シナリオ詳細
<英雄譚の始まり>ハナに群がる黒蝶とハナ
オープニング
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『境界<ロストシティ>』。
この地は、混沌と密接にリンクしており、混沌のありえたかもしれない世界として分離した地。
果ての迷宮第十層に位置する異空間……境界図書館の館長を務めるクレカの故郷であり、混沌世界からすれば随分と遠い昔の出来事であり、本来ならば終ってしまった物語の別の側面でもある。
そこでは、魔王を倒し、『レガド・イルシオン』の建国の祖となった男『アイオン』とその仲間達が『勇者』と呼ばれることのなかった『IFの物語』が続いているという。
クレカの誘いもあり、イレギュラーズはこの世界を知るべく探索することになる。
境界図書館から、美しい商店街へと至ったイレギュラーズ。
初めて訪れる者もいたが、すでに幾度か訪れた経験のある者が内部を案内する。
「とはいえ、私もそうですが、まだまだ未知の世界です」
『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が言うように、境界という世界がいかなる場所か解明はできていない。
今は混沌に似て非なること世界を知ることから始めるべく、プリエの回廊の職人達のお使いを重ね、探索を繰り返したい。
まずは、ガイドをお願いできるゼロ・クールを連れたいところだが、今回の依頼者の職人から是非連れて行ってほしいと頼まれたのが銀の短髪少年。
半袖、半ズボンと元気な印象を受けるが、肘や膝は球体となっており、彼もまたゼロ・クールなのだとメンバーは揃って確認する。
「よろしくお願いします」
『RB-10』と名乗った少年はイレギュラーズへと頭を下げた。
そして、今回、とある職人より頼まれたのは、2つほど村を経由した先にあるという花畑。
夏の日差しを受けて大きく花びらを広げる花々で埋め尽くされている何とも美しい場所なのだという。
「そこに、黒い蝶の姿をしたモンスターが多数群がっているのだそうです」
近場の住人にとって、そこはちょっとしたお出かけスポット。
花冠とつくったり、花の蜜をとったりと見た目にも楽しめ、実用的にも有益な場所であり、地元民はモンスターの住処になってしまわないかと不安がっているのだという。
漆黒の蝶はブラックモスと呼ばれ、あちらこちらの花の蜜を吸いつくしてしまうという。
また、羽から発せられる鱗粉は近場にいる者の思考力を奪う。
下手すれば、同士討ちすらさせる効力があるというから迂闊に近寄ることもできない。
住民を安心させる為、これらを討伐したい。
「それでは、早速向かいましょう」
「皆さん、よろしくお願いしますね」
ゼロ・クールの案内の元、一行は別の用事の為、別れるアクアベルに見送られ、現場となる花畑へと向かう。
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プリエの回廊を出たイレギュラーズはゼロ・クールに連れられ、2つの村に立ち寄ってから、目的の花畑へと行きつく。
そこに広がっていたのは、太陽に向けて花弁を広げる様々な種類の花々。
現実の混沌では、幻想にはあまり生息していない花も存在しており、独自の生態系を育んできたのだろうと思わせる。
「とても甘い匂いがします」
ゼロ・クールも知識としては与えられていても、この場所に来るのは初めてらしい。
目で、鼻で、場合によっては蜜を味わうことから口でも楽しめるスポット。
近場の村の住民がこの場所へと来るのを楽しみにしているのも分かろうというものだ。
だが、そんな場所へと現れたモンスターが……。
華やかな場所には似合わぬ漆黒の体躯を持つ蝶が6体もおり、あちらこちらで花の蜜を美味しそうに吸っている。
ただ吸うだけならいいのだが、そいつらは花を枯らすほど生気までも吸いつくすからタチが悪い。
また、事前には情報が無かった不気味な獣が2体も……。
それは、巨大な人間の鼻を思わせた。
地面をホバリングするように進むそれらは、終焉獣と呼ばれている存在だ。
