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シナリオ詳細

暗殺の道も一歩から

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●我が身のために
 幻想北部に位置するアーベントロート派閥はレガド・イルシオン王国の中でも生粋の武闘派である。酒場なり浴場なり、何処であろうとこの派閥に関する冗談を飛ばす者は少ない。口を滑らした愚か者は夜道に気をつけなければならないからだ。
 常に暗殺者の影に怯える日々を天秤にかけれるような豪胆な国民が存在するならば、その人物は類まれなる大馬鹿者か英雄のどちらかである。国民に関しては貴族の機嫌を取る『下の者』としての立場が染み付いている為、そのような暗がりより来たる殺意を恐れることはあっても、自分に向けられるとは思っていない。事実は別としても。

 貴族ともなればその思い込みによる安全圏は崩れ去る。国を揺るがす問題の対処の為には結託する事もあるが、結局のところ貴族の敵は貴族なのである。力を持った貴族による暗殺計画はニの手、三の手が備わっている。そしてその計画は行き当たりばったりの通り魔などとは比べ物にならない緻密さ、陰湿さ、冷酷さをもって実行される。
「はぁ……私に落ち度はないと信じたいが、やはり手練の駒を持たぬというのは今になって心細い」
 リシャールは臆病な男だった。アーベントロート派に属する事は多大な重圧を受けていたが、受け継がれてきた家系なのだから仕方がないと彼なりに誠実に、虚勢を張って過ごしてきた。
 彼が今になって弱気な姿勢を使用人に晒している理由はリシャール家の暗殺者にある。父の代を影で支えていた暗殺者が引退したのだ。幻想北部の貴族がそのような懐刀を所持している事は公然の秘密じみたものであり、隠し刃は政治的にして物理的な攻にも防にも必要な物なのである。

 リシャール家は幸か不幸か、幻想北部流のお歳暮を贈られる事はなかったが贈る事もなかった。それ故にリシャール家は暗殺者に見限られた。お抱えの者は高齢という事もあるが、亡き父への義理を果たした後は一山当てる事もできない館に何の未練もないようであった。大きな仕事を成し、足を洗いたい立場に位置する者にとっては飼われ続ける事を是としなかったのである。
「仕方ない。ここはローレットに何とかしてもらうか」

●我が主のために
「それで、リシャール家の私兵をいい感じに鍛え上げて欲しいんだってさ」
 『黒猫の』ショウ(p3n000005)はイレギュラーズを片隅のテーブルに呼んだ。額面通りに受け取れば極めてスポーティな仕事なのだが、密談をするように続けるショウからは何か裏を感じるものがある。
「でもだいたい想像通りの話だよ、幻想北部の貴族からの依頼だからね。できれば暗殺者としての資質に優れる者を見出して欲しいってのが本音。付け焼き刃の訓練があの地域で通用するとは思えないけど、まぁ暗殺者が相手じゃないだけマシだったかな?」
 その後はリシャール家の庭や別館が貸し出される事や私兵の情報などが伝えられた。表向きは兵士の模擬戦であり、イレギュラーズという贅沢な仮想敵を雇ったに過ぎない。裏を返した所で急造の暗殺者養成などはほぼ不可能に思えたが、何かしらの安心をリシャールは買いたいのだろう。

「他の貴族にバレるとかそういうのは気にしなくて大丈夫だと思うよ。言い方は悪いけど、リシャールはほとんど無名の貴族なんだ。それの動向を気にかける敵もいないよね」
 ショウは下見を終えた自分へのご褒美とばかりにグラスへ口をつけた。

GMコメント

●目標
 リシャール家の私兵を訓練する。
 模擬戦や戦術指南という形なのでやりすぎてもやらなすぎてもいけません。
 暗殺者として育てるか、頼れる兵士として育てるかそれぞれ方針を立てると良いでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

●ロケーション
 現場に到着する頃は昼です。
 公的な訓練に関しては庭、秘密にしたい訓練に関しては別館が利用できます。

●敵
 リシャール家の私兵10名
 一般的な戦闘力を持つ兵士です。
 身体能力は個人差がありますが、イレギュラーズのように優れた者はいません。
 訓練方針に従い、イレギュラーズの技を学ぼうと熱意にあふれています。

 スケジュールはショウが組んでくれるのでプレイヤー間の厳密な振り分けは必要ありません。
 1対10のボスバトルや1対1の一子相伝など自由に戦い方を教えてあげてください。
 利用可能な総数は必ず10です。

