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シナリオ詳細

<英雄譚の始まり>神獣ハイペリオン

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●太陽に手を伸ばして
 この世界へ手を引いたクレカは『世界を救う手伝いをしてもいい』と言ったが、救う手段があるかどうか……その時点から考えなければならない。
「だったらどうだろう。君の世界でいう『勇者の仲間たち』を探してみるのは?」

 ――冒険者アイオン
 ――魔法使いマナセ
 ――賢者フィナリィ
 ――天の翼ハイペリオン

 など様々な人物が連想されるが、ここ『プリエの回廊』からすぐにアクセスできて手がかりがハッキリしているメンバーはこの中で誰だろう?
 そう考えた時、最初に浮かぶのが『神翼庭園ウィツィロ』であり『天の翼ハイペリオン』だ。
 ハイペリオンといえば勇者パーティーを背に乗せて大陸を飛び回り、幻想王国ではフィナリィと共に巨人族の封印を助けたという神鳥だ。もし見つけ出すことができ、中間にすることができたなら頼もしい戦力となるだろう。
 このハイペリオンを見つけたのが、神翼庭園ウィツィロ。幻想王国の端にある土地で、勇者パーティーにおける戦士ウィツィロ・ポチトリの代から続く貴族家が治めていたという場所でもあった。今ではハイペリオンランドなんていう愉快なテーマパークになっているのだが。
「けどごめんね、そのハイペリオンさまというのが君の世界でどういう存在かは知っているんだ。けど、こっちの世界で今どうなっているかは知らないんだよ。
 そのウィツィロって場所もなーんにもない荒野かもしれないし、モンスターが跋扈するヤバイ土地かもしれない」
 ゼロ・クールQ-84ウ号、通称ウェントゥスは背の高い椅子にぴょんととびのるように座り、高さの余った足をぷらぷらとさせてみせた。彼の背丈に似合わぬ椅子と、テーブル。
 ここはアトリエ・コンフィーの一角。ウェントゥスは帽子を被った少年のような容姿をしている。アトリエ・コンフィーがローレットの雰囲気に似ているせいもあって、なんだか情報屋の風情だ。
 ウェントゥスは球体関節の腕を動かし、パッと手のひらを顔のあたりに翳してみせる。
「けど手がかりとしてはバッチリだよね。
 神翼庭園ウィツィロ。確か、プーレルジール平原に相当する『レガド・イルシオン王国』に存在する土地だったはず。
 だったら、こっちの世界にもそれに相当する場所があるはずだよ。そこへいってみれば、何か発見があるかもしれないよね?」
 確かに、わかっているのはプリエの回廊から出たその周辺の事情ばかり。世界全体を示した地図を手に入れたわけでもない今、自分達の『マップ』はとても狭くて小さいものだ。
 これを広げるという意味でもウィツィロに行ってみるのは意味があるし、なによりハイペリオンが見つかればマップを大きく広げる文字通りの足がかりとなるだろう。
 なにせ、あの勇者パーティーを背に乗せて大陸を飛び回ったのだから。空中庭園もなくワープができない現状、こうした存在の助けは大きいはずだ。
「もし行くなら、馬車を出すよ。途中にどれだけのモンスターが現れるかわからないし、実際にウィツィロがどうなってるかもわからない。それでもいいならね」
 ウェントゥスは椅子からぴょんと飛び降りると懐からマップを取り出して見せた。
 手書きらしいそれはあまりに狭い。なにも書かれていない未知の土地にくるりと丸を描くと、ウェントゥスはウィンクスする。
「さ、『なにもわからない』場所へ『なにがあるかしれない』冒険に出よう! 未知を知己に。これこそ『冒険』ってやつなんじゃないかな?」

●冒険の準備をしよう
 未知の土地への大冒険。
 馬車を引いての長い旅路。
 あなたはその一員となるのだ。
 冒険に必要な道具は一通りアトリエで揃えることができているが、重要なのは旅の道中だろう。
 何度もキャンプをはってたき火を囲むことになるだろうし、モンスターに遭遇して戦いになることもあるだろう。
 できるだけの準備をして、この長い旅を――未知を既知とする冒険を楽しむのだ。