他の人間の部位を模した個体も多数発見されていることから、今回のもその一種とみられる。
それらは花々を吸い取り、その存在を抹消としているように見える。
当然、花畑が荒らされることを憂う近隣蹂躙のことを思えば、その行為を許すわけにはいかない。
「ボクも援護します。迎撃を……!」
ゼロ・クールに同意したイレギュラーズはすぐに迎撃を開始するのだった。
- <英雄譚の始まり>ハナに群がる黒蝶とハナ完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年09月07日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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イレギュラーズ一行はゼロ・クールの案内の元、境界の地を歩く。
「ゼロ・クール殿もよろしくな」
「RB-10さんもよろしくね!」
「よろしくお願いします」
挨拶する『熱き血潮』エミリー ヴァージニア(p3p010622)、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)に、銀の短髪が似合うゼロ・クール「RB-10」は丁寧に返す。
そこで、その名が生態番号であることを『繋げた優しさ』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が確認して。
「一緒に行動するわけですし、呼びやすい名前があった方がいいですよね」
「良い名前を考えてみたいなぁ」
ヨゾラを含め、皆、良い名がないかと考えながら目的の花畑を目指す。
「とても素晴らしい場所だな」
エミリーは遠方に見えてきた花畑に感嘆する。
ただ、全員がそう感じていたわけではないらしい。
「異世界というからどんな景色が見えるかと思えば……うんざりするほど牧歌的な光景だな」
「別の世界、ありえた可能性の世界とはいえ、そこに住まう人々の営みはそうそう変わる事はないとは思うのですが」
異世界というわりに、拍子抜けといった態度の『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)に、『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)が諭すように返す。
花畑は実に鮮やかで、色とりどりの花々が咲く。
中には混沌で見られぬ種もあり、この世界だからこそ交配して誕生した種というものも存在しているらしい。
メンバーが色々と思うその花畑に、問題のモンスター達の姿が……。
黒い蝶の姿をしたブラックモスは豪快に花の蜜を吸い、その生気までも吸いつくして花を枯らしてしまうようだ。
加えて、ゆらりと現れる巨大な鼻2体。
情報によれば、強欲の鼻と呼ばれるそれらは存在を吸い込んでしまうのだとか。
「本来なら、ゆっくり綺麗な花畑を見て回りたいんですが……」
「花畑を荒らすたぁ、随分と無粋な鼻と蝶だねぇ!」
荒らす害敵に少々怒りを感じるジョシュア、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)も自然の美しさを介さぬ異形へと思いをぶちまける。
見回す終焉獣に魔王のモンスターをを詳しく調べる方が宛てない探索より実がありそうだと感じたセレマは、仲間に追随する。
「しかし、魔王か」
「終焉獣といい、脅威が身近に存在しているというのは大変なようです」
アーカーシャで聞いた以来かと思い返すセレナ。シルフォイデアは危険と隣り合わせの住民達の生活を推し量る。
「甘い匂いのする花畑、近隣の人も花の蜜を集めに来る所……」
ヨゾラもここに立ち寄りたい住民の気持ちを理解して。
「でも、蜜を吸うどころか花を枯らすような敵なんてお断りだよ!」
一方的に花畑を荒らす相手を駆除すべく、ヨゾラは仲間とその排除に当たる。
接敵する前に、シルフォイデアが結界と合わせてオルド・クロニクルを展開する。
これで、半径100mほどの範囲が戦闘の余波から守ることができる。
