シナリオ詳細
因習村を作ろう。或いは、因習は作れる…。
オープニング
●山奥の村
「ここに村を作りましょう」
豊穣のとある山間部。
月の光も届かない、暗い暗い山奥の村。
岩壁に半ば埋もれるみたいに建てられている半壊した社の前で、水天宮 妙見子(p3p010644)はそう言った。
「なんかこう……ちょっと変な習慣とか、言い伝えとかがある、そんな村です」
こいつ、何を言っているのだ?
そんな視線が妙見子に突き刺さる。
妙見子自身も「変なことを言っている」自覚はあるので、誤魔化すみたいにそっと顔を横に逸らした。
視界の端に村の様子が映る。
古い村だ。きっと、何十年かそれ以上も人が住んでいないのだと分かる。
そもそも、こんな村に人が住めるはずもないのだ。
何故なら、村は膨大な量の黴に飲み込まれているから。
ボロボロの家屋も、地面にも、村の周りを囲むみたいに設けられた石垣も、全部が黴に覆われている。
「はぁ……なんでこんなに黴だらけなのか、と? それは妙見子も知らないのですが、この子が」
はい、と妙見子が手を皿にして差し出したのは、直径数センチほどの黴の塊。
見方によっては、どこかの地方でお土産として売られている“まりも”という藻にも似ている。藻ではなく黴だが。
小さな黴の塊は、まるで歓喜するみたいにうぞうぞと蠢いていた。
「この子ですか? この子は見ての通り黴です。以前、とある因習村から拾って来たというか、付いて来たというか……まぁそのような縁がありまして」
はじめのうちは、黴もじっとしていたらしい。
妙見子が敵か味方かも分からないのだから当然だ。拾って来た野良猫など、慣れるまでは隅っこの方でじっとしているが、要するに黴もそんな感じだったのである。
だが、数カ月の間に妙見子と黴の間には友情とも言えないが、奇妙な絆が芽生えてた。言語を用いないコミュニケーションを重ねた妙見子と黴は、なんとなくお互いの意思が分かるようになった。
そして先日、黴から妙見子に“ある奇妙な頼み事”が持ち込まれたのである。
「故郷に連れて行ってほしい。そして、故郷に人を集めてほしい、と」
妙見子は黴の頼みごとを聞くことにした。時間を見つけては豊穣を歩き回り、土地の歴史を調べて周り、そして辿り着いたのがこの村というわけだ。
山奥にある、黴に飲まれた朽ちた村というわけだ。
「なんでも村は滅びの危機に瀕しているとか」
滅んでいるが。
黴に飲まれた、人の住まない村となれば、それはもう言い訳のしようが無いほどに滅んでいるが。
「人を集めて活気を取り戻してほしいとか」
妙見子の言葉に賛同の意を示すかのように、小さな黴はうぞうぞと蠢いている。
●村の住人(?)
「というわけで、登場していただきましょう」
黴をそっと地面に降ろして、妙見子が手を叩く。
パン、と乾いた音が鳴って、暫く。
ざわり、と村全体が揺れた。
そして、いつの間にか妙見子たちの周囲には幾つもの人影が並んでいた。妙見子たちを取り囲むように、20近い人影が並んでいた。
「村民の皆さんです」
妙見子の紹介を受けて、人影はゆっくりと首を下げる。
礼をしたのだ。
誰も言葉を発さない。
静寂だけがそこにあった。
なぜなら、その人影は決して“人”では無かったからだ。
「いえ、言いたいことは分かりますよ。これ、何かの妖だと思いますし」
苦い虫でも噛み潰したような顔をして妙見子が視線を逸らす。
そこらにずらりと並んだ人影は“黴”だった。
黴の集合体が、人の形を取っただけの化生であった。
「黴の皆さんが言うところにはですね」
黴の皆さんとか言い出した。
マジかよお前、みたいな視線を受け流しながら、妙見子は話を続ける。
「彼らが存在を維持するためには、人が必要なんだそうです」
生贄の類では無かろうか。
そんなことを誰もが思った。周囲を黴に囲まれているため、それを口には出さなかったが、誰もが一寸、そんなことを思わずにいられなかった。
と、それはともかく……。
「なので、村に人を呼び集めるための施策を打ってほしいのだとか。人が訪れたくなるような、なんかこう伝承とかを用意してほしいのだとか」