GMコメント

●シチュエーション
 混沌世界におけるウィツィロにあたる土地をめざし馬車で旅に出ましょう。
 途中でたき火を囲んでキャンプをしたり、モンスターに遭遇して戦闘になったりと様々なイベントがおこるでしょう。
 そんな旅の先に、一体どんな出会いや事件が待っているのでしょうか。

※この度にはゼロ・クールのウェントゥスも同行します。
 ウェントゥスは冒険スキルをもっているため旅に関することを全般的に浅く広くこなすことができるようです。

●旅パート
 馬車でゆっくりと旅をします。
 道中の警戒をしたり、得意の料理を振る舞ったり、キャンプ中に歌を披露したりと旅路を豊かなものにしましょう。

●戦闘パート
 モンスターと遭遇した際の戦闘プランを立てておきましょう。
 どんな敵と出会うかは全く分からないので、皆で得意なことをやって力を合わせるというのが良いでしょう。

■用語説明
・プーレルジール
 境界深度を駆使することで渡航可能となった異世界です。
 勇者アイオンが勇者と呼ばれることのなかったIFの世界で、魔王の配下が跋扈しています。
 この世界に空中神殿やローレットはありませんが、かわりにアトリエ・コンフィーがイレギュラーズの拠点として機能しています。

・ゼロ・クール
 魔法使いたちに作られたしもべ人形です。魔法的にプログラムされた感情や知識を有しています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <英雄譚の始まり>神獣ハイペリオン完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月30日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
佐藤 美咲(p3p009818)
無職
ムサシ・セルブライト(p3p010126)
宇宙の保安官
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

リプレイ

●旅の仲間たち
 土と草の上を車輪が踏む、その独特の音とリズム。馬の蹄のそれに加えて、馬車はゆっくりゆっくりと進んでいく。
 縦に二台並んだ馬車は、前方で注意深く広域俯瞰を使う『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)の案内によって進んでいた。
「それにしても、すごい世界だね。異世界とは思えないくらいに混沌にそっくり。風があったかいや」
 アクセルがにこやかに言うと、馬車に揺られていた『死血の魔女』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)が確かにとくすくす笑った。
「ここが境界世界だと言われなければ、そのことを忘れてしまいそうですね。確か、勇者たちが生きていた時代の……『勇者が勇者と呼ばれなかったIFの世界』」
 そう口にしてから、マリエッタはまず『鴉殿』のことを考えた。そしてふるふると首を振る。
「まずは近場のハイペリオンさんから探すということでしたけれど」
「ね、気になるよねどうなってるのか。どんな感じかなあ、オイラたちの知ってるハイペリオン様って、こう……」
 アクセルは両手でふっくらとしたシルエットを描いてみせた。
「だよね。あれって確か、パワーダウンした状態なんだっけ。世界が違うと姿も違うのかな」
「あ、それにポチトリさんもいるかもしれぬの」
 そう付け加えたのは『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)だ。
「そっか、ウィツィロ・ポチトリ!」
「勇者パーティーの一人で、ハンマー使いなの」
 であると同時に、ハイペリオンの世話がかかりとも言われている。二人同時に会える可能性が今回はあるわけだ。
「とはいえやっぱり、ハイペリオン様の捜索というのがワクワクするの。もしかしたらあのキュートなお姿ではないかもしれぬけれども」
 胡桃が想像するのもやっぱりあのもっふりしたハイペリオンらしい。あの姿は一度見たら忘れられない。印象に焼き付いて然るべきである。
「私もちょっと話したことがありますけど、親しみやすい方でスよね」
 『合理的じゃない』佐藤 美咲(p3p009818)が話に加わってきた。
「でもって、こう」
 \(╹v╹*)/
 なポーズをしてみせる。顔マネまで上手に出来ていたせいか、マリエッタたちがつい噴き出した。
「いやあ、本当に、どうなってるんでスかねえ。そもそも存在するのか、存在するとして味方になってくれるのか……」
 あのハイペリオンさまが敵になるビジョンとかまるで見えないが、可能性の話としてはありえることだ。皆はうーむと唸るようにして、青い空を見上げるのだった。

