PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<信なる凱旋>彼の炎 誇りも灰に変えたれば 語る言葉は 塵芥也

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●誇りだけでは腹は膨らまず
「馬鹿を言え! 夢物語を語るだけで我らが故郷が戻るものか! 貴殿らは、あの町の住人であったことよりも天義の国民として、誇りを胸に前に進むと決めたのではないのか!?」
「……ダルケー様、騎士たる貴方の高潔さや物分りの良さでは、世界のすべては回らぬのです。我々は未だにあの地に心を囚われている。貴方がかつての戦乱に落ちた天義で、私達のために所領を手放したがために」
 天義、聖都フォン・ルーベルグの最外縁といえるその地でひっそりと暮らしてきた一団……領主であった騎士、ダルケー・シュニッツェンとその領民たちは対立の色を見せていた。
 ダルケーは騎士としての誇りひとつで所領を失っても歯を食いしばり、もと領民たちにおのれの食い扶持を分けてでも再興を求めていた。騎士とは名ばかりの食い扶持でも耐えられたのは、彼に家族が居なかったからだ。
 本来なら騎士にあるまじき慎ましさは、このときばかりは救いとなった。
 だが、残された領民たちはかつての住処を忘れられず、あろうことか『星灯聖典』なる怪しい宗派に跪き、ダルケーを『奇跡に引き合わせよう』としていた。
「……っ、だが! あそこで犬死にさせるのが善ではなかった! 諸兄の命を預かり、いずれという形で再興を目指すことはできなかったのか!?」
「遅すぎるのです。眼の前に美酒をぶら下げられて、口をつけぬ高潔さを誰が持ちましょうや。ですからどうか」
 ――貴方の命を火にくべてはくれまいか?
 元領民の言葉が最後まで届くより先に、ダルケーの肉体は炎に包まれた。その背後には、赤い鎧を纏った騎士が立っている。
「いかん……! 毒杯を煽るなど……!」
 だが、彼らにその声は届かなかった。
 炎に焼けた喉から漏れたのは、ひゅうひゅうという音ばかりだったから。

●愚民も賢者も殺していいらしい。
「あれが――『預言の騎士』というやつか。まだ状況は最悪じゃない。奴がことを為す前に騎士を倒せればなんとかなるはずだ」
 イレギュラーズ一同、ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)を含めた少数精鋭はフォン・ルーベルグの警邏中にその事態にいち早く駆けつけ、状況を理解。
 即座に打開に動くべく布陣を組み、領民たちを避けて騎士を倒すべく歩を進めようとし……妨害するべく割り込んだ領民、そして彼らを殺そうと現れた影との間で火花を散らす。
「誰だ……貴様は今、この領民を殺そうとしたのか」
「そりゃあそうでしょうとも。殺せる者は殺し、裁てるものは裁っておく。アタシは人の命と社会との縁を切ってまわる裁ち鋏でさぁ。生前はそうですねぇ、『裁ち男』とでも呼ばれてやしたか」
「……『致命者』か」
 ベネディクトは現れた『裁ち男』が、かつて命を落とした『致命者』の一人であること、その死因が処刑であることを悟った。
 にたりと笑う彼は、領民たちを指差す。
「奴らは預言の騎士に元領主殿を差し出したい。アタシは誰でもいいから殺したい。死んだ領民を前に、炎に包まれた領主殿はどんな顔をしましょうかねェ……?」

GMコメント

●成功条件
(開始後5ターン目終了まで)天義騎士ダルケー・シュニッツェンを殺すことなく、『赤騎士』を撃破する
(5ターン経過後orダルケーの死後)『炎の獣・ダルケー』の撃破or撃退
・致命者を除く敵勢力の無力化
・致命者『裁ち男』の撃破or撃退

●失敗条件
・炎の獣or赤騎士撃破前に半数が戦闘不能となる

●『第二の騎士・赤騎士』
 焔を纏った赤い騎士です。
 人々の姿を炎の獣へと変化させ、滅びのアークを纏わせた『終焉獣まがい』の存在へと至らしめます。
 今回のシナリオでは個体性能が耐久寄りに高く、【棘】【攻勢BS回復(小)】、攻撃の全てに【火炎系列】を有す等、セオリーとなる戦術の幾つかは通じはしますが若干効きが弱いと思って構いません。
 代わりに攻撃力はHARDボスというよりちょっと強い随伴ぐらいのレベルで、こいつ一人が攻勢に出たから戦場が瓦解することは「まずない」でしょう。
 攻撃手段は近中距離の炎を伴う剣技。【移】を伴う範囲攻撃などで距離を詰めてきます。
 赤騎士としては5ターンかけてダルケーを変化させたほうが「強い獣」になるため、手ずから殺す気はないようです。

