しいな」
「そんな筈は無いわ! 戻ってくるのよ、私の子も、家も、平和な日常だって!」
 狂信的な目をした信徒の女性がヒステリックに叫び、スティアへと槍を繰り出す。それをかわし、スティアは尚も呼びかけた。
 通じてはいるはずだ。彼女の真摯な気持ちが、プラスの感情を増幅させているからだ。実際、女性の目には涙が浮かんでいる。
 己にそう言いきかせなければと、わざとヒステリックになっているのだろう。
「そのまま引きつけておいて」
 ロレインがスティアの引きつけた群衆めがけ、神気閃光を叩きつける。
 なぎ払った光の線は信徒たちを気絶させ、バタバタと倒れさせる。
 それを踏みつけてしまわぬようにと大きく飛び退くスティアたちの中で、ロレインはアッバースへと目を向けた。
「時間を戻せても、死に様を知ってる知人と、些細なことで殺し合った信者たちと……あなたはかつての関係で居られるのかしら?」
「――」
 目を細めるアッバース。逆向きのハート型をした錫杖をじゃらんと鳴らすと、魔術砲撃を発射してきた。
 砲撃を防御するロレイン。
 防ぎきれない衝撃によって吹き飛ばされるが、それをスモーキーがキャッチする。
「クロームさん、こんなことはやめてくれ。アンタらしくないじゃあないか!」
 対して、信徒たちが壁になって間を遮りにかかる。
「アッバース様に口を利くなど」
「身の程を知れ!」
「邪魔をするな」
 弾正は『ブレイズハート・ヒートソウル』を発動。哭響悪鬼『古天明平蜘蛛』参式に接続したマルチスピーカーから音楽が爆音で流れ出し、信徒たちの音楽をかき消していく。実際、演奏していたヒーラーらしき信徒が彼の術の影響下に落ちて直接殴りかかり始めた。
 弾正の演奏とスティアの複音、そしてイズマの音響がそれぞれ交わり、どこか奇妙な演奏会めいた状況が完成する。
「スモーキー殿、呼びかけ続けろ。信徒たちは抑えておく!」
「……悪いな、恩に着るぜ」
 スモーキーは吐き出した煙で信徒たちを足止めすると、再びアッバースへと呼びかけ始めるのだった。

 状況は混乱し始めている。
 白騎士の周囲に集まり攻撃を仕掛ける信徒たちと、それを怒りによって支配仕様とするイレギュラーズ。それを治癒して引き戻そうとする信徒たち。
 混じり合う演奏がカオスな雑音に聞こえ始めたところで、アッシュは銀色の弓を引いた。
 天に向けてひいた弓が、放物線を描いて矢を飛ばす。
 着弾したのは白騎士の掲げた盾だ。盾を中心に発動した銀色の波動が、白騎士のかけたバフ効果を剥がしにかかる。
 実際の所、白騎士のバフ戦術に対する最適解はこれなのだ。星灯聖典の信徒たちは聖骸布によって強化されてこそいるが戦闘能力ではイレギュラーズたちに大きく劣る。それゆえクリーンヒットを貰いやすく、そしてブレイクもうけやすい。
 白騎士が再びバフをかけるべく角笛を吹き鳴らした途端、信徒たちは狂騒にかられたように走り出す。
「やはり狙うは白騎士か」
「ああ、だな」
 ヴェルグリーズとアーマデルが屋根の上を走り跳躍。
 両サイドから一点突破の形で白騎士へと攻撃を仕掛けた。
 ヴェルグリーズの抜いた『神々廻剱・写し』。その美しい刀身がギラリと光り、白騎士の掲げた盾によって防がれる。防御されることは織り込み済みだ。
「これから行うことはキミ達の希望を潰す行いになるのかもしれない
 けれどだからといって俺の刃を鈍らせる要因にはならないんだ……すまないね」
 そこからヴェルグリーズは怒濤の連続攻撃によって白騎士の防御を崩しにかかった。
 その一方で、アーマデルもまた『英霊残響:妄執』『蛇巫女の後悔』『英霊残響:怨嗟』『デッドリースカイ』という安定したコンボプレイで攻撃を仕掛けていく。
 彼の放った蛇鞭剣ダナブトゥバンが白騎士の腕へと絡みつき、相手の次の防御を阻害する。そこから引き寄せるようにして急接近をかけつつ、蛇銃剣アルファルドを乱射するのだ。
 白騎士はその防御力で耐えられるものの、周囲の信徒たちは違う。なぎ払われ、孤立した白騎士めがけアーマデルが密着した。
「さて、ここからだ」