 後列の馬車。こちらは積載量よりもキャンプ時の居住性を重視して色々と改造の施された馬車だ。地球世界でも古く西部ではこんな馬車が一般的に旅に用いられていたというが、それを改造してくれたのは『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)である。
 もつべきものは鍛冶師ということなのだろうか。とうのサイズは手帳を広げ、そこに書き記された×印や△印の内容を眺めている。
 どうやら彼の興味はやはりというべきか妖精郷にあるらしい。
 その話はまた後にするとして――。
「『なにもわからない』場所へ『なにがあるかしれない』冒険! ワクワクしてきたであります!」
 馬車を操作しながら『宇宙の保安官』ムサシ・セルブライト(p3p010126)がテンション高めに言った。吠えたといってもいい。
「これがフロンティアスピリッツ……いいでありますなあ」
 今度はしんみりし始める。それに同調する形で、『【星空の友達】/不完全な願望器』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)もしんみりと目を閉じている。
「未知の土地への大冒険っていうのが、ワクワクするよね。この世界のウィツィロやハイペリオンさん達はどんな感じなのか……」
「そうだねえ。特に旅というのがいいねえ」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)もそれに同意するように頷いて見せた。
 基本、イレギュラーズはこうした大移動をしない。
 国から国への移動は空中庭園からのワープが使えるし、幻想王国にはある程度旅を便利にできるだけの駅馬車があったりするからだ。特にウィツィロ地区への移動はきっちり整備されている。距離感も分かっているので、不整地をゆくにしてもそう長い期間はかからないだろう。
「未知の世界を冒険するのは何時だって心が踊るよ。ハイペリオンの捜索も重要だが、まずは少しずつでもこちらの世界を把握しなければね」
「冒険を楽しむ、ですか。そうですね……なにより、それが一番でしょう」
 人生は長く、ともすればめんどくさい。冒険もまた然りだ。新しいものや見慣れた景色を楽しむことが、それを生き抜く最良の術、なのかもしれない。
 『航空猟兵』綾辻・愛奈(p3p010320)はぽつりとそんなことを言って、しかしどこか安らかに微笑んだ。
「誰も知らないところへ未知を求めに行くなんて、滅多に無い体験ですしね」
 未知の探求という意味ではアーカーシュの探索も同じだったかもしれないが、あれはもっと大々的で、そして『何かはある』として探索を広げていた。
 今のような、本当に何があるかわからない探検というのは珍しいことである。
「本当ですね!」
 『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)はすこし弾んだ声でそれにこたえた。
「馬車を使って旅をして、未知を知る。目的は確かに真剣なものなんですけど……ちょっと楽しみなのは確かです」
 もしかしたら、かのフィナリィもこんなふうに勇者たちと冒険をしたのかもしれない……なんて思ったりして。
 ならばこの10人は、一次的ながらも愉快な旅の仲間たちだ。仲良くやっていくことにしよう。