伝承を用意して、外部からの来訪者であったり、移住希望者であったりを募りたいらしい。
それが黴からの頼みであった。
「それでですね、黴の皆さんが言うには“変な習慣とか、言い伝えとか、陰鬱な雰囲気とか”が大事なんだそうですよ。そう言う風な伝承とか風習とかに人は興味を惹かれるそうで、興味を惹かれれば“怪しいな”と思っていても、人は足を運ぶんだそうで」
好奇心には誰も抗えない。
危険を楽しむ人の性のなんと愚かなことだろう。
「えぇ、えぇ。この妙見子、これでも信仰を集めたり、社を建てたりは大の得意とするところ。なるほど黴の方の見立てはまったくもって正しいと言えましょう」
つまり、どういうことかというと。
「ここに因習村を作りましょう」
皆の知見を持ち寄って、最高の因習村を作りましょう。
そういうことだ。
「というわけで、何も知らないイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)様を呼んでおりますので、いい感じに広告塔として使えればな、と」
- 因習村を作ろう。或いは、因習は作れる…。完了
- GM名病み月
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年09月17日 22時05分
- 参加人数7/7人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 7 人
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参加者一覧(7人)
リプレイ
●村だ、村を作ろう
「妙見子さんを御神体として祀るって」
豊穣。とある山奥。
1本の倒れた木の幹に、『新たな可能性』レイテ・コロン(p3p011010)は木炭で何本もの線を引いている。
「ツッコミ所しかない点はもう全部無視するとして……彫像を造ろうかな」
線を全て引き終えると、レイテは満足そうに1つ、頷いた。これでいい。この倒木は十分に“妙見子”足りえるだろう。
黴の人に案内されて、2人は鍛冶場を訪れた。
村の外れ、集落からは十分に距離を取った場所に建てられている小さな鍛冶場だ。設備もすっかり傷んでいるが、どうにか使うことは出来そうに見える。
「じゃあまぁ、いっちょやるかぁ。うぉ、でっか……な女神様だしな」
「あぁ、職人魂の出番だぜ」
『流浪鬼』桐生 雄(p3p010750)と『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が、鍛冶場に足を踏み入れる。その様子を黴の人は少し離れた場所から見ていた。身体が黴で出来ているので、あまり火気に近づきたくないのかもしれない。
「妙見子君についてきたら、随分寂れたところに着いたんだけど……何するのぉ?」
「何って因習村ですよ? 以前因習村からついてきてしまった黴さんたちが、因習村つくって♡ とのことらしいので皆さんご協力お願いしますね♡」
『漂流者』アルム・カンフローレル(p3p007874)の質問に、『心よ、友に届いているか』水天宮 妙見子(p3p010644)が笑顔で答えた。その背後では、人に似た形の黴の怪物……妙見子が“黴の人たち”と呼ぶ妖たちが、拍手をするように手を打ち合わせている。
パフパフと手を鳴らすたびに、緑の黴が辺りに散った。
「因習村と妙見子さんの組み合わせに覚えあるんすけど???」
飛び散る黴を吸い込まないためにだろう。口元を手で覆いながら『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)が視線を背後へ。妙見子とは、以前にも一緒に因習村へ出かけた仲だ。
「え? インシュウ村……?なんだろうそれ、聞いたことないなぁ」
「いいんですよ、なんだって。さぁ、ここに取り出したるTAKE☆BOUKI、これを使ってお掃除していきますよ!」
何しろ村は黴だらけである。
多少、掃除をしたところでどうこうなるわけもないけれど、何もしないよりは幾らかマシだ。何しろこれから、この村には“お客様”が訪れる予定になっているのだから。