「ありがたい……!」
ヨゾラは自らも保護結界を発動し、更なる範囲をカバーしていた。
2人が花や花畑へと被害が及ばぬよう配慮したその場所へと、調香で周囲の花々より強く甘い香りを発する『ホストクラブ・シャーマナイト店長』鵜来巣 冥夜(p3p008218)が敵を誘導する。
敵が近寄ってくる間に、メンバー達は手早く作戦を確認して。
「その範囲ならば重火器を使用しても大丈夫ですよ」
シルフォイデアはRB-10にそう言ったが、他メンバーは小さく首を振って。
「重火器が得意とのことだけど、花畑に火は厳禁よ」
『優しきおばあちゃん』アルチェロ=ナタリー=バレーヌ(p3p001584)は丁寧にその事を説明し、可能な限り支援に徹してほしいと話す。
「重火器を使った遠距離攻撃は控えて、基本、支援を中心に頼むぜ」
「無茶をしないように、おばあちゃんと約束して欲しいわ」
ゴリョウもまた保護結界を使い、RB-10に立ち回りを願うと、アルチェロが改めて願い出る。
「おばあちゃんは、アナタが傷付いたら悲しい」
ここに居る子等は皆、戦いに秀でた子達ばかり。
今回は彼等の姿から戦い方を学ぶ為にも、そうアルチェロは続けて。
「どうか無茶はしないでね」
「悲しい……わかりました」
了承してくれたRB-10の返事を受け、アルチェロは改めて放置できぬ敵へと振り返る。
「美しき花を手折る者はホストとして見過ごせません」
「不埒な輩め、その代償は些か高くつくぞ」
その間にも、冥夜、エミリーが敵を威嚇するが、一部の敵は蜜集めに執心していたようだ。
「奇麗な花畑が傷つかないように頑張りたいと思います」
「私達の手で、在るべき姿に戻しましょう」
憩いの場であり、住民にとって大切な場である花畑。
それを守るべく、改めて決起するシルフォイデアに合わせ、アルチェロもまたRB-10と共に事態の収拾へと当たり始めるのだった。
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対する敵は2種、終焉獣2体とモンスター6体。
戦場は花畑上になってしまうが、すでに結界を展開済み。
イレギュラーズ達の作戦は……。
(敵の種別ごとに担当者がつき、それぞれで撃破を狙う)
冥夜が作戦を脳内で確認している感にも数人のメンバーは素早く敵に接敵していた。
(ボクの役目は蛾の動きに制限をかけることだ)
セレマは誰よりも早く歩を進め、微笑でブラックモスらを誘う。
飛び立って面倒になる前に、セレマは確実にモンスターを引き留める。
蝶達は蜜を吸うべくストローを伸ばし、あるいは翅を羽ばたかせて鱗粉を飛ばす。
この鱗粉が厄介で、情報によれば吸った者の思考を惑わすという。
「精神を乱すそうだがボク程美しく完璧で、そして美しければ気が乱れることもないだろう」
自身ありげに呟くセレマは小さく頭を振って。
(いや……いっそ気が病んだ方が絵になるか?)
集まるのがモンスターという点だけが彼にとって残念なところか。
思考の一部を自動演算化するジョシュアも続いており、同じくブラックモスを抑える。
所持するディープブルー・レコードで、己の精神を守るジョシュアは鱗粉に耐え、それらのモンスターのみを狙って。
「花だって何をされても黙っているだけじゃありません」
ジョシュアは花の秘薬、ミセリア・ドンナを矢に塗り、蝶それぞれへと個別に射放つ。
蝶どもは苦しむ素振りをしながらも2人に群がっていく。
やや遅れる形で飛行する冥夜、アルチェロも加わる。
閉じた聖域に包まれたアルチェロは、駆狼幻魔で仲間を個別に戦いへと駆り立てて強化を施す。
秘宝種の冥夜はその強化を受け、敵のヘイトを買いながらもできる限り敵を地上付近へと食い止めていた。
それ以外のメンバーは皆、終焉獣、強欲の鼻2体を先に排除すべく仕掛ける。
シルフォイデアが花に意識が向いていた鼻へと接近すると、先に敵が彼女目掛けて自重を活かしたプレスを叩きつけてくる。
もう1体は強風を吹き付けようとするが、シルフォイデアは仲間の盾となってしっかりと受け止める。