●冒険に戦いはつきもの?
 巨大なネズミめいたモンスターが、その前歯をガチガチと言わせながら威嚇している。
 対抗して剣を抜くシフォリィ。
「このモンスター、わかりますか?」
「多分ウィーゼルンなの。農作物を荒らす程度の小さいモンスターだけど、この世界だと巨大なのかもしれぬの」
 胡桃が持ち前のモンスター知識であたりをつけ、そして『前歯に気をつけるの』と指をさした。
「前歯か。分かった」
 シフォリィは『アンジュ・デシュ』の呪術を発動させウィーゼルンの集団を巻き込み呪いを帯びた輝きを放った。
 それに目がくらんだように動きを鈍らせたウィーゼルンに、サイズがまっすぐに鋭く突っ込む。
 いや、違う。サイズは『黒顎魔王』を放つのに最適な射程へと移動したのだ。
 そこから放った直死の一撃がウィーゼルンへと直撃。激しく吹き飛ばすその一方で、胡桃の攻撃が始まった。
「らいとにんぐすた〜りんぐ!」
 広域雷撃招来術を放つ胡桃。バチバチッと雷が放たれたかと思うと、ウィーゼルンたちが散っていく。
 その代わり、新たなウィーゼルンがザッと茂みから飛び出してくる。
 どうやら選手交代ということらしい。
 ならばとこちらも選手交代。アクセルとヨゾラが前に出る。
「呑み込め、泥よ……僕等が先に進む為に!」
 ヨゾラの放つ『星空の泥』が相手をとらえたその途端、空を飛びながらタクトを振ったアクセルが閃光を放つ。
「撃ち漏らした、追撃して!」
 声に応え、ゼフィラが術を発動させる。腕を突き出し義手に光を灯すと、『聖王封魔』の魔術を発動させた。
 反撃しようと飛び出したウィーゼルンがその動きを封じられ、がちんと口に封印の蔓草を巻き付けられる。
 それを剥がそうと暴れるところへ、マリエッタはヒュンと真っ赤な血色の鎌を一振り。
 ウィーゼルンが真っ二つに切り裂かれたことで、残るウィーゼルンたちが怒り狂ったようにマリエッタへ遅いかかる。
 いや、遅いかかろうとしたというのが正確なところだ。
 そうなる前に愛奈の割り込み射撃をうけ、飛び退いたのだ。
 拳銃と片手槍、という独特のスタイルを保つ愛奈の射撃は正確で、飛び退こうとするウィーゼルンの前足を撃ち抜いていく。
 着地にミスしてその場に転がったウィーゼルンへ、美咲の重く黒い義手がガツンと叩き込まれた。
 パンチ――と見せかけて、零距離での魔術発動だ。バーストストリームの魔術が炸裂し、ウィーゼルンが吹き飛んでいく。
「トドメはお任せ下さい!」
 ムサシが構え――。
「行け! ディフェンダー・ファンネル!」
 炸裂したムサシの広範囲攻撃が逃げ場をなくしたウィーゼルンたちへと降り注ぐ。無駄に爆発まで起こしたその攻撃を最後に、ムサシはサッとモンスターたちへと背を向け見栄を切った。背部にファンネルユニットが戻り、再装着される。
「これで、このあたりはもう安全でありますな」
「そのよう……ですね」
 広域俯瞰を発動させてぐるりと見回したマリエッタが頷く。
「エネミーサーチにも反応はないよ。もう大丈夫」
 こくりと頷くヨゾラ。
「それじゃあ、色々と準備にかかろうか!」
 アクセルが手を上げ、そして空へと飛び上がっていった。

●旅の醍醐味
 アクセル、愛奈、マリエッタ、そしてサイズの四人は高高度まで飛行して周囲をぐるりと見回していた。
 アクセルの精密模写によって地図を作るという目的が一点。高高度を飛ぶモンスターとの遭遇時に安全に撤退するためというのが一点。そして愛奈の超感覚やマリエッタの方向感覚によって迷わないよう、そして足がかりを見逃さないようにするというのがまた一点だ。
「それにしても、本当に広い世界だね。これだけ飛んでも全然陸地の向こう側がみえないや」
 これが小さな島か何かならともかく、結構な大陸である。たとえ東京タワーくらい高い場所まで登っても、そう遠くまでは見通せないだろう。
 サイズが西側を指さす。
「西に見えるあれは?」
「幻想でいうバルツァーレク領……かなあ。見た目だと全然わかんないや。とにかく大と平原って感じだね」
 こうしてみると村のようなものもちらほら見えるが、そこがどういう状況なのかはわからない。
「村に立ち寄って多少の物資は手に入りましたけど、どこも物々交換というのが大変でしたね」
 愛奈が呟くと、マリエッタが苦笑で返した。
「王国の貨幣は当然使えませんしね」
 なにせこの世界に王国はないのだから。うっかり見せたとき、『綺麗な彫刻ですね?』程度のもやぁっとしたリアクションが帰ってきたのはちょっと笑えるエピソードである。
 王国がなくても人はいる。人がいるからには生活があって、大半の村々はその閉じた環境で一生を過ごすような生活をしている……らしい。
「あ、見てください。シフォリィさんが鹿を捕まえましたよ」
 愛奈が少し嬉しそうに言う。今夜は鹿肉のシチューが作れそうだと。