山中にて。
蝋燭の明かりを頼りに、ゆっくりと歩く人影が2つ。
「――話をしよう。男の話だ」
「? 何言い出すんっすか、ブランシュさん?」
人影は『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)とイフタフ・ヤー・シムシムである。
「いいから聞けって。これはある男の話で……俺たちが今から向かう村に纏わる不思議な物語だ」
「???」
首を傾げるイフタフだったが、とりあえず黙ってブランシュの話に耳を傾けることにした。
●ここに素敵な村を作ろう
昔、ある男がその日賭場で負けて、広場で酒でも飲んでやさぐれていたという。
強いだけで味の悪い酒精を喉に流し込みながら、男はふと街灯を見た。
遠くに人影が二つ並んでいることに気が付いた。
初めは気にも留めなかったそうだ。
男は再び酒を煽る。それからもう1度、街灯を見ると、人影は一個前の街灯に移動してるのが分かった。
男は気が付く。人影が動いていることに。
どんどん影は自分に近づいて来る。
そして男の目の前の街灯に影が来た時、彼は長い廊下に一人佇んていた。
ふぅ、とブランシュは蝋燭に吐息を吹きかけた。
炎が揺れて、イフタフとブランシュの影が揺れる。
「はぁ? それが、何か……」
「何ってわけじゃないさ。話の続きを聞いてくれよ」
「……今ですかね? それ、今必要なことっすか?」
後で良くない? そんなイフタフの疑問を無視して、ブランシュは話を続けることにした。
真の職人は“魂”で木像を彫ると言う。
ノミでもなく、槌でもなく、“魂”こそが木像を彫るにあたって何より重要な得物だと、後にレイテはそう語った。
場所は村の奥深く。古い社のある辺り。
「デザインは……九尾の狐そのままだとアレだからもっとこう……妙見子さんの頭部をベースに……鼻はそのままで両方の瞼を人の口状にして」
ノミを木槌で叩く音が響いていた。
「それから口の部分は大きなヤツメウナギ状にして……人間の耳を狐耳状に生やしてみる。
神様っぽくする為に額に人間の瞼と眼を一つ」
ブツブツと独り言を零しながら、レイテは一心不乱にノミを振るっている。瞬きの無いレイテの瞳は充血していて、瞳孔なんて限界まで開いていた。
流れる汗もそのままに、ノミを振るうレイテの様を形容するなら“鬼気迫る”という言葉が何よりぴったりだろう。
「次は胴体……荒魂だし鎮めるべき厄災的な……蝗だね。蝗にしよう。蝗しかいない! 胴体は蝗で前、中脚の代わりに人の腕、後脚を人の脚に置き換える。それから尻尾の代わりに人の腕を9本……いいね!」
良くないが。
まったくもって、良くないが。
そんな言葉を飲み込んで、妙見子はレイテを見なかったことにした。
神器と呼ばれる物がある。
その名の通り、神から受け伝えた宝器の総称である。例えば、とある国などでは王位に就く際には神器の前で誓いを立てると言う風習があるなど、ほとんどの場合はその村や街、国において重要な役割を持つものが神器だ。
とはいえ、神器の成り立ちにまで時をさかのぼれば、その多くは「誰かの手で造られたもの」であることが分かるだろう。例えば、練の生まれた国に伝わる三種の神器のうち、剣を覗く2つ……鏡と勾玉は、同じ時、同じ目的のために造られたものだ。
なお、剣の方は大蛇の尾から出て来た。なぜかは知らない。
つまり、何が言いたいのかと言えば「神器は造れる」ということだ。
「……!!」
「―――――!!」
炉の中で唸る炎と、振り下ろされる鉄鎚が鋼を叩く甲高い音が、錬と雄の声を掻き消す。
暗い鍛冶場で汗を流す男が2人。
じりじりと炉の熱で肌を焼きながら、練と雄が打っているのは剣だった。
2人はまさに職人だ。
一心不乱に槌を振るう2人にとって、この鍛冶場こそが戦場なのだ。ひとつ、鉄を叩くたびに魂を少し削っているようなものだ。
鍛冶場に足を踏み入れることは誰にもできない。2人に声をかけることも出来ない。
「鬼気迫る……なんて言葉じゃ足りないぐらいの気迫だねぇ」