  • 暗殺の道も一歩から完了
  • GM名星乃らいと
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
イロン=マ=イデン(p3p008964)
善行の囚人
ネリウム・オレアンダー(p3p009336)
硝子の檻を砕いて
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●オリエンテーション
 リシャールは気圧されていた。自ら要請した訓練相手だが、いざイレギュラーズと対面するとなると一般人とは違う、オーラといった何か不明瞭なものでしか表現できない強い存在感を認めた。それは暗殺者を育てる為の訓練相手という題が呼び寄せた腕利きの刃がローレットへの依頼という形でいつか自分に向けられる事もあるのかという、依頼内容に沿った人選に対する不安も含まれていた。
「まず人を始末するにあたって最も大事なことはなんでしょーか? それは『欲望』。 例えば『名声』、そして『金』、『力』……私の場合はそーですねー、フフフ……とある『戦利品』の為に日々刃を血に染めておりますー」
 『夜闇を奔る白』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)が早速なにやら物騒な講義を始めている。依頼に応じた八人それぞれから学ぶ必要があるので一人に傾倒しすぎないようにとリシャールは私兵に念を押していたが、彼女の演説は欲にまみれた、言わば賊のそれであるにも関わらず講習者は聞き入っていた。
 一通りの挨拶が終わると『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)は準備運動を促す。本来はラジオという器具が必要な体操はニャンタルの元気な掛声によって代用された。比較的シンプルな運動に厳しい訓練と心構えていた兵士たちは安堵したが、これで終わるとは思っていないようだった。
「うむ!身体も温まってきた事じゃし、そろそろ別館に移動するかの?」
「いえ、まずは走り込みから始めましょう。勿論、鎧は装着したままで行いますが」
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)がさらりと酷なトレーニングを課した。ここからが本番なのだなと兵士たちは顔を引き締めた。 その間、瑠璃は飲み水を準備していたが何かを混入させ、リシャールを大いに不安がらせたが、それに対する回答は既に準備されている。
「塩と砂糖を一つまみ程度です。この手の仕事は臆病さが必要なのですが、気付いた人や気付かなかった人、飲まなかった人などである程度資質を分類できるでしょうね」
 独特なアプローチを行うものだ、とリシャールは飲み水を見つめ、無意味とわかっていながらも色合いなどの変化を探して時間を潰すことにした。

●返事はイレギュラーズだわかったか はい! イレギュラーズで答えろ イレギュラーズ!
「ワタシには暗殺云々については分かりません。少なくとも、やり方を覚えてはいません。ですが様々な敵との戦闘を経験し、襲撃者の心理とその対策でしたらある程度分かるようになったつもりなのです」
 紅白戦が行われている。即ち、『善行の囚人』イロン=マ=イデン(p3p008964)が守り抜く一とそれを攻め抜こうとする九からなる総十一の戦いである。襲撃者側の心理と要人の護り方を効率的に伝える訓練は圧倒的な数を誇る攻撃側が優勢に思えたが、イロンの粘り強い戦いによって時間を稼がれ、思うように攻めることができなかった。
 時間は掛かったが走り込みや紅白戦、戦利品に関する何か怪しい情熱の講習を終えた兵士たちは僅かに自信が感じられた。しかしイレギュラーズがいよいよ別館を使うとなると緊張し、戦利品どころではなかった。脚ってなんだよ。

 激しい室内戦を臨んでいたが、最初は毒や罠についての座学が行われた。『硝子の檻を砕いて』ネリウム・オレアンダー(p3p009336)を中心として、普通に生きてきた者は知ることもない、およそ授業で教わることのない知識を学び取ろうと聞き入っている。毒に関して嫌悪感を抱く者もいるにはいたが、自分が毒殺されない為にも必要な学びである事をネリウムに説かれると素直に従った。
「アンタ達に必要なのはね、何食わぬ顔で殺す胆力だよ。戦ってるうちはいい。興奮するから勢いでなんとかなる。でも暗殺するなら静かに殺意を研がなきゃならない」
 それは九人で紅白戦を乗り切り、勝利に驕る兵士たちに対する忠告のようでもある。複雑化していく毒や罠の講習に兵士がついていけなくなりつつあったが、ネリウムは何処までも涼しい顔で続けていた。