後続の仲間達を見やり、シルフォイデアはエスプリ「小惑星の力学」とクェーサーアナライズによって支援する。
しばらくは盾となりながらも、シルフォイデアは状況の推移を待つ。
「鼻のデカさでオークに喧嘩売るたぁ、ふてぇ野郎だ!」
ゴリョウもまた声を上げて鼻を押さえつけるべく突っ込んでおり、力強く響く声、鋭く刺さる眼光、重みを感じさせる動きなど、全ての挙動によってゴリョウは自らをアピールする。
次なるターゲットをゴリョウとする鼻どもへ、エミリーが地上付近を飛びつつ攻撃に出る。
(未だ、強くなったとは声高には言えないが……)
そう思いながらも、エミリーは燃え上がらせる炎の火力を侮ってもらいたくはないと奮起する。
眼前ですでに鼻は仲間に対して猛攻を繰り出していたが、今はゴリョウが気を引いている為、彼の後方から、かつ彼を巻き込まぬよう発動させた炎を飛ばす。
クリムゾンインフェルノ。
吸血鬼であるエミリーが流す血がその異形を激しく燃やす。
そいつらへと、同じく低空飛行するヨゾラがRB-10と共闘して仕掛ける。
「強欲の鼻の攻撃で吹き飛ばされないか、心配だけど……」
ともあれ、初手は星空の泥を浴びせかけ、ヨゾラは鼻2体の運気を大きく下げる。
後方のRB-10は支援モードとなって守りの波動を展開し、イレギュラーズ達を包む。
「支援します」
メンバーの要望もあり、重火器を出さずに支援の波動を使うようRB-10は立ち回る。
そんな彼を、ヨゾラはすぐに守れるよう位置取り、更なる攻撃の構えをとる。
「ゼロ・クール様、支援技を使ってくださるなら助かります」
一方で、鼻相手のメンバーを支援するRB-10に、ジョシュアが礼を告げる。
支援の波動を発する素振りを見ても、さほど慣れた手つきには見えなかった為、ジョシュアもブラックモスを手早く片付けねばと攻撃の手を強める。
そして、冥夜。
支援に波動を発するRB-10の姿を見て、過去の映像が脳裏によぎる。
(……彼の横顔は、どこか幼い頃の兄上に似ている)
兄・朝時の面影を重ねたゼロ・クールを、冥夜はどうにか守りたいと切望するのだった。
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終焉獣もさることながら、モンスターも思った以上に力を発揮する。
キラキラ輝く鱗粉は精神に作用するだけでなく、相応の体力を削いでくるのが恐ろしい。
ともあれ、セレマは花畑に被害が及ばぬよう蝶のみを捉えて閃光を瞬かせる。
「儚く美しいものに対して気を利かせるボクもまた美しいからね」
余裕すら窺わせるセレマの光を浴び、1体が力尽きる。
アルチェロはなおも広がる蝶の鱗粉が仲間に悪影響を及ぼさぬよう、抵抗力を高め、すぐさま号令を発して態勢を立て直す。
別の蝶と対していたジョシュアは蝶が妙な動きを……とくに終焉獣と合流しないか警戒しつつも、聖弓を引く。
「これ以上、花の蜜を吸わせるわけにはいきません」
用意した薬にも限りがある。
ジョシュアは死神の狙撃で蝶の体を穿ち、仕留めてみせた。
強欲の鼻もまた全てを吸引しようとしていて。
「ぶはははッ、漢豚丼の匂いでも感じたかぁ? だが、鼻で食う飯は用意してねぇんだ、悪ぃな!」
シールドを展開するゴリョウが笑って鼻を抑える横、シルフォイデアが彼を庇ったり、自ら直接抑えたりと動く。
ゴリョウがうまく抑えるタイミング、彼が危険と察したエミリーが鞭状にした己の血を打ち付けて鼻を牽制する。
シルフォイデアは回復役となってゴリョウを始め、傷つく仲間を癒すべく天上のエンテレケイアによる癒しをもたらす。
態勢を立て直せば、ゴリョウは2体いる鼻の攻撃に対処して。
「折角2体居るんだ、精々有効活用させてくれや!」
鼻の片方が吸引すれば、ゴリョウはもう片方の鼻を鷲掴みにして堪えてみせる。
また、ブレスは図体の大きさと柔軟性を生かし、直接受け止めてみせた。
いずれも、花畑名を潰さぬ為。
ゴリョウはシルフォイデアの癒しだけでなく、自らも装備や調和の力で傷を塞ぎ、耐えてみせる。
ここまで、皆の配慮で花畑に大きな被害はない。
「こんな鼻も吸い込みも、お断りだよ……!」