TAKE☆BOUKIを手にアルムはそう呟いた。囁くような小さな声音だ。集中している2人の作業を余人が邪魔するようなことがあってはいけない。
もう何時間、2人はこうやって“神器”を造っているのだろうか。鉄を打って、水を飲み、炎を覗き、再び鉄を強く叩いて、失った水分を補給して……気が遠くなるほど繰り返される行為の果てにこそ、真なる神器は完成するのだ。
真なるも何も、何の謂れも無い偽物ではあるが。偽物でも構わないのだ。現存する神器のうち、表に出て来るものはほとんどレプリカである。鰯の頭も信心からなんて言葉もある。
やがて、2人の仕事が終わる。
出来上がった神器は3つ。
1つは、夜空のように蒼黒い刀身を持つ御神刀。
1つは、円状に伸びる九本の尾が彫りこまれた銅鏡。
1つは、黒と白で1対となる勾玉。
「完成したみたいだねぇ」
「あ、はい」
神器の完成する歴史的な瞬間を見届けたアルムと妙見子。白い布に3つの神器を並べて持った雄が、よろよろとした足取りで2人の方へ近づいて来る。
「妙見子、仕上げた。ゴッドパワーを注入してくれ」
「……あ、はい」
「本物の三種の神器作るとか中々レア体験で滾るもんがあるじゃねえか……! これでご利益バッチリだな!」
そう言って雄は、酒の瓶を手に取った。神器祝いの完成か。これから酒を飲むらしい。
「あ、はい。頑張りますね」
「……荒魂である御神体たみこを鎮めるために奉納する品だ、粗末に扱ってはならないぜ」
こう見えて妙見子、星を滅ぼしたり、国を傾けたりした過去があるのだ。
すっかりやつれた様子の練は、壁に手を突きながらどこかへ立ち去っていく。煤けた背中を見送って、妙見子は思わずぶるりと肩を震わせた。
お前、そんなになってまでまだ働くつもりなのか、と。
「話の続きだ」
そう言ってブランシュは、山奥へと続く道を歩き始めた。
男は訳も分からずその道を進む。
するとどうだろうか。
なんとか耳を済ませてみると、祭囃子の様な愉快な音が聴こえて来た。
そちらに行けば何かわかるかも知れない。
幾つもの扉を開けながら、男は音のする方へと進んで行った。
一体、どれだけの距離と時間を歩いただろうか。
やがて、最後の扉を開けた時、目の前に見えたのは謎の光景だった。
何か大きな像の周りを、人の形をした何かが踊っている。
像を崇めるようにして、何かが踊り狂っている。
「太鼓が響く。笛の音が響く……そんな男の耳に、言葉が届いた」
ブランシュはそこで話を止めて、すぅと小さく空気を吸った。
何も言わないイフタフは、ごくりと唾を飲み込んだ。
「それ、そっちの方に引っ張ってもらっていいっすか? そう、もうちょっと右に」
社の周囲に注連縄を巻く慧の傍には、20人……或いは、20体の黴の人たちの姿があった。自分たちの生存と繁栄のために尽力してくれている慧たちを、せめて少しでも手伝おうと集った雄姿たちである。
「ここは黴さん達の村っすからね」
人任せにして「それで万事良しとする」類の者も世間には少なくないわけだが、ここの黴たちはどうやらそうじゃないようだ。なるほど、まったく感心することしきりであった。
社の飾りつけを終えた慧は、次に社の納屋へと向かう。
そこに並んでいるのは無数の甕である。中には、味噌やチーズ、甘酒などの発酵食品……正確にはその原材料が納められていた。
一種、独特な香りが漂っている。発酵食品の匂いなど、慧には慣れたものではあるが、そう言えばレイテなどはどうにも変な顔をしていたことを思い出す。
本当にこれを食べるのか? なんて、心の声が聞こえて来そうだった。
「黴さん達、自分はそういう食材や料理に使えるぞって方います?」
慧は問うた。
だが、黴たちは顔を見合わせるばかり。人の形をしていても所詮は黴なので、食品を加工する習慣や知恵が無いのだろう。さもありなん。
まぁ、無ければ無いでどうにか出来ないものでもない。
完成は、まだ数カ月や場合によっては数年先であるため、いずれは手入れの仕方や仕込み方を覚えてもらわなければならないが。
「まぁ、いいっす……あれこれ準備してるうちに、なんだか楽しくなっちゃったっすね」
