PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<英雄譚の始まり>アバレルバライバラ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 『境界<ロストシティ>』。
 この地は、混沌と密接にリンクしており、混沌のありえたかもしれない世界として分離した地。
 果ての迷宮第十層に位置する異空間……境界図書館の館長を務めるクレカの故郷であり、混沌世界からすれば随分と遠い昔の出来事であり、本来ならば終ってしまった物語の別の側面でもある。
 そこでは、魔王を倒し、『レガド・イルシオン』の建国の祖となった男『アイオン』とその仲間達が『勇者』と呼ばれることのなかった『IFの物語』が続いているという。
 クレカの誘いもあり、イレギュラーズはこの世界を知るべく探索することになる。

 境界図書館から、至った商店街。そこは、プリエの回廊と呼ぶらしい。
 多くのイレギュラーズが情報を受けてこの地へと出入りしているが、まだまだ未知の部分も多い。
 その為、魔法使いと呼ばれる職人らの依頼を受けつつ、境界という世界の解明を進める。
「ゼロ・クール『Guide05』……ギーコと呼ばれております」
 すでに、他の依頼で出会ったイレギュラーズもいただろうが、以後、よろしくお願いいたしますと、アトリエ・コンフィーの案内嬢、『Guide05』……ギーコは丁寧に頭を下げる。
 淡々とした口調は、やや事務的な印象を受ける。
 見た目こそ可愛らしい少女だが、関節部は明らかに繋ぎ目が確認でき、人為的に作られた存在であると確認できた。
「今回依頼したいのは、とある職人の願いです」
 プリエの回廊から西にはいくつかの山が連なっているが、山の一つの麓に広がる林は木々がまばらに生えており、山菜や薬草が取れる。
 岩陰などにはキノコが群生する場所もある。枯れ枝を拾うこともできて薪などにも利用可能であり、日々の生活に使える物が幅広く手に入る為、利用する職人や村人も多いそうだ。
 その為、今回依頼してきた職人もまた度々ゼロ・クールを派遣していたようなのだが、今回は数体送っていて誰も戻ってこないと気にかけているのだとか。
「何か異常があっているのは間違いありません」
 この林へと向かい、状況を確認することが職人の依頼。
 できるなら、ゼロ・クールも回収してほしいとのことだ。
 何が起きているのか分からない以上、幅広い事態に対応できるよう備えてほしいとギーコは話す。
「来訪者様達の活躍を願っております。――よろしくお願いします」
 そう説明を締めくくり、ギーコはイレギュラーズを送り出すのだった。


 プリエの回廊を出てしばらく、目的の林は聞いていたのとは大きく様変わりした場所だった。
 あちらこちらに棘触手が地面から生えており、林を覆いつくしている。
 そして、その中央に生えた巨大な薔薇の姿が……。
 見上げんばかりの体躯を持つその植物……いや、モンスターは、茎ですら近場の木々よりも太く、人が悠々と乗れるほどの棘をあちらこちらに生やしている。
 林を制圧したこの薔薇は、アバレバラなるモンスターらしい。
 この一区画を見下ろすように咲く巨大な薔薇は禍々しいほどに赤く、周囲に幾本もの棘触手を生やして林の植物、土などから養分を吸い取っているようだ。
 このモンスターがいつ現れたかは不明だが、林に訪れたゼロ・クール数体が棘触手に貫かれ、地面に倒れている。
 その目からは光が失われ、もう動く気配はない。
「うう……」
 そんな中、小さく呻きながら抵抗を続けるゼロ・クールが1体いて。
 見た目は可愛らしい市松人形といった印象だが、カミソリを持って抵抗を続ける限り、多少の戦闘能力は備えているらしい。
 だが、多勢に無勢。増え続ける棘触手によって、その体にはどんどん傷が増えている。
「……このまま、では」
 自分もまた、倒れる同胞と同じ末路を辿ることになるだろうと、そのゼロ・クールは考える。
 林の全容、他のゼロ・クールの状態など、見た目だけでは把握できぬが、ともあれ、このモンスターを討伐せねば状況確認もままならない。
 駆けつけたイレギュラーズはその市松人形を支援しつつ、名前を確認する。
「ECMk-Ⅱと申します」
 見れば、体はかなり損傷しており、厳しい状態だ。
 そのゼロ・クールを守りつつ、イレギュラーズは巨大なモンスターの討伐を始める。
「「…………」」
 ……だが、そこに現れる黒い影が3つ。
 浮遊する長い髪のような終焉獣どもが空中で揺らめき、その存在を奪い去ろうと近づいてくるのだった。