●ダルケー・シュニッツェン(『炎の獣・ダルケー』)
 天義の騎士で、高潔かつ強力な御仁です。力量目安としてはシナリオ参加条件ギリギリのイレギュラーズなら1対1で組み伏せるレベル。
 ですが、リプレイ開始時点で赤騎士の侵食を受けており、炎の獣に変化する最中です。
 炎の獣と化した後、致命者は撤退、星灯聖典信者(後述)は全滅するかイレギュラーズが撤退するまで戦い続けるでしょう。
 ……そもそも、ダルケーは信者達と同郷なのですからさもありなん。『炎の獣』に変じた際、信者の死亡数に応じて性能が上下します。
 炎の獣と化した場合、赤騎士の基礎性能に加え彼の戦闘技術が加わり、攻撃力は据え置きながらも技巧面が大幅に上がります。
 スキル構成も代わり、足を据えて強烈な攻撃でゴリゴリ攻めてくる感じに変化します。

●星灯聖典信者×10
 聖騎士グラキエスを辛抱する一派で、属すことで失ったものを取り戻せると信じています。
 ダルケーと同郷の彼らは、等しく「故郷を取り戻す」ことを願っていますが、既に地図から消えた村を取り戻す手段などありはしません。
 全員が『聖骸布』を肌に縫い付けられ、人並み外れた膂力を有しています(死ににくいし群がると痛いですが強敵とは言えません)。
 死ににくいとはいえHPを超えたダメージで容易に死にます。不殺で戦闘不能になれば聖骸布は効力を喪います。

●致命者『裁ち男』
 とある遂行者により死地より引き戻された、元連続殺人鬼の致命者。
 基本的に弱い者殺しが好きな彼は、隠密能力を駆使して信者や、場合によってはダルケーも殺そうとするでしょう。
 ある程度の探知能力の複合などで姿を見極め、無力化しないと事態はどんどん面倒になっていきます。

●戦場
 聖都フォン・ルーベルグ市街外縁部。
 一般人は異常を察して避難を始めているため、誘導などしなくても被害者は出ないでしょう。
 建築物などは別問題ですが、このシナリオで考えるべきは敵への対処が主となるでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <信なる凱旋>彼の炎 誇りも灰に変えたれば 語る言葉は 塵芥也Lv:40以上完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年09月19日 22時50分
  • 参加人数6/6人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ


「……どっちの気持ちも分かるだけに、複雑な気分やな」
「彼らの行いが『弱さ』と断じるのは簡単だが、それが救われない理由にはならないね。善悪だけでは図れない話さ」
 『晶竜封殺』火野・彩陽(p3p010663)と『約束の瓊剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は、炎立ち上る騎士を祈るように眺める人々に視線を向け、嫌悪とも憐憫ともつかぬ表情をみせた。彼らの哀れさは筆舌に尽くし難く、しかし心情は図るに余りある。誰もが騎士のごとくに高潔ではいられないのだ。それを知ったればこそ、その心に付け入ろうとする傲慢が際立つ。
「けど、心が弱ってるところに付け込んで、甘い言葉で操ろうとする、胡散臭い宗教モドキの行動だけは阻止すべきだ」
「状況は実にシンプルだ。一人一人、目障りな連中をぶちのめす。そういうことだろう?」
「それもそうだな」
『高慢で蒙昧、単純で粗野。成程、イレギュラーズとは斯くも前後不覚であろうか』
 高潔な魂は須くは与えられぬ。だからといって、魂を汚していい理由にはならない。『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は宗教と甘言で操られた人々を憐れむように一瞥すると、赤騎士をにらみつける。『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)の思考はさらにシンプル、且つ戦闘向きのそれだった。彼は殴ることでしか解決できない、その状況で「より殴りやすい相手」に視線を向けた、それだけなのだ。物事はシンプルな方が、何かと都合がいい。イレギュラーズは弱さも強さも弁えている。その態度は、赤騎士の口を開かせる程度には気に食わなかったようだ。漏れ出た声の響きはどうにも常道にて響くものではない。
「目の前の美酒に誑かされる事はあるだろう。だが、それを減らそうと律するのがヒトであり、それを言い訳にヒトの命を奪うのはケモノ以下だろうて」
『我を獣と謗るか』
「それ以下だと彼女は言っている。お前もだ、『裁ち男』」
「ヒヒ、怖い怖い……! アンタみたいな強者を相手するのは御免でさぁ」
「安心しろ、俺も貴様に興味はない」
 『記憶に刻め』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)の口にした罵りは、果たして誰に向けてのものだっただろうか。美酒に誑かされた者を罪と断じることは、同じヒトには難しい。それを罪と、軽々に断じるのならそれは獣かそれ以下の知性と理性しかない、と赤騎士は受け取ったようだ。尤も、彼女の視線と共に放散される、殺意にほど近い敵意の矛先は市民に向いているようだが。
 言葉を引き継ぐように裁ち男へと水を向けた『騎士の矜持』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、恐怖とも歓喜とも付かない笑みを浮かべた彼から視線を切った。今、イレギュラーズにとって最も重要な敵は赤騎士であり、最大目標はダルケーの生存である。視線を僅かでも切れば煙のように消えるそれより、余裕満面に佇む騎士を優先するのは当然と言えるだろう。
「……ダルケー様を捧げるのが唯一の道なれば、我らは預言に従おう」
「そういう態度がケモノ以下だって言ってるんだがね。崇高なる領主様の手前、生かしてやろうか」
 領民達と赤騎士、およびダルケーの位置関係からすれば、領民は「邪魔ではあるが無視できる」位置取りだ。乱戦になれば、守りたいイレギュラーズ側が不利となる。
「ヴェルグリーズさん、死角は補う。裁ち男は任せた」
「勿論。余計なことをする輩は、早々にご退場願おう」
 短く言葉をかわした風牙とヴェルグリーズの間に、視線は交わらない。互いに視線を向けるくらいなら、今制すべき敵に向けるべきだからだ。
 ダルケーを包む炎の勢いが弥増し、早く堕ちろと急いている……保って五十秒。一同は風牙と同時に動いた。まるで、その意識が皆を引っ張るかのように。