 愛奈の見たとおり、シフォリィは林に仕掛けた罠と魔法の矢をつかって鹿を仕留めていた。
 それを馬に積み込むと、馬車をとめていた方向へと走り出す。
「やはり肉類の確保は自分で行わなければ、ですね……」
 村に立ち寄ることはできても、村では雑穀をもしゃもしゃ食うのが普通みたいな生活をしているらしく肉類を手に入れることは難しかった。だったら自力で手に入れたほうが楽だし、なによりシフォリィは狩猟の心得がある。
 暫く馬で走って行くと、ヨゾラたちの姿が見えた。
 川で水を汲み、それを蒸留しているようだ。
「お疲れ様です。お水の確保ですか?」
「そういうこと。持ち運びが一番面倒なアイテムって、やっぱり水だからね」
 そう言いながらタルに水を注いでいくヨゾラ。
 うっかり川の水なんかをがぶ飲みするとおなかを壊すというのは常識だが、魔法の火と簡単な道具で蒸留できるというのはちょっと便利な知識である。
 時間さえかければ大抵のことはできる、というのが旅の面白いところなのだ。
「そっちは鹿?」
「はい。それと……」
 シフォリィが見ると、胡桃が川に向けて『魔導師のつりざお』を掲げているのが見えた。
 それも漁業スキルのデザイアを込めた特別製。これ一本あるだけでお魚取り放題、とまではいかなくてもそれはもう入れ食い状態になるだろう。
 実際、彼女が用意したカゴの中には魚が結構な数入っている。
「今日の料理は期待できそうなの」
「だね」
 ゼフィラはそんな魚の中から毒の無いものや簡単に調理可能なものを選別したり、釣りの合間にふらっと歩いて食べられる草やキノコを見つけてきたりしていた。
 こちらはこちらで知識がモノを言っている。
「それにしても」
 と口を開くムサシ。
「この辺りの植生は、混沌のそれと大してかわらないのですね。少し驚いています。異世界に迷い込んだのに、まるで同じような景色とは」
 振り返って見える森の木々も、幻想王国で一般的に見かける木々のそれだ。
「けれど、モンスターの凶暴化はおこっている……ということなのでしょうか」
 先ほど戦ったウィーゼルンのことを思い出してううむと唸るムサシ。
「そうとばかりは限らぬの。けど、見たところは確かに……」
 胡桃の同意を受けて、ムサシは改めて頷いた。
「ここは本当に、IFの新天地……なのですね」