GMコメント

 イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
 <英雄譚の始まり>のシナリオをお届けします。
 境界の探索は少しずつ進んでいますが、こちらでもその一助ができればと思っております。

●概要
 『プーレルジール』と呼ばれる場所が舞台です。
 プリエの回廊の西の山脈麓にある林の様子を向かったゼロ・クール数体が戻ってこないということで、様子を見に向かいます。
 林は怪しげな巨大薔薇と棘が繁殖しており、ゼロ・クールはほぼ全滅に近い状態です。
 下記、NPCにある1体は稼働し、抵抗を続けていますが、かなり追い込まれていて厳しい状況です。
 できる限り、助けてあげてくださいますよう願います。

●敵
〇終焉獣:苦悩の髪×3体
 全長5mほど。女性の長髪を思わせる物体が束になって浮遊しています。
 その長い体躯を叩きつけたり、激しい風を巻き起こしたりします。
 自身の身体を相手に絡めて締め上げ、その存在を消し去ろうとすることもあるようです。

○モンスター:アバレバラ(薔薇)×1体
 本体。全長10mあまりある巨大植物。魔王の配下とみられます。
 周囲の植物だけでなく、土壌、林に迷い込んだ小動物まで養分を吸い取ってしまうようです。
 大きな赤い花を咲かせ、茨が生えた無数の鞭触手を所持しており、下記のようにある程度は独立して行動が可能なようです。
 本体自身は花から甘い香りを発して相手を惑わせて恍惚とさせたり、自身の操る茨触手で獲物を捕らえて養分を吸収したりする他、新たな茨触手を生み出すこともあるようです。

〇アバレバライバラ(茨)×?体
 本体からある程度自律能力を持つ茨触手です。地面から5~10m程度の長さで伸びます。
 太さは数十cmから2,3m程度。相手によって太さを使い分けるようで、近場の植物、小動物を捕らえて養分を吸収することができます。
 数が減れば、本体の一部へと戻って体力を回復させることも。
 また、本体は倒れれば徐々に力を失い、やがて枯れてしまうようです。

●NPC
〇ゼロ・クール:ECMk-Ⅱ(イーシーマークツー)
 プーレルジールなる世界の案内役。
 とある魔法使いと呼ばれる職人によって作られた人形です。
 ある程度の知識をプログラミングされてはいますが、必要以上の知識は持っておりません。

 上記、概要にて生き残っているとしているゼロ・クールは、全長120~130センチ程度、可愛らしい市松人形といった外見の女の子を思わせる見た目をしております。
 カミソリを武器とし、飛び込んで相手を仕留める戦法を得ていますが、戦闘経験はさほどありません。
 すでに全身がキズついており、援護する必要があります。
 ECMk-Ⅱという生態番号が与えられているようですが、良ければ、名前を付けてあげてくださいませ。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いします。

  • <英雄譚の始まり>アバレルバライバラ完了
  • 襲い来るは薔薇茨だけでなく……
  • GM名なちゅい
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年09月14日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
鵜来巣 冥夜(p3p008218)
無限ライダー2号
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
月夜の魔法使い
三鬼 昴(p3p010722)
修羅の如く