「退いてもらうぜ。オレ達は殺す為に来たんじゃないんだ」
「誰、」
 仲間達と波長と歩調を合わせて尚、風牙の一歩は他に先んじた。そして、常人に毛が生えた信者如きでは目で追うこともできなかった。踏み込んだ位置を軸に烙地彗天が横薙ぎに振るわれ、放射状に人々が弾き飛ばされる。反射的に足を踏み出そうとした彼らはしかし、痺れで一歩も動けぬ己を知覚した筈だ。そしてその知覚すらも、戦闘を目で追うには遅すぎる。
「近くに居なきゃよぉ、思いっきり殴れねえ。そうだろう、HAHAHA!」
 余裕綽々に宣言した貴道の声は、風牙により拓けた視界の先で赤騎士の視界に堂々と飛び込み、その視線を釣り上げる。怒りや敵意ではなく、挑戦者(おまえ)がこちらに来るべきだ、という挑発。戦闘開始直前に取られた構えは、絶対に逃さぬという意思表示か。無論、それは十全な効果を発揮し、その馬を向かわせるに足るものだった。……倒すために動けるならば。
『其の増上慢、許し難し。我が槍の前に散れ』
「そうはさせへんけどね」
 赤騎士が槍を貴道に照準し、手綱を引こうとしたのは確かだ。だが、その手首目掛けて穿天明星が突き立ち、動きを縫い付ける。瞬間、彩陽は指先に違和感を覚え目を細める。与えた打撃に比した反動が、最大射程をして届くというのか。一発一発はさした痛みはないが、長期戦となれば無視はできまい。そんな懸念すらも、脇を抜け突き進む光明の前には霞んで見えた。
「流石だ、彩陽」
『……グッ……!』
 貴道は挑発に徹した。仲間達は遠間からの攻勢を選択した。もしくは、信者達との切り離しに尽力した。間合いに初手から踏み込み、確実な一撃を与えられるのは今、この戦場に於いて一人だけ。
 即ち、ベネディクトだ。仲間を巻き込まぬための状況が揃っていれば、万全の一撃を叩き込める。故の、渾身の打撃。瞬間、自らを叩く不可視の痛覚に口元を歪めるが、彼はそもそも無傷で預言の騎士を倒せるとは思っていない。寧ろ、仲間よりは自身が運命の導きに沿って傷つくべきだとすら思っているフシがある。
 度重なる激戦を経て深手を負った者が多いなか、彼の思考は「持つ者」として妥当ではあるが、自己犠牲そのものが適切な判断ではない。直剣を構え吼えるその姿は、恰も行き急ぐ獣のようですらあった。
「無茶……を、するな……私の、領民のために……そんな」
「さて、救えない考え方を持った領民風情に連中が命まで賭けるかね? 死なせたくない領主の為なら、まだ分からなくもないが」
 ダルケーは炎に喘ぎながらも戦闘から視線を切ることはなかった。状況を把握しつつ、動けずともなお戦うことを捨てなかった人々。マニエラはそんな人々を一瞥し、殺さぬ程度の魔術を叩きつけながらダルケーに応じた。
 イレギュラーズは飽くまで今救うに値するダルケーを、炎の獣に成り果てぬために戦っている。一般人は二の次だ。最悪、信者達が全員死んでも赤騎士を仕留めれば戦局に悪影響はない。そう割り切らないのは、ひとえにダルケーが望む通りの結末ごと引き寄せる為だ。
 動かぬ的、傷ついた的。割るには余りにも楽なそれに目掛け、一本のナイフが飛来する。が、ナイフを弾きながら迫る影に裁ち男は目を瞠った。刃の軌跡が肌を掠めるだけに留まったのは、ヴェルグリーズの腕というよりは裁ち男の危機回避センスが常軌を逸していたからだろう。
「意外と隠れるのは上手じゃないみたいだね」
「これでも、隠れたつもりなんですがねェ……!」
 裁ち男の隠密技術はたしかに卓越したものがあった。少なくとも、ヴェルグリーズ一人で応じるには一手出遅れても誰も異を唱えまい。探知能力の一部を無効化され、霞のように立ち回られては。だが、この場には六人のイレギュラーズがいるのだ。一対一で立ち会う戦いとは何もかもが違う。
「見た目を誤魔化すのは上手いのかもしれないが、それも人間相手での話だ。自分が思ってるよりも下手糞だよ、アンタは」
 風牙の駄目押しとばかりの嘲弄に目を細めた裁ち男が再び霞に紛れた。音を殺す。視界を奪う。察知させぬように全霊を傾けた死神は、しかし挑発に乗る軽薄さはなかった。
 狙いはどこまでいっても信者達。敢えて火中の栗であるダルケーを拾いにはいかない狡猾さを具備していた。……その小賢しさが自らを追い詰めるとは、彼も思うまい。
「テメェが居ると事態が複雑になるんだ、面倒くせえんだよ。近付いてこないなら、こっちから邪魔するぜ」
「だから、動けないまま倒れてくれると助かるわ。その方がシンプルや」
 貴道は微動だにしない赤騎士の懐に入り、苛烈な一撃を見舞う。可能性を丁寧に削り取り、次に確実に繋げるために。自らに跳ね返る傷など、勲章にもならないちいさな傷だ。
 彼が築いた好機に、更に彩陽が一手ねじ込もうとし……しかし、運命の悪戯はここで捻れを生んだ。彼の放った矢が、ギリギリのところで掠め過ぎ、後方へ抜けたのだ。
「しくった……!」
「焦るな、そして己を責めるな。五分に戻っただけなら、まだ勝機はある!」
『させぬ! 斯様な上玉を人の身に留め置くなど、主への冒涜にほかならぬ!』
 思わぬ逸失に呻く彩陽を鼓舞するように、ベネディクトが声を上げる。だが、赤騎士は貴道に槍を振り下ろし、続けざまにベネディクトへと穂先を向けた。
 豪胆な声を吐くその鎧はところどころ拉げ、彼らの奮戦が無駄ではないことを思わせよう。
 それでも戦意を失わない姿は、強大なだけではない敵の姿をイレギュラーズに焼き付けんとしていた。