「っつうわけでだ! 時間も限られてるし論より実践! 」
 やはりこのまま座学で終わってくれるわけはない。『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)が課した課題は十対一の模擬戦、牡丹の言葉を借りるならば模擬暗殺となる。
 先程のトレーニングと同様に数的有利を保持するが、今回の相手は襲撃側となる。イレギュラーズに一本取ってやろうと意気込んでいるが、 教科書通りの配置は否めない。牡丹は王道を次々と奇策で打ち倒し、見様見真似の奇妙な攻めに関してはその上を行く奇襲で凌駕した。
「後ろだ!」
 後ろを振り向けば前から、前を凝視していれば後ろから現れる牡丹の対処は困難を極めた。

「それじゃ、ボクは美咲さんの後に訓練するから成果を見せてもらうよー」
「責任重大じゃない」
 『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)の元気な声が別館に響く。牡丹に為す術もなくやられた兵士たちも次こそはとヒートアップしている。放っておいても美咲とヒィロに襲いかかるのではないかという闘志が見られた。負けず嫌いな所は兵士と言えど男の子なのだな、と美咲は少し可笑しく感じた。
「まだ説明が終わってないから落ち着いてね。閉所戦闘を教えるのだけど、牡丹さんと似たようなルールよ。仮想敵は少数潜入で当主を直接害そうという暗殺者 、この筆で塗られたら死亡扱いにするわね」
 死亡扱いされた兵士についてピリムが倒れた時の脚がどうとか、イロンが生と死についてのありがたい教えを説こうとしていたが過密なスケジュールの前にそれはひとまず流される事となった。

 自分たちがイレギュラーズに手も足も出ない存在である事は認めざるを得なかったが、だからといって素手や筆にすら敗北する事までは認めたくなかった。これまでの訓練で暗殺者というものを大まかに理解した彼らはネリウムの教え通りに罠を設置し、仲間あるいは仲間と思われる声に早々は反応せず、個々の判断を重要視する事とした。
 美咲は多少練度が上がった兵士を掻い潜る事になり、損な役回りだなと感じた。しかし全力を出すまでもない域に留まっていると彼らを評価付ける。
 兵士たちは仲間がやられても慌てふためく事なく美咲の次の一手を懸命に読もうとしている。ニャンタルによるアドバイスが効いているようで、一人二人と美咲に筆を塗られても不気味なほどに落ち着いており、撤退と合流を繰り返す。美咲は訓練の手応えを感じながらゆっくりと進み、暗所に身を隠した所でヒィロに声をかけられた。
「お疲れ様。美咲さん大丈夫? ボクも増援って事で乱入しよっかな?」
「そんな一気に不測の事態を詰め込めちゃ駄目だよ。まだ一度しか攻撃を当てれてないし」
 ヒィロはそんなかすり傷も一度目の攻撃に含むのかと少々驚き、自分もこれくらい厳しくルールを決めようかと考えた。
 侵入者という立場で歓談を行うものだから美咲はいつの間にか囲まれていた。その上ヒィロは笑いながら遠方に走り去っているのだからひどい話だ。まったくもう。

●ブレイクタイム
 連戦が続き、疲れの色が兵士たちに見え始めた頃ニャンタルが昼休憩を提案した。質素なパンやスープが準備されていたがそれを却下し、皆で料理を作ろうというのだから兵士のみならずリシャールまでも面食らっている。
 調理人の真似事などしたくないとこれも一部は不満の声をあげたが、イロンのありがたい教えがそれに続き渋々と包丁を手にとった。
「食とは漫然と行うものではなく、自らの手で食材となったものへ感謝の祈りを捧げる善行なのです。あって当然の食事というものはなく」
「わかった、わかったから! えっと、イロンさん鍋! 吹きこぼれてる!!」

 瑠璃は慣れた手付きでリンゴの皮を剥きながら当主と話している。
「そうそう、当主様にお願いなのですが、引退された暗殺者さんとの家とも、表立ってでなくて構いませんので交流は続けて下さい」
「あまり歓迎はされないと思うが、顔くらいは合わせてくれるだろうしね。わかるよ、敵に回さないようにとの事だろう?」
 実戦訓練こそ参加しなかったものの、暗殺者に関わる講習を見学していたリシャールは察しが良かった。顧問として再雇用する手も実現は難しいだろうが、腕を信頼しての願い事は悪い気もしないだろうと興味深い話題となった。

 ネリウムは我関せずと昼下がりを満喫していたが、美咲に仕掛けた罠がいい感じだったとかもう少しで直撃してたとかネリウム派の兵士にたいへん懐かれていた。
「罠の効果的な運用を一生懸命考え続けるうちに変な気を起こさない様にね? 依頼もされないうちに殺したら、暗殺者じゃなくて殺人鬼だろ? ふふふ!」
 まだまだネリウムから見れば詰めは甘いが実戦に投入できれば悪くもないトラップだろう。昼休憩を阻害されたものの、弟子のやや不器用な罠が機能した痕跡を辿る作業は悪くないものであった。後でもう少しだけ改良点を教えておく事にしよう。

