PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<英雄譚の始まり>ブロードソード

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●Not Found
「ようこそ、ギャルリ・ド・プリエへ」
 一体の人形がイレギュラーズを回廊へと導く。彼女は『Guide05』と名乗ったが、練達に馴染み深いものや近しい世界の出身者でなければ慣れようのない異質な響きであった。どうしたものかと困り果てる所でギーコという通称で呼ばれている事を語り、まともに呼べる名前を耳にしてイレギュラーズは胸をなでおろした。
 ギーコは自身がゼロ・クールと呼ばれる感情のない人形である事や、ギャルリ・ド・プリエやイレギュラーズが拠点を置くアトリエ・コンフィー等について事細かく説明を行ってくれた。しかし歓談に関しては何の反応も返さず、ひどい時にはエラーコードがどうとか404だとか、およそ理解不能な言葉を発した。

●Atelier
 イレギュラーズがギーコに案内されてやって来た場所はギャルリ・ド・プリエと呼ばれる回廊である。アトリエが無数に立ち並び、ゼロ・クールやそれを作った者の拠点となっている事をギーコは淡々と説明し、無遠慮にアトリエの一つへ入って行った。
 後に続いたイレギュラーズは先程のギーコの話し方とは違う、生命を感じる大声によって迎えられる。
「おぉ、ギーコ! こやつらがワシの手伝いをしてくれるのじゃな!」
 高齢の男は見た目よりずっと俊敏に、そしてひょうきんにイレギュラーズを歓迎した。男はゼロ・クールを作る側の人間、魔法使いである事を明かした。何かもったいぶったような知的なポーズをいくつか披露しようとした所でギーコに遮られてしまう。
「今回の依頼者であるルグィン様です。戦闘用ゼロ・クールの武器を作成する為の素材収集をお願いされています」
 ルグィンはゼロ・クールの神秘性や自身の功績などいくつか語りたかったのだろうが、感情も容赦もないギーコに自己紹介をスキップされた事に文句を言っていた。それによるギーコの反応は察する所である。
 案内を終えたギーコは足早にこの場を去って行き、アトリエにはイレギュラーズとルグィン、そして作業台に接続されたゼロ・クールと思われる少女を残すのみとなった。

●Ignition
「ま、まあええわい。ほれ起きてお前も挨拶せんか」
 ルグィンは気持ちを切り替えたとは言えない不満を残しながら、作業台で横たわるゼロ・クールへ魔力を流し込む。
 命を吹き込まれたかのようにゼロ・クールは急に起き上がった。これまでの話を聞いていたかのように仕事内容について、ギーコ同様に感情のない声で淡々とした説明を行った。
「初めまして。わたくしはLB01号戦闘型ブロードソード。貴方がたに魔石を収集して頂くべくプーレルジールの森林地帯へ案内致します。そこでは敵性障害をいくつか確認しており戦闘の発生が予測されます。魔石はわたくしの近接兵装アングレンの大剣に必要不可欠な素材であり、現在ライトハンド、レフトハンド共にemptyとなっております」

 敵や魔石についてもルグィン自ら語りたかったようで、主人を立てんかいとブロードソードの頬をつまんだが反応はなかった。しかしこれも気付けばルグィンが仕込んだ、プログラムされた動作である。この男は本気で腹を立てているのではなく、腹話術のような事をしているのだ。その老人はなかなかに演技派の気さくな人物である事が見て取れる。
 説明を終えたブロードソードは途端に口を閉ざし、主人へと発言ターンを渡した。ルグィンは自身のアトリエの素晴らしさからゼロ・クールの設計、ロケットパンチの美学まで好き放題に語り続け、紆余曲折した後にやっと本題へと移ることが出来た。
 その間ブロードソードは微動だにせず虚空を見つめていた。この男から作られた事が不思議な程にクールな表情が張り付いている。

●Mission
 ゼロ・クールは主に戦闘用に作られているので、ブロードソードの同行はイレギュラーズが気にかける事はないと語る。しかしその戦闘用人形が語ったように、本人を前にして未完成ではないのかと指摘せざるを得なかった。
 その質問を待っていたとばかりにルグィンの表情は明るくなり、ブロードソードの腕を手に取り自信に満ちた回答をイレギュラーズへと突きつけた。

「ロケットパンチを仕込んでおいた」
ブロードソードの表情は変わる事はなかった。

GMコメント

●目標
 プーレルジールの森林地帯にて魔石を収集する。
 魔石収集に伴う敵性障害の排除。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 現場に到着する頃は昼です。
 森は見晴らしも良く、特に準備は必要ありません。