●キャンプファイヤー
「テントよし、フィールドよし……っと」
 夜――アクセルが低空をぱたぱたと飛びながら、いくつかのテントが並ぶエリアを周回している。
 等間隔に刺さった棒状のものにはロープが張られ、獣が近づいてくればすぐに分かるようになっていた。
 内側ではもうテントの設営が終わりつつあるようで、10人という結構な大人数を収容するための複数個のテントが内側から灯りを漏らしている。
 ヨゾラは念のために走らせたファミリアーの周回を終え、同じく確認したアクセルと合流する。
「夜の間はローテーションで警戒しようか。僕は暗視があるから長めにとるね」
「助かるよ!」
 今回のメンバーの中で暗視ができるのはこの二人だけだ。その間を埋める形で周辺警戒をしていれば、モンスターの奇襲にやられるということはまずないだろう。
「それにしても、プーレルジールの星空も、綺麗だね……来れて良かった」
 見上げて呟くヨゾラにアクセルがうんと頷く。
「巡回、終了であります! やはりお二人がいてくれてよかった」
 ムサシがテントを巡回してはりかたにおかしな所はないかチェックして回ってくれていたらしく、アクセルのところへ合流してピッと敬礼っぽい姿勢をとった。
「魔力充填式のランタンがありますし、テントもそれなりにひろくとれました。一部は馬車を改造したのでテントというより屋根付きのベッドですが、かなり積載できたおかげで野宿をせずにすみましたね」
 そんな話をしていると、焼き魚の良い香りがしてくる。
 胡桃の釣った魚を早速たき火で炙っているのだろう。
 木の枝を美味いこと使った串焼きをセッティングしつつ、美咲はなんともいえない顔をしている。
(機関の特戦群研修、召喚されてから結構役に立つな……)
「どうかしたの?」
「いや、なにもなにも」
 美咲は手を振りながら、魚に塩をすり込む胡桃を横目に見た。
 キャンプの心得があるとテントを貼るにも生活空間を作るにも重宝する。どんな世界にもホテルとタクシーがあるわけじゃないのだから、覚えておいて損はない技術なのだが、幻想王国のような都会に慣れると結構忘れがちである。
 薪を投げるように足して、ぱちぱちと燃えるたき火を見つめる美咲と胡桃。
 そうこうしていると、別のたき火でサイズや愛奈、マリエッタたちが料理を始めていた。
 とってきた鹿肉と野草、それと持ち込んだパンやいくつかの保存食料を使って料理を作るつもりらしい。
「料理ができると得なことが多いですね……」
「わかります。冒険で料理をする機会って意外とおおくて……」
 愛奈とマリエッタが苦笑しながら会話する。
 その横では、サイズのサンドイッチ作りをアクセルが手伝っていた。
 ふと見ると、ゼフィラが地図の情報を纏めている。アクセルが昼間に模写してきた地図を簡略化しているのだ。
 そこへサイズがそっと寄っていく。
「なあ、その地図で――」
「妖精郷を探しているのかい?」
 意表を突かれてサイズが黙ると、ゼフィラは苦笑して続けた。
「わかるよ。けどこの辺りからどれだけ見回しても深緑やラサまでは見通せない。よしんば見えたとして妖精郷は入り方が特別だから、有無を確認できない。
 あー、けど、私の予想で良ければ話せるよ」
「話してくれ」
 どんなことでも知りたいと考えるサイズのリクエストに、ゼフィラはこくりと頷いた。
「妖精郷はアレ一つで独立した世界のようなものだ。世界のカケラが混沌という世界に張り付いた状態で存在していると考えられる。ならプーレルジールはどうか。これも境界世界をハブにして一つの独立した世界が生まれているというものだ。だから妖精郷が張り付く理由がない。つまり、この世界に妖精郷は存在しない……と私は考えるね」
「そうなのか?」
「仮に存在するとしてもその代替だろうし、時期的にみて幻想種が存在する以前の世界だろう? ここは。同じよううにアクセスできるとは少し思えないな」
 そんな話をしている間に、愛奈とマリエッタのキャンプ飯が出来上がる。
「皆さん、お待たせしました」
 鍋を手ににっこりと笑うマリエッタ。
 キャンプの定番、カレーが出来上がった。それに加えて鹿肉を使ったいくつかの料理。
「持ち込んだ食料を最初に消費しちゃったほうが、この先楽ですからね。明日からはもっと狩猟や釣りで得た食料中心になりますよ」
 そう愛奈が告げると、皆いそいそと料理に手を付け始めた。
 料理がある程度消化されたあたりで、シフォリィが馬車からリュートを持ってくる。魔法で折りたたみが可能なリュートで、旅に適したコンパクトなサイズだった。
 それを展開すると、テントから出てきたウェントゥスに話しかける。
 これまで若干存在感のうすいウェントゥスであったが、やっと出番が回ってきたという感じである。
「ウェントゥスさん、旅の歌を知りませんか?」
「旅の歌? うーん、僕にプログラムされてるのは……あっ、ひとつだけあるよ。よかったら歌ってあげようか」
 ウェントゥスは帽子を被った少年のような容姿をしたゼロ・クールだ。気配を消すのがうまいようで、特に戦闘中などはスッと気配をけしている。
 彼は球体関節の手を自分の喉にトントンと当てると、歌をうたいはじめた。
 初めて聞くのにどこか懐かしい。
 ゆったりとしたその音楽に、シフォリィは即興で演奏を加えていく。
 たき火を囲むその夜に、歌が響いた。