吸い込まれる前にと、魔術紋を輝かせたヨゾラは渾身の力で鼻を殴りつけ、そいつを霧散させた。
もう1体の鼻がすかさず近づいてきたのに、ヨゾラはすぐ対応して。
「強欲の鼻には絶対吸い込ませないからね!」
「ありがとうございます」
事務的に挨拶するRB-10だが、何か得る物はあったようである。
もう1体も鼻はその後も荒波を発してくるが、エミリーが再度業火に包み込み、体力を削ぐ。
「側面や背後からの対応に弱いな」
それを聞き、エミリーが生み出した虚無の剣で鼻を切り裂く。
加えて、自らをも傷つけた彼女は再度炎を燃え上がらせ、終焉獣の体を爆ぜ飛ばしてみせた。
「あんな奴等に、誰も倒れさせないよ……!」
RB-10と協力して仲間を癒すヨゾラは、残りのモンスターの殲滅へと向かう。
残る蝶は4体まで減っていたが、そのうちの1体はすでにセレマが追い込んでいる。
(この感覚は吸精の類の能力か)
それらをさらりと避けるセレマは推察する。
花蜜だけで体躯を補えぬ蝶どもは命を吸うことで己の命を繋げるブラックモス。
ならば、人里によりついてもおかしくはないはず。
そう考えていたセレマだったが、蝶が高度を上げたことで、すぐさま対処に当たる。
花畑を巻き込まぬならば思い切って力を奮えると、セレマは魂を奪う魔術を撃ち込む。
もはや抵抗することもなく、そいつは結界に守られた花畑へと墜ちていった。
さらに、ジョシュアも残りに秘薬を使いつつ矢を飛ばして1体の翅を穿つ。
間髪入れずにジョシュアは死神の狙撃で攻め立て、そいつにとどめを刺す。
「悪ぃが、俺はそう簡単には沈まんぜ!」
残りは2体。これ見よがしに前へ出たゴリョウ。
シルフォイデアも蝶側のメンバーを癒しに回ってサポートする。
駆けつけた仲間にアルチェロも負けじと、彼らにも支援の手を広げ、強化魔術と号令で戦線の維持に努める。
そこで、己の覚悟で鱗粉を凌いだ冥夜が動く。
攻めの波動を発して力を高めてくれるゼロ・クールを、冥夜は一瞥する。
彼の前に、格好悪い姿は見せられない。
「貴方がたなど敵ではない!」
鱗粉舞う中、冥夜は神秘の一撃を叩き込んで見事に仕留めてみせた。
「あの攻撃が花畑や人々等に向いたらと思うとぞっとする……ここで全部倒す!」
1体たりとも逃すわけにはいかないと、光り輝くヨゾラが殴り掛かる。
並の生物ならば粉々になりかねぬ威力だが、モンスターはその体こそのこしてはいたものの、衝撃に耐えられずに花畑の上にその身を横たえて動かなくなったのだった。
●
花畑を守り切ったイレギュラーズ一行はすぐに声を掛け合う。
「皆、大丈夫?」
ヨゾラの呼びかけに命名が声を出し、あるいはジェスチャーで応じる。
「話では多数と聞いていたが、本当にこれだけか?」
被害状況確認の前に、セレマが他に敵がいないか周囲を見回しながら、呟く。
よく目立ち、さほど狂暴でもない魔物6体を、多数と見間違えるだろうか、と。
「これと同規模の群れがあともうひとつあればわからなくもないが……」
群れがすでに移動していたのなら、面倒になるとセレマは危惧する。
とはいえ、今は花畑の保護が先。
「花畑も花も、周辺も無事かな」
多少なりとも荒らされてしまった場所は治したいと、ヨゾラが気にかけると、アルチェロがアフターフォローの為に花畑にいる妖精達へと呼びかけた。
応じた妖精達は戦いで巻き込まれた花々へと癒しの力を与えていく。
「少しでも元気を取り戻す事ができますように……」
ジョシュアも感覚を研ぎ澄ませ、助けられそうな花にヴォアレの紫薬を与える。
それらもあって、花々は元気を取り戻し、再び花弁を大きく広げていたようだった。
その後、メンバーの話題は改めてゼロ・クールの名前に。
「ところでRB-10様。型番では少々、呼びづらいですね」
秘宝種である冥夜は型番があるそうだが、人の生活に馴染む為に名前があるのだという。
「鵜来巣家は『冥夜』や『夕雅』など時間帯を元にした名を好むのですが……
『アサ』と名乗るのは如何でしょうか?」
朝のように爽やかで元気だからと由来を語る冥夜だが、戦いの最中によぎった幼い頃の兄の横顔を思い出したことは伏せていた。