そう言って、慧は懐から札の束を取り出した。何かしらの祝詞や梵字の書かれた札だ。それを納屋にずらりと並んだ甕の蓋やら、側面やらに貼り付ける。
するど、どうしたことでしょう。
なんてことない発酵小屋が、すっかり禍々しいものに変わったではありませんか。
呪的ビフォー・アフターであった。
社の中に妙見子が座した。
その背後には、妙見子(因習村の姿)を模した木像がある。レイテが体力と精神を限界まで削ってこしらえた、渾身の作だ。なるほど、実に禍々しい。
「これで準備は概ね完了ですね。あ、黴さんたちにはいざというときに一斉に出てきていただくのでしばらく待機をお願いします」
三種の神器を目の前に並べ、妙見子は壁際に指先を向ける。
ぼう、と燭台に並ぶ蝋燭に火が灯った。
炎の明かりから逃げるみたいに、ざわりと社が蠢いた。床や壁に張り付いていた黴たちが、一斉に移動し、床下や天井裏に姿を隠したためである。
「たみこさま。たみこさま……そんな唄が聞こえていた。男は自分の知らない光景に恐怖し、とにかく此処を脱する事だけを考えた」
ブランシュの話を、イフタフは黙って聞いていた。
その頬には、汗が一筋、滴っている。
「森の中を走る。逃げるのに無我夢中だったその男はもはや道など関係ない」
偶然森の中出会った女性に道を聞く。彼女は森の中を掃除していたようだ。
彼女から道を聞き、男は気づけば元の場所にいた。
男は安堵し、それと同時に思い出す。
――今思えば妙だったのだ。
あの天女の様な方には、まるで狐のような尻尾が生えていたのだから。
「いやぁ、っていうか……それ、妙見子さんじゃないっすか」
「……着いたぞ」
話をしているうちに、いつの間にか寂れた村が見えて来た。ブランシュが指差した先には、村の入り口を竹箒で掃除しているアルムがいる。
「やぁ、間に合ったね~。お祭りもやるから楽しんで行ってよ」
はい、と差し出された何かをイフタフは受け取った。
油紙に包まれたそれは、どうやらチーズのようである。
●ここに妙見子の村を作ろう
水香美村。
村の入り口にある立て看板には、そのような文字が刻まれていた。
「今日はお祭りなんだってさぁ。ほら、社の方に行こうよ」
アルムの案内に従って、妙見子は村の通りを歩く。
立ち並ぶ家屋はどれも粗末なものだった。突貫修理を施したような形跡もあるし、道の端で疲れ切って倒れているのは、練とレイテでは無いだろうか。
神器や木像の準備に始まり、今の今まで村の修繕や、祭りの準備に奔走していたことにより、体力を使い果たしたようだ。
イフタフは、そんな2人を見なかったことにした。
代わりに、訪ねる。
「人の気配がしないっすね。それに、何すか、このチーズ」
「あぁ、それ? 食べたら妙見子さまのご利益があるよ〜幸運が訪れるよ〜……あれ? 食べないと不幸が訪れるんだっけ?」
「……不穏っすね」
ポツリと呟いたイフタフは、チーズを口に放り込んだ。味も香りもいい。きっと上等なチーズなのだろう。それはそれとして不穏だが。
「ああ、やってくる……奴らがやってくる……」
道の端で酔っぱらっている者がいた。
雄だ。
「顔もない人が知らない内に忍び寄って、お前も同じだと言って仲間にしようとするんだ……!」
「何すか、あれ?」
イフタフは雄を指さし訪ねた。
「なにあれ、こわ……」
アルムも怯えた様子であった。
「ああ、妙見子様どうかお慈悲おぉ! 光り輝く玉と刃と鏡を捧げます……どうかどうかお守り下さ……」
言葉の途中で雄が意識を失い倒れる。
「ほらぁ、妙見子さんって言ったっすよ、今」
社では、ちょうど神事が執り行われていた。
汚れの1つも無い真白い衣服に身を包んだ慧が、木盆に乗ったチーズや果実を社へ捧げているところだ。
慧の周囲を囲むのは、首を垂れた無数の人影。
どうにも目鼻の無い、黴で出来た人の姿をしているようだ。どう見ても妖である。
「ひぇ」
「うわぁ……」
イフタフとアルムは、怯えた様子で肩を寄せた。顔色が悪い。明らかに異様な雰囲気である。物音の1つでも立てれば、きっと悲しいことになる。そんな予感さえしていた。
やがて、すーっと静かな音を立てながら社の扉が開いた。
そこに居たのは、妙見子である。