リプレイ


 プリエの回廊西の山脈の麓にある林は山菜、薬草、キノコなどが採れる絶好のスポット。
 しかし……。
「これは……」
 『愛を知った者よ』グリーフ・ロス(p3p008615)がファミリアーを通してもたらした状況は惨憺たるものだった。
 あちらこちらに転がるゼロ・クール。
 腕や脚が外れたりしているものもいたが、個体によっては頭部が無かったり、体を真っ二つに割られたり……。
「もっと早く辿り着きたかった……もっと早く知りたかった……」
 『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)はこの状況をいち早く知ることができなかった己に無力感を感じて。
「力とは戦う力だけではないのだわ……この世界に、人と人との繋がりを沢山作って、早く知る力が欲しい」
 華蓮はそう言うものの、目の前の事態に対処するのが先だ。
 倒れたゼロ・クール及び破損パーツや核を捜索するグリーフ。
 まだ機能不全程度の個体もちらほらいるが、残念ながら感情も映らず、光を失った者も……。
「残念ですわ」
 命が失われた事実に、華蓮は無念さを滲ませる言葉を口にした。
 それらの安否も気になるが。
「何かトラブルには巻き込まれたのだろうと思ってたが、こんなのが出ていたとはな」
 『修羅の如く』三鬼 昴(p3p010722)に促されるように、イレギュラーズは頭上を見上げると。
「他のものから養分を吸い取ってきただけあって巨大な薔薇ですね」
 『紛れたモノは排除します』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)は禍々しく咲く巨大な薔薇のモンスター、イバラバラを注視し、僅かに眉根を寄せる。
 それもそのはず、地面に無数の茨触手を生やし、植物、動物問わずとらえて養分を吸収しつくしてしまうのだ。
「まったく恐ろしい魔物だ。さすがに成長にも限界はあると思うが、放置しておいていいタイプじゃないな」
 この状況で、泣きっ面に蜂……いや、髪というべきか。
 終焉獣、苦悩の髪3体はそれぞれ束なってゆらりと飛行し、獲物を待ち構えているようにも見えた。
「まだ無事な子が居てよかったわっ」
 そこで、アルテミアは薔薇の襲撃に耐える市松人形のようなゼロ・クールの姿を確認し、声を上げる。
 ともあれ、無事なゼロ・クールを救出すべく、イレギュラーズは敵との間へと割り込む。
「ECMk-Ⅱと申します」
「まずは急いでECMk-Ⅱの治療だな」
 自己紹介を受けたゼロ・クールに、『狂言回し』回言 世界(p3p007315)がすぐハイネス・ハーモニクスを発動させていた。
 生態番号に呼ぶのを、メンバーの中には躊躇う者もいたが。
「中々に厄介な状況だが、さてどうしたものか」
 治療を続ける世界が仲間達と策を巡らす。
 ただ、イバラバラも終焉獣も、悠長にこちらの態勢が整うのを待ちはしない。
「もちろん、襲ってくる敵の対処よ」
 敵の前に立つ『銀青の戦乙女』アルテミア・フィルティス(p3p001981)。
 『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)もグリーフと共に、林への被害はもちろん、破損したゼロ・クールに余波が及ばぬよう保護結界を展開して。
「限りを尽くした奴に生物も人形もねぇってもんだ」
 同調するように、『無限ライダー2号』鵜来巣 冥夜(p3p008218)もオルド・クロニクルを展開し、戦火が林に及ぶリスクを低減する。
「このまま魔物どもを討伐して、この子の無事とこの林の安全を確保よ!」
「普段はギフトで植物の助けをしたりするのですが、林の生態系を脅かすのであれば駆除しなければなりません。」
 アルテミアの叫びにジョシュアが応じる。
「手早く倒して帰るぞ!」
「共に帰りましょう……皆で!」
 それに昴、冥夜が続き、一行は林に巣食うモンスターと終焉獣の討伐にかかるのである。