●敵
 ワーウルフ  8匹
 魔王達の配下である二足歩行の狼男です。
 森を根城にしているため必ず遭遇します。
 主な武器は鋭い爪ですが、真価はチームワークにあります。
 頭数は魔法使いの調査により、確実な情報として提供されています。

●味方
 LB01号戦闘型ブロードソード
 修道女のような格好の未完成ゼロ・クールです。
 ロケットパンチが搭載されています。2発も。
 会話はできますが、コミュニケーション能力が著しく低いです。

  • <英雄譚の始まり>ブロードソード完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
綾辻・愛奈(p3p010320)
綺羅星の守護者
芍灼(p3p011289)
忍者人形

リプレイ

●アトリエにて
「それがしは芍灼と申しまする! それがし、右も左も分からない秘宝種なれば、この世界に大変興味を持っており依頼をお受けした所存。何卒よろしくお願いいたします!」
 『忍者人形』芍灼(p3p011289)は石拾いを前に依頼主と同行者へひとしきり元気な挨拶を行っていた。ローレットの仕事に慣れた面々と言えばギャルリ・ド・プリエが目新しい物であろうとも、これほどに初々しくはならず何処か落ち着いたベテランの風格があった。
「LB01とか呼びにくい名前してんなぁ! つーかロケットパンチってなんだよ」
「それがしも気になっておりました。通称を更に縮めてよろしければ、ロッソ殿とお呼びしたいのですが大丈夫でしょうか?」
 勇む新人を前に『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)は馬車の準備が終わるまでの暇つぶしとばかりに絡んでいる。
「はい、ロケットパンチはルグィン様が開発された射出型打撃装置でございます。呼称についてはアップデートを繰り返す事が可能です。アップデート内容に不備がある際は管理者に連絡を行ってください」
(癖が強いな……)
 『狂言回し』回言 世界(p3p007315)は依頼主のアトリエを眺めつつ、変人との付き合いに既視感を覚えていた。アトリエは所狭しと人形の腕や胴体が並び、ギーコから得た情報がなければ今以上に変人判定が出ていただろう。
「これはこれは。一つ二つ無くなりでもしたらボクに仕事が回ってくるかもしれないね?」
「私の住んでいた所ではドールと呼ばれる類のものですかね」
 『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)は早速その一つ一つを観察し、自らの糧としている。シャルロッテに説明が必要だったかは定かでないが、『航空猟兵』綾辻・愛奈(p3p010320)はゼロ・クールの部品に思う所があった。人を模した部品が散乱する部屋は知識のないもの、或いは知識のあるものにとっても異質な雰囲気がある事は否めない。
「そろそろ出発しましょう。ロケットパンチは神が望まれているの」
「あぁ、熱いな。よろしくな、ブロードソード」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)と『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が出発を促す。ルグィンにギャルリ・ド・プリエ周りの事をもう少しだけ教えて欲しい気持ちはあったが、こうも質問が多いと何時までも埒が明かない。年長者として自分が切り出さねばならないだろうと薄々ヤツェクが感じていた部分であり、それは現実として訪れる事となった。
「私はロケットパンチについて神が望まれているかはお答えする事はできません。熱いという点についてはお答えできます。ロケットパンチは射出する際に推力が発生する為、高温の熱が」
「ようし行こう行こう」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はこれまでの流れで察したようでブロードソードを小脇に抱えて手際よく馬車に乗り込んだ。その間も律儀に何か機械的な回答を繰り返していたが、モカはあやすように遮っていた。同席したキドーの評価としてはもはやポンコツ人形という不名誉なものであり、ロケットパンチについても使用させない方が良いとゴブリンの勘がひしと働いていた。

●馬車にて
「ロッソ殿は戦闘用ゼロ・クールとお伺いしているのですが。それがしの知識上のものなのですが、ロッソ殿の衣服は女性の聖職者の格好に似ておりますね。何か意図があってのものなのでしょうか。」
 プーレルジール周辺のとある森に近付いた辺りで芍灼は何気なく聞いてみる。人と話している気がしない会話に気を取られていたが、ヤツェクとしても吟遊詩人として、この出会いのディテールを上げるべきだと衣服の話題に聞き耳を立てた。勿論、特に惹かれるエピソードが出ようものなら自分も割って入るだろう。これに関してはシャルロッテも違った立場で注目するものがあった。
「はい、私はロッソと呼ばれる事となっています。ロッソは他国の言葉で赤という意味合いがありますが、本依頼において芍灼様からの呼称として扱っています。聖職者の服装についてはルグィン様の趣味というデータが提供されます。これは一般的にロックされた情報であり、権限が付」
「癖が強いな……」
 世界は話の途中で思わず二度目を口走ってしまった。ともあれ、そう遠くない場所に位置する森へは何事もなく歩みを進める事ができた。道中、ゴブリンは今回の討伐対象から除外されているだのルグィンの茶目っ気めいたプログラムを感じたが、本人にしてはたまったものじゃない。
 そしてモカがいくつか訪ねた所、戦闘用ゼロ・クールについていくつか興味深い話を得る事ができた。廃棄された出来損ないも存在する事がなかなかに重い話題となり、ヤツェクが場を繕うように陽気な音で道中を盛り上げた。