おぉ、と村がざわついた。黴の人たちが、一斉に地面に伏したのだ。
「やっぱり妙見子さんじゃないっすか」
厳かに。
まるで神か何かのように、妙見子は木盆を取り上げた。それから、彼女は両手を広げ、薄く微笑む。まるで慈愛の化身であるかのような佇まいである。
「さぁ! 貴方たちも一緒にこちらで楽しく暮らしませんか?」
その目が、イフタフとアルムを捕えた。
2人の背筋に悪寒が走る。
気付けば、踵を返して元来た道を引き返していた。喉の奥から悲鳴が零れる。逃げて、逃げて、逃げ続けるのに、妙見子の視線はずっと背中に感じたままだ。
「あ、逃げてももう遅いですからね」
耳元で、妙見子の声がした。
「ほら……貴方の後ろに」
ふぅ、とイフタフの耳に妙見子の吐息が吹きかけられた。
「ひぃっ!?」
悲鳴が零れた。
村のそこかしこから、幾人もの人影が現れる。黴の人たちだ。人の形をしているのに、人の気配は感じない。それが恐ろしくて仕方がない。
「妙見子様が」
脳に直接、言葉が響いて。
イフタフの意識が、あまりの恐怖にプツンと途切れた。
「連れて来る。連れて来るっす……代わりを、住人を……」
気絶したイフタフが、ブツブツと言葉を零していた。
それを見下ろしていた妙見子が、ちらと視線を“こちら”へ向ける。それから、妙見子は笑う。笑って“あなた”を指さし告げる。
「画面の前の貴方もどうか気を付けてくださいね。第四の壁を越えて私は貴方を連れてくることだってできるんですよ」
※ここで“あなた”は背後を振り返る。
果たして、そこには……。
「あの男がどうなったかって? それが不思議な話でな。なんとその後、件の村に引っ越したらしい」
誰もいない虚空へ向かって、ブランシュは悪戯っぽい笑顔を向けた。
「“あの村に水が多く流れてきたら、たみこさまが祝福をくれるんだ”……男はただ、幸福な笑みを浮かべてそう言っていたんだってよ」
以上を持って“水香美村”の伝承は終幕である。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様です。
立派な因習村が完成しました。
依頼は成功となります。
この度はご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。
なお、重症は極度の疲労によるものです。
GMコメント
こちらのシナリオは「ドキドキ因習村。或いは、深渡夏村の謎めいた“祭り”…。」のアフターアクションシナリオです。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9106
●ミッション
因習村を作ろう
●NPC
・黴の妖
人型を取った黴の塊。
村の住人たちだが、普段は単なる黴として村の各所でじっとしている。
言葉を発することは出来ないし、そもそも正しく意思の疎通が出来ているのかさえも不明。
村……と言うか、自身らの存続のためには、村に人を呼ぶ必要があるらしい。
・イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)
何も知らない一般通過イフタフ。
妙見子に呼ばれて、村へとやって来る。
●やること
因習村を作ろう。
変な習慣とか、言い伝えとか、御神体とか、村の名前とか、そう言うのが必要となる。
外部からの来訪者や、移住希望者を募りたいらしい。
※とくに何も無ければ妙見子さんが御神体になります。
●フィールド
豊穣。山奥にある、地図に載っていない村。
正しくは、村の跡地。そもそも、1度も地図に載っていたことなど無いかもしれない。
家屋は100ほど並んでいるが、現時点ではどれもボロボロ。
家屋や道はすっかり黴に覆われている。
また、村の奥の岩壁には半壊した社が存在している。
社は空で、そもそも何を祀っていた社なのかも不明。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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