 林では依然として、世界によるECMk-Ⅱの治療が行われているが。
「今回は各々の敵を担当者ごとに個別に対応することで相手の連携や乱戦を防ぐって流れだ」
 先程、ゴリョウが告げた流れで、他のメンバーは襲い来る敵の対処に向かう。
 とりわけ厄介なのは茨を操るアバレバラ……薔薇本体。
 これを食い止めるべく、ジョシュアは赤と黒と2発の矢を射て薔薇の一部を燃やし、毒に侵すが、巨体故かさほど気にする素振りは見られない。
 アルテミアは一時、襲い来る茨に神鳴神威を発し、雷撃で痺れさせようとする。
 茨は薔薇本体が無数に地面から生やしてくる為、キリはない。
 それでも、今は世界とECMk-Ⅱから敵の注意を逸らしたいところ。
 冥夜は茨を受け持つが、その前に爽やかな香りの香水を振りまくことで、薔薇の甘い香りを緩和しようとする。
 普段は日の光が入りそうな林だが、巨大なイバラバラが光を遮る為、発光することで視界を確保する冥夜は英雄叙事詩を口ずさんでゼロ・クールを含む仲間達を奮い立たせる。
 後は茨を見回し、仲間の邪魔をする個体、破損したゼロ・クールを捕らえたままの個体に狙いを定めて討伐に当たっていた。
 華蓮はグリーフと共に、終焉獣、苦悩の髪を相手にする。
 祝詞をあげ、神託を得たことで、稀久理媛神の加護に包まれる華蓮は稀久理媛神の追い風を仲間皆へと届ける。
 そのグリーフは秘宝種としての魅力と合わせ、魔光を発して浮遊する髪を惹きつける。
 加えてグリーフは纏めてそれらに呪術をかけ、髪を足止めに注力することに。
 ほぼ同じタイミング、ゴリョウは薔薇へと接近し、タンク役として直接抑えに当たる。
 アタッカーに攻撃させないのはもちろんのこと、注意を引き続けることで新たな茨触手の生成を防ぐことがゴリョウの考える自身の仕事だ。
 金銀蓮花の炯眼でじっと睨みつけると、薔薇の動きが一時止まる。
「どうしたよ! 俺が美味そうにでも感じたかい!?」
 ただ注意を引くだけではない。
 漢豚丼の香りと効果を食材適性と誤認させ、太い身体を見せることでより美味しい『栄養源』であるかのように錯覚させる。
 ならばじっくり味わおうと、薔薇は直接操る茨触手でゴリョウを打ち付け、貫こうとしてくる。
 ただ、昴がそれを許さず、破砕の闘氣と金剛の闘氣を纏って突撃した。
「攻め手は任せてくれ」
 ゴリョウが攻撃を引きつけてくれることもあり、闘志全開で臨戦態勢を整えていた昴は覇竜穿撃で一気に攻め込む。
 体を支える巨木の幹のごとき茎へと、昴は荒々しく漲る闘氣を浴びせかけて破壊した。
 一部を砕いたところで10mもある薔薇が崩れることはないが、満足に茨を操れず攻撃を防げなくなる。
 そうなれば、仲間が追撃してくれるはず。
 飛び込んできたのはアルテミアとECMk-Ⅱだ。
 アルテミアに先んじて飛び込んだ市松人形のようなゼロ・クールはカミソリで直接斬りかかった。
 薄い刃で太すぎる茎を切り裂くのはかなりの力を要する。
「飛び込んで戦う以上、回避や相手の攻撃に合わせて隙を突く動きは重要よ」
 ただ、そのインファイト戦法に、アルテミアはアドバイスをしながらも直接自身も戦いぶりを見せるべく、雷鳴の神を宿して薔薇へと片刃剣で刺突し、直接電撃を浴びせかけていた。
 ECMk-Ⅱの治療を終えた世界はアルテミアに託し、回復役としてメンバーを支える。
(そこまで離れてないだろうとは思ったが)
 髪、薔薇、茨、いずれも比較的近い距離で固まり、交戦する仲間達もまた近場にいる。
 ならばと、世界は仲間全員をカバーできるよう位置取る。
 また、茨はアルテミアが外れたことで冥夜が一人でほぼ受け持つ形となる。
 陰陽術を使って発したまばゆい光と黒雷が複数の茨を穿つ。
 それによって、茨の拘束から解かれるゼロ・クールを見逃さず、冥夜は相棒の式神、蓮と、式神使役で呼び寄せた紙式神に回収、運び出させる。
 ゼロ・クールは男女様々。損傷部位も大小あるが、いずれも自力では動けぬ状態。
 それでもなす術があるかもしれない、冥夜はそう信じて。
(希望を捨ててなるものか。私はヒーローなのだから!)
 今は全てのゼロ・クールを救い出せるよう、冥夜は暴れる茨を抑え、さらに黒雷で貫き、養分吸収を妨げるのである。