「お前らなあ! 自分が助かりたいって気持ちはわかるけど、今まで散々助けてくれた騎士さまに、礼のひとつもねえのかよ!」
「かの方お一人の肩に、我ら全員の未来など重すぎよう。人の道を外れようとも、重荷で潰れられては今はただ、困るのだ……!」
「ああ、ああ。余りに身勝手で横柄な自己満足……! 自分だけは無事で居られると思い込んでいる大いなる甘さ! そんな首にこそ価値――ガっ」
 風牙が信者達へ向けた叫びは、怒りと哀れみが綯い交ぜになっているように思えた。彼らを束ねてきたダルケーの行いが徒労に終わったかのような。外道になれば、願いが成就するとでもいいたげな身勝手さが。何しろこの状況を作り出したのだ。何処からか響いた裁ち男の声が嘲弄の色を濃くするのも、なんら誤魔化せるものではなかった。
「凄いね、殺人鬼というのは言葉で自傷するのも得意とは。今の言葉、全部自分に向けて言ったんだろう?」
 裁ち男は、叫ぶ男を殺そうと迫った。音に自ら近付いたのだ。
 自分の音を最小限にできても、周囲の、それも煩い相手に近付いた時点で――抑えきれぬ殺意を抱えた時点で、最初から裁ち男は己に甘かったのだ。
 ヴェルグリーズの刃が、深々と腕に食らいついた事実が何より如実にその失敗を物語っていた。無論、咄嗟に突き出された刃の煌めきには著しい死への衝動が威力として籠もっていたのは間違いないが、見えているものを相手に、軽々に受ける彼ではない。
「狙われれば、そっくりそのまま返してやるつもりだったが。ああなってはもう無意味だな」
「……またまた。そちらは治療に神経を傾けているでしょうに」
 マニエラは裁ち男を一瞥し、つまらなさそうに言い切る。が、その手は絶えず治癒術式を編み、赤騎士と対峙する面々に治療を続けている。その合間に不意打ちへの対策まで仕込んでいたのはオーバーワークという他ないが、それをこなしてしまえるのが彼女なのだろう。
「少し腕が痛みますが、逃げるのには不自由でなし。今殺せぬなら、いつか改めて殺」
「いつか、なんて悲しいこと言うじゃねえか。かくれんぼが終わったんだから出かけようぜ」
 地獄にな。
 そう言い切った貴道の拳が背中から胸を貫いている事実を、裁ち男は遅ればせながら理解した。
 驚きはある。絶望もまた、ある。だが感情のゆらぎは一切なかった。
 なぜなら、視界の端で赤騎士が死んだのを彼は見ていたから。

●石を擲つ人々
 過去を取り戻せるならば、その象徴である領主ですらも質に入れる。その必死さを、ベネディクトが理解できぬといえば嘘になる。
 そんな人々の弱さを嘲笑う赤騎士の姿に怒りを覚えぬといえばそれもまた嘘だ。
「やめてください……騎士殿を倒してしまわれれば、我々は二度と戻れぬのです!」
「今手の中にある物を無視して、なにが『戻る』だ! 失ったもの以上を与えようと尽力してきた領主は無視してもいいというのか!」
「ですが、ですが……!」
「やり直したい過去が、得難かったモノの喪失が自分たちだけであるはずがないだろう! その過去を抱えて未来に伝える役割を放棄してまで、戻ろうなどと!」
 立てても、動けぬ。飛び道具を持つ信者、石を拾った者達は手に手に風牙を狙い石を擲つが、彼に届くことはないだろう。そんな姿を横目に、彼らに叫ぶベネディクトの声が果たしてどこまで届いたことか。
「……やめとけよ。聞きたくない奴は最後まで耳を傾けやしないぜ」
「お互いに話し合いを重ねて、何か変わったんやろか」
 赤騎士は斯くの如く戦った。だが、前のめりになった時の爆発力が突出したベネディクトと貴道、そして背後から動きを封じにかかる彩陽を相手にして、目的を達せなければ勝利も遠かったことは間違いない。
 ……四十秒と、そこそこの深手。それが赤騎士の稼いだ戦果だった。
 逆に言えば、赤騎士が持ち堪えたからこそ裁ち男が調子に乗った機が生まれ、確実に殺すことができたとも言えるだろうが。

 ダルケーは「恩に着る」とだけ告げた後、力なく石畳に倒れ伏した。赤騎士の消滅で憑きが落ちたような、そして打倒されたことで聖骸布から解き放たれた人々が治療を経て彼に駆け寄るが、しかし両者の断絶は……残念ながらすぐに埋まることはないだろう。
 だがそれでも、石を擲つばかりの人生でなく、過去にとらわれるばかりの心ではなく、正しい道を歩めれば、と思うばかりだ。

成否

成功

MVP

郷田 貴道(p3p000401)
竜拳

状態異常

なし

あとがき

 まず、大変な遅れとなりましたことをお詫びいたします。
 大変お疲れ様でした。
 制限された人数、手も時間も足りなかった状況で成し遂げたものだと思います。裁ち男も居なくなり、当面の無事は確保されました。
 また機会があればよろしくお願いします。

PAGETOPPAGEBOTTOM