 その一方で数人の兵士は壁に向かって何か激突している。牡丹の壁をすり抜けてくる技術に感銘を受けたのか、壁にタックルするその光景は別館を破壊しようとする暴徒のようにも思えた。どう見ても食後の運動にしては異質だ。
「あのなあ、オレの技はそう簡単に使えるものじゃねえよ。壁がぶっ壊れる前にちゃんとした所で学びな? ちゃんとした所が何処かはわかんねぇけど、オレも少しくらいなら教えれるかもな」
 暗所や死角の利用、ルート選定に連携と必要な下地の方が多かったのだが、壁をすり抜けてくる技は特に印象強かったのだろう。訓練でない場合、これはズルいという感想で終わらないのだ。ズルいから覚えようという発想は命を守る為の当然の帰結であり、そこについては牡丹も尊重する事とした。果たして何人が使いこなせるようになるかは未知数だが。

「ごちそうさま! 最後はボクの訓練だね、兵士さんたちも全力を出してね!」
 ヒィロが昼休憩の終わりを告げる。片付けを行う事までが善行とイロンのありがたい教えを受ける事となったが、ニャンタルと牡丹が時間を無駄にしないようにと引き受け、先程からイレギュラーズと死闘を繰り広げている別館へと再び足を運ぶこととなった。

●ラストスタンディング
 別館は絵画や彫像などの見るからに貴重な品々が見られる事はなかったが、ソファや照明などの生活家具は平民のそれとは一つランクが違ったようにみえた。今になってこの辺りの物は運び出さなくてよかったのかとネリウムがリシャールに問えば可能な限り現実的な空間で模擬戦を行うのに必要だろうと答えが返ってきた。命あっての物種、貴重品の損壊を恐れて手が鈍っては護衛も成り立たないのだ。

 美咲は何やら兵士たちにヒィロの強みを伝えている。先程の窮地のお返しのつもりだろうか、美咲としてもヒィロとしてもそれで劇的に難度が上がるとは思っていなかったが、親友への茶目っ気が見て取れた。
「最後は私たち全員で戦うものと思っていましたが、まぁあんまり良い脚をしている人はいませんからねー」
「脚……? うちの兵士はその、暗殺者としての俊敏さが足りないって事で合ってるかな?」
 できれば兵士たちの奮闘をそばで見たいリシャールであったが、安全面を考慮して別館の外でピリムとそれを眺めるに留まっている。何か会話が噛み合っていない気がしたが、このピリムという人物の腕前も相当なものであったので間違った事は言っていないのだろう。
 事実、戦闘そのものに対する熾烈さは一番激しかったのではないか。命までは取られなかったものの、彼女の気分一つで兵士たちの息の根が止まっていたかもしれない。最初から飛ばすものだと思ったが、疲れ果てた兵士はイロンが嫌な顔ひとつせずに癒やしてくれたのでスケジュールに支障はでなかった。彼女がいて本当に助かったとリシャールは語る。無論、激しい実戦訓練を行ったピリムへの感謝も確かに存在する。脚に関しては今ひとつリシャールの理解の範疇を超えていたが。

 ニャンタルと牡丹が皿を洗い、ネリウムが微睡む頃に最終試験が始まった。美咲同様に3発当てれば勝利という単純明快なルールはヒィロの人外じみた能力によって無理難題と化す。しかし、兵士たちも自分たちにできる精一杯を出し尽くそうと、ヒィロに向けた視線は強く、鋭いものであった。
「元々厳しい訓練を日課としている兵士ですし、精神面もひとまずは合格って事ですかね」
 ピリムという人物の理解に苦しんでいるリシャールへ瑠璃は言葉を続けようとしたが別館で激しい音が鳴り始め、事の成り行きを見守る事にした。