 孤立した白騎士からイレギュラーズを引き剥がすべく、アッバースが魔術砲撃を放ってきた。
 逆ハート型の光線が放たれたかと思うと、それをエリスタリスが魔術障壁を展開しながら間に割り込む。
「まずは術を封じさせて貰います」
 『黒星解放』――白騎士単体に叩きつけた衝撃は一瞬だが白騎士の意識を奪い、その盾による打撃をエリスタリスへ浴びせ始めた。
「いけません! 回復を!」
「そんな暇はあたえない」
 ロレインの桜花破天が白騎士へと浴びせられた。
 幻装信仰。別名「信者の武器庫」。ロレインは武器を登録された二振りの剣に変形させると、怒濤の連続斬撃を白騎士へと浴びせにかかる。
 燃え上がる炎が白騎士を包み込んだ。
 その間も、ロレインはアッバースへと視線を向ける。
「時間を戻せても、死に様を知ってる知人と、些細なことで殺し合った信者たちと……あなたはかつての関係で居られるのかしら?
 その時計は、新手の聖遺物かしらね? 何も戻せない針に価値はない。
 心を閉ざした聖職者に、信者を導く資格なんてないわ。今が、見えていないのだもの」
「黙りなさい。あなたたちの邪魔さえなければ――」
「アッバース様!」
 そこへ後続の信徒たちが駆けつける。
 白騎士の盾になることで攻撃を防ごうというのだろう。
 だがそれを、スティアの福音は許しはしない。
 鳴り響く魔力の奏でが信徒たちを引きつけ、目の色を変えた信徒たちはスティアめがけて殴りかかってしまう。
 これまでの攻撃でかなりの数の信徒が削られたのだろう。回復にさく人員もどうやら足りなくなっていたようだ。
 アッシュはここぞとばかりに銀の剣を抜くと、刀身に光を纏わせる。
 放つ、回転斬り。
 巨大な斬撃となって飛んだそれは信徒たちだけを切り裂いて、しかし命だけは奪わずにばたばたと倒して行く。
 まるで津波に押し流される木々の如く倒れる信徒たちを見て、アッバースはグッと奥歯をかみしめた。
(元がただのヒトであるのなら、望みは未だ捨てたくはないのです
 心臓教会の人々も正気に戻すことが出来たなら、アッバースについて未だ知りえていない情報も得られるかもしれません)
 そこへイズマが遅いかかる。
「この町にもかつての仲間や未来の仲間がいるかもしれない。それでも襲うのか?
 貴方達は大切な物を取り戻すどころか更に壊してる事に気付いてるか?
 それが星灯聖典のやり方だ。手段を見誤るな!
 ……なぁ、貴方達は手を取り合えるんだろう?
 だったら優しい時代はその手で作れるよ。帳も聖骸布も要らない。
 戦いはもう止めだ!」
 繰り出された衝撃によって信徒たちが纏めて吹き飛び、一部のものはそのまま倒れ、身体から聖骸布が剥がれるのが見えた。
 素早くそれをひろうイズマ。どうやら聖骸布は認証した相手にのみ効果を発揮する聖遺物のようで、剥がれたらただの布きれにすぎなくなってしまうようだ。
 だがそれでいい。こんなもの、実際は布きれにすぎないのだから。まるで盲信した幻想が解けてしまったかのように。
「クローム殿。貴方ももう分かっているんじゃないか?
 例え『失ったものを取り戻す』事が出来ても、優しかった時代を取り戻す事は出来ない。
 得た物を手放す事は出来ないからだ。貴方が自らの手を汚した記憶は消えない傷となる。
 だからもう、凶行を止めるんだ!」
 叫ぶ弾正。と同時に、ヴェルグリーズの放つ剣が白騎士の首を見事に切断。白騎士の身体は馬上から転げ落ちた。
 ああ! と信徒たちが叫ぶ。嘆きの声だとわかっていても、ヴェルグリーズはその手を止めなかった。
「次はキミだよ、アッバース」
 剣を突きつけるようにするヴェルグリーズ。
 白騎士を倒したことで、信徒たちの戦意はかなり落ちてしまっているようだ。
 中にはもう逃げ腰の者までいる。
「仕方ありませんね……」
 アッバースはフッと笑うと、背後に巨大な時計の幻影を出現させた。
 ゴォン――と鐘の音が鳴る。まるで柱時計が時間を知らせるように。
「――!」
 その音に何かを察知したアーマデルは、咄嗟に弾正を庇うように飛んだ。
 瞬間、アッバースの姿がかき消えた。
 否、かき消えたかのように見えるほどのスピードで動き、その場にいる全員を錫杖の魔術砲撃によって吹き飛ばしたのだ。
「ぐっ……!?」
 壁に叩きつけられて転がるアーマデル。自分が庇われたと気づき、弾正が駆け寄った。
「クロームさん!」
 悲鳴のようにスモーキーが叫ぶ。
「もう、引き時ですね。またお会いしましょう」
 信徒たちを引き連れ撤退を始めるアッバース。引き留めようと走り出すスモーキーの腕を、弾正たちががしりと掴んだ。
「だめだ、あれは……追ってはいけないものだ」
 戦術的に、といういみでもあるが……それ以上に。
 追えば、深みにはまるものだ。
 あまりにも傲慢な、『失ったものを取り戻す』という悲願へと。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete
 ――町は守られ、多くの信徒を捕虜として捕まえることに成功しました。

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