名前を考えていたメンバー達も続々と案を出していく。
「RBから、ルーベンと言うのはどうでしょう?」
早い段階で提案する名前を決めていたというジョシュア。
一人のひととしてみてもらえるように。
ジョシュアはそんな願いを込めたのだという。
「俺からはリビオとかどうだい?」
ゴリョウもまた型番から、R(リ)B1(BI=ビ)0(オ)との提案。
加えて、『蘇活』Reと『生命』BIOのを組み合わせたダブルミーニングなのだとか。
「真っ先に思いつくのだとロバートさんでしょうか」
「アルジャンなどはどうかな。遠い世界で銀を表す言葉だ。その銀髪に似合うと思わないか?」
「ライン・ブルーメさんとかどうかな。『Rein・Blume』純粋な花、的な意味を込めて」
シルフォイデア、エミリー、ヨゾラが続けて提案する。
どれも、魅力的であったようだが、RB-10が選んだのは……。
「……そうね、セネシオ、なんてどうかしら」
淡々と語るアルチェロの提案したその名は、健やかな成長、という花言葉を持つ植物だという。
頑張り屋さんで成長途中なアナタにピッタリだと思ったわと、アルチェロは話す。
「セネシオ……」
視線を下ろした先、見つけた花と同じ名。
これが偶然かと考えるゼロ・クールだが、小さく首を振る。
「これも必然なのでしょう」
まだ、感情というものの理解は難しい。
「アナタを証明する1つなのだから、アナタの気持ちのままに選んでね」
そう諭すアルチェロ。
大切な名前、それも初めての体験。
「セネシオ、いい名前ですね」
名付けてもらったその名を、RB-10……セネシオは何度も反復するように繰り返していたのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは終焉獣、モンスターと討伐、ゼロ・クールとの共闘と戦いに寄与した貴方へ。
命名案は素敵なものが多く悩みましたが、
花畑での依頼、花言葉などを考え、こちらを採用させていただきました。
今回もご参加ありがとうございました……!
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<英雄譚の始まり>のシナリオをお届けします。
境界の探索は少しずつ進んでいますが、こちらでもその一助ができればと思っております。
●概要
『プーレルジール』と呼ばれる場所が舞台です。
ゼロ・クールを連れてこの地を探索します。
見渡す限り一面の花畑に巣食うモンスターの討伐依頼ですが、そこには現実にも存在する終焉獣の姿が……。
近隣住民が花の蜜を集めに来ることもあるので、荒らすのは避けたいところ。
もちろん、住民達に危害が及ぶ前に害となる存在は排除せねばなりません。
●敵
〇終焉獣:強欲の鼻×2体
全長3mほど。
浮遊から自重を活かしたプレス、強風や荒波を操る他、匂いと合わせて相手の存在まで吸い込んでしまう恐ろしい相手です。
〇モンスター:ブラックモス×6体
全長6~70センチほど。
魔王の配下とおぼしきモンスターで、黒い翼を持つ蝶です。
まき散らす鱗粉でこちらの思考を惑わせ、取りついてから体力を奪ってきます。
●NPC
〇ゼロ・クール
プーレルジールなる世界の案内役。
とある魔法使いと呼ばれる職人によって作られた人形です。
今回同行する人形はRB-10という番号を与えられており、10代前半銀色の短髪が特徴的な少年を思わせる球体関節人形を思わせます。
知識と感情を有してはいますが、知識はほとんど持っていないようです。
良ければ、名前を付けてあげてくださいませ。
重火器を使った遠距離攻撃の他、攻めの波動、守りの波動、癒しの波動と支援能力も有しています。
それなりの戦闘力を与えられてはいるものの、戦闘経験があまりない為、無茶して攻撃することもある為、多少援護する必要があります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
それでは、よろしくお願いします。
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