「アハッ この子は暗殺者向きだね、ボクに奇襲は通用しないのが残念だったけど!」
 これまでの兵士の戦い方は、半ばヤケを起こして突撃する者以外はイレギュラーズの驚異的な力をどう対処するか後手に回り、考える時間を得るという逃げの悪手に走っていた。しかしながら今回はヒィロの侵入を認めたその瞬間には一切の迷いなく短刀を片手に飛び込んできた。
 ヒィロに傷を負わせる事はできないものの、狭い通路で短刀を選ぶ工夫はよくできている。恐らくこのまま避け続ければ突き当りでネリウム仕込みの毒矢なりが飛んでくるのだろう。それすら避けれる自信がヒィロにはあったが、すんなり上手くいかせようとも思っていないので勇敢な暗殺者候補を流れるようにダウンさせた。
「奇襲が失敗したらもう次の手に移ってるね、損切りが早い」
「こら、起きんか! もうちょっと頑張るのじゃ!」
 いつの間にか別館に入ってきたニャンタルが倒れた暗殺者の頬をぺちぺちと叩いている。無理な話だ。このエリアで有効な接敵は行えないと踏んだのか、兵士の殺気も消えているのでこの珍妙な光景も良しとしよう。

 その後も兵士として扉を死守する者や、トラップへ誘導しようとする者、物質透過を行おうとして中途半端に壁に埋まってじたばたしている所を牡丹に引っこ抜かれた者と、ヒィロは次々と突破していった。流石に最後の壁埋まり、壁男を引っこ抜こうとした時に当たった拳まではワンヒットに加えていいものか悩ましいものがあったが、美咲判定では一つとして数えられた。そう言っても後のニ発が限りなく遠いのだが。
「だからぶっつけ本番で試すのはやめろって言っただろ! おい、じたばたすんなって!」
「自らを苦境に立たす事で善悪というものを考えるようになったのですね。立派です」

 気付けばヒィロの通った後をイレギュラーズが後始末についていく、遠足めいたものとなっていた。状況の精度を上げる為にも数歩以上引いた位置からの追跡であるため戦闘そのものは見ることができなかったが、尽くヒィロの圧勝である事は間違いなかった。ノックアウトされた兵士はピリムが脚を引きずって行き、別館前の庭に積み上げた。リシャールは積み上がる兵士タワーを複雑な表情で眺めていた。

 最終局面に差し掛かり、これまでの訓練で一番真面目だった生徒が立ちはだかる。真面目であるが故に、盾と剣を伝統的に構えたものであった。その評定は諦めにも似た色を帯びたが、ヒィロが想像していたものとは少し違っていた。
「やはり私には暗殺というものは合わない。これまでの訓練を無下にするようで申し訳ないが、私はこの生き方しかできないな」
 申し訳ないと言っておきながらもヒィロに対する攻撃性は揺るぎないもので、それは主を守る騎士の高潔さにも近いものを感じた。
「あれは僕の毒薬講習に一際強い拒否反応をしていた人だねえ。毒の美しさが理解らないのは残念だが、ああいうのがいても良いんじゃないかな」
 兵士が仕掛けた毒矢トラップの使い残しを難なく解体するネリウムは遠目にその古風な騎士を眺めた。
「あの人は闇に引き込むべきじゃないね」
「うん、でも訓練は訓練。それじゃあラスト、いっくよー!」

●スパルタ教育の果てに
 結局の所、イレギュラーズとの連戦に白星をあげたと言える結果にはならなかった。打撃吸収スポンジと化したイロンへは有効打をいくつか与えたが、他の面々への攻めは散々だった。ヒィロは例の壁男をからかうように褒めてあげたが、調子に乗った壁男はもう一度だけ物質透過を試み、頭から別館にぶつかった。あの調子では牡丹の指導も困難を極めるだろう。
「まぁ、いきなり成功しかけたこいつが一番可能性があるかもな……」

 今回の訓練でどれほど戦力が向上したか明確な答えは出せないが、リシャールを始め依頼側は満足した様子だった。瑠璃はこれまでの結果から向き不向きを分析し、ある程度のデータを提供した。リシャールの性格上、政敵に暗殺者をギフトする事はあまりないだろうが、望まぬ投函物を断れる戦力を目に見える形で知る事となった。
「保険ですね。安全を買ったとでも思って頂ければ」
「本当に危ない時はきみたちを頼るかもしれないよ。それがないに越したことはないんだが」

 美咲につけられた筆を名誉の負傷と誇るものや脚について思う所があるもの、善行に目覚めるものと訓練は多様な影響を及ぼしたが、どれもが兵士たちにとって貴重な経験であっただろう。荒療治であったが今回の仕事は無事に終えたと言える。

成否

成功

MVP

紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

状態異常

なし

あとがき

ご参加ありがとうございました!
濃密すぎる一日でした。明日はきっと筋肉痛で足腰いたたたです。

水分補給を忘れずに(塩が入ってるかもしれませんよ)!

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