 林の戦いはモンスターと終焉獣の混成隊がイレギュラーズに数で勝る。
 その多くを占める茨と対する冥夜は今なお茨に捕らわれたゼロ・クールの救出を続けて。
 移動しながらゼロ・クールの体を裂けるようにして茨を気糸で裂く。
 1体済み解放し、蓮と紙式神に運搬を任せる。
 茨が新たな個体を捕らえる危険もあり、冥夜は纏めて切り裂いてその可能性を軽減する。
 ゼロ・クールと言えば、ECMk-Ⅱもアルテミアと共闘する。
 イレギュラーズが到着するまでなんとか交戦しつつ耐えていた彼女だが、戦闘経験はさほどなく、運も味方して切り抜けていたようだ。
 その為、敵陣へと飛び込む戦闘スタイルが共通するアルテミアが傍で見守りつつ戦い方を指導する。
 教えていたのは、直ぐに動ける細かな足さばき、相手の得物の先端ではなく根元を見て攻撃軌道を読む観察眼といったモノ。
 実践を交え、アルテミアは敵の懐で飛び込み、雷撃を打ち込む。
 続けざまに薔薇の繰り出す茨触手に合わせてカウンタ―を……両手の刃で双炎の蒼と紅を浴びせかける。
「勉強になります」
 ECMk-Ⅱは少しでも戦い方を学ぼうとそんなアルテミアの一挙手一投足を見つめていた。
 そのECMk-Ⅱを狙わせぬようゴリョウが立ちはだかり、金の双眸で注視し、移動して敵を翻弄する。
 高い抵抗力で甘い香りを物ともしないゴリョウは、一時茨触手に捕まってしまうが、ギフトを使って細身になり、ニュルンと逃れて。
「海から遠い雑草じゃ、ウナギの掴み方は存じねぇだろ!」
「…………!」
 ならばと棘触手で突き刺そうとしてくる薔薇。
 香りと茨で苛む薔薇の攻撃に耐えるゴリョウを、世界は優しい陽光や風光で包み込み、不浄を振り払う。
 最悪、ECMk-Ⅱに攻撃が及ぶかもしれないと、世界はいつでも壁になれるよう備えていた。
 その間も昴は攻撃を続け、仲間の攻撃が重なる部位目掛けて激しく闘氣を叩き込む。
 対城技とも呼ばれる昴の武技は薔薇にも相当のダメージとなっているはず。
 なんとか養分を得ようと茨触手をばたつかせる薔薇だが、ジョシュアがそれを許さず赤と黒の連撃を撃ち込み、ついでに体力も奪っていく。
「自分が養分を吸われると考えた事ありますか?」
 語ることもできぬ薔薇は茨触手を地面に叩きつけ、苛立ちを見せていた。