●ポチトリとウィツィロ
 それからいくつかの夜を越え、一行は旅を続けた。
 そして目的のウィツィロへとたどり着いたところで……。
「見て下さい! 煙であります!」
 黒煙があがっていることに、ファミリアーを先行させていたムサシが気付いた。そのことには馬車のスピードをあげる一行。
 煙のもとまで走ってみると、場の空気が張り詰めていることに気がつく。
 戦闘の気配だ。
 愛奈が反射的に銃に手を伸ばし、周囲を確認した。
 そこは一見すると集落のような場所で、農作を中心に生活する村人の様子が見て取れる。
 が、人の気配はない。
 その代わりに、一人の男が――いや、男の姿をした終焉獣がゆっくりとこちらへ歩いてくるのが見えた。
「あ、あれは!」
 指をさす胡桃。男の引き摺っているハンマーに見覚えがあったのだ。ハンマーランド(現在はハイペリオンランド)に展示されている伝説のハンマーなのだ。鎖鉄球型のそれをぐるんぐるんと振り回し、終焉獣はこちらへと遅いかかってくる。
「コンタクト!」
「迎撃するであります!」
 愛奈が銃撃を開始。ムサシがディフェンダー・ファンネルを展開しつつ、装備していたブレイ・ブレイザーをソードモードに変形させた。
「ぐうっ!?」
 ハンマーによる一撃を剣で受けると、ムサシは派手に吹き飛ばされる。衝撃をころしきれないのだ。
 が、そこへ胡桃が反撃。愛奈の作った攻撃の隙を更に広げる形で遠距離からの『こやんふぁいあ〜』を連射した。
 炎と銃弾が終焉獣に浴びせられ、終焉獣はそれを振り払おうと腕を振り回す。
 数歩さがったところで――更に新たなモンスターが出現した。
 巨大なトカゲのような姿をしたモンスターで、終焉獣でもなければ魔王の配下らしき雰囲気もない。胡桃の知識にもない新種だ!
「新手……未知の敵かもしれぬの! 注意するのよ!」
 胡桃が叫ぶと、マリエッタと美咲が新種モンスターの方へと攻撃を仕掛ける。
 血を鎌に変化させ、解き放つマリエッタ。
 鎌の刃とトカゲの爪がガチンとぶつかり、火花を散らす。
 その時トカゲから感じたのは、飢えや渇き。こちらをエサとして見ているかのような、貪欲な視線だった。
「確かにこれは、少し新しいですね……」
 トカゲが口を開くと、マリエッタの力が吸い込まれていく。
 僅かにだが、力を吸われているような印象だ。身体の動きが鈍り、形成した鎌がとろりと溶け始めた。
「気をつけてください、この敵……力を吸い取る性質があるかもしれません!」
「だったら、やられるまえにやる――っスね!」
 美咲が銃撃をしこたまトカゲに打ち込んだ後、義手に仕込んだ魔術を発動。マリエッタがくらったダメージの回復を試みる。
 どうやらBSというわけではないらしく、回復は難しい。
「マリエッタ氏、感覚は」
「大丈夫です。時間が経てば回復するでしょう。けど戦闘中はすこしやりづらいままかもしれません」
 ならばとダメージ覚悟で突っ込み、トカゲの牙を引き受ける美咲。
 ゼフィラが治癒の魔法を展開し、美咲の回復を初めてくれた。
「二人がかりで治癒していけば持ちこたえられるだろう? それより――」
「わかってる、任せて」
 ヨゾラが『星の破撃』を発動。トカゲをぶん殴り破砕する。
 流石の衝撃だ。トカゲの耐久値を大きく上回る破壊力でもって倒してしまったようだ。
 もう一匹がいたが、そこへはサイズが遅いかかった。
 『黒顎魔王』の魔術を発動。トカゲを破壊し、中間の様子を改めて確認する。
 サイズは無傷だが美咲とムサシがダメージを受けている状態だ。
 ゼフィラの回復でギリギリ持ちこたえているが、あのハンマー男の終焉獣がどうやら手強いらしい。
 目で合図を送ると、アクセルが任せてとばかりに親指を立てる。
 同時に剣を抜くシフォリィ。
 アクセルが閃光を連射すると、その間を抜けるようにシフォリィが走った。
 『サクレ・デ・リュミエール』にカッと光を宿すと、近距離から『桜花破天』の魔法を発動。
 突き出したシフォリィの剣から花弁を思わせる炎片が大量に放たれて、終焉獣を包み込んだ。
「グオオオオ!?」
 さすがにこたえたのか数歩後ずさりし、どずんとしりもちをつく終焉獣。
 そんな彼の頭から、なにか闇のようなものがずるりと抜け落ち消えていった。
「……これは?」
「は! 私は一体なにをしていたのだ!? 村の皆はどこへいったのだ!?」
 混乱する男をまずはなだめにかかってみるヨゾラ。
 こんにちはとにこやかに話しかけ、落ち着かせる。
 こちらの名前を名乗ってみせると、相手はおろおろとした様子でこう応えた。
「私はウィツィロ――ポチトリ・ウィツィロなのだ」