●森にて
 魔石に関しては何の苦労もなく点在していた。ここまでの仕事ぶりを振り返るならば依頼主とポンコツだけでも可能だとキドーは面倒なボランティア活動に勤しみながら考えていたが、そう楽なものではない何かがあるのだろう。魔法使いが使い走らせる為についた出任せではないとイレギュラーズは判断し、襲撃者に備えていた。のどかな石拾いが行われる中、適度な緊張感が保たれている。
「普通の森とは一味違うね。ボクの出番がないのは残念だが、謎というものは滅多に出会えない恋人のような物だから愛おしいのさ」
 歩けば青白く光る奇妙な石が存在を主張してくるものだから拍子抜けであった。しかしブロードソードに問えば理解し難い単位で必要量を示すもので、可能な限り収集しようという一大計画はそう簡単に馬車を埋めてはくれなかった。
「おれの歌をここでも聴かせてやりたかったがな。森に纏わるフレッシュなやつがあるんだが、呼んじゃいないヤツが紛れ込んでくるかもしれないからお預けだ」
「はい、違法視聴は刑罰に問われる事があります。また、この森はワーウルフの目撃情報があり速やかな作業が必要となります」
 愛奈が小さな魔石の破片を拾った所で何気なくブロードソードを横目に見る。機能的な会話パターンと裏腹に収集作業がぎこちない。この辺りを指摘すると悲しんだりするのだろうか、現代社会におけるAIというものを思い出し、彼女に当てはめそうになってしまった。

●狼にて
 馬車一台が足の踏み場もなくなってきた頃、森が慌ただしくなってきた。イレギュラーズが地形パターンや魔石の大小に何の感動も覚えなくなった時間に、自分たちの放つ騒音とは別の音を認める事となる。どうあってもワーウルフが接近している事は明白であり、イーリンはフロントラインを形成するべく方角を慎重に選定する。
「さあ、見せてちょうだい。ワーウルフの戦い方ってやつをねえ!」
「はい、ワーウルフは人間に近い知性を持っています。グループで狩」
 また始まったぞ、とモカがお口チャックのためにブロードソードを抱えあげようとした瞬間、キドーの横を何か強烈な熱が走り抜けた。ワーウルフの足音、咆哮はイーリンが立つ暫定的な前線から流れてくる為、後方からの奇襲はあまりにも狡く考え辛い。反射的に身を屈め、状況の理解に急いだキドーは前方の木に突き刺さったブロードソードの腕を視界に入れる事となる。ワーウルフ説明会の最中に躊躇なく、間違いなくぶっ放しやがった。大木を貫通こそしていないものの、深々と突き刺さっており自然破壊も甚だしい。
「おい! ばか!!」
「私としても待ち構えるべき方角は確信していたが、こうも思い切りが良いとはな」
 モカはもう撃つなよ、と忠告するようにブロードソードの肩に手を置いた。硝煙の香りが漂う中、キドーはモカの制止が何の意味も成さないだろうと踏み、ワーウルフ以上に目が離せない難敵に苦しむ事となる。
「ボクの推測では、ロケットパンチは精度に問題があると見てるよ。第一に、照星がないものだから目測で狙うしかない。それ故に相当なズレが生じるね。これはゼロイン、調整が難しいなかなかの欠陥兵器ではないだろうか?」
「そうだよ!!」
 煙をあげている鉄拳がヤツェクの言う熱くていかしてるモノだったのか、イーリンが見たかったモノだったのか、それは知る由もない。