 しばらく攻防が続き、イレギュラーズは徐々に好機を作り出す。
 グリーフは範囲攻撃に巻き込んでもらっても構わないというスタンスで戦場を立ち回る。
(紡いだ縁。そう簡単に消せる存在ではないと自負しておりますから)
 それに、自身の総合力に、自己強化、絆の紅玉で苦悩の髪の締め付け、風起こしを堪える。
 3体もいて、煩わしいが、攻撃を重ねれば髪も傷み、ボロボロになっていく。
 支援を維持したまま、華蓮は神罰の一矢、赤棘の連弾を連続して撃ち込む。
 華蓮の連撃で動きを止めれば、グリーフが躍り込んで。
「髪というならば、よく燃えるでしょうか」
 刹那舞う桜花。ただ、その一つ一つが炎片であり、勢い良く燃え上がる。
 抑えるグリーフであるが、炎に包まれた髪が激しく抵抗するのを見て。
「逃しません」
 距離をとりつつ、グリーフは禍の凶き爪でその髪を寸断してしまった。

 巨大な薔薇もメンバーの攻撃にさらされ、みるみるうちに弱っていく。
 どうにか養分を奪おうと茨触手を伸ばす薔薇。
 だが、仲間を狙われたと悟ったゴリョウはわざと捕まりに行き、バックダッシュで思いっきり触手と綱引きする。
「折角だから漁業のイロハも教えてやるぜ!」
 さながら釣りの構図に持ち込むゴリョウ。うまくいけばこっちのものだ。
 そもそも、引くという行為は薔薇にとって認識の外。
 いくら巨体であれ、ゴリョウにズルズルと引きずられる形に。
 そこで、ジョシュアがここぞと花と茎の繋ぎ目中央に矢を穿つ。
 すでに薔薇のあちらこちらにジョシュアの矢が刺さっており、満足に立ち回れなくなってきている。
「大きく動かず、最小の動きで対処……そう、今の感じよ!」
「…………!」
 アルテミアの指示通り、ECMk-Ⅱは鋭い一閃で薔薇の花を咲く。
 ただ、踏み込みが浅く、薔薇は勢いのままに棘触手を振るってきた。
 彼女が危険と感じたアルテミアは茨触手を弾こうとプロメテウスの恋焔で包み込む。
 先程の一撃が最後の力だったのだろう。
 薔薇は瞬く間に枯れ、リモートで動いていた茨共々萎んでいく。
 こうなれば、残るのは終焉獣、苦悩の髪2体のみ。
 身を張って抑えに当たっていたグリーフを助けるように、昴が割り込んで。
「強引にでも捩じ伏せる……!」
 ゴリョウがここでも身を挺しているが、グリーフが癒しをもたらす暇に、昴は対城技で幾度も攻め立てる。
 柳に風……とはいかず、髪1体が引き千切れ、風に乗って消えていく。
 ここまでくれば、皆攻撃あるのみ。
 華蓮が神の矢に赤棘を飛ばし、さらに世界が直接神秘の力を撃ち込んだ。
 はらはらと空中で散り行く髪。
 ただ、終焉獣は最後まで戦うつもりらしい。
 残りは1体。冥夜もまた、神秘の力を浴びせかけて追い込む。
 ジョシュアも相手が単体ならばと、聖弓を引く。
 束なる髪の中心部を見事に撃ち抜いたジョシュア。
 最後の終焉獣は抵抗すらできずに霧散していったのだった。