 ポチトリ・ウィツィロは村一番の力持ちで、鍛冶師として生活していたただの村人であったらしい。
 だがそんな彼に突然終焉獣が襲いかかり、彼に取り憑いたのだという。
「終焉獣って、寄生するのでありますか!?」
 割と新しい事実に驚きの声をあげるムサシ。
 シフォリィも同じように頷いた。
「けれどこうして倒すことで救出できたのですから、なによりです。この場所で何があったのですか?」
 そう尋ねると、ウィツィロは快く案内を引き受けてくれた。
 それまで気配を消していたウェントゥスがスッと現れてサイズたちに耳打ちする。
「この場所の名前を聞いてみて。予想が正しいなら『ウィツィロ』じゃないはず」
「あ、ああ」
 サイズが言われたとおりに尋ねてみると、確かにこの村はウィツィロなんて名前じゃなかった。
 もっとカバラとかサバラとかそんな名前のざっくりした地名の村であった。
 当然といえば当然だろう。混沌世界のウィツィロは、勇者パーティーのウィツィロ一族がその功績によって手に入れた領地なのだから。
「今は神官様が出払ってるから、代わりに案内するのだ。こっちなのだ」
 そう言ってポチトリが案内してくれた先で、ゼフィラとヨゾラは目をぱちくりとさせた。
 パルテノン神殿をちっちゃくしたような作りの神殿の中央に、なんかもっふりとした存在が鎮座している。
「ようこそ、旅の御方――大地の子らよ」
 美咲と愛奈がそっと顔を寄せる。
「これって」
「はい、間違いありません」
 答えを述べるように、それは大きく翼を広げて見せた。
「私はハイペリオン。太陽の翼」

 ムサシやマリエッタたちが周辺の調査を終え、仲間たちのもとへ合流する。
 胡桃がもふもふだーといってハイペリオンのおなかをぽふぽふ触っていた。
 ハイペリオンだ。皆の知ってるハイペリオンそのものだ。
 アクセルが質問をしてみる。
「えっと……その姿はパワーダウンした状態だって思うんだけど」
「その通りです。この村を悪しき獣たちが襲った際に、私の力はその獣に吸い取られてしまったのです」
 その言葉に、マリエッタたちはハッと先ほどの戦闘を思い出す。
 あのトカゲめいた新種の敵だ。力を吸い取る力を持つあの敵によって、ハイペリオンは力を奪われてしまったということなのだろう。
「あやうく食われかけてしまったところで、ポチトリさんや神官さんたちが戦って下さったのですが……そのポチトリさんも終焉獣に寄生されてしまい……」
 顔を見合わせるイレギュラーズたち。
 だが、これはかなりの収穫だ。
「ハイペリオンさま。まずは話を聞いてほしいのですが……」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――太陽の翼ハイペリオンを発見しました!
 ――戦士ポチトリ・ウィツィロもついでに発見しました!

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