●死闘にて
 世界とイーリンがワーウルフの群れ、その切っ先に躍り出る。遥か天へと放たれた後方からの拳、その二撃目はもう考慮しなくて良いだろう。自信ありげに対面する敵を前にワーウルフは散開策を取ろうとしたが両者が僅かに速かった。魔を宿す瞳と侮蔑に魅入られた何匹かは統制から外れ、イレギュラーズの思惑通りの形に前線へと愚直に突進する。
 ワーウルフとしても損切りは早く、集中攻撃を受けるであろう仲間を壁にイレギュラーズを取り囲み、即座に陣形を崩そうと動いた。
「それがしはまだまだ未熟ですが! 引くわけにはいきません!」
 正面の二人を迂回すればあとはキャラバンの一般人、餌とでも思ったのだろう。一匹の慢心したワーウルフの鼻先を芍灼の刃が掠める。驚異的な反射神経にて飛び退かれたが、それは出鼻を挫く結果となった。
 襲撃者にとって不測の事態が続き、苛立ちが目に見えた。ただでさえ武装した集団であり、明らかに自分たちを想定した相手が先手先手を取っているものだから不快さは相当なものだろう。愛奈を引き裂こうとした爪は障壁に阻まれ、何が起きているのかも理解できない人狼の群れは距離を取り、相手を変えるしかない妥協の一手に甘んじる事しかできなかった。
 さりとて他のターゲットが楽な相手であるはずはなく、楽器をかき鳴らす初老の男は傷を負ったかと思えば目を離せば何事もなくそこにある。そもそもフロントラインをくぐり抜けて爪を立てる事すらアウトプレイと化している状況でこの解答は致命的なものであった。
「よく見ておこうかブロードソード! これが私、モカ・ビアンキーニ流の『ロケットパンチ』だ!」
 放たれる黒豹がヤツェクを器用に避け、一匹の喉笛を掻き切った。ノーコントロールで大暴投のそれとは違い、ヤツェクも狼狽える事なく当然のように身を任せていた。それはモカの技量を信頼しているのか、仲間という概念そのものを信頼しているのかブロードソードには理解できない反応であった。
 既に事切れているワーウルフへとブロードソードが無くなった腕、肘の辺りで殴りつけようとする光景はほのぼのとするようで恐ろしい光景だった。妖精による間接的な攻撃で余裕の出たキドーはこれ以上珍妙な武器を使われてたまるかと自衛を兼ねてそれを制止した。
「LB01は後ろで戦闘データを収集するなり応援するなりしておいてくれよ がんばれ♡がんばれ♡……うんうんそうそう、そんな感じ、いい感じ。声に感情が籠もってないのが逆に悪くないみたいな感じ」
「がんばれ がんばれ」
 戦闘データの収集まではプログラムされていないようで、キドーの軽率な提案は火に油を注ぐ結果となる。即ち、励ますようにワーウルフの死体を蹴りつける殺人ゼロ・クールが誕生してしまった。
「オイオイ、変な事を教えないでくれよ。コイツは多分だが、対人経験が少ないんだぞ」
「キウィ!!」

●終局にて
 芍灼の疲労が激しくなってきた。イーリンと世界が主戦力を受け止めているものの、狙う相手を嗅ぎつけられたと言うべきか攻撃の指向は露骨なものとなりつつある。
「それがしが狙われる事は必然! わかっていれば何という事はありません!」
頭から、胴から一刀両断するべく放つ一撃は肝を冷やせど身体を掠めど未だ実体を捕らえてはいない。愛奈がその隙を縫うように偽法の剣を突き刺し、無理やりに利を生み出しているが彼女もカバーにばかりは回っていられない。自身に意識を向けねば鋭い一撃を喰らいかねない状況である。
「それでは、わかっている事態の解決に動くとしようか」
 シャルロッテは混沌を極める戦場において敵の狙いをいち早く読んだ。無秩序に思える乱戦は実のところ、不自然に時間が掛かっている。何が何でも芍灼を狙えば手っ取り早く頭数を減らして士気も落とせるはずだがそれをしない。これは芍灼を撒き餌に、必要以上にカバーを行わせて本来の動きを阻害する狙いがある。そして、何時でもパワーバランスを崩せるよう満遍なく出血を負わせ、地味な積み立てで利を築いているという事だ。
 それならば話は早い、ここぞで飛び込んでくる為の判断材料を消してやろうではないか。シャルロッテは魔性の直感で止血を指示する。イレギュラーズはかすり傷に思えた密かな爪痕を即座に対処した。
「ありがとうございます! これで意識がハッキリしました!」
「次はもう少し敵側も踏み込んでくるよ。イーリン君も頑張ってくれたまえ」
 永らく信頼のもと意識外にあった前線へと声をかける。そして返ってくる言葉もおよそシャルロッテの読み通りの結果であり、戦況の傾きはともあれ事態はコントロール下を出ていない事に安堵した。
「言ってくれるじゃない。私たちの方も目に見える形で支援してくれても良いんだけど」
「最前線への労いなんてそんなもんだ」
世界が振り返る事なく肉薄するワーウルフへ破壊の力を注ぎ込み、爆音と共にそれは消し飛んだ。
「言えてる」