 林は元の静けさを取り戻しつつあるが、依然として無惨な状態となったゼロ・クールはそのまま。
「同じ職人の元なら、人数はECMk-Ⅱ様が把握していませんか?」
 ジョシュアはそう考えて尋ねたが、どうやら他の職人からもこの林へと派遣された個体がいて総数の把握までできていないらしい。
「せめて、まだある隣人の命、無事なパーツや核の回収だけでも」
 すぐさま動くグリーフに続き、ゴリョウが人助けセンサーでできる限り意識が残っている者を把握する。
「放置するのは可愛そうだしね?」
 自身の運動性能を強化する冥夜がそれらのゼロ・クールを運ぶ傍で、アルテミアもまた破損したゼロ・クールの運搬を進めていく。
 破損がひどい個体は、華蓮が大慌ての付焼刃で得たという科学、工業技術を活かして応急処置する。
 華蓮の処置も甲斐もあって数体は駆動し続けられそうだったが、モンスターによって廃棄寸前、あるいは廃棄するしかない状態となった個体も数体あった。
 そんな風に破壊されたゼロ・クールに、ジョシュアは悲しくなってしまう。
「皆を治してあげてほしいのだわ」
 それでも助かる見込みが少しでもあるのならと華蓮は汗を流して尽力し、ECMk-Ⅱの助力を得ながら職人に希望を託す。
「後は、何が必要だったのでしょうか」
 ジョシュアもECMk-Ⅱに林に来た目的を聞き、採取する予定だった品を聞く。
「さっさと帰るべきだが、依頼完了報告のついでだ。そういうのが欲しくてゼロ・クールを派遣したのだろうからな」
 さすがに他職人の分までは分からなかったが、昴は仲間と協力して少し多めに山菜、薬草、キノコなどの採取を進めていく。
 その最中、メンバー達はECMk-Ⅱと交流して。
「素敵な職人さんの元で創られたのですね」
「はい」
 冥夜も秘宝種であり、製作主が気になるのだろう。
 彼の問いに、ゼロ・クールも小さく頷いて感謝を示す。
「それにしても、彼女のECMk-Ⅱって生態番号だから呼び名としてはなんだか無機質よね」
 この際、名前が欲しいとアルテミアが提案すると、メンバーからは様々な案が出て。
「……もう今のが十分名前な気がしなくもないが」
 そうはいうものの、世界は候補として、剃刀切之介花子と提案するのだが、メンバー達の反応は芳しくない。
「ECだから……『恵子(えこ)』なんてどうだろうか?」
 昴はさらに、Mk-Ⅱの部分も名前にするなら、二号や弐式などもいいかもと話す。
「俺からはMk-Ⅱ(に)E(い)C(こ)でニイコを提案するぜ」
 そこで、ゴリョウもそう提案するが、当のECMk-Ⅱからはあまりいい反応はない。
 そこで、ジョシュア、冥夜はこの場で勇敢に戦った彼女に敬意を表して。
「Eから始まる名、エメリーはいかがでしょう」
「異世界で将の為に勇敢に戦った若き女戦士の名、鶴姫などは貴方に相応しい」
「思考中、しばしお待ちください」
 黒髪を揺らし、考えるゼロ・クールだが、悩んだ結果これと決めたのは。
「うーん……双葉(ふたば)なんてどうかしら?」
 提案したアルテミアと同じ名を、グリーフもまた口にして。
「貴方はMk-Ⅱと伺いました」
 ゼロ・クールの外観から、混沌でいう豊穣に寄るものと2つの葉、芽生えの象徴とグリーフは豊穣の言葉に疎いながらも語る。
「自我の芽生え。これからの成長のため」
 次代……新しい芽や茎、葉、花の成長の先で、双葉は枯れ落ちる存在かもしれない。
 いや、人もまた、新たな子、次世代へと紡ぎ、朽ちるもの。
 秘宝種としての観点でグリーフは語る。
「自分の成長、次の世代への糧……なるほど」
 言葉に込められた意味の深さを感じたECMk-Ⅱは強い興味を感じて、その名を受け入れようと決めたようだった。

成否

成功

MVP

アルテミア・フィルティス(p3p001981)
銀青の戦乙女

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは名づけ、戦いの指導とゼロ・クールへと密に接してくれた貴方へ。
 ゼロ・クール、双葉を今後ともよろしくお願いいたします。
 今回はご参加、ありがとうございました。

PAGETOPPAGEBOTTOM