 一匹、また一匹と脅威を排除していく。ぎりぎりの所で攻めきれなかった襲撃者は劣勢を覆す手がなかった。シャルロッテへの恨み憎しみが強い咆哮となるが、芍灼以外に突破口を見出す事ができず、それもイーリンによって手堅く閉ざされる事となる。八方塞がりの状態で、怒りに任せた攻撃しか行えない敵方は雌雄が決したと判断する事もできず、玉砕の雰囲気が漂っていた。
「プランAしか持っていなかったのが敗因ね。コボルトよりはマシかしら」
「俺は味方のシークレットプランに頭をどつかれる所だったんだがねェ」
 放っておいてもモカあたりが仕留めるだろうと踏んだキドーは忘れないうちに木に突き刺さったままのロケットパンチを引き抜こうとする。深々と刺さっているため不格好に手持ちのククリナイフで切り出す事となり、思った以上の重労働に面倒のかかるポンコツ具合にうんざりとした。
 再利用できるかもわからない物体であるが、それならそれで何かのモニュメントになるだろうと冗談めいた妄想だけが彼の救いであった。結局、掘り出す事は諦めてそのままにした。これが自分にブチ込まれていたらどうなっていたかを想像するや否やブロードソードを小突いた。
「はい、ご用件をお聞かせください」

 キドーの読みもシャルロッテに引けを取らず、だいたい同じようにモカが最後の一匹を追い詰めていた。
「この後も仕事が残っているのでな、ここらでご退場願おうか!」
「あー、おれ達は離れてた方がいいやつだぜ。きっと」
 ヤツェクがやれやれと楽器を仕舞い、モカの方を見ることもなく後片付けを始めた。味方のサポートに唄い続けた詩人からすると、敵が一匹か二匹、多く見ても三匹であった事までは覚えているがその差も些細なものだろう。事実、モカの周りは空間が削り取られ、そこにワーウルフの姿を見ることは叶わなくなっていた。ワーウルフを蹴り続けるブロードソードを除き、森に静寂が訪れていた。
「うん、陽気な一曲でもいっとくか?」
「労働歌は勘弁願いたい所だ」
 世界は魔石を拾いながらふと余剰分の活用法を考えてみる。俺の武器でも作ってみてもらおうかと血迷いそうになったが、制御できない魔力のこもったロケットパンチでも勧められようものなら全力で拒否するしかない。あれはロマンではないと確信めいたものがあった。

●続・アトリエにて
「ほっほ!大漁じゃのう、これで武装も完璧なものとなるわい!」
 ルグィンは子供のようにはしゃいだ。仕事を無事に終えたイレギュラーズであるが、完璧な武装という言葉が引っかかる。あのようなノーコンびっくり兵器をホイホイ付けて良いものか、シャルロッテとしてもコメントに困るものがあった。
「魔力でコーティングした大剣とは聞きましたが、他にも何か作るのでしょうか! それがしとしてはロケットパンチはあまり評価できないものでしたが……」
 芍灼が聞き辛いものを切り出してくれた。聞きたいような聞きたくないような、今後の自衛の為に必要な情報のような、イレギュラーズは何とも言えない気持ちを抱えたまま勿体ぶって語るルグィンを待つよりなかった。
「よくぞ聞いてくれた!ロケットパンチはお遊びじゃ。好きじゃろ、こういうの?」
「張り倒すぞヒューマン」
 キドーの睨みを無視するかのようにルグィンは続ける。ロケットパンチに対する肯定的な感想だけは拾うのでたちが悪い。
「これほどの魔石があれば……アレが作れるのう。お主らだけに教える極秘情報じゃぞ。その名もターミネイター・カノン(滅殺破壊砲)。魔石から抽出したエネルギーを凝縮して放つ一撃必殺の超兵器じゃ。ざっと計算してニ門は作れるぞい、よくぞ集めてくれた!」
「絶対作るんじゃねえぞ」

 この老人はいったい何と戦うつもりなのか。それとも、それほどまでにギャルリ・ド・プリエが直面している危機でもあるのか。奇妙な老人の戯言はさておき、本依頼はロケットパンチの試射を除き成功に終わったと言える。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました!
次は連射性に優れたロケットパンチを開